Japanese Journal of Medical Technology
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
Original Articles
Development of testing method for urinary sediment examination with less than 10 mL of urine
Yutaka KUNO
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 70 Issue 1 Pages 40-52

Details
Abstract

尿沈渣検査において,採尿量が非常に少ない検体を経験する。標準法では10 mLの尿を使用するが,10 mL未満の検体も「できる限り検査を実施し,その旨を記載する」となっている。そこで問題となるのは,尿量の少ない検体は,どのように検査して報告すべきかが明確でないことである。また尿量が少ないため再検査となり,患者の負担が増えることもあった。これらの問題を解決するため,尿量が少ない場合の尿沈渣検査法の構築を試みた。患者尿161検体を用い,標準法と尿量や沈渣量を調整した検体の尿沈渣成績を比較し,標準法と同等の成績が得られる検査法を検索した。161検体で検出された926の有形成分をすべて比較した結果,5 mL~9 mLの尿は,尿量5 mL,沈渣量0.1 mL(標準法と同じ濃縮率)で測定すれば,臨床的意義の高い有形成分の見落としは少なく,標準法と同等の結果が得られることが判明した。また5 mL未満の尿は,全量を使用して沈渣量0.1 mLで測定すれば,沈渣量0.2 mLで測定するよりも見落としを少なくできることも判明した。10 mL未満の尿検体は,この方法を用いることで腎・尿路系疾患の診断に貢献でき,患者の負担も軽減できると思われた。

Translated Abstract

Standard methods for urinary sediment examination require urine samples of 10 mL. However, at times, the urine volume collected for urinary sediment examination can be very low. In such cases, instructions specify that results of such tests be annotated. Thus, the testing procedure for low-volume urine samples remains unclear. Low-volume samples necessitate retesting, which increases the burden on patients. Therefore, we developed a method of testing low-volume urine samples, which can produce results comparable to those obtained by standard methods. We used the urine samples collected from 161 patients and compared the sediment examination results obtained by standard testing methods with those obtained from samples whose urinary and sedimentary volumes had been adjusted. After comparing the levels of 926 material components detected in our 161 samples, we found that if samples between 5 and 9 mL were measured at 5 mL of urine and 0.1 mL of sediment (a concentration equivalent to that used during standard testing), results equivalent to those obtained by standard methods can be obtained. Furthermore, in cases where less than 5 mL of urine was examined, less oversight occurred when measuring with 0.1 mL of sediment as opposed to 0.2 mL. Thus, when a sample is less than 10 mL, our method can contribute to the diagnoses of renal and urological diseases and lessen the burden on patients.

序文

尿沈渣検査において,採尿量が非常に少ない検体の提出を経験している。標準法では10 mLの尿を使用するが,「尿量が少ない場合でもできる限り検査を実施し,その旨を記載する」1)ことになっている。

そこで問題となるのは,尿量が10 mL未満の場合,どのように検査して報告すべきかが明確でないことである。また尿量が少ないことで再検査になれば,腎・尿路系疾患の病態把握や治療効果の判定が遅れることにも繋がる。仮に尿量が少なくても標準法に則って検査をする場合は,遠心後の沈渣量を0.2 mLに合わせ,その中の15 μLを観察することになる。しかし,それでは標準法と比較して遠心による濃縮率が低下するため,有形成分の検出率が低くなる可能性があった。

そこで尿量が10 mLに満たない場合の検査法の構築を検討した。

I  対象と方法

1. 対象

順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院(以下:当院)検査科に尿沈渣検査の目的で提出された患者尿161検体を用いた。男性が44検体,女性が117検体である。平均年齢は59.1歳である。

本研究は,「順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院倫理委員会」の承認を得た(承認番号:2019-3)。

2. 方法

1) 少量検体の提出頻度

4か月間に当院検査科へ尿沈渣検査の目的で提出された尿検体のうち,尿量が10 mL未満および5 mL未満の提出頻度を調べた。

2) 標準法と比較するための有効な少量検体の尿量と沈渣量の検索

尿中の主な有形成分である赤血球,白血球,扁平上皮細胞が5~9個以上/HPF(high power field),細菌が(1+)以上検出され,尿量が80 mL以上ある患者尿の1検体を9 mLから1 mL単位で減量し,それを用いて尿沈渣検査(沈渣量0.2 mL)を実施して標準法(尿量10 mL,沈渣量0.2 mL)と有形成分の検出結果を比較した。また5 mLから1 mLまでの検体は,標準法との濃縮率(50倍)の差を小さくするため,沈渣量を0.1 mLにした系列も別に作製して同様に比較した。それらの結果から,標準法と同程度の結果(記載法で1段階以内の結果)が得られる少量検体の尿量と沈渣量の組み合わせを決定した。

