Japanese Journal of Medical Technology
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Basic examination of improved reagent “Nanopia IL-2R” that minimized nonspecific reactions
Takashi KONDORyosuke MORIAIRyo KOBAYASHIKouji YAMADAAkemi ENDOKouichi ASANUMANozomi YANAGIHARASatoshi TAKAHASHI
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2020 Volume 69 Issue 3 Pages 346-352

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Abstract

今回我々は,非特異反応の軽減を図ったナノピアIL-2R改良試薬における,基本性能を評価した。その結果,再現性は良好であった。希釈直線性は4,000 U/mL付近まで良好な直線性を得たが,これ以上の高値域はS状カーブを認めた。プロゾーン現象は約110,000 U/mLまで認めず,検出限界は30.4 U/mLと臨床上十分な感度を有していた。共存物質の影響は,300 mg/dL以上の溶血ヘモグロビン存在下で若干の測定値の低下を認めた。改良試薬と改良前試薬は全体として良好な相関性を得たが,乖離例を9例認めた。9例のうち非特異反応を認めた検体は,改良前試薬で8例(3.4%)あったが,改良試薬では2例(0.9%)と減少していた。以上の結果より,ナノピアIL-2R改良試薬の基本性能は良好で,改良前試薬に比べ非特異反応は抑制されていた。ただし,1%程度に非特異反応を認めるため,注意を要する。

Translated Abstract

We investigated the basic performance of the improved reagent “Nanopia IL-2R” that minimized nonspecific reactions. A satisfactory result in terms of precision was obtained. By a dilution test, we confirmed good linearity to around 4,000 U/mL, but a slight S-formed curve was observed above 4,000 U/mL. No prozone phenomenon was observed up to approximately 110,000 U/mL, and the detection limit was 30.4 U/mL. Concerning the effects of interfering substances, sIL-2R levels decreased slightly in the presence of hemolysis hemoglobin at a concentration of 300 mg/dL or more. A strong correlation was observed between the improved reagent and the conventional reagent, but discrepancies were noted in nine cases. Nonspecific reactions were observed in eight cases (3.4%) examined using the conventional reagent, whereas they were observed in only two cases (0.9%) examined using the improved reagent. In summary, our results suggest that the basic performance of the improved reagent “Nanopia IL-2R” was satisfactory, and the number of nonspecific reactions was reduced in comparison with that using the conventional reagent. However, we need to pay attention to samples with nonspecific reactions in around 1% of patients.

I  はじめに

可溶性インターロイキン2受容体(soluble interleukin-2 receptor; sIL-2R)は,IL-2Rα鎖の一部が細胞膜から血中に遊離したもので,悪性リンパ腫や成人T細胞性白血病/リンパ腫等の診断や経過観察に用いられている1),2)。現在,日常検査においてsIL-2Rは,化学発光酵素免疫法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)やラテックス凝集法を原理とする試薬を用いて,自動分析装置により測定されている3),4)。ナノピアIL-2R(積水メディカル株式会社)は,ラテックス凝集法を原理とし,汎用の自動分析装置で測定可能な血中sIL-2R測定試薬である。専用機器を必要としないため,大規模病院に限らず多くの施設で使用することができる。

以前我々は,ナノピアIL-2Rの基本性能評価を行った5)。その結果,基本性能は良好であったが,104例中2例に非特異反応を呈する検体を認めたことを報告した。この問題を解決するため,非特異反応の軽減を図った改良試薬が開発された。そこで今回我々は,ナノピアIL-2R改良試薬における,基本性能を評価した。

II  対象および方法

1. 対象

当院において,sIL-2Rおよび免疫グロブリン(IgG, IgA, IgM)を測定した患者の既存試料(血清)を用いた。

2. 方法

1) 測定試薬および機器

ナノピアIL-2R改良試薬(以下,改良試薬)を用い,自動分析装置7180(株式会社日立ハイテクノロジーズ)で測定した。対照試薬は,ナノピアIL-2R改良前試薬(以下,改良前試薬),デタミナーCL IL-2R NX(協和メデックス株式会社,以下,デタミナー試薬)とステイシアCLEIA IL-2R(株式会社LSIメディエンス,以下,ステイシア試薬)を使用した。

2) 同時再現性

3濃度のプール血清を20回連続測定し,平均値,標準偏差(standard deviation; SD)と変動係数(coefficient of variation; CV)を算出した。

