Japanese Journal of Medical Technology
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Original Articles
Characteristic aspects of the Montreal Cognitive Assessment-J in the differential diagnosis of cognitive impairments
Masako FUKUTAMasahiro NAKAMORIEiji IMAMURAKanami OGAWAMasami NISHINOAkiko HIRATAShinnichi WAKABAYASHI
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2020 Volume 69 Issue 4 Pages 527-533

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Abstract

認知症診療において臨床検査技師も積極的に神経心理学的検査を行うようになっている。その中に,軽度認知障害(mild cognitive impairment; MCI)の評価スケールとして開発された日本語版Montoreal Cognitive Assessment(MoCA-J)がある。今回,MoCA-Jの特性を検証するため,当院外来でMoCA-Jを施行した患者75名を対象とし,リスク因子との関連を頭部MRI所見を含めて後方視的に解析した。また認知症疾患ごとにMoCA-Jサブスコアでの検討を行った。平均年齢74.6 ± 9.1歳,MoCA-J中央値21(最小値8,最大値30)であった。認知機能正常者においてMoCA-Jと関連する因子の多変量解析を行ったところ,脳室周囲高信号域(periventricular hyperintensity; PVH)は有意に独立した相関因子であった。疾患毎のMoCA-Jサブスコアの比較を行ったところ,血管性認知症では注意・遂行において正答率の低値が認められた。また,記憶の正答率は認知機能正常者も含めてすべての群で低かったが,認知機能正常者,MCI,認知症の順で 顕著に低下していた。MoCA-Jは特に前頭葉機能を反映する注意・遂行の配点が高いことが特徴である。その点を踏まえて脳画像所見との比較や認知機能低下の鑑別に活用する意義は大きいと考えられた。

Translated Abstract

Recently, the Japanese version of the Montreal Cognitive Assessment (MoCA-J) has been disseminated as a screening method for patients with mild cognitive impairment (MCI). We investigated the relationship between MoCA-J and MRI findings in cognitively normal patients. In addition, we compared the subscores of MoCA-J among various patients with cognitive impairment. We enrolled 75 patients (age, 74.6 ± 9.1 years; 30 females) who visited the outpatient memory care ward from August 2018 to March 2019. The median MoCA-J score was 21 (minimum 8, maximum 30). Among cognitively normal patients (n = 39), periventricular hyperintensity (cerebral white matter lesions) on MR images was independently associated with the MoCA-J score by multivariate analysis. For subscores of MoCA-J, attention and executive function subscores were markedly lower in vascular dementia patients. However, subscores of memory were lower for all the subjects because the memory task was difficult. The MoCA-J score consisted of orientation, memory, visuospatial function, language, attention, and executive function. The proportions of attention and executive function were large, which can be used for the diagnosis of frontal lobe dysfunction. In addition, the memory task was difficult, which made it easier to detect slight memory loss. Because of these characteristic features, MoCA-J is useful for evaluating various cognitive impairments.

I  目的

高齢化に伴う認知症患者の増加は昨今社会問題として取り上げられ,さまざまな対策がなされているが,特発性正常圧水頭症や甲状腺機能低下症等,一部の治療可能な認知症を除き根治治療はいまだないのが現状である。しかし,早期発見と介入が患者ならびに家族の生活の質(quality of life)や予後に大きく影響するため,多職種連携による取り組みが求められている。日本臨床衛生検査技師会では,平成26年度より“認定認知症領域検査技師制度”が創設され,臨床検査技師も認知症に関する専門的な知識を有し,高い精度の臨床検査を行うことが求められるようになった。また,平成30年度診療報酬改訂により神経心理学的スクリーニング検査として用いられている改訂長谷川式簡易知能評価スケール(Hasegawa Dementia Rating Scale-Revised; HDS-R),ミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Examination; MMSE),前頭葉評価バッテリー(Frontal Assessment Battery; FAB)や日本語版Montoreal Cognitive Assessment(MoCA-J)に新たに80点の保険点数が附加されている。

神経心理学的検査は認知症を医師が診断する上で必須となる検査であり,中でもHDS-RやMMSEは日常診療で広く用いられている。また,時計描画テスト(Clock Drawing Test; CDT)は年齢や教育歴の影響を受けにくい検査として頻用されており,MMSEとの組み合わせで認知症の診断精度が向上すると報告されている1)

