Japanese Journal of Medical Technology
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Influencing factors for vascular endothelial dysfunction in healthcare workers: A study using blood-flow-mediated dilatation response
Erika MATSUZAKAMayumi ONISHIYoshitaka TAKAHASHIYukihiro SHIMIZU
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2020 Volume 69 Issue 4 Pages 652-659

Details
Abstract

動脈硬化性疾患(脳心血管疾患)による死亡は,日本の死因統計で全体の約24%を占めている。動脈硬化の進展を予防するためには,その発症を早期の段階で,精度・効率よくスクリーニングすること,すなわち,その初期段階で起こる血管内皮機能低下を捉えることが予防医学上重要である。生活習慣病や冠動脈疾患等を有する患者を対象にした血管内皮機能評価の報告は数多くあるが,日常,医療機関で働き,通院歴のない医療従事者(以下,医療従事者)での報告はされていない。今回我々は,血管内皮機能を反映する血流依存性血管拡張反応(flow-mediated dilation; FMD)検査を用いて,医療従事者における血管内皮機能を測定し,血管内皮機能低下に関与する各種血液データや身体所見および生活環境因子を解析した。その結果,医療従事者74名のうち27名(36%)で血管内皮機能の低下(%FMD値低下)を認め,その要因解析では,年齢,血圧,血糖値,喫煙など今までにも報告されている因子の関与が同様に示された他,正常範囲内であってもHDLコレステロール低値が%FMD値低下に単独で関与しており,血管内皮機能低下の早期診断に有用である可能性が示唆された。動脈硬化性疾患の発症を減らすためには,血管内皮機能低下の早期診断,早期介入が重要であり,これらの要因解析が高危険群の絞り込みに有用であると考えられる。

Translated Abstract

Death caused by arteriosclerotic diseases accounts for 24% of mortality cases according to the statistics of Japan. To prevent the development of arteriosclerosis, screening for the early detection of the deterioration of vascular endothelial function, which occurs at the early stage of arteriosclerosis, with high accuracy and efficiency is important. There have been many reports on the evaluation of vascular endothelial function in patients with lifestyle-related diseases and coronary artery disease. However, no survey of healthcare workers who work daily at medical institutions has been reported yet. In this study, we evaluated the vascular endothelial function in healthcare workers by blood-flow-dependent vasodilator response (FMD) tests. We then analyzed the relationship between the FMD test results and the blood data, physical examination findings, or living environmental factors. Twenty seven of 74 subjects showed decreased vascular endothelial function (decreased %FMD value). In the analysis of influencing factors in those individuals, previously reported factors, such as age, blood pressure, blood glucose level, and smoking, were also found to be associated with vascular endothelial dysfunction in our study. In addition, low serum levels of HDL cholesterol were shown to be associated with decreased %FMD values even when they were within the normal range, suggesting that these tests may be useful for the early diagnosis of vascular endothelial dysfunction. To reduce the incidence of atherosclerotic diseases, it is important to diagnose through a screening for those influencing factors and intervene early to prevent vascular endothelial dysfunction.

I  はじめに

超高齢化社会を迎え,動脈硬化性疾患(脳心血管疾患)による死亡は,日本の死因統計で全体の約24%を占めている。従って,その発症を早期の段階で,精度・効率よくスクリーニングすることが予防医学上,重要である。

動脈は,内側から内膜・中膜・外膜の3層構造からなり,血液と直接,接する最内層を覆っている細胞層が血管内皮細胞であり,血管壁と血管内腔のバリアーの役割をしている。正常な血管内皮は,血管弛緩作用,抗凝固・線溶作用,抗炎症作用,抗酸化作用など様々な機能を有し,血管トーヌスや血管構造の調節や維持に働いている。これらの血管内皮機能は,動脈硬化の初期から障害を受けることが知られている1)~3)

血管内皮機能の評価には,アセチルコリンなどの血管作動性物質を用いる侵襲的な方法1)や,5分間の前腕駆血後の反応性充血による血管内皮依存性の血流増加反応を上腕動脈血管径や血流量の変化で評価する非侵襲的な方法がある1)。日常臨床では後者の超音波法による血流依存性血管拡張反応(flow-mediated dilation; FMD)検査が繰り返し行えることから多く用いられている。FMD検査は,阻血状態から動脈血流開放することで短時間に上腕動脈の血流が増加(反応性充血)し,血管内皮へのずり応力(shear stress)が増大することによって,一酸化窒素(以下,NO)に代表される血管拡張物質が上腕動脈内皮細胞から放出され,血管平滑筋細胞に作用し上腕動脈拡張が起きる4)という血管拡張反応を評価する検査である。導管動脈レベルでの内皮依性血管拡張反応は主に,NOが主体と考えられており,血管内皮細胞機能が低下するとNO産生が障害されて,血管弛緩反応の低下が起きると考えられている1),5)

