Japanese Journal of Medical Technology
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
Original Articles
Genetic analysis of Bm and ABm phenotypes
Rieko MAEJIMAKoki FUJIWARAKazuko OSONEHiromi NANBAHitomi NAGATOMOKengo NARITAHaruko TASHIRONaoki SHIRAFUJI
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 70 Issue 1 Pages 1-8

Details
Abstract

ABO血液型には多くの亜型が存在し,血清学的性状によって分類されている。ABO遺伝子解析において,多くの亜型ではエキソン6と7に変異を認めるが,日本人に多いBm型はエキソン6と7に変異を認めないため,従来の遺伝子解析ではB/Oと判定される。近年,Bm型にはイントロン1内のエンハンサー領域を含む5.8 kb,3.0 kbの欠失や転写因子結合モチーフの変異があることが解明され,この変異によりB抗原の発現量が減少することが報告されている。当院にて血清学的性状により,Bm型およびABm型と判定された17症例について,PCR-SSP法によりエンハンサー領域を含む欠失を認めるBm遺伝子の検出について検討した。血清学的検査ではすべての症例で吸着解離試験にてB抗原が証明され,PCR-rSSO法による遺伝子タイピングでは,16例がB/OもしくはA/Bと判定され,1例がA/Oと判定された。Bm遺伝子を検出するPCR-SSP法では,16例に5.8 kbの欠失が認められ,1例は,3.0 kb,5.8 kbどちらの欠失も認められなかった。Bm遺伝子が検出されなかった症例は,遺伝子タイピングでA/Oと判定されており,血液型キメラが疑われた。血清学的検査によりBm型またはABm型と判定された場合,ABO遺伝子解析にてBm型に特有な欠失を調べることは,血液型を決定する上で有用であった。また,血清学的検査と遺伝子解析に相違が認められた場合,フローサイトメトリーによる赤血球の抗原量解析の必要性が示唆された。

Translated Abstract

ABO blood types include many subtypes and are classified serologically. Variations of ABO blood group phenotypes have been reported predominantly at exon 6 or 7 of the ABO gene. The Bm phenotype is the most prevalent ABO subtype among Japanese individuals and it arises from the partial deletion of intron 1 of the B gene. The deleted region is 5.8 kb or 3.0 kb and includes a transcription enhancer element such as two GATA motifs. We genetically analyzed 17 patients with the Bm or ABm phenotype using PCR-SSP to detect 5.8 kb or 3.0 kb deletion, and PCR-rSSO to detect variations at exons 6 and 7 of the ABO gene. The 5.8 kb deletion was demonstrated in 16 patients. In the remaining patient, the A and O genes were detected by ABO genotyping using PCR-rSSO. It is very feasible to analyze genetically the ABO gene for the determination of the blood subtype, especially in patients with the Bm phenotype.

I  はじめに

ABO血液型検査のオモテ検査(赤血球と抗A,抗Bとの凝集反応),ウラ検査(血清中の抗A,抗Bの有無)の結果が一致しない原因として亜型が存在し,精査として赤血球と抗体試薬(抗A1,抗H,抗A,Bなど)やレクチン(Ulex,Dolichosなど)との凝集反応,不規則抗体検査,糖転移酵素活性測定,分泌型唾液中の型物質検査など血清学的検査によって分類されている1)~3)。また,フローサイトメトリーによるA,B抗原量の解析が行われ,亜型によって抗原量の違うことによりHistogramが異なることが明らかとなり,亜型の分類に応用されている4)~8)。Yamamotoら9)によってA糖転移酵素のcDNA塩基配列が決定されたことを契機にABO遺伝子解析が行われるようになり,亜型に分類された症例は,エキソン6,7およびスプライスサイトに塩基置換や欠失などの変異10),11),プロモーター領域やエンハンサー領域の変異などが報告され12)~14),抗原の発現量が低下する原因について解明されている。

