Japanese Journal of Medical Technology
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Detection and estimation of urinary substances using a portable ultraviolet lamp (black light) (III): Fluorescent substances in urinary sediments
Akira TAKIZAWAFumio SASAKIKazuhiro KOIKEShunji OKUDANobutaka OSAWA
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2020 Volume 69 Issue 4 Pages 640-645

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Abstract

我々は,尿遠心上清液中に24種類の蛍光物質の検出,確認し報告している。今回,尿沈渣中に蛍光を持つ結晶(無晶性尿酸塩,尿酸アンモニウム塩,尿酸),精液や糞便由来と思われる植物繊維,ムコ多糖体様物質,花粉などが蛍光を持つことを確認した。尿沈渣から分離精製した無晶性尿酸塩,尿酸結晶などのブタノール抽出液の蛍光スペクトル分析,薄層クロマトグラフィー(thin-layer chromatography; TLC)分離から,これらの結晶に4~7種類の蛍光物質の存在を確認した。これらの蛍光物質は結晶や結石形成時,尿の上清液中に存在する蛍光物質が取り込まれたものであると推察した。

Translated Abstract

We have already reported 24 fluorescent substances that we identified in urinary supernatant. Some fluorescent crystals and stones (e.g., sodium urate, ammonium urate, and uric acid), and mucopolysaccharide-like substances, plant fibers, and pollen are present in urinary sediments. By fluorescence spectroscopy and thin-layer chromatography, we have additionally identified 4–7 fluorescent substances in butanol extract from sodium urate and uric acid crystals and stones. The fluorescent substances in the crystals and stones may be incorporated during the formation of the crystals and stones within the urinary tract.

I  はじめに

尿中には色々な蛍光物質が存在することが知られている1)。多くはアミノ酸代謝物やその関連物質であると言われている。我々は,尿中に24種類の蛍光物質の存在を検出,確認し報告した2),3)。尿沈渣中の結晶に蛍光物質が存在するかどうかの報告例はほとんど知られていない。今回,尿沈渣中に蛍光を持つ結晶(無晶性尿酸塩,尿酸アンモニウム塩,尿酸),精液や糞便由来と思われる植物繊維,ムコ多糖体様物質,花粉などが蛍光を持つことを確認した。尿沈査から無晶性尿酸塩,尿酸結晶の分離・精製を行い,蛍光スペクトル分析やTLC分離から,これらの結晶中にどの様な蛍光物質が存在するか検討した。この研究は,施設の倫理委員会の承認のもとで行った(承認番号1)。

II  実験方法

1. 対象,検体

尿沈渣の材料は,学童二次検診の試験紙法で蛋白,糖,潜血検査が陰性を示した検体を用いた。また,無晶性尿酸塩,尿酸結晶中の蛍光物質の検討は,二次検診尿を冷蔵庫で2週間保存し尿中に生じた検体から採取したものを用いて行った。

2. 試薬と機器

EDTA-4Na(半井化学,特級),吸収スペクトルの測定:U-2810(日立ハイテクノロジーズ),蛍光スペクトルの測定:U-4000(日立ハイテクノロジーズ),蛍光検出用ブラックライト(ビオスコープ):BIO-1,主励起波長;350 nm,370 nm(アメニティー テクノロジ-),可視光・蛍光顕微鏡:BH2-RFCA(オリンパス),TLC分離用ケイ酸プレート:Silica gel 70 TLC Plate-Wako(和光純薬)を使用した。

3. 尿沈渣,精液,糞便及び野菜の沈殿部分に含まれる蛍光物質の検出,確認

尿(120名),精液(1名),糞便(2名),野菜(レタス),の遠心沈殿物の調製を以下の通り行った。学童尿10 mLを遠心用スピッツ管に分注し,500 g,5分間遠心し尿沈渣を得た。精液は生理食塩水で5倍に希釈した。糞便5 gに生理食塩水20 mL加え,スタラ-でペースト状に溶解した。1,500 g,10分間遠心分離し,精液及び糞便の沈殿物を得た。野菜(レタス)10 gを細切にして生理食塩水5mL加えホモジナイズした。500 g,10分間遠心し沈殿物を得た。