3) 標準法と少量検体の比較

2)で得られた少量検体の尿量と沈渣量の組み合わせを用い,161検体の患者尿の有形成分の検出結果を標準法と比較した。

4) 評価

少量検体の組み合わせにおける有形成分の検出結果を標準法と比較し,一致率(一致件数/全比較件数),見落とし率(偽陰性率:低検出件数/全比較件数),過剰検出率(偽陽性率:高検出件数/全比較件数)を算出した.また標準法との比較において,統計学的検定を行うためにWilcoxon signed rank testを実施し,p < 0.05を有意差ありと判定した。

II  成績

1) 少量検体の提出頻度

4か月間の尿沈渣検査依頼数は1,449件,尿量10 mL未満は42件,尿量5 mL未満は6件であった(Table 1)。

Table 1  月別の少量検体の件数と頻度
5月 6月 7月 8月 合計
尿沈渣検査依頼件数 336 333 438 342 1,449
尿量10 mL未満の件数
(依頼件数に対する頻度)
9(2.7%) 11(3.3%) 9(2.1%) 13(3.8%) 42(2.9%)
尿量5 mL未満の件数
(依頼件数に対する頻度)
1(0.3%) 3(0.9%) 0(0%) 2(0.6%) 6(0.4%)

2) 標準法と比較するための有効な少量検体の尿量と沈渣量の検索

尿量および沈渣量を減量して有形成分を測定したところ,Table 2のような結果が得られた。これらの結果から,標準法と比較するための少量検体の尿量と沈渣量を以下の基準に従って設定した。

Table 2  尿量および沈渣量を減量した時の有形成分の検出結果
尿量(mL) 沈渣量(mL) 沈渣の濃縮率(倍) 赤血球(/HPF) 白血球(/HPF) 扁平上皮細胞(/HPF) 細菌
標準法 10 0.2 50 5–9 50–99 10–19 1+
尿量を減量 9 0.2 45 5–9 50–99 10–19 1+
8 0.2 40 5–9 50–99 10–19 1+
7 0.2 35 1–4 50–99 5–9 1+
6 0.2 30 1–4 50–99 5–9 1+
5* 0.2 25 1–4 50–99 5–9 1+
4 0.2 20 1–4 30–49 1–4 1+
3 0.2 15 1–4 30–49 1–4 1+
2 0.2 10 1–4 20–29 1–4 1+
1 0.2 5 < 1 10–19 1–4 1+
尿量および沈渣量を減量 5 0.1 50 5–9 50–99 10–19 1+
4 0.1 40 5–9 50–99 10–19 1+
3* 0.1 30 1–4 50–99 5–9 1+
2 0.1 20 1–4 30–49 1–4 1+
1 0.1 10 1–4 20–29 1–4 1+

*標準法と比較し,いずれかの有形成分が1段階低い結果の最低尿量

①有形成分の検出結果が標準法と同程度(結果の記載法が一致またはいずれかの有形成分が1段階低い結果まで)であること。

②尿沈渣用スピッツへ尿を分注し易いこと。

③臨床的意義のある有形成分を検出できる最低量を確認できること。

尿沈渣用スピッツは,10 mL,5 mL,0.2 mL,0.1 mLの目盛りが付いているものを使用しているため,上記基準に当てはまる尿量として沈渣量が0.2 mLの場合は,有形成分の検出結果が1段階低い結果の最低尿量かつスピッツに目盛りのある5 mL,および10 mLと5 mLの中間であり,分注し易い7.5 mLを対象とした。沈渣量を0.1 mLとした場合は,スピッツに目盛りのある5 mLおよび臨床的意義のある有形成分を検出できる最低量を確認するために4 mLと3 mLも対象とした。さらに7.5 mLの尿量で沈渣量を0.1 mLとした場合(濃縮率75倍)に,標準法より濃縮率が高くなることで有形成分の検出が過剰になるかも調べた。2 mL以下の尿量は,有形成分の検出結果が標準法と2段階以上離れ,明らかな低値になるため除外した。少量検体の尿量と沈渣量の組み合わせをTable 3に示した。

Table 3  標準法と比較するための少量検体の尿量と沈渣量の組み合わせ
組み合わせ 沈渣の濃縮率(倍) 尿量(mL) 沈渣量(mL)
A 37.5 7.5 0.2
B 75 7.5 0.1
C 25 5 0.2
D 50 5 0.1
E 40 4 0.1
F 30 3 0.1

