Japanese Journal of Medical Technology
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
Original Articles
Current status of newborn hearing screening AABR and conventional ABR in our hospital
Toshihiro TAKAMORIYoshiyuki ADACHIChitose IMAIAkemi SATOUSatoshi NOGAMITetsuya FUKUDAToru MOTOKURA
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 70 Issue 1 Pages 53-58

Details
Abstract

聴覚障害において早期発見の意義は高く,難聴児のquality of lifeを高めることが期待される。当院ではAABRを新生児に対して行い,聴覚障害が疑われた場合にconventional ABRが実施される。両者の結果が乖離する症例が散見されたため,AABRの有用性を検証した。対象は,2007年4月1日~2018年3月31日にAABRを施行した4,359例であり,両者の検査結果を比較した。また,AABR検査時のステータスと患児の難聴ハイリスク因子の有無を調査した。AABRでReferとなったのは65例で,その内49例にconventional ABRが実施された。偽陰性は16.0%,偽陽性は17.8%であった。結果が不一致になった症例のconventional ABRの閾値は20 dB~60 dBであった。難聴ハイリスク因子を検討したところ,頭頸部奇形では偽陽性例を認めず,例外なくconventional ABRの結果と一致した。さらに,新生児仮死では,偽陰性率が有意に高く,偽陰性4耳全例が新生児仮死であった。結果の不一致な症例が存在するものの,高度・重度難聴では不一致は生じず,AABRは新生児スクリーニングにおいて有用であることが再確認できた。しかし,AABRがPassであっても後に聴覚障害を認める症例も存在し,特に新生児仮死では偽陰性が生じやすく注意が必要である。

Translated Abstract

Early detection of hearing impairment is of great significance. In our hospital, an AABR is performed on a newborn baby, and if a hearing disorder is suspected, a conventional ABR is performed. In some cases, the results of AABR and conventional ABR differed; thus, we investigated the current situation to assess the usefulness of AABR. The subjects were 4,359 patients who underwent AABR, and the results of AABR and conventional ABR were compared. We also investigated the status of AABR and the presence of high-risk factors for hearing loss in children. There were 65 children with a “Refer” on AABR, among which 49 had conventional ABR. False negatives were 16.0% and false positives were 17.8%. The threshold levels of conventional ABR in the mismatched ears ranged from 20 dB to 60 dB. Regarding high-risk factors for hearing loss, the results of AABR were consistent with those of conventional ABR, and no false positive results were found in children with head and neck malformations, which were statistically significant. In contrast, the false negative rate was significantly higher in children with birth asphyxia, and all four ears with false negative results were associated with birth asphyxia. There were ears with mismatched results of AABR and conventional ABR for children with birth asphyxia; however, no mismatch occurred in cases of severe hearing loss or profound deafness, confirming that AABR is useful. There were some cases in which hearing loss was recognized later in ears with a “Pass” on AABR, and it is necessary to be careful especially in children with birth asphyxia because false negative results may occur.

I  はじめに

先天性難聴児の出生頻度は約500~1,000人に1人程度の頻度で出生するとされ1),聴覚障害において早期発見の意義は高く,早期に療育を開始することは言語発達,コミュニケーション能力の向上をもたらし,難聴児のquality of lifeを高めることが期待される。聴覚障害の早期発見にJoint Committee on Infant Hearing(JCIH)は生後1ヶ月までに新生児聴覚スクリーニング(newborn hearing screening; NHS)を実施し,生後3ヶ月までに精密診断を行い,生後6ヶ月までに聴力支援を開始する「1-3-6ルール」を推奨している2)

当院では自動聴性脳幹反応(automated auditory brainstem response; AABR)をNHSとして新生児に対して行い,聴覚障害が疑われた場合(Refer)に聴性脳幹反応(conventional ABR)が精密検査として実施される。ABRとは音刺激によって誘発される脳幹での聴覚神経系の興奮による電位を頭皮上より記録したものであり,AABRとは,ABRに自動判定機能を持たせたもので,当院では刺激音圧は35 dBに設定し,反応のあり(Pass)/なし(Refer)の結果が示される。対して,conventional ABRは−10 dB~95 dBまでのクリック音を用いてABRを測定し,V波が導出される最も小さな音圧を閾値とする。Conventional ABRでは,実際に導出された波形を技師が判読して閾値を測定する。

