Japanese Journal of Medical Technology
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Current and future perspectives on external quality assessment by Aichi Association of Medical Technologists: Focusing on immunoserological examinations
Akihiro OKAMOTORyosuke KIKUCHIAtsuo SUZUKIMidori SAITOShunichi SANOGen OKADAIkuya NAKANE
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2020 Volume 69 Issue 3 Pages 381-388

Details
Abstract

愛知県臨床検査技師会(愛臨技)では,県下施設の臨床検査の品質調査と施設間差の是正を主な目的として愛知県臨床検査精度管理調査(愛臨技サーベイ)を実施してきた。この度,医療法の一部改正に伴い外部精度管理調査(external quality assessment; EQA)の重要性がより一層高まったことを受け,免疫血清検査部門では2016–2018年度の活動についてレビューし,今後の展望について分析を行った。愛臨技サーベイにおける免疫血清検査部門の特色として,ヒトプール血清を試料として配布している点と,独自にprotein induced by vitamin K absence or antagonist II(PIVKA-II)を調査項目としている点がある。しかし今後の課題として,ヒトプール血清の使用については,倫理上の制約や予期せぬ問題も生じることがあり再考が必要となる可能性がある。PIVKA-IIの調査結果から他の項目と同様,試薬間差が大きな障壁となっていることが明らかとなった。また,試薬ごとの評価を行う際,少数のグループは適正な評価が困難であることも大きな問題であり,参加施設を平等に評価する手法の構築が必要である。愛臨技サーベイでは,結果の思わしくなかった施設に対する二次サーベイや,結果検討会と呼ばれるサポート事業を展開しているが,その成果については施設ごとに大きく異なる。今後,精度管理調査に参加する施設は増加する可能性があり,地域サーベイの存在意義を再考しながら,参加施設にとって有益となる調査や情報を確実に提供し,愛知県内の施設間差の是正ならびに臨床検査レベルの向上に貢献できるよう取り組んでいく。

Translated Abstract

The Aichi Association of Medical Technologists (AAMT) conducts the Aichi Clinical Laboratory Quality Control Survey (AAMT EQA) to investigate the quality of clinical tests in each laboratory and to correct the differences among laboratories located in Aichi prefecture. Recently, the importance of external quality assessment (EQA) has been increasing with the partial revision of the medical law. Therefore, we reviewed the activities of the immunoserological section from 2016 to 2018, and considered future prospects. The features of the immunoserological section in the AAMT survey are as follows: (1) human pooled sera are used as EQA samples and (2) PIVKA-II is the special target for EQA. However, the use of human pooled sera is restricted owing to ethical issues, which actually causes unexpected reactions in the measurement, and thus may need to be reconsidered. The results of the PIVKA-II survey revealed that differences in the reagents used among participating laboratories was a major problem, as well as other target items. In addition, when evaluating respective reagents, it is also a big problem that a proper judgement is difficult for a small number of groups; thus, it is necessary to develop an optimal method to identically assess every participating laboratory. AAMT also conducts secondary surveys for the participants whose results did not seem to be satisfactory. Furthermore, AAMT provides an opportunity to discuss the results of the survey to improve the quality of laboratory tests for each participant. Indeed, the outcome differs considerably from lab to lab. In the future, the number of participating laboratories in the AAMT survey will be increased. Thus, we need to reconsider the significance of the AAMT regional surveys. Moreover, we would like to work hard to contribute to the improvement of the quality of clinical testing in Aichi.

I  緒言

一般社団法人日本臨床衛生検査技師会(日臨技)では,「臨床検査データ標準化ガイドライン」を提示し,全国的な臨床検査データ標準化事業を展開している。公益社団法人愛知県臨床検査技師会(愛臨技)においても,県内の施設間差の是正と臨床検査の標準化を目的に,愛知県臨床検査精度管理調査(愛臨技サーベイ)を実施している。

愛臨技サーベイは,愛臨技精度管理事業部により運営されており,精度管理事業部は愛臨技精度管理事務局員と,各分野の研究班から選出された精度管理担当委員から構成されている。愛臨技の研究班は2019年8月現在,11の部門が活動を行っているが,その内9部門が精度管理事業部に参画し,愛臨技サーベイ活動に寄与している。愛臨技サーベイの活動は平成10年度から行われており,それから現在まで20年余にわたり活動を継続している。免疫血清検査部門は初回サーベイから参画しており,初回サーベイでは梅毒検査を対象として,用手法と自動分析装置の比較分析を行ったことが報告されている1)