3) 日差再現性

初回にキャリブレーション後,3濃度のプール血清を20日間,1日2回測定し平均値,SDおよびCVを算出した。

4) 希釈直線性

約10,000 U/mLのプール血清を,生理食塩水で10段階希釈後3重測定した。

5) プロゾーン

約110,000 U/mLの高濃度試料を,生理食塩水で10段階希釈後3重測定した。

6) 検出限界

約110 U/mLのプール血清を生理食塩水で5段階希釈後,10重測定し2SD法で解析した。

7) 共存物質の影響

干渉チェック・Aプラスと干渉チェック・RFプラス(いずれもシスメックス株式会社)を使用した。プール血清に5段階希釈した遊離型ビリルビン,抱合型ビリルビン,乳び,溶血ヘモグロビンとリウマトイド因子(rheumatoid factor; RF)を添加後3重測定した。

8) 対照試薬との相関性

233例の患者血清を改良試薬と対照試薬で測定し,相関係数(r)と回帰式を算出した。改良試薬の測定値から,2,000 U/mL未満,2,000–4,999 U/mL,5,000 U/mL以上の3郡に分け,回帰式から求めた理論値と実測値との差の平均値を算出し,その4倍以上変動がみられたもの,あるいは測定値が2倍以上あるいは,0.5倍以下の差を認めたものを乖離例とした。

9) 乖離例の希釈試験

相関性試験で乖離を認めた検体を,生理食塩水(改良試薬と改良前試薬)や専用希釈液(デタミナー試薬とステイシア試薬)で段階希釈しsIL-2Rを測定後,それぞれ希釈倍率を掛けてsIL-2R値を算出した。未希釈検体の ±30%以上の変動を認めた場合を,非特異反応ありとした。

III  結果

1. 再現性

同時再現性と日差再現性のCVは,それぞれ0.6%~1.4%,0.8%~3.1%と良好であった(Table 1, 2)。

Table 1  Within-run precision
Low Medium High
Mean (U/mL) 518 2,073 10,837
SD (U/mL) 7.4 11.4 105.9
CV (%) 1.4 0.6 1.0

(n = 20)

Table 2  Between-day precision
Low Medium High
Mean (U/mL) 441 2,189 10,807
SD (U/mL) 13.7 16.8 154.0
CV (%) 3.1 0.8 1.4

(n = 20)

2. 希釈直線性

3,852 U/mLまで原点を通る良好な直線性を得たが,これ以上の高値域ではS状カーブを認め,理論値との乖離率は最大15.7%であった(Figure 1)。

Figure 1 Dilution linearity test

3. プロゾーン

検討範囲内でプロゾーン現象は認めなかった(Figure 2)。

Figure 2 Prozone phenomenon analysis

Dotted line: upper limit of measurement range.

4. 検出限界

検出限界は30.4 U/mLであった(Figure 3)。

Figure 3 Detection limit analysis

Dotted line: zero concentration value + 2SD.

5. 共存物質の影響

未添加時における測定値の ±2SD(図中破線)を超えた場合を影響ありとすると,遊離型ビリルビン,抱合型ビリルビン,乳びとRFは,検討範囲内で測定値に変動はなかった(Figure 4)。溶血ヘモグロビンは,測定値の低下を認め,300 mg/dL以上で −2SDを超える減少を認めた。

Figure 4 Effects of interfering substances on measurement of sIL-2R

Dotted line: untreated value ± 2SD.

6. 対照試薬との相関性

改良試薬と改良前試薬,デタミナー試薬およびステイシア試薬の相関係数はそれぞれr = 0.989,r = 0.975,r = 0.982と良好であった。回帰式はそれぞれy = 0.988x + 44.28,y = 1.224x − 125.71,y = 1.099x + 57.01であり,改良前試薬とは良好であったが,デタミナー試薬およびステイシア試薬とは若干の正の傾きを認めた(Figure 5, 6, 7)。また,改良試薬と対照試薬の間に,14例の乖離検体を認めた(Table 3,下線が乖離検体)。その内訳は,改良前試薬9例,デタミナー試薬5例,ステイシア試薬7例(重複あり)であった。

Figure 5 Correlation of measured values between Nanopia IL-2R improved reagent and conventional reagent using serum samples
Figure 6 Correlation of measured values between Nanopia IL-2R improved reagent and Detamina CL IL-2R NX using serum samples
Figure 7 Correlation of measured values between Nanopia IL-2R improved reagent and STACIA CLEIA IL-2R using serum samples
Table 3  sIL-2R values that were measured with four reagents in samples of discrepancy between Nanopia IL-2R improved reagent and other reagents
Sample No. Improved reagent
(U/mL)
Conventional reagent
(U/mL)
Detamina
(U/mL)
STACIA
(U/mL)
IgG
(mg/dL)
IgA
(mg/dL)
IgM
(mg/dL)
1 1,815 1,435 1,203 1,201 3,261 162 241
2 1,499 0 948 924 3,053 985 151
3 1,044 568 682 675 1,269 92 523
4 1,753 1,324 1,670 1,658 1,339 329 127
5 951 421 695 606 4,264
6 716 138 663 371 1,416 491 50
7 247 663 250 231 1,285 251 120
8 405 1,225 396 346 750 419
9 2,663 3,899 1,085 1,086 1,130 94 2,228
10 1,877 2,056 889 1,070 2,499 903 128
11 2,599 3,002 4,338 1,922 2,645 333 380
12 1,237 1,257 1,419 512 1,268 205 270
13 1,557 1,207 1,145 937 6,480 316 181
14 1,785 1,690 1,220 1,156 2,102 574 67

