Japanese Journal of Medical Technology
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Performance of low-density lipoprotein cholesterol calculated using Martin’s formula compared with the Friedewald equation in a Japanese population
Hajime YAMAMOTOManami ISHIKAWANarumi SAKURADATakeshi SAIKAWAMasahiro SEKIMOTOHiroshi NIHONYANAGITetsuya ISHIHATANaoki TAKADA
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2021 Volume 70 Issue 2 Pages 228-236

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Abstract

低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)は種々の動脈硬化性疾患のリスク評価に用いられている。近年,Fridewald式(F式)の欠点を改良したMartin式が報告されたことを機に我々は,直接法によるLDL-C(直接法)とF式およびMartin式により推算したLDL-C値の比較検討を行った。健診受診者における直接法との相関分析では,F式:回帰式Y = 0.956X + 9.690,相関係数r = 0.9183,Sy·x = 11.54,Martin式:回帰式Y = 1.019X + 2.425,相関係数r = 0.9757,Sy·x = 6.23が得られ,Martin式がより良好な相関を示した。直接法と推算式の残差について,中性脂肪(Triglyceride; TG)との関係を相関分析したところ,直接法とF式との残差とTGの関係を表す相関回帰式はY = −0.0652X + 8.571(TG < 400),Y = −0.0848X + 26.332(TG ≥ 400)に対して,直接法とMartin式との残差とTGとの関係を表す相関回帰式はY = 0.0059X + 1.3641(TG < 400),Y = −0.027X + 33.872(TG ≥ 400)であった。Martin式ではTG 400 mg/dLまでは影響も少なく,直接法との差がF式よりも小さいことが明らかとなった。以上のことから,Martin式は今回使用した直接法試薬に近似する高い正確性と汎用性を認め,推算式としてはF式より優れた方法であることが示唆された。

Translated Abstract

Low-density lipoprotein cholesterol (LDL-C) is used for risk assessment of various arteriosclerotic diseases. In recent years, Martin’s formula, which is an improvement over the Friedewald equation, has been reported. We compared the homogenous method with LDL-C estimated using the Friedewald equation and Martin’s formula. Correlation analysis with the homogeneous method in healthy subjects showed that the Friedewald equation (Y = 0.956X + 9.690, r = 0.9183, Sy·x = 11.54) and Martin’s formula (Y = 1.019X + 2.425, r = 0.9757, Sy·x = 6.23) were obtained, and Martin’s formula showed a better correlation. When the correlation between the homogeneous method and the estimation formula for triglyceride (TG) level was analyzed, the regression equation for TG levels and LDL-C residuals estimated by the homogeneous method, and the Friedewald equation [Y = −0.0652X + 8.571 (TG < 400), Y = −0.0848X + 26.332 (TG ≥ 400)] and Martin’s formula [Y = 0.0059X + 1.3641 (TG < 400) and Y = −0.027X + 33.872 (TG ≥ 400)] were obtained. These results suggest that Martin’s formula is highly accurate and convenient, approximating the homogenous method, and is a better estimation method than the Friedewald equation.

I  緒言

低比重リポ蛋白コレステロール(low-density lipoprotein cholesterol; LDL-C)は,心血管イベントをはじめとする動脈硬化性疾患のリスク評価や管理に重要な指標である1)。正確なLDL-Cの定量は国際標準法として超遠心法(beta-qantification;BQ法)が存在するが長時間にわたる煩雑な前処理を必要とする。そのため,日常検査におけるLDL-Cの定量は,Friedewald式(F式)2)もしくは直接法(homogeneous method)3)によって行われている。

F式は超遠心法とよく相関することから,事実上のLDL-C定量法として日常検査へ広く用いられ,数々の疫学研究においてLDL-Cの増加と動脈硬化性疾患の発病リスクとの関与を明らかにした。しかし,F式は採血前夜からの絶食を必要とすることやTGが400 mg/dL以上では使用できないなどの制約が存在する。食後はnon-high-density lipoprotein-cholesterol(non-HDL-C)が代用されるが,対象とするリポ蛋白分画が同一ではないことから,臨床評価の際に注意を必要とする。