2018年12月に施行された医療法の一部改正により,病院等において検体検査を行う場合,内部精度管理の実施と,外部精度管理調査(external quality assessment; EQA)の受験および適切な研修の実施が努力義務となり,EQAはより一層その重要性を増している。愛臨技では,地域サーベイとしての特色を活かしつつ,県下の対象施設をサポートすることを重要視しており,今回の法改正に合わせてこれまでの精度管理調査を見直し,今後の活動について再考すべき時期にあると考える。

今回我々は,愛臨技サーベイの中でも特に免疫血清検査部門の活動について,2016年度から2018年度までの活動2)~4)をレビューし,傾向と推移を分析した。また,愛臨技精度管理事業部では,結果の思わしくなかった施設を対象に二次サーベイを実施した上で,評価の解説や,その後の是正対応について互いに話し合いを行う「結果検討会」を開催してきた。これらの活動も踏まえてその成果と今後の展望について報告する。

II  愛臨技サーベイ免疫血清検査部門の概要

1. 対象項目および測定試料

1) 感染症項目

2016年度から2018年度の対象はhepatitis B surface(HBs)抗原,hepatitis C Virus(HCV)抗体,human immunodeficiency virus(HIV)及び梅毒Treponema Pallidum(TP)抗体の4項目とした。

試料のうち,陰性試料は健常人ヒト血清を原材料としたプール血清を作製し使用した。プール血清の作製は,該当項目が陰性である健常人血清のうち清澄なものを収集し,セルロースフィルター(φ = 0.45–3.0 μm)にて吸引濾過後分注を行った。陽性試料には精度管理用試料であるヴィラトロール(シスメックス株式会社,神戸)を用いた。ヴィラトロールは低濃度と高濃度により構成されており,2016年度および2017年度は高濃度試料,2018年度は低濃度試料を配布した。

2) 腫瘍マーカーおよびホルモン

腫瘍マーカーとして前立腺特異抗原(prostate specific antigen; PSA),癌胎児性抗原(carcinoembryonic antigen; CEA),α-フェトプロテイン(alpha-fetoprotein; AFP),carbohydrate antigen 19-9(CA19-9),carbohydrate antigen 125(CA125),フェリチンを調査対象とし,2017年度からこれらに加えてprotein induced by vitamin K absence or antagonist II(PIVKA-II)を対象項目とした。ホルモンとしては甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone; TSH)および遊離T4(free T4; FT4)の9項目を対象とした。

測定試料はヒトプール血清とし,連結不可能匿名化した検査後残血清を用いた。具体的には,検査後残血清のうち,溶血や乳びのない清澄なものを選別し,これらを測定値により低値(あるいは検出感度未満)群と高値群に分け,それぞれをプールしたのち,高値プール血清を低値プール血清に一定量添加し,目標濃度に調整した(Table 1)。目標濃度は2016年度から2018年度にかけて同一とした。各試料はセルロースフィルター(φ = 0.45–3.0 μm)にて吸引濾過後,分注を行った。

Table 1  腫瘍マーカー測定試料の目標設定濃度
項目(単位) 低濃度 高濃度
PSA(ng/mL) 4.0 10.0
CEA(ng/mL) 5.0 10.0
AFP(ng/mL) 10.0 30.0
CA19-9(U/mL) 40.0 80.0
CA125(U/mL) 30.0 60.0
フェリチン(ng/mL) 50.0 100.0
PIVKA-II(mAU/mL) 40.0 100.0

腫瘍マーカーの濃度は,低値をカットオフ値,高値はカットオフ値の2–5倍の濃度を目安とした。一方,ホルモンの測定試料はTSHを基準に濃度調整を行い,目標濃度は低濃度,高濃度それぞれ2.0 μIU/mL,10.0 μIU/mLとした。

なお,本精度管理調査における試料作製では,名古屋掖済会病院倫理委員会の承認(承認番号:2014-005)のもと行った。

2. 対象施設および集計方法

愛臨技サーベイの免疫血清部門への参加施設数は,2016年度が87施設,2017年度で82施設,2018年度は85施設であった。各年度の項目別参加施設数をTable 2に示す。愛臨技サーベイは,2013年度より日臨技精度管理事業・データ標準化システム(JAMTQC)を使用しており,2016年度から2018年度までのデータはJAMTQCを用いて集計を行った。

