2020 Volume 69 Issue 3 Pages 408-415
【目的】代替キシレンであるクリアライトTM3とアルコールとの等量混合液を用い,自動包埋装置内で脱脂処理が可能か検討した。【対象】2017年2月~6月までの乳癌全摘手術検体9例(154ブロック)を対象とした。腫瘍を含む最大割面より通常の病理標本(A法)と隣接する検討用標本(B法)を作製した。【方法】1)脱脂処理の検討(A法)スターラーを用いアセトン内で3時間攪拌した。(B法)自動包埋装置エクセルシアASの第1槽目をクリアライトTM3/アルコール等量混合液とし,3時間処理を行った。2)脱脂処理後溶液中の中性脂肪の量を生化学自動分析装置TBAc16000にて測定した。3)自動薄切装置を用いて薄切状態を調べた。4)ヘマトキシリン・エオジン(Hematoxylin Eosin; HE)染色,ER/PgR/HER2の免疫組織化学染色(immunohistochemistry; IHC)とHER2 FISH染色を行い,染色性を比較した。【結果】1)中性脂肪の溶出量はB法に比してA法の方が多く,有意差(p = 0.0156)を認めた。2)組織収縮の程度は,B法に比してA法の方が強かった。3)全ブロック薄切可能であり,HE染色への影響は認めなかった。4)ER,PgR判定は9/9例(100%)で一致していた。5)HER2 IHCはHER2 FISH判定との不一致がA法で2/9例(22.2%)生じた。6)HER2 FISHの染色性は良好で評価可能であった。【結語】充分量のアセトン,および自動包埋装置内でのクリアライトTM3/アルコール混合脱脂液を用いれば両者とも3時間で十分な脱脂効果が得られるが,アセトンは膜蛋白評価が不一致となる傾向がみられた。
<Introduction> We investigated the use of xylean Clear-RiteTM3 as an alternative reagent for tissue delipidation with an auto tissue processor. <Method> Nine breast cancer specimens totally resected from February to June 2017 were used. We prepared specimens for histopathological diagnosis (A) and specimens for routine examination (B). The A specimens were delipidated with acetone in a shaker for three hours, whereas the B specimens were delipidated with Clear-RiteTM3 and alcohol mixed with a reagent in an auto tissue processor for three hours. Subsequently, we examined the effect of delipidation on the slice graft using the automatic slice device AS-400M and the immunohistochemical staining of ER/PgR/HER2 IHC and HER2 FISH staining. <Results> The A specimens showed higher TG levels than the B specimens (p = 0.0156). In all 154 blocks, the slice success rates with the automatic slice device and the HE stainability were similar. The ER/PgR results were concordant (100%), but the HER2 IHC results in two cases were not concordant(2/9, 22.2%). The A specimens showed a false-positive result. In those two cases, there was no amplification in HER2 FISH. <Conclusion> The mixture solution of xylean Clear-RiteTM3 as the alternative reagent and alcohol had sufficient delipidation effects. The auto tissue processor enabled rapid delipidation. The risk from exposure to organic solvents was reduced.
