2020 Volume 69 Issue 4 Pages 683-688
骨髄性プロトポルフィリン症(EPP)は,ヘム合成経路のフェロケラターゼ(FECH)の活性低下によりプロトポルフィリンIXが蓄積して発症する不完全常染色体顕性遺伝性疾患であり,光線過敏症を契機に発見されることが多い。今回,EPPが疑われた光線過敏症を呈する10歳代男児について,血液検査ならびに赤血球光溶血試験,赤血球蛍光試験を施行した。血液検査で異常所見は認められなかったが,赤血球光溶血試験,赤血球蛍光試験ともに陽性であった。追加検査では赤血球中プロトポルフィリン体のみが高値であり,他のポルフィリン体は正常値であることからEPPと診断された。また,遺伝子検査でFECH遺伝子にexon6 c.683C>T(p.Pro228Leu)をヘテロ接合体に認め,遺伝子多型IVS3-48Cが変異アリルの対側にある発症パターンであった。赤血球光溶血試験と赤血球蛍光試験を自施設で施行したことでEPPの早期診断に繋がった症例である。
Erythopoietic protoporphyria (EPP) is an incomplete autosomal dominant disorder caused by an accumulation of protoporphyrin IX (PpIX) due to an impaired activity of ferrochelatase (FECH) in the heme synthetic pathway. EPP is often found in association with photosensitivity. Blood tests including an erythrocyte photohemolysis test (EPT) and an erythrocyte fluorescence test (EFT) were performed on a 10-year-old male with photosensitivity. In the patient’s erythrocytes, we observed hemolysis induced by sunlight in EPT and autofluorescence in EFT. Porphyrin analysis showed an increased level of protoporphyrin in erythrocytes, whereas the levels of other porphyrins were within normal limits. Hence, he was diagnosed as having EPP. Genetic analysis was performed and a point mutation was found in exon 6 of the FECH gene (c.683C>T, p.Pro228Leu) in heterozygotes, and a genetic polymorphism IVS3-48C was also identified on the contralateral side of the mutant allele. Taken together, we believe that in-house EPT and EFT should be performed, which could contribute to the early diagnosis of EPP.
ポルフィリン症は,ヘム合成経路(Figure 1)に関わる8つの酵素のいずれかにおいて,その活性が低下または欠損することによりポルフィリン体が皮膚,血液,肝臓などの臓器に蓄積することで発症する。現在,ポルフィリン症は大きく2つの病型に分類されており,光線過敏症などを呈する皮膚型ポルフィリン症と,消化器症状や神経症状などを呈する急性型ポルフィリン症に分類される。このうち,骨髄性プロトポルフィリン症(erythopoietic protoporphyria; EPP)は前者に分類され,フェロケラターゼ(ferrochelatase; FECH)異常により発症する不完全常染色体顕性遺伝疾患である。FECHはヘム合成経路の最終段階において,プロトポルフィリンIX(PpIX)に対し2価の鉄イオンをキレートしヘムを生じる反応を触媒する酵素であり,この活性低下によりPpIXが蓄積することで発症する。また,光線過敏症の他に貧血などの症状や重篤な肝機能障害が出現することがある1)。今回,自施設で施行した赤血球光溶血試験と赤血球蛍光試験がEPPの早期診断に繋がった症例を経験したので報告する。
太枠内をミトコンドリアでの反応,それ以外は細胞質での反応を示す。
患者:10歳代,男児。
主訴:顔面腫脹,手の痛み。
身体所見:前額部に小瘢痕が散在(Figure 2)。
全額部に認めた小瘢痕を示す。
併存歴:てんかんで近医にてバルプロ酸Naを服用しており,アトピー性皮膚炎で当院皮膚科に通院中。
家族歴:特になし。
現病歴:小学校1年生の頃,顔面浮腫で当院小児科を紹介されQuincke浮腫と診断されたが,春頃から日光にあたると顔と手が腫れてヒリヒリする症状を繰り返すため,再度当院小児科へ紹介となった。
臨床症状より,EPPを疑い血液検査ならびに赤血球光溶血試験と赤血球蛍光試験が施行された。
初診時血液検査所見では貧血や肝機能障害や溶血所見はなく,異常は認められなかった(Table 1)。
