Japanese Journal of Medical Technology
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Evaluation of a new procalcitonin assay kit and reagents, and clinical usefulness of procalcitonin
Mayu TAKEBUCHIYoko USAMIYuika OGINORisa ENDOGo MATSUMOTONau ISHIMINEMitsutoshi SUGANOTakayuki HONDA
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2021 Volume 70 Issue 1 Pages 66-73

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Abstract

【背景】プロカルシトニン(PCT)は敗血症マーカーとして利用されており,ブラームス社の抗体を使用した測定試薬が発売されている。新たに富士フイルム和光純薬株式会社から独自の抗PCT抗体を用いた定量試薬「ミュータスワコー PCT」(μTAS)と「アキュラシードPCT」(Accuraseed),イムノクロマト法を原理とする半定量試薬「スムーズチェックワコーPCT」(Smooth Check)が発売されたので,性能評価と臨床的有用性の検証を行った。【方法】μTASとAccuraseedは,基礎的な性能と既存試薬との相関性について,Smooth Checkは技師間での判定一致率と定量試薬との一致率を検討した。臨床的有用性は,高度救命救急センターに入院した294症例を対象に,PCT値と感染症の有無,血液培養およびqSOFAとの関係性から評価した。【結果】3試薬の性能と既存試薬との相関性は良好だった。臨床的有用性の検討では,感染症症例でPCT値は陰性から高値陽性まで幅広く分布し,血液培養陽性やqSOFA 2点以上の症例でより高値になる傾向が認められた。感染症がない症例では,82%でPCT値が陰性となったが,一部の外科手術後,重症外傷症例で高値陽性となった。【まとめ】新たに発売された3試薬の性能は良好だった。PCTは感染症の重症度に伴って高値になる傾向があり,敗血症診断の補助的マーカーとして有用である。

Translated Abstract

Background: Procalcitonin (PCT) is used as a sepsis marker, and several assay kits employing an anti-PCT antibody from BRAHMS GMbH have been developed. FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation has recently released two new quantification reagents [μTAS Wako PCT (μTAS) and Accuraseed PCT (Accuraseed)] and a semiquantitative kit [Smooth Check Wako PCT (SC)] that employs an immunochromatographic method. μTAS, Accuraseed, and SC use an original anti-PCT antibody. We evaluated the performances of μTAS, Accuraseed, and SC, and verified the clinical usefulness of PCT. Methods: We examined the basic performances of μTAS and Accuraseed, and compared them to existing reagents. The agreement rate for SC between technicians and that between SC and a quantification reagent were investigated. The clinical usefulness of PCT was examined by evaluating the relationship between PCT levels and infection, blood culture results, and quick sepsis-related organ failure assessment (qSOFA) scores in 294 patients. Results: μTAS and Accuraseed showed satisfactory performances for clinical use and good correlations with existing reagents. In clinical efficacy studies, PCT levels were distributed over a wide range in cases of infection and tended to be higher in cases with positive blood cultures and high qSOFA scores. PCT was negative in 82% of cases without infection, but PCT levels were high in some cases with severe trauma or some surgery. Conclusion: The basic performances of μTAS, Accuraseed, and SC were good. PCT levels increase with increasing severity of infection and represent a useful marker for the diagnosis of sepsis.

I  はじめに

プロカルシトニン(procalcitonin; PCT)は,甲状腺C細胞から分泌されるカルシトニンの前駆体で,アミノ酸116個からなる分子量13,000のペプチドである1)。PCTは11番染色体のカルシトニンI(CALC-I)遺伝子に由来し,通常は甲状腺細胞のみから分泌されるが,細菌感染症時には,TNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインの刺激によってCACL-I遺伝子発現が全身の臓器で増加し,さまざまな組織や細胞からPCTが分泌される2)~4)。炎症性サイトカインの刺激によって分泌されるため,PCTの発現量は細菌に対する宿主の反応の程度に密接に関係していると考えられている5),6)。生理学的血清PCT値は0.5 ng/mL未満であるが,2.0 ng/mLを超える上昇は敗血症の指標となり7),CRPなどの既存のバイオマーカーと比較して,細菌感染による敗血症に特異性が高く,臓器障害の重症度と関連するため,細菌感染に伴う敗血症の診断補助や治療法選択,重症度判定に用いられる1)

