2020 Volume 69 Issue 2 Pages 267-273
左鎖骨下動脈狭窄を呈していたにも関わらず,左椎骨動脈の分岐異常のために,鎖骨下動脈盗血現象を認めなかった1例を経験したので報告する。症例は70歳代男性,左半身の痺れを訴え,当院を受診した。頭部CT,MRIより脳梗塞と診断され,原因検索の目的で頸部血管エコーを実施した。頸部血管エコーでは両側の頸動脈に狭窄,閉塞の所見は認めず,椎骨動脈の血流に逆流は認めなかった。翌日造影CTを施行したところ,左椎骨動脈は大動脈弓から直接分岐し,左鎖骨下動脈に高度狭窄を認めた。再度,頸部血管エコーを行い,左鎖骨下動脈を観察すると,中枢側にモザイクシグナルを認め,最大血流速度4 m/s以上と上昇していた。通常,鎖骨下動脈中枢側に中等度以上の狭窄があると,鎖骨下動脈盗血現象が起こるが,本症例では分岐異常のため,左椎骨動脈に逆流が生じなかった。本症例では,検査前に聴診することや,上肢血圧の左右差の有無を確認することで見逃しを防ぐことが可能であったと考えられた。
We here report a case of left subclavian artery stenosis in which the subclavian artery steal phenomenon was not detected owing to the anomalous origin of the left vertebral artery. A man in his seventies complained of numbness on the left side of his body and visited our hospital. He was diagnosed as having cerebral infarction by head CT and MRI, and he underwent carotid ultrasonography to find its cause. There were no findings that indicated an occlusion or stenosis of the right and left carotid arteries, and the blood flow in the vertebral arteries did not regurgitate. The next day, we performed 3DCTA and found left subclavian artery stenosis. In addition, the left vertebral artery was branched directly from the aortic arch. We performed carotid ultrasonography again and observed the left subclavian artery. A mosaic signal was observed on the central side of the artery, and the maximum flow velocity exceeded 4 m/s. Usually, if there is a more-than-moderate stenosis on the central side of the subclavian artery, the subclavian artery steal phenomenon can be detected. However, in this case, the blood flow of the left vertebral arteries did not regurgitate because of an anomalous origin. In this case, we were able to prevent oversight by auscultation and comparing between the right and left upper limb blood pressures before the examinations.
大動脈より椎骨動脈に至る血管系における狭窄病変の好発部位は,椎骨動脈起始部と鎖骨下動脈起始部であり1),超音波では直接観察が困難であるため,椎骨動脈部の血流波形や血流速度で,その病変部位を推察することが多い2)~4)。椎骨動脈は左右ともに鎖骨下動脈の第1分枝で,椎骨動脈の血流速波形パターンから鎖骨下動脈起始部の病変を推定することが可能である5)。
鎖骨下動脈盗血現象(subclavian artery steal phenomenon; SSP)は,鎖骨下動脈の椎骨動脈分岐部より近位側または腕頭動脈の狭窄により引き起こされる病態であり6),7),カラードプラ法で椎骨動脈の逆流を観察することで容易に診断できる8)。鎖骨下動脈の狭窄の程度に応じて逆流成分が増していき9),狭窄が軽度の場合は収縮期にわずかにnotch(波形の切れ込み)が見られ,中等度では収縮期に逆行性血流が見られる。高度狭窄または閉塞の場合,順行性の血流成分は消失し,全周期で逆流成分のみの波形となる。このような椎骨動脈の血流変化は,鎖骨下動脈起始部や腕頭動脈の閉塞性病変により,同側の上腕への血流が反対側の椎骨動脈から逆行性に側副路血流として灌流することに起因し,脳への血流量が減少する。上肢の運動によりめまいや一時的な失神,視力障害,患側上肢の血圧低下などの症状が引き起こされる場合には,鎖骨下動脈盗血症候群(subclavian steal syndrome)と呼ばれる5)。
今回,我々は鎖骨下動脈狭窄を呈していたにも関わらず,左椎骨動脈の分岐異常のために,鎖骨下動脈盗血現象を認めなかった1例を経験したので報告する。
70歳代,男性。
主訴:左半身の痺れ。
既往歴:脂質異常症,逆流性食道炎。
現病歴:2017年8月,起床時に左半身の痺れがあり,2日間様子を見たが改善せず救急要請,当院に搬送となった。
頭部CTでは出血は認めず,橋に低吸収域が見られ,脳梗塞が疑われた(Figure 1)。頭部MRIでは拡散強調画像(diffusion weighted image; DWI)で橋被蓋,中央右側に線状の高信号を,T2,FLAIRでも高信号を認め,右脳幹梗塞と診断された。頭部磁気共鳴血管画像(MR angiography; MRA)では主幹動脈に狭窄,閉塞所見は見られなかった。頸部では椎骨動脈の血管径に左右差は認めなかったが,頭蓋内では右2.4 mm,左1.4 mmと明らかな左右差が認められた(Figure 2)。