近年は,より早期,とりわけ認知症前段階からの早期発見と介入が重要視されるようになってきている。その中で,軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment; MCI)の評価スケールとしてMoCA-Jが用いられるようになっている2)。MoCA-Jは,HDS-RやMMSEと同様,30点満点で多領域の認知機能(視空間,遂行,注意,記憶,言語,見当識)について10分程度の短時間で評価することができるが,MCIの検出を意図して開発されていることが特徴である。しかし,その特性を脳画像所見や機能解剖,認知症疾患鑑別から十分に検証されているとは言い難い。そこで今回,MoCA-Jの特性を検証するために,今回外来でMoCA-Jを施行した患者において,リスク因子との関連を頭部MRI所見を含めて後方視的に検討した。また認知症疾患ごとの結果の相違をMoCA-Jサブスコアで比較し,下位項目ドメイン毎の配点比重や検査内容の観点から検証した。

II  対象および方法

1. 対象

平成30年8月1日~平成31年3月1日の間に当院外来を受診し,認知症疑いでMoCA-Jと頭部MRI検査を施行した患者75名を対象とし,後方視的に検討した。本研究は1964年ヘルシンキ宣言に基づき施行し,当院倫理委員会の承認(承認番号;2019-04)を得て行った。

2. 方法

患者背景として年齢,性別,教育歴,既往歴(高血圧,糖尿病,脂質異常症,心房細動)を用いて検討した。

MoCA-J検査は,神経心理学的検査経験4年以上の臨床検査技師が施行・評価を行った。MoCA-JはMCIの検出を意図して作成されたスケールで,6つの領域の認知機能(視空間,遂行,注意,記憶,言語,見当識)に集約される(Figure 13)。30点での評価であるが,認知症スクリーニングスケールであるHDS-RやMMSEと比較し,領域ごとの配点割合が異なっている。

Figure 1 MoCA-Jの評価項目と6つの認知機能領域

MoCA-Jの評価項目を左に列挙する。

6つの認知機能領域に集約され,各配点を示す。

頭部MRIは,1.5テスラ(Avanto, Siemens Healthineers社,Erlangen,ドイツ)を使用し,T1 weighted image(T1WI),fluid-attenuated inversion-recovery(FLAIR),T2 star weighted image(T2*WI)を撮像した。大脳白質病変の重症度は,Fazekas分類を使用し,脳室周囲高信号域(periventricular hyperintensity; PVH)と深部皮質下白質病変(deep and subcortical white matter hyperintensity; DSWMH)に分け,それぞれ4段階に分類した4)。今回はStaekenborgら5)の報告を参考に,grade 0,1を軽度,grade 2,3を重度とした。

Cerebral microbleeds(CMBs)は脳葉型と深部型に分けて,定性評価であり/なしと評価した6)

側頭葉内側面の萎縮の程度は,関心領域を海馬傍回に置いたT1強調画像をVoxel-Based Specific Regional Analysis System for Alzheimer’s Disease(VSRAD)解析してZスコアを算出した7)。ソフトウェアはVSRAD advance 2(エーザイ株式会社,東京)を使用した。

診断はアルツハイマー型認知症(Alzheimer’s disease; AD)8),MCI9)はNational Institute on Aging-Alzheimer’s Association(NIA-AA),血管性認知症(vascular dementia; VaD)は米国国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)とAssociation Internationale pour ‍la Recherché et l′Enseignement en Neurosciences(AIREN)による診断基準(NINDS-AIREN)10)をもとにした。また,混合型認知症(mixed dementia; Mix)は「複数の認知症疾患を併発したもの」と定義した。その他の認知症は上記いずれにも該当しないものとした。認知機能正常者は,ICD-10における認知症の診断基準を満たさず,認知機能障害が無いと診断された者とした。診断は2名の日本神経学会専門医によって行われた。

まず,正常と診断された症例に対して,リスク因子との関連を頭部MRI所見を含めて後方視的に検討した。次に疾患ごとにおけるMoCA-Jサブスコアの比較検討を行った。

得られたデータは平均 ± 標準偏差で示した。統計解析はMoCA-Jスコアと背景因子との関係を最小二乗法で検討した。まず単変量解析を行い,p < 0.20の因子で多変量解析を行った。疾患ごとのスコア比較は,analysis of variance(ANOVA)およびTukey’s honestly significant difference test(TukeyのHSD検定)で検討した。

なお統計処理は,統計解析ソフトJMP 13 statistical software(SAS Institute Inc, Cary, NC, USA)を用い,有意確率は5%未満とした。

III  結果

年齢74.6 ± 9.1歳,女性30名,AD 14名,VaD 6名,Mix 4名,その他の認知症3名(脳腫瘍,ビタミンB12欠乏症,原因不明),MCI 9名,認知機能正常者39名であった(Table 1)。Mixは全例ADとVaDの合併例であった。

