Japanese Journal of Medical Technology
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Seasonal variations in exhaled nitric oxide (FENO) fraction
Tamami UENISHIKyoko IMACHOReona TSUCHIDATatsuhiko SASAKIManabu TAMAYAShiomi YOSHIDAFujio HIGUCHI
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2020 Volume 69 Issue 4 Pages 534-538

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Abstract

呼気一酸化窒素(FENO)値は以前よりさまざまな変動因子があるといわれているが,本邦において季節性変動などの環境因子を検討した報告は少なく,気管支喘息(以下,喘息)の病態把握に有用なバイオマーカーとしてのFENO値に影響を及ぼす患者背景について調べた。当院の入院および外来患者を対象に,2017年3月1日~2018年2月28日までにFENO測定を実施した396件の結果について,喫煙歴,性別,年齢さらには上位の3疾患群を後ろ向きに調査した。なお,測定機器はNIOX MINOを使用した。年齢と喫煙比較では,50~60歳代の男性が高く,非喫煙者より喫煙者のFENO値が高値を示した。季節を3~5月(春),6~8月(夏),9~11月(秋),12~2月(冬)と四半期毎に分類した場合,春と冬の2群で比較すると有意差を認め,冬より春のFENO値が高値であった。疾患別比較において,喘息,喘息及びアレルギー性鼻炎(以下,喘息 + アレルギー),喘息及び慢性閉塞性肺疾患(以下,喘息 + COPD)を併発している患者(喘息とCOPDオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap)を含む)のFENO値は春に高値となり,有意差を認めた。当院の検証においても春先にFENO値の変動を認め,海外の報告と一致する結果となった。今回の調査では,気道の炎症が季節性の増悪か花粉等の環境因子かは明確にはならなかったが,季節によってFENO値の上昇は充分考慮する結果であり,その背景には一部の喘息 + COPD患者の増悪が大きく影響していると考えられた。

Translated Abstract

The fraction of exhaled nitric oxide (FENO) is determined by various factors, but only a few studies have examined its environmental factors, which include seasonal variations in Japan. Therefore, to understand the pathology of bronchial asthma (hereinafter referred to as asthma), we investigated the characteristics of FENO as a useful biomarker of asthma. On the basis of the results of 396 FENO measurements performed from March 1, 2017 to February 28, 2018 on patients at our hospital, smoking status, sex, age, and three most common diseases were retrospectively investigated. NIOX MINO was used as the measurement device. Comparison of age and smoking status revealed that men in their 50s and 60s had higher FENO values, and smokers had higher FENO values than nonsmokers. When the seasons were categorized into four quarters, namely, from March to May (spring), June to August (summer), September to November (autumn), and December to February (winter), comparison of two groups (spring and winter) revealed a significant difference, with higher FENO values obtained during spring than during winter. Patients with asthma alone, those with asthma and allergic rhinitis (hereinafter referred to as asthma + allergy), and those with asthma and chronic obstructive pulmonary disease (hereinafter referred to as asthma + COPD, including asthma and COPD overlap) had significantly higher FENO values during spring. Examination at our hospital also confirmed that FENO values fluctuated during early spring, consistent with the findings described in international reports. In the present investigation, although it was unclear if inflammation of the respiratory tract was due to seasonal exacerbation or environmental factors, such as pollen, the results sufficiently reflected the seasonal increase in FENO values, and it appears that as a background factor, high FENO values were a major factor for the exacerbation of some cases of asthma + COPD.

I  はじめに

呼気一酸化窒素(FENO)測定は,気道上皮の好酸球性の炎症を反映する簡便で非侵襲的な検査である。呼気中の一酸化窒素(NO)は,誘導型NO合成酵素(inducible NO synthase; iNOS)の作用により,L-アルギニンからL-シトルリンへの変換過程で気道中の好酸球から産生することが知られており,特に喘息の病状評価や治療効果の判定に用いられる1)。日本では2013年にスウェーデンAerocrine社の測定機器が薬事承認され,保険診療の利用が可能となった。当院でも呼気一酸化窒素測定を開始し,喘息患者の気道炎症のモニターとして利用している。しかし一方で,年間を通して春先にFENO測定結果が高値であることの問い合わせが臨床より多くあった。花粉の飛散する時期にFENOの測定値が高値になる報告2)があるが,本邦において統計学的に基づいた季節性変動を含めた変動要因を調査した資料はあまり見受けられない。そこで,今回我々は自施設で,FENO測定の測定値に関与する変動要因について後ろ向き研究として検証を試みたので報告する。

