Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Utility of sonography (echo) and thermography in bedsore care (first report)
Arisa NOUNORie ANAIKensuke MORIYAMAYuka KAMEYAMA
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2020 Volume 69 Issue 4 Pages 590-595

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Abstract

当院における褥瘡の評価はDESIGN-Rを利用している。今回DESIGN-Rでの評価に加えて,エコーとサーモグラフィーが褥瘡の評価に有用であるかを検証した。文献を参考にエコースコアを独自に考案した。褥瘡が認められる患者に1週間ごとにエコーとサーモグラフィーを実施し,褥瘡サイズを基準としてDESIGN-Rスコアおよびエコースコアの経時的変化を比較して検証した。褥瘡サイズとDESIGN-Rスコアの経時的変化が一致したのは11例中6例,褥瘡サイズとエコースコアの経時的変化が一致したのは11例中8例であった。サーモグラフィーでは正常部位と比べて褥瘡部位で温度が高くなっていたものが4例,低くなっていたものは7例であった。褥瘡サイズとエコースコアが乖離した例では,エコーの設定条件が統一されていなかったことがスコアリングに影響したと思われた。サーモグラフィーは炎症の有無を客観的に評価できていると考えられた。以上により,DESIGN-Rでの褥瘡の評価法に加えて,エコーとサーモグラフィーは褥瘡の経過を評価するために有用であると考えられた。

Translated Abstract

DESIGN-R is used in the evaluation of bedsore in our hospital. In addition to this evaluation, we verified whether sonography and thermography are useful for bedsore evaluation. We originally devised an echo scoring system on the basis of the literature. Patients in whom a bedsore was found underwent sonography and thermography once a week, and the changes in the DESIGN-R score and echo score over time were determined in correlation with the bedsore size, which was an objective evaluation factor. The DESIGN-R score and echo score were compared among patients and verified. In 6 of 11 patients, the change in the DESIGN-R score over time correlated with bedsore size, and in 8 of 11 patients, the change in the echo score over time also correlated with bedsore size. By thermography, we found that in 4 of 11 patients, the temperature of the bedsore site was higher than that of the normal site. By sonography, we found that in 7 of 11 patients, the temperature of the bedsore site was lower than that of the normal site. The absence of a correlation between the bedsore size and the echo score seemed to affect the scoring, that is, the setting conditions of the sonography were not unified. It is considered that thermography can be used to evaluate inflammation objectively. From the above, we considered that sonography and thermography are useful for the evaluation of the progress of bedsore, in addition to using the DESIGN-R score.

I  はじめに

褥瘡とは皮膚及び皮下組織を長時間圧迫し続けたり,摩擦やずれが生じたりすることによって起こる皮膚及び皮下組織の損傷である。褥瘡発生の危険因子で注意すべき疾患として,うっ血性心不全,脳血管疾患,アルツハイマー型認知症などが挙げられる。

当院では,入院時に褥瘡発生のリスクについて危険因子評価表(過去の褥瘡の有無,日常生活自立度,ベッド上自力体位変換,イス上自力座位姿勢の保持・除圧,病的骨突出,関節拘縮,栄養状態低下,皮膚湿潤,皮膚の脆弱性)を用いて対策を行っている。しかしながら,2015年の褥瘡発生率は2.01%であり,日本褥瘡学会「第3回(平成24年度)日本褥瘡学会実態調査委員会報告1」の全国一般病院平均値(1.60%)よりも高い。これは当院にベッド上自力体位変換等が困難な脳血管疾患,アルツハイマー型認知症の入院患者率が多いためと考えられる。

褥瘡は治療に長時間を有し,患者のQOLを低下させる。褥瘡を治癒させるには損傷・炎症の程度を適切に判断することが重要である。

当院では褥瘡の治癒過程の評価をDESIGNツールにて行っている。DESIGNは日本褥瘡学会が開発したアセスメントツールで,褥瘡創面を6項目で評価する。D:Depth(深さ)・E:Exudate(滲出液)・S:Size(大きさ)・I:Inflammation/Infection(炎症/感染)・G:Granulation tissue(肉芽組織)・N:Necrotic tissue(壊死組織)の頭文字を組み合わせたものである。DESIGNには重症度分類用と経過評価用の2種類があるが,当院では経過評価用のDESIGN-Rを使用している。これにP:Pocket(ポケット)の有無を追加して各項目をスコア化し,重症度が高いほど高得点となり,治療に伴って点数が減少すれば改善傾向を示すということになる1)

