Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Evaluation of basic performance and reference range of L-type WAKO ALP·IFCC reagent: Comparison between IFCC and JSCC methods of measuring alkaline phosphatase activity
Takeshi FUJIMOTOMasanori SHIROTAIsao AKIYAMAIsami TSUBOITadashi HOSHINO
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2020 Volume 69 Issue 4 Pages 577-583

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Abstract

アルカリホスファターゼ(ALP)活性測定は2020年4月1日よりJSCC法からIFCC法に変更される。そこで,LタイプワコーALP・IFCC試薬(富士フイルム和光純薬)を用いたALP活性測定の基礎的検討を行った。併行精度および再現精度はいずれの管理試料においても変動係数C.V.は1.4%以下と良好であった。ALP高値活性検体を用いて10段階の希釈直線性試験を行ったところ,762 U/Lまで測定可能であった。干渉物質はビリルビンF,ビリルビンC,乳ビおよびヘモグロビンは測定値に影響を認めなかった。現行試薬との相関において相関係数はr = 0.990と良好であったが,IFCC試薬のALP活性値は現行試薬の約1/3程度低値であった(回帰式:y = 0.344x + 0.58)。一方,回帰直線よりも低値に乖離したと考えられた7検体について,クイックジェルALP試薬(ヘレナ研究所)を用いたALPアイソザイム分析結果はALP5分画値が57%以上と小腸型ALP優位な検体であった。健常者におけるALP活性値の基準範囲は34~106 U/Lと算出された。LタイプワコーALP・IFCC試薬は日常の臨床検査に十分な性能を有していた。

Translated Abstract

The alkaline phosphatase (ALP) activity test was converted from the JSCC method to the IFCC method on 1 April 2020. We conducted a basic evaluation of ALP activity using “L-type Wako ALP·IFCC” manufactured by Fujifilm-Wako. Parallel-run precision and reproducibility for all control materials were good with a C.V. below 1.4%. The detection limit determined from dilution linearity using 10 dilution series of high-activity ALP samples was 1,762 U/L. There was no interference by bilirubin F, bilirubin C, chyle or hemoglobin. The correlation between currently used reagents was good with the correlation factor r = 0.990, but the correlation factor for IFCC reagent result was 1/3 lower, as determined with the regression equation y = 0.344x + 0.58. ALP isozyme analyses of seven samples using “Quick Gel ALP” manufactured by Helena showed a small divergence from the regression line and indicated that the ALP5 fraction was dominant (over 57%). The normal ALP activity range was calculated as 34–106 U/L. The results indicate that L-type Wako ALP·IFCC reagent has sufficient performance for routine testing.

序文

現在,国内のアルカリホスファターゼ(ALP)活性測定は小腸型ALP(ALP5)の反応性が高いJSCC法で測定されている。一方,海外では肝型ALP(ALP2)と骨型ALP(ALP3)に対して反応性が高くALP5の反応性を抑えたIFCC法が用いられている1)。ALP5の血中への出現は血液型によって異なり,AとAB型に比べてOとB型のSe(Fu2)が分泌型のヒトは,脂肪食摂取後にALP5が20~30%程度上昇することが知られている2)。IFCC法はJSCC法に比べALP5の反応性が低くなることより血液型や食事の影響が軽減され,臨床診断の混乱を軽減することが期待される。なお,現在のIFCC法の2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール濃度は1983年の350 mmoL3)から緩衝液の安定性向上を目的として750 mmoLに変更された処方となっている4)

2020年4月1日,国内ではALP活性測定法がJSCC法からIFCC法に変更される予定であり,現在はJSCCの酵素・試薬専門員会ALPプロジェクトが主体となって準備が進められている。なお,IFCC法の基準範囲は現行法の共用基準範囲の約1/3に相当する38~113 U/Lを用いることが推奨されている5),6)

今回われわれは,ALP活性測定法のJSCC法とIFCC法の比較検討を行った成績と職員健診検体を用いてALP活性値の基準範囲を求めたので報告する。

I  試薬・機器および測定原理

1. 測定試薬

1)LタイプワコーALP・IFCC(ALP・IFCC)(富士フイルム和光純薬)

