Japanese Journal of Medical Technology
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
Technical Articles
Utility of RBC-Info. on urinary RBC shapes from UF-5000
Genki MIZUNOMasato HOSHIKazuko NAGASHIMAMasayo SAKURAITakaaki YAMAGUCHIKentarou NAKAMOTOChikako NISHIITakashi FUJITA
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 69 Issue 3 Pages 374-380

Details
Abstract

尿沈渣中にみられる赤血球形態は,出血源の推定や病態把握に有用な情報であり,多くの施設でJCCLS尿沈渣検査法指針提案GP1-P4(以下GP1-P4)に準じた分類が実施されている。近年,全自動尿中有形成分分析装置UF-5000(Sysmex)が複数の施設で利用されており,フローサイトメトリー法により赤血球の大きさやばらつき度合いを解析することで赤血球形態情報(RBC-Info.)を提供することが可能である。しかしながら,UF-5000のRBC-Info.と目視法による赤血球形態の関係性については明らかではない。本研究では,GP1-P4記載の各種赤血球形態(コブ型,ドーナツ型,有棘型,標的型)とRBC-Info.の関係について比較検討を行い,RBC-Info.は,GP1-P4に記載される糸球体型と非糸球体型の形態を良好に弁別し,目視法同様に臨床応用が可能であることが示唆された。

Translated Abstract

The morphological characteristics of red blood cells (RBCs) in urinary sediments are useful for predicting a bleeding site. Recently, UF-5000, which is a fully automated apparatus for classifying components formed in urine, has been widely used in clinical laboratories, and it can provide morphological information on RBC (RBC-Info.). However, the relationship between RBC-Info. and the microscopic visual examination method has not been reported. In this study, we evaluated the reliability of the RBC-Info. from UF-5000, and the information is compared with visually classified RBC shapes (hump type, donut type, spike type and target type) on the basis of the guidelines on urinary sediment examination procedures (GPI-P4). We showed that the RBC-Info. from UF-5000 is useful for classifying the RBC morphology from glomerular to nonglomerular types. Thus, our results indicate that RBC-Info. can be used in clinical laboratories to estimate RBC shapes in hematuria, similarly to the microscopic examination method.

I  はじめに

血尿診断ガイドライン2013では,血尿を伴う疾患において変形赤血球(糸球体型赤血球)の有無によって各種疾患の鑑別,対象診療科を分類している1)。すなわち,尿沈渣検査により尿中赤血球形態の詳細な鑑別をすることは,スクリーニング検査として不可欠と考えられる。実際,血尿を呈する場合には,尿試験紙検査における潜血反応の結果や,尿沈査中の赤血球数及び変形赤血球の有無,さらにその形態的特徴は多彩性,大小不同や色調に至るまで詳細なスクリーニング情報が必要となる1)~4)。これら形態的特徴は,JCCLS尿沈渣検査法指針提案GP1-P4(以下GP1-P4)5)に準拠して行うことが推奨されている1)

Sysmex株式会社より販売されている全自動尿中有形成分分析装置UF-5000は,半導体レーザーを用いたフローサイトメトリー法を原理としており,赤血球の大きさ,多彩性のパラメータにより赤血球形態のばらつき度合いを分析することで,赤血球形態情報(RBC-Info.)を提供することが可能である。RBC-Info.は,均一赤血球(非糸球体型)をIsomorphic?,変形赤血球(糸球体型)をDysmorphic?,均一及び変形赤血球混在をMixed?として出力する6)。現在までに,UF-5000を用いた尿中赤血球に関連する報告は,尿沈渣目視法や他の分析機器との赤血球数の相関を検討した報告のみであり7)~9),GP1-P45)に記載されている尿中赤血球形態とUF-5000より得られるRBC-Info.との関係は不明である。さらに,血尿診断ガイドライン2013では,赤血球形態の鑑別における尿中有形成分分析装置に関する記載はあるが,まだ問題点も多く,さらなる有用性の確立が期待されている。

本研究では,UF-5000のRBC-Info.を実臨床に応用するために,GP1-P4記載の各種赤血球形態とRBC-Info.の関係について比較検討を行ったので報告する。

