2021 Volume 70 Issue 1 Pages 172-175
気腫性膀胱炎の2症例を経験したので報告する。1例目は80歳代男性,当院にて維持透析中であった。低酸素血症等の精査治療のため入院中に,血尿および下腹部痛が出現。超音波検査にて膀胱壁の肥厚および膀胱内腔にガス像を認め,気腫性膀胱炎が疑われた。2例目は80歳代女性,肺炎の治療のため入院中に血尿および下腹部痛が出現。超音波検査にて膀胱壁内および膀胱内腔にガス像を認め,気腫性膀胱炎が疑われた。2例ともに引き続き実施されたCT検査でも同様の所見を認めた。尿培養にて2例ともにEscherichia coliが分離され,薬剤感受性試験の結果,extended-spectrum β-lactamase(ESBL)産生菌と判定された。治療は,膀胱ドレナージおよび適正な抗菌薬治療が施行された。
We report the cases of two patients presenting with emphysematous cystitis. The first patient was a man in his 80s who was undergoing maintenance dialysis at our hospital. Hematuria and lower abdominal pain developed during hospitalization for detailed treatment of hypoxemia. Ultrasonography showed thickening of the bladder wall and a gas appearing as a shadow in the posterior bladder lumen, suggesting emphysematous cystitis. The second patient was a woman in her 80s. Hematuria and lower abdominal pain developed during hospitalization for the treatment of pneumonia. Ultrasonography showed gas appearing as small echogenic foci located within the bladder wall and a gas appearing as a shadow in the posterior bladder lumen, so emphysematous cystitis was suspected. Similar findings were found in subsequent CT examinations in both patients. Escherichia coli was isolated in both patients by urine culture, and the result of a drug susceptibility test revealed that it was an ESBL-producing strain. They were treated by bladder drainage and appropriate antimicrobial therapy.
気腫性膀胱炎は,ガス産生菌により膀胱内腔や膀胱壁内,あるいはその両者にガスが貯留する比較的まれな膀胱炎である。今回われわれは,超音波検査が診断の契機となった気腫性膀胱炎の2症例を経験したので報告する。
80歳代男性。糖尿病性腎症を原疾患に,当院透析センターにて維持透析中であった。20XX年1月に低酸素血症,肺うっ血,両側胸水貯留を認めたため,精査,治療目的にて入院となった。元々,少量ではあるが自尿を認めていたが,35病日に自尿を認めなくなったため,導尿が開始された。95病日より血尿を認め,97病日には下腹部痛を認めたため,膀胱炎が疑われ尿培養検査を実施,その翌日に腎尿路系精査目的にて超音波検査の依頼があった。血液検査データは,CRP 6.44 mg/dL,尿定性検査では尿潜血(3+),白血球(2+),亜硝酸塩(+),尿沈渣にて赤血球 > 100/HPF,白血球 > 100/HPF,細菌(3+)を認めた。超音波検査では,膀胱は尿が充満した状態ではないものの,膀胱壁は最大厚15 mmとびまん性に肥厚し,膀胱内腔にはガス像を反映する多重エコーを伴った帯状で幅の広い高エコー域を認めた(Figure 1)。腎臓は両側ともに萎縮が見られたが,結石や腫瘍性病変は認めなかった。超音波所見からは,気腫性膀胱炎が疑われたが,後壁側の腫瘍性病変や結石等の鑑別診断のためCT検査が追加となった。CT検査にても膀胱壁の肥厚および,膀胱内腔にガス像を認め,腫瘍性病変や結石は認めなかった(Figure 2)。尿培養検査ではEscherichia coliが106 CFU/mL分離された。画像診断および尿培養検査より気腫性膀胱炎と診断され,抗菌薬投与ならびに膀胱ドレナージが施行された。
膀胱壁は肥厚し(▽),膀胱内腔にガス像を認める(↑)
膀胱内腔にガス像を認める(↑)