脂肪を多く含む乳腺組織は,ホルマリン固定後に脱脂処理が必須である。当院では,組織切片自動作製装置(AS-400M;大日本精機)を導入して標本作製を行っているものの,乳腺組織における自動薄切困難症例の約90%が,脱脂不良に伴う切片の毛羽立ちや薄切切片のテープからの転写不良であり,脱脂処理方法の改善が望まれていた1)。
従来,脱脂液は,クロロホルム,キシレン,アセトン,アルコール/キシレン混合液などが用いられている2)。当院では,親水性も親油性も兼ね備えているアセトンで1日予備脱脂を行う方法を採用している。しかし,アセトンは有機溶剤中毒予防規則の第二種有機溶剤に指定された危険物であり,試薬の揮発及び曝露防止対策を行い脱脂処理実施しても試薬使用時及び廃棄時の曝露は少なからずある。
イソパラフィン系脂肪族炭化水素が主成分である代替キシレンのクリアライトTM3(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)とアルコールの等量混合溶液がキシレンよりも高い脱脂効果が期待できることを情家らが2016年の愛知県医学検査学会にて報告している。
今回我々は,自動包埋装置エクセルシアAS(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)内でクリアライトTM3を用いた脱脂用プログラム(病理染色用溶剤エタノール100(武藤化学,以下,アルコール)とクリアライトTM3の混合溶液)を作製し,自動包埋装置内で代替キシレンを用いた脱脂処理と,従来のアセトンとの比較検討を行った。
2017年2月~6月の乳癌患者全摘手術検体9例(合計154ブロック,平均年齢59.1 ± 17.5歳)を対象とした(Table 1)。腫瘍を含む最大割面より通常の病理診断用標本(A法)と隣接する本検討用標本(B法)を作製した(Figure 1)。
症例 | 年齢 | 部位 | 組織診断 | 浸潤部最大径 | pT | ly | v | ew | サブタイプ |
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1 | 46 | C (R) | Invasive ductal carcinoma with a predominantly intraductal component | 1.5 × 1.0 mm | 1a | (−) | (−) | (−) | luminal A-like |
2 | 44 | B (R) | Invasive ductal carcinoma with a predominantly intraductal component, solid-tubular carcinoma | 15 × 13 mm | 1c | (+) | (−) | (−) | luminal-B-like (HER2 negative) |
3 | 50 | C (R) | Invasive ductal carcinoma with a predominantly intraductal component, papillotubular carcinoma | 18 × 17 mm | 1c | (−) | (−) | (−) | luminal-B-like (HER2 negative) |
4 | 56 | C (R) | Invasive ductal carcinoma with an intraductal component, scirrhous carcinoma | 2.0 × 1.1 × 1.4 cm | 1c | (−) | (−) | (−) | luminal-B-like (HER2 negative) |
5 | 87 | AC (L) | Invasive ductal carcinoma, solid-tubular type | 9.9 × 6.5 × 5.1 cm | 3 | (−) | (−) | (−) | luminal-B-like |
6 | 45 | DCE (R) | Invasive ductal carcinoma, solid-tubular type | 4.5 × 4.0 × 2.0 cm | 2 | (−) | (−) | (−) | HER2 |
7 | 54 | E (R) | Invasive ductal carcinoma, scirrhous carcinoma | 2.5 × 1.4 × 1.0 cm | 2 | (+) | (−) | (−) | HER2 |
