2020 Volume 69 Issue 2 Pages 229-234
新生児集中治療室(neonatal intensive care unit; NICU)における監視培養の目的は,水平感染を監視し,また,新生児が後天性感染症に罹患した場合に,適切な抗菌薬選択ができるため広く実施されている。我々は,2012年から2019年のNICUにおける監視培養を対象とし,2017年変更前後のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus; MRSA)およびメチシリン感性黄色ブドウ球菌(methicillin-susceptible Staphylococcus aureus; MSSA)の検出率と費用を調査し,効果的な監視培養の検討を行った。変更前の2016年まではNICUに入院している全患者に隔週で鼻腔ぬぐい液,便および臍の検査を実施しており,MRSAの検出率は95.2%,84.6%,60%,MSSAの検出率は99.3%,68.2%,60.9%であった。MRSAとMSSA共に,鼻腔ぬぐい液から高頻度に検出されることが明らかになった。費用は2016年まで平均で808,331円/年であり,鼻腔ぬぐい液が267,957円/年,便が379,793円/年,臍が160,581円/年であった。この結果をふまえ,有効性と費用対効果を考慮し,2017年から監視培養を鼻腔ぬぐい液のみにする方針とした。これによりMRSAとMSSAの新規検出率に大きな変化なく,検体数は約65%減少し,費用も73%削減された。今後,感染対策や治療において問題が生じることがないようであれば新方針で継続して実施していく。
Surveillance culture tests in the neonatal intensive care unit (NICU) are widely implemented to monitor horizontal transmissions and choose appropriate antimicrobials when patients have late-onset infections. However, the efficiency of surveillance culture tests has not been accurately evaluated. We examined the detection rates and costs before and after the change in the protocol of surveillance culture tests in 2017 from 2012 to March 2019 and determined the most efficient monitoring culture. Until 2016, NICU performed biweekly nasal swabs and fecal and navel examinations of all hospitalized patients. However, this surveillance method did not seem to be optimally cost-efficient because retrospective analyses of methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) and methicillin-susceptible Staphylococcus aureus (MSSA) isolates revealed that MRSA and MSSA were detected more often in nasal swab samples and subsequently colonized in most infants carrying them. Therefore, to be cost-efficient, we considered in 2017 to limit surveillance culture sampling to nasal swabs. As a result, we found that despite these changes, we found that the MRSA and MSSA detection rates did not significantly decrease, with a 65% decrease in sample number and a 73% decrease in cost compared with those in the 2018 surveillance culture tests. In conclusion, we found that there is less need to perform nasal swab and fecal and navel examinations simultaneously in surveillance culture tests. We showed that a protocol of surveillance culture tests targeting MRSA and MSSA by nasal swabs alone is cost-efficient.
