Japanese Journal of Medical Technology
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Usefulness of cytological approach for invasive breast cancer diagnosis compared with alternative intrinsic subtype classification approach
Mayumi SUGAHARAAkie TSUKUMONatsumi MIYASHITAAyami KONDO
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2020 Volume 69 Issue 4 Pages 507-515

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Abstract

昨今の浸潤性乳癌は遺伝子発現プロファイリングに基づくintrinsic subtype分類による治療が重視されているが,全症例で行うことは困難であることから病理組織を使った免疫組織化学染色結果で決定する代替的intrinsic subtype分類(サブタイプ分類)が使われている。そのため細胞診検査は減少傾向にあるが,低コスト・低侵襲で報告も早くできる利点があることから,サブタイプ分類間での細胞像を比較し細胞診の役割について検討を行った。対象は針生検にて浸潤性乳癌と診断された検体のうち,針生検時に捺印標本作製が可能であった97件とした。検討項目は核の大きさ・N/C比・核形不整・クロマチンの性状・クロマチンの濃さ・核の大小不同・腺管形成の有無の7項目とし,各々1,2あるいは1~3とスコア化し使用した結果,7項目のスコアの合計が8より低く核異型の弱い細胞からなる浸潤性乳癌はluminal A-likeの可能性が極めて高く,スコアの合計が13以上で核異型の強い細胞からなる浸潤性乳癌はluminal B-like(HER2 positive),HER2 enriched,triple negativeのいずれかの可能性が高いこともわかった。以上より細胞像からサブタイプ分類推定が可能なものがあり,細胞診は予後予測や治療決定など臨床的アプローチの一助となると考えられる。

Translated Abstract

In recent years, the treatment of invasive breast cancer (IBC) has been based on intrinsic subtype classification by gene expression profiling (GEP). Because GEP is very expensive for every single case of IBC, immunoprofiling has been widely used as an alternative method of classification. Although the opportunity of cytological examination has declined despite its advantages of being non-invasive, inexpensive, and time-saving, we evaluated the usefulness of the cytological approach for IBC diagnosis compared with the alternative intrinsic subtype classification based on immunohistochemistry. This study was performed on 97 cases of histopathologically confirmed IBC whose stamp preparations were available at the time of needle biopsy. We used six nuclear parameters with a value of 1 or 2, namely, the size of the nucleus, nucleus-to-cytoplasm ratio, nuclear irregularity, chromatin status, chromatin intensity, and degree of anisokaryosis. We also employed an architectural parameter with a value of 1, 2 or 3. The sum of each parameter is plotted on the basis of histological types classified by an alternative method. It was found that cases with a total score of less than 8 are highly likely to be in the luminal A-like group, whereas about 74% of IBC cases with a score of 13 or more are either in the luminal B-like (HER2-positive), HER2-enriched, or triple negative group. Our results suggest that the cytological method utilizing our seven parameters may be useful for the evaluation of the treatment and prognosis of IBC patients.

I  はじめに

近年乳癌の治療は癌細胞の生物学的性状に基づく個別化治療が主体となり,それに伴い遺伝子発現プロファイリングに基づくintrinsic subtype分類が重要となってきている。この分類はPerouら1)によって2000年に発表されたが,実臨床では再現性などの点で応用することが難しく,実際には病理組織で得られるエストロゲンレセプター(estrogen receptor; ER),プロゲステロンレセプター(progesterone receptor; PgR),human epidermal growth factor receptor 2(HER2),Ki-67の免疫組織化学染色結果に基づく代替的intrinsic subtype分類(サブタイプ分類)が使用されている2),3)。しかし,サブタイプ分類とintrinsic subtype分類では検出法の違いなどから,結果が必ずしも一致するものではないことも以前から指摘されており,2017年のザンクトガレンコンセンサス会議では新たに遺伝子解析が盛り込まれた分類が提示された4),5)。本邦でも2019年6月より遺伝子パネル検査として,FoundationOne CDxがんゲノムプロファイルとOncoGuide NCCオンコパネルシステムの2種類が保険収載されることになった。しかし,いずれも高額な検査で,算定要件も厳しいことから全症例に行うことは難しく,引き続き便宜的にサブタイプ分類が使用されると思われる。サブタイプ分類は病理組織による免疫組織化学染色が必須であることから,細胞診検査は減少傾向にある。しかし,細胞診検査は低コスト・低侵襲で報告も早くできる利点があることから,サブタイプ分類間での細胞像を比較検討し,細胞診の役割について検討を行った。