3) 標準法と少量検体の比較

2)の結果から,1検体につきA,B,C,D,E,Fの6種類の少量検体の組み合わせを作製し,有形成分の検出結果を標準法と比較した。比較に用いた患者尿(161検体)から検出された有形成分は28種類,926成分であった。有形成分の種類と数をTable 4に示した。有形成分は種類が多いため,6分類(赤血球,白血球,上皮細胞類,円柱類,微生物類,結晶・その他:精子,分泌物,粘液糸など)にまとめて比較した結果をTable 5~Table 10に示した。グレー枠内の数字は標準法と一致した件数,他の枠内の数字は不一致の件数を示した。尚,Tableのnは,検出された有形成分の数であり,検体数とは一致しないものもある。

Table 4  検出された有形成分の種類と数
分類(6) 種類(28) 成分数(926)
赤血球(161成分) 赤血球 161
白血球(161成分) 白血球 161
上皮細胞類
(161成分)
扁平上皮細胞 84
尿路上皮細胞 9
尿細管上皮細胞 54
卵円形脂肪体 12
細胞質内封入体細胞 2
円柱類
(177成分)
硝子円柱 76
上皮円柱 43
顆粒円柱 28
ろう様円柱 2
脂肪円柱 12
赤血球円柱 6
白血球円柱 7
空胞変性円柱 1
幅広円柱(顆粒円柱) 2
微生物類
(166成分)
細菌 161
真菌 4
寄生虫 1
結晶・その他
(100成分)
シュウ酸カルシウム結晶 7
リン酸カルシウム結晶 6
リン酸アンモニウム
マグネシウム結晶
2
尿酸アンモニウム結晶 1
無晶性塩類 25
薬剤結晶 2
精子 4
分泌物 2
粘液糸 51
Table 5  赤血球における標準法と少量検体(A~F)の比較
赤血球(/HPF)
(n = 161)
標準法
< 1 1–4 5–9 10–19 20–29 30–49 50–99 ≥ 100
A < 1 62 13
1–4 43 8
5–9 8 2
10–19 7 3
20–29 3 1
30–49 2 1
50–99 6
≥ 100 2
B < 1 59
1–4 3 49
5–9 7 11
10–19 5 4
20–29 5 3
30–49 3 2
50–99 1 5
≥ 100 2 2
C < 1 62 32
1–4 24 12
5–9 4 8
10–19 1 6 1
20–29
30–49 2 4
50–99 3 1
≥ 100 1
D < 1 62
1–4 56 1
5–9 15
10–19 9
20–29 6
30–49 3
50–99 7
≥ 100 2
E < 1 62 6
1–4 50 8
5–9 8 2
10–19 7
20–29 6 1
30–49 2
50–99 7
≥ 100 2
F < 1 62 26
1–4 30 11
5–9 5 4
10–19 5 5
20–29 1 1
30–49 2 4
50–99 3
≥ 100 2

グレー枠内数字:標準法と一致,他の枠内数字:標準法と不一致の件数

Table 6  白血球における標準法と少量検体(A~F)の比較
白血球(/HPF)
(n = 161)
標準法
< 1 1–4 5–9 10–19 20–29 30–49 50–99 ≥ 100
A < 1 59 6
1–4 25 12 1
5–9 14 5
10–19 6 1
20–29 6 1
30–49 4 2
50–99 10 1
≥ 100 8
B < 1 51
1–4 8 29
5–9 2 14 1
10–19 12 7
20–29 4 4
30–49 3 2
50–99 3 6
≥ 100 6 9
C < 1 59 15
1–4 16 21 1
5–9 5 9
10–19 2 7 1
20–29 4 1
30–49 8
50–99 3 4
≥ 100 5
D < 1 59 1
1–4 30
5–9 26 1
10–19 11
20–29 7
30–49 5
50–99 12
≥ 100 9
E < 1 59 6
1–4 25 11
5–9 15 3
10–19 9 1
20–29 6
30–49 5 2
50–99 10
≥ 100 9
F < 1 59 13
1–4 18 19 1
5–9 7 9
10–19 2 5
20–29 2 4 2
30–49 1 5
50–99 5 3
≥ 100 6