これに対して,直接法は1990年代に本邦で開発され,界面活性剤を用いることでLDL分画に含まれるコレステロールを特異的に比色定量できる試薬である。前処理を必要とせず生化学自動分析装置に搭載可能であることから日常検査として国内で急速に普及した。本邦にて汎用されている直接法は,国際標準法であるBQ法を最上位の基準測定法としたトレーサビリティ体系が確立され,正確性もそこから伝達されている。更には,Centers for Disease Control and Prevention/US Cholesterol Reference Method Laboratory Network(CDC/CRMLN)プログラムへ参加し,BQ法に一致することを確認している。また,優れた同時再現性・室内再現性を有している。一方で,中間比重リポ蛋白(intermediate-density lipoprotein; IDL),lipoprotein (a)[Lp(a)],small dense LDL,lipoprotein-X(Lp-X),lipoprotein-Y(Lp-Y)などの特殊リポ蛋白が増加する患者検体に対しての直接法試薬の正確性は確認されていない。更には,界面活性剤の種類や濃度によって,TGを大量に含有するVLDL分画の反応性も測定試薬キットにより異なっている4),5)。結果として脂質異常症患者検体における測定試薬間差が許容できない状況である6)と指摘がされ,動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版ではLDL-Cの評価法として直接法が削除された。その後の検証と不適切品の淘汰・改良,標準品の値付けの修正などが行われ7),8),現行のガイドライン1)では直接法が再掲載されているが,LDL-Cの測定法としては未だに国際的な認知と普及は十分とは言えない。また,先ほど述べたような直接法の測定試薬における特殊リポ蛋白などに対する反応性の違いは解決されていない。

近年,Martinら9)は,F式の欠点を補完するために,超低比重リポ蛋白コレステロール(very low-density lipoprotein cholesterol; VLDL-C)と中性脂肪(triglyceride; TG)の比を5 : 1とする固定値を用いる代わりに,各々の患者のTGとnon-HDL-Cに応じて異なる変数を用いる改良式(Martin式)を報告し,LDL-C推算値を超遠心法実測値により近づけることに成功した。その後,米国以外での他人種による妥当性の評価に関する報告や,非空腹時やTG高値での有用性などについての報告が相次ぎ,その実用性が認められている10)~12)

F式と直接法の互換性を確認した比較文献は過去多く報告されているが13),わが国ではMartin式と直接法を比較した報告はない。更にはLDL-Cの推算にはTGの実測値を必要とするが,TG測定系は,本邦で採用されている遊離グリセロール(free glycerol; FG)消去法14)と海外で普及している総グリセリド測定(FG非消去法)とがあり,原理に基づく測定値の差異15),16)を考慮したうえでの互換性を確認する必要がある。そこで我々は,過去にBQ法との比較検討の報告17)がある直接法試薬を使用し,F式およびMartin式で推算したLDL-C値の比較を行い,Martin式の有用性を検討したので報告する。

II  方法と材料

1. 対象および方法

①健診検体での比較:Group 1として当院職員健診残余検体より無作為に抽出した200検体(平均年齢 ± SD:40.0 ± 12.5歳,男性54名/女性146名),②食事前後での比較:Group 2として当院臨床検査科ボランティア20名より得られた40検体(平均年齢 ± SD:36.3 ± 11.1歳,男性9名/女性11名),③TG高値検体での比較:Group 3としてTG値が400 mg/dL以上の診療後患者残余血清19検体(平均年齢 ± SD:56.7 ± 13.2歳,男性13名/女性6名),④過去の診療実績での比較(後ろ向き調査):Group 4として当院健診センターにおいて2008年4月~2019年3月に脂質4項目,総コレステロール(total cholesterol; TC),TG,高比重リポ蛋白コレステロール(high-density lipoprotein cholesterol; HDL-C),LDL-Cを同時測定した73,694検体(平均年齢 ± SD:51.1 ± 10.7歳,男性40,478名/女性33,216名)を用いた。詳細な患者プロフィールをTable 1に示した。除外基準として,直接法にて希釈操作が必要となるTG 1,500 mg/dL以上の検体はあらかじめ集計から除外した。

