Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Evaluation of the Aerospray 7721 automatic acid-fast staining instrument
Mai SANOTakaaki KAWAKAMIMasayoshi CHONANAyako NAKAMURATakashi HORIIShigeki MISAWAAkimichi OHSAKATakashi MIIDA
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2020 Volume 69 Issue 3 Pages 329-334

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Abstract

我々は,自動抗酸菌染色装置であるエアロスプレー7721による抗酸菌染色の性能を評価した。抗酸菌陽性17検体を用い,エアロスプレー7721による原法,脱色液の組成を変更した変法2法と塗抹標本を染色直前に加温した変法による染色標本をZiehl-Neelsen法を対照に比較した。さらに,経験を有する技師と経験が浅い技師の2群間で鏡検結果を比較した。17検体中8検体(47.1%)は,原法と対照法による染色標本の鏡検結果は完全に一致したが,9検体の結果は対照法に比べて原法の方が少なかった。検体中の菌量が少ない5検体は,原法によって陰性と判定された。脱色液の改変は以下の2法を検討した。硝酸の濃度を2%から1%へ変更した変法1とエタノールの代わりにイソプロピルアルコールを使用した変法2を評価した。2法による染色標本の結果は,原法による結果とほぼ同じであった。染色直前に塗抹標本を加温処理する変法3は,対照法と同等に抗酸菌が染色された。2群の鏡検者による鏡検結果の比較は,経験3年以上と経験6ヶ月未満の技師各4名によって実施した。経験が浅い技師による鏡検結果は,変法3によって改善し,対照法とほぼ同じ結果が得られた。エアロスプレー7721は染色直前に塗抹標本を加温することにより,Ziehl-Neelsen法と同程度に抗酸菌を染色することができ,日常検査に有用と考えられた。

Translated Abstract

In this study, we evaluated the performance of Aerospray 7721, an automated acid-fast staining instrument. Four fixed smear slides from 17 specimens positive for acid-fast bacteria (AFB) were examined by five different methods: that recommended by the Aerospray 7721 manufacturer (original method); two methods using modified decolorizer solutions; a heating method, in which smear slides were heated immediately prior to staining with Aerospray 7721; and the Ziehl-Neelsen method (reference method). AFB counts were consistent between the original and reference methods in 8 of the 17 specimens examined (47.1%); in the remaining nine specimens, bacillus counts obtained by the original method were lower. Five specimens with lower AFB counts were categorized as negative by the original method. The decolorizer solution modifications included (1) changing the concentration of nitric acid from 2 to 1%, and (2) using isopropyl alcohol instead of ethanol. The results obtained by these modified decolorizer methods were similar to those obtained by the original method. Heating the smear slides prior to staining produced results similar to those of the reference method. For each method, AFB counts were compared between experienced (four observers, ≥3 years of experience) and inexperienced (four observers, < 6 months of experience) technologists. Among the inexperienced technologists, the heating method produced the best results, approaching those of the reference method. The results of this study demonstrate that Aerospray 7721 can stain mycobacteria as successfully as the Ziehl-Neelsen method when heat is applied to the smear slides immediately prior to staining and is therefore an appropriate technique for routine mycobacteriological tests.

I  はじめに

本邦における結核罹患率(人口10万対)は,平成29年は13.3であり,米国等の他の先進国の水準に近づいてきている1)。しかし,結核罹患率の減少は1980年代以降鈍化しており,その主な原因は人口の高齢化,医療の進歩に伴うcompromised hostの増加,社会経済的弱者の存在が指摘されている2)。国内では,2007年に結核予防法を廃止し,感染症法の二類感染症への統合による結核対策の見直しがなされている。結核対策は患者の発見から始まり,微生物検査では結核菌群(Mycobacterium tuberculosis complex)の迅速かつ正確な検出がきわめて重要である。

結核を含む抗酸菌感染症の検査診断において,塗抹検査は最も迅速かつ簡便な検査である。塗抹標本の染色法はZiehl-Neelsen法と蛍光法が用いられているが,蛍光法の方が抗酸菌検出の感度が高いことからスクリーニング検査に適しているが特異性に劣ること,蛍光顕微鏡が必要であることが欠点である。Ziehl-Neelsen法は,蛍光法より菌検出感度が低いことや,加温染色を行うことから染色が煩雑であるが,抗酸菌の鑑別は蛍光法より容易である3),4)