グレー枠内数字:標準法と一致,他の枠内数字:標準法と不一致の件数

Table 7  上皮細胞類における標準法と少量検体(A~F)の比較
上皮細胞類(/HPF)
0枠のみ:(/WF),(n = 161)
標準法
0 < 1 1–4 5–9 10–19 20–29 30–49 50–99 ≥ 100
A 0 1 1(1)
< 1 74(11) 10
1–4 39 9
5–9 15 1
10–19 9 1
20–29
30–49 1
50–99
≥ 100
B 0
< 1 1 65(12)
1–4 10 32
5–9 17 14
10–19 10 3
20–29 6 1
30–49 1
50–99 1
≥ 100
C 0 1 2(2)
< 1 73(10) 23
1–4 26 22
5–9 2 8
10–19 2 1
20–29 1
30–49
50–99
≥ 100
D 0 1
< 1 75(12)
1–4 49
5–9 24
10–19 10
20–29 1
30–49 1
50–99
≥ 100
E 0 1 1(1)
< 1 74(11) 7
1–4 42 6
5–9 18 4
10–19 6 1
20–29
30–49 1
50–99
≥ 100
F 0 1 1(1)
< 1 74(11) 20
1–4 29 17
5–9 7 7
10–19 3 1
20–29 1
30–49
50–99
≥ 100

グレー枠内数字:標準法と一致,他の枠内数字:標準法と不一致の件数

カッコ内数字:卵円形脂肪体の件数

Table 8  円柱類における標準法と少量検体(A~F)の比較
円柱類(/WF)
(n = 177)
標準法
0 1–4 5–9 10–19 20–29 30–49 50–99 100–999 ≥ 1,000
A 0 15 14
1–4 1 81 4
5–9 14 2
10–19 9 1
20–29 2 1
30–49 14 1
50–99 5
100–999 10
≥ 1,000 3
B 0 9 1
1–4 7 85
5–9 9 16
10–19 2 7
20–29 4 2
30–49 1 7
50–99 8 4
100–999 2 10
≥ 1,000 3
C 0 15 29
1–4 1 66 10
5–9 8 6
10–19 5 3 1
20–29 5 1
30–49 9 2
50–99 3 4
100–999 6 1
≥ 1,000 2
D 0 12
1–4 4 95 2
5–9 16
10–19 10
20–29 1 3
30–49 15
50–99 6
100–999 10
≥ 1,000 3
E 0 13 11
1–4 3 84 4
5–9 14 2
10–19 9
20–29 3
30–49 15 1
50–99 5
100–999 10
≥ 1,000 3
F 0 15 25
1–4 1 70 6
5–9 12 3
10–19 8
20–29 3 4
30–49 11 2
50–99 4 1
100–999 9
≥ 1,000 3

グレー枠内数字:標準法と一致,他の枠内数字:標準法と不一致の件数

Table 9  微生物類における標準法と少量検体(A~F)の比較
微生物類
(n = 166)
標準法
1+ 2+ 3+
A 91
1+ 45
2+ 23
3+ 7
B 91
1+ 44
2+ 1 22
3+ 1 7
C 91 2
1+ 43 1
2+ 22 5
3+ 2
D 91
1+ 45
2+ 23
3+ 7
E 91
1+ 45
2+ 23 1
3+ 6
F 91
1+ 45
2+ 23 4
3+ 3

グレー枠内数字:標準法と一致,他の枠内数字:標準法と不一致の件数

Table 10  結晶・その他の成分における標準法と少量検体(A~F)の比較
結晶・その他
(n = 100)
標準法
1+ 2+ 3+
A 2 5
1+ 56 2
2+ 23 3
3+ 9
B
1+ 2 43
2+ 18 17
3+ 8 12
C 2 13
1+ 48 15
2+ 10 9
3+ 3
D 2
1+ 61
2+ 25
3+ 12
E 2
1+ 61 1
2+ 24 1
3+ 11
F 2 13
1+ 48 14
2+ 11 8
3+ 4

グレー枠内数字:標準法と一致,他の枠内数字:標準法と不一致の件数

4) 評価

① 有形成分の標準法との一致率,見落とし率(偽陰性率),過剰検出率(偽陽性率)

A~Fにおける有形成分の標準法との一致率,見落とし率,過剰検出率をまとめてTable 11に示した。一致率が最も高かったのは標準法と同じ濃縮率50倍のDであり,すべての有形成分で96.0%以上,全体でも98.9%であった。2番目に一致率が高かったのは濃縮率40倍のEであり,すべての有形成分で85.7%以上,全体で91.0%であった。その他は,A(濃縮率37.5倍),B(濃縮率75倍),F(濃縮率30倍),C(濃縮率25倍)の順で一致率は低下していた。

