Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Evaluation of the Xpert C. difficile PCR Assay for the diagnosis of Clostridioides difficile Infection
Mai OHNOYasushi KIBEMakiko KIYOSUKEYuiko MOROKUMARuriko NISHIDATaeko HOTTADongchon KANG
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2021 Volume 70 Issue 2 Pages 286-290

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Abstract

糞便250検体を対象にtoxigenic culture(TC),Xpert C. difficile(ベックマン・コールター株式会社,Xpert CD),C. DIFF QUIK CHEK COMPLETE(アボットダイアグノスティクスメディカル株式会社,COMPLETE)によるtoxin検出を行い,Xpert CDの性能を評価した。TCを基準とした場合のXpert CD,COMPLETEのtoxin検出感度はそれぞれ100%,17.6%であった。250検体中7検体で3法の結果に乖離が認められ,患者背景より2検体はCOMPLETEのtoxin検出感度以下,4検体はTCの培養偽陰性,1検体はXpert CDでのみ検出できたClostridioides difficile感染症(CDI)症例と考えられた。Xpert CDは菌の生存状態に影響を受けず,高感度に毒素検出が可能な点が有用と思われたが,どの検査法においても偽陽性や偽陰性があることから,CDI診断には検査結果と臨床症状とを併せた判断が重要と考えられた。また,Xpert CDは当日中に結果報告が可能であり,TCの代わりに用いることで,感染制御の観点からも有用と考えられた。以上より,Xpert CDはC. difficile毒素遺伝子を高感度かつ迅速に検出でき,CDI早期診断と治療の開始,適切な感染対策の実施に貢献できるものと期待される。

Translated Abstract

We evaluated a multiplex real-time polymerase chain reaction (PCR) system of the Xpert C. difficile PCR assay (Xpert CD, Beckman Coulter) that detects tcdB of Clostridioides difficile directly from the stool. Loose stool specimens (n = 250) were analyzed by toxigenic culture (TC), Xpert CD, and C. DIFF QUIK CHEK COMPLETE (COMPLETE, Abbott). Given that the results of TC are correct, the sensitivities for toxin were 100% and 17.6% for Xpert CD and COMPLETE, respectively. Seven of the 250 samples showed discordant results among the three methods. The reasons considered were as follows: the levels of toxin were below the detection limit of COMPLETE for two cases, false negative in the TC for four cases, and one CDI case detected only by Xpert CD probably because it is not affected by the viability of the bacterium. These results suggest that Xpert CD is superior to TC. However, considering that false positive/negative results can be obtained in any of these methods, it is important that the diagnosis of CDI requires the evaluation of both clinical symptoms and test results. Replacing TC with Xpert CD may reduce unnecessary infection control owing to its short turnaround time. In conclusion, Xpert CD can be a choice for the accurate and rapid diagnosis of CDI.

I  はじめに

Clostridioides difficile感染症(CDI)はC. difficile毒素が原因で腸炎や下痢症を引き起こす疾患であり,医療従事者の手指や環境を介して伝播するため医療関連感染対策上,非常に重要である1)C. difficileは病原性のある毒素産生株と病原性のない毒素非産生株が存在することから,診断には糞便から毒素や毒素遺伝子を検出する,あるいは培養により毒素産生性C. difficileを検出することが重要となる2)。国内ではイムノクロマト法を原理とする迅速キットを用いた検査法が主流であり,当院においてもC. difficile特異抗原(glutamate dehydrogenase; GDH)とtoxin A,Bの両毒素(toxin)を検出するC. DIFF QUIK CHEK COMPLETE(アボットダイアグノスティクスメディカル株式会社,COMPLETE)を使用している。しかし,GDH検出感度は高い一方で,toxin検出感度が41–54%3)~6)と低いことが報告されている。そのため,GDH陽性 / toxin陰性となった場合は,毒素非産生株の存在あるいは毒素産生量が検出感度以下の両者の可能性を考え,toxigenic culture(TC)を実施する2段階アルゴリズムを用いているが結果報告までに日数を要しているのが現状である。C. difficile毒素検出において,2018年10月に国内で発行されたClostridioides (Clostridium) difficile感染症診療ガイドライン7)より,遺伝子検査法を含めた2段階アルゴリズムが提唱され,臨床検査への導入が注目されている。一方で,遺伝子検査法は無症候性キャリアを検出する可能性があり,CDIの過剰診断に繋がる可能性に留意する必要がある点も報告されている8)。Xpert C. difficile(ベックマン・コールター株式会社,Xpert CD)は,real-time polymerase chain reaction(PCR)法を測定原理とし,C. difficileの遺伝子のうち,toxin B,binary toxinおよび変異型tcdCの遺伝子を糞便検体から約45分で検出可能なキットである。施行が簡便かつ迅速で,感度が高いことからTCに代わる検査として期待される。そこで今回,TC,Xpert CD,COMPLETEのtoxin検出結果を比較し,Xpert CDの性能評価を行ったので報告する。