  酵素キャリブレーター(IFCC表示値166 U/L)

2)LタイプワコーALP・J2(ALP・J)(富士フイルム和光純薬)

3)タイタンジェルS-ALP試薬(S-ALP試薬)(ヘレナ研究所)

2. 測定機器

1)JCA-BM 8060型自動分析装置(日本電子)

2)全自動電気泳動装置エパライザ2(ヘレナ研究所)

3. 測定原理

2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール緩衝液中で4-ニトロフェニルリン酸に試料を作用させる。試料中のALPの作用により,4-ニトロフェノールが遊離する。この4-ニトロフェノールの生成速度を測定することにより試料中のALP活性値を求める。

各試薬の緩衝液は次のとおりである。

ALP・IF:2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール緩衝液

ALP・J2:2-(エチルアミノ)エタノール緩衝液

なお,本検討に用いたJCA-BM 8060型自動分析装置における分析条件(分析パラメータ)をTable 1に示した。

Table 1  The analytical parameters for the enzymatic activity of ALP using Clinical Chemistry Analyzer JCA-BM 8060 (JEOL)
Items ALP·IFCC & ALP·J2
Main wave length (nm) 410
Analysis method RRA
Speciment volume (μL) 7.5
Reagent (R1) volume (μL) 60.0
Reagent (R2) volume (μL) 15.0
Calibration method STD

II  検討内容

1. 併行精度7)

低濃度Lは液状コントロール血清IワコーC&C(富士フイルム和光純薬),中濃度MはLiquichek Unassayed Chemistry Control (Human) 2(バイオラッドラボラトリーズ),高濃度HはL-コンセーラII EX「ニッスイ」(日水製薬)をそれぞれ20回測定し,変動係数(CV%)を算出した。

2. 室内再現精度7)

併行精度の検討に用いた中濃度(M)を,それぞれ5重測定し,15日間のCV%を算出した。統計ソフトJMP ver. 14(SAS)を用いて,15日間5重測定のコントロールデータの解析を行った。

3. 正確さ7)

常用参照標準物質:JSCC常用酵素(CRM-001d)を用いて,10回測定して平均値,標準偏差および変動係数を求め,CRM-001dの実測値がその95%信頼区間の上限値と下限値に表示値が含まれていることを確認した。

4. 希釈直線性

リニアチェックEnzyme(非売品:富士フイルム和光純薬)を生理食塩水にて10段階希釈して試料を調製し,2重測定した。

5. 共存物質の影響

自社管理用検体(ゴールデンウェスタンバイオ)

9容に干渉チェックAプラス(シスメックス)のビリルビンF(遊離型)およびビリルビンC(抱合型),ヘモグロビン,乳ビ成分をそれぞれ1容添加し,ALP活性値に及ぼす影響を検討した。添加0濃度の検体はサンプル9容に生理食塩水1容を添加した。なお,添加0濃度のALP活性値の10重測定の平均値を100%とした場合,±5%以内を測定値に影響がないと判断した。

6. 検出限界

ALP活性値として約5 U/Lに調整した血清試料を生理食塩水にて10段階希釈した試料を作製した。作製した試料を各10回測定し,測定値の平均値と標準偏差(SD)を算出した。生理食塩水の測定値の平均値 + 2SDと試料の測定値の平均値-2SDが重ならない最小濃度を検出限界とした。

7. 相関性試験

当社で受託した血清検体を匿名化した血清検体206例を用いて,ALP・IFCC試薬と比較対照としたALP・J2試薬との相関性を検討した。

8. ALPアイソザイム分析

相関性試験で乖離していると考えられた7検体について,S-ALP試薬と全自動電気泳動装置エパライザ2を用いて,15℃の温度条件下240 V,13分電気泳動後,酵素活性染色を行い,ALPアイソザイム分画値を求めた。