Table 2  項目別参加施設数とその推移
年度 2016 2017 2018
感染症 HBs抗原 87 82 85
HCV抗体 87 82 85
HIV 67 65 70
梅毒TP抗体 82 79 81
腫瘍マーカー PSA 60 61 62
CEA 69 68 69
AFP 62 62 62
CA19-9 67 66 68
CA125 35 35 37
フェリチン 52 53 58
PIVKA-II 27* 27
ホルモン TSH 69 68 71
FT4 69 68 71

*2017年度のPIVKA-IIは参考調査のため評価対象外

3. 評価方法および評価基準

1) 感染症項目

絶対評価であるA,B,C,D評価に準じ,定性判定のみを評価対象として正解をA評価,不正解をD評価とするのみとした。

2) 腫瘍マーカーおよびホルモン

絶対評価であるA,B,C,D評価に加え,相対評価である標準偏差指数(standard deviation index; SDI)評価を行った。絶対評価の許容幅は5施設以上の集団を対象とし,日臨技サーベイに準じて次のように設定した。

A評価:評価グループの平均値 ± 10%以内

B評価:設定なし

C評価:評価グループの平均値 ± 15%以内

D評価:評価グループの平均値 ± 15%超過

SDI評価については,参加施設数が限られていることを鑑み,反応性に違いが認められなかった項目については同一試薬メーカーを1つのグループとして集計し評価を行うこととした。SDI評価の対象は20施設以上の集団とした。

4. 二次サーベイ

愛臨技精度管理事業部では,愛臨技サーベイ(本サーベイ)の結果が思わしくない施設を対象に二次サーベイを実施している。二次サーベイは,対象となる施設に再度同一の検体を送付し,再測定を依頼することでデータ改善の有無を検証するための検証事業である。

2016年度から2018年度は,D評価項目および極端値として統計学的に除外された項目があった施設を対象とした。

III  調査結果

1. 感染症項目

陰性試料については,2016年度から2018年度は全施設がA評価であったが,2016年度は試薬反応性の違いにより4施設を評価対象外とした。具体的には,エクルーシスHCV試薬(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を採用した4施設において,陰性試料が陽性と誤判定され,この原因についてメーカー協力のもと解析を行ったところ,当該メーカーの別ロット試薬を含め同様の結果が認められた。さらに,ラインイムノアッセイ試験を実施し検証したところ,C1/C2/E2/NS3/NS4/NS5すべての抗原に対しごく弱い反応を認めた。この反応は陽性試料を対象とした場合極めて弱い反応であり,ラインイムノアッセイの判定としては陰性となる程度のものであった。しかしながら,これらの反応性をもって誤判定が生じたと推察した。陽性試料では,高濃度試料を配布した2016年度および2017年度は全施設がA評価であったが,低濃度試料を配布した2018年度は85施設中1施設でD判定となった。

2016年度から2018年度で,感染症項目でD評価となった施設は全てイムノクロマト法が採用されており,そのほとんどは300床未満の中規模から小規模病院であった。イムノクロマト法を採用している参加施設数は,2016年度が13施設であったが,2017年度は11施設,2018年度には10施設と年々減少傾向にあった。過去には施設独自の基準を用いて判定を行い,誤判定(D評価)となった施設があり,特に低濃度試料を配布した調査で散見されていたが,同様な誤判定は本調査期間中には認めなかった。

2. 腫瘍マーカー

PIVKA-IIを除く各項目において,2016年度から2018年度はほとんどの施設が評価グループの平均値 ± 10%以内でありA評価であった。また,同一試薬メーカー内では測定値は収束傾向にあった。2016年度は低濃度試料のCA19-9およびフェリチンで1施設,2017年度は低濃度試料のCA19-9および高濃度試料のCEAで1施設,2018年度は低濃度試料のCEAで1施設がA評価から外れた。これらの施設については,全てグループ平均値 ± 15%以内となり,C評価であった。

PIVKA-IIについては,2017年度から調査を開始し,導入初年度の2017年度は評価対象外とした。2018年度から評価対象項目としたところ,試薬間差が認められるもののすべての施設がA評価であった。2017年度はルミパルスシリーズ(富士レビオ株式会社)が改良試薬への移行期間であったことから,改良前試薬と改良後試薬の2種類が混在していた。2018年度には当該試薬はすべて改良後試薬へと切り替えが完了していた一方で,新たにAIA CLシリーズ(東ソー株式会社)を導入した施設が認められた(Figure 1)。実際の測定値は,同一試薬では値の収束が見られたが,試薬間の差は依然として存在しており,特に2018年度の結果については高濃度の測定値が大きく変動する傾向にあった。なお,少数の採用試薬については評価が困難であり,評価対象外であった(Figure 2)。