II  対象および方法

当院で2018年6月1日から9月19日までの期間にCDI診断目的に提出された糞便250検体を対象とした。対象検体は当院の倫理委員会の承認を得て使用した。

1. TC,Xpert CD,COMPLETEを用いたGDHおよびtoxin検出

TCは,糞便を10 μL白金耳を用いてCCMA培地(極東製薬工業株式会社)に塗布し,35℃で48時間嫌気培養を行った。48時間後C. difficile様の黄色のラフ型コロニーの発育を認めた場合は,谷野ら9)の方法に準じ,発育したコロニーをCOMPLETE希釈液にMcFarland 4.0になるように調整し,COMPLETEを用いて検査を行った。Xpert CDおよびCOMPLETEは添付文書に記載された方法に準じて検査を行った。これらは,原則検体提出当日に実施し,当日の検査が不可能であった検体は4℃で保存し2日以内に実施した。また,TCを基準とし,Xpert CD,COMPLETEにおけるGDHおよびtoxin検出感度,特異度,陽性一致率,陰性一致率を算出した。

2. 乖離検体におけるPCR法を用いたtoxin B遺伝子検出

TCでC. difficileの発育を認めなかったが,COMPLETEでGDH陽性あるいはXpert CDでtoxin陽性であった5検体について,PCR法にて糞便からtoxin B遺伝子であるtcdBの検出を行った(tcdB PCR)。糞便からのDNA抽出は核酸抽出試薬MORA EXTRACT(極東製薬工業株式会社)を用いて添付文書に記載された方法に準じて実施し,DEPC処理水200 μLに懸濁したものをDNA templateとした。PCR反応はTakara Ex Taq HS(タカラバイオ株式会社)を使用し,プライマーは既報10)の方法に準じ,NK104(5'-GTGTAGCAATGAAAGTCCAAGTTTACGC-3'),NK105(5'-CACTTAGCTCTTTGATTGCTGCACC-3')を使用した。PCR反応液は,滅菌蒸留水13.4 μL,10 × Ex Taq Buffer 2.5 μL,dNTP Mixture 2.0 μL,NK104プライマー(10 μM)1.0 μL,NK105プライマー(10 μM)1.0 μL,EX Taq polymerase(5 U/μL)0.1 μL,DNA template 5.0 μLをそれぞれ添加し,全量25 μLに調整した。PCR反応条件は94℃ 1分,54℃ 1分,72℃ 1分を36サイクル行い,電気泳動にて204 bpに増幅産物が認められたものをtoxin B遺伝子陽性とした。

III  結果

1. TC,Xpert CD,COMPLETEを用いたtoxin検出の比較と性能評価

TCを基準とした場合のXpert CD,COMPLETEのGDHおよびtoxin検出結果をTable 1に示す。TCでtoxin陽性であった17検体について,Xpert CDは全てtoxin陽性,COMPLETEはGDH陽性 / toxin陽性3検体,GDH陽性 / toxin陰性12検体,GDH陰性 / toxin陰性2検体であった。TCでtoxin陰性であった14検体について,Xpert CDは全てtoxin陰性,COMPLETEは全てGDH陽性 / toxin陰性であった。TCでC. difficileの発育を認めなかった219検体について,そのうちXpert CDでtoxin陰性かつCOMPLETEでGDH陽性 / toxin陰性が4検体,Xpert CDでtoxin陽性かつCOMPLETEでGDH陰性 / toxin陰性が1検体あった。Xpert CDにおいて,binary toxinおよび変異型tcdCは全て陰性であった。