9. 健常者の基準範囲

社内の健康診断で肝機能,腎機能,脂質異常を認めず且つ同意書が得られた社員348名(男:155名;女:193名)の血清検体を用いてALP活性値の基準範囲を求めた。なお,統計ソフトはJMP ver. 14(SAS)を用いてノンパラメトリック法で計算した。

III  検討結果

1. 併行精度

低濃度(L),中濃度(M),高濃度(H)ともにC.V.は0.4~0.6%と良好な結果が得られた(Table 2)。

Table 2  Repeatability precision of ALP activity measured by ALP·IFCC
ALP·IFCC L M H
Mean (U/L) 72.5 176.1 403.6
S.D. (U/L) 0.5 0.9 1.6
C.V. (%) 0.6 0.5 0.4

(n = 20)

2. 室内再現精度

室内再現精度のC.V.は1.4%と良好な結果が得られた(Table 3)。

Table 3  Prediction values of the variance of control data measured by ALP·IFCC
Item Average (U/mL) S.D. (U/mL) C.V. (%)
Intermediate precision 172.6 2.48 1.4
Diurnal precision 172.6 2.30 1.3
Repeatability precision 172.6 0.93 0.5

3. 正確さ

CRM-001dを10回測定した平均値は154.4 U/Lであり,CRM-001dの表示値(153 ± 6 U/L)の範囲以内であった(Table 4)。

Table 4  Trueness measured by ALP·IFCC
Certified value (U/L) 153 ± 6
n 10
Average (U/L) 154.4
S.D. (U/L) 0.55
C.V. (%) 0.4
Relative error 1.4
95% confidence interval 153.3–155.4

4. 希釈直線性

リニアチェックEnzymeを用いた検討では1,762 U/Lまでは良好な希釈直線性が得られた(Figure 1)。

Figure 1 The linearity of ALP activity using diluted control serum

Fine linearity up to 1,762 U/L. (Sample: 2 times dilution of control serum by saline)

5. 共存物質の影響

ビリルビンFは20.2 mg/dL,ビリルビンCは20.7 mg/dL,乳ビは2,000 FTUおよび溶血ヘモグロビンは500 mg/dLまで影響は認められなかった(Figure 2)。

Figure 2 Effect of interfering substances on measurement of ALP activity

Dotted line: untreated mean value ±5%.

No influence by bilirubin, conjugated bilirubin, chyle and hemoglobin.

6. 検出限界

ALP活性値の検出限界は0.54 U/Lであった(Figure 3)。

Figure 3 Detection limit

Detection limit = 0.54 U/L. (Sample: 10 times dilution of serum by saline)

7. 相関性試験

214検体を用いた回帰式はy = 0.344x + 0.58,相関係数r = 0.990と良好な結果であった(Figure 4)。なお,乖離していると考えられた7検体(〇)を除いた207検体の回帰式はy = 0.356x − 1.39,相関係数r = 1.000であった。

Figure 4 Correlation of ALP·IFCC and ALP·J2 using clinical serum samples

Fine correlation between ALP·IFCC and ALP·J2 as correlation factor r = 0.990 and regression equation y = 0.344x + 0.58 (Serum sample: 214).

●: Specimens close to the regression line, ○: Specimens with deviation from the correlation line.

8. ALPアイソザイム分析

低値に乖離していると考えられた7検体のALPアイソザイム分析結果は,ALP5分画値が57%以上と小腸型ALP優位な検体であった(Table 5)。

Table 5  ALP isozyme of specimens with deviation from the correlation line
No. JSCC (U/L) IFCC (U/L) IFCC/JSCC ALP1 (%) ALP2 (%) ALP3 (%) ALP5 (%)
1 482 124 0.26 0.3 13.7 20.8 65.2
2 573 151 0.26 1.0 25.9 16.0 57.1
3 632 163 0.26 1.5 22.4 15.1 61.0
4 808 214 0.26 0.7 20.3 19.9 59.1
5 937 236 0.25 0.4 6.0 31.4 62.2
6 984 226 0.23 0.6 8.8 13.2 77.4
7 1,201 276 0.23 0.6 9.9 10.4 79.1
Reference range of ALP isozyme 0 36–74 25–59 0–16

9. 健常者の基準範囲

職員検診で健常と判定された348名(男:155名;女:193名)のALP測定値の基準範囲のパーセンタイル値による95%範囲は,JSCC法対応のALP・J2試薬で101~310 U/L,IFCC法対応のALP・IFCC試薬では34~106 U/Lと算出された。なお,Figure 5にALP活性値のヒストグラムを示した。

Figure 5 Frequency distribution of ALP activity

The standard range was calculated with 106 from 34 than the activity level of healthy persons using ALP·IFCC (n = 348).