従来,糖尿病や脂質異常症,高血圧,冠動脈疾患等を有する患者の血管内皮機能が非疾患群と比較して低下(FMD低値)しているとの報告や,運動療法や薬物療法等の介入前後の比較で血管内皮機能の有意な改善(FMD値改善)を認めたという報告は数多くある6)~8)。しかしながら,通常勤務している医療従事者における血管内皮機能低下の頻度に関しては今まで報告がない。

今回我々は,医療従事者にFMD検査を測定し,血管内皮機能低下に関与する各種血液データや身体所見および生活環境因子を解析した。

II  対象・方法

1. 対象

2018年6月~2019年7月に,当院職員健診受診時に自発的参加かつ同意の得られた35歳~61歳までの職員74名(男性14名,女性60名)を対象とした。職員の平均年齢は,全体48.0 ± 7.2歳,男性46.0 ± 6.8歳,女性48.5 ± 7.2歳(Table 1)であり,職種別の内訳は,医師2名,看護師34名,その他のコメディカル(薬剤師,放射線技師,臨床検査技師など)32名,事務職6名だった。なお,対象とした職員はいずれも生活習慣病に関連する通院治療歴はなく,通常に勤務していた。

Table 1  被験者背景(平均 ± 標準偏差(範囲))
年齢(歳) 人数(名) BMI(kg/m2 収縮期血圧(mmHg) 拡張期血圧(mmHg) 平均血圧(mmHg)
全体 48.0 ± 7.2(35–61) 74 21.6 ± 3.0(16.6–34.6) 114 ± 12.8(88–144) 74 ± 9.8(55–102) 88 ± 10.3(66–115)
男性 46.0 ± 6.8(37–58) 14 22.4 ± 2.6(17.2–27.7) 122 ± 10.9(100–142) 79 ± 10.9(60–102) 93 ± 10.5(73–115)
女性 48.5 ± 7.2(35–61) 60 21.5 ± 3.0(16.6–34.6) 112 ± 12.5(88–144) 73 ± 9.3(55–94) 86 ± 9.8(66–111)

BMI:Body Mass Index=体重(kg)/身長(m)2

なお,本研究は,当施設の医療倫理委員会で承認を受けて実施した(当施設承認第213号)。全ての検査結果は職員健診結果と合わせ,対象者へフィードバックし,治療や生活習慣改善が必要な場合は個別に対応した。

2. 方法

1) FMD検査

測定機器は,超音波診断装置 ARIETTA S70(N0.205Q9994),プローブはリニアプローブL441,プローブ保持器は,Ltd MP-PH0001,アームホルダーは,Ltd MP-AH0001-1(Hitachi Aloka Medical),圧力固定機器は,医用電子血圧計MIST-1000(サラヤ株式会社),血圧測定は,ワンハンド電子血圧計レジーナII(Kenz株式会社)を使用し,必要に応じて,枕やタオル,バンド等で腕と機器を固定した。

FMDの測定は基本的に「血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン」に記載されている方法に従い行った1)Figure 1A)。具体的には,安静臥位,約15分後,リニアプローブ(7.5 Hz以上)を用いて,eTRACKING(エコートラッキング)により安静時の右側上腕の血管径を1分間測定し,5分間加圧カフで前腕部を阻血圧迫(収縮期血圧+40~50 mmHg加圧)し,解除後の同部位の血管径変化を測定する。再検時は最低10分以上間隔を空けた。FMD値(%)は,(解放後の最大拡張血管径-安静時血管径)/安静時血管径 × 100として計算し,基準値は6%以上を正常とし,6%未満を血管内皮機能低下障害と判定した(Figure 1B)。