Table 1  TCを基準とした場合のXpert CD,COMPLETEのGDHおよびtoxin検出結果
TC(検体数) Xpert CD COMPLETE
toxin陽性 toxin陰性 GDH陽性 / toxin陽性 GDH陽性 / toxin陰性 GDH陰性 / toxin陰性
培養陽性(31) toxin陽性(17) 17 0 3 12 2
toxin陰性(14) 0 14 0 14 0
培養陰性(219) 1*1 218 0 4*2 215
計(250) 18 232 3 30 217

*1 COMPLETE GDH陰性 / toxin陰性

*2 Xpert CD toxin陰性

TCを基準とした場合のXpert CD,COMPLETEの検出感度,特異度,陽性一致率,陰性一致率をTable 2に示す。Xpert CDのtoxin検出感度100%(17/17),特異度99.6%(232/233),陽性一致率94.4%(17/18),陰性一致率100%(232/232),COMPLETEのGDH検出感度93.5%(29/31),特異度98.2%(215/219),陽性一致率87.9%(29/33),陰性一致率99.1%(215/217),toxin検出感度17.6%(3/17),特異度100%(233/233),陽性一致率100%(3/3),陰性一致率94.3%(233/247)であった。

Table 2  TCを基準としたXpert CD,COMPLETEの性能評価
感度 特異度 陽性一致率 陰性一致率
Xpert CD 100%(17/17) 99.6%(232/233) 94.4%(17/18) 100%(232/232)
COMPLETE GDH 93.5%(29/31) 98.2%(215/219) 87.9%(29/33) 99.1%(215/217)
toxin 17.6%(3/17) 100%(233/233) 100%(3/3) 94.3%(233/247)

2. 乖離検体における3法の詳細結果とtoxinB遺伝子検出結果

TC,Xpert CD,COMPLETEの3法において結果に乖離が認められた検体の詳細結果とtcdB PCRによるtoxinB遺伝子検出結果をTable 3に示す。乖離が認められた検体は7検体あり,TCでtoxin陽性であった2検体(No. 1, 2)はXpert CDでもtoxin陽性であったが,COMPLETEでGDH陰性 / toxin陰性であった。TCでC. difficileの発育を認めなかった5検体(No. 3, 4, 5, 6, 7)のうち4検体(No. 3, 4, 5, 6)は,Xpert CDでもtoxin陰性であったが,COMPLETEでGDH陽性 / toxin陰性,1検体(No. 7)はXpert CDでtoxin陽性,COMPLETEでGDH陰性 / toxin陰性であった。また,tcdB PCRを実施した5検体について,3検体(No. 3, 4, 5)はtoxin陰性,1検体(No. 6)は検体不良によりDNA抽出が困難でありtoxinB遺伝子の確認ができなかった。1検体(No. 7)はtcdB PCRでtoxin陽性であった。

Table 3  TC,Xpert CD,COMPLETEの3法において結果に乖離が認められた検体の詳細結果とtcdB PCRによるtoxinB遺伝子検出結果
Sample No. TC Xpert CD COMPLETE tcdB PCR
1 toxin陽性 陽性 GDH陰性 / toxin陰性 未実施
2 toxin陽性 陽性 GDH陰性 / toxin陰性 未実施
3 培養陰性 陰性 GDH陽性 / toxin陰性 陰性
4 培養陰性 陰性 GDH陽性 / toxin陰性 陰性
5 培養陰性 陰性 GDH陽性 / toxin陰性 陰性
6 培養陰性 陰性 GDH陽性 / toxin陰性 DNA抽出不可
7 培養陰性 陽性 GDH陰性 / toxin陰性 陽性

IV  考察

今回我々は,TC,Xpert CD,COMPLETEによるtoxin検出を実施し,Xpert CDの性能評価を行った。TCを基準とした場合のXpert CDのtoxin検出感度はCOMPLETEよりも高感度で,TCと同等であった。Xpert CDの感度に関しては,97.3–100%と高いことが報告されており11)~13),本検討でも同様の結果となった。