II  方法

1. 対象試料の選択

2018年4月から2019年3月に当院血液一般検査室へ提出された尿検体を無作為に抽出し,尿沈渣目視鏡検法にて糸球体型赤血球と判定した167検体,非糸球体型赤血球と判定した31検体,赤血球数が5–9/HPF未満であり赤血球形態を判定しなかった14検体の計212検体を対象とした。抽出した検体の対象者特性をTable 1に示す。尚,本研究は藤田医科大学生命倫理委員会の承認を得て行った(HM19-182)。

Table 1  対象者特性
n(男/女) 212(102/110)
平均年齢 56.5 ± 21.9
診療科(n)
  腎臓内科 110
  リウマチ内科 29
  泌尿器科 25
  小児科 10
  その他 38
赤血球型目視判定(n)
  非糸球体型 31
  糸球体型 167
  未判定 14
UF-5000 RBC-Info.(n)
  Isomorphic? 26
  Mixed? 127
  Dysmorphic? 39
  未判定 20
赤血球円柱(n)
  有 44
  無 168
腎生検(n)
  有 44
  無 168

2. 全自動尿中有形成分分析装置UF-5000の測定

対象者の無遠心尿を数回転倒混和後,UF-5000(Sysmex, Hyogo, Japan)にて自動測定し,尿中赤血球数,尿中赤血球形態情報(RBC-Info.)を得た。測定に使用したUF-5000は,使用前に専用の精度管理用試料であるUF-コントロールTM(Sysmex)を2濃度測定し,測定精度を保証した。

3. 目視法による赤血球形態の鑑別

目視法は,GP1-P45)に従って尿沈渣標本を作製し,鏡検した。赤血球形態の判別基準は,当院で設定している「尿沈渣中の糸球体型赤血球数が全体赤血球数の50%未満の場合に非糸球体型,50%以上の場合に糸球体型」として判定した。さらに,糸球体型赤血球の出現割合と赤血球形態(コブ型,ドーナツ型,有棘型,標的型),赤血球円柱の有無を確認した。糸球体型赤血球の出現割合は,GP1-P45)記載の「糸球体型赤血球形態の3段階分類基準表」を用いて赤血球数が5–9/HPF以上の場合は,大部分,中等度,少数に分類した。また,電子カルテから対象検体の臨床情報を得た。

4. 統計解析

UF-5000と尿沈渣目視法における尿中赤血球数の完全一致率及び ±1ランク一致率はκ係数を用いて算出した。本研究ではκ > 0.60の時,良好な一致率としている。

III  結果

UF-5000における尿中赤血球数と尿沈渣目視法による尿中赤血球数の関係をFigure 1に示す。尚,枠内の数字は検体数を示している。完全一致率は全検体でκ = 0.42,非糸球体型赤血球検体でκ = 0.42,糸球体型赤血球検体でκ = 0.39であったが,±1ランク一致率は全検体でκ = 0.85,非糸球体型赤血球検体でκ = 0.90,糸球体型赤血球検体でκ = 0.84となりκ > 0.60と良好な一致率を示した。さらに,各検体を当院設定の基準に従い尿沈渣目視法によって非糸球体型赤血球と糸球体型赤血球に分類したときの,それぞれのUF-5000 RBC-Info.の結果をFigure 2に示す。非糸球体型赤血球は75%がIsomorphic?,糸球体型赤血球は75%がMixed?,23%はDysmorphic?と判定された。

Figure 1 UF-5000赤血球測定値と尿沈渣目視値との関連

A:全検体,B:非糸球体型赤血球検体,C:糸球体型赤血球検体をそれぞれ示す。枠内の数字は検体数を示している。

Figure 2 目視による赤血球型判定とRBC-Info.

各検体を当院設定の基準に従い目視法によって非糸球体型赤血球と糸球体型赤血球に分類し,それぞれのUF-5000 RBC-Info.を示す。

GP1-P4に記載されている「糸球体型赤血球形態の3段階分類基準表」9)を用いて,目視法における糸球体型赤血球の出現割合別に,RBC-Info.の判定頻度を比較した(Figure 3)。糸球体型赤血球が大部分を占めている検体ではIsomorphic?と判定される検体は認められず(Figure 3A),糸球体型赤血球の出現割合が低くなるほどDysmorphic?と判定される頻度は減少した。一方で,全赤血球数,糸球体型赤血球数が5–9/HPF未満で分類不可な場合では83%の検体がIsomorphic?と判定された。さらに,赤血球円柱が認められる検体では,糸球体型赤血球が出現していると考えられるため,赤血球円柱出現群を対象に同様の解析を行った結果,大部分,中等度でDysmorphic?と判定される頻度は増加した(Figure 3B)。他方で,糸球体型赤血球が少数,分類不可となる検体は認めなかった。

Figure 3 糸球体型赤血球の割合別におけるRBC-Info.