AABRの感度はほぼ100%に近く,偽陰性は認めないという報告3),4)が存在するが,AABRとconventional ABRの結果が乖離する症例が散見されたため,現状を調査することでNHSにおけるAABRの有用性を検証した。

II  対象・方法

対象は,2007年4月1日~2018年3月31日にAABRを施行した症例。AABRの測定にはNatus ALGOを用いて,導出電極を前額部正中,基準電極を後頚部正中,接地電極を肩に装着して,35 dBのクリック音を使用して測定を行った。Conventional ABRの測定にはNavigator Proを用いて,導出電極を両耳朶,基準電極をCz(国際10/20法に基づく),接地電極を前額部正中に装着して刺激は−10 dB~95 dBのクリック音を使用して測定を行った。AABRとconventional ABRの結果により,AABRがReferでconventional ABRの閾値が40 dB以上であれば一致,閾値が30 dB以下であれば不一致(偽陽性),AABRがPassでconventional ABRの閾値が40 dB以上であれば不一致(偽陰性),30 dB以下であれば一致とした。

さらに,それぞれの対象のAABR検査時のステータス(接触抵抗,Sweep回数,筋電図混入率,測定時間)と患児の難聴ハイリスク因子の有無5)(遺伝性感音難聴の家族歴,子宮内感染,頭頚部奇形,極低出生体重児,交換輸血を要したビリルビン血症,耳毒性薬剤の使用,細菌性髄膜炎,新生児仮死,人工換気療法5日間以上,感音/伝音難聴が知られている先天性疾患・症候群)について調査を行った。毒性薬剤の使用に関してはアミカシン,バンコマイシン,フロセミドの使用の有無を調査し,新生児仮死はApgar scoreを用いて皮膚の色,心拍数,反応性,活動性,呼吸を評価して1分後のスコアが4以下または5分後のスコアが6以下の場合とした。AABRの検査時のステータスは検査機器にデータが残っていた2013年4月1日~2018年3月31日を対象とした。

統計解析にはEZR6)を使用し,Fisherの正確確率検定(両側検定)を用い,p < 0.05の場合に統計学的に有意とした。

なお,本研究は鳥取大学医学部附属病院倫理審査の承認を得て行った(承認番号:19A135)。

III  結果

今回調査したところ4,359例にAABRが実施された。そのうち65例(Refer率:1.49%)がReferとなり49例にconventional ABRが実施された。残りの16例に関しては生命維持優先(5例),死亡(3例),他院紹介(6例),片耳正常のため(2例),conventional ABRは実施されなかった(Figure 1)。AABRとconventional ABRの一致率に関してはAABRがPassであった検耳においては,一致したのは84.0%(21耳/25耳),偽陰性は16.0%(4耳/25耳)であった。Referであった症例においては,一致したのは82.2%(60耳/73耳),偽陽性は17.8%(13耳/73耳)であった。AABRとconventional ABRが不一致になった症例のconventional ABRの閾値は20 dB~60 dBであった(Table 1)。

Figure 1 AABRを施行した患児のフローチャート

当院で4,359例にAABRを施行した結果,65例がReferとなった。そのうち49例にconventional ABRが実施されRefer耳では,60耳がabnormal,13耳がW.N.L.,Pass耳では,4耳がabnormal,21耳がW.N.Lであった。

Table 1  一致・不一致した検耳のconventional ABRの閾値
閾値(dB) AABR
Pass(n) Refer(n)
scale out 0 8
95 0 3
90 0 6
80 0 6
70 0 11
60 1* 8
50 2* 7
40 1* 11
30 5 8*
20 13 5*
10 1 0
0 2 0
合計 25 73

* AABRとconventional ABRが不一致した症例。

破線はconventional ABRのabnormalとW.N.L.の境界線を示す。nは耳数を示す。

AABRとconventional ABRの不一致の原因を明らかにする目的で,一致・不一致とABR検査時のステータスを比較したが,明らかな有意差は認めなかった(Table 2)。また,難聴ハイリスク因子を調査したところ,頭頚部奇形,極低出生体重児,人工換気療法5日間以上,感音/伝音難聴が知られている先天性疾患・症候群を伴う症例が存在し,その他の因子を保有する症例は認めなかった。そこで,認められた難聴ハイリスク因子と一致・不一致と比較すると,頭頸部奇形では偽陽性例を認めず,例外なくconventional ABRの結果と一致し,統計学的に有意であった(p < 0.05)。さらに,新生児仮死では,偽陰性率が57.1%(4耳/7耳)と有意に高く(p < 0.01),偽陰性4耳全例が新生児仮死であった(Table 3)。

