Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
Sequelae of pulmonary chromoblastomycosis caused by the viscous species Exophiala dermatitidis in a patient with nontuberculous mycobacterial disease
Yuichi GOTONatsue MURAKAMIYuka YAMASAKI
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2020 Volume 69 Issue 3 Pages 451-456

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Abstract

非結核性抗酸菌(non-tuberculous mycobacteria; NTM)症患者に続発したExophiala dermatitidis粘稠性株の肺黒色真菌症を経験したので報告する。NTM症治療終了の2年後,膿性痰や胸部痛を自覚し,来院した。持参痰をグラム(Gram)染色すると糸状菌を認めた。カラーCandida寒天培地で72時間培養後,コロニーを釣菌した際,粘稠性が確認された。粘稠性を保持した状態で無染色鏡検すると酵母様真菌が確認され,二形性真菌のExophiala属が疑われた。MALDIバイオタイパー及びITS領域塩基配列解析を実施した結果,E. dermatitidisと同定された。喀痰から同菌のみが繰り返し検出され,自覚症状の悪化と一致し右肺中葉浸潤影の増悪が認められ,肺黒色真菌症の診断に至った。カラーCandida寒天培地,サブロー寒天培地,CP加ポテトデキストロース寒天培地で粘稠性を比較するとCP加ポテトデキストロース寒天培地のみ48時間培養の時点で粘稠性が出現し,その他は72時間培養後に確認された。E. dermatitidisを疑いコロニーを観察すると黒色に変化するまで時間を要す。CP加ポテトデキストロース寒天培地を追加して粘稠性株であれば,他の真菌培地より一日早くE. dermatitidisを疑うことが可能であり,コロニー釣菌時の感触を確認する習慣が重要となる。

Translated Abstract

We report a case of pulmonary chromoblastomycosis caused by the viscous species Exophiala dermatitidis in a patient with nontuberculous mycobacterial (NTM) disease. Two years after the end of treatment for NTM disease, the patient coughed purulent sputum and developed chest pain. A sputum Gram staining test showed the patient to be positive for filamentous fungi. Colonies were isolated after culturing in a chromogenic Candida medium for 72 h and unstained viscous colonies were detected. Microscopic examination of these viscous colonies revealed a yeast-like fungus that was speculated to be a dimorphic fungal species of the Exophiala genus. It was identified to be Exophiala dermatitidis after analysis using a MALDI Biotyper and ITS region sequencing analysis. Because the same fungus was repeatedly detected in the sputum and exacerbation of the right middle lobe infiltration shadow was consistent with the deterioration of subjective symptoms, the patient was diagnosed as having pulmonary chromoblastomycosis. When colony viscosity was compared after culturing in chromogenic Candida agar, Sabouraud agar and CP-added potato dextrose agar, viscosity was first detected in the CP-added potato dextrose agar after 48 h of culture and after 72 h in the other two media. Because it takes time for the colonies of E. dermatitidis to turn black in color, early detection of the viscous colonies of E. dermatitidis becomes possible by using CP-added potato dextrose agar. Furthermore, it is important to test for colony viscosity during colony isolation.

I  はじめに

Exophiala dermatitidisは黒色真菌症の原因菌の一種であり,自然界に広く分布している腐生菌である。生活環境に関わりが深く,食器洗浄機に多く生息しているため,最近の研究では食器を介した人体への曝露が懸念されている1)。近年,抵抗の弱い患者の皮膚,肝,脳などの膿瘍或いは肉芽腫病変,感染性肺嚢胞症,菌血症などからの検出が報告されており,日和見真菌として重要性が増している。また,嚢胞性線維症(cystic fibrosis; CF)と関連があり,CFの患者では気道に定着している割合が健常人と比較すると高い2)。今回我々は基礎疾患にCFがない経過観察中の結節性気管支拡張型非結核性抗酸菌(non-tuberculous mycobacteria; NTM)症患者に続発したE. dermatitidis粘稠性株による肺黒色真菌症を経験したので報告する。

II  症例

患者:70歳代,女性。

主訴:膿性痰,右胸部痛。

既往歴:Mycobacterium aviumによる結節性気管支拡張型NTM症。

現病歴:rifampicin,ethambutol,clarithromycinによるNTM症の治療を18ヶ月行い,患者状態は良好なまま2年経過していた。やがて膿性痰を自覚するようになり,咳やくしゃみの際に右胸部痛を伴うようになったため,定期受診日を早めて来院し,喀痰の一般細菌検査,抗酸菌検査が提出された。E. dermatitidisが起炎菌と判断された後,voriconazole(VRCZ)300 mg/day経口投与が開始され,喀痰性状に変化がみられるとともにE. dermatitidisの菌量が減少,6ヶ月で消失し投与終了となった。