Table 1  全症例の患者背景(n = 75)
年齢 74.6 ± 9.1
性別(女性),n(%) 30(40.0)
教育年数 12.6 ± 2.3
MoCA-J 20.1 ± 5.3
診断名 アルツハイマー型認知症 14(18.7)
    血管性認知症 6(8.0)
    混合型認知症 4(5.3)
    その他の認知症 3(4.0)
     MCI 9(12.0)
正常 39(52.0)

MoCA-J; Japanese version of Montoreal Cognitive Assessment, MCI; mild cognitive impairment

認知機能正常と診断された症例の患者背景を次に示す(Table 2)。年齢70.2 ± 8.8歳,女性15名,教育年数13.0 ± 2.3年,MoCA-J スコア中央値26(最小値24,最大値30),大脳白質病変のPVH重度15%,DSWMH重度14%,CMBsは脳葉型3%,深部型3%,VSRAD Zスコアは0.83 ± 0.64であった。

Table 2  認知機能正常と診断された症例の患者背景(n = 39)
年齢,平均 ± 標準偏差 70.2 ± 8.8
性別(女性),n(%) 15(38.5)
教育年数,平均 ± 標準偏差 13.0 ± 2.3
MoCA-J,中央値(最小値,最大値) 26(24, 30)
高血圧,n(%) 15(38.5)
糖尿病,n(%) 5(12.8)
脂質異常症,n(%) 12(30.8)
心房細動,n(%) 0(0)
PVH 重度,n(%) 15(38.5)
DSWMH 重度,n(%) 14(35.9)
脳葉型CMBs,n(%) 5(16.1)
深部型CMBs,n(%) 5(16.1)
VSRAD Zスコア,平均 ± 標準偏差 0.83 ± 0.64

MoCA-J; Japanese version of Montoreal Cognitive Assessment, PVH; periventricular hyperintensity, DSWMH; deep subcortical white matter hyperintensity, CMBs; cerebral microbleeds, VSRAD; Voxel-Based Specific RegionalAnalysis System for Alzheimer’s Disease.

認知機能正常と診断された症例におけるMoCA-Jスコアと相関する因子の検討を次に示す(Table 3)。単変量解析でMoCA-Jスコアと相関する因子(p < 0.20)として,教育年数,PVHが抽出されたがVSRAD Zスコアとの相関は見られなかった。次に抽出された因子で多変量解析を行ったところ,PVHは有意に独立した相関因子であった(p = 0.033)。

Table 3  正常と診断された症例におけるMoCA-Jスコアと相関する因子の検討(n = 39)
単変量解析 多変量解析
係数 p 係数 p
年齢 −0.071 0.263
性別(女性),n(%) 0.404 0.476
教育年数 0.350 0.150 0.410 0.119
高血圧,n(%) −0.138 0.809
糖尿病,n(%) −0.824 0.316
脂質異常症,n(%) −0.375 0.530
PVH severe,n(%) −1.318 0.031 −1.312 0.033
DSWMH severe,n(%) −0.698 0.269
脳葉型CMBs,n(%) −0.262 0.760
深部型CMBs,n(%) −0.454 0.596
VSRAD Zスコア −1.247 0.621

PVH; periventricular hyperintensity, DSWMH; deep subcortical white matter hyperintensity, CMBs; cerebral microbleeds, VSRAD; Voxel-Based Specific Regional Analysis System for Alzheimer’s Disease, *p < 0.05.

MoCA-Jサブスコアにおける疾患ごとの比較を次に示す(Figure 2)。グラフの縦軸は正答率を示す。ANOVAおよびTukeyのHSD検定で認知症疾患毎における総得点に統計学的有意差は認めなかった。VaDでは注意,遂行の領域において正答率がANOVAにおいて有意に低下しており(F = 5.85, p = 0.001; F = 2.62, p = 0.044, respectively),TukeyのHSD検定においてもADに比し有意な低下を認めていた(p = 0.045, p = 0.033, respectively)。また,6つの領域(視空間,遂行,注意,記憶,言語,見当識)のうち記憶の正答率は認知機能正常者も含めてすべての群で低かったが,認知機能正常者,MCI,認知症の順で顕著に低下していた。ANOVAにおいて有意に低下しており(F = 18.77 p < 0.001),TukeyのHSD検定においても,AD,MCIは認知機能正常者に比し有意な低下を認めていた(p < 0.001, p = 0.029, respectively)。

Figure 2 認知症疾患毎のMoCA-Jサブスコア

グラフの縦軸は正答率を示す。

AD; Alzheimer’s disease, VaD; vascular dementia, Mix; mixed dementia, MCI; mild cognitive impairment.