Table 11  A~Fにおける有形成分の標準法との一致率,見落とし率(偽陰性率),過剰検出率(偽陽性率)
赤血球
(n = 161)
白血球
(n = 161)
上皮細胞類
(n = 161)
円柱類
(n = 177)
微生物類
(n = 166)
結晶・その他
(n = 100)
合計
(n = 926)
一致率 A 82.6 82.0 86.3 86.4 100.0* 90.0 87.8
B 83.9 75.8 71.4 80.8 98.8 72.0 81.1
C 60.2 55.9 64.6 64.4 95.2 63.0 67.6
D 99.4* 98.8* 100.0* 96.0* 100.0* 100.0* 98.9
E 89.4 85.7 88.2 88.1 99.4 98.0 91.0
F 68.3 62.1 70.8 76.3 97.6 65.0 74.1
見落とし率 A 17.4 18.0 13.7 13.0 0.0** 10.0 12.1
B 0.0** 0.6** 0.0** 0.6** 0.0** 0.0** 0.2
C 39.8 44.1 35.4 35.0 4.8 37.0 32.3
D 0.6 1.2 0.0** 1.1 0.0** 0.0** 0.5
E 10.6 14.3 11.8 10.2 0.6 2.0 8.6
F 31.7 37.9 29.2 23.2 2.4 35.0 25.8
過剰検出率 A 0.0 0.0 0.0 0.6 0.0 0.0 0.1
B 16.1*** 23.6*** 28.6*** 18.6*** 1.2*** 28.0*** 18.7
C 0.0 0.0 0.0 0.6 0.0 0.0 0.1
D 0.0 0.0 0.0 2.8 0.0 0.0 0.5
E 0.0 0.0 0.0 1.7 0.0 0.0 0.3
F 0.0 0.0 0.0 0.6 0.0 0.0 0.1

*成分毎の最も高い一致率,**成分毎の最も低い見落とし率,***成分毎の最も高い過剰検出率(%)

尿量5 mLの少量検体を標準法と同じ沈渣量0.2 mLで測定したCと,沈渣量を0.1 mLにして濃縮率を標準法と同じ50倍にしたDの一致率をFigure 1に示した。尿量が少ない場合に標準法と同じ沈渣量で測定すると標準法との一致率は低くなる。一方,尿量が少ない場合でも標準法と同じ濃縮率で測定すると一致率は高くなった。同様にCと尿量4 mL,沈渣量0.1 mLのEおよび尿量3 mL,沈渣量0.1 mLのFの一致率をFigure 2に示した。尿量が5 mL未満でも沈渣量を少なくして濃縮率を上げれば,標準法との一致率は高くなることが判明した。但し,尿量が少なくなればなるほど一致率は低下していた。

Figure 1 CとDにおける有形成分の標準法との一致率

C(尿量:5 mL,沈渣量:0.2 mL,沈渣の濃縮率:25倍),D(尿量:5 mL,沈渣量:0.1 mL,沈渣の濃縮率:50倍)

尿量が少ない場合に標準法と同じ沈渣量で測定すると標準法との一致率は低くなる。一方,尿量が少ない場合でも標準法と同じ濃縮率で測定すると一致率は高くなる。

Figure 2 C,E,Fにおける有形成分の標準法との一致率

C(尿量:5 mL,沈渣量:0.2 mL,沈渣の濃縮率:25倍),E(尿量:4 mL,沈渣量:0.1 mL,沈渣の濃縮率:40倍),F(尿量:3 mL,沈渣量:0.1 mL,沈渣の濃縮率:30倍)

尿量が5 mL未満でも沈渣量を少なくして濃縮率を上げれば,標準法との一致率は高くなる。

見落とし率が最も低いのは濃縮率75倍のBであり,白血球と円柱類で0.6%,それ以外の成分は見落としがなかった。2番目に見落とし率が低かったのはDであり,赤血球,白血球,円柱類で1.2%以下,それ以外の成分は見落としがなかった。その他は,E,A,F,Cの順で見落とし率が上昇していた。

過剰検出率はすべての成分でBが高く,全体でも18.7%であった。その他は円柱類のみで2.8%以下の過剰検出を認めたが,円柱類以外の成分の過剰検出は認められなかった。

② 標準法との比較における統計学的検定

A~Fにおける有形成分の標準法との比較において,Wilcoxon signed rank testを実施し,p値をTable 12に示した。その結果,D以外は多くの成分で標準法と有意差を認めた。一方,成分毎では微生物類において,CとFのみ有意差を認め,その他は有意差を認めないことも判明した。