II  対象・方法

1. 対象

2013年1月から2017年3月までに乳腺腫瘤に対し針生検が行われ,浸潤性乳癌と病理組織診断されサブタイプ分類が可能で,針生検時に捺印細胞診標本の作製が行われた105検体のうち,著しい乾燥などにより細胞像の評価ができなかった8検体を除いた97検体を対象とした。検体の内訳はluminal A-like 28件,luminal B-like(HER2 negative)37件,luminal B-like(HER2 positive)9件,HER2 enriched 8件,triple negative 15件であった。

2. 方法

1) 捺印細胞診標本の作製法

乳腺腫瘍部より針生検にて採取された組織片を,ただちにスライドガラスに捺印し,95%アルコールで素早く固定を行った。固定後パパニコロウ染色(Papanicolaou stain;Pap染色)を行った。

2) 病理組織標本の作製法

捺印された組織片をすぐに10%中性緩衝ホルマリンに浸漬し,8時間から72時間の範囲内で固定した。固定後ヘマトキシリン・エオジン染色(hematoxylin-eosin;HE染色)標本を作製し,病理組織診断で浸潤性乳癌と確定したものはER,PgR,HER2,Ki-67の4種類の免疫組織化学染色を追加で実施した。免疫組織化学染色は自動免疫染色装置ヒストファイン(ニチレイ,東京)を使用した。HER2判定でequivocalとされたものは追加でFISH法を行い,発現の有無を確認した。

3. 評価方法

1) 捺印細胞診標本の評価方法

intrinsic subtypeは組織学的核異型度と関連があり6),組織学的核異型度は細胞学的核異型度と関連があるとの報告7),8)から,乳腺細胞診カラーアトラス9)や村田らが薦めるパターン的細胞診断法10)を参考に,核異型度の指標を核の大きさ,N/C比,核形不整,クロマチンの性状,クロマチンの濃さ,核の大小不同の6項目と細胞構築に関しては腺管形成の有無についての合計7項目を検討項目とした。評価方法に関しては,核異型度の指標とする6項目は乾燥やアーチファクトを除いた細胞を,1症例ごとに無作為に選択した有核細胞50個を対物40倍で観察し,以下に示す基準でスコアリングを行い,占める数が多い方をスコアとして採用した。また腺管形成の有無については乳癌取扱い規約の組織学的グレード分類の腺管形成スコアに準じ11),対物10倍で標本全体を観察した。詳細なスコアリングの基準は以下の通りである。

①核の大きさ:画像計測ソフト(OLYMPUS社cellSens)を使い,1症例ごとに核50個と赤血球10個の面積を計測し,各々の平均値を求め,赤血球を基準に核の比率を算出し,2.5以下を「1」,2.5より大きいものを「2」とした。

②N/C比:核と胞体の幅(長軸)に核が2個入るものを「1」,核が2個入らないものを「2」とした。

③核形不整:輪郭不整・切れ込み・立体不整などが認められないものを「1」,認めるものを「2」とした。

④クロマチンの性状:ヘテロクロマチンが目立たない細顆粒状を「1」,ヘテロクロマチンが目立つ粗顆粒状を「2」とした。

⑤クロマチンの濃さ:好中球の核の濃さを基準に,薄いものを「1」,同等あるいはそれ以上のものを「2」とした。

⑥核の大小不同:同一集塊内で,核の大小の差が3倍より小さいものを「1」,3倍以上を「2」とした。

⑦腺管形成:腺/管状構造が大半に存在(75%以上)を「1」,腺/管状構造が中程度に存在(10%以上75%未満)を「2」,腺/管状構造が少量存在(10%未満),または存在しない場合を「3」とした。