4. 無晶性尿酸塩,尿酸結晶に含まれる蛍光物質のブタノール抽出,吸収・蛍光スペクトルの測定,TLC分離

無晶性尿酸塩,尿酸結晶は学童尿から集めた。無晶性尿酸塩,尿酸結晶沈殿物の分離・精製,溶解及びブタノール抽出はTable 1の通り行った。

Table 1  無晶性尿酸塩,尿酸結晶の分離・精製及びブタノール抽出操作
無晶性尿酸塩(6名),尿酸結晶(10名)
1,500 g-10 min.
遠心沈殿物のプール,沈殿物の2回洗浄(生理食塩水)
1,500 g-10 min.
洗浄沈殿物の溶解(10%EDTA-4Na液:pH 10調製液)
1,500 g-10 min.
溶解液をpH 5~6に調製(0.3 M-HC 1液)
ブタノール抽出(溶解液と等量のブタノールで2回抽出)
濃縮乾固物の溶解(ブタノール/メタノール(1/1)1 mLで溶解)
 
吸収・蛍光スペクトルの測定,TLC分離

III  結果

1. 尿沈渣中の蛍光物質

顆粒状無晶性尿酸塩,尿酸アンモニウム,及び尿酸結晶などは,可視光検鏡では黄褐色又は黒褐色した顆粒や顆粒の集合体,結晶として観察された。蛍光検鏡では,無晶性尿酸塩の顆粒やその集合体は白色蛍光物として,尿酸結晶は白色及び黄緑蛍光色,尿酸アンモニウム結晶は青白蛍光色として観察された。尿中のシュウ酸カルシウム結晶,リン酸アンモニウムマグネシウム結晶,リン酸カルシウム結晶などの可視光観察では,透明結晶であり蛍光を示さなかった。糞便,精液由来と考えられる植物繊維やムコ多糖体様物質は青白蛍光を示した。これらの物質は糞便,精液及び野菜の沈殿物で再確認した(Figure 1, 2)。

Figure 1 可視光・蛍光顕微鏡による尿沈渣中の蛍光物質

1)試料:学童尿,2)倍率:×200,3)検鏡像:A.無晶性尿酸塩(黒色・黄褐色顆粒状物;白色蛍光色),B.尿酸結晶(黄褐色構造物;白色,黄緑蛍光色,シュウ酸カルシウム正方形八面体結晶(矢印);無蛍光),C.尿酸アンモニウム結晶(棘状円形黄褐色物(矢印);青白蛍光色,細菌尿,pH 8.2),D.杉花粉(矢印);青白蛍光色,細菌尿,pH 8.6)

Figure 2 可視光・蛍光顕微鏡による糞便,野菜,精液遠心沈殿物,及び杉花粉中の蛍光物質

1)試料:A.糞便,B.野菜(レタス),C.精液,D.杉花粉,2)倍率:×200,3)検鏡像:A.糞便(クロロフィル;赤色蛍光色,植物繊維;青白蛍光色),B.野菜(植物繊維,糸状繊維;青白蛍光色),C.精液(大小不同円形物;青白蛍光色)D.窓枠の塵に含まれた杉花粉(突起状円形物(矢印);青白蛍光色)

2. 無晶性尿酸塩,尿酸結晶中の蛍光物質

学童検診尿の内,遠心上清尿を冷蔵庫保存すると無晶性尿酸塩,尿酸結晶の析出が認められる検体があった。これらのプール尿から分離精製して得た無晶性尿酸塩,尿酸結晶のブタノール抽出液の吸収スペクトルでは,無晶性尿酸塩は350 nm以下に,尿酸結晶は450 nm以下に吸収ピークを認めた。また,蛍光スペクトルでは440 nm付近に蛍光ピークを認めた。これらの吸収ピークや蛍光スペクトル像は,対照プール尿や塩酸処理尿とほぼ同じパターンであった。