Table 12  A~Fと標準法の比較におけるWilcoxon signed rank testによるp
赤血球
(n = 161)
白血球
(n = 161)
上皮細胞類
(n = 161)
円柱類
(n = 177)
微生物類
(n = 166)
結晶・その他
(n = 100)
A < 0.001 < 0.001 < 0.001 < 0.001 NaN 0.002
B < 0.001 < 0.001 < 0.001 < 0.001 0.157 < 0.001
C < 0.001 < 0.001 < 0.001 < 0.001 0.005 < 0.001
D 0.317 0.157 NaN 0.008 NaN NaN
E < 0.001 < 0.001 < 0.001 0.001 0.317 0.157
F < 0.001 < 0.001 < 0.001 < 0.001 0.046 < 0.001

NaN: Not a number

III  考察

尿量10 mLを必要とする尿沈渣検査法において,当院検査科には日常的に10 mL未満の検体が,約2.9%の割合で提出されていることが判明した。尿量と沈渣量を減量したA~Fの6種類を標準法と比較したところ,標準法に最も近い検査結果が得られたのは標準法と同じ濃縮率のDであり,5 mL~9 mLの少量検体でも濃縮率を合わせることで,標準法と同等の結果が得られることが判明した。特にネフローゼ症候群2)の患者尿で高率に認められる臨床的意義の高い卵円形脂肪体3)の見落としがなく,他の細胞の過剰検出もなかったのはDだけであった(Table 7)。これは5 mLでも十分に腎・尿路系疾患の診断に有用な情報が得られることを示している。また標準法で必要とされている尿量より少なくても検査する価値は十分あることも意味している。

Dの中で比較的一致率が低かった円柱類については,健常人には認められない上皮円柱と顆粒円柱において,検出結果の5~9個/WF(whole field)が1~4個/WFへ1段階低下した検体が,それぞれ1検体ずつ認められた。一方,硝子円柱において,10~19個/WFが20~29個/WFへ1段階上昇した検体も1検体認められた。また上皮円柱,顆粒円柱および顆粒円柱の幅広円柱において,標準法では検出されずDのみ検出された検体が4検体認められたが,すべて全視野に1個と極少数であった(Table 8)。円柱類は数十μmから数百μmの大きさがあるため,他の小さい有形成分と比較して検出結果が変動する可能性がある。実際,血球類を添加した円柱陽性検体を尿沈渣用保存液で固定したサンプルを用い,標準法に準拠した測定法で3名の技師による日差再現性を確認した石崎ら4)の検討では,赤血球が50個以上/HPFの濃度で再現性は3.8%~5.5%,白血球が30~50個/HPFの濃度で再現性は4.9%~7.0%に対し,円柱は20~30個/LPF(low power field)の濃度で再現性は6.6%~7.4%であり,血球類と比較して円柱の変動幅が若干大きかった。上記以外の病的円柱である,ろう様円柱,脂肪円柱,赤血球円柱,白血球円柱,空胞変性円柱では,検出結果の不一致は認められなかった。今回検討した161検体では177個の円柱成分を比較したが,標準法で検出されていた各種円柱はDでもすべて検出されていたことから,スクリーニング検査としての機能が十分に果たせると思われた。

A,C,E,Fは,標準法と比較して濃縮率が低いため,遠心沈殿後の沈渣に含まれる有形成分の濃度が低く,見落としが多くなったと考えられる。実際に,濃縮率の低下(E:40倍,A:37.5倍,F:30倍,C:25倍)とともに標準法との全体の一致率は低下(E:91.0%,A:87.8%,F:74.1%,C:67.6%)し,見落とし率が上昇(E:8.6%,A:12.1%,F:25.8%,C:32.3%)していた。またBは濃縮率が75倍と高いため,沈渣に含まれる有形成分の濃度が高くなり,過剰に検出する傾向が認められた。尿沈渣検査においての見落としは,病態の過小評価に繋がるため問題であるが,臨床的に重要な成分である赤血球や白血球の過剰検出も腎・尿路系からの出血や炎症を疑うことになり,誤診を招くリスクが増える。それを抑制するためには,濃縮率を標準法と同一に保つことが重要である。つまり,標準法と同一の濃縮率であれば,尿量が10 mL未満でも沈渣量に含まれる有形成分の濃度は標準法と同等であり,そこから標本を作製して鏡検する尿沈渣検査法においては,濃縮率が同一であれば,同等の検査結果が得られると考えられる。