IV  考察

IFCC法試薬であるALP・IFCC試薬の基礎的検討を行ったところ,精度(併行精度および再現精度)はC.V. 1.4%以内,検出限界は0.54 U/L,希釈直線性は調べた範囲で1,762 U/Lまでと良好な結果であった。ビリルビンFは20.2 mg/dL,ビリルビンCは20.7 mg/dL,乳ビは2,000 FTUおよび溶血ヘモグロビンは500 mg/dLまで影響は認められなかった。比較対照としてのALP・J2試薬との相関性も良好であり,ALP・IFCC試薬は日常検査に十分使用可能な性能を示した。

Figure 4に示した214検体を用いた相関の回帰式はy = 0.344x + 0.58,相関係数r = 0.990と良好な結果であったが,回帰直線よりも低値側に乖離していると考えられた7検体(〇)を除いた207検体の回帰式はy = 0.356x − 1.39であったことは日本臨床化学会酵素・試薬専門委員会ALPプロジェクトがJSCC法測定値からIFCC法測定値に換算する際の係数として提示した0.35と近似していることを確認した6)。また,乖離していると考えらえた7検体(〇)についてALPアイソザイム分析を行った結果,ALP5分画が57%以上と高値を示す検体であった。従って,ALP5が優位な検体ではJSCC法からIFCC法に試薬を変更して測定した場合はALP活性が低値になることが確認できた6)

ALP・IFCC試薬は緩衝液のpHが10.2(37℃)とALP・J2試薬のpH 9.9(30℃)に比べてよりアルカリ性であることから,自動分析装置において試薬の装置内保存による測定(オンボード)で測定する場合,空気中の二酸化炭素の吸収によるpH低下に伴うALP活性値の低下が懸念される8)。しかし,今回は検討を行っていないのでこの点については今後の課題としたい。ただし,当社総合研究所では1日当たりの受託検体数が多いために1~2日以内に試薬交換をすることから現時点において問題ないと考えられた。

IFCC法に試薬変更後は,疾患とは無関係に上昇する場合のALP5の影響が軽減されることが期待でき,肝・骨疾患に対する臨床的意義が向上するものと考えられる。また,妊婦の場合に妊娠週数が増すごとに上昇する胎盤型ALP(ALP4)の反応性がIFCC法はJSCC法と比較して高いことについてもALP5の反応性の違いと伴に臨床医への説明と注意喚起を十分に行う必要があると考えられた1),6)

健常者348名の基準範囲をノンパラメトリック法で算定したところ,ALP・J2試薬は101~310 U/L,ALP・IFCC試薬は34~106 U/Lと両試薬から求めた基準範囲はALP・J2試薬対してALP・IFCC試薬は1/3程度の値になっていた。この結果は日本臨床化学会酵素・試薬専門委員会ALPプロジェクトが推奨する基準範囲(38~113 U/L)6)より若干低値であったが,この点に関しては年齢構成や男女比などの母集団の違いと考えられた。

以上の結果から,ALP・IFCC試薬は日常的な臨床検査に用いることができる十分な性能を有していた。また,今後は国際的な治験にも対応できる試薬と考えられるため,海外との測定値が共有化でき利便性が高くなることが期待できる。

V  結語

LタイプワコーALP・IFCC試薬は今回の基礎的検討において良好な成績が得られたことから,日常検査に問題なく対応できる試薬である。また,基準範囲はALPプロジェクトが提示した値と近似していた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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