亜型の中で日本人に多く検出されるBm型,ABm型はオモテ検査でO型もしくはA型,ウラ検査でB型もしくはAB型と判定される。Bm型,ABm型は抗原量が少ないためオモテ検査では抗B試薬に凝集を認めないが,吸着解離試験によりB抗原の存在が証明されることや糖転移酵素活性測定によりB糖転移酵素が通常のB型と同程度に検出されること,分泌型唾液中にB型物質が認められることからBm型と判定される。ABO遺伝子解析において,多くの亜型ではエキソン6,7に塩基置換や欠失などの変異を認める。しかし,Bm型,ABm型はエキソン6,7に変異を認めないことから,従来のABO遺伝子タイピング法ではB/OA/Bと判定されていた。近年,ABO遺伝子のイントロン1内に赤血球系細胞に特異的な転写制御領域(エンハンサー領域)が存在することが判明し12),Bm型はエンハンサー領域を含む5.8 kbまたは3.0 kbの欠失,もしくはエンハンサー領域内の転写因子結合モチーフの変異が認められることが報告されている12),15),16)。今回,当院において血清学的検査によりBm型およびABm型と判定された症例について,これらの変異のうちBm遺伝子に特異的な5.8 kbおよび3.0 kbの欠失について検討した。

また,Bm遺伝子が検出されなかった症例については,キメラが疑われたが,新たに検体を得ることができなかったため,人工キメラを作製して血清学的検査,ABO遺伝子解析およびフローサイトメトリーによる抗原量解析を行った。

II  方法

1. 対象

当院にて1998年から2018年に行った血清学的検査において,オモテ検査で抗B試薬に凝集を認めず,ウラ検査でB型もしくはAB型と判定され,吸着解離試験によりB抗原が証明されたBm型およびABm型17例を対象とした。

2. 材料

血液型検査用として提出された,抗凝固剤EDTA-2Kを用いて採血された末梢血を使用した。コントロールとして,A型およびB型,O型の健常人より抗凝固剤EDTA-2Kを用いて採血された末梢血を使用した。

3. 血清学的検査

1) ABO血液型検査

オモテ検査は,ガンマクローン®抗A,抗B(IMMUCOR GAMMA)またはオーソ®バイオクローン®抗A,抗B(Ortho Clinical Diagnostics)を用いてスライド法および試験管法を行い,ウラ検査はA1型赤血球,B型赤血球を用いて試験管法を行った。

2) 吸着解離試験

ヒト由来抗B血清(Ortho Clinical Diagnostics:凍結)またはオーソバイオクローン抗Bを使用し,ヒト由来抗B血清は56℃ 5分,バイオクローン抗Bは52℃ 10分で熱解離を行い,得られた解離液を3% A1型,B型,O型の赤血球浮遊液と反応させた。オーソバイオクローン抗Bを使用する場合は,陰性コントロールとしてO型赤血球,陽性コントロールとしてO型赤血球にB型赤血球を0.3%混合したものを同時に使用した。

3) 糖転移酵素活性測定

測定可能であった8例について,血漿中のB糖転移酵素活性をガルサーブ®AB(積水メディカル株式会社)を用いて測定した。

4. ABO遺伝子解析

血液型検査用に提出された末梢血の白血球よりQIAamp® DNA Blood Mini Kit(QIAGEN社)を用いてDNAを抽出した。ABO遺伝子タイピングはジェノサーチTM ABO(MBL社)を用いてPCR-rSSO法を実施した。Bm遺伝子に特異的な5.8 kbおよび3.0 kbの欠失についてはSanoらの報告したプライマー15)のうち,5.8 kbおよび3.0 kbの欠失を検出するPCR28と3.0 kbの欠失を検出するPCR29を用いてPCR-SSP法を実施した(Figure 1)。Table 1にプライマー配列を示す。

Figure 1 Schematic diagram showing the positions of primers used for detecting 5.8 kb deletion (Δ5.8) and 3.0 kb deletion (Δ3.0) in Bm gene by the PCR-SSP method

PCR primers used for PCR-SSP are represented as arrows; the right-oriented arrows indicate sense primer, and the left-oriented arrow represents a common antisense primer.

