Japanese Journal of Medical Technology
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Evaluation of nutritional markers less affected by inflammation
Satoru YAMADAYoshifumi UMEMORIMaki MOCHIZUKIKouichi ASANUMANozomi YANAGIHARASatoshi TAKAHASHI
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2021 Volume 70 Issue 1 Pages 74-79

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Abstract

栄養マーカーとしてアルブミンや,トランスサイレチン,レチノール結合蛋白,トランスフェリンが用いられるが,炎症の影響で血中濃度が低下する。近年,ApoC-II,ApoC-IIIが炎症の影響を受けにくい栄養マーカーになり得ると報告された。我々はApoC-II,ApoC-IIIを含むアポリポ蛋白が炎症の影響を受けにくい栄養マーカーとして有用か検討し,腎障害や高TG血症が測定値に与える影響も解析した。低栄養群51名,健常人群28名,腎障害群19名,高TG血症群24名を対象とし,低栄養群はCRP低値群19名とCRP高値群32名の2群に分け,アポリポ蛋白と各栄養マーカーの測定値を比較した。ApoA-Iは健常人群に比べ低栄養群で有意に低下したが,低栄養CRP高値群がCRP低値群より有意に低かった。ApoC-IIは健常人群と低栄養群の差が小さく,特にCRP高値群と健常人群で有意差はなかった。ApoC-IIIは健常人群に比べ低栄養群で有意に低かったが,低栄養CRP低値群とCRP高値群で有意差を認めなかった。また,ApoC-IIIは腎障害群と高TG血症群では健常人群と比べ有意に高値となった。以上の結果より,ApoC-IIIは炎症の影響を受けにくい栄養マーカーとなり得るが,腎障害および高TG血症で高値傾向となり,結果の解釈に注意を要する。

Translated Abstract

As nutritional markers, albumin, transthyretin, retinol-binding protein, and transferrin are used. However, their concentrations decrease markedly during inflammation. In recent years, it has been reported that apolipoprotein (Apo) C-II and ApoC-III can be nutritional markers that are less affected by inflammation. We investigated whether apolipoproteins including ApoC-II and ApoC-III are useful as nutritional markers unaffected by inflammation, and we analyzed the effects of renal injury and hypertriglyceridemia on their measured concentrations. The subjects were 51 patients with malnutrition, 28 healthy volunteers, 19 patients with renal injury, and 24 patients with hypertriglyceridemia. The malnutrition group was divided into two: the low-CRP-concentration group of 19 patients and the high-CRP-concentration group of 32 patients. The concentrations of apolipoproteins were measured and compared among the groups. The ApoA-I concentration was significantly lower in the malnutrition group than in the healthy group. Additionally, a significantly larger reduction was observed in the high-CRP-concentration group than in the low-CRP-concentration group. The ApoC-II concentration showed a small difference between the healthy and malnutrition groups and especially no difference between the high-CRP-concentration and healthy groups. The ApoC-III concentration was significantly lower in the malnutrition group than in the healthy group, but there was no significant difference between the low-CRP- and high-CRP-concentration groups. In addition, the ApoC-III concentration was significantly higher in the renal injury and hypertriglyceridemia groups than in the healthy group. As mentioned above, ApoC-III may be a nutritional marker that is not affected by inflammation. However, the concentration of ApoC-III tends to be high in the presence of renal injury and hypertriglyceridemia, so the interpretation of the results requires caution.

I  はじめに

低栄養状態は,組織・臓器の機能不全や免疫能の低下を引き起こし,創傷治癒の遅延や感染性合併症を発生しやすくする。その結果,原疾患の治癒障害や悪化をもたらす。また,治療に対する反応性も低下し,入院患者では在院日数の延長に繋がる1)。低栄養状態に陥った患者に対し栄養管理を実施するには,的確な栄養評価を実施する必要があり,栄養評価に用いられる指標には,病歴,理学的所見,身体計測値,臨床検査データなどがある。栄養マーカーとなる臨床検査データの代表的な項目として,比較的長期間の栄養指標となるALBや,短期間の栄養状態を反映するトランスサイレチン(TTR),レチノール結合蛋白(RBP),トランスフェリン(Tf)といったrapid turnover protein(RTP)が汎用されるが,これらは炎症状態で血中濃度が低下するため,術後および感染症患者の栄養評価指標として用いることが困難である2),3)