標準法との比較において,Dの一致率が最も良好であったが,それについてWilcoxon signed rank test を用いた統計学的な検定でも,Dは円柱類以外の有形成分において標準法との有意差が認められず,統計学的にも標準法と同等の結果が得られる方法であることが確認できた。円柱類は有意差を認めるが,これは前述のように再現性が若干低いためと思われる。一方,A,B,C,E,Fは,多くの有形成分で有意差を認めており,特に濃縮率の低いCとFは,すべての有形成分で有意差を認めた(Table 12)。これは濃縮率が一致率に影響していることを意味している。

成分毎の検定では,微生物類においてAとDの検出結果が標準法と完全に一致していた。またBとEでもp値が高いことから,標準法との有意差を認めていない(Table 12)。これは微生物類の記載法である(−)~(3+)の基準が,(1+)は顕微鏡の400倍視野で各視野に見られる,(2+)は多数あるいは集塊状に散在など,各基準に対する微生物類の数的範囲が広いため,尿量が少なくても記載法の基準にあまり影響がないことが考えられた。特に細菌に関しては,尿定性検査の亜硝酸塩試験(硝酸塩還元能を持つ細菌が,尿中の硝酸塩を還元して亜硝酸塩になる)5)や白血球反応または沈渣中の白血球数を一緒に確認し,必要であれば尿培養検査を実施するための参考とすることが多い。そのため存在するかしないかが判別できること,また存在している場合は,どの程度かが解れば良いため,この判定基準でも問題ないと思われる。このように尿量が少なくても検査結果に臨床的意義のある成分が存在することも判明した。これは尿量が少なくても,できる限り検査する意義を裏付けるものでもある。

尿中有形成分の検出が尿の濃縮率に依存することは,沈渣量を0.1 mLよりも少なくすることで尿量をさらに少なくできることも考えられる。しかし,尿沈渣用スピッツには0.1 mL未満の目盛りがなく,日常検査で沈渣量をバラツキなく0.1 mL未満に合わせるのは困難である。仮に目盛りを付けたとしても,沈渣量が0.1 mL未満では有形成分が不明な場合の再検査や各種染色が量的に困難となる。日常の尿沈渣検査で不明成分を確認するためには,初回の検査で15 μLを使用した後,再検査や染色にそれぞれ15 μLを使用することになる。そのため鏡検標本の作製には30 μL~45 μLが必要となる。染色は一般的に行われるSternheimer染色6)のほかに,白血球と上皮細胞の鑑別に用いられるPrescott-Brodie染色6)などを使用することもある。また沈渣をスライドガラス上に15 μL採取する専用スポイトには,先端に約15 μLのデッドボリュームが必要である。さらに混和による沈渣量のロス(沈渣用スピッツや専用スポイトの壁面に付着)などを考慮すると,100 μL(0.1 mL)の沈渣量を確保することが必要と思われた。そのため沈渣量は,目盛りに合わせることでバラツキなく上清を除去でき,1回測定した後でも残りの量で再検査や各種染色が可能である0.1 mLが最低量として妥当と思われた。

沈渣量が0.1 mLとなれば,尿量は標準法と同一の濃縮率が得られる5 mLが最低量として適量である。以上から,尿量が10 mL未満でも5 mL以上あれば,尿量を5 mLに合わせて沈渣量を0.1 mLとすることが,尿沈渣用スピッツに尿を分注し易く,かつ臨床的意義のある卵円形脂肪体や各種の病的円柱などを見落としなく検出できる最低の尿量および沈渣量と考える。当院検査科には5 mL以上10 mL未満の尿が,全依頼件数の約2.5%の割合で提出される。それらの検体をこの方法で測定すれば,標準法と同等の報告が可能である。また5 mL以外の残りの尿を他の検査にも有効利用することが可能となる。特に遠心後の上清での検査に向かない細菌培養検査や生化学の尿酸,アミラーゼ,カルシウム定量検査など7)には有用と考える。このように5 mLでも尿沈渣検査が可能となれば,少量検体でもさらに診療支援に貢献できると思われた。

今までの結果から,10 mL未満の少量検体でも濃縮率を標準法と合わせることで良好な結果が得られることが確認できた。では標準法で記載されている方法における少量検体の検査法が,スクリーニング検査としての機能を有しているかを考察した。