生化学 | 血液 | ||||
---|---|---|---|---|---|
T-Bil | 0.8 mg/dL | CRE | 0.47 mg/dL | RBC | 4.97 × 106/μL |
D-Bil | 0.3 mg/dL | Na | 142 mmol/L | Hb | 12.3 g/dL |
ALP | 745 U/L | K | 4.6 mmol/L | HCT | 36.8% |
AST | 21 U/L | Cl | 105 mmol/L | MCV | 74.0 fL |
ALT | 12 U/L | Ca | 9.8 mg/dL | MCH | 24.7 pg |
LD | 181 U/L | IP | 5.7 mg/dL | MCHC | 33.4% |
ChE | 341 U/L | T-cho | 130 mg/dL | PLT | 277 × 103/μL |
γ-GT | 15 U/L | TG | 67 mg/dL | WBC | 6.7 × 103/μL |
AMY | 53 U/L | NH3 | 56 mg/dL | Neut | 35.0% |
CK | 66 U/L | CRP | 0.02 mg/dL | Eo | 11.0% |
TP | 7.1 g/dL | Glu | 96 mg/dL | Baso | 0.0% |
ALB | 4.4 g/dL | バルプロ酸 | 33.1 μg/mL | Mono | 9.0% |
BUN | 8.9 mg/dL | Lymph | 45.0% |
三浦ら2)の方法を参考として施行した。
対照用,患者用の生理食塩水10 mLを4本ずつ準備し,ヘパリン添加採血した対照健常者検体と患者検体の血液を1から4滴加えて,それぞれ4系列の赤血球浮遊液を作製し,試験管に約3.0 mLずつ分注した。それらを暗所放置,当院皮膚科の光線治療機(シネロン社製)を使用して15分間紫外線B波(UVB)照射,検査室内のガラス越しに太陽光が照射する場所で2時間太陽光照射する3条件を設定した。
その後,24時間暗所放置してから遠心を行い,上清の溶血の有無について肉眼的判定をした。また,540 nmにおける吸光度を測定し,精製水で溶血させた検体を100%として溶血度を求めた。
2. 赤血球蛍光試験対照健常者と患者の血液1滴をスライドガラスに滴下し,生理食塩水で2倍程度に希釈して蛍光顕微鏡下で赤血球の自家蛍光を観察した。
3. ポルフィリン分析外部検査委託会社(SRL社)へ委託し,高速液体クロマトグラフ(HPLC)にて施行した。
4. 遺伝子学的検査弘前大学大学院医学研究科皮膚科学講座 中野創先生へFECH遺伝子解析を依頼した。
肉眼的判定(Figure 3),溶血度(Table 2)から2時間太陽光照射をした患者検体にのみ溶血を認めた。
N:対照健常者検体,P:患者検体
A:太陽光照射,B:UVB照射,C:暗所
太陽光照射した患者検体に溶血所見を認める。
血液量 | 全溶血に対する溶血度(%) | |||
---|---|---|---|---|
①暗所 | ②UVB 15分 | ③太陽光2時間 | ||
患者 | 1滴 | 0.4 | 3.6 | 33.5 |
2滴 | 0.7 | 1.6 | 25.3 | |
3滴 | 0.6 | 1.2 | 20.8 | |
4滴 | 0.6 | 1.1 | 17.9 | |
対照 | 1滴 | 0.8 | 0.7 | 0.7 |
2滴 | 0.9 | 0.8 | 1.1 | |
3滴 | 0.8 | 0.7 | 1.0 | |
4滴 | 1.0 | 0.8 | 1.0 |
また,野中ら3)の報告では光照射検体と非光照射検体の吸光度の差を溶血度とし,0.050以上で陽性としている。このことから患者検体における太陽光照射検体と非太陽光照射検体の吸光度の差は4系列すべての検体で0.050以上であったため陽性と判断した。
2. 赤血球蛍光試験対照健常者検体の赤血球に自家蛍光を認めないのに対し,患者検体の赤血球に橙赤色の自家蛍光を認めた(Figure 4)。
N:対照健常者検体,P:患者検体
対照健常者検体の赤血球に自家蛍光を認めないのに対し,患者検体の赤血球に橙赤色の自家蛍光を認める。
赤血球光溶血試験,赤血球蛍光試験ともに陽性であったため,追加検査でポルフィリン分析と遺伝子検査を施行した。
赤血球中プロトポルフィリン体が高値(正常値:16~67 μg/dL),その他のポルフィリン体は正常値であったことからEPPと診断された(Table 3)。
赤血球中プロトポルフィリン(PP) | 1,787 μg/dL |
コプロポルフィリン(CP) | 70 μg/g·CRE |
ウロポルフィリン(UP) | 13 μg/g·CRE |
ポルフォビリノーゲン(PBG) | 0.9 mg/day |
δ-アミノレブリン酸(ALA) | 1.0 mg/L |
FECH遺伝子にexon6 c.683C>T(p.P228L)をヘテロ接合体に認め,遺伝子多型IVS3-48Cが変異アリルの対側にある発症パターンであった。
同時に行った家系調査では,母はFECH遺伝子変異を持つが対側アリルにIVS3-48Cを有さず無症候性キャリアであった。父と長男と三男にはFECH遺伝子変異を認めなかった(Figure 5)。
M:Mutation(p.P228L)
W:Wild type
T:IVS3-48T(normal expression allele)
C:IVS3-48C(low expression allele)