無晶性尿酸塩,尿酸結晶のTLC分離パターンは,無晶性尿酸塩では,h,i,j,oなど4つ,尿酸結晶では,さらにg,s,uなど7つの蛍光スポットを検出した。これらの蛍光スポットの一部は,先に我々が報告したプール尿や塩酸処理した対照尿との比較から3)コプロポルフィリンIII(h),ウロビリン(g, i),ゲンチジン酸(o)であろうと推定した(Figure 3)。

Figure 3 学童尿から分離精製した無晶性尿酸塩,尿酸結晶ブタノール抽出液の分光特性,TLC分離像

1)検鏡倍率:×200,2)TLC分離:展開溶媒系;ブタノール/メタノール/精製水/28%アンモニア水(80:10:10:1),展開時間:室温4時間,3)試料:①;塩酸処理尿-ブタノール抽出液(比較対照),②;プール尿-ブタノール抽出液(比較対照),③;無晶性尿酸塩,④;尿酸結晶

IV  考察

尿沈渣アトラスによると無晶性尿酸塩,尿酸,尿酸アンモニウム結晶の多くは黄褐色に着色していることが記載されている4)。臨床の場では,2,8-DHA結晶5),薬物(トスフロキサシン)6),キサンチン結晶7),なども黄褐色に着色していることが報告されている。ビリルビン結石やビリルビンに着色したシュウ酸カルシウム結晶も知られているが,ビリルビンは自家蛍光を持たないのでこれらの結晶は蛍光を示さないと思われる。

尿酸結石中の蛍光物質について,Pintoら8),9)は詳細に検討している。尿酸結石粉末のアルカリ抽出物をイオン交換カラムで分離し,蛍光を示す分画から分子量265の蛍光物質を分離した。この物質(Uricine)は2つのピロール環にメチル基,カルボキシル基が結合したジピロール化合物であると報告した。今回,我々は結晶中の蛍光物質をTLC分離で総括的に分離している。今後,このジピロール化合物がTLC分離で検出確認出来るか試みたい。

糞便,野菜中の赤色蛍光はクロロフィルによるものであり,植物繊維,花粉などの青色蛍光はβ-インドール酢酸,クマリン,クロロゲニン酸,カフェイン酸などによるとされている10)。今回,精液中にムコ多糖体と思われる蛍光物質を検出したが,どの様な蛍光物質であるのか検討する必要がある。

我々は無晶性尿酸塩,尿酸結晶の溶解剤に山田らの11)10%EDTA-4Na液を使用した。清水ら12)は市販尿酸一Naの過飽和溶液の再結晶時,溶液のpHの違いで様々な結晶構造体が形成されると報告した。尿沈渣には同一化合物による様々な結晶構造体が知られている4)。尿pHが結晶形成にどの様にかかわるのか興味が持たれる。

尿中結晶や結石に色々な有機化合物が含まれているという報告13)~17)が多数知られている。これらの化合物は結晶,結石形成時に取り込まれたものと考えられている。尿中蛍光物質の無晶性尿酸塩,尿酸結晶への取り込みも同じ機作が考えられる。今回の検討でシュウ酸カルシウム,リン酸アンモニウムマグネシウムなど無機物結晶は蛍光を示さなかった。有機物結晶である尿酸類結晶が何故蛍光を持つのか今後解明を行いたい。

V  結語

無晶性尿酸塩,尿酸結晶,尿酸アンモニウム結晶の多くは黄褐色に着色していることが知られている。これらの結晶は蛍光顕微鏡観察で蛍光を持っていることが明らかであった。尿沈渣中の糞便,精液由来と思われる植物繊維,花粉,ムコ多糖体様物質なども蛍光を示すことが明らかであった。今回,TLC分離で無晶性尿酸塩,尿酸結晶に数種類の蛍光物質を確認したことから,これらの結晶には遠心上清尿由来の蛍光物質を含んでいるものと思われた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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