敗血症は1992年に全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome; SIRS)を導く感染症と定義されたが,診療と臨床研究の進展に伴って見直され,現在は「感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態」と定義されている8)~10)。2016年に公表された診断基準Sepsis-3では「感染症もしくは感染症の疑いがあり,かつSOFA(sequential organ failure assessment)スコア合計2点以上の急上昇を認めること」を診断基準としている。またSOFAスコアはICUにおける臓器障害の程度を測るためのものであるため,ICU以外で感染症あるいは感染症が疑われる患者に対してはquick SOFA(qSOFA)を用いるとしている。qSOFAスコアは,①意識変容,②呼吸数 ≥ 22回/分,③収縮期血圧 ≤ 100 mmHgの3項目からなり,2項目以上が存在する場合は敗血症を疑い,臓器障害に関する検査,および早期の治療開始や集中治療医への紹介のきっかけとするとされている11)

PCTは敗血症のマーカーとしてすでに広く利用されているが,偽陽性・偽陰性が多いことや測定コストが高いこと,また測定には専用の分析機が必要であるため,救急外来やICUを有する施設にも自施設で測定できない施設が多いことが問題として指摘されている11)。PCTの測定試薬はブラームス社の抗体を使用した測定キットが数社から発売されているが,新たに富士フイルム和光純薬株式会社から独自の抗PCT抗体を用いた定量試薬とイムノクロマト法を原理とする半定量試薬が発売された。今回我々は,この新しく発売されたPCT定量試薬の基礎性能と臨床有用性の評価およびイムノクロマト法による半定量試薬の定量試薬との一致率の評価を行ったので報告する。

II  方法

1. 測定試薬・機器

基礎性能評価を実施した定量試薬は「ミュータスワコーPCT」(μTAS),「アキュラシードPCT」(Accuraseed)の2種類で,既存試薬との相関試験における対照試薬として「ミュータスワコーブラームスPCT」(Brahms)(富士フイルム和光純薬株式会社)と「エクルーシス試薬ブラームスPCT」(Elecsys)(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を使用した。μTASとBrahmsは全自動蛍光免疫測定装置ミュータスワコーi30(富士フイルム和光純薬株式会社),Accuraseedは自動化学発光酵素免疫分析装置Accuraseed®(富士フイルム和光純薬株式会社),Elecsysは免疫自動分析装置cobas e411(ロシュ・ダイアグノスティック株式会社)でそれぞれ測定した。

イムノクロマト法による半定量試薬の評価対象試薬は「スムーズチェックワコーPCT」(Smooth Check)(富士フイルム和光純薬株式会社)で,既存試薬との相関試験における対照試薬として「ブラームスTM PCT-Q」(PCT-Q)(サーモフィッシャーダイアグノスティック株式会社)を使用した。

2. 対象

Smooth Checkの判定一致率の評価および3つの評価対象試薬の相関試験には2018年9月3日~2019年6月30日までの期間に信州大学医学部附属病院を受診し,診療目的としてPCTが依頼され,その残余検体が臨床検査部に保管されていた外来および入院患者100名の検体を用いた。臨床的有用性では,2017年11月1日~2018年6月22日までの期間に信州大学医学部附属病院の高度救急救命センターに5日以上入院した患者連続300症例を対象として評価した。本研究は信州大学医学部倫理委員会の承認を得て,実施した(承認番号:3784,4146)。

3. μTASおよびAccuraseedの基礎性能評価

1) 併行精度・室内精度

5種類の試料(μTASとAccuraseedそれぞれの専用管理試料2濃度およびプール血清3濃度)を使用し,並行精度はそれぞれの試料を30重測定,室内精度は1日2回,15日間測定し,標準偏差(SD),変動係数(CV%)を算出して評価した。