8 | 60 | AB (L) | Invasive ductal carcinoma, scirrhous carcinoma | 1.9 × 1.2 cm | 1c | (−) | (−) | (−) | Basal-like |
9 | 90 | C (R) | Invasive ductal carcinoma, scirrhous carcinoma | 1.4 × 1.3 × 1.2 cm | 1c | (−) | (−) | (−) | luminal B-like (HER2 negative) |
上段:腫瘍部を含む最大割面の切り出し図(赤×は浸潤部,A法,B法),下段:A法の切り出し後ブロック
A法とB法は切り出し間隔を統一した。なお,確認のため,切出し後の検体の大きさ(縦横幅/厚み)を定規で測定した。検定は,二変量の関係(JMP13.0.0)を用いた。
3. 脱脂方法A法は,スターラーを用い1,800 mLのアセトン溶液内で3時間攪拌させた(Figure 2)。B法は,アセトンの代わりに自動包埋装置エクセルシアAS内(1槽目)で1,800 mLのアルコール/クリアライトTM3等量混合液で3時間(40℃加温,攪拌あり)処理した(Table 2)。2槽目以降は,A法,B法共通に処理を行った。
切り出し後ブロックを網に入れビーカー内に浮かせるようにしスターラーで攪拌。
No. | 溶液 | 時間(分) | 温度(℃) | 攪拌 |
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1 | アルコール/Clear-RiteTM3 | 180 | 40 | + |
2 | アルコール | 20 | 40 | + |
3 | アルコール | 58 | 40 | + |
4 | アルコール | 60 | 40 | + |
5 | アルコール | 60 | 40 | + |
6 | アルコール | 120 | 40 | + |
7 | アルコール | 150 | 40 | + |
8 | Clear-RiteTM3 | 60 | 40 | + |
9 | Clear-RiteTM3 | 60 | 40 | + |
10 | Clear-RiteTM3 | 60 | 40 | + |
11 | パラフィン | 90 | 64 | + |
12 | パラフィン | 90 | 64 | + |
13 | パラフィン | 90 | 64 | + |
A法,B法各脱脂処理後溶液をよく撹拌後10 mL採取し,孵卵器(65℃)にて3日間乾燥後,イソプロピルアルコール2.0 mLを加え再溶解し,中性脂肪(triglyceride; TG)をTBATM-c16000(東芝メディカル)にて測定した(Figure 3)。なお,検定は,Wilcoxon(Mann-Whitney)の符号付き順位和検定(JMP13.0.0)を用いた。
A法,B法各脱脂処理後溶液をよく攪拌後,10 mLずつ採取。
免疫染色を実施する該当ブロックの検体の縦と横の大きさを測定し,脱脂処理前後の大きさの差(組織収縮の程度)を調べ,二変量の関係(JMP13.0.0)を用い検定した。
次に,用手法による面出し後,組織切片自動作製装置AS-400Mを用いて薄切を行い,未染色スライドにおける切片の薄切状態を比較した。また,ブロックの硬化状態の評価ならびに1年半後のブロック表面の凹凸や亀裂の有無を目視確認した。
6. 染色性の評価染色は,ヘマトキシリン・エオジン(Hematoxylin Eosin; HE)染色,免疫組織化学(immunohistochemistry; IHC)染色は,ER(SP1, Roche),PgR(1E2, Roche),HER2 IHC(4B5, Roche)を免疫組織化学染色機器ベンチマークXT(Roche)により染色を行った。蛍光in situハイブリダイゼーション(fluorescence in situ hybridization; FISH)染色は,HER2 FISH法をパスビジョン®HER-2 DNAプローブキット(Abott)により染色を行った3)。HE染色標本への影響は,病理医によって評価された。IHC染色評価は,自動画像解析装置および解析ソフトGenie(Leica)を用い陽性率を自動判定した4)。HER2 FISH法染色評価は,2名の臨床検査技師でHER-2/CEP比及びシグナルの鮮明さを観察した。また,標本作製後,冷蔵庫内の遮光環境下(暗所)で1年半保管し,シグナル観察が可能か目視確認した。検定法は,ER,PgR,HER2 FISH法に対し,A法とB法の比較検討をWilcoxon(Mann-Whitney)の符号付き順位和検定(JMP13.0.0)を用いた。HER2 IHCの比較検討はPearson(ピアソン)のカイ二乗検定(JMP13.0.0)を用いた。また,HER2 IHC法とHER2 FISH法の検査結果に対するA法とB法,それぞれの判定一致率を二変量の関係(JMP13.0.0)を用いた。