監視培養は,新生児集中治療室(neonatal intensive care unit; NICU)において広く行われている。監視培養の目的は,特定の微生物に対して水平感染の監視や予防措置の実施を評価し,また,患者が後天性感染症に罹患した疑いがある場合に早期に予測的な抗菌薬選択をすることも含まれる。監視培養の内容や頻度は施設によって大きく異なり,統一されたガイドラインはないが,監視培養に関する医療スタッフの負担と医療費を削減するための費用対効果に関する報告はされている1)。当センターは過去にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus; MRSA)・メチシリン感性黄色ブドウ球菌(methicillin-susceptible Staphylococcus aureus; MSSA)の検出数が増加したため,水平伝播の監視と予測的な抗菌薬選択のため,NICU全患者対象に隔週で鼻腔ぬぐい液・臍・便検体の監視培養を行ってきたが,監視培養の費用対効果に関する評価は行ってこなかった。今回,当センターにおける2012年~2016年度の5年間の解析を行い,解析結果をもとに監視培養方法を完全に変更した2018年度との比較検討を行ったので報告する。
2012年4月から2019年3月まで当センターのNICU(レベル3 NICU病棟)に入院し,微生物検査室に監視培養検体が提出された患者1,037人・検体5,236件を対象とし,監視培養検体の数や種類,MRSA・MSSA検出患者数,検体別MRSA・MSSA検出状況,必要経費などを算出し,監視培養見直し前後の変化を調査した。必要経費は培養検査に必要な培地に加えて,黄色ブドウ球菌が検出された場合は,同定検査および薬剤感受性検査に要した試薬の経費を加算した。培養検査は,MRSA・MSSA以外の定着菌種の報告も行っていたため,鼻腔ぬぐい液および臍ではTSA II 5%ヒツジ血液寒天培地(Becton Dickinson),チョコレートII寒天培地(Becton Dickinson),クロモアガーMRSAスクリーニング培地(関東化学)を用いた。また,便ではBTB乳糖加寒天培地,クロモアガーMRSAスクリーニング培地を用いた。黄色ブドウ球菌の同定検査にはコアグラーゼ試験を用い,初回検出時のみVITEK2のGPパネル(bioMérieux)を使用した。薬剤感受性検査およびMRSA・MSSAの判定については,クロモアガーMRSAスクリーニング培地を用い,初回検出時のみVITEK2のP625パネル(bioMérieux)を使用した。人件費は培地への塗布,釣菌,同定検査,薬剤感受性検査を対象とし,1時間あたり2,500円と計算し,NICU病棟全ての監視培養について,隔週1回ずつ5時間(鼻腔ぬぐい液培養に1時間,臍培養に1時間,便培養に3時間)とした。
NICUにおける監視培養検体数,検体提出患者数(重複なし)および患者1人あたりの検体提出件数は,2012年度でそれぞれ758件,164人,4.62件/人,2013年度は783件,157人,4.99件/人,2014年度は747件,157人,4.76件/人,2015年度には681件,159人,4.28件/人,2016年度は649件,131人,4.95件/人であった(Figure 1)。鼻腔ぬぐい液検体,便検体,臍検体の内訳は2012年度でそれぞれ300件(39.6%),299件(39.4%),159件(21.0%),2013年度は310件(39.6%),310件(39.6%),163件(20.8%),2014年度は296件(39.6%),295件(39.5%),156件(20.9%),2015年度は270件(39.7%),272件(39.9%),139件(20.4%),2016年度は264件(40.7%),262件(40.4%),123件(18.9%)であり,鼻腔ぬぐい液検体と便検体の比率がほぼ同数であり,臍検体は臍帯が脱落していないものに限るためほぼ半数であった。