2) 希釈直線性・定量限界

希釈直線性は高濃度の試料を専用希釈液で2濃度に調製したもの(低濃度・高濃度)をそれぞれ10段階希釈し,3重測定した。残差変動の分散と級内変動の分散比の有意確率が0.1%未満のとき有意差があると評価し,測定範囲内で直線性があるとした。定量限界は,定量限界付近の低濃度の5種類の試料を1日2回,5日間測定し,許容限界をCV10%として算出した。

3) 共存物質の影響

干渉チェック・Aプラス,RFプラス(シスメックス株式会社)を使用して評価した。試料は添付文書に従って作成し,測定値の変動率が10%以上で干渉ありとした。

4) 採血管添加物質の影響

採血管の添加物と採取後の静置時間が測定値に及ぼす影響を評価するため,2種類の採血管と2つの静置条件で測定を行った。採血管は高速凝固促進剤のトロンビンと凝固促進剤のシリカが添加されている積水メディカル社のインセパックII-D SQとガラス微粒子をコーティングした凝固促進フィルムが添加されているテルモ株式会社のベノジェクトII真空採血管(AR)を使用した。静置条件は(1)転倒混和5回・垂直静置5分後に遠心,(2)転倒混和10回以上・垂直静置2時間後に遠心の2つの条件を用いた。偽陽性の評価には,本研究協力への同意が得られた信州大学医学部附属病院職員(10名)から2種類の採血管に2本ずつ採血し,上記の2つの条件で分離した血清を用いた。偽陰性の評価には,患者検体から作成した3濃度(0.5 ng/mL, 2.0 ng/mL, 10.0 ng/mL)のプール血清を2種類の採血管に分取して,上記の2つの条件で静置し,遠心した後の血清を用いた。

5) 相関性

相関性は,患者100検体をμTAS,Accuraseed,Brahms,Elecsysの4試薬で同時に測定し,4試薬すべての組み合わせで,回帰式と相関係数を算出して評価した。

4. Smooth Checkの性能評価

1) 判定一致率の評価

個人による判定のばらつきを評価するため,患者100名分の判定部を撮影した写真を見て,5人の技師がそれぞれ判定し,判定一致率を算出した。

2) 相関性

5人の判定の多数決の結果を最終的な判定値として,対照試薬であるPCT-Qの結果との一致率と,定量試薬であるμTASの測定値との一致率で評価した。PCT-Qについても同様に,技師5人の判定の多数決の結果を最終的な判定値として解析に使用した。

5. 臨床的有用性の評価

PCTの臨床的有用性の評価は,高度救急救命センターに5日以上入院した患者連続300症例について,電子カルテの情報から感染症医が総合的に感染症の有無を判定し,感染症の有無が不明だった症例と,PCTの測定データがない症例を除外した294症例を対象とした。PCTは5日間の中で最も高値になった値を解析対象とし,感染症の有無,血液培養の結果およびqSOFAスコアとPCT値の関係性を解析した。

6. 統計

統計処理には日本臨床化学会のValidation-Support-V3.5を使用した。

III  結果

1. μTASおよびAccuraseedの基礎性能

μTASおよびAccuraseedの併行精度,室内精度はTable 1に示す通りだった。希釈直線性は各試薬の添付文書にある測定範囲の上限値,μTASで500 ng/mLまで,Accuraseedで200 ng/mLまで確認された。定量限界は,CV 10%点を限界とすると,μTAS,Accuraseedともに0.04 ng/mLとなった。干渉物質の影響は,どちらの試薬も認められなかった。採血管添加物の影響の検討では,2つの静置条件で健常人および患者血清のPCTの測定値を確認したが,いずれの条件でも値の変動は認められなかった。相関性試験では,いずれの組み合わせでも相関係数は0.97以上と高い相関性が認められたが,他社試薬であるElecsys試薬と比較すると富士フイルム和光純薬株式会社の3試薬とも,10~15%程度低値になる傾向が認められた(Table 2, Figure 1A–C)。しかし,診療上重要な濃度域である10 ng/mL以下に限定すると,両社の試薬の測定値は一致していた(Figure 1D)。