Table 1  Nucleotide sequences of primers used for PCR-SSP
Primer* Sequence PCR
ABO + 3043S 5'-GGAACTCCTCTGCAGTCATTCCC-3' PCR28, 29
ABO + 11078AS 5'-GGTCCCTCCTGACCCTGACAA-3' PCR28
ABO + 7196AS 5'-ATACTGGAGCAAGGAAAGGTCACCAGACAAT-3' PCR29

* Sano et al. 15)

5. フローサイトメトリー(FCM)法

ダルベッコphosphate buffer saline(PBS)(和光純薬)にて調製した2%赤血球浮遊液と0.25%グルタルアルデヒド含有PBSを1:1で混和し室温で5分間固定後,22% Bovine serum albumin(BSA)(IMMUCOR GAMMA)を0.3 mL加えミキサーにて混和し,0.2% BSA加PBSにて4回洗浄した。4%BSA加PBS 600 μLを加えて作製した10%赤血球浮遊液6 μLとマウス由来モノクローナル抗B(オーソ®バイオクローン®抗B,Ortho Clinical Diagnostics)100 μLを混和し,4℃にて2時間反応後PBSで3回洗浄した。次に,標識抗体としてPBSで10倍希釈したFITC-Goat anti-Mouse IgM + IgG(Jackson Immuno Research, PA, USA)30 μLを加え遮光4℃にて1時間反応させた。PBSにて3回洗浄後,3 mLのPBSに浮遊し,BD FACSAriaTM II(BD Biosciences, CA, USA)にて細胞数100,000個を解析した。陰性コントロールにはO型赤血球を,陽性コントロールにはB型赤血球を使用した。

III  結果

1. 血清学的検査

血清学的検査の結果をTable 2に示す。血清学的検査では,オモテ検査のスライド法は,試験管法と同様の反応を示しており,7例がオモテ検査でO型,ウラ検査でB型と判定され,10例がオモテ検査でA型,ウラ検査でAB型と判定された。抗Bを用いた吸着解離試験は,解離液は,B型赤血球に特異的に反応しており,(2+)から(4+)の凝集を認め,A型赤血球およびO型赤血球との反応は陰性であり,陰性コントロール,陽性コントロールは正常に反応していた。血漿中のB糖転移酵素活性が測定可能であった8例については,ガルサーブABの添付文書に記載されている感度である正常B型・AB型の8~256倍に対し16~128倍と同程度のB糖転移酵素活性を示した。

Table 2  Results of ABO blood typing by serological properties and ABO gene analysis in 17 patients with Bm or ABm
No. Forward typing Reverse typing Adsorption and elution of anti-B B transfelase ABO Type Serology Genosearch ABO PCR-SSP
Anti-A Anti-B A1 cell B cell A1 cell B cell O cell Titer Δ5.8 kb Δ3.0 kb
1 4+ 0 0 0 0 4+ 0 NT ABm A102/B101 ×
2 4+ 0 0 0 0 4+ 0 NT ABm A101/B101 ×
3 0 0 4+ 0 0 3+ 0 NT Bm B101/O06 ×
4 4+ 0 0 0 0 4+ 0 NT ABm A101/B101 ×
5 4+ 0 0 0 0 4+ 0 NT ABm A102/B101 ×
6 4+ 0 0 0 0 2+ 0 NT ABm A102/B101 ×
7 4+ 0 0 0 0 2+ 0 128 ABm A101/B101 ×
8 0 0 4+ 0 0 4+ 0 NT Bm B101/O06 ×
9 4+ 0 0 0 0 2+ 0 NT ABm A102/B101 ×
10 4+ 0 0 0 0 4+ 0 NT ABm A102/O01 × ×
11 0 0 4+ 0 0 4+ 0 64 Bm B101/O01 ×
12 4+ 0 0 0 0 3+ 0 16 ABm A102/B101 ×
13 0 0 4+ 0 0 4+ 0 32 Bm B101/O01 ×
14 0 0 4+ 0 0 3+ 0 32 Bm B101/O01 ×
15 0 0 4+ 0 0 3+ 0 128 Bm B101/O01 ×
16 4+ 0 0 0 0 2+ 0 64 ABm A101/B101 ×
17 0 0 4+ 0 0 3+ 0 512 Bm B101/O02 ×