スコア化に際し基準とした代表的な細胞像をFigure 1に示す。

Figure 1 各スコアの代表的な細胞像

核の大きさ,N/C比,核形不整,クロマチンの性状,クロマチンの濃さ,核の大小不同,腺管形成の有無の各スコアでの代表的な細胞像を提示する。

2) 病理組織におけるサブタイプ分類方法

病理組織のER,PgR,HER2,Ki-67の免疫組織化学染色の結果より,Table 1に示した臨床病理学的代替定義に基づきluminal A-like,luminal B-like(HER2 negative),luminal B-like(HER2 positive),HER2 enriched,triple negativeの5つのサブタイプに分類した。

Table 1  サブタイプ分類と臨床病理学的代替定義
サブタイプ分類 臨床病理学的代替定義
Luminal A-like ER positive, HER2 negative かつ以下のいずれかが該当
・Ki-67 low expression (< 14%)
・Ki-67 intermediate expression (14% to 19%) and PgR high expression (≥ 20%)
Luminal B-like (HER2 negative) ER positive,HER2 negative かつ以下のいずれかが該当
・Ki-67 intermediate expression (14% to 19%) and PgR negative or low expression (< 20%)
・Ki-67 high expression (≥ 20%)
Luminal B-like (HER2 positive) ER and/or PgR positive, HER2 positive
HER2 enriched ER and PgR negative, HER2 positive
Triple negative ER and PgR negative, HER2 negative

*ERのcut-off値は,修正J-scoreに従って陽性細胞占有率50%以上を高発現(positive)とした12),13)

*HER2判定はHER2検査ガイド 乳癌編に準じ,HER2 equivocalと判定されたものはFISH法を行い,スコアを決定した14)

*Luminal A-likeとluminal B-like(HER2 negative)の分類には,Vialeら15)が2014年に提唱したKi-67 indexとPgRの陽性細胞占有率を評価に加えた分類方法を使用した。

3) 統計

サブタイプ分類間の7項目のスコアの合計について有意な差が認められるかどうか,一元配置分散分析を行った。また具体的にどのサブタイプ分類間に有意差が認められるか多重比較検定(Tukey HSD)を行った。ともにp < 0.05を有意差ありとした。統計処理には統計処理ソフトSPSS(IBM: Ver25)を使用した。

次に7項目それぞれ個別に,サブタイプ分類間でスコアの出現割合の違いを検討するためFisher’s exact testを行った。p < 0.05を有意差ありとし,有意差がみられた項目について,スコアの比率を比較するため,各々の項目に対してスコアが占める割合を%で表記し,データを視覚的に要約するため,棒グラフで示した。

III  結果

1. スコアの合計およびサブタイプ分類との比較

97検体を細胞診で得られた7項目のスコアの合計をもとに,5つのサブタイプに分類した(Table 2)。記述統計(Table 3)から,等分散性の検定を行い,有意確率p ≥ 0.05となったことから等分散とみなし(Table 4),分散分析を行った。結果,有意確率がp < 0.05となり,いずれかのサブタイプで有意な差があると考えられた(Table 5)。そこでTukey HSD法による多重比較検定を行ったところ,luminal A-likeはluminal B-like(HER2 positive),HER2 enriched,triple negativeとの間で有意差がみられ,luminal B-like(HER2 negative)はtriple negativeとの間で有意差がみられた(Table 6)。

Table 2  サブタイプ分類でのスコア合計の件数一覧
Luminal A-like Luminal B-like (HER2 negative) Luminal B-like (HER2 positive) HER2 enriched Triple negative
スコア合計 8 6 0 0 0 0
9 4 6 0 1 0
10 6 10 1 1 0
11 7 8 1 2 4
12 5 7 4 1 0
13 0 4 1 1 6
14 0 2 1 1 2
15 0 0 1 1 3
total(件) 28 37 9 8 15