Figure 1 FMD検査の実際

A:FMD検査中の様子を示す。対象者ごとに枕やタオル,バンド等で固定する。

B:FMD血管径変化波形の結果画面を示す。上:正常例%FMD値6以上。下:血管内皮機能低下例%FMD値6%未満。矢印は解放後最大血管拡張反応を示す。

なお,FMD検査は手技が煩雑なため,本研究開始前に試験計測を繰り返し,計測間の誤差が10%以内で再現性が十分であることを確認した上で実際の測定を行った。また,測定条件統一のため,閑静な部屋で室温一定(24℃前後),空腹時または食後3時間以上空け,検査直前の運動や喫煙,カフェイン摂取休止,異なる日に反復検査する際は同じ時間帯に測定した。

2) 身体所見

年齢,性別,体重,BMI,体脂肪率,収縮期血圧,拡張期血圧は,職員健診時またはFMD検査実施日の直近に測定されたデータを用いた。平均血圧は収縮期血圧と拡張期血圧より計算式(拡張期血圧 + (収縮期血圧-拡張期血圧)÷ 3)にて算出した。なお,体重,BMI,体脂肪率は機種「TANITA TBF-215」を用いて測定した。

3) 生活環境因子

FMD検査実施前後で,当院聞き取り調査票(自記式問診票)にて,喫煙習慣(能動喫煙や受動喫煙),飲酒習慣,食好み,睡眠(よく眠れているか),運動習慣を調査した。

4) 血液検査データ

同施設内生化学室にて測定(SRL株式会社)した職員健診血液検査項目のうち,赤血球数,白血球数,血色素(Hb),血小板数,総コレステロール,LDLコレステロール,HDLコレステロール,LDL/HDL比,中性脂肪,non-HDLコレステロール,空腹時血糖値,HbA1c,AST,ALT,ɤGTP,尿酸,BUN,クレアチニン,eGFRの19項目と%FMDの相関を検討した。

また,同意の上,高感度CRPは改めて採血し,外注検査として委託会社(SRL)にて測定した。

5) 統計的解析

各指標の結果は,平均値 ± 標準偏差で表した。相関は,Pearsonの積率相関係数を用い,各群間指標の有意差検定はt検定,多変量解析はロジスティック回帰分析を用いて評価した。全ての統計学的有意差の判定基準は,p < 0.05とした。統計解析には,IBM SPSS Statistics Version 22を用いた。

III  結果

1) 病院職員における%FMD値

検査した医療従事者74名のうち,27名(36%)で%FMD値6%未満であり,血管内皮機能が低下していると診断した(Figure 2)。

Figure 2 当院に勤務している医療従事者における血管内皮機能の割合

医療従事者74名のうち,27名(36%)で血管内皮機能低下(%FMD値6未満)であった。

職種別では,看護師12名(35%),その他のコメディカル13名(41%),事務職2名(33%)と職種による有意な差は認めなかった。

2) %FMD値と理学所見との関連

%FMD値は年齢が上がるごとに,%FMD値は低下した(Figure 3)。また,収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧ともに,%FMD値と有意な負の相関を示した(Figure 4)。一方,性別,体重,BMI,体脂肪率と%FMD値とは有意な相関を示さなかった。なお,血圧が高値の人はいたが,今まで高血圧を指摘されたことがなく,通院治療を受けたこともなかった。よって,本研究の時点では高血圧症という診断がついている人はいなかった。

Figure 3 年齢と%FMD値の相関

年齢が上がるごとに,%FMD値が低下していた。

Figure 4 血圧と%FMD値の相関

血圧と%FMD値の関係を示す。A:収縮期血圧(mmHg)と%FMD値(r = −0.249, p = 0.032),B:拡張期血圧(mmHg)と%FMD値(r = −0.231, p = 0.048),C:平均血圧(mmHg)と%FMD値(r = −0.250, p = 0.032)(r:Pearsonの積率相関係数)

3) %FMD値と生活環境因子との関連

当院自記式問診票から,%FMD値と喫煙(能動喫煙)で有意差あり,能動喫煙の種類から,非喫煙者(n = 64),禁煙者(n = 4),喫煙者(n = 6)の3群に分けて3群間での%FMD値の群間比較を行ったところ,非喫煙者(平均%FMD値=7.2 ± 2.1)と禁煙者(平均%FMD値=5.5 ± 1.4),禁煙者と喫煙者(平均%FMD値=4.9 ± 0.9)では有意な差を示さなかったが,非喫煙者と喫煙者では明らかな有意差を認めた(Figure 5)。さらに,平均の%FMD値は,禁煙者においても6%未満と低下(平均%FMD値=5.5 ± 1.4)していることは,喫煙歴がある人は,たとえ禁煙しても血管内皮機能は低下している可能性が高いことを示唆している。