しかし,DESIGN-Rは教育を受けた専任看護師等が評価しなければ正確性が担保されない中で,当院ではその年に任命された褥瘡対策委員の看護師が行われなければならない体制上の問題点がある(DESIGN-Rの診断基準を順守して評価しているが,10名の看護師のうち1名が1週間交代で評価している)。さらに深部組織損傷や炎症の有無を正確に判断することは困難であり,適切な治療が行われず,治癒の遅延につながる可能性がある。一方,超音波検査(以下エコー)とサーモグラフィーは外見上変化が認められない場合でも,内部性状の変化に対する感度が一般的に高いと云われている。そのため,これらを加えることでDESIGN-Rの評価を補完し,さらに深部組織損傷や炎症の有無も評価できるのではないかと考え,その有用性について検証したので報告する。

II  研究期間・対象

2016年4月12日~10月7日までの褥瘡が認められる入院患者24例中,経過観察し得た11例(平均年齢79 ± 9歳)とした。

III  研究方法

1. エコーとエコースコア

Bモード法により皮下組織を撮像した。超音波診断装置はHITACHI ALOKA Noblusを使用し,探触子は9.0 MHzを用いた。画角視野深度は5 cmに設定し,フォーカスは各褥瘡の深さに合わせ設定した。引用文献2)に「褥瘡部にゼリーが付着してしまうが,一般的にエコー検査で使用されているゼリーの皮膚障害性は低く,褥瘡に付着しても問題ない」と記載されており,当院形成外科医指導の下,エコー後すぐに開放創を洗浄してジェルを洗い流して感染予防に努めた。定期的な褥瘡処置の直前にエコーを実施し,終了後に看護師が創部の洗浄を行ったため,エコーのために処置の回数が増えたり,それによって治癒が遷延したということはなかった。また,エコー実施の際はプローブにラップを巻き,終了後にはプローブをアルコール消毒した。

今回我々は文献を参考にエコースコアを独自に考案した2),3)。スコアリングに用いるパラメーターは①皮下組織構造の不明瞭化,②貯留液を示す低エコー域,③筋膜・筋層の途絶,④浮腫像(敷石状エコー),⑤エア(点状の高エコー),⑥血流シグナルの描出,⑦深部到達度の7項目とした。これらを①~⑤は−0点,±1点,+2点,⑥はGrade 0~4点,⑦は表皮1点,真皮2点,脂肪3点,筋肉4点とし,各々の合計点をエコースコアとした。よってDESIGN-R同様,重症度が高いほど高得点となる(Figure 1)。また,スコアリングにおけるエコーの経験値の差を評価するために同日・時間差で2名の技師(エコー経験年数6ヶ月1名と10年以上2名のうち1名)が先入観なしに別々に評価し,スコアリングにおけるエコーの技師間差を検証した。

Figure 1 褥瘡エコースコア(オリジナル)

文献を参考に独自に考案したエコースコア

2. サーモグラフィー

サーモトレーサTH5108ME NEC三栄株式会社を使用した。褥瘡部位と正常部位との温度変化を比較するために症例ごとに中心温度(29.8~35.3℃)および階調温度(0.7~1.5℃)を設定し,炎症徴候との関連性を調べた。

3. 褥瘡サイズとの比較・検証

褥瘡対策委員および病棟看護師の支援・協力のもと,褥瘡が認められる患者に1週間ごとにエコーとサーモグラフィーを実施した。DESIGN-Rの評価項目の中で最も主観が入りにくく,計測誤差の少ない褥瘡サイズを基準としてDESIGN-Rスコアおよびエコースコアの経時的変化を比較し,検証した。

IV  結果

①褥瘡サイズとエコースコアの経時的変化が一致したのは11例中8例(73%)であった。褥瘡サイズとDESIGN-Rスコアの経時的変化が一致したのは11例中6例(55%)であった。よって,褥瘡サイズとの一致率はエコースコアの方が高い結果となった(Figure 2)。

Figure 2 褥瘡サイズとの一致率

エコースコアの方が高い結果となった。

②エコーのスコアリングにおける技師間差は統計学的に有意な差はなかった(p < 0.01, r = 0.959)(Figure 3)。

Figure 3 エコースコアリングにおける技師間差

統計学的に有意な差は認められなかった。

③サーモグラフィーは正常部位と比べて温度が高くなっている部位は炎症があることを意味する知見がある。今回,正常部位と比べて褥瘡部位で温度が高くなっていたものが4例で,DESIGN-Rスコアの炎症徴候ありと完全に一致していた。一方,サーモグラフィーが同~低くなっていたものは7例でDESIGN-Rスコアの炎症徴候なしは1例のみでほとんどが不一致であった(Table 1)。