80歳代女性。認知症,高血圧,慢性心不全等にて当院外来にかかりつけであった。20XX年4月に肺炎の診断にて入院加療中であった。入院直後より排尿障害を認め,自尿がない場合は導尿が行われていた。49病日の導尿施行時に肉眼的血尿,下腹部痛を認めたため,翌日に尿一般検査,尿培養検査ならびに超音波検査が施行された。尿定性検査では,潜血(3+),白血球(3+),亜硝酸塩(+),尿沈渣にて赤血球> 100/HPF,白血球30–49/HPF,細菌(3+)と尿路感染症が疑われ,尿培養検査にてEscherichia coliが106 CFU/mL分離された。超音波検査では,膀胱の輪郭に沿って膀胱壁内にガス像と思われる高エコー域を認め,また膀胱前面壁側の内腔には多重反射を伴った少量のガス像を認めた(Figure 3)。腎臓には両側ともに,結石や腫瘍性病変は認めなかった。超音波所見からは気腫性膀胱炎が疑われたが,腫瘍性病変の除外診断や,周囲臓器との関連性の検査目的にCT検査が追加となった。CT検査にても膀胱壁内に全周性のガス所見を認めた(Figure 4)。画像検査ならびに尿培養検査所見より気腫性膀胱炎と診断され,抗菌薬治療および膀胱ドレナージが開始された。
膀胱壁内(△),膀胱内腔にガス像を認める(↑)
膀胱壁内にガス像を認める(↑)
気腫性膀胱炎は,膀胱壁内や膀胱内腔,あるいはその両者にガスが貯留する特徴を有した比較的まれな膀胱炎である。近年,画像診断の機会の増加に伴い,報告例は増加傾向にある1)~3)。水沢ら3)による本邦報告例の集計によると,男性60例,女性88例で男女比は1:1.47,平均年齢は74歳であった。臨床症状は,血尿43.7%,発熱35.9%,腹痛21.8%の順である。自験例では2例ともに肉眼的血尿と下腹痛が主訴であり,発熱は認めなかった。
起炎菌はEscherichia coliやKlebsiella pneumoniaeの報告が多く,この2菌種で全体の60~80%を占める1)~3)。今回の症例では2例ともに尿培養にてEscherichia coliが分離された。
気腫性膀胱炎の発症危険因子としては糖尿病が最も多く,約70%に認めるとされ,他に神経因性膀胱,慢性尿路感染症などが知られている2)。症例1では原疾患に糖尿病を有し,発症前には導尿中であった。また症例2においても排尿障害を認めたため導尿も施行されていた。
報告例の多くはCT検査で気腫性膀胱炎の診断が行われていたが,超音波検査での早期診断が可能であったとの報告もある4)。今回の2症例では肉眼的血尿を主訴とし,尿管結石や腫瘍性病変等の鑑別のために超音波検査が第一選択となった。超音波所見として,症例1では膀胱壁は炎症を疑わせるびまん性肥厚,膀胱内腔は膀胱前壁に沿って多重エコーを伴った帯状の高エコー域を認め,ガスの存在が疑われた。症例2では膀胱壁を縁取るように高エコー域が壁内に描出され,壁からのアーチファクトにより内腔は不鮮明で,また膀胱前壁側に沿って内腔に多重エコーを伴った帯状の高エコー域が見られ,ガスの存在を疑った。膀胱内腔の高エコー域は鑑別として消化管ガスや膀胱内の結石が挙げられるが,症例1では肥厚した膀胱壁の輪郭が確認でき,症例2では壁内の高エコー域が膀胱の輪郭を反映した形状であったことから消化管ガスと鑑別可能であり,結石との鑑別は,膀胱前壁に沿って連続していることと後方エコーが多重エコー主体であることで,膀胱内腔のガスと判断した。
ガスの貯留部位では膀胱壁内,内腔の両者である報告が多数であるが,長期の維持透析患者においては,膀胱筋層の線維化および伸展性の低下が見込まれ,産生された気腫による膀胱粘膜の破綻をきたしやすく,発症早期に膀胱内腔のみガス像を呈する可能性があるとの報告がある5),6)。症例1においては,維持透析中であり,同様に膀胱壁内のガス像は明瞭ではなく,膀胱内腔にのみガス像を認めた。
CT検査では膀胱内の気腫像と周囲臓器や周囲の疾患により発生したガス像との区別は明瞭であり診断に有用とされるが,超音波像では消化管あるいは膣との瘻孔や,腹腔内の遊離ガス等との鑑別も重要であるとされる7)。今回の症例では,膀胱の輪郭を確認することができ,腹腔内の遊離ガスとの鑑別は可能であったが,骨盤腔に明らかな腫瘤としては認めなかったものの,ガスエコーによるアーチファクトのため,消化管や膣との瘻孔の有無や膀胱後壁側の腫瘍等の存在については評価困難であった。
治療は尿道カテーテル留置や,抗菌薬投与が主体となるが,気腫性膀胱炎を発症するような患者は排尿障害を認める場合も多く,過去の抗菌薬使用による薬剤耐性菌の存在も考慮する必要がある8)。今回の2症例ともに尿培養にてEscherichia coliが分離されたが,薬剤感受性試験の結果ESBL産生菌と判定された。症例1では先行投与のLevofloxacin(LVFX)よりMeropenem(MEPM)に切り替え,症例2では当初よりMEPMが投与された。
今回の症例では,2例ともに膀胱ドレナージや抗菌薬投与により,速やかに症状が改善したため,経過観察のための画像検査は実施されず,検尿をはじめとする検体検査にて経過観察が行われた。
超音波検査が診断の契機となった気腫性膀胱炎の2症例を経験した。血尿の超音波診断としては,尿路結石や,腫瘍性病変,出血性膀胱炎等が挙げられるが,本症例のように,膀胱壁内または膀胱内腔にガス像を認めることにより,超音波検査が気腫性膀胱炎の早期診断に有用であった。
本症例は,当院の倫理委員会の承認を得て報告した(2020-01)。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。