Table 1  Profiles of subjects
Group 1 Group 2 Group 3 Group 4
Number of sample 200 20 (fasting)
20 (non-fasting)
19 73,694
Age 40.0 ± 12.5 36.3 ± 11.1 56.7 ± 13.2 51.1 ± 10.7
Sex male 54 9 13 40,478
female 146 11 6 33,216
Cholesterol (mg/dL) Total 190.52 ± 34.52 183.70 ± 30.29* 215.29 ± 46.50 201.01 ± 33.23
HDL-C 64.82 ± 15.00 62.24 ± 14.35* 44.32 ± 9.35 58.81 ± 14.73
LDL-C, Friedewald 104.77 ± 29.36 104.87 ± 26.58* 56.85 ± 50.12 120.36 ± 29.95
LDL-C, kit 109.80 ± 28.05 107.69 ± 29.43* 104.52 ± 39.41 118.83 ± 30.06
Non-HDL-C 125.70 ± 31.95 121.47 ± 30.91* 162.43 ± 59.78 142.19 ± 33.29
Triglyceride (mg/dL) JSCC 104.63 ± 100.75 82.99 ± 43.96* 570.62 ± 231.50 109.18 ± 79.49
Total glycerides 106.86 ± 93.23 84.82 ± 45.16* 578.91 ± 236.91 N/A

Group 1: comparison in healthy subjects, Group 2: comparison before and after meals on healthy subjects, Group 3: comparison in hypertriglyceridemia samples, Group 4: retrospective study using healthy subjects. Data is shown by mean ± SD. N/A: Not Available, *base-line (fasting data).

Group 1および4を用いて,健常者におけるLDL-C値の絶対値比較と有意差検定,相関分析,リスク区分別脂質管理目標値毎の一致率を比較した。Group 2および3を用いて,食事やTG高値の影響の評価を行った。食事の影響評価は食前と食後(約1時間)に採血を実施し比較評価を行った。Group 1,2,3から得られた血清は速やかに−80℃でディープフリーズし,同一日に一括測定を実施した。なお,F式は本来前日夜からの絶食とTG 400 mg/dL未満であることが使用条件とされているが,本研究ではMartin式における食事や高TGでの影響の評価を行うため,使用条件を逸脱した場合においても比較目的でF式によるLDL-C値を算出した。

Martin式:LDL-C (mg/dL) = TC − HDL-C − TG/adjustable factorを用いた。なお,適応するadjustable factorは各々の患者に応じて異なるため,詳細は文献9)を参照されたい。Martin式を用いたLDL-Cの算出にはLDL Cholesterol Calculator(Johns Hopkins Medicine)18)を使用した。統計解析:相関分析には標準主軸回帰を用い,ピアソンの相関係数を算出した。有意差検定にはウィルコクソンの符号順位和検定を用い,p < 0.05を統計学的に有意とした。集計および統計処理は,Microsoft Excel(マイクロソフト社),Validation-Support/Excel Ver. 3.5(日本臨床化学会 クオリティマネジメント専門委員会),エクセル統計2010(株式会社社会情報サービス)を用いた。

患者検体の使用にあたっては,包括同意を得ており,個人情報はすべて連結不可能匿名化を行った。ボランティアからの検体提供は事前にインフォームドコンセントを実施した。本研究は,筆頭著者の所属施設である竹田綜合病院臨床倫理委員会の承認(研究倫理審査受付番号2020-014K)のもとに実施した。

2. 材料

1) 試薬

T-CHOはクイックオート ネオ T-CHO II,TGはクイックオート ネオ TG II(A),HDL-Cはクイックオート ネオ HDL-C,LDL-Cはクイックオート ネオ LDL-Cとコレステスト®LDL,総グリセリド測定はFG未消去法研究用試薬を用いた(コレステスト®LDLは積水メディカル株式会社,その他の試薬はすべて株式会社シノテスト)。なお,LDL-Cの試薬は2種使用したが,製造元も中身も同じものであるため,測定値に差がないものとした。