なお,倫理上の対応としては,摘出された材料の包括的研究利用同意を患者から文書で取得し,その包括的同意に基づいた研究利用については,当センター倫理審査委員会で認可されている[NHO-KureH141129]。
A法,B法ともに縦2.6 ± 0.1 cm(p = 0.4769),横2.0 ± 0.1 cm(p = 0.2544),厚さ0.5 cmであり,両者に有意差は認められないことを確認した。
2. TG値9症例のTG測定値をTable 3に示した。TG測定値は,測定可能であった7例全てでB法よりもA法の溶出量が多く,有意差(p = 0.0156)を認めた。
症例 | ER | PgR | HER2 IHC |
HER2 FISH | TG (mg/dL) | |||||
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HER2/CEP 17比 | HER2 | CEP17 | ||||||||
1 | A | 3+ | 70.89% | 3+ | 52.41% | 2+ | 1.02 | 1.97 | 1.93 | — |
B | 3+ | 73.25% | 3+ | 57.83% | 1+ | 1.05 | 1.93 | 1.83 | — | |
2 | A | 3+ | 83.94% | 3+ | 73.22% | 1+ | 1.04 | 2.22 | 2.13 | — |
B | 3+ | 88.32% | 3+ | 84.81% | 1+ | 1.03 | 2.30 | 2.23 | — | |
3 | A | 3+ | 56.38% | 3+ | 87.89% | 2+ | 1.02 | 1.83 | 1.85 | 3,689 |
B | 3+ | 86.37% | 3+ | 93.24% | 1+ | 1.03 | 1.93 | 1.88 | 2,808 | |
4 | A | 3+ | 92.20% | 3+ | 93.24% | 1+ | 1.04 | 2.00 | 1.92 | 2,088 |
B | 3+ | 90.53% | 3+ | 90.85% | 1+ | 1.03 | 2.00 | 1.93 | 413 | |
5 | A | 3+ | 72.42% | 0 | 0% | 1+ | 1.00 | 1.78 | 1.78 | 3,857 |
B | 3+ | 51.56% | 0 | 0% | 1+ | 1.00 | 1.77 | 1.77 | 2,886 | |
6 | A | 0 | 0.15% | 0 | 0% | 3+ | 2.83 | 15.1 | 5.33 | 2,888 |
B | 0 | 0% | 0 | 0% | 3+ | 2.89 | 15.2 | 5.26 | 671 | |
7 | A | 0 | 0.30% | 0 | 0.34% | 3+ | 2.93 | 5.85 | 2.00 | 2,057 |
B | 0 | 0% | 0 | 0% | 3+ | 2.85 | 5.70 | 2.00 | 1,545 | |
8 | A | 0 | 0.10% | 0 | 0.34% | 2+ | 1.27 | 2.78 | 2.18 | 1,018 |
B | 0 | 0% | 0 | 0% | 2+ | 1.47 | 3.20 | 2.25 | 902 | |
9 | A | 3+ | 90.10% | 1+ | 3.60% | 1+ | 1.03 | 1.98 | 1.93 | 1,018 |
B | 3+ | 89.84% | 1+ | 4.22% | 1+ | 1.02 | 1.98 | 1.95 | 552 |