頭部CTでは出血は認めず,橋に低吸収域が見られ,脳梗塞が疑われた。

頭部MRIではDWIで橋被蓋,中央右側に線状の高信号を,T2,FLAIRでも明瞭な高信号を認め,右脳幹梗塞と診断された。頭部MRAでは主幹動脈に狭窄,閉塞所見は見られなかった。椎骨動脈の血管径は,頭蓋内では右2.4 mm,左1.4 mmと明らかな左右差が認められた(矢印)。
脳梗塞の原因検索目的で,頸部血管エコー,下肢静脈エコーを行った。頸部血管エコーでは,右の総頸動脈に最大IMT 1.5 mm,頸動脈洞~内頸動脈に最大IMT 2.4 mm,左の総頸動脈に最大IMT 1.3 mm,頸動脈洞~内頸動脈に最大IMT 2.5 mmの等エコー輝度プラークを認めたが,流速の上昇は認めず,明らかな狭窄は指摘できなかった(Figure 3)。

頸部血管エコーでは,右の総頸動脈に最大IMT 1.5 mm,頸動脈洞~内頸動脈に最大IMT 2.4 mm,左の総頸動脈に最大IMT 1.3 mm,頸動脈洞~内頸動脈に最大IMT 2.5 mmの等エコー輝度プラークを認めたが,流速の上昇は認めず,明らかな狭窄は指摘できなかった。
また,椎骨動脈の血流速波形は両側ともに全周期で順行性を示した(Figure 4)。椎骨動脈の血管径は右が4.7 mm,左が4.1 mm,収縮期最高血流速度(peak systolic velocity; PSV)は右が36 cm/s,左が90 cm/s,pulsatility index(PI)は右が2.30,左が3.53,収縮期立ち上がり時間(acceleration time; AT)は右が72 msec,左が78 msecであった。

椎骨動脈の血流速波形は両側ともに全周期で順行性を示した。
なお,下肢静脈エコーでは,両側下肢深部静脈に明らかな血栓は指摘できなかった(Figure 5)。

下肢静脈エコーでは,両側下肢深部静脈に明らかな血栓は指摘できなかった。
翌日,右上腕で測定した血圧が158/77 mmHg,左上腕で測定した血圧が133/70 mmHgと,血圧に左右差を認め,原因検索の目的で造影CTを施行したところ,左鎖骨下動脈の狭窄が認められた。また,左椎骨動脈に分岐異常が見られ,左椎骨動脈は大動脈弓部から直接分岐していた。その他,頸動脈,椎骨動脈に狭窄は認められなかった(Figure 6)。

造影CTを施行したところ,左鎖骨下動脈の狭窄が認められた(矢印)。また,左椎骨動脈に分岐異常が見られ,左椎骨動脈は大動脈弓部から直接分岐していた。その他,頸動脈,椎骨動脈に狭窄は認められなかった。
頸部血管エコーで椎骨動脈に逆流を認めなかったため,鎖骨下動脈の検索は行っていなかったが,CTで鎖骨下動脈の狭窄が指摘され,再度超音波検査を行った。左鎖骨下動脈を観察すると,中枢側にモザイクシグナルを認め,最大血流速度は4 m/s以上と上昇していた(Figure 7)。