Figure 1 PIVKA-II測定における採用試薬の推移

2017年度から2018年度におけるPIVKA-II測定試薬の変遷を示す。

Figure 2 試薬別PIVKA-II測定値の比較

PIVKA-II測定試薬ごとの測定値を示す。◯:低濃度試料,●:高濃度試料

3. ホルモン

ホルモン(TSH, FT4)の調査試料は,FT4の試薬測定幅がTSHに比して狭いことからTSHを基準に濃度勾配をつけたものを配布した。2016年度はすべての参加施設でTSH,FT4ともにすべてA評価であった。2017年度は低濃度試料でTSH,FT4それぞれ3施設,4施設が,高濃度試料でそれぞれ4施設,3施設がD評価であった。この原因は,TSHとFT4の誤入力であった。2018年度は,TSH測定において低濃度試料でC評価が1施設,D評価が1施設,高濃度試料でC評価が2施設,D評価が1施設認められた。

IV  二次サーベイと結果検討会

二次サーベイでは,ほとんどの施設においてデータの改善がみられたが,特に何の対策も取らず同様にデータの乖離がみられた施設も認められた。

さらに,本サーベイにおいてC評価を2項目以上,あるいはD評価を1項目以上認めた施設については結果検討会に招聘し,精度管理調査結果の検討に加えて日常業務における疑問等も含めサポートを行った。各年度の対象施設数および参加施設数をTable 3に示した。

Table 3  二次サーベイおよび結果検討会招聘施設数の推移
年度 2016 2017 2018
二次サーベイ 3 4 2
結果検討会 1(0) 6(4) 3(1)

注:括弧内は実際の参加施設数を示す。

結果検討会では,結果の思わしくなかった施設の原因の把握と改善を行うべく,精度管理事業部と学術部研究班員が連携し,参加施設の担当者へのヒアリングと応対を行った。以下にその具体例を提示する。

1. 入力間違いによる誤回答事例

単純な入力間違いであった事例と,測定結果をメモ書きした際に間違いが生じた事例があった。両者の対応策として,2名以上のスタッフによる確認を依頼した。また,メモ書きは記載ミスの原因となるため,機器からの打ち出し(プリントアウト)にて確認することを推奨した。

2. FT4低値となった事例

当該の施設は,試薬ロット切り替え時のみキャリブレーションを実施しており日常的な精度管理試料の測定を実施していないことが判明した。二次サーベイでは再キャリブレーションを実施し,改善されたことを確認した。結果検討会では日常的な内部精度管理を依頼し,以後の精度管理調査では良好な結果となっていることを確認できている。

3. 結果が集計値から著しく逸脱した事例

当該の施設は,内部精度管理を実施していたものの,精度管理幅として中央値 ± 20%を使用しており,結果的に平均値 ± 15%を逸脱し,D評価となったことが判明した。愛臨技サーベイの項目別CVは多くの項目で5%程度であり,20%は4SDに当たるため,内部精度管理として適切な範囲ではないことから,普段の管理幅を狭めるなどの検討を依頼した。

V  考察

医療法の一部改正に伴い,施設規模に関わらずEQAに参加することが努力義務として定められた。また,EQAは各施設における臨床検査の精度保証とその品質改善活動に必須であり,特にISO15189に代表される品質マネジメントシステムの認証取得や維持管理においては必要不可欠な位置付けとなっている。さらに,EQAは,日臨技主催の臨床検査精度管理調査や,米国病理医協会(College of American Pathologists; CAP)主催の国際臨床検査成績評価プログラム(CAPサーベイ)など大規模な調査から,愛臨技サーベイのような地域主催のサーベイやメーカー主催のサーベイまで多岐にわたっており,現在我々は様々なEQAに参加することが可能になっている。

一方で,愛臨技サーベイのような限られた参加施設数で実施するEQAは,主催する側の問題として,その評価をどう設定するかが重要となる。免疫血清学的検査では,臨床的に混乱を生じない測定値を提供することを目的とし,ハーモナイゼーションへの取り組み5),6)が行われているが,依然として試薬間差やロット間差の問題は解消されていない。この3年間においてもその傾向は変わらず,試薬メーカーごとに評価を行わざるを得ない状況であった。また,本来は参加施設すべてを評価すべきであるが,5施設未満のグループに関してはグループ内のサンプル数が少ないことにより極端値を除外することができない。したがって適切な評価ができない可能性があり,サンプル数が1のグループとともに評価対象外としているのが現状である。2018年度の愛臨技サーベイでは,PSAで評価対象外施設が62施設中9施設と最多であった。このとき,評価対象外としたグループに対し,他のグループ同等の基準で評価を行ったところ,すべての施設がA評価となった。しかし,サンプル数が1のグループも存在することから,今後,参加施設を平等に評価するために,メーカー測定値を目標値とすることなども含め検討が必要であると考える。

