2020 Volume 69 Issue 2 Pages 235-239
迅速診断キットを用いたロタウイルス(rotavirus; RV),ノロウイルス(norovirus; NV),アデノウイルス(adenovirus; AV)の検査結果について,各抗原陽性例の特徴を臨床検査所見から明らかにする目的で,後方視的に検討した。2015年1月~2018年12月に当院でRV,NV,AVのいずれかの抗原検査が行われた0~18歳の延べ633例(中央値2歳)を対象とした。RVは検査数563,陽性64例(陽性率11.4%),NVは検査数524,陽性46例(陽性率8.8%),AVは検査数312,陽性18例(陽性率5.8%)であった。発症年齢は3ウイルスとも0~2歳が全体の多くを占めていた。流行時期は,RVが春季,NVが冬季中心で,AVは夏季に比較的多く,流行時期が異なっていた。RV,NV,AV全てが陰性であった例を陰性群とし,臨床検査値について各陽性群と比較した。末梢血中の白血球数および血清中のCRP,AST,ALT,尿素窒素,クレアチニン,グルコース,ナトリウムについては,異常値の占める割合に有意差は認められなかった。また,異常値が50%以上を占めた項目はAV陽性群のCRP(60.0%)とUN(50.0%)のみで,RV陽性群,NV陽性群,陰性群では異常値が50%以上を占めた項目はなかった。各ウイルス感染とも,臨床検査所見からの特徴づけは困難と思われた。
Rotavirus (RV), norovirus (NV) and adenovirus (AV) are the major and important pathogens of childhood gastroenteritis. These antigens are being tested using rapid diagnostic kits at our hospital. The purpose of this study was to characterize on the basis of clinical laboratory findings the groups found to be positive for these antigens using the diagnostic kits. The medical records of patients (aged < 19 years) that were tested with these kits between January 2015 and December 2018 were reviewed, including the results of their clinical laboratory tests. A total of 633 patients (median age, 2 years) were tested for at least one antigen. For RV, out of 563 patients tested, 64 (11.4%) were positive. For NV, 46 (8.8%) out of 524 patients were positive, and for AV, 18 (5.8%) out of 312 patients were positive. In terms of age distribution, antigen-positive patients were mostly less than 3 years old. Seasonal distribution was seen for each virus. RV was identified mostly in spring (peaking in April), and the high season for NV was winter (December and January). We attempted to characterize each antigen-positive group on the basis of their clinical laboratory findings, namely, white blood cell count and CRP, AST, ALT, urea nitrogen, creatinine, glucose and sodium levels. However, the percentages of patients with abnormal values were not significantly different between each antigen-positive group and the antigen-negative group (the group in which none of the three antigens were detected). Our results suggest that it is difficult to characterize each antigen-positive group on the basis of clinical laboratory findings.