Table 2  AABR検査時のステータス
項目 AABR
Pass Refer
一致(n = 11) 偽陰性(n = 3) 一致(n = 37) 偽陽性(n = 9)
接触抵抗 導出電極(μV) 6.9 ± 1.7 6.6 ± 2.9 5.4 ± 2.0 6.7 ± 2.9
基準電極(μV) 4.6 ± 2.5 4.5 ± 1.7 3.4 ± 1.2 4.9 ± 2.6
Sweep回数(n) 2,151.4 ± 1,249.1 3,528.3 ± 2,292.8 15,103.5 ± 32.8 15,136.0 ± 228.1
筋電図混入量 22.6 ± 24.6 60.3 ± 25.7 44.7 ± 28.9 43.9 ± 33.1
測定時間(sec) 750.2 ± 309.8 1,418.3 ± 474.3 943.9 ± 499.5 975.2 ± 476.8

平均値 ± SD

Table 3  ハイリスク因子の有無と一致・不一致
有無 conventional abnormal(n) ABRの結果W.N.L.(n)
Refer耳 ハイリスク因子 + 45 7
15 6
頭頸部奇形* + 19 0
41 13
極低出生体重児 + 24 4
36 9
新生児仮死 + 17 2
43 11
人工換気療法 + 26 3
34 10
先天性疾患 + 5 3
55 10
Pass耳 ハイリスク因子 + 4 12
0 9
頭頸部奇形 + 0 3
4 18
極低出生体重児 + 2 4
2 17
新生児仮死** + 4 3
0 18
人工換気療法 + 3 6
1 15
先天性疾患 + 0 4
4 17

**p < 0.01,*p < 0.05 by Fisher’s exact test

ハイリスク因子,いずれかの因子を認めた症例

abnormal,閾値が40 dB以上;W.N.L.,閾値が30 dB以下

IV  考察

1. AABR陽性率(Refer率)

新生児の先天性聴覚障害は約500~1,000人に1人程度の頻度で生じると言われており1),県単位の調査では,秋田県7)が0.56%,栃木県8)が0.70%,岡山県9)が0.55%と1%未満との報告が多い。一方,難聴ハイリスク因子を伴う患児の割合が多いと推測される大学病院等では,名古屋第一赤十字病院10)が1.10%,佐賀大学医学部附属病院11)が2.12%,昭和大学横浜市北部病院12)が1.92%と1%以上という報告が散見される。当院のRefer率は1.49%と他の大学病院と同程度であった。

2. 偽陽性の原因

AABRとconventional ABRの結果を比較すると,AABRが偽陽性もしくは偽陰性と思われる不一致となった症例が散見され,偽陽性は17.8%(13耳/73耳)認められた。AABRが偽陽性となる原因として聴神経や脳幹の未熟性,反応の同期性異常,羊水の貯留,胎脂により外耳道の閉塞,中耳炎などが報告されている8),13),14)。NICU児またはダウン症患児では,発達障害に伴い脳幹の髄鞘化不全を高率に認め,NICU児では7割程度(68例/101例)が後にABR閾値が改善したという報告がある15)。ABRは,音刺激によって誘発された脳幹の反応を記録することにより聴力閾値を測定している。出生後のAABRではReferとなったが,発達による聴覚神経や脳幹の髄鞘化もしくは,外耳の遺残物の消失に伴いABRの閾値が改善したと考えられた。さらに,ハイリスク因子の検討において偽陽性例では頭頸部奇形が有意に少なく,AABRがReferであった症例で頭頸部奇形を伴う場合は,例外なくconventional ABRの結果と一致した。これは,頭頸部奇形を伴う場合,出生直後から難聴を伴い,聴神経や脳幹の未熟性,羊水の貯留等の成長もしくは時間経過で改善されうる聴覚障害ではなく不可逆的な聴覚障害が生じていたためと考えられた。