II  方法

1. 対象

2017年3月1日~2018年2月28日 の間にFENO検査を行った当院外来および入院患者396名を対象とした。また,疾患別比較では上位3疾患とした。喘息のみの患者割合は17%(68人),喘息及び慢性閉塞性肺疾患(以下,COPD)は11%(45人),喘息及びアレルギー性鼻炎併発患者は8%(31人)であった。

なお,本研究におけるFENO値測定とその検討は当院臨床研究審査委員会の承認を受けている(No. 677)。

2. 機材・試料

測定機器としては呼気一酸化窒素濃度測定器であるNIOX MINO(Aerocrine(現CIRCASSIA)社製)を使用した。

3. 測定方法

FENO値はNIOX MINOを使用し,オフライン法によって測定した。測定方法は ATS/ERSガイドラインにアメリカ胸部疾患学会(ATS)及びヨーロッパ呼吸器学会(ERS)が推奨する標準測定法に従い,一定の呼気流量(50 mL/sec ± 10%)で10秒間呼出したのち,最後の3秒間のプラトー相の呼気を分析した。また,測定値は機器の取り扱い説明書に従って1回測定を結果とした3)。なお,測定室において一酸化窒素を発生させるおそれのある石油ストーブやガスコンロ等の設置はない。

4. 検討方法

季節比較について統計解析を試みた。方法はノンパラメトリック検定のクラスカル・ウォリスおよびマン・ホイットニーのU検定を用い,p < 0.05を統計学的に有意差ありと判定した。統計ソフトはエクセル統計 BellCurve for Excel(株式会社社会情報サービス)を使用した。

III  結果

1. 患者属性(喫煙歴・性別・年齢・疾患)

年齢別比較では,50~60歳代が最も多く全体の4割を占め,FENO値も高値であった。男女比は概ね同等で女性の中央値18 ppb(parts per billion)に対し,男性は26 ppbと高値を示した(p < 0.05)。また,喫煙歴においては喫煙者188人,非喫煙者133人,不明者75人で,喫煙者が23 ppbと最も高値であった(p = 0.046)。なお,喫煙者には,現喫煙者と元喫煙者を併せた(Table 1)。

Table 1  喫煙歴,性差,年齢差における有意性
喫煙歴 性差 年齢差
喫煙者 非喫煙者 不明者 男性 女性 ~20歳 21~30 31~40 41~50 51~60 61~70 71歳~
中央値(ppb) 23 19 21 26 18 14 15 16 21 26 26 21
人数 188 133 75 208 188 4 18 27 58 53 104 132

疾患別比較では,上位3疾患である喘息患者,喘息 + COPD患者,喘息 + アレルギー性鼻炎患者を比較した(Table 2)。さらに,3疾患を季節ごとに分類し検討を行ったところ,全疾患の中央値21.0 ppbと比べ,喘息 + COPD患者の春の中央値は88.5 ppbと高値で有意差を認めた(p = 0.018)(Figure 1, 2)。

Table 2  喫煙歴,性差,年齢差における有意性 疾患別比較
喘息
喫煙歴 性差 年齢差
喫煙者 非喫煙者 不明者 男性 女性 ~20歳 21~30 31~40 41~50 51~60 61~70 71歳~
中央値
(ppb)
30.520242720.520153224222321
人数282713343413515101618
喘息 + COPD
中央値
(ppb)
2925112921.521.52957.520
人数411335100002131020
喘息 + アレルギー性鼻炎
中央値
(ppb)
28.51841.53320818343334
人数12136131800176116
Figure 1 疾患別FENO中央値比較

疾患別にFENO中央値を比較した。

Figure 2 疾患別FENO中央値四季別比較

疾患別にFENO中央値を四季別に比較した。

2. 季節比較

全体を四季別に多重比較すると,季節において有意な差は認められなかった(Figure 3)。そこで,春と冬を比較しマン・ホイットニーのU検定を行うと,p = 0.040と有意に差を示した(Figure 4)。