米国Wescor社のエアロスプレー7721は抗酸菌の自動染色装置である。本装置は回転式吹きつけ法による染色装置であり,一度に最高30枚の標本を7分で染色できる。染色法はZiehl-Neelsen法に類似しているが,加温染色を必要としないこと,脱色液に金属腐食性がある塩酸を使用しないことが特徴である。

今回,我々は抗酸菌の塗抹検査におけるエアロスプレー7721の有用性を評価した。

II  材料および方法

1. 使用材料

材料は,2012年9月から2013年6月までに当院臨床検査部微生物検査室へ抗酸菌検査目的で提出された検体のうち,抗酸菌塗抹検査が陽性であった17検体を用いた。17検体の内訳(検体数)は,喀痰(13),肺組織(1),気管支洗浄液(1),および他の下気道検体(2)である。17検体からの分離された抗酸菌の菌種(菌株数)は,Mycobacterium tuberculosis complex(6),Mycobacterium avium(8),Mycobacterium intracellulare(1),Mycobacterium fortuitum(1),およびMycobacterium abscessus(1)である。

抗酸菌培養はBDミジット抗酸菌システム(日本BD),同定はM. tuberculosis complex,M. aviumおよびM. intracellulareはコバスTaqMAN(ロシュ・ダイアグノスティックス),迅速発育菌群2種はDDHマイコバクテリア(極東製薬)によった。

2. 塗抹標本作製

塗抹標本は検体10 μL(気管支洗浄液は遠心沈渣)をスライドグラスに塗抹,メタノール固定したものを各5枚作製した。

3. 抗酸菌染色

抗酸菌染色は,エアロスプレー自動抗酸菌染色装置7721(米国Wescor社/フェニックスサイエンス;以下,エアロスプレー7721)を用い,メーカー指定の方法(以下,原法)を含む4種の方法によって染色した。対照法は用手法によるZiehl-Neelsen法とした。

1) 原法

原法は,メーカーによる説明書に従い,エアロスプレー7721により以下①~⑧の手順で行った。すなわち,①塗抹固定済み標本をカローセルにセット,②石炭酸フクシン液にて染色(2分),③水洗(30秒),④2%硝酸加エタノールにて脱色(1分25秒),⑤水洗(30秒),⑥メチレンブルー液(40秒),⑦水洗(1分),⑧遠心・乾燥(55秒)である。石炭酸フクシン液による染色は常温で行い,染色の全工程は7分間である。

2) 変法1

変法1は脱色液の硝酸の濃度を1%硝酸加エタノールへ変更した。

3) 変法2

変法2は脱色液を1%硝酸加イソプロパノールへ変更した。

4) 変法3

変法3は塗抹固定済み標本をガスバーナーで加温し,直ちに原法と同様に染色した。

対照法であるZiehl-Neelsen法は,以下の試薬および手順で行った5)。すなわち,塗抹固定済み標本にチール石炭酸フクシン溶液(関東化学)を満載し,ガスバーナーにて加温染色(5分),流水水洗,3%塩酸アルコール(自家製)で脱色(5分),流水水洗,レフレルのメチレンブルー(Merck)で染色(30秒),流水水洗,乾燥である。

4. 染色標本の鏡検および菌量の判定方法,および鏡検者による比較

染色標本は,油浸レンズを用いて総合倍率1,000倍で300視野を鏡検した。菌量の表記は,抗酸菌検査ガイド20166)に従い,−,±,1+,2+,3+の5段階に判定した。

染色標本の鏡検者による比較は,M. tuberculosis complex陽性2検体およびM. abscessus陽性1検体を用い,原法,変法3,および対照法(Z-N法)の3法によって染色した合計9枚の染色標本を使用した。染色標本の鏡検は,抗酸菌検査の経験年数3年以上の4名および6ヶ月未満の4名の技師が担当した。8名の技師には,染色法,分離菌種に関する情報は一切与えずに鏡検を実施した。