III  血液学的検査

E. dermatitidisの初回検出時(0日),白血球数,好中球,CRPは基準範囲内であった。初回検出44日後の検査でも好中球76.8%に軽度上昇した程度であり,その他有意な異常所見は認められなかった。白血球数に着目するとNTM症の治療を終えた時期にあたる2年前は白血球数32 × 102/μLであったのが,その後60~70 × 102/μL台で推移していた。治療開始後となる初回検出82日後では45 × 102/μLと低下し,VRCZの効果がみられたことから,初回検出の1年前程度より本菌に感染していた可能性が考えられた。E. dermatitidis検出44日後,深在性真菌症の診断指標であるβ–Dグルカンを検査したが結果は0.5 pg/mLと基準範囲であった(Figure 1)。

Figure 1 血液検査データ推移

IV  画像所見

E. dermatitidis検出前後でのCT画像の比較をした際,検出後の画像では右肺中葉に浸潤影増悪がみられた(Figure 2)。右肺中葉浸潤影は前回のNTM症と同部位にあたることから,起炎菌判明前はNTM症の軽度進行と考えられていた。しかしながら,抗酸菌の塗抹および培養検査は陰性のままであったのに対し,E. dermatitidisが繰り返し検出されたことから,同菌が浸潤影増悪の原因と考えられた。

Figure 2 E. dermatitidis検出前後のCT画像比較

(左)2年前,(右)初回検出時(0日)

矢印:浸潤影増悪部位

V  微生物学的検査

1. 塗抹,鏡検

一般細菌検査,抗酸菌検査が依頼され,Gram染色を施行した。×100で糸状菌を疑われる菌体を多数認め,×1,000で糸状菌であることが確認された(Figure 3)。

Figure 3 フェイバー法によるGram染色像

(A)喀痰 ×100,矢印:糸状菌が疑われた菌体

(B)喀痰 ×1,000

2. 培養検査

喀痰検査のルーチンで使用している羊血液寒天培地(日水製薬),チョコレート寒天培地EX II(日水製薬),DHL寒天培地(栄研化学),食塩卵寒天基礎培地(日水製薬)の他にカラーCandida寒天培地(極東製薬)を追加して培養を行った。37℃,24時間培養後,カラーCandida寒天培地を拡大率3倍のルーペで確認すると極小コロニーの発育が確認できた。顕微鏡下で培地裏面から鏡検,糸状菌であることを確認し,形態やコロニーの発育過程によりアスペルギルスの可能性は否定された(Figure 4)。37℃,72時間培養後コロニーの発育が確認され,コロニーの色調はオリーブ色となり,次第に黒色へ変化したことからメラニン色素産生が示唆され,黒色真菌の可能性が高いと考えられた3)。最終報告後,血液寒天培地,チョコレート寒天培地にも黒色小コロニーを確認することができたが,カラーCandida寒天培地と比較すると,発育速度が遅く違いがみられた。

Figure 4 カラーCandida寒天培地

37℃,24時間

培養後培地裏側よりコロニーを×10鏡検

糸状菌を疑う形態

3. 同定検査

E. dermatitidis属の同定可能な市販キットはなく,院内で同定手段がないことから同定検査の外注を検討し,純培養のためコロニーを釣菌した際,強い粘稠性が確認された。無染色で粘稠性を保持したまま×400鏡検すると酵母様真菌の形態であり,二形性真菌であることが判明した(Figure 5)。外注でのMALDIバイオタイパーによる同定の結果,E. dermatitidis(score 1.996)と同定された。E. dermatitidisは黒色真菌のうち41–42℃環境下でも発育可能という性質を有するため4),自施設で41℃ 24時間培養を行い,発育を確認後,最終報告を行った。その後,ITS領域の塩基配列による同定を行い5)E. dermatitidisと相同性100%であることを確認した。

Figure 5 粘稠性を保持した状態での無染色鏡検(×400)

酵母様形態を確認

4. 薬剤感受性検査

外注依頼により酵母様真菌薬剤感受性検査用キット「酵母様真菌DP‘栄研’」(栄研化学)を用いて抗真菌薬に対する最小発育阻止濃度(MIC)測定‍を‍行った。amphotericin B,5-fluorocytosine,fluconazole,itraconazole,miconazole,micafungin,VRCZ,caspofunginをClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)M27-A3の実施基準に従い,参考値として判定した結果,VRCZのMIC値が最も低かった(Table 1)。

Table 1  抗真菌剤薬剤感受性検査結果
抗真菌剤 MIC(μg/mL)
amphotericin B 0.25
flucytosine ≥ 128
fluconazole 8
itraconazole 0.12
miconazole 0.5
micafungin ≥ 32
voriconazole 0.06
caspofungin 8