小児におけるウイルス性胃腸炎では,ロタウイルス(rotavirus; RV),ノロウイルス(norovirus; NV),腸管型アデノウイルス(adenovirus; AV)が主要かつ重要な原因ウイルスである1)~3)。これらウイルス陽性例について,臨床面からの報告4)~9)は多数みられる一方で,検査側からの検討報告は少ない。当院では,迅速診断キット(以下キット)を用いて検査対応をしているが,①ウイルス陽性例と臨床検査値,②各ウイルス陽性例と年齢,③各ウイルス陽性例と検出時期,④それぞれのウイルス感染を疑うべき所見について検討した。
2015年1月~2018年12月に,当院でRV,NV,AVのいずれかの抗原検査が行われた0~18歳の延べ633例(中央値2歳)を対象とし,電子カルテを利用して後方視的に調査した。まず,全抗原検査の結果を年齢別および月別にまとめた。次に,抗原検査当日の末梢血中白血球数(white blood cell count; WBC)および血清中のC-reactive protein(CRP),アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase; AST),アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase; ALT),尿素窒素(urea nitrogen; UN),クレアチニン(creatinine; Cre),グルコース(glucose; Glu),ナトリウム(sodium; Na)の測定値をピックアップした。なお,基礎疾患の影響を減らす意図から,検討対象は外来患者のみとした。各測定値は年齢毎の基準範囲10)から,基準範囲内(正常値)と基準範囲外(異常値)とに分けた。各陽性例をそれぞれRV陽性群(64例),NV陽性群(46例),AV陽性群(18例)に分け,また3種類全てが陰性であった例を陰性群(190例)とし,各陽性群と陰性群について異常値の占める割合を比較した。
抗原検査には,免疫クロマトグラフ法を測定原理とする迅速診断キットを用いた。RVにはイムノカードSTロタウイルス(富士レビオ),NVにはイムノキャッチ-ノロPlus(栄研化学),AVにはディップスティック‘栄研’アデノ(栄研化学)を使用した。WBCは多項目自動血球分析装置XE-5000またはXS500i(シスメックス),血清中CRP,AST,ALT,UN,Cre,Glu,Naは生化学自動分析装置BM-6050またはZS050(日本電子)により分析した。統計学的検定はStatMateV(アトムス)によるχ2検定(フィッシャーの直接確率検定,Yatesの補正)を用い,有意水準を5%とした。
本研究は群馬県立小児医療センター倫理委員会の承認(GCMC2019-19)を得て行った。
各検査数および陽性数をTable 1に示した。延べ633名に検査が実施され,うち242名は3種類全ての検査が行われていた。RVは検査数563,陽性64例(陽性率11.4%),NVは検査数524,陽性46例(陽性率8.8%),AVは検査数312,陽性18例(陽性率5.8%)であった。RV,NV,AVのいずれかでも陽性であった121例のうち,重複して陽性であったのは7例(4.9%)で,組み合わせはRVとNVが5例(4.1%),RVとAV,NVとAVが各1例(0.8%)であった。なお,当該121例のうち便の細菌培養が実施されていたのは30例で,胃腸炎の原因と疑われる菌の検出はなかった。
Diagnostic kit | Number of tested (Male/Female) | Number of Positive (Male/Female) | Positive rate % (Male/Female) |
---|---|---|---|
Rotavirus | 563 (298/265) | 64 (33/31) | 11.4 (9.9/10.3) |
Norovirus | 524 (276/248) | 46 (27/19) | 8.8 (9.8/7.7) |
Adenovirus | 312 (164/148) | 18 (9/9) | 5.8 (6.2/6.1) |
年齢別の各陽性数をFigure 1に示した。RVは0歳にピークがみられ,0~2歳が全体の59.4%を占め,NVも0歳が最も多く,0~2歳が全体の79.1%を占めていた。また,AVは0~2歳が全体の77.8%を占めていた。
Positive cases were detected mostly from children less than 3 years old.
月別の各陽性数をFigure 2に示した。RVは4月を中心とした3~5月に75.0%が集中し,NVは12~1月を中心とした冬季に多く,AVは66.7%が5~8月にみられた。
Rotavirus was identified most in spring, and the high season for norovirus was winter.