標準法では「尿量が少ない場合でもできる限り検査を実施し,その旨を記載する」ことになっているが,どのように検査するかは記載されていない。通常であれば,尿量が少なくても標準法と同じ測定法で検査することになる。実際の尿沈渣検査における尿量が少ない場合の対処法として,学会誌の質問コーナーや検査のワンポイントアドバイスなどでは,沈渣量を標準法のまま測定するが有形成分の検出量が減少するため,尿量を記載する必要があると回答されている8)~10)。今回検討したA(尿量7.5 mL,沈渣量0.2 mL)やC(尿量5 mL,沈渣量0.2 mL)が,少量検体で沈渣量が標準法と同じ0.2 mLで測定した方法である。そこでCと尿量が同一で沈渣量が半量の0.1 mLとしたDの結果を比較した。全成分の一致率はCの67.6%に対し,Dは98.9%と高く,見落とし率はCの32.3%に対し,Dは0.5%と低い結果であった(Table 11)。Cにおいては,病的成分である卵円形脂肪体は12検体中2検体が1個未満/HPFから0個/WFへ(Table 7),上皮円柱は43検体中8検体,顆粒円柱は28検体中10検体,赤血球円柱は6検体中1検体,顆粒円柱の幅広円柱は2検体中1検体,ろう様円柱は2検体中2検体,空胞変性円柱は1検体中1検体で1~4個/WFから0個/WFへと減少し,検出できなかった。また上記以外に1段階低い結果になった検体も10検体認められた(Table 8)。そのため尿量が少ない場合に標準法と同一の沈渣量の0.2 mLで検査することは,臨床的意義の高い病的成分を見落とすリスクがあり,スクリーニング検査としての機能は不十分であると思われた。一方,今回検討した方法のなかで最も濃縮率が低い25倍のCであっても,卵円形脂肪体や病的円柱の7割以上が検出できていた。これは標準法に記載されているように,できる限り検査することの重要性を証明するものであるが,本研究のDのような適切な方法で検査することが,尿量の違いによる検査結果のバラツキのリスクを低減することに繋がると考える。

尿量が5 mL未満の検体も沈渣量を標準法の0.2 mLで検査すると,濃縮率が低下して成分の見落としが多くなる。そのため沈渣量は,0.1 mLとして測定すべきである。但し,沈渣量が0.1 mLでも尿量が少なくなればなるほど見落としが多くなり,一致率も低下する。尿量が4 mLのEと尿量が3 mLのFでは,全成分の見落とし率は,8.6%から25.8%へ3倍増加していた(Table 11)。そこで尿量が5 mL未満の尿検体を検査する場合は,検査結果に「尿量何 mL,沈渣量0.1 mLで測定」とのコメントを記載し,担当医へ少量検体で測定していることを報告する必要がある。それにより再検査を促すことも可能と考える。

本研究により,少量検体を精度良く検査する方法が構築できたことは,臨床検査の危機管理に意義のある新たな知見が得られたと考える。

IV  結語

1.当院検査科における尿沈渣検査において,標準法で必要とされている尿量10 mLに満たない検体は,約2.9%存在することが分かった.また5 mL未満は約0.4%であった。

2.尿量10 mLを必要とする尿沈渣検査の標準法に対して,尿量が10 mLに満たない場合でも5 mLあれば,沈渣量を0.1 mLにすることで臨床的意義のある有形成分を見落としなく検出でき,標準法と同等の報告が可能である。

3.尿量が5 mL未満の場合は,沈渣量を0.1 mLにして測定すべきである。それにより見落としを軽減することが可能である。但し,「尿量何mL,沈渣量0.1 mLで測定」とのコメントを記載する必要がある。

以上から,日常検査で遭遇する尿量が少ない(5 mL以上10 mL未満)検体において,本研究の方法は十分有効なスクリーニング検査法であると考える。また5 mL未満の検体も,沈渣量を0.1 mLにすることで標準法の沈渣量の0.2 mLより有用な報告が可能である。

新生児,乳幼児,腎機能低下や外来患者の排尿直後などで,尿量が10 mLに満たない患者の検査法が構築できたことは,尿量の違いによる検査結果のバラツキのリスクを低減できる有用な方法であり,臨床検査の危機管理に役立つものである。また今まで以上に腎・尿路系疾患の診断へ貢献できると考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本研究に際し,多大なるご指導を承りました千葉科学大学大学院危機管理学研究科の三村邦裕教授に深く感謝申し上げます。またご助言をいただいた松村聡講師,木内幸子講師および順天堂大学医学部附属順天堂浦安病院臨床検査科の三宅一徳准教授,順天堂大学医学部附属順天堂医院臨床検査部の脇田満係長にお礼申し上げます。

文献
 
© 2021 Japanese Association of Medical Technologists
feedback
Top