3. 偽陰性の原因

一方,三科ら3)やMasonら4)によると,偽陰性はほとんど認められないとされていたが,今回16.0%(4耳/25耳)に偽陰性が認められた。今回と同様にAABRが片側でReferとなった症例群で検討した報告では,田中ら16)は7.1%(2耳/28耳),深美ら8)は15%(3耳/20耳)で偽陰性が認められたと報告している。よって,偽陰性の存在は否定できないことが再確認できた。さらに,ハイリスク因子の検討では,新生児仮死は偽陰性例が有意に多く,偽陰性4耳全例が新生児仮死であった。偽陰性となる原因として後発難聴あるいは進行性難聴が報告されており13),具体的には重症低酸素脳症,新生児遷延性肺高血圧症,auditory neuropathy等が報告されている17)。急激な全仮死で生じた新生児低酸性虚血性脳症では酸素需要の高い脳幹被殻部,主に脳神経の運動神経核,網様体,上丘,下丘,楔状および薄束核に壊死が生じやすいとされている17)。一般的に,ABRの閾値測定に用いるV波の発生起源は下丘とされており,ABRの閾値測定に大きく影響すると考えられた。低酸素が脳に加わると脳循環障害やアシドーシス,次いで脳浮腫や細胞障害が起こり,細胞アポトーシスや壊死が生じる17)。このように低酸素を来たした場合,経時的に変化し脳幹病変が完成するまでに時間を要する。そのため,遅発的に聴覚障害が生じると考えられ,AABRがPassすると推測される。今回の偽陰性4耳でも同様に遅発的な聴覚障害が生じ偽陰性となったと考えられる。このような進行性・遅発性の聴覚障害ではAABRがPassにも関わらず,その後のABRが不一致となりうるということに留意すべきである。とりわけ新生児仮死においては,感度の高いAABRでも難聴の存在が見過ごされることがあり,決して稀ではないことを念頭において,慎重に経過観察することが望まれる。

4. 閾値

今回の研究におけるAABRとconventional ABRとの不一致は,conventional ABRの閾値が20~60 dBであった症例で生じ,高度・重度難聴では不一致した症例は存在しなかった。黒澤ら18)も不一致は最終閾値が40~60 dBの軽度・中等度難聴で生じると報告しており,同様の結果が得られた。このことから,前述したように偽陰性例は存在するが,高度・重度難聴では偽陰性となる可能性が限りなく低いと推測され,AABRは新生児スクリーニングにおいて有用であることが再確認できた。

5. AABRのステータス

今回の検討ではAABR検査時のステータスの調査も行ったが,AABRが一致,不一致した症例で有意な差は認められなかった。AABRはABRに自動判定機能を持たせたものである。自動判定は記録された波形を極性のみで2値化し,加算平均を行い得られた波形を用いてABRの波形を特徴付ける9箇所の振幅を計算式に用いて判定される19)。なお,潜時の個人差を考慮して,この9箇所の振幅は,規定した箇所から0.25 msごとに前後1.5 msの範囲でずらして測定した中から最も大きな振幅が採用される。この判定は最初の1,000回のSweep後に判定され,その後500回ごとに反復し,Passと判定できる数値に達せば検査が終了となる。しかし,15,000回を超えて数値が満たされなければReferとなる仕組みになっている20)。この判定機能の仕組みから,Referと判定されるSweep回数に類似して,偽陰性ではSweep回数が多くなると推測される。今までに偽陰性例でSweep回数が有意に多かった21)という報告が存在するが,われわれの検討では有意差が認められなかった。ただ,一致した場合と比べて偽陰性例のSweep回数の平均値は高かった。

6. 本研究の限界

本研究の限界としては,AABRでいずれかの耳がReferになった症例のみ追跡調査を行っており,AABRで両耳ともにPassとなった小児の追跡調査は実施できていないことである。AABRがPassの場合はフォローされないので,実際に偽陰性例があるかどうかは検証困難であった。

V  結語

AABRとconventional ABRで結果の不一致な症例が存在するものの,高度・重度難聴では不一致は生じず,AABRはNHSにおいて有用であることが再確認できた。しかし,AABRがPassであっても後に聴覚障害を認める症例も存在し,特に新生児仮死では偽陰性が生じやすく注意が必要である。

 

なお,本研究は第16回合同地方会(第65回日本臨床検査医学会中国・四国支部総会,第160回日本臨床化学会中国支部例会・総会,第30回日本臨床化学会四国支部例会・総会)で発表を行った。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2021 Japanese Association of Medical Technologists
feedback
Top