全件数97件,スコアの合計は最低で8点,最高は15点となった。

Table 3  記述統計
サブタイプ分類 度数 平均値 標準偏差 標準誤差 平均値の95%信頼区間 最小値 最大値
下限 上限
Luminal A-like 28 10.04 1.427 0.270 9.48 10.59 8 12
Luminal B-like (HER2 negative) 37 10.97 1.443 0.237 10.49 11.45 9 14
Luminal B-like (HER2 positive) 9 12.33 1.500 0.500 11.18 13.49 10 15
HER2 enriched 8 11.88 2.031 0.718 10.18 13.57 9 15
Triple negative 15 13.00 1.464 0.378 12.19 13.81 11 15
合計 97 11.22 1.798 0.183 10.85 11.58 8 15
Table 4  等分散性の検定
Levene統計量 自由度1 自由度2 有意確率
合計 平均値に基づく 0.616 4 92 0.652
中央値に基づく 0.655 4 92 0.625
中央値と調整済み自由度に基づく 0.655 4 84.848 0.625
トリム平均値に基づく 0.619 4 92 0.650

Levene検定の結果,有意確率p ≥ 0.05となり,等分散とみなし,一元配置分散分析を適用した。

Table 5  分散分析
平方和 自由度 平均平方 F値 有意確率
グループ間103.641425.91011.5260.000
グループ内206.812922.248
合計310.45496

有意確率p < 0.05となり,いずれかのサブタイプで有意な差があると考えられた。

Table 6  多重比較検定(Tukey HSD)結果
Luminal B-like
(HER2 negative)
Luminal B-like
(HER2 positive)
HER2 enriched Triple negative
Luminal A-like 0.101 0.001 0.024 < 0.001
Luminal B-like
(HER2 negative)
0.114 0.538 < 0.001
Luminal B-like
(HER2 positive)
0.970 0.829
HER2 enriched 0.431

p < 0.05

Luminal A-like はluminal B-like(HER2 positive),HER2 enriched,triple negative との間で,luminal B-like(HER2 negative)はtriple negativeとの間で有意差がみられた。

サブタイプ分類間で,スコア合計のばらつきと,有意差がみられた項目間のp値を箱ひげ図を使い提示した(Figure 2)。また等質サブグループの結果からluminal A-like,luminal B-like(HER2 negative)の2群と,luminal B-like(HER2 positive),HER2 enriched,triple negativeの3群との間で有意差があり,2つの異なるグループに分類できることがわかった(Table 7)。

Figure 2 サブタイプ分類間の箱ひげ図

サブタイプ分類間で,スコア合計のばらつきと,有意差がみられた項目間のp値を箱ひげ図を使い提示した。

Table 7  多重比較検定(Tukey HSD)の等質サブグループ結果
サブタイプ 度数 α = 0.05のサブタイプグループ
1 2 3
Luminal A-like 28 10.04
Luminal B-like
(HER2 negative)
37 10.97 10.97
Luminal B-like
(HER2 positive)
8 11.88 11.88
HER2 enriched 9 12.33 12.33
Triple negative 15 13.00

Luminal A-like,luminal B-like(HER2 negative)の2群と,luminal B-like(HER2 positive),HER2 enriched,triple negativeの3群は2つの異なるグループに分類され,有意差があることがわかった。