臨床検査値について,各陽性群と陰性群とで異常値の割合をまとめた(Table 2)。陽性群と陰性群とで有意差が認められた検査項目はなかった。異常値が50%以上を占めていた項目は,AV陽性群のCRP(60.0%)とUN(50.0%)のみで,RV陽性群,NV陽性群,陰性群では異常値が50%以上を占めた項目はなかった。
Analyte | Positive group | Negative group | |||
---|---|---|---|---|---|
Number of analyzes | Number of abnormal cases (%) | Number of analyzes | Number of abnormal cases (%) | ||
Rotavirus | WBC | 41 | 7 (17.1) | 83 | 17 (20.5) |
AST | 41 | 12 (29.3) | 82 | 20 (24.4) | |
ALT | 41 | 9 (22.0) | 82 | 20 (24.4) | |
UN | 41 | 9 (22.0) | 82 | 21 (25.6) | |
Cre | 41 | 7 (17.1) | 82 | 16 (19.5) | |
Glu | 35 | 8 (22.9) | 72 | 27 (37.5) | |
Na | 39 | 11 (28.2) | 79 | 20 (25.3) | |
CRP | 41 | 11 (26.8) | 81 | 22 (27.2) | |
Norovirus | WBC | 23 | 2 (8.7) | 83 | 17 (20.5) |
AST | 23 | 6 (26.1) | 82 | 20 (24.4) | |
ALT | 23 | 7 (30.4) | 82 | 20 (24.4) | |
UN | 23 | 5 (21.7) | 82 | 21 (25.6) | |
Cre | 23 | 3 (13.0) | 82 | 16 (19.5) | |
Glu | 17 | 5 (29.4) | 72 | 27 (37.5) | |
Na | 23 | 5 (21.7) | 79 | 20 (25.3) | |
CRP | 23 | 10 (43.5) | 81 | 22 (27.2) | |
Adenovirus | WBC | 10 | 1 (10.0) | 83 | 17 (20.5) |
AST | 10 | 1 (10.0) | 82 | 20 (24.4) | |
ALT | 10 | 0 (0.0) | 82 | 20 (24.4) | |
UN | 10 | 5 (50.0) | 82 | 21 (25.6) | |
Cre | 10 | 2 (20.0) | 82 | 16 (19.5) | |
Glu | 9 | 1 (11.1) | 72 | 27 (37.5) | |
Na | 10 | 4 (40.0) | 79 | 20 (25.3) | |
CRP | 10 | 6 (60.0) | 81 | 22 (27.2) |
陽性例の年齢は既報5)~8)と同様で,いずれも0~2歳が多く,小児科領域における検査の重要性が確認された。ただし,陽性数は検査数の規模に,また検査数は保険適用の有無などを含む様々な要因にある程度影響される可能性もある。重複感染についても,3種類全てを検査していたのは38.2%(242例/633例)であり,実際の重複感染の割合は今回求めた5.7%よりも高い可能性も考えられる。竹迫ら4)はNV陽性例に対し(ウイルスだけでなく)細菌も含めた重複感染の割合を30%であったと報告している。当院では何らかの抗原検査が陽性となった場合,便の細菌培養まで依頼されるケースは少ない。重複感染の可能性に対しても注意を向ける必要はあると思われるが,実態は不明であり,検査の必要性から臨床的意義まで今後検討すべき余地がある。
流行時期の傾向は,それぞれのウイルスで異なっていた。RVの流行時期は従来,冬季5),11)とされていた。ワクチン導入後に流行時期が消失したとの報告12)もあるが,一方で2~3月6),7),3~4月8),3月4),春季9)といった報告もあり,当院でも春季が中心であった。NVの流行時期は12月がピークとの報告4),8)があり,当院でも冬季が中心であった。ただし,NVのうち従来株は1月,変異株E2006は11月にピークがあったとの報告13)もあることから,ウイルス株によって流行時期がやや異なる可能性も考えられる。AVには特に流行時期はないものとされる6),11)が,当院では夏季にやや多い傾向が認められた。流行時期は,年度や地域の気象状況等によって差異のあることは考えられるものの,各ウイルスの流行時期の違いは胃腸炎の原因ウイルスを推測する上で有用な情報となるものと思われる。
臨床検査値については,各陽性群と陰性群とで異常値の割合に有意差を認めた項目はなかった。RVについてはASTが軽度上昇する例が多いとの報告5),7)もあるが,今回は29.3%に過ぎなかった。その他の項目についても,異常値の頻度が特に目立ったものはなく,各ウイルスの陽性例に特徴的な検査所見は見出せなかった。検査値は脱水症等における重症度の判断指標14)として有用性は高いと考えられるが,鑑別診断等に利用することは困難と思われた。
ウイルス性胃腸炎の主な原因であるRV,NV,AVは,流行時期からある程度の推測が可能と考えられる。一方で,各ウイルス感染とも臨床検査値の面から特徴は見出せなかった。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。