症例患者(■)にexon6 c.683C>T(p.P228L)をヘテロ接合体に認め,遺伝子多型IVS3-48Cが変異アリルの対側にある発症パターンを示し,母はFECH遺伝子変異を持つが対側アリルにIVS3-48Cを有さず,父と長男と三男にはFECH遺伝子変異を認めない。
今回,光線過敏症の患者に対して主治医からの要望で赤血球光溶血試験と赤血球蛍光試験を施行したところ,EPPの早期診断に繋がった症例を経験した。検査方法は,明確には確立しておらず文献等を参考にしながら施行した。
EPPで蓄積するPpIXの作用波長は400 nmをピークとして320–598 nmまでのUVAから可視光線に相当する光である4)。本症例の患者は紫外線曝露が増える春頃から皮膚症状を繰り返しており,光線曝露が誘因で発症したと考えられる。過剰な光線曝露では血中PpIXが上昇してしまうため,日光の暴露を避けるなどの治療方針が主となり,特異的な治療法はないとされる4)。βカロテンなどの抗酸化剤を経口投与することもあるが有効性を示すエビデンスはない4)。一方,硫酸亜鉛の経口投与が臨床症状の改善に有効であったことが報告されている4)。また,Harmsら5)は,MSHアナログ注射剤のアファメラノタイドが,EPP患者5例を含む試験において,60日の間隔をあけた2回の注射投与により患者の光耐性能が改善したと報告している。
EPPは,重篤な肝機能障害を合併することもあり,黄疸が進行するような症例の予後は不良とされるため肝機能検査は重要である4)。本症例は,初診時血液検査所見で肝機能障害は認めておらず,治療方針として徹底した遮光を行い,定期的な血液検査で肝機能障害の評価を行うこととなった。
EPPは,FECH遺伝子変異に加え,対側アリルにlow expression alleleを有した場合に発症する6)。Low expression alleleであるIVS3-48Cの発現頻度は白人の場合11.3%以下であるのに対し,日本人では43.3~45.2%と高く,日本人は白人よりも発症頻度が高いとされている7),8)。本症例は,家系調査で母にFECH遺伝子変異を認めており,遺伝性によるものだと考えられた。
Schneider-Yinら9)は,108例のEPP症例を解析し,ナンセンス変異やエクソン欠失など酵素活性が失われるような変異を持つ89症例中18例に肝機能障害を認め,一方でミスセンス変異を有する19例には肝機能障害を認めなかったと報告している。すなわち部分的な機能異常を呈するミスセンス変異よりも,酵素自体の欠損をきたすナンセンス変異およびエクソンの欠失は肝機能障害の併発リスクが高いと考えられる。このことから,ミスセンス変異(c.683C>T)を有する本症例は肝機能障害併発の可能性は比較的低いのではないかと考えられた。
近年,FECH遺伝子変異を認めない症例において,アミノレブリン酸合成酵素(aminolevulinic acid synthase; ALAS)のうち,赤芽球系に特異的に発現しているALAS2の活性上昇により発症するX連鎖優性プロトポルフィリン症(X-linked dominant protoporphyria; XLDPP)が報告されている10)。これはALAS2遺伝子変異によりALAS2酵素活性が亢進することで,赤芽球におけるポルフィリン産生が増加し,相対的にFECHの酵素活性が低下することでPpIXが蓄積するためであると考えられている。XLDPPでは,EPP同様に光線過敏症を呈し,赤血球光溶血試験と赤血球蛍光試験が陽性となる。また,赤血球光溶血試験が陰性で赤血球蛍光試験が陽性となる先天性骨髄性ポルフィリン症(congenital erythopoietic protoporphyria; CEP)との鑑別のため,ポルフィリン分析や酵素活性等を総合的に評価する必要がある。なお,本症例ではALAS2遺伝子変異は認めなかった。
赤血球光溶血試験は,三浦ら2)の方法を参考として施行した。本症例は,太陽光照射した患者検体に肉眼的溶血所見を認めたのに対し,UVB照射では肉眼的溶血所見を認めなかった。すなわち,太陽光中のUVBではなく,紫外線A波(UVA)が光溶血反応の原因であることが示唆された。太陽光中のUVAをPpIX が吸収して励起され,生じた活性酸素により光溶血反応が起こったと考えられる。
また,野中ら3)は,光照射検体と非光照射検体の吸光度の差を溶血度とし,0.050以上で陽性と報告している。本症例では,溶血度は全溶血に対する比とし,太陽光照射した患者検体に溶血度の増加を認め,患者検体における太陽光照射検体と非太陽光照射検体の吸光度の差は作製した4系列すべての検体で0.050以上であったため陽性とした。本試験は,特殊な器具を必要とせずに簡便に施行できるが,天候の変動による検査への影響が不明確であり,作用波長とされる320–598 nmの機器的な照射を検討する必要があると考えられる。
赤血球蛍光試験は蛍光顕微鏡下で赤血球の自家蛍光を観察する検査であるため,蛍光顕微鏡が使用可能な環境であれば比較的容易に施行できる検査方法である。
本症例を通して,赤血球光溶血試験と赤血球蛍光試験の両者がEPPに対して有用な検査であると考えられた。今後は検査方法を確立し,臨床側と連携しながら検査を実施できる体制を構築していきたい。
赤血球光溶血試験と赤血球蛍光試験はEPPの診断に有用であった。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
遺伝子解析を行っていただきました弘前大学大学院医学研究科皮膚科学講座 中野創先生に深謝致します。