NT = not tested

2. ABO遺伝子解析

Table 2に遺伝子解析の結果を示す。ジェノサーチABOによる遺伝子タイピングでは多数のAmbiguity(判別できないアレルの組み合わせ)が存在したが,日本人の遺伝子頻度から推定される頻度の高いアレルの組み合わせとして,B101/O01(4例),B101/O02(1例),B101/O06(2例),A101/B101(4例),A102/B101(5例),A102/O01(1例)が検出され,B遺伝子はすべてB101であった。

Figure 2にPCR-SSP法の結果を示す。Bm遺伝子に特異的な5.8 kbおよび3.0 kbの欠失を検出するPCR28を使用したPCR-SSP法では17例中16例に5.8 kbの欠失が認められ,3.0 kbの欠失を検出するPCR29を使用したPCR-SSP法では全例で欠失は認められなかった。1例は5.8 kb,3.0 kb,どちらの欠失も認めなかった。この症例は,ジェノサーチABOではA102/O01と判定された。

Figure 2 Detection of Bm alleles by PCR-SSP

Seventeen patients were genetically analyzed with Bm or ABm using PCR-SSP for the detection of 5.8 kb or 3.0 kb deletion. The 5.8 kb deletion was demonstrated in sixteen cases.

3. FCM解析

Bm型の抗原量は極めて少ないため,FCMを用いたB抗原量の解析では通常O型と同様の反応を示す。FCM解析を実施した症例No. 8およびNo. 13では,陰性コントロールおよび陽性コントロールと比較すると陰性コントロールと同様の反応であった(Figure 3)。Bm遺伝子を認めなかった症例No. 10については,患者がすでに退院していたため実施することが出来なかったが,吸着解離試験よりABm型と判定され,ジェノサーチABOによるABO遺伝子タイピングではA102/O01と判定されたことから,血清学的検査と遺伝子解析の結果に相違が認められた。症例No. 10は脊髄炎の患者で移植歴など,血清学的検査と遺伝子解析の結果に相違を来たす背景は認められないことから,A型とB型のキメラであることが示唆された(Table 2)。

Figure 3 B antigen expression by flow cytometry

The expression level of B antigen in Bm cells was similar O cells (case 13).

4. 人工的に作製した血液型キメラ検体の解析

A型とB型のキメラを想定した追加解析を行うため,A型末梢血に対して1%,0.5%,0.1%,0.05%,0.01%,0%の濃度になるようにB型末梢血を混合し,人工的に血液型キメラ検体を作製した。人工キメラ検体は,オモテ検査において抗B試薬で凝集を検出できなかった。抗Bを用いた吸着解離試験では解離液はB型赤血球に特異的な反応を示した。同一検体を用いて,ジェノサーチABOによる遺伝子タイピングおよびマウス由来モノクローナル抗Bを用いFCMを実施した。FCM解析はHistogram,Dot plot,Density plotによりB抗原を検出した(Table 3, Figure 4)。

Table 3  Results of adsorption and elution of anti-B, Genoserch ABO, and FCM analysis using artificial chimera samples
Artificial chimera samples
(Bcell ÷ Acell) × 100 (%)
Adsorption and elution of anti-B Genosearch ABO Detection of B antigen
by FCM
A1 cell B cell O cell
0% 0 0 0 A102/O01 0.0%
0.01% 0 ± 0 A102/O01 0.0%
0.05% 0 2+ 0 A102/O01 0.0%
0.1% 0 4+ 0 A102/O01 0.1%
0.5% 0 4+ 0 A102/O01 0.3%
1% 0 4+ 0 A102/O05 1.2%
Figure 4 Detection of B antigen using artificial chimera sample by flow cytometry

The top, middle, bottom row showed 1%, 0.5%, 0.05% of B cells containing chimera samples, respectively.