また,対象250検体中7検体で3法の結果に乖離が認められた。乖離の原因を3法の結果と患者の臨床背景より考察する。COMPLETEのみtoxin陰性を示した2検体(No. 1, 2)中1検体は,CDI治療薬であるバンコマイシンの内服により,2週間後に症状の改善を認めていた。したがって,患者はCDIであった可能性が考えられた。1検体は外来患者であったため,カルテよりその後の経過観察ができずCDIか否かの判断は困難であった。しかし,2検体ともにTC,Xpert CDでtoxin陽性であったことから,COMPLETEの検出感度以下の可能性が考えられた。COMPLETEでのみGDH陽性であった4検体(No. 3, 4, 5, 6)は,tcdB PCRにおいて1検体を除きtoxin陰性であった。該当患者は,使用中の抗菌薬の中止やCDI治療薬を投与することなく自然軽快していたことからCDIは否定的と考えられた。したがって4検体は毒素非産生C. difficileの存在が示唆された。また,これら4検体は検体提出当日にTCを実施したがC. difficileの発育を認めず,TCの培養偽陰性の可能性が考えられた。Xpert CDのみtoxin陽性であった1検体(No. 7)は,tcdB PCRでもtoxin陽性であった。患者はその後も下痢症状が続いたため3ヶ月後に再度検査を実施したところ,TCでtoxin陽性が判明し,メトロニダゾールの内服により症状の改善が認められていた。したがって,患者はCDIでありXpert CDでのみ早期に検出可能であったと考えられた。

検査法の偽陰性,偽陽性の問題はCDIの診断をより一層困難なものにしている。イムノクロマト法のGDH検出感度は高いと言われている一方で,PCR-Ribotype027以外の菌株ではTCを基準とすると約70%と低いといった報告14)や,GDH陰性にもかかわらずbinary toxin産生C. difficileが検出されたCDI重症例の報告15)もある。経口腸管洗浄剤などの主成分であるポリエチレングリコール400がイムノクロマト法で偽陽性を示すとの報告もある16)。TCは抗菌薬の影響や培養技術の問題,検査室へ提出するまでの不適切な検体の保存により菌が発育しない可能性もある。Xpert CDは高感度であるがゆえに無症候性キャリアを検出する可能性もあるが,菌の生存状態に影響を受けず,短時間で毒素検出が可能な点は有用と考える。

CDI感染症におけるClostridioides (Clostridium) difficile感染症診療ガイドライン7)では,TCの代わりに遺伝子検査を実施する2段階アルゴリズムが提唱されている。本検討結果より,どの検査法においても偽陽性や偽陰性が示唆される検体が認められた。したがって,日常検査においては2段階アルゴリズムを用いつつ,臨床症状や緊急時に応じて検査法を選択し,最終的なCDIの診断は検査結果と臨床症状とを併せた総合的な判断が重要と考えられた。

当院では現在,COMPLETEとTCによる2段階アルゴリズムを実施しており,COMPLETEでGDH陽性 / toxin陰性となった場合,CDI疑いとして個室隔離と接触感染予防策を開始している。その後,TCで陰性の場合は感染対策を解除する運用となっているが,判定までに48時間を要すため,過剰な予防的措置が取られているのが現状である。TCの代わりにXpert CDを用いることにより約45分で最終報告が可能であることから,感染制御の観点からも有用性は高いと考えられる。

また,Xpert CDは欧米でアウトブレイクし問題となった強毒型C. difficile(BI/NAPI/027株)の特徴であるbinary toxin産生遺伝子およびtoxinA/B産生のnegative regulatorであるtcdC変異型の検出も可能である。本検討ではtoxin陽性症例数が少なく,検討期間中にこれら遺伝子の検出は認められなかったが,Xpert CDの導入は,今後,強毒型か否かを確認するうえでも有用と考えられた。

V  結語

Xpert CDはC. difficile毒素遺伝子を高感度かつ迅速に検出可能であることからCDIの早期診断と治療の開始,適切な感染対策の実施に貢献できるものと期待される。

 

本研究は九州大学医系地区部局臨床研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号:30-278)。

COI開示

本研究はベックマン・コールター株式会社との受託研究として実施し,Xpert C. difficileの検査に関わる必要試薬,消耗品はベックマン・コールター株式会社より提供を受けた。

文献
 
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