2. 各項目のスコアとサブタイプ分類との比較

各項目のスコアごとの件数と5つのサブタイプ分類との有意差検定を行った結果,Table 8に示す如く,核の大きさ,核形不整,クロマチンの性状,核の大小不同の4項目で,いずれのサブタイプか特定はできないが,スコアの比率に差があることが分かった。有意差のみられた核の大きさ,核形不整,クロマチンの性状,核の大小不同の4項目について,サブタイプ別に,項目ごとのスコア別出現頻度を棒グラフで示す(Figure 3)。Luminal A-likeでは,核の大きさ,核形不整,クロマチンの性状,核の大小不同の4項目すべてで,スコア1の細胞出現率が高く,特に核の大小不同のスコア1の出現率は89%と高率であった。Luminal B-like(HER2 positive)では,核形不整でスコア1の細胞がみられず,スコア2の細胞が100%を占めていた。Triple negativeでは,核の大きさ,核形不整,クロマチンの性状,核の大小不同すべての項目で,スコア2の細胞出現率が高く,核の大きさのスコア2の出現率は93%と高率であった。

Table 8  各項目のスコアごとの合計と,サブタイプ分類との有意差検定の結果
スコア Luminal A-like Luminal B-like
(HER2 negative)
Luminal B-like
(HER2 positive)
HER2 enriched Triple negative p
核の大きさ 1 19 24 3 2 1 0.0001
2 9 13 6 6 14
N/C比 1 5 9 0 1 1 0.4090
2 23 28 9 7 14
核形不整 1 20 13 0 2 3 0.0002
2 8 24 9 6 12
クロマチンの性状 1 24 26 7 5 4 0.0025
2 4 11 2 3 11
クロマチンの濃さ 1 17 25 4 6 10 0.7090
2 11 12 5 2 5
核の大小不同 1 25 25 2 3 3 < 0.0000
2 3 12 7 5 12
腺管形成 1 8 3 2 1 1 0.4070
2 13 21 4 4 6
3 7 13 3 3 8

p < 0.05

Figure 3 サブタイプ分類間でのスコア別頻度

有意差のみられた核の大きさ,核形不整,クロマチンの性状,核の大小不同について,サブタイプ別に,項目ごとのスコア別出現頻度を棒グラフで示す。

IV  考察

これまでに細胞像を核グレードや組織学的グレードと比較した報告7),8)はあるが,細胞像をサブタイプ分類と比較検討した報告はみられない。そこで今回,サブタイプ分類と細胞像の関係を検討し,細胞診の役割について考えてみた。

核異型度の6項目のスコアや腺管形成度のスコアおよびスコアの合計(7項目のスコアの合計は8~15の範囲となった)と,サブタイプ分類との比較結果から,luminal A-like,luminal B-like(HER2 negative)群と,luminal B-like(HER2 positive),HER2 enriched,triple negative群の2群に大別が可能で,各々のグループで細胞像が異なると考えられた。

それぞれの群での細胞像を詳細にみていくと,luminal A-like,luminal B-like(HER2 negative)群ではスコアの合計が12以下のものが80%を占め,なかでも8,9と低いものがluminal A-like,luminal B-like(HER2 negative)群に多くみられた。特にスコアの合計が8と最も低いものはluminal A-likeのみで見られ,核が小型で大小不同に乏しく,クロマチンの性状が細顆粒状の細胞は特徴的な所見であると考えられた。Luminal B-like(HER2 negative)でも核が小型で,核の大小不同に乏しく,クロマチンの性状が細顆粒状の細胞が出現しているが,luminal A-likeに比べ出現率は低く,逆に核形不整がみられる細胞の割合が多かった。また,luminal A-likeでも核形不整がみられる細胞が約30%程度出現していることから,スコアの合計が9以上になるとluminal A-likeとluminal B-like(HER2 negative)を区別することは困難であった。