2) 機器

TBATM-c16000,TBATM-120FR(いずれもキヤノンメディカルシステムズ株式会社)を用い,各試薬メーカー指定のパラメーターを使用した。なお,使用機器の内訳としてGroup 1,2,3の測定を前者で,Group 4の測定は両機で実施した。

3) 検量用および正確性確認用の標準血清

脂質標準血清(株式会社シノテスト),コレステロール・中性脂肪常用参照標準物質(CHT)JCCRM223-40(一般社団法人検査医学標準物質機構ReCCS),多項目実用参照物質 JCCLS MaCRM(特定非営利活動法人日本臨床検査標準協議会;JCCLS)を使用した。

なお,本研究は研究用試薬を使用した検討も含まれるため,株式会社シノテストとの共同研究契約を締結し,総グリセリド測定試薬と常用参照標準物質の提供を受けて実施した。

III  結果

以下,LDL-Cの測定値は平均値 ± SDで示す。

1. 健診検体(Group 1)での比較

LDL-C直接法の109.80 ± 28.05 mg/dLに対し,F式は104.77 ± 29.36 mg/dL,Martin式105.40 ± 27.77 mg/dLといずれも推算式のF式とMartin式で求めたLDL-C値は有意に低値を示した(p < 0.05)(Figure 1A)。また,直接法(Y軸)との相関関係を標準主軸回帰にて確認するとF式(X軸)では線形回帰式Y = 0.956X + 9.690,ピアソンの相関係数r = 0.9183,Sy·x = 11.54,Martin式(X軸)では線形回帰式Y = 1.019X + 2.425,ピアソンの相関係数r = 0.9757,Sy·x = 6.23が得られた(Figure 1B)。FG未消去法のTG値を用いたLDL-C推算値はF式で104.33 ± 28.39 mg/dL,Martin式は105.15 ± 27.45 mg/dLであった。

Figure 1 Comparison of LDL-C values measured by both the methods in serum samples obtained from healthy subjects

A: Difference of LDL-C levels obtained from healthy subjects.

B: Correlation between homogeneous method (kit) and each estimated-LDL-C levels.

2. 食事前後(Group 2)の比較

食前採血では,LDL-C直接法は107.69 ± 29.43 mg/dLに対し,F式は104.87 ± 26.58 mg/dL,Martin式は103.81 ± 27.44 mg/dL,食後採血では,直接法は103.80 ± 29.59 mg/dLに対し,F式は98.14 ± 26.27 mg/dL,Martin式は99.26 ± 27.40 mg/dLであった。いずれも直接法と比較して推算式で有意に低値を示した(p < 0.05)(Figure 2)。FG未消去法のTG値を用いたLDL-C推算値は,食前採血でF式は104.50 ± 26.66 mg/dL,Martin式は104.38 ± 27.39 mg/dL,食後採血でF式は 98.42 ± 26.22 mg/dL,Martin式は99.69 ± 27.34 mg/dLであった(Figure 3A, B)。

Figure 2 Comparison of LDL-C before and after meal, values measured by both the methods in serum samples obtained from volunteers

A bar chart shows values of LDL-C levels (closed bar: fasting, open bar: non-fasting). *p < 0.05.

Figure 3 Difference of TG measurement method and comparison of LDL-C before and after meal

A bar chart shows values of LDL-C levels obtained from volunteers before (A) and after (B) meal (closed bar: JSCC method, open bar: total glycerides measurement method). *p < 0.05.