IV  考察

今回,MoCA-Jの特性を検証することを目的として,当院外来に認知症疑いで受診した患者でMoCA-J検査を施行し,リスク因子との関連を頭部MRI所見を含めて後方視的に検討した。また,疾患ごとにおけるMoCA-Jサブスコアの比較検討を行った。

MoCA-J評価スケールには,数字とひらがなを交互に結んでいくtrail makingや“か”で始まる単語を1分間に出来るだけ多く挙げる語想起課題,2つの単語がどのような点で似ているかを問う類似課題など,前頭葉機能(遂行機能)を評価するFABと類似した項目が含まれている。視空間機能を評価する時計描画では,輪郭,数字,針の3つの項目を採点していく。記憶評価課題は,HDS-R,MMSEと同様に複数の単語の即時記憶と計算等の負荷後の干渉後再生を評価するが,MoCA-Jは課題単語数が5個であること,干渉後再生までの負荷課題が多いこと,即時再生には配点がないことから,難易度がきわめて高い。全体としてHDS-RやMMSEに比べ,注意・遂行機能評価が多く盛り込まれている点,記憶評価課題の難易度が高い点が特徴といえる。

今回,認知機能正常と判断された例において,MoCA-Jスコアとリスク因子との関連を頭部MRI所見を含めて検討したところ,PVHが有意に独立した相関因子であった。PVH(白質病変)は,ラクナ梗塞,CMBsと並んで脳小血管病の指標マーカーの一つとされており,脳血管障害や認知症のリスク因子の一つである11)~13)。加齢や脳循環低下も白質病変を促進させる因子で,認知機能正常者でも多く認められる所見である14),15)。白質病変は病理学的に神経線維の脱髄とそれによる軸索障害を反映しており,種々の領域の認知機能の低下をもたらし,特に前頭葉機能を中心とした自発性,遂行機能,情報処理速度のスピードの障害を来たすとされている16)。今回認知機能正常者でMoCA-Jスコアと白質病変の相関がみられたのは,MoCA-Jが特に前頭葉機能を反映する注意・遂行の配点が高いスケールであることが影響しているものと推察された。認知症の有効な治療法が数少ない現在,より早期,とりわけ認知症前段階からの早期発見と介入が重要視されている。頭部MRIで白質病変を認めることはしばしば加齢性変化として介入されないことが多い。しかしながら今回の結果が示すように認知機能正常者とされる中において前頭葉機能の低下を潜在的に有している可能性がある。PVHのグレードが重度の人はMoCA-Jスコアが悪化している可能性があるので,MRI所見を加味して検査結果を解釈する必要がある。そして注意深い観察と血管病リスク因子の厳格な是正など介入の余地のあるものであることを示唆すると言える。

次に,疾患ごとにMoCA-Jサブスコアの比較検討を行った。VaDは注意・遂行の領域において正答率の低値が顕著であった。VaDでは脳小血管病を反映して前頭葉機能低下が強く見られるのが特徴であり,矛盾しない結果であった。今回Mixの症例はすべてADとVaDを併発したものであったにもかかわらず注意・遂行において有意な低値を認めていなかったのは,認知症疾患毎における総得点が同程度であったことを鑑みると,VaDの重症度が軽かったためではなかろうかと推察される。MoCA-Jは,VaDやDLB/認知症を伴うパーキンソン病(PDD)の早期検出に優れていると報告されているが17),18),これもMoCA-Jが注意・遂行といった前頭葉機能における評価点の割合が高いためと考えられる。本研究においてはDLB/PDDの患者が対象におらずlimitationである。今後これらの疾患も含めた検討が必要である。

また,6つの領域(視空間,遂行,注意,記憶,言語,見当識)のうち記憶の正答率は認知機能正常者も含めてすべての群で低く,難易度の高い課題であることが反映されているものと考えられるが,認知機能正常者,MCI,認知症の順で 顕著に正答率は低下した。このことは,既報のとおり初期のADやMCI due to ADの早期検出に優れたスクリーニング検査であることを支持する結果と言える19)

以上のような特徴から,MoCA-JはADをはじめ,種々の認知症の早期検出に有用なスケールであると考えられた。一方で,HDS-R,MMSEに比較するとやや煩雑で,特に中等度以上の認知症患者に施行する際は,説明を行っても検査内容を理解してもらうのが困難で,患者に相応の苦痛を与えることもある。そういう観点からも,MoCA-JはMCIや初期認知症患者に施行することが最も有用であると思われる。

V  結語

MoCA-Jは特に前頭葉機能を反映する注意・遂行の配点が高いことが特徴である。その点を踏まえて脳画像所見との比較や認知機能低下の鑑別に活用する意義は大きいと考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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