Figure 5 能動喫煙別にみた平均%FMD値

(T検定:*;p < 0.05 N.S.;非有意)

一方,飲酒習慣,食好み,睡眠(よく眠れているか),運動習慣など,その他の問診票項目と%FMD値との間には有意差を認めなかった。

4) %FMD値と血液検査データとの関連

調べた血液検査項目の中で%FMD値と有意な負の相関関係を示したのは血糖値のみ(p < 0.05)であり,HDLコレステロールは正の相関傾向(p = 0.069)を示した。その他の検査項目との有意な相関は示さなかった。なお,血糖値が126 mg/dL以上を示した人はいたが,HbA1cが糖尿病域の人はいなかった。

血液検査項目について%FMD値 6%以上の正常群と6%未満の血管内皮機能低下群の2群間で比較検討をしたところ,いずれも両群の平均値は正常範囲であったものの,HDLコレステロールと血糖値のみに有意差を認めた。一方,LDLコレステロールには有意差を認めなかった(Figure 6)。

Figure 6 血液検査データと%FMD値の関係

血液検査データと%FMD値の関係を示す。A:HDLコレステロール値(mg/dL)と%FMD値,B:血糖値(mg/dL)と%FMD値,C:LDLコレステロール値(mg/dL)と%FMD値,(T検定:**;p < 0.01 *;p < 0.05 N.S.;非有意)

5) 多変量解析による%FMD値に関与する因子の解析

多変量解析はロジスティック回帰分析を用いて,単変量解析で%FMD値と有意の関連を認めた年齢,HDL,喫煙,収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧,空腹時血糖値と%FMD値との関連を解析したところ,年齢(p = 0.007),HDLコレステロール(p = 0.031)と喫煙(p = 0.039)が有意に血管内皮機能低下(%FMD値6%未満)に関与する因子と考えられた(Table 2)。

Table 2  当院医療従事者の血管内皮機能低下(%FMD値6未満)に関与する因子の多変量解析(ロジスティック回帰分析)
血管内皮機能低下に関与する因子(p値)
年齢 0.007
HDL 0.031
喫煙 0.039
収縮期血圧 0.604
拡張期血圧 0.473
平均血圧 0.556
空腹時血糖 0.832

HDLコレステロールに関してROC曲線からカットオフ値を求めたところ(AUCは0.662),HDLコレステロールが60 mg/dL以下で感度89.4%,特異度40.7%で血管内皮機能低下を予測できることが推測された。

IV  考察

本研究では,動脈硬化初期病変として血管内皮機能を反映するFMD検査を用いて,医療従事者のFMD結果と,各種血液データや身体所見および生活環境因子との関連性について検討した。今回の検討では,医療従事者のうち約3名に1名の割合で,血管内皮機能(%FMD値)の低下を認めた(Figure 2)。職種による違いを認めなかったことから,医療従事者以外でも同様の傾向が認められる可能性を示唆しているが,今後,一般の健常者などでも測定し比較検討することが必要と考えている。

同時に行ったcardio ankle vascular index(CAVI)検査とFMD検査との関連性では,血管内皮機能低下群27名のうち,CAVI 9.0以上(動脈硬化)は 1名のみ(4%)であり,ほとんどの人は動脈硬化の初期段階であることが示された。これらのことは,医療従事者において動脈硬化の初期変化が起こっている人は少なくなく,その早期診断,早期介入が重要であることを示している。

加齢・性差は,冠動脈疾患や脳血管疾患などの動脈硬化性疾患の最も強い危険因子である9)。本研究でも,年齢は独立した危険因子であることが示唆された。一方,性別との関連性が認められなかったのは,男性の対象者数が女性と比べ少なかったためではないかと考えている。

血圧は,至適血圧(収縮期血圧120 mmHg未満かつ拡張期血圧80 mmHg未満)を超えて血圧が高くなるほどリスクが高くなる9)とされており,本研究でも,収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧の各血圧上昇が血管内皮機能低下の一因になると示唆された。