Table 1  Precision
QC Pool
Low High Low Middle High
Repeatability μTAS mean 1.04 10.02 0.65 1.94 21.75
SD 0.02 0.20 0.01 0.03 0.28
CV% 2.18 2.04 1.62 1.58 1.27
Accuraseed mean 1.05 3.20 0.66 2.04 24.16
SD 0.02 0.05 0.02 0.05 0.49
CV% 1.90 1.61 2.44 2.42 2.02
Intermediate precision μTAS mean 1.02 9.71 0.64 1.91 21.89
SD 0.02 0.20 0.01 0.03 0.44
CV% 2.00 2.10 1.63 1.47 2.03
Accuraseed mean 1.06 3.24 0.68 2.13 24.78
SD 0.03 0.08 0.02 0.05 0.58
CV% 2.76 2.49 3.19 2.19 2.35

(ng/mL)

Table 2  Regression equation and correlation coefficient
Y X Regression equation r
μTAS Brahms y = 0.96x + 0.18 1.00
μTAS Accuraseed y = 1.00x − 0.08 0.99
Accuraseed Brahms y = 0.96x + 0.26 0.98
μTAS Elecsys y = 0.87x + 0.55 0.99
Accuraseed Elecsys y = 0.87x + 0.63 0.97
Brahms Elecsys y = 0.91x + 0.39 0.99
Figure 1 Correlation among four reagents

Using test results of 100 samples measured by three reagents (μTAS, Accuraseed and Elecsys), two-dimensional scattergrams were drawn in three combinations (panel A, B, and C). Regression lines were calculated by major-axis linear regression. In panel D, comparison between μTAS and Elecsys values are shown by limiting samples with PCT < 10.0 ng/mL by μTAS (n = 51) to demonstrate matched values of two reagents at the low concentration range.

2. Smooth Checkの基礎性能

5人の技師による判定の一致率は,全員一致が50%,1間差が47%,2間差が3%だった。全員一致した数をTable 3の( )内に示した。5人の判定が2間差乖離した3検体はいずれも判定ラインの色が均一ではなく,ラインの両端で異なる濃淡になっていた。対照試薬であるPCT-Qとの比較では,判定が一致したのは78%,1間差だったのが22%で,2間差以上乖離したものはなかった。定量法であるμTASとの一致率は81%で,不一致となった19件はすべて1間差だった(Table 3)。

Table 3  The agreement of Smooth Check with the quantitative reagent
Smooth Check (ng/mL)
< 0.5 ≥ 0.5 ≥ 2.0 ≥ 10.0
μTAS (ng/mL) < 0.5 6 (6) 5 (3)
≥ 0.5 6 (4) 6 (2)
≥ 2.0 1 (0) 47 (27) 6 (0)
≥ 10.0 1 (0) 22 (8)

Parentheses indicate the number that the judgment of 5 people matched

3. 臨床的有用性の評価

対象とした294症例の感染症の有無とPCTの濃度分布をTable 4に示す。感染症がない症例の大部分(82%)はPCTが2.0 ng/mL未満だったのに対して,感染症があった症例ではPCTは低値から高値まで幅広く分布していた。感染症があった症例の中で,血液培養が陽性で菌血症と診断されたのは20症例で,PCTの値は10.0 ng/mL以上が15症例(中央値50.7 ng/mL),2.0–10.0 ng/mLが3症例(中央値4.1 ng/mL),2.0 ng/mL未満が2症例(中央値0.33 ng/mL)であった。PCTが2.0 ng/mL未満だった2例は感染性心内膜炎と食道穿通でPCT濃度は0.39 ng/mLと0.26 ng/mLだった。血液培養が陽性だった20症例の中で,qSOFAが2点以上で陽性だったのは9症例で,8症例はPCTが10.0 ng/mL以上で,残りの1症例は感染性心内膜炎の症例で,PCTは4.1 ng/mLだった(Table 4)。血液培養が陽性だった20症例の検出菌はグラム陽性菌が12症例,グラム陰性菌が8症例で,その中でPCTが10 ng/mL以上だった15症例における検出菌は,グラム陽性菌が8例,グラム陰性菌が7例だった。