脂肪組織部分は,切り出し後は黄色調が強かった。脱脂処理後,A法は全体的に白色となり,硬化部位を触れた。B法は脂肪の黄色調がやや残っていたが,硬化部位は触れず,乳腺の硬化が軽減された(Figure 4)。また,脱脂前後の標本の大きさの差(組織収縮の程度)の平均は,A法が縦34 mm,横29 mm,B法が縦10 mm,横10 mmであった。縦はp = 0.0313,横はp = 0.0386と有意差を認めた。
包埋時,A法,B法どちらもパラフィンと検体の馴染みは良く,パラフィンブロックへの亀裂等は認めなかった。なお,処理後,1年半経過したブロック表面に凸凹や亀裂は生じていない。
4. 面出し後のブロックの硬化評価A法は硬化部位の存在により,包埋ブロック面出し時に刃傷がつく程度の抵抗を感じた(Figure 4)。B法は抵抗を認めなかった。
5. 薄切および染色性の評価A法,B法どちらも9例全てにおいて組織切片自動作製装置による薄切はいずれも良好で,HE染色への影響はみられなかった(Figure 5)。免疫組織化学染色およびHER2 FISHの判定結果をTable 3に示した。A法,B法の結果が一致していた症例4のHE染色像,免疫組織化学染色結果と自動解析図およびHER2 FISH像をFigure 6に示した。ER/PgRのスコアは9/9例(100%, p = 1.000)で一致した。HER2 IHCとHER2 FISHの検査結果に対するA法とB法それぞれの判定一致率は,A法がκ = 0.449,B法がκ = 0.743とB法の方が高いという結果であった。また,本検討において,HER2 IHCはHER2 FISH判定との不一致が,A法において2/9例(22.2%)見られたが,B法において0/9例(0%)であった。その内訳は2例とも,A法2+,B法1+であった(Table 3)。免疫組織化学染色評価で不一致2症例のHER2/CEP17比は何れも増幅は認められなかった。なお,HER2 FISH法のシグナルの強度評価は両者とも良好であり,有意差(p = 0.664)は認められなかった。しかし,トリプルフィルターでの観察においては,B法の方がよりシグナルが鮮明な印象を受けた。
また,染色後標本を冷蔵庫内の遮光環境下(暗所)で保管した場合,1年半経過してもHER2 FISHシグナル観察が可能であり,クリアライトTM3/アルコール混合液の方が,シグナル観察がより明瞭な印象を受けた。
乳腺は脂肪を多く含む組織であるため,従来の方法では脱脂液を用いてもブロック数が多いとパラフィン包埋の過程で完全に脂肪を溶出することが困難である。脂肪が残存すると,組織内のパラフィンの融点が下がり,不良標本ができる恐れがあるとの報告がある2)。脱脂には極性有機溶剤より低極性有機溶剤の方が脂肪の溶解性は高く,強い脱脂効果が得られることが知られている2),5)。今回検討に用いたクリアライトTM3はイソパラフィン系脂肪族炭化水素が主成分の低極性有機溶剤であり,脱脂効果が高い。また,毒性の高いベンゼン環を含まず低臭であり,作業者が安全に使用し易い代替キシレンである。
本検討の結果,クリアライトTM3はアルコールと混合することで良好な脱脂効果を得られることが確認できた。また,アセトン脱脂処理後の乳腺組織はアセトンの強い組織収縮により白く硬化気味であったと考えられるが,クリアライトTM3/アルコール混合液は3時間浸漬した後でも,硬い標本になりにくい脱脂処理溶液であることが示唆された。
脱脂処理は高温であるほど促進するが,アルコールは40℃以上の温度をかけると組織の硬化が起こると考えられている6)。また,脱水は常温よりも40℃の方が2倍の脱水量が得られるという報告がある6)。これらを参考にエクセルシアAS内の脱脂処理プログラムを40℃に設定した。40℃の条件下で極性溶媒と低極性溶媒の混合液を用いて脱脂処理を行うことで,組織中の水とアルコールがともに拡散し易くなり,極性が中位のアルコールはリン脂質と,低極性のクリアライトTM3はTGとの親和性が向上したと推察される。重ねて,アルコールによる組織深部への希釈脱水が進み,より均一な組織浸透性が得られ,脱脂も促進されたのではないかと考える。