ところで,血中脂質関連マーカーであるアポリポ蛋白には半減期が短いものがあり,特にApoCの血中半減期は約1日で,他のアポ蛋白に比べ短い4),5)。また,アポリポ蛋白は日内変動が少なく食事の影響を受けにくい6)。最近,Isshikiら7)はApoC-II,ApoC-IIIが炎症の影響を受けにくい栄養マーカーになり得ると報告した。

そこで今回我々は,当院の栄養サポートチーム(NST)介入中の低栄養患者を対象に,ApoC-II,ApoC-IIIを含むアポリポ蛋白が炎症の影響を受けにくい栄養マーカーとして有用か否か検討した。また,栄養療法施行中に起こりうる合併症として,腎機能障害や脂肪乳剤投与中の高トリグリセリド(TG)血症などが挙げられ,注意深くモニタリングすることが重要であるため8),加えて腎障害および高TG血症が栄養マーカーに与える影響についても検討を行った。

II  対象および方法

1. 対象

2018年3月~12月に検査依頼のあった入院および外来患者を対象とし,NST介入中の低栄養患者(ALB ≤ 3.5 g/dLかつTTR ≤ 22.0 mg/dL)のうち推算糸球体濾過量(eGFR) < 60 mL/min/1.73 m2またはTG ≥ 150 mg/dLを除外した低栄養群51名,腎障害群(eGFR < 60 mL/min/1.73 m2)19名,および高TG血症群(TG ≥ 150 mg/dL)24名の残存ヘパリンリチウム(H-Li)加血漿および残存血清を用いた。なお,腎障害群および高TG血症群は,低栄養患者の条件を満たす症例を除外した。また,健常人群として本検討に同意を得た当院職員28名の血清を用いた。なお,本検討は,札幌医科大学附属病院臨床研究審査委員会の承認(承認番号:302-65),および札幌医科大学倫理委員会の承認(承認番号30-2-28)を得た。

2. 方法および測定試薬・機器

アポリポ蛋白はApoC-II,ApoC-III,ApoA-I,ApoB,ApoEを測定した。また栄養マーカーとして,ALB,Tf,TTR,RBPを測定した。ApoC-IIは「アポC-IIオート・N「第一」」,ApoC-IIIは「アポC-IIIオート・N「第一」」,ApoA-Iは「アポA-Iオート・N「第一」」,ApoBは「アポBオート・N「第一」」,ApoEは「アポEオート・N「第一」」(いずれも積水メディカル(株))を使用した。TTRは「N-アッセイ TIA プレアルブミン ニットーボー」,RBPは「N-アッセイ LA RBP ニットーボー」,Tfは「N-アッセイ TIA Tf-H ニットーボー」(いずれもニットーボーメディカル(株))を用いた。いずれの項目も自動分析装置JCA-BM6050(日本電子(株))で測定した。ALBは「LタイプワコーALB-BCP」(富士フイルム和光純薬(株))を使用し,自動分析装置「LABOSPECT008」((株)日立ハイテクノロジーズ)で測定した。

3. 統計解析

統計学的処理は,t検定またはマン・ホイットニーのU検定を用い,危険率5%未満を統計学的に有意差ありと判定した。

III  結果

1. 対象者の特性

対象の臨床的背景をTable 1に示す。低栄養群はCRP値を用い,CRP低値群(< 2 mg/dL)19名と,CRP高値群(≥ 2 mg/dL)32名に分けた。健常人群と比べ,他の4群は高齢でCRPも高値であった。性差は健常人群と高TG血症群では男女比に差はみられなかったが,低栄養CRP低値群では男性が約1.4倍とやや高く,低栄養CRP高値群および腎障害群では男女比がそれぞれ約2.6倍,2.2倍と高かった。BMIはCRP低値群では低く,高TG血症群では高値だった。eGFRは腎障害群でのみ低値だったが,TGはCRP低値群以外の3群で健常人群より高値だった。ALBは健常人群に比べ,いずれの群でも有意に低値だったが,低栄養群は他の群よりさらに低値であった。TTRは低栄養群のみ有意に低値であった。