Table 1  サーモグラフィーとの関連性
サーモグラフィーの温度 DESIGN-Rスコア
褥瘡部位
(N = 11)
高 4例 感染徴候あり 4例 一致率
100%
(4/4)
同~低 7例 炎症徴候なし 1例 不一致率
85.7%
(6/7)
炎症徴候あり 6例

V  症例

①エコー上での正常部位と褥瘡部位の比較を提示する(Figure 4)。正常部位と比較して,褥瘡部位は皮下組織構造は不明瞭で貯留液があり,筋膜,筋層の途絶が見られた。また,血流シグナルが描出され,褥瘡は筋肉にまで達していた。

Figure 4 エコー上での正常部位と褥瘡部位の比較

褥瘡は筋肉にまで達している。

②DESIGN-Rスコア,エコースコア,褥瘡サイズの経時的変化が全て一致した症例を提示する(Figure 5)。褥瘡サイズの変化に対して両方のスコア共,同じ変化を示していた。

Figure 5 全て一致した症例

両スコア共同じ変化を示している。

③DESIGN-Rスコアの経時的変化のみ乖離した症例を提示する(Figure 6)。褥瘡サイズは増大し,エコースコアも高いにも拘わらず,DESIGN-Rスコアの点数は下がり,改善傾向を示していた。

Figure 6 DESIGN-Rスコアのみ乖離した症例

DESIGN-Rスコアの点数は下がり,改善傾向を示している。

④DESIGN-Rスコアとエコースコアの一致例を提示する(Figure 7)。DESIGN-Rスコアは66点中46点,エコースコアは18点中16点と,どちらも重症度は高く評価されていた。

Figure 7 DESIGN-Rスコアとエコースコア 一致例

どちらも重症度は高く評価されている。

⑤DESIGN-Rスコアとエコースコアの乖離例を提示する(Figure 8)。DESIGN-Rスコアは66点中6点と重症度は低く評価されているが,エコースコアは18点中15点で重症度は高く評価されていた。DESIGN-Rでは,深さは真皮までの損傷と評価されているが,エコーでの損傷の深部到達度は脂肪まであり,深部組織損傷と評価されていた。

Figure 8 DESIGN-Rスコアとエコースコア 乖離例

DESIGN-Rスコアは改善傾向を示しているがエコースコアは高い評価のままである。

⑥サーモグラフィーの症例を提示する(Figure 9)。正常部位と比べて褥瘡部位で温度が高くなっており,炎症徴候であることが客観的に評価できた。

Figure 9 サーモグラフィー症例

褥瘡周囲で低温,褥瘡部位で高温となっている。

VI  考察

褥瘡サイズとエコースコアが乖離した例では,エコーのBモードのゲインとダイナミックレンジの設定が統一されていなかったことによってスコアリングに影響があったと考えられた。褥瘡エコーはより表層が詳細に観察可能なsuperficialに設定する方が良いと考えられた。

褥瘡サイズとDESIGN-Rスコアが乖離した例では,当院のDESIGN-Rの評価体制上に問題があると考えられた。

サーモグラフィーは炎症の有無を客観的に評価できていたが,温度幅をより密にすることでわずかな炎症反応を捉えられると考えられた。

エコーのスコアリングにおける技師間差はなく,経験値の差は認められなかった。

VII  結語

エコーはDESIGN-Rでは評価が困難な深部組織損傷を,サーモグラフィーでは炎症の有無の評価が可能であり,これらの有用性が認められた。よって,褥瘡の評価はDESIGN-Rに加えてエコーとサーモグラフィーを併用し補完し合うことで,より正確性が増し,適切な治療や治癒の遅延を防ぐことにつながると思われる。さらに,エコーとサーモグラフィーは外見上変化が認められない場合でも,内部性状の変化に対する感度が一般的に高いと云われている。そのため,褥瘡のリスクが疑われる患者に対してエコーとサーモグラフィーが介入することで,早期の褥瘡予防が期待されると考えられた。

 

本研究は当院倫理委員会の審査・承認を得ている(承認番号H29-001)。

第67回日本病院学会および第15回日本臨床医療福祉学会にて発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)  一般社団法人日本褥瘡学会:DESIGN.http://www.jspu.org/jpn/info/design.html(2016年4月7日アクセス)
  • 2)  水原 章浩,他:「アセスメントとケアが変わる褥瘡エコー診断入門」,医学書院,東京,2012.
  • 3)  東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻・老年看護学/創傷看護学分野:創傷に関する研究 エコー,サーモグラフィーなどの工学機器を用いた褥瘡アセスメント技術の開発.http://rounenkango.m.u-tokyo.ac.jp/researchpu2.html(2014年5月2日アクセス)
 
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