Under lines: samples of discrepancy. Up arrows: high value samples in comparison with improved reagent. Down arrows: low value samples in comparison with improved reagent.

7. 乖離例の希釈試験

改良試薬と対照試薬で乖離を認めた14例のうち,解析が可能であった11例の希釈試験を行った(Table 4, 5,下線が非特異反応を示した検体)。その結果,改良試薬のみで高値を示した2例(No. 1, 2)の内No. 1は,改良試薬において希釈により非特異反応を示さなかった。一方,改良前試薬では,希釈依存性に測定値が上昇し,偽低値の非特異反応を認めた。No. 2は改良試薬と改良前試薬の両試薬で希釈による測定値の変動を認め,非特異反応を認めた。改良前試薬のみで低値を示した4例(No. 3–6)の内,3例(No. 3, 5, 6)が希釈試験を実施できた。3例すべてで,改良試薬では非特異反応を認めなかったが,改良前試薬では希釈により測定値が上昇し,非特異反応を認めた。改良前試薬のみで高値を示した2例(No. 7, 8)は,改良試薬で希釈による測定値の変動はみられなかったが,改良前試薬ではいずれも非特異反応を認めた。No. 7は2倍,4倍希釈で高値となり,8倍,16倍希釈では低値となる異常反応を認めた。No. 8は希釈により測定値の減少がみられ,偽高値を示した。改良前試薬は高値で,デタミナー試薬とステイシア試薬で低値を示したNo. 9は,改良試薬と改良前試薬の両試薬で希釈による測定値の変動を認め,非特異反応を認めた。改良試薬と改良前試薬の値は近似しているが,デタミナー試薬とステイシア試薬とは乖離しているNo. 10は,改良試薬で希釈試験を行ったが,非特異反応はみられなかった。改良試薬とデタミナー試薬で乖離がみられたNo. 11は,デタミナー試薬で希釈により測定値が減少し,偽高値の非特異反応を認めた。改良試薬とステイシア試薬で乖離がみられた3例(No. 12–14)の内,希釈試験を行ったNo. 12は,ステイシア試薬で希釈により測定値が増加し偽低値の非特異反応を認めた。

Table 4  Dilution analysis in samples of discrepancy between Nanopia IL-2R improved reagent and conventional reagent
Sample
No.
Improved reagent (U/mL) Conventional reagent (U/mL)
×1 ×2 ×4 ×8 ×16 ×1 ×2 ×4 ×8 ×16
1 1,815 2,020 2,016 1,435 1,698 2,036 2,352 2,592
2 1,499 1,800 2,032 1,792 1,408 0 0 944 3,256 2,752
3 1,044 944 880 568 770 592
5 951 848 764 421 464 584
6 716 734 672 138 344 776 944 912
7 247 308 296 663 1,144 1,008 568 432
8 405 402 408 1,225 664 312
9 2,663 2,436 2,128 1,528 1,280 3,899 2,140 1,856 3,648 4,352

Under lines: samples which showed nonspecific reactions.

Table 5  Dilution analysis in samples of discrepancy between Nanopia IL-2R improved reagent and comparison reagents
Sample
No.
Improved reagent (U/mL) Detamina (U/mL) STACIA (U/mL)
×1 ×2 ×4 ×1 ×2 ×4 ×1 ×2 ×4
10 1,877 1,954 1,900
11 4,973 3,186 2,876
12 492 1,190 1,264

Under lines: samples which showed nonspecific reactions.