A:全検体,B:赤血球円柱出現検体を示す。JCCLS尿沈渣検査法指針提案GP1-P4に記載されている「糸球体型赤血球形態の3段階分類基準表」を用いて,目視法における糸球体型赤血球の出現割合別のRBC-Info.を示した。

糸球体型赤血球をGP1-P49)に準じてコブ型,ドーナツ型,有棘型,標的型に分類し,それぞれの形態が出現している検体のRBC-Info.をFigure 4に示す。尚,n数は各形態が出現していた検体数(同時に出現しているものを含む)を示す。コブ型,ドーナツ型,標的型出現時にDysmorphic?と判定されたのはそれぞれ29%,18%,24%であった(Figure 4A)。赤血球円柱を認めた検体に絞った場合にはその割合が44%,20%,38%となった(Figure 4B)。有棘型ではDysmorphic?と判定される検体は確認されなかった。次に腎生検を実施し確定診断された症例をTable 2に示す。本研究の対象検体の中で,最も罹患件数が多いIgA腎症症例に絞って解析を行った結果をFigure 5に示す。IgA腎症検体におけるRBC-Info.はDysmorphic?が28%と高く(Figure 5A),赤血球円柱を認めた検体に絞ると43%とさらに高くなった(Figure 5B)。また,いずれの場合にもIsomorphic?と判定される検体は認められなかった。IgA腎症症例における糸球体型赤血球形態別のRBC-Info.をFigure 6に示す。糸球体型赤血球出現検体全体ではMixed?と判定される頻度が高かったが(Figure 4),IgA腎症のみに絞るとコブ型でDysmorphic?と判定される頻度は63%とかなり高く,標的型も43%と高い傾向を示した(Figure 6A)。赤血球円柱を認めた検体に絞った場合にはその割合は75%および50%とさらに高かった(Figure 6B)。

Figure 4 糸球体型赤血球形態別におけるRBC-Info.

A:全検体,B:赤血球円柱出現検体を示す。糸球体型赤血球をJCCLS尿沈渣検査法指針提案GP1-P4に準じてコブ型,ドーナツ型,有棘型,標的型に分類し,それぞれの形態が出現している検体のRBC-Info.を示した。

Table 2  腎生検を実施した症例
臨床診断 件数
IgA腎症 18
慢性糸球体腎炎 13
慢性腎不全 5
ネフローゼ症候群 5
ループス腎炎 1
2
Figure 5 IgA腎症におけるRBC-Info.

A:全検体,B:赤血球円柱出現検体を示す。本研究の対象検体の中で,最も罹患件数が多いIgA腎症症例検体を目視法によって非糸球体型赤血球と糸球体型赤血球に分類し,それぞれのUF-5000 RBC-Info.を示した。

Figure 6 IgA腎症における糸球体型赤血球形態別のRBC-Info.

A:全検体,B:赤血球円柱出現検体を示す。IgA腎症症例について,糸球体型赤血球をJCCLS尿沈渣検査法指針提案GP1-P4に準じてコブ型,ドーナツ型,有棘型,標的型に分類し,それぞれの形態が出現している検体のRBC-Info.を示した。

IV  考察

血尿の診断において,出血部位を特定することは診断や治療に大きく関与する最重要事項である。出血部位を推定する為に,尿中赤血球形態を鑑別する際には目視鏡検を行うのが通常であるが,全症例に対し迅速かつ正確に目視検査を行うのは事実上困難なことが多い。さらに,尿沈渣目視鏡検では遠心操作による細胞成分の破壊や上清への残存10),検査者の力量によるばらつきなど多くの問題が知られている。本研究では,その簡易的スクリーニング法の一つとしてUF-5000のRBC-Info.に注目した。UF-5000はフローサイトメトリー法を原理として遠心操作を必要とせず,検査者間のばらつきもない。即ち,GP1-P49)に記載されている赤血球形態とUF-5000のRBC-Info.との関連性を示すことは,前述した課題を解決し,実臨床への応用に必須であると考えられる。