左鎖骨下動脈を観察すると,中枢側にモザイクシグナルを認め,最大血流速度は4 m/s以上と上昇していた。
一度目の頸部血管エコーでは椎骨動脈の逆流を認めず,またATの延長も認められなかったため,中枢側の狭窄は疑わなかったが,実際には鎖骨下動脈中枢側の狭窄が認められた。
通常,鎖骨下動脈中枢側に中等度以上の狭窄があると,鎖骨下動脈盗血現象により,左上肢動脈の血流は左椎骨動脈を逆行性に供給されるが,本症例では分岐異常のため,左椎骨動脈に逆流が生じなかった。
正常例では,大動脈弓からは順番に腕頭動脈,左総頸動脈,左鎖骨下動脈が分岐し,胸部大動脈に移行するが,形態学的に大動脈弓には欠損,位置異常あるいは分枝異常などが多くみられ,その形態も多種多様10)とされている。大動脈弓の分岐形態に関しては多くの統計学的報告があり,1928年Adachiら11)はA~G型の7型に分類し,その後Williamら12)はH,J,BE,CG,K,BKの6型を追加し,さらに中川13)はL,M,Nの3型を加え,現在ではAdachi-Williams-中川の16型に分けた分類方法が一般的に用いられている14),15)(Figure 8)。本症例で見られた分岐異常は,大動脈弓から腕頭動脈,左総頸動脈,左椎骨動脈,左鎖骨下動脈が直接分岐するC型に分類されるが,このタイプは最も多く,3.1~4.5%の頻度と報告されている15)。

大動脈弓の分岐形態に関しては多くの統計学的報告があり,現在ではAdachi-Williams-中川の16型に分けた分類方法が一般的に用いられている。
C型の他にもD,E,K,BE,BK,CG型でも椎骨動脈が大動脈弓から直接分岐するか,鎖骨下動脈と共通幹をなす形態となっており15),これらのタイプでも同様に高度の鎖骨下動脈狭窄を呈しても,鎖骨下動脈の盗血現象がみられないことがあると考えられる。
ルーチンの頸部血管エコーでは,鎖骨下動脈の観察は行わないことが多く,椎骨動脈の逆流を認めることで狭窄を疑い,狭窄部の検索を始めることが多い。しかし,本症例のように鎖骨下動脈が狭窄,閉塞していても,椎骨動脈の逆流を認めないこともある。
伊東16)による検討でも,CTまたは血管造影により鎖骨下動脈狭窄を指摘した26名のうち血管奇形などにより3名がSSPを認めなかったと報告されており,椎骨動脈と上腕動脈血流測定の併用が有用であると考察されている。その他,尾前ら4)の報告でも,高度の鎖骨下動脈を呈していたにも関わらず,対側の椎骨動脈の閉塞により,鎖骨下動脈盗血現象が認められなかった例が挙げられており,椎骨動脈の流速波形のみで鎖骨下動脈の狭窄を判断することは困難な場合があると考えられる。
鎖骨下動脈は深い場所に位置し,観察しにくいことが多く,本例のように高度の狭窄を呈していても,椎骨動脈の血行動態に影響がみられない症例も存在することから,検査前に聴診を行うことが,見逃しを防ぐために有用であると考えられた。
また,椎骨動脈の血流速波形から鎖骨下動脈狭窄が疑われる場合は,パルスドプラ法にて両側の上肢動脈波形を計測することが推奨されている。対側波形を対象にすると狭窄後波形を評価しやすく,ATの延長,最高流速の低下,拡張期逆流相の消失などがあれば,鎖骨下動脈狭窄が疑われる5),17)。本症例では上腕動脈の観察は実施しなかったが,上腕動脈血流速波形の評価も有用であったと考えられた。
本症例では血圧脈波検査の実施はしておらず,初回の頸部血管エコー検査時までに両側上肢の血圧は記録されていなかったが,両側の橈骨動脈の脈の触知や,上肢での血圧の左右差の確認も,鎖骨下動脈狭窄の検索の一助となると考えられる。
頸部血管エコーでは椎骨動脈の血管径に左右差は認められなかったが,MRAでは頭蓋内で血管径に有意な左右差が認められ,右と比較して左が軽度低形成であると考えられた。椎骨動脈のPSVに左右差が認められたが,これは左椎骨動脈が低形成であり,右の方が流量が多くなっているためだと考えられる。左椎骨動脈が左総頸動脈分岐部と左鎖骨下動脈分岐部の間の大動脈弓から直接分岐する場合,左の椎骨動脈は右よりも低形成の場合が多いとされており18),本症例でも左椎骨動脈は軽度低形成であった。
椎骨動脈の分岐異常のために鎖骨下動脈に逆流を認めなかった症例を経験した。椎骨動脈の分岐異常は比較的頻度が高く,このような場合には鎖骨下動脈狭窄を認めても,椎骨動脈波形に影響が見られないことがある。検査前の聴診や,上肢血圧の左右差の確認などが,鎖骨下動脈狭窄に対する見逃しを防ぐために有用である。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。