Table 1  Baseline profiles of the Healthy, Malnutrition, Renal injury and Hypertriglyceridemia groups
Healthy group
(n = 28)
Malnutrition group Renal injury group
(n = 19)
Hypertriglyceridemia group
(n = 24)
Low CRP group
(n = 19)
High CRP group
(n = 32)
Age (y) 37.6 (8.9) 68.2 (8.8)*** 67.3 (10.5)*** 72.7 (13.0)*** 53.2 (13.4)***
Male/Female 14/14 11/8 23/9 13/6 12/12
BMI (kg/m2) 22.0 (2.7) 19.1 (3.1)*** 21.9 (4.1) 21.4 (4.9) 26.8 (8.8)**
CRP (mg/dL) 0.01 (0.01, 0.02) 0.77 (0.26, 1.39)*** 7.21 (3.21, 11.74)*** 0.07 (0.01, 1.07)*** 0.08 (0.04, 0.34)***
eGFR (mL/min/1.73 m2) 88.2 (12.9) 92.4 (18.5) 99.9 (38.8) 26.5 (9.0)*** 85.8 (25.1)
TG (mg/dL) 70.3 (22.1) 79.2 (36.5) 95.0 (22.3)*** 99.5 (28.7)*** 309.8 (168.1)***
ALB (g/dL) 4.5 (4.3, 4.7) 2.9 (2.6, 3.2)*** 2.6 (2.0, 2.9)*** 3.5 (3.0, 3.7)*** 4.1 (3.7, 4.3)***
TTR (mg/dL) 27.9 (22.5, 33.6) 16.1 (13.0, 17.8)*** 9.9 (7.6, 11.9)*** 25.5 (22.3, 33.4) 29.1 (25.5, 33.3)

CRP, ALB, TTR are shown as medians (interquartile ranges), the others are shown as means (SD).

*p < 0.05, **p < 0.01 and ***p < 0.001 vs. Healthy group.

2. 炎症の影響

低栄養群および健常人群を対象に,各栄養マーカーの測定を行い,中央値を比較した(Figure 1)。ALBとTTRはCRP低値群に比べCRP高値群で有意に低値であった(それぞれp < 0.01,p < 0.001)。RBPは健常人群で2.9 mg/dLであったが,CRP低値群で1.8 mg/dL,CRP高値群で1.3 mg/dL(いずれもp < 0.001),Tfは健常人群で274 mg/dLであったが,CRP低値群で183 mg/dL,CRP高値群で142 mg/dLとなり,ALBやTTRと同様に健常人群より低栄養群は有意に低値で(いずれもp < 0.001),CRP高値群はCRP低値群より有意に低値であった(いずれもp < 0.001)。ApoA-Iは健常人群の158.6 mg/dLに比べ,CRP低値群で115.5 mg/dL,CRP高値群で83.6 mg/dLと低栄養群で有意に低値だった(いずれもp < 0.001)。また,CRP高値群がCRP低値群に比べ有意に低値であり(p < 0.001),ALBやRTPと同様であった(Figure 1a)。

Figure 1 Comparison of nutritional markers between Healthy, Malnutrition Low CRP and High CRP group.

Boxes represent IQRs. Whiskers represent the range between 2.5th and 97.5th percentiles (*p < 0.05, **p < 0.01, ***p < 0.001, N.S.: Not Significant).

ApoC-IIは健常人群で3.0 mg/dL,CRP低値群で2.4 mg/dLと後者は若干低値(p < 0.05)であった。しかし,CRP高値群は2.5 mg/dLと,健常人群およびCRP低値群と比べて有意差を認めなかった(p = 0.12および0.56)。Apo-Bは健常人群で84.8 mg/dL,CRP低値群で64.0 mg/dL,CRP高値群で75.5 mg/dLと低栄養群で有意に低値となったが,CRP高値群はCRP低値群と比べ若干高値であった(p < 0.05)。ApoEは健常人群で3.7 mg/dLであったが,CRP低値群で3.6 mg/dL,CRP高値群で3.3 mg/dLとなり,いずれも差を認めなかった(p = 0.87および0.33)(Figure 1b)。

ApoC-IIIは健常人群で8.5 mg/dLであったのに対し,CRP低値群で5.2 mg/dL,CRP高値群で4.9 mg/dLと有意に低値(いずれもp < 0.001)であった。また,CRP低値群とCRP高値群で有意差を認めなかった(p = 0.18)(Figure 1c)。

3. 腎障害,高TG血症の影響

CRP低値群とCRP高値群で有意差がみられなかったApoC-IIIについて,腎障害群と高TG血症群における中央値を健常人群と比較した(Figure 2)。その結果,腎障害群および高TG血症群のApoC-IIIは,10.0 mg/dLおよび16.0 mg/dLと,健常人群の8.5 mg/dLに比べ有意に高値であった(それぞれp < 0.01,p < 0.001)。

Figure 2 Comparison of ApoC-III between Renal injury and Hypertriglyceridemia.

