Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Utility of sonography and thermography in bedsore care (second report)
Minami UEMORINatsuki KUROKAWAKensuke MORIYAMARie ANAIYuka KAMEYAMAArisa NOUNOHiroko OKANO
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2020 Volume 69 Issue 4 Pages 596-601

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Abstract

エコーとサーモグラフィーは外見上変化が認められない場合でも内部性状の変化に対する感度が高い。褥瘡発生のリスクが疑われる患者を対象にして仙骨,左右大転子部,左右踵を対象部位とし1週間ごとにエコーとサーモグラフィーを実施した。独自に考案した改訂エコースコア(①皮下組織構造・筋組織構造の不明瞭化,②貯留液を示す低エコー域,③筋膜・筋層の途絶,④浮腫像(敷石状エコー),⑤エア(点状の高エコー),⑥血流シグナルの描出,⑦深部到達度の7項目。これらを①~⑤は(-)0点,(±)1点,(+)2点,⑥はGrade 0~4点,⑦は,表皮1点,真皮2点,脂肪3点,筋肉4点とし,各々の合計点。)とサーモグラフィーでの健側点と患側点の温度差を経時的に比較することで褥瘡発生リスクの予見が可能であるのかを検討した。結果,対象者とコントロールとのエコー画像を比較すると踵では全員に,仙骨と大転子では一部で筋組織構造の不明瞭化が観察された(18例中10例)。サーモグラフィーでは30例中20例で患側点の温度低下が認められた。エコースコアが高く,サーモグラフィーで患側点の温度低下が観察できた例では,対策が遅延した場合,褥瘡が発生する可能性が高いと考えられる。よって褥瘡がまだ発生していない患者でも筋組織構造の変化,患側点の温度低下が観察できたことから,エコーおよびサーモグラフィーは早期褥瘡危険因子評価のツールとして利用できる可能性が示唆された。

Translated Abstract

Even when no change in the skin surface is recognized, sonography and thermography can sensitively detect changes in the structures of areas under the skin. Once a week, we performed sonography and thermography of the sacrum and right and left greater trochanter parts and the right and left heels of patients suspected of being at risk of bedsore. We compared the revised echo score system that we originally devised, and we also compared the temperature difference between the normal and abnormal parts measured by thermography. We investigated whether these methods could be used to predict the risk of bedsore. As a result, in an echo image, the muscle tissue structure of the heels was not distinct in all patients, whereas the sacrum and greater trochanter part were distinct in 10 of 18 patients. In thermography, the temperature decrease to the abnormal point was observed in 20 out of 30 patients. When the echo score was high, the temperature decrease of the abnormal point was observed by thermography. Bedsores are considered to more likely to occur after abnormal bedsore measures are detected. Even in a patient who has not yet developed a bedsore, a change in the muscle tissue structure and the temperature decrease of the abnormal point could be observed; thus, sonography and thermography seem useful for bedsore risk evaluation.

I  はじめに

我々は,当院褥瘡対策委員会の一員として褥瘡回診への参加,ラボデータ等の提供を行い,客観的なパラメーターとしてN/L比,CONUTを検討してきた。

現在でも主観的要素の強いDESIGN-Rスコアにて褥瘡の評価を行っているが,DESIGN-Rスコアに加えて超音波検査(以下,エコー)とサーモグラフィーが褥瘡の評価に有用であることを提唱した(第1報参照)。エコーとサーモグラフィーは外見上変化が認められない場合でも,内部性状の変化に対する感度が高いことから1),2),褥瘡のハイリスク患者を対象としてエコーとサーモグラフィーを用いて褥瘡発生リスクの予見が可能であるかを検討した。

II  対象と方法

1. 対象

平成29年8月3日~10月24日までの当院新規入院患者のうち,褥瘡のハイリスク患者6名(平均年齢80 ± 9歳)を対象としてエコーとサーモグラフィーを実施した。褥瘡発生のリスクについては当院の褥瘡に関する危険因子評価票を参考にし,ベッド上自力体位変換及び,イス上自力座位姿勢の保持・除圧ができない,且つ,BMI 18.5以下,血清アルブミン(以下,ALB)3.5 g/dL未満を条件とし対象者を選択した。対象部位は,一般的に褥瘡の好発部位とされる仙骨,左右大転子部,左右踵とした(各5部位,計30例)。腰部には体重の約半分である44%の高い重力が加わり,さらに骨盤があるため内部臓器が多く存在することより,骨突出部である仙骨には圧が集中しやすい3)。さらに大腿骨が外側に最も飛び出した部位である大転子部や,背臥位で下肢における唯一の骨突出部である踵骨が一般的に褥瘡好発部と言われているためこの3か所を対象部位とした。