生活環境では,喫煙者群では,非喫煙者と比較して有意に%FMD値の低下を認めた。禁煙者群との有意差は示さなかったものの,能動喫煙が,たとえ禁煙していても,血管内皮機能を低下させる要因の一つになると考えられた。喫煙が用量依存性に動脈硬化性の危険因子であることは,国内の検討においても多くの研究報告9)~13)があり,今回の我々の結果はそれらと一致している。さらに,受動喫煙も用量依存性にFMDを低下させるとの報告もあり14),また冠動脈疾患や脳卒中の危険因子であることも知られているため9),我々は問診票で受動喫煙の有無を調査し%FMD値との関連を調べたが,今回の解析では有意差を認めなかった。受動喫煙は能動喫煙と異なり,煙を吸い込むという状況に差が大きいため,全体としては有意差を認めなかった可能性がある。今後,受動喫煙の定義や規準を明確にしてさらに検討することによって差が明らかになってくる可能性があると考えている。

血液検査20項目と%FMD値の関連性に関する単変量解析では,空腹時血糖値とHDLコレステロールで統計学的有意差を認めた。糖尿病は動脈硬化性疾患の危険因子であることは知られており9),15),16),2型糖尿病患者における血管内皮機能評価や関連因子との報告は数多くある17)。その他,持続的な高血糖状態よりも,酸化ストレスを増大させる食後高血糖や血糖の変動が,血管内皮機能障害に関連するとの報告18)もある。今回の研究では糖尿病の人は含まれていないが,糖尿病でなくても,空腹時血糖が高めであるだけで血管内皮機能が低下する可能性があることを示唆している。多変量解析では有意な関連性は認められなかったが,今後,症例を増やしてさらに解析していきたいと考えている。

一方,高感度CRP値は動脈硬化性疾患の危険因子となりうることが近年報告19),20)されているが,本研究における医療従事者での解析ではFMD検査結果との関連性は認められず,高感度CRP値が血管内皮機能低下を鋭敏にあるいは特異的に診断できる検査とは言えないという結果になった(結果の表示は省略)。その原因としては,FMD検査は,血管内皮細胞からのNO産生による導管動脈主体の血管拡張反応を評価する方法であり血管内皮特異性が高いが,高感度CRPは,動脈硬化だけでなく他の部位の慢性炎症に対しても鋭敏に反応し変動するためではないかと考えている。

HDLコレステロール低値は冠動脈疾患や脳梗塞の発症リスクとなり,逆に高いほどリスクが減少する21),22)。アジア地域においては,LDLコレステロールや中性脂肪が正常域であっても,HDLコレステロールのみが低下する場合にはリスクになるとの報告があるが23),日本人に限った研究では,HDLコレステロールのみ低くてもリスクにはならないとする報告もある24)。本研究では,ほぼ全対象者においてHDLコレステロール値は正常範囲内であったが,血管内皮機能低下群では正常群と比べ有意にその値が低いとの結果が得られ,多変量解析でも同様に有意の関連を認めた。一方,動脈硬化が比較的進行していない脂質異常者患者において,LDL/HDLコレステロール比が血管内皮機能障害に有用であるとの報告25)があるが,今回の研究ではLDL/HDLコレステロール比やLDLコレステロール値は血管内皮機能との関連が認められず,HDLコレステロール低値は,それ単独で動脈硬化の初期変化と関連していると考えている。ROC曲線にてカットオフ値を60 mg/dL以下と設定したところ感度89.4%で血管内皮機能低下が予測されるとの結果が得られたが,AUCは0.662であり,また特異度は40.7%と低いことから,今後症例数を増やしてさらに検討していく必要がある。

V  結語

今回の研究で,医療機関で働く医療従事者のうち,約3名に1名の割合で血管内皮機能の低下(%FMD値低下)を認めた。血管内皮機能低下には,年齢,血圧,血糖値,喫煙など今までも指摘されていた因子の関与が今回の解析でも同様に示された他,正常範囲内であってもHDLコレステロール低値が関与していることが示されたことは,HDLコレステロール値が血管内皮機能低下の早期診断に有用である可能性を示唆している。心血管・脳血管疾患の発症を減らすためには,今回の要因解析の結果により血管内皮機能低下の高危険群を絞り込みながら,早期診断と早期介入を積極的に行っていくことが重要であると考えている。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本研究にあたり,被験者協力頂きました南砺市民病院,南砺市訪問看護ステーションの職員の皆様をはじめ,ご指導ご助言を頂いた多くの関係者の皆様に深謝致します。

文献
 
© 2020 Japanese Association of Medical Technologists
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