Boxes represent IQRs. Whiskers represent the range between 2.5th and 97.5th percentiles (**p < 0.01, ***p < 0.001).

IV  考察

最近,ApoC-II,ApoC-IIIが炎症の影響を受けにくい栄養マーカーになり得ると報告された7)。そこで,当院NST介入中の低栄養患者を対象に,ApoC-IIやApoC-IIIをはじめとするアポリポ蛋白や,従来より用いられている栄養マーカーの有用性を検討した。

ALBおよびRTPは,健常人群に比べ,低栄養群で有意に低下しており,低栄養状態を反映する栄養マーカーとして有用性が高かった。しかし,いずれも低栄養群のなかでもCRP高値群ではCRP低値群より有意に低値となり,炎症の影響で低下する可能性が示唆された。また,ApoA-Iも,ALBやRTPと同様に低栄養群での有意な低下と,炎症による血中濃度の低下がみられた。炎症によってCRPや血清アミロイド蛋白A(SAA)などの急相性蛋白の合成は上昇する9)。ApoA-Iは高比重リポ蛋白(HDL)を構成するアポリポ蛋白で,SAAの合成が高まると,ApoA-Iの血中濃度が低下することが知られている10)。本検討では,各試料のSAAの血中濃度は確認できていないが,CRPと同様,炎症によりSAAの血中濃度が上昇し,ApoA-Iの濃度が低下したと考えられた。

ApoBは健常人群に比べ,低栄養群で有意に低値となったが,CRP高値群でCRP低値群より若干高値となった。また健常人群とCRP高値群との差がALBやRTPと比べてApoBは小さく,健常人群と低栄養群で大きな差を認めなかったApoEと同様に,栄養マーカーとしての有用性は低いと考えられた。

ApoC-IIおよびApoC-IIIは,既報で炎症の影響を受けにくい栄養マーカーになり得ると報告された。本検討において,ApoC-IIは健常人と低栄養群での差が小さく,特にCRP高値群と健常人群では有意差が認められなかった。既報では,主観的包括的評価(SGA)およびBMIを用いて対象患者を抽出しており7),本検討とは低栄養患者の抽出条件が異なること,また既報における健常人群のApoC-IIの平均値が4.61 mg/dL7)と,我々の結果より高値であったことなどが一因として考えられた。一方,ApoC-IIIは健常人群と比較してALBやRTPと同様に低栄養群で有意な低下がみられたが,CRP低値群とCRP高値群との間で有意差はみられなかった。このことから,炎症の影響を受けにくい栄養マーカーとなりうることが示唆された。ApoC-IIIが炎症の影響を受けにくかった原因として,ALBやRTPのように炎症性サイトカインが作用する構造を持たず,糖や脂質代謝に関与する核内受容体(PPARsなど)の作用により,血中濃度が変化するためであると考えられた11)

炎症の影響を受けにくい栄養マーカーとして,最も適当と判断したApoC-IIIを用いて,腎障害および高TG血症がApoC-IIIに与える影響について検討した結果,腎障害群と高TG血症群のApoC-IIIは,健常人群と比べ両群とも有意に高値となった。ApoC-IIIは,TGリッチリポ蛋白であるカイロミクロン(CM)や超低比重リポ蛋白(VLDL)に多く含まれる。このため,高TG血症群ではCMやVLDLが増加しており,構成アポリポ蛋白であるApoC-IIIも増加する。本検討に用いた症例では,高TG血症の成因は不明であるが,ApoC-IIIが有意に高値となったのはこれらが一因となっている可能性が考えられた。

また,本検討はeGFR < 60 mL/min/1.73 m2を満たす場合を腎障害群と定義したが,腎障害群のApoC-IIIは健常人群と比べ,有意な上昇を認めた。腎障害の代表例として,慢性腎臓病(CKD)が挙げられるが12),CKDはVLDL,LDLが増加する脂質異常症が多いとされる13)。腎障害を有する場合,GFRの低下に伴い,TGを分解する作用を有するLPL活性が低下するため,VLDLの分解が低下し,構成アポリポ蛋白であるApoC-IIIの上昇をきたしたと推測された。

V  結語

ApoC-IIIは炎症の影響を受けにくい栄養マーカーとして有用性が高いことが示唆された。しかし,腎障害や高TG血症を有する患者では,ApoC-IIIが高値となるため,栄養評価の際には注意が必要である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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