2. 方法

エコーは,文献を参考にエコースコアを独自に考案した(第1報参照)4)。スコアリングに用いるパラメーターは,①皮下組織構造の不明瞭化,②貯留液を示す低エコー域,③筋膜・筋層の途絶,④浮腫像(敷石状エコー),⑤エア(点状の高エコー),⑥血流シグナルの描出,⑦深部到達度の7項目とした。これらを①~⑤は(-)0点,(±)1点,(+)2点,⑥はGrade 0~4点,⑦は,表皮1点,真皮2点,脂肪3点,筋肉4点とし,各々の合計点をエコースコアとした。今回はさらに①に筋組織の不明瞭化5)の評価を新たに加えた改訂エコースコアを使用した。比較対象として,褥瘡のリスクが低い同年代(平均年齢76 ± 6歳)の患者2名のエコーを実施した。なお,経時的変化が観察できるよう,プローブ接地面の形を縁取るようにしてマーキングを実施した。サーモグラフィーは対象と同環境下に健側点を設定し,温度差を計測した。観測点は仙骨 尾側5 cm,大転子 尾側12 cm,踵 末梢側7 cmの場所にそれぞれ設定した。さらに撮影したサーモグラフィー画像については微小な温度変化が一目で観察できるように,中心温度,階調温度を症例ごとに設定した。1週間ごとにエコーとサーモグラフィーを実施し,経時的変化を比較,検討した。

III  結果

1. 対象者とコントロールとのエコー画像の比較

対象者全員に踵の筋組織構造不明瞭化が確認できた。仙骨,大転子については一部で筋組織構造の不明瞭化が観察された(18例中10例)(Figure 1)。

Figure 1 対象者とコントロールとのエコー画像の比較

破線(黄色)の部分で筋組織構造の不明瞭化が観察された。

2. サーモグラフィーによる温度変化の観察

サーモグラフィーでは仙骨,大転子,踵合わせて30例中20例で患側点の温度低下が認められた。

3. エコーとサーモグラフィーの関連性

A)エコースコアが高い,または高くなる,B)温度が健側点より患側点のほうが低いに分類した場合,A)およびB)の両方見られたのは30例中17例(仙骨2例,大転子4例,踵11例)だった。どちらか一方が見られたのは30例中8例であった。エコーのみが5例(仙骨1例,大転子3例,踵1例),サーモグラフィーのみが3例(仙骨1例,大転子2例)だった。よって両方もしくは一方が見られたのは30例中25例(仙骨4例,大転子9例,踵12例)であった(Figure 2)。

Figure 2 エコーとサーモグラフィーの関連性

A)エコースコアが高い,または高くなる,B)温度が健側点より患側点のほうが低いに分類した。

4. エコースコアおよびサーモグラフィーとALBとの相関

ALBが低いほど1人当たりのエコースコアおよびサーモグラフィーの悪い部位数が増加する傾向が見られた(Figure 3)。

Figure 3 エコースコアおよびサーモグラフィーとALBとの関連性

IV  症例

1. 症例1 78歳男性 右大転子

検査を開始した9月5日時点では右大転子には筋組織構造に乱れはなく,患側点の温度低下も異常はなかった。しかし,9月7日よりALBが徐々に低下していき,その12日後に患側点の温度が低下,続いてさらにその7日後に筋組織構造の乱れが発生しエコースコアの上昇を認めた(Figure 4, 5)。

Figure 4 ALB,温度差,エコースコアの経時的変化(症例1)
Figure 5 温度変化とエコーにおける内部性状の変化(症例1)

Sp.1が患側点,Sp.2が健側点である。中心温度:35.6℃,階調温度:0.1℃

2. 症例2 85歳男性 右踵

検査を開始した9月5日から筋組織構造の乱れが確認でき,初日からエコースコアが上昇している例である。9月7日頃からALBが低下し,その7日後に患側点の温度が低下,続いてさらにその7日後に筋組織構造の乱れが強くなりエコースコアの上昇を認め,より患側点での温度低下も認めた(Figure 6, 7)。

Figure 6 ALB,温度差,エコースコアの経時的変化(症例2)
Figure 7 温度変化とエコーにおける内部性状の変化(症例2)

Sp.1が患側点,Sp.2が健側点である。中心温度:31.1℃,階調温度:0.1℃

V  考察とまとめ

エコーは褥瘡発生のリスクが疑われる対象者全員に踵の筋組織構造の不明瞭化が確認でき,仙骨および大転子については一部で筋組織構造の不明瞭化が観察された。また,サーモグラフィーは患側点では温度低下が認められた。よって,外見上変化がみられない段階でも,エコーとサーモグラフィーは内部性状の変化に対する感度が高いことが確認された。

よって,エコースコアが高く,サーモグラフィーで温度低下が観察される例では,対策が遅延した場合,外見上確認できる褥瘡が発生する可能性が高いと考えられる。尚,ALBが低下後,約1~2週間後にエコースコアの上昇(悪化)と患側点の温度低下が見られたことから,この時期に積極的な介入が必要であると考えられる。

以上より,エコーおよびサーモグラフィーは早期褥瘡危険因子評価のツールとして利用できる可能性が示唆された。

 

本論文は倉敷平成病院の倫理委員会の承認を得ている(承認番号H30-008)。

本論文の要旨は第68回日本病院学会(2018年6月石川)で発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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