Table 4  The relationship between PCT levels and infection, blood culture results, and qSOFA scores
Infection
Positive Negative
All Blood culture + qSOFA − Blood cultute + qSOFA +
PCT (ng/mL) < 2.0 32 2 0 168
2.0–10.0 24 2 1 27
≥ 10.0 34 7 8 9

qSOFA: quick sequential organ failure assessment

感染症がない症例の中で,PCTが10.0 ng/mL以上だったのは9症例だった(Table 5)。PCTが30.0 ng/mL以上だった4症例中3症例は,当院に到着するまでの間に20分以上の心肺停止状態があった。30.0 ng/mL未満だった5症例は,脳内出血,脳梗塞,イレウス,臓器損傷と多発骨折を伴う多発外傷,外傷性くも膜下出血の症例だった。PCTが2.0–10.0 ng/mLだったのは27症例だったが,心血管疾患や脳血管疾患,外傷など多様な症例が含まれており,病名や症状,処置などに共通点を見出すことはできなかった。

Table 5  Disease and surgical procedure in cases without infection and high PCT level
No. PCT (ng/mL) Disease CPA Surgical procedure
1 10.5 Cerebral hemorrhage Ventricular drainage
2 11.0 Multiple cerebral infarction Endovascular thrombectomy
3 15.6 Trauma (Liver and Intestinal injury, Pulmonary contusion)
4 18.0 Ileus, Partial necrosis of stomach Total gastrectomy
5 25.1 Traumatic subarachnoid hemorrhage, Dehydration, Acute kidney injury
6 33.1 Pulmonary thromboembolism 25 min
7 54.6 Non-occlusive mesenteric ischemia Total colectomy
8 86.7 Suffocation 50 min
9 185.7 Acute aortic dissection 60 min

CPA: cardiopulmonary arrest

IV  考察

μTASとAccuraseedの基礎性能は良好で,他社試薬とも高い相関性があることが示された。また,イムノクロマト法であるSmooth Checkは定量法との一致率が高く,定量法と同様に利用できることが示された。臨床的な有用性の検討では,PCTが感染症症例の中でも,血液培養やqSOFAが2点以上になる症例でより高値になる傾向が認められ,敗血症の診断に有用なマーカーであることが示された。

μTASとAccuraseedの測定値はほぼ一致したが,Elecsysとの回帰直線ではやや傾きが生じていた。どの試薬も抗原抗体反応を利用した測定法であり,それぞれの試薬でキャリブレーションの方法もキャリブレーターの数も異なることが,高値側でやや乖離を生じた原因であると推察される。細菌感染症の診断で使用される10 ng/mL以下の低値域に限定すると,3つの試薬とも測定値が一致するため,診療上の影響はないと考えられる。イムノクロマト法では,Smooth CheckとPCT-Qの両方で,判定ラインに濃淡が生じ,ラインのどの部分で判定するかで技師間の判定が一致しなかった症例がいくつか認められた。濃淡が認められた検体はいずれもPCTが2.0 ng/mL以上の陽性の検体であり,検体添加部分に近いほうが濃く,遠いほうが薄く,まだらになる傾向があった。判定ライン全体の平均程度の濃さとして判定すると,定量値と一致する傾向が認められた。判定の仕方によって,実際よりも高値に判定してしまう可能性があるため,注意が必要である。

PCTの有用性の評価では,感染症があった90症例は,PCTが陰性から高値陽性まで幅広く分布していたが,血液培養陽性かつqSOFA2点以上の症例ではそのほとんどが10 ng/mL以上の高値になっており,PCTが重症の感染症であるほど高濃度になることが示された。PCTは2.0 ng/mL以上で敗血症を強く示唆するとされており,沖村ら12)が菌血症患者50症例の入院時のPCTで検討した結果では,約70%の患者でPCT値が2.0 ng/mL以上だったと報告している。今回の検討では,入院5日間の最大値で検討したため,菌血症患者の90%でPCT値が2.0 ng/mL以上,75%の患者で10.0 ng/mL以上となり,PCTの偽陰性がさらに少ない結果となったと考えられる。