鏡検結果の菌量である−,±,1+,2+,3+には,それぞれ0,1,2,3,4のスコアを設け,平均値および ±SDを算出し,2群間の有意差を比較(t検定)した。

III  結果

1. 原法と対照法による染色標本の鏡検結果の比較

原法と対照法による17検体の染色標本の鏡検による結果を比較し,Figure 1に示した。菌量に基づいた5段階の結果が完全に一致したのは,17検体中8検体(47.1%)であった。残り9検体は,対照法に比べ原法の方が菌量が少なく判定され,特に1+以下の低菌量の検体で多く認められた。不一致の9検体のうち,対照法で菌が認められ,原法では菌が認められなかった検体は合計5検体であり,このうち2検体はM. tuberculosis complexが検出されていた。

Figure 1 Number of mycobacteria in stained smears using Aerospray (original) compared with Ziehl-Neelsen method (reference)

Abbreviations: −, negative; ±, 1–2/300 oil immersion fields; 1+, 1–9/100 oil immersion fields; 2+, > 10/100 oil immersion fields; 3+, > 10/1 oil immersion field.

2. 脱色液の変更および加温操作の追加による染色標本の鏡検結果の比較

原法,脱色液を変更した変法1および2,染色直前に加温操作を追加した変法3による染色標本の鏡検結果を対照法と比較しTable 1に示した。変法1と2は原法とほぼ同じ菌量に判定され,対照法に比べて菌量が低かった。変法3は染色性が良好となり対照法とほぼ同等の菌量に判定されたが,M. avium検出検体のうち対照法で低菌量と判定された3検体(I, J, K)では,陰性と判定されていた。

Table 1  Acid-fast bacterial counts obtained using the Aerospray 7721 automatic staining machine via the original method, three modified methods, and a reference method
Methoda Results of the number of mycobacteria at the following sampleb
A B C D E F G H I J K L M N O P Q
Reference 3+ ± 3+ 2+ 1+ 3+ 1+ 3+ ± ± ± ± 2+ 2+ 1+ 2+ 2+
Original 3+ 2+ 1+ 3+ 1+ 2+ ± 2+ 2+ 1+ 1+ 2+
Modified 1 2+ 1+ 3+ 1+ 2+ 1+ 1+ 1+ ± 2+
Modified 2 3+ 1+ 1+ 3+ 1+ 2+ ± 2+ 1+ 1+ 1+ 2+
Modified 3 3+ ± 3+ 2+ 1+ 3+ 1+ 3+ ± 2+ 2+ 1+ 1+ 1+

Abbreviations: −, negative; ±, 1–2/300 oil immersion fields; 1+, 1–9/100 oil immersion fields; 2+, > 10/100 oil immersion fields; 3+, > 10/1 oil immersion field.

aReference: Ziehl-Neelsen method; original: method recommended by the manufacturer; modified 1: ethanol used with 1% nitric acid as decolorizer; modified 2: isopropanol used with 1% nitric acid as decolorizer; modified 3: smear heated immediately prior to Aerospray 7721 application.

bMycobacterium tuberculosis complex was isolated from samples A–F, M. avium was isolated from samples G–N, and M. intracellulare, M. fortuitum, and M. abscessus were isolated from samples O, P, and Q, respectively.

M. tuberculosis complex検出例のうち,喀痰由来の標本2種(C, D)の染色像をFigure 2に示した。標本Cは対照法(2-1)と原法(2-2)で染色性に差は認められなかったが,標本Dは原法(2-3)で染色性が弱く,ゴースト様に観察される菌体が認められた。

Figure 2 Representative stained smear with sample C (2-1 and 2-2) and D (2-3) described in the Table; stained by Ziehl-Neelsen method (2-1), stained by the original method using Aerospray (2-2), and stained faintly as ghost (arrow) by original method using Aerospray (2-3)

3. 染色法3法による菌量判定の鏡検者による比較

経験年数が異なる2群の技師による染色法3法(原法,変法3,対照法)による染色標本の菌量からのスコアをFigure 3に示した。

Figure 3 Comparison of mean score (open bars) and differnce (filled bars) by quantities of mycobacteria in stained smears between experienced and inexperienced observers

anegative = 0, ± = 1, 1+ = 2, 2+ = 3, 3+ = 4

平均スコアは,経験年数3年以上の群は3法全てにおいて経験年数6ヶ月未満の群より高かった。染色法3法の平均スコアは,対照法であるZ-N法が最も高く,次いで変法3,原法の順であった。対照法を基準とした変法3または原法との比較では,統計学的に有意な差は認められなかったが,経験年数3年以上の群に比べ,6ヶ月未満の群の方が対照法との差がより大きい傾向であった。