Figure 3 四季におけるFENO値の季節性変動

FENO値の季節性変動を四季で比較した。

Figure 4 四季におけるFENO値の春と冬の中央値比較

四季におけるFENO値の春と冬の中央値を比較した。

IV  考察

患者属性として,全症例の年齢比較では加齢にともないFENO値の上昇を認め,51~70歳で26 ppbと有意に差を示した。71歳以上で中央値が低くなったが,実際に測定をする中で,高齢者では口がうまく閉じられず,測定結果が予想より低値であったり,感度以下となったりする例が見られた。男女比では三疾患群とも男性が高値であるが,過去の大規模な疫学調査によると,喫煙歴のある健常者では低下すると言われている。しかし,喫煙が気道の炎症のファクターとなりFENO値を一時的に上昇させるとの報告4)があり,平成30年度の成人喫煙率(厚生労働省国民健康栄養調査)は男性29%,女性8.1%であることからも,今回の男女の中央値の差は性差によるものではなく,喫煙習慣の男女差から起因した結果であると考える。また,喫煙歴比較ではp = 0.046となり喫煙者が有意に上昇を示す結果となった。喫煙はCOPDなどの慢性呼吸器疾患のリスクファクターとして知られているが,2004年のPiipariらの報告5)で気管支喘息発症の危険因子であることが示されており,今回の結果も矛盾するものではなかった。全データの中央値は21.0 ppbとなり日本呼吸器学会で推奨されているカットオフ値22.0 ppb6)に近い値となった。

疾患別比較において,喘息患者,喘息 + COPD患者,喘息 + アレルギー性鼻炎患者で有意な差は認めなかった。しかし,これら3群を四季で比較すると,喘息のみの患者群に比べると,喘息 + アレルギー性鼻炎疾患群では春,夏に分散が大きくなった。アレルギー性鼻炎の病態はI型アレルギーに属し,原因抗原は花粉やハウスダスト・ダニ等に起因するものが多い。また,アレルギー性鼻炎は抗原により反応が惹起されると,IL-3~5のサイトカインが発現増強され鼻粘膜のみならず,上・下気道や骨髄,血中にも好酸球性炎症を引き起こす。すなわち,喘息を発症していなくてもアレルギー性鼻炎がある患者には,気管支に好酸球性炎症をきたす7)ことでFENO値を上昇させると考えられる。特に本邦では季節性アレルギー性鼻炎において,春および夏に増悪する傾向にあることを加味すると,環境アレルゲンがFENO値の変動要因であることが示唆される。

また,喘息 + COPD患者群でも同様に春の分散が大きく,喘息 + COPD患者群の春の中央値は88.5 ppbと高値であった。そこで,春の中央値と夏・秋・冬の中央値を比較したところ,p = 0.018となり有意に差を認めた。このデータを鑑みると,単純に季節だけの影響によるものではなく,喘息 + COPD患者群の春のFENO値が極端に高く,それにより全体の季節比較に影響を与えたと考えられる。

喫煙が原因で炎症が生じるCOPDは喘息とは異なる機序であるため,FENO値の上昇をきたさない。しかし,昨今の研究によると,ACO(喘息とCOPDオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap))と呼ばれる喘息の特徴とCOPDの特徴を併せ持つ病態患者は症状が重症化しやすいと報告8)があり,一部の喘息 + COPD患者の増悪が大きく影響していると考えられた。また,他疾患(鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎やウィルス感染)においても容易に変動することで知られており,FENO測定は確定診断にはならない。したがって,喘息の診断にFENO値の上昇のみを根拠にすることなく,呼吸機能検査における可逆性試験など他の検査と組み合わせて評価する必要があると考えられる9)

季節性変動においては,過去の論文にもある通り,四季がある国において二峰性にFENO値が上がると言われている10)。今回のデータもそれを示唆する結果となった。

今回の検討において,1年分のデータを集計したが,治療中の患者も統計学的範囲内と考え,すべて含めた。そのため,偶発的に春先にFENO値が高い患者が受診していた可能性を否定できない。

しかしながら,1年分のFENO値の変動の記録として有意義な結果となったため,ここに報告する。

V  結語

本研究では,喘息病態の把握に有用なバイオマーカーとしてのFENOに影響を及ぼす患者背景及び環境由来因子について,四半期毎に比較した。患者背景としては,喫煙歴,性別,年齢において優位に差を示した。

また,喘息患者の併発疾患別比較を行ったところ,喘息 + COPD患者において,春に中央値が高く季節性の変動が示唆された。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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