血液培養が陽性で,PCTが2.0 ng/mL未満だったのは,感染性心内膜炎と食道穿通による菌血症の2症例だった。感染性心内膜炎ではPCT濃度が非感染症例よりも上昇するが,その上昇の程度は他の感染症と比べると軽度であり,ROC解析ではROC曲線下面積が0.6と低いことから感染性心内膜炎がある患者とない患者ではPCT濃度にかなりの重複があると報告されている13)。一方で感染性心内膜炎は起炎菌によって臨床経過が異なり,原因菌の多くを占める口腔内レンサ球菌は比較的病原性が低く,慢性の経過であるのに対して,Staphylococcus aureusや溶血性レンサ球菌は病原性が高く,比較的急性の経過であることが多い14)。PCT濃度もS. aureusが起炎菌の場合には,他の菌が起炎菌の場合に比べて,高い傾向があると報告されている13)。本研究の対象症例に含まれていた感染性心内膜炎症例は2症例で,1症例目は起炎菌が口腔内レンサ球菌であるalpha-streptococcus,PCTは3病日目が最大で0.39 ng/mL(1病日は0.33 ng/mL),2症例目の起炎菌はStreptococcus dysgalactiaeで,PCTは2病日に最大で4.12 ng/mL(1病日は3.55 ng/mL)であった。2症例とも疣贅による脳梗塞を発症して救急搬送され,搬送当日に採取された血液培養から起炎菌が検出されている点は同じだったが,1症例目は抗菌薬の投与のみで3日後には血液培養が陰性になったのに対して,2症例目は弁破壊が激しく,二弁置換術が実施されていた。これまでの報告と今回からの症例から,感染性心内膜炎においては,PCTは必ずしも陽性にはならず,また通常の菌血症や敗血症とは異なり,起炎菌の種類や弁破壊の程度などがPCT濃度に影響を及ぼす可能性が考えられるため,診断や治療にPCTを利用するためには,今後さらなる検証が必要といえる。

血液培養が陽性で,PCTが2.0 ng/mL未満だったもう1症例の食道穿通による菌血症例は食道壁に膿瘍が形成されており,全身状態も安定して,敗血症への移行を疑うような検査所見もなかったため,PCTが低値になったと推測される。

一方で,感染症がなかった症例の18%でPCTが2.0 ng/mL以上となった。PCTが偽陽性を示す疾患や処置,病態は数多く報告されており,日常的な診療で多く遭遇するものでは,外科手術後,重症外傷,熱傷や熱中症,急性呼吸窮迫症候群,小細胞肺癌,甲状腺C細胞癌などが挙げられる15)。今回の検討でPCTが10 ng/mL以上になったのは,心肺停止症例を除くと,胃や腸の摘出手術を行った症例と複数臓器の損傷を含む重症外傷が含まれていた。これらは外科手術後や重症外傷に当てはまるが,今回の対象症例に多く含まれていた大動脈解離に伴う大動脈置換術や外傷による四肢や脊椎の骨折に伴う整復や固定術を行った症例のほとんどは,術後もPCTは2.0 ng/mL未満だった。このことから,外科手術や重症外傷のすべてでPCTが上昇するわけではなく,臓器の切除や損傷を伴う外科手術や外傷でPCTが上昇する傾向があるといえる。

V  結語

PCTは敗血症診断の補助的マーカーとして有用であり,細菌感染症の重症度を反映するマーカーである。細菌感染症の診断と治療には迅速性が求められるため,定量法が利用できない施設でも,半定量法であるイムノクロマト法を利用して迅速に結果を報告することは細菌感染症および敗血症の診療に有用であると考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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