Luminal B-like(HER2 positive),HER2 enriched,triple negative群では,核が大型で核形不整および核の大小不同がみられる細胞が多かった。スコアの合計が9以下のものはほとんど出現しておらず,13以上が74%を占めた。このうちHER2 enrichedはスコアの合計の比較検討において,正の相関から逸脱する傾向がみられ,細胞学的に異質な傾向がみられた。要因の1つにサブタイプ分類の決定に使われるHER2の関与が考えられる。HER2の判定はHER2タンパク質の癌細胞の膜に対する染色性とその強度で決定される。一方,ER,PgR,Ki-67は癌細胞の核に染まり,陽性率で判定が行われ,同じ免疫組織化学染色でも判定方法が異なっている。HER2の発現がみられるのは,luminal B-like(HER2 positive)とHER2 enrichedの2つのサブタイプであるが,とくにHER2 enrichedはHER2の発現のみで決定されるため,他のサブタイプとは異質な傾向がみられたのではないかと思われる。Luminal B-like(HER2 positive)とtriple negativeの細胞像はともに核が大型で核形不整および核の大小不同がみられる細胞が多く,特にluminal B-like(HER2 positive)では全例が核形不整の強いスコア2の細胞だったが,核形不整のみでは両者の鑑別は困難であった。またスコアの合計でも3つのサブタイプ間に有意差はみられず,luminal B-like(HER2 positive),HER2 enriched,triple negativeのサブタイプを細胞像から推察することは困難であった。

以上より,7項目のスコアの合計が8より低く,核が小型で核の大小不同に乏しい,核異型の弱い細胞からなる浸潤性乳癌は全例luminal A-likeで,他のサブタイプは見られなかったことから,非常に高い確率でluminal A-likeの可能性が高く,細胞診は浸潤性乳癌の個別化治療においてluminal A-likeの判定に対して有用性があると考えられた。またスコアの合計が13以上で核が大型で核形不整および核の大小不同がみられる核異型の強い細胞からなる浸潤性乳癌は,約74%の確率でluminal B-like(HER2 positive),HER2 enriched,triple negativeのいずれかのサブタイプの可能性が考えられることもわかった。

また個々の細胞所見について考えた時,サブタイプ分類では核の大きさ,核形不整,核の大小不同が重要であった。この3項目は坂本ら7)が試みた細胞学的異型度分類の検討項目と一致し,小型で比較的均一な細胞と定義されたGrade 1はluminal A-likeに,大型細胞を含む大小不同の著しい細胞と定義されたGrade 3はluminal B-like(HER2 positive),HER2 enriched,triple negativeのいずれかに相当する細胞像と考えられた。また谷口ら8)は細胞異型の強い群は弱い群に比べてERの発現率は有意に低いと報告している。そこで,スコアの合計13以上を細胞異型が強い群,スコアの合計が9以下を細胞異型が弱い群として,それぞれの群でER negative群(HER2 enriched, triple negative)の件数をみてみると,異型の強い群では14/23(約61%)件,異型の弱い群では1/17(5%)件となり,ER発現率はサブタイプ分類でも,同様の結果となった。

以上から,細胞の核異型度とスコアの合計は病理組織診の核グレードや組織学的グレードだけでなく,サブタイプ分類にも関連性があることがわかった。

V  結語

昨今の乳癌は個別化治療が進み,内分泌療法,化学療法,抗HER2療法の単独あるいは組合せによる推奨療法が行われている。これらの治療には,遺伝子発現プロファイリングに基づくintrinsic subtype分類が有用だが,再現性やコストの関係から本邦では,免疫組織化学染色による代替的intrinsic subtype分類が行われている。サブタイプを決定するためには免疫組織化学染色が必要であることから,細胞診が軽視される傾向にあるが,今回の検討で,スコアの合計と細胞の核異型度はサブタイプ分類と関連性があり,浸潤性乳癌の個別化治療において,細胞診はluminal A-likeの判定に有用性があると考えられた。Luminal A乳癌は予後が良いため,内分泌療法が行われ,化学療法はほとんど必要としない。それ以外のサブタイプでは化学療法や抗HER2療法が併せて行われ,治療に差がある。中でもtriple negativeは予後不良とされるものが多いことから,細胞診の日常業務において単に悪性と報告するだけでなく,出現している細胞の大きさと異型度を合わせて報告することが重要である。

 

検体使用に関しては大阪回生病院倫理委員会規定に則り審査が行われ,平成29年9月4日に承認を得ている(倫理委員会番号 第17-13号)。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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