IV  考察

結核の検査診断には,塗抹検査,核酸増幅検査および培養検査があるが,塗抹検査が最も迅速に結果が得られる。厚生労働省による平成29年の調査報告1)では,結核と診断された患者の37.9%は塗抹検査陽性である。塗抹検査は,検体中に一定以上の菌が存在しないと検出できないことや,M. tuberculosis complexか他の抗酸菌を区別することができない限界があるものの,検体が微生物検査室に到着してから40~60分以内に結果報告可能であり,迅速検査としての意義は依然高い7)

抗酸菌染色にはZiehl-Neelsen法と蛍光法があるが,今回検討したエアロスプレー7721は,Ziehl-Neelsen法の変法を用いる抗酸菌の自動染色装置である。一度に最大30枚の標本を約7分間で染色可能である。また,使用する染色液や排液も用手法に比べて少量で済み,給排水設備との接続が不要であり装置の設置場所を選ばない特徴を有する。Ziehl-Neelsen法は蛍光法より検出感度は低いが,抗酸菌の鑑別が容易である特徴を有する。青野らによる抗酸菌塗抹検査の外部精度評価に関する2012年の報告8)では,参加施設の64%がZiehl-Neelsen法を実施していた。

抗酸菌陽性検体を用いたエアロスプレー7721による抗酸菌染色と対照法であるZiehl-Neelsen法による菌量の比較では,エアロスプレー7721による染色標本の方が染色性が弱く,菌量が全体に少なく判定されていた。特に,菌量が少ない(±または1+)検体では,陰性と判定された標本が認められていた。エアロスプレー7721で用いられている脱色液は硝酸エタノールが用いられている。脱色液に関する室橋らによる検討9)では,3%塩酸アルコールが最も脱色効果が弱く,硝酸アルコールは硝酸の濃度が薄い(0.1~0.5%)場合は脱色力が強まり,この影響は迅速発育菌において著しいことが報告されている。今回の検討では,迅速発育菌群分離例のPおよびQにおいて,modified 3でも菌量が低く判定されていた。標本作製時のサンプリング部位による菌量の偏りも考えられるが,迅速発育菌群が他の抗酸菌より脱色されやすいことが原因したかもしれない。本装置に塩酸アルコールが採用されていない理由は,塩酸がチューブの固化や装置の腐食に繋がるためである。今回の検討では,硝酸濃度を1%へ変更,およびエタノールをイソプロピルアルコールへ変更した脱色液を用いて比較したが,染色結果に差は認められなかった。そこで,石炭酸フクシンによる染色性を更に保持するため,加温操作を追加した結果,Ziehl-Neelsen法とほぼ同等の染色結果を得ることができた。近年,染色時間の短縮と火気の使用に伴うリスク低減の目的から,加温を行わない抗酸菌染色キットが市販されている。M. tuberculosis complex陽性検体を用いたZiehl-Neelsen法との比較10),11)では,高い一致率であったことが報告されている。今回の検討では,加温しない方法では非結核性抗酸菌の染色性が弱い傾向が認められたことから,加温操作を行った方が良いと考えられた。

抗酸菌塗抹検査の鏡検の技師間差は,今回の検討では経験年数3年以上の技師と経験年数6ヶ月未満の技師による菌量を比較した。経験年数3年以上の技師は,染色が弱い抗酸菌も経験がカバーし方法間の差が小さい。一方,経験年数が短い技師は,抗酸菌の染色性に結果が依存し,全体に菌量を少なく判定する傾向が認められた。エアロスプレー7721による染色前に,加温操作を加えることでZiehl-Neelsen法による結果に近づき,より技師間差のない結果が得られるものと考えられた。

V  結語

抗酸菌の自動染色装置エアロスプレー7721は,自動かつ短時間で抗酸菌染色を行うことが可能であり,抗酸菌塗抹検査の迅速化と効率化が期待できる。Ziehl-Neelsen法に比べて抗酸菌の染色性がやや弱いが,加温操作を加えることで良好な染色標本を作製でき,より安定した結果を得ることができると考えられた。

 

本研究は,順天堂大学医学部附属順天堂医院倫理委員会の承認(受付番号12-149)を受けた。

本論文の要旨は,第25回臨床微生物迅速診断研究会総会(2013年,東京)において発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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