愛臨技サーベイ免疫血清検査部門の特色の一つに,ヒト由来のプール血清を試料として用いている点がある。これはマトリクス効果の除外を目的とすることで,実臨床に準じた調査を行うことができるという利点があると考えている。しかし,昨今の医学的研究倫理の制約上,実際にヒト由来の試料を用いることは容易ではなく,今後の継続について再考が必要であると考えられる。また,実際にHCV抗体測定における予期せぬ反応性の差異を経験した経緯も勘案し,その対応も考慮して精度管理調査を継続する必要があると考える。

もう一つの特色として,PIVKA-IIを調査項目としたことが挙げられる。PIVKA-IIは,肝癌診療ガイドライン7)においても肝細胞癌の診断に有用な腫瘍マーカーとして強く推奨されているが,日臨技や日本医師会などが主催する全国サーベイでは対象項目になっておらず,その現状については不明な点が多かった。そこで,愛知県では独自にPIVKA-IIを調査対象項目とし,2017年度から精度管理調査を開始した。PIVKA-II測定試薬は,従来法として積水メディカル株式会社から多くの試薬が発売されていたが,近年,アボットジャパンや富士フィルム和光純薬工業から独自の抗体を用いた試薬の発売がなされた。今回の調査結果から,他の腫瘍マーカー同様,試薬メーカー間差が認められる傾向があることが明らかとなった。また,第1試薬に同一のMU-3抗体を用いている試薬であっても,測定機器により差が認められており,免疫測定法の種類の違いや第2試薬に使用されている抗体の差,あるいは試薬組成の違いによる影響が示唆された。PIVKA-IIの精度管理調査は始めて間もなく,この2年の間にも試薬の改良や新規試薬の発売などがあり,今後も他のメーカーからの試薬発売も予想されることから継続した調査が必要であると考えている。

愛臨技サーベイは,他の精度管理調査に比べ安価な参加費(2018年度実績:全9分野22,500円)で参加が可能であり,これまで精度管理調査に参加していなかった,特に小規模の施設については今後積極的な参加を検討していただきたいと考えている。

その際に,重要となるのは適切な基準を持った評価と,改善活動を含めた継続的なサポート体制であると考えられる。先述したような試薬間差は,適正かつ平等な評価を行う上で大きな障壁となるが,参加施設に対し不利益とならず,かつ対価を得られるような精度管理調査を実施する必要がある。これは施設数の限られた地域サーベイの大きな共通課題であると考えられるが,今後の参加施設の動態を検証し,常により良い精度管理調査を提供できるよう努めていく必要があると考えられる。

サポート体制については,現在の二次サーベイの実施と結果検討会の開催,あるいは代替となる手法の検討が必要である。現状,精度管理調査結果に対する各施設の対応は様々であり,二次サーベイおよび結果検討会によるサポートは,結果として全ての施設に改善をもたらしているとはいえない。結果検討会では,一般的な精度管理調査では得ることができない実際の施設の内部精度管理状況や,サーベイの実施手順などをヒアリングすることが可能であり,直接対話をすることで,より踏み込んだサポートを行うことができる。しかし,招聘したものの参加されなかった施設については事業の性質上,強制力をもって介入することは困難であり,精度管理調査結果の改善が得られない施設への対応については今後の大きな課題であるといえる。精度管理事業部としては,各施設の規模や従事する技師の人数など置かれている状況は多彩であることを踏まえ,無理のない改善方法を模索し,個別的かつ具体的な提案を行うことで愛知県下施設に対しより親身なサポート体制を築くことが重要であると考えている。

VI  今後の展望

始まって20年余となる愛臨技による愛知県臨床検査精度管理事業ではあるが,免疫部門においては未だ試薬間差が大きな課題である。また,サポート事業については,施設に対する介入の程度をこれまでの経験を踏まえて考え直す必要があると感じている。例えば,施設訪問を積極的に行うことも一つかもしれない。調査項目も含め,地域EQAの存在意義を再考し,参加施設にとって有益となる調査や情報を確実に提供しながら,愛知県内の施設間差の是正ならびに各施設の臨床検査レベルの底上げに貢献できるよう取り組んでいきたいと考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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