染色性の評価では,HE染色,免疫組織化学染色(ER, PgR),HER2 FISHにおける染色性は従来のアセトン脱脂処理検体と同等であり,日常病理診断に用いることが可能である。しかし,HER2 IHCでは,HER2 IHCの染色結果とHER2 FISH判定の一致率を調べたところ,A法において2例不一致が生じ,B法のクリアライトTM3/アルコール混合液を使用した方が,判定一致率が高かった。固定液と組織収縮の関係は,脱水性凝固剤であるアルコールやアセトンは高分子蛋白質の抗原性保持は良いとされているが組織収縮が強く,HER2 IHC染色においては推奨されていない7),8)。本検討でも,脱脂処理後のブロックの組織収縮の程度は,有意差があり,クリアライトTM3/アルコールに比し,アセトン脱脂による処理は,組織収縮率が優位に高いことが分かった。細胞質,核内の可溶性蛋白は,有機溶剤による脱水・脱脂固定の過程で溶出し偽陰性化することが報告されており,膜蛋白においては膜溶解により局在が変化することが知られている9)。しかし,本検討では,不一致であった2例のHER2 FISH法は増幅が見られなかったことから,アセトン処理に伴いHER2蛋白の発現が強まったと考える。また,組織収縮に伴い単位面積当たりの抗原決定基の数がより多くなりA法の方が強い染色結果が得られたのではないかとも推察されるが,検討数が少なく,脱水性凝固剤を用いた脱脂処理に伴う組織収縮とHER2 IHCの結果を比較した文献は見当たらず断定はできない。今後,十分な検証が必要である。
運用面では,従来のアセトン脱脂処理方法では,切り出し処理後,自動包埋装置でのパラフィン浸透工程までに複数人の病理検査技師が携わっており,煩雑な処理になっていた。脱脂効果が不均一であり,脱脂不良検体は,包埋時にキムタオルで乳腺組織片を挟み余分な脂肪を押し出す「絞り出し法」を用いていた10)。今回,自動包埋装置内に脱脂処理工程を組み込むことで,切り出し後のブロックをそのままエクセルシアAS内にセットすることができ,工程が簡略化され,ブロックの紛失の恐れも無く,ブロック管理が容易になった。エクセルシアASは15分毎の真空と大気圧との圧力増減機能と温度,攪拌機能があるため,従来よりも短い時間で均一な脱脂が可能となり,有機溶剤への長時間の浸漬や絞り出し法を行う手間が省かれた。しかし,代替キシレンはキシレンに比べて高価であるため,現在は,脱脂処理工程のみに代替キシレンを使用している。キシレンとの併用においても問題は生じていない。
本検討では,従来同様の脱脂処理をエクセルシアAS内で行うことを目的としていたため,アルコール工程の前に脱脂処理設定を組み込んだ。そのため,脱脂処理溶液中に検体内の水分と溶け出た脂肪分とが混在し,脱脂処理後溶液が分離することが分かった。ゆえに,脱脂液の交換のタイミングは,使用回数ではなく,液に溶出したTG量と組織中に含まれていた水分量が関係してくると考えられる。脱脂処理を開始する前に脱脂処理溶液の性状を確認し,脱脂処理後溶液が黒みを帯びた濁り液となり下層が分離してきた場合や包埋時に脱脂処理後検体の透明感に濁りが見られた場合に脱脂液を新調する必要がある。また,本検討の様に自動包埋器内で脱脂処理を実施するとレトルト槽や反応チャンバー内,次槽アルコールの汚れが発生する。対策として,使用後の反応チャンバー内をキムタオル等の吸水紙を用いてきれいに清掃することを徹底し,クリーニングキシレンの時間を通常よりも少し長めに設定している。また,エクセルシアASは配管が表から見えない構造になっているため,業者による定期メンテナンスの際にチューブの清掃を実施することが重要である。現在,安定して使用できているが,機器トラブルを防ぐためのメンテナンス方法についても,今後検討が必要である。
本検討では組織片の厚み5 mmで検討実施したが,検討後に病理医と当院のスタッフ間で話し合い,①切り出し組織片の厚み4 mm以下を遵守,②液通りが良くなるようエクセルシアAS内でのブロック配置間隔を空ける(1ブロック飛ばしで配置する),③処理槽全てに脱脂処理溶液が満たされるよう3段設定で使用する,という3点を脱脂効果向上の重要な工夫点として周知徹底した。
クリアライトTM3はアルコールとの混合液で良好な脱脂効果が得られ,染色等への影響もみられていない。自動包埋器の1槽目に本液を組み込むことで業務の簡素化や作業時間の短縮に加え,作業者の有機溶剤曝露を低減することにも繋がると考えられる。
本研究は,サーモフッシャーサイエンティフィック株式会社から試薬と資金提供を受け,共同研究として実施された。
本研究に協力いただいた,坂田輝子技師,当院病理診断科の斎藤彰久先生,山本英喜先生,在津潤一先生,谷山大樹先生,坂本真一先生,戸田環技師,児玉陽子技師,当院臨床検査科の香川昭博技師,勝部瑤子技師,当院臨床研究部の下畦幹枝技師,下久保佳美事務員,木村淑子事務員に感謝申し上げます。