NICU全体でのMRSA検出患者数は,2012年度14人,2013年度21人,2014年度14人,2015年度14人,2016年度9人であった。さらに,1年間の新規MRSA検出率(=年度別新規MRSA検出患者数/同年度入院延べ患者数 × 100)は,2012年度0.29%,2013年度0.43%,2014年度0.31%,2015年度0.31%,2016年度0.17%であった。2012年度から2016年度の間のMRSA検出患者72人のうち,すべての患者が鼻腔ぬぐい液・便を同時に提出されており,両検体から初発MRSAが検出されていた患者は42人(58.3%),鼻腔ぬぐい液のみは12人(16.7%),便のみは12人(16.7%)であり,残りの6人(8.3%)は臍のみの検出であった。臍検体が提出されていた患者は72人のうち45人であり,初発MRSA検出患者は27人(60%)であった。初発MRSA検出後も退院を除く全ての患者が継続して監視培養を実施していた。このうち便のみ初発MRSA検出患者12人のうち退院8人を除く,残り4人すべての患者において,次回以降の鼻腔ぬぐい液からMRSAの検出を認めた。臍のみの初発MRSA検出患者6人のうち退院2人,その後の鼻腔ぬぐい液からの検出は1人のみで残りの3人は検出されなかった。材料別初発MRSA検出患者数は鼻腔ぬぐい液で54人(75.0%),便で54人(75.0%),臍で27人(60%)であった。退院者を除く2回目以降を含めた監視培養全体でのMRSA検出率は,鼻腔ぬぐい液は59/62(95.2%),便は55/65(84.6%)であった(Table 1)。
n = 72 | 初回検出数 | 2回目以降含む |
---|---|---|
鼻腔ぬぐい液 | 54/72(75%) | 59/62(95.2%) |
便 | 54/72(75%) | 55/65(84.6%) |
臍 | 27/45(60%) | 未実施 |
※2回目以降,退院による未実施あり。鼻腔ぬぐい液10人,便7人。臍帯脱落のため臍の2回目は未実施。
NICU全体でのMSSA検出患者数は,2012年度29人,2013年度37人,2014年度34人,2015年度29人,2016年度27人であった。さらに,1年間の新規MSSA検出率(=年度別新規MSSA検出患者数/同年度入院延べ患者数 × 100)は,2012年度0.61%,2013年度0.75%,2014年度0.76%,2015年度0.63%,2016年度0.52%であった。2012年度から2016年度の間のMSSA検出患者156人のうち,すべての患者が鼻腔ぬぐい液・便を同時に提出されており,両検体から初回MSSAが検出されていた患者は55人(35.3%),鼻腔ぬぐい液のみは71人(45.5%),便のみは15人(9.6%)であり,残りの15人(9.6%)は臍のみの検出であった。また,臍検体が提出されていた患者は156人のうち87人であり,初発MSSA検出患者は53人(60.9%)であった。初発MSSA検出後も退院を除く全ての患者が継続して監視培養を実施していた。このうち便のみ初発MSSA検出患者15人のうち退院4人を除く,残り11人すべての患者において,次回以降の鼻腔ぬぐい液からMSSAの検出を認めた。臍のみの初発MSSA検出患者15人のうち退院6人,その後の鼻腔ぬぐい液からの検出は8人で残りの1人は検出されなかった。材料別初発MSSA検出患者数は鼻腔ぬぐい液で126人(80.8%),便で69人(44.2%),臍で53人(60.9%)であった。退院者を除く2回目以降を含めた監視培養全体でのMSSA検出率は,鼻腔ぬぐい液は145/146(99.3%),便は75/110(68.2%)であった(Table 2)。
n = 156 | 初回検出数 | 2回目以降含む |
---|---|---|
鼻腔ぬぐい液 | 126/156(80.8%) | 145/146(99.3%) |
便 | 69/156(44.2%) | 75/110(68.2%) |
臍 | 53/87(60.9%) | 未実施 |
※2回目以降,退院による未実施あり。鼻腔ぬぐい液10人,便46人。臍帯脱落のため臍の2回目は未実施。
①鼻腔ぬぐい液の検出感度,②費用対効果の観点,これらの疫学データをふまえて,NICU医師の指示のもと2017年7月より監視培養提出方法を鼻腔ぬぐい液のみの監視培養に切り替え,報告菌種をMRSA・MSSAのみに変更した。
結果,NICUの監視培養検体数は減少し,2018年度の監視培養検体数,検体提出患者数(重複なし)および患者1人あたりの検体提出件数は,297件,170人,1.75件/人と変更前より患者1人あたりの検体提出件数は約63%減少した(Figure 1, Table 3)。
変更前(2012~2016年度) | 変更後(2018年度) | |
---|---|---|
検体提出件数 | 723.6 ± 50.2 | 297 |
検体提出患者数(重複削除)(人) | 153.6 ± 11.6 | 170 |