5. 真菌培地の粘稠性比較

真菌培地であるカラーCandida寒天培地,サブロー寒天培地(栄研化学),CP加ポテトデキストロース寒天培地(アズワン)を使用し,37℃,室温の両条件下における粘稠性の違いをTable 2に示す。カラーCandida寒天培地では72時間培養で37℃,室温のいずれにおいても粘稠性を示したが,サブロー寒天培地では72時間培養後の室温条件下のみ粘稠性を示した。CP加ポテトデキストロース寒天培地では粘稠性の出現が早く,37℃,室温の両条件下で48時間後に強い粘稠性がみられた(Figure 6)。暫くの間,強い粘稠性は維持されていたが,コロニーの乾燥が進むにつれ消失した。

Table 2  真菌培地における粘稠性比較
培地 培養温度 培養時間
48時間 72時間
カラーCandida寒天培地 37℃ +
室温 +
サブロー寒天培地 37℃
室温 +
CP加ポテトデキストロース
寒天培地
37℃ ++ ++
室温 ++ ++

−:粘稠性なし,+:粘稠性あり,++:強い粘稠性あり

Figure 6 CP加ポテトデキストロース寒天培地で強い粘稠性を示すE. dermatitidis

VI  考察

E. dermatitidisは我々の身近に存在している真菌の一種であり,国内における肺黒色真菌症の報告は少ないが気管支拡張症に続発していることや膿性痰,胸部痛など症状に似た傾向があり,また女性患者に多い特徴がある6)。今回経験した症例も女性であり,NTM症治療後経過観察中に患者自身が喀痰色調の変化に気付き膿性痰や胸部痛がみられるようになったため,受診日を予定より早めた経緯があった。また,喀痰のGram染色鏡検時,糸状菌を確認したため真菌培地を追加していた事例である。本症例では,糸状菌形態を認めたためE. dermatitidisを検出できたが,酵母様真菌の形態を示す場合6)には,検出が困難,若しくは報告に遅れが生じていた可能性がある。本菌は,血液寒天培地,チョコレート寒天培地でも発育はみられるが常在菌の存在により埋もれてしまい検出困難となる。そのため,発育速度が遅いことからもまずGram染色で推定し,真菌培地の追加が望ましい。

初回検出後も喀痰の一般細菌検査の依頼があり,起炎菌と考えられたE. dermatitidisが繰り返し検出されている経緯から,気管支洗浄検査による精査は不要と判断された。非結核性抗酸菌を含め他に起炎菌となるものは検出されず,自覚症状や,CT画像の右肺中葉浸潤影増悪もみられたことなどを総合的に判断し,本症例は肺黒色真菌症と診断した。肺黒色真菌症の治療方針は定められていないため,本症例に遭遇した場合にはMIC値等を参考にし,治療を行うべきと思われた。本症例では治療開始10日後には膿性痰の消失を患者が自覚し,投薬を6ヶ月間継続し一般細菌検査でコロニー消失が確認された。

今回検出されたE. dermatitidisは純培養を目的にコロニーを釣菌した際,粘稠性の強さから日常的に検出される真菌ではないことを疑う契機となった。E. dermatitidisの中に粘稠性株が存在し,酵母様形態時に強い粘稠性がみられることから真菌培地毎の比較を行いCP加ポテトデキストロース寒天培地であれば他の真菌培地に比べ一日早く粘稠性の確認が可能である。通常,コロニーの黒色変化を待つ場合,時間を要すことからE. dermatitidis粘稠性株の可能性を探り,コロニー釣菌時の感覚を確かめる習慣が重要となる。

VII  結語

肺黒色真菌症は稀な症例であり,情報が少ない。今回,膿性痰や胸部痛の他,血液検査データに異常がみられず医師が治療をすべきか判断に悩む症例であった。細菌検査室が起炎菌に気付き,稀な症例であれば知り得た情報を医師と共有し,治療に貢献していくことの重要さを学んだ症例であった。

 

本論文の要旨は第68回日本医学検査学会(下関)において報告した。

尚,本症例報告は西福岡病院倫理委員会の承認(承認日:2019年12月19日),インフォームドコンセントを得ている。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

菌株を同定精査いただきました佐賀大学医学部附属病院検査部 草場耕二先生に深謝致します。

文献
  • 1)   浜田  信夫:「食器洗い乾燥機のカビ汚染に影響する要因」,日防菌防黴会誌,2013; 11: 585–593.
  • 2)   新谷  亮多,他:「Exophiala dermatitidisによる肺黒色真菌症の1例」,感染症誌,2017; 91: 785–789.
  • 3)  山口 英世:「黒色真菌感染症」,病原真菌と真菌症,251–255,南山堂,東京,2007.
  • 4)   西村  和子:「ヒト病原真菌2」,日本微生物資源学会誌,2009; 25: 63–65.
  • 5)   鈴木  貴大,他:「Exophiala dermatitidisによるカテーテル関連血流感染症の2歳女児例」,小児感染免疫,2018; 30: 33–37.
  • 6)   棚町  千代子,他:「気管支拡張症患者に発症したExophiala dermatitidisによる難治性の肺黒色真菌症の1例」,日臨微生物誌,2008; 18: 25–30.
 
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