IV  考察

Bm型は,ABO血液型検査においてオモテ・ウラ不一致を認める亜型として日本人に多く検出されている。血清学的検査では,抗原量が200~1,900個2)と非常に少ないため,オモテ検査で抗B試薬との凝集を認めず,吸着解離試験によりB抗原が証明される。ただし,血漿中のB糖転移酵素活性や,分泌型唾液中のB型物質は,通常のB型と同程度に認められている。

1990年にYamamotoら9)によってA糖転移酵素のcDNA塩基配列が決定され,ABO遺伝子解析が行われるようになった。現在,亜型が検出された場合,その原因を究明するために遺伝子解析が行われており,ほとんどの症例においてエキソン6,7に塩基置換や欠失などの変異を認めている。しかしBm型はエキソン6,7に変異を認めず,ABO遺伝子タイピングでは通常のB遺伝子と同様の結果となるため,従来のABO遺伝子解析による鑑別はできなかった。ジェノサーチABOもエキソン6,7を対象としたプローブの反応により遺伝子型を判定するため,Bm型はB101と判定される。近年,ABO遺伝子のイントロン1内には赤血球系細胞に特異的なエンハンサー領域とよばれる転写制御領域が存在し,この領域には様々な転写因子が結合するモチーフが存在することが報告され12),Bm型ではエンハンサー領域を含む5.8 kbの欠失や3.0 kbの欠失12),15),GATAモチーフの変異が認められており16),17),これらの変異によりB遺伝子の転写活性が低下し,B抗原の発現が低下することが報告されている。Bm型で認められるエンハンサー領域の変異は,ほとんどが5.8 kbの欠失であり,3.0 kbの欠失が1例,GATA変異は2例報告されている。これまでのABO亜型研究の結果,ABO遺伝子のエキソン7領域における一塩基置換により血漿中の糖転移酵素が検出されなくなることが示唆されており18),A型の亜型の中でもA2型は抗Aに対して比較的強い凝集を認めるが,血漿中のA糖転移酵素活性は市販の試薬では検出されず,ABO遺伝子解析では,ほとんどのA2型においてエキソン7領域に一塩基置換を認めている18)。A3型では,スプライシング部位やイントロン1に変異を持つ場合にはA糖転移酵素活性が検出されるが,エキソン7領域の変異の場合には血漿中のA糖転移酵素活性が市販の試薬では検出されない18)。Bm型において通常のB型と同程度のB糖転移酵素活性が検出される要因として,Bm型の変異はイントロン内であり,エキソン7には変異が認められていないことが考えられる。

ABO血液型検査においてBm型を疑う場合,精査として抗B試薬による吸着解離試験を実施するが,使用する試薬などに注意する必要がある。現在,市販されているABO血液型検査用試薬は主にマウス由来モノクローナル抗体であり,従来用いられていたヒト由来抗血清は,販売中止となっている。ヒト由来抗血清は,非特異的反応が少なく,吸着解離試験に用いられていたが,マウス由来モノクローナル抗体の中には非特異的反応を示すことから吸着解離試験に使用できない試薬がある。また,凍結保存したヒト由来抗血清を吸着解離試験に用いた場合,非特異的反応が起こりやすくなることが知られている。亜型の精査として,唾液中のABO血液型物質検査を実施する場合も,非分泌型の人では血液型物質が検出されないことや,患者によって唾液の採取が困難な場合があるなどの問題がある。他にも細菌感染症による赤血球膜の変性時など,血清学的検査だけではBm型を確定することが難しい症例も存在する。本解析ではBm型,ABm型と判定された17症例についてBm遺伝子に特異的な5.8 kb,3.0 kbの欠失を調べた結果,16例に5.8 Kbの欠失が認められBm型を確定することが可能であった。以上より,PCR-SSP法を用いたBm遺伝子の検出はBm型を確定するために有用であると考えられた。