目視法とUF-5000による尿中赤血球数の比較において,±1ランク一致率は全検体でκ = 0.85,非糸球体型赤血球検体でκ = 0.90と極めて良好な結果を示した。他の研究者らの報告6)~8)と比較しても,完全一致率,±1ランク一致率共に大きな乖離は認めなかった。さらに,糸球体型赤血球検体においても ±1ランク一致率はκ = 0.84と良好であった。しかし,目視法による赤血球形態判定と,RBC-Info.との間に数検体で乖離を認めた。UF-5000の前モデルであるUF-1000iでは糸球体性疾患のうち半数以上で非糸球体型と判定されたとの報告があるが11),UF-5000における同様の判定は数検体程度であり大幅に改善されていることが示唆される。このような乖離を認める要因として,UF-1000iでは結晶や酵母用真菌などの赤血球に似た成分の存在などが報告されている12)。UF-5000についても同様の要因が考えられ,その場合にはRBCのカウント数のみならず,RBC-Info.の判定にも影響を与える可能性がある。UF-5000の運用にあたっては尿沈渣目視法を実施するためのルールを設定することになると思われるが,これらの要因をルールに組み入れることで,RBCのカウントおよび赤血球形態情報RBC-Info.の精度も向上すると考えられる。RBC-Info.は全症例に対して完全に対応するとは言えないが,いくつかの注意点を加味すれば目視法と組み合わせることで,尿中赤血球形態予測における優良なスクリーニング法になることが示唆された。

糸球体型赤血球出現検体におけるRBC-Info.は,糸球体型赤血球の出現割合が高くなるほどDysmorphic?と判定される頻度が高い傾向がみられ,糸球体型赤血球を感度よく反映していた。しかしながら,糸球体型赤血球が大部分と分類される検体においてもMixed?と判定される頻度が最も高い結果となった。この原因として,赤血球形態の多彩性が関係していると考え,GP1-P49)に記載されている赤血球形態別におけるRBC-Info.について比較検討した。仮説通り,赤血球形態別でRBC-Info.のプロフィールは異なり,さらに糸球体性を示唆する赤血球円柱出現時にはその傾向が強くなった。興味深いことに,形態的に異形成の強いコブ型,標的型出現時にDysmorphic?と判定される傾向が強いことが示唆された。

糸球体性疾患であるIgA腎症症例において同様の解析を進めたところ,コブ型ではDysmorphic?の判定頻度が非常に高い傾向を示した。従って,UF-5000のRBC-Info.は赤血球形態によってその判定が左右され,さらに糸球体性疾患ではより感度高く糸球体型赤血球を認識することが示唆される。実際,IgA腎症ではドーナツ型の変形赤血球が多数出現することが報告されており13),疾患の鑑別に有用であることが報告されている。本研究においてドーナツ型は,4つの形態の中で最も多く,約67%の症例で出現していた。ドーナツ型出現時ではMixed?と判定される割合が多い結果となった。糸球体型赤血球が大部分でもMixed?と判定される頻度が高い原因として,RBC-Info.が赤血球形態別でその感度に差があり,特にドーナツ型を形態的にDysmorphic?と捉えにくいためと考えられる。しかしながら,糸球体型赤血球は多くの場合,単独には出現せず数種類同時に出現するため,ドーナツ型単体をMixed?と判定しているか否かは定かでない。IgA腎症症例においてドーナツ型と同時に出現している赤血球形態による影響も考えられる。本研究の結果では,UF-5000におけるRBC-Info.は各種赤血球形態に高感度であるとは言えないが,各糸球体性疾患を予測する上で目視法同様に有用な情報となり得ることが考えられる。

V  結語

本研究では,GP1-P4に記載されている赤血球形態とUF-5000におけるRBC-info.との関係を比較検討した。RBC-Info.はGP1-P4に記載される糸球体型と非糸球体型の形態を良好に弁別できることを示した。したがってRBC-info.は,目視法同様に出血部位を推定するためのスクリーニング法として臨床応用が可能であると考えられた。

 

本論文の要旨は,令和元年に山口県下関市で開催された第68回日本医学検査学会にて発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2020 Japanese Association of Medical Technologists
feedback
Top