3. TG高値検体(Group 3)での比較

LDL-C直接法は104.52 ± 39.41 mg/dL,F式は56.85 ± 50.12 mg/dL,Martin式は98.63 ± 39.00 mg/dLであった。FG未消去法のTG値を用いたLDL-C推算値はF式は55.19 ± 50.18 mg/dL,Martin式は98.92 ± 39.00 mg/dLであった。

4. 過去の診療実績(Group 4)での比較

過去の健診検査データ73,694件を用いてLDL-C直接法と各LDL-C推算式との残差とTG値との関係を確認したところ,直接法とF式との残差(Y軸)とTG(X軸)の関係を表す相関回帰式はY = −0.0652X + 8.571(TG < 400, n = 72,900),Y = −0.0848X + 26.332(TG ≥ 400, n = 794)に対して,直接法とMartin式との残差(Y軸)とTG(X軸)との関係を表す相関回帰式はY = 0.0059X + 1.3641(TG < 400, n = 72,900),Y = −0.027X + 33.872(TG ≥ 400, n = 794)であった(Figure 4A, B)。F式ではTGが400 mg/dL未満の場合でもTG値に依存して直接法との値の乖離が拡大する一方で,Martin式はTG値に依存せず,直接法と推算式での値の乖離はほぼ一定であった。しかし,TGが400 mg/dL以上では両式ともにTGの影響が認められた(Figure 4A, B)。また,日本動脈硬化学会の「動脈硬化疾患予防ガイドライン2017年版」1)におけるリスク区分別脂質管理目標値を閾値として6群(LDL-C (mg/dL): < 70, 70–100, 101–120, 121–140, 141–160, 160 <)に分けて直接法および各推算式との一致率を評価したところ,全体での一致率はそれぞれF式72.07%,Martin式75.87%であった。この直接法との一致率をTG測定値毎に評価を実施したが,TGが400 mg/dL未満ではいずれもMartin式が一致率でF式を上回った(Figure 5)。一方,TGが400 mg/dL以上では,直接法と推算式を比較すると一致率が大きく変動した(Figure 5)。

Figure 4 Residual plot of LDL-C measurement methods

A: Relationship between the Friedewald equation and homogeneous method (kit) and triglyceride.

B: Relationship between the Martin’s formula and homogeneous method (kit) and triglyceride.

Figure 5 Concordance rate between each estimate method and homogeneous method

A bar chart shows the number of samples, a line graph shows values of concordance rate of dyslipidemia.

IV  考察

健診検体(Group 1およびGroup 4)(健常者且つ空腹時採血)における検討では,直接法と両推算式の値に有意な差を認めたものの,F式と比較して,Martin式がより直接法に近似し,相関性も良好であった(Figure 1A, B)。また,LDL-Cの許容誤差限界19),20)は5%前後であることから,推算式としてはF式よりもMartin式のほうが直接法のLDL-C値と近似した値を得ることが分かった。また,直接法と推算式の残差は,TG値が400 mg/dL未満であってもF式ではTG値に依存して変化するが,Martin式ではその現象を認めなかった。このことはFigure 4に示す相関回帰式の傾きの比較からも分かる通り,Martin式はF式に比べてTGの影響を93%以上低減できることが明らかとなった(Figure 4A, B)。従って,Martin式はLDL-Cよりも直接法のLDL-C値に近似した値を出せる推算式であると考えられた。しかし,TGが400 mg/dL以上ではMartin式においても直接法との乖離が大きくなることが明らかとなり,高TG値への適応拡大には課題が残り使用の際は注意を要することが示唆された(Figure 4, 5)。更に,臨床評価に対する影響を見るために,リスク区分別脂質管理目標値毎の直接法および各推算式との一致率を比較したが,TGが400 mg/dL未満ではF式よりMartin式のほうが直接法と高い一致率を示したのに対して,TGが400 mg/dL以上では両推算式共に一致率が大きく変動し,両者の優位性を見出すことができなかった(Figure 5)。

次に,食事の影響回避についての検証を行った。直接法,F式,Martin式のすべての方法で食前に対し食後1時間値は有意に低下した(Figure 2)。食事の影響を回避できるとされている直接法を基準として比較を行うと,食後の変化はMartin式に比べてF式のほうが大きかった。F式の使用に適さない条件として,TGを多量に含むカイロミクロン(CM)の存在下における算出が挙げられる2)が,本検討においても食事による外因性のTGを多く含むCMの増加やTGとVLDL-Cの比の変化が大きく影響したことが推測された。一方,Martin式ではTGの増加を考慮に入れたadjustable factorが推算式に設定されているために外因性および内因性TGをそれぞれ大量に含有するCMおよびVLDL分画が増加した場合であってもその影響を回避しうるものと考えられた。