本解析において症例No. 10は,吸着解離試験によりB抗原が証明されABm型と判定されたが,ジェノサーチABOでは頻度の高い組み合わせとしてA102/O01と判定され,多数存在したAmbiguityにもB遺伝子を含む組み合わせは存在しなかった。PCR-SSP法による解析でもBm遺伝子は検出されなかった(Table 2)。他の16例は,ジェノサーチABOにてB遺伝子が検出され,PCR-SSP法にてBm遺伝子が検出された。イントロン領域を含むシークエンスを行っていないが,症例No. 10のみ血清学的検査の結果(A抗原とB抗原の検出)とABO遺伝子解析の結果(A遺伝子とO遺伝子の検出)に相違が認められたことから,A型とB型のキメラであることが示唆された。

A型末梢血にB型末梢血を混合して作製した人工キメラを用いた解析では,B型末梢血を1%以下にするとオモテ検査で抗B試薬に凝集を認めないが,吸着解離試験において解離液はB型赤血球と特異的に反応した(Table 3)。一方,ジェノサーチABOによるABO遺伝子タイピングでは,A型末梢血(A102/O01)にB型末梢血(B101/O01)を1%混合した場合,A101に対してB101に存在する7箇所の塩基置換のうち,297番目の塩基Aを検出するプローブおよび塩基Gを検出するプローブの両方が反応し,A102/O05と判定された。他のプローブは,B101の影響を受けることなくA102/O01を示す反応であった。B型末梢血が0.5%以下の場合はA102/O01と判定され,B遺伝子由来の反応を認めなかった(Table 3)。当院では,A型赤血球3%とO型赤血球97%の血液型キメラを経験しており19),この際に行ったジェノサーチABOでは,体細胞はA102/O02と判定されていたが,血液細胞はA遺伝子由来の反応が弱くなり,A102に認められる297番目の塩基Aを検出するプローブ,467番目の塩基Tを検出するプローブ,646番目の塩基Tを検出するプローブ,681番目の塩基Gを検出するプローブ,771番目の塩基Cを検出するプローブ,並びに829番目の塩基Gを検出するプローブが反応しないことから,Ax02/O02と判定されて亜型様の反応を示した。遺伝子解析では,キメラの場合に判別が難しく,FCMによる抗原量解析を行うことによりキメラを証明することが可能である。人工キメラを用いたFCM解析では,陽性領域の数値として0.1%まで陽性率が算出されるが,Histogramで陽性領域に反応した赤血球が可視化されるのは1%以上の場合であり,ノイズやデブリの影響などを考えると陽性率の信頼性は低い。Dot Plotで陽性領域に反応した赤血球が可視化されるのは0.5%以上,Density Plotでは0.05%以上であり,キメラを証明する場合にはFCMのDensity Plotにて抗原量解析を行うことは有用であった(Table 3, Figure 4)。血清学的検査にて部分凝集を認める場合や抗体試薬との反応が弱い場合にはFCMにより抗原量解析を行うが,Bm型のB抗原量は極めて少なく,FCMを用いたB抗原量の解析ではO型と同様のHistogramパターンを示すことから,Bm型が疑われた場合,通常はFCMを実施しない(Figure 3)。

本解析において症例No. 10は,血清学的検査(オモテ・ウラ検査および吸着解離試験)の結果よりABm型と判定されており,AB型新鮮凍結血漿を輸血している。ABO遺伝子解析の結果では,A遺伝子とO遺伝子が検出されており,B遺伝子は検出されていないことから,A型に対して極めて少ないB型が存在するキメラが示唆されたが,ABm型の精査であったことからFCMを行っておらず,キメラを証明できなかった。ABO亜型は血清学的性状によって分類されるため,臨床側へABm型として報告しており,今後キメラを証明することができた場合には,A型とB型の血液型キメラとして報告を修正する予定である。いずれも輸血を行う場合は,AB型の血液製剤を準備することとなる。症例No. 10の経験から,血清学的検査において異常反応が認められた場合,必要に応じて遺伝子解析やFCM解析を行うことにより,異常反応の原因を決定することが可能となり確実な結果報告を行うことができると思われた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2021 Japanese Association of Medical Technologists
feedback
Top