一人当たりの検体件数(件/人) | 4.72 ± 0.26 | 1.75 |
延べ入院患者数(人) | 4,777 ± 250 | 5,198 |
経費総額(円) | 808,331 | 214,495 |
鼻腔ぬぐい液 | 267,957 | 214,495 |
便 | 379,793 | 0 |
臍 | 160,581 | 0 |
一人当たりの経費(円/人) | 169.7 ± 8.8 | 41.3 |
監視培養の費用は,変更前の2012年度から2016年度は,5年間の必要経費の総額から1年間の平均費用を算出した。その結果,鼻腔ぬぐい液培養が267,957円,便培養が379,793円,臍培養が160,581円,総額808,331円となった。変更後の2018年度の費用は214,495円と,593,836円(約73%)の削減となった。また,患者一人あたりの監視培養必要経費(=各年度の監視培養必要経費/同年度の延べ入院患者数)は,変更前(2012~2016年度)の169.7円/人から変更後(2018年度)は41.3円/人で約76%の削減となった(Figure 2, Table 3)。
MRSA・MSSAは新生児感染症の原因として,依然として多くを占めている。常在菌叢の発達が不十分な新生児では,MRSAの暴露による常在菌化が容易であるが,この常在化率は地域や患者状況によって異なる2),3)。また,NICUでは保菌者になることによりMRSAの感染症の発症リスクが未保菌者よりも20倍以上高くなると報告されている4)。MSSAについてもNICUにおけるカテーテル関連感染における高い検出率や,定着または感染の発生率の増加,同一クローンの蔓延など監視培養の有用性も報告されている5)~7)。そのため監視培養による保菌または水平感染の監視は,NICUにおいて必要不可欠である8)。しかし,本邦では統一されたガイドラインはなく,検体部位や検査頻度などの検査体制は,各病院の判断に委ねられているのが現状である。
Society for Healthcare Epidemiology of America(SHEA)9)では,MRSA 監視培養の検体採取部位について,鼻前庭を必須とし,状況に応じて咽頭や直腸など他の部分の培養を合わせて実施することを勧めている。MRSA保菌者の鼻腔陽性率はおよそ70%と言われており,MRSA検出の感度を高めることにおいては,スクリーニング部位を増やすことが有効であるとされている10)~12)。
当センターのNICUでは,当初,鼻腔ぬぐい液,便,臍の3箇所を検査していた。監視培養目的がMRSA・MSSAであれば,一般的に定着部位は鼻腔であることが多いが,肛門周囲にも定着しうるため,新生児では鼻腔ぬぐい液と便の両方が監視培養対象となり得る4)。そこで,検体採取部位別の陽性率を調査したところ,MRSAの鼻腔ぬぐい液での検出が95.2%,便での検出が84.6%,臍での検出が60%であり,MSSAの鼻腔ぬぐい液での検出が99.3%,便での検出が68.2%,臍での検出が60.9%であった。MRSA・MSSAの検出には鼻腔ぬぐい液のみでも高い検出率があると考えられ,便および臍を併用する意義は少なく,鼻腔ぬぐい液のみの検査でもMRSA・MSSAの検出率に大きな差はないと考えられた。監視培養目的がMRSA・MSSAであれば鼻腔ぬぐい液のみでの検出が十分可能であることを示しており,NICUにおけるMRSA監視培養に鼻腔ぬぐい液が効果的としていた山本らの報告1)と一致した。MRSA・MSSAの検出率と監視培養経費の費用対効果を考慮し,NICUにおける監視培養の効率化を実行することに至った。この監視培養の変更により,患者1人あたりの検体数は変更前と比較して65%減少,監視培養費用の73%削減を可能し,費用対効果が得られたことも山本らの報告と一致した。変更後,保菌率の顕著な増加も今現在は認めていない。
結論として,本研究では,鼻腔ぬぐい液,臍および便培養のすべてを実施する必要性が低い可能性を検証により得ることができ,MRSAやMSSAの標的を絞った監視培養が費用対効果を考慮して効率化し得る可能性が示唆された。監視培養の最善の方法を知るためには,その他複数の施設(NICUレベル別)からのさらなる研究データが必要であるが,この監視培養の有効性と効率が各施設で評価されるべきである。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。