また,F式やMartin式においてLDL-Cの推算に必要なTG測定に関して,海外では総グリセリド測定(FG未消去法)が広く普及しているのに対し,本邦ではJSCC(日本臨床化学会:the Japanese Society of Clinical Chemistry)勧告法14)に準拠したFG消去法が採用されている。食後,小腸由来のアシルグリセロールは増加するが,FGが低下するためにFG消去法では前者のみを測定対象とすることで速やかにTG上昇を反映するが,総グリセリド測定では,後者も測りこむために相殺がおき,食後TGの変化を反映しにくい特徴がある21)。それ故,本検討でのLDL-C推算において,同じ推算式どうしの比較であっても,TG測定では総グリセリド測定を用いた場合,より直接法に近似する傾向を認めた(Figure 3A, B)。更に若干ではあるが,総グリセリド測定を用いたほうが食事による影響がより低減されることが示唆された。これはもともとMartin式が総グリセリド測定の使用を前提として設計されたものであることが要因の一つと考えられる。

Sathiyakumarら10)によると,Martin式はとりわけ食後で低LDL-Cかつ高TGの患者検体測定の際により正確なLDL-C値を得ることができると報告している。本研究ではサンプル確保の関係から食後1時間のみの検討しか行えなかったが,両推算式のLDL-C測定値に関して食後推移を長時間確認し評価する必要性がある。また,Martinらの報告9)では,TGが400 mg/dL以上のadjustable factorは,non-HDL-Cの6区分に応じた6種が提示されているのみとなっているため,TG高値では直接法とずれが生じた可能性もあり,より細分化されたadjustable factorの算出が必要かもしれない。以上のことから,TG高値の際のLDL-C推算には,Martin式を使用しても注意が必要である。

本研究の限界として,今回日常検査法として普及している直接法試薬の1つを基準として2つの推算式の比較を行ったが,LDL-C値の正確性の評価を厳密に行ううえでは他の市販されている直接法試薬も含めて標準法である超遠心法との比較が必要と考えられる。また,臨床的有用性の評価に関しては,大規模疫学調査による検証が最も妥当であることから,今後報告が待たれるところである。他方,期待される展望としては,現存するドライケミストリー法では利用可能なLDL-C直接法が存在しないことから,LDL-C値はF式を用いた推算法に限られていた。従って,ドライケミストリー法におけるMartin式の妥当性評価を実施することで,LDL-C値の信頼性が大きく向上することが期待されると考えられた。

最後に,LDL-C測定における課題として,直接法では試薬間差や異常リポ蛋白出現の際の正確性4),5),推算式ではTG測定系の国際標準化の問題16),17)などが残されている。特に動脈硬化性疾患のリスク評価には大規模かつ長期間の疫学的観察が必要とされるなかで,新たなエビデンスを得るためにシステマティックレビューやメタアナリシスなどへの2次利用が広く行われるようになった。測定系の違いがもたらす検査値の差は測定技術の向上に伴い無視できないものへと変化してきている。メーカー間での協議や国際的な合意形成が早期に実現されることを期待する。

V  結語

我々は,日本人におけるMartin式を用いたLDL-C推算の有用性を初めて明らかにした。今回検討を行ったMartin式は健診受診者において,使用した直接法試薬と近似した値と良好な相関性を認めた。更に,F式の欠点とされてきた食後採血においても直接法によるLDL-C値と近似することから高い正確性と広い汎用性を認め,推算式としてはMartin式がF式より優れた方法であることが示唆され,日常診療におけるLDL-C値の精度向上が期待される。なお,Martin式はTG高値(特にTG 400 mg/dL以上)に対しての使用における課題や推算式が故の乖離例も散見されることから,Martin式の特徴を理解したうえで適切に使用することで新たなLDL-C値の推定方法として利用価値の向上があると考えられた。

 

本論文は,第59回日本臨床化学会年次学術集会(2019年9月仙台市)における報告内容に未発表データを追記したものである。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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