以上の結果より,非特異反応を認めた検体は改良試薬で2例(No. 2, 9),改良前試薬は8例(No. 1, 2, 3, 5, 6, 7, 8, 9),デタミナー試薬は1例(No. 11),ステイシア試薬は1例(No. 12)であった。

IV  考察

ナノピアIL-2Rは,汎用の自動分析装置に搭載可能で,測定時間は約10分と他の試薬と比べ短い為,迅速な検査結果の報告に有用である。しかし,以前の我々の検討を含め非特異反応を示す検体が1.9%~3.0%にみられると報告されている5),6)。原因として,異常な免疫グロブリンの関与が示唆されているが,詳細は明らかとなっていない。この問題を解決するため,積水メディカル株式会社は,非特異反応を抑制した改良試薬を開発した。そこで今回我々は,改良試薬の基本性能を評価した。

同時再現性と日差再現性のCVは,それぞれ0.6%~1.4%,0.8%~3.1%と良好で既報5)の改良前試薬(それぞれ1.1%~2.8%,1.6%~4.7%)と同等の再現性を有していた。希釈直線性は,4,000 U/mL付近まで良好な直線性を得たが,これ以上の高値域はS状カーブを認めた。我々の既報5)ではこのS状カーブは認めなかった。改良前試薬は,生理食塩水のブランクを含めて6点の較正を行っていたが,改良試薬は5点に変更されている。この変更が,希釈直線性に影響を及ぼした可能性が考えられた。プロゾーン現象は約110,000 U/mLまで認めず,検出限界も30.4 U/mLと臨床上十分な感度を有していた。共存物質の影響は,300 mg/dL以上の溶血ヘモグロビン存在下で若干の測定値の低下を認め,500 mg/dLで未添加時に比べ6%減少した。減少の変動幅はわずかであるが,強い溶血検体を測定する場合は,注意を要する。

改良試薬と改良前試薬は全体として良好な相関性が得られたが,乖離例を9例認めた。9例のうち明らかな非特異反応を認めた検体は,改良前試薬で8例(3.4%)あったが,改良試薬では2例(0.9%)と減少しており,改良により非特異反応が抑制されていた。しかし,改良試薬でも0.9%は非特異反応を認めており,今後の課題と考える。改良試薬で非特異反応を認めたNo. 2とNo. 9は,それぞれ関節リウマチと白血病と診断されており,いずれも免疫グロブリンが高値であるため(Table 3),異常な免疫グロブリンが測定系に干渉した可能性が考えられた。希釈による測定値の変動は,今回は検体量が少なく解析できなかったが,以前の我々の検討でDTTにより変動が消失したため,IgMが非特異反応の一因と考えられた5)

デタミナー試薬およびステイシア試薬との相関性は,相関係数は高かったが回帰式で若干の正の傾きを認めた。これは,用いている抗体の差異によるものと考えられた。改良試薬とデタミナー試薬の間で5例の乖離例を認め,2例(No. 2, 9)が改良試薬で,1例(No. 11)がデタミナー試薬で非特異反応を示した。No. 11は,シェーグレン症候群の患者で,免疫グロブリンが高値であった為,異常な免疫グロブリンの関与が示唆された。残る2例(No. 1, 10)に関しては,改良試薬で希釈試験による非特異反応を認めなかった。デタミナー試薬に関してはサンプル量が不足し,希釈試験を実施できなかったが,デタミナー試薬とステイシア試薬の値は近似しており,非特異反応の可能性は低いと推察され,乖離原因は不明である。

改良試薬とステイシア試薬では,7例の乖離例を認め,2例(No. 2, 9)が改良試薬で,1例(No. 12)がステイシア試薬で非特異反応を示した。No. 12は,免疫芽球性T細胞リンパ腫と診断されており,免疫グロブリンの高値は認めなかった。残る4例の内2例(No. 1, 10)は,上述と同様に改良試薬の希釈試験で非特異反応を認めず,ステイシア試薬の希釈試験は実施できなかった為,乖離原因は不明である。他の2例(No. 13, 14)に関してはサンプル量が不足し,両試薬で希釈試験を実施できなかったが,デタミナー試薬とステイシア試薬の値が近似しており,改良試薬で非特異反応を示した可能性も考えられた。

今回の検討では,すべてのサンプルの非特異反応の有無を十分に解析できなかったが,明らかに非特異反応を示したのは,改良試薬で233例中2例(0.9%)であった。デタミナー試薬とステイシア試薬はそれぞれ1例(0.4%)であり,改良によりCLEIAを原理とする両試薬と同程度に非特異反応を抑制できたと考えられた。

V  結語

ナノピアIL-2R改良試薬の基本性能は良好で,改良前試薬に比べ非特異反応が抑制されていた。ただし,1%程度に非特異反応を認めるため,初回異常値や前回値との差があるときは,臨床背景あるいは免疫グロブリン値,蛋白分画や画像検査など他の検査結果の確認が必要である。

 

本研究は,札幌医科大学附属病院臨床研究審査委員会の承認を得て施行した(整理番号:302-159)。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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