Japanese Journal of Medical Technology
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Role of medical technologists in precision cancer medicine: Approach to precision cancer medicine in Hyogo Cancer Center
Tomoya MINAMIShuhei HAMATAKEKazuyo TAKAGAKITakeshi UESHIMOYumi HAGAJunko KOUFUKUTohru MURAYAMATamotsu SUDO
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2021 Volume 70 Issue 2 Pages 291-296

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Abstract

目的:がんゲノム医療とは,がん遺伝子パネル検査によって得られたゲノム情報に基づき,診断と治療を行う個別化医療のことである。兵庫県立がんセンターは 2018年6月よりがんゲノム医療外来を開始した。我々は臨床検査技師の業務である検体評価,標本作製に加え,がんゲノム医療コーディネーターとして活動しているので報告する。方法:対象標本から DNAを抽出し,質と量を測定した。検体の大きさから各がん遺伝子パネル検査に必要なDNA量を算出し,適切な枚数の薄切標本を作製した。さらに患者面談を行い,がん遺伝子パネル検査や二次的所見に関する説明を行った。結果:保険収載がん遺伝子パネル検査においては94.9%の症例で解析結果が得られた。患者面談を実施することで,患者の意思や保険適用条件への合致性について確認できた。事前の患者面談により,適格した患者が絞り込まれ,がんゲノム医療外来での同意取得率は94.2%と高率であった。結論:がんゲノム医療の提供において,臨床検査技師は,検査と検体管理の実施のみならず,患者面談を実施するなど,がんゲノム医療コーディネーターとしての役割が期待されている。

Translated Abstract

Purpose: Cancer genomic medicine is a personalized therapeutic approach that enables the optimal treatment of individuals based on tumor-profiling multiplex gene panel tests. The Hyogo Cancer Center launched a cancer genomic medicine outpatient clinic in June 2018. Here, we show that medical technologists evaluate and prepare specimens for tumor-profiling multiplex gene panel tests and work as cancer genome medical coordinators at this clinic. Methods: The quality and quantity of DNA extracted from the target specimens were measured. The amount of DNA to be submitted for each tumor-profiling multiplex gene panel test was calculated from the size of the specimen, and the appropriate number of sliced specimens were prepared. We also interviewed patients and explained about tumor-profiling multiplex gene panel tests and secondary findings. Results: Gene profiling data were successfully obtained in 94.9% of the patients. The patient interviews enabled us to confirm the patients’ will and whether their statuses match insurance coverage or not. We obtained the consent of 94.2% of the patients interviewed in advance. Conclusions: In providing cancer genomic medicine, medical technologists are expected to play a role as cancer genome medical coordinators, not only by conducting tests and sample management, but also by conducting patient interviews.

I  はじめに

がんゲノム医療とは,がん組織などから抽出されるDNAを用いて数十~数百種類の遺伝子を一度に解析するがん遺伝子パネル検査(以下,パネル検査)を実施し,得られたゲノム情報に基づき,診断と治療を行うことを目的とした個別化医療のことである。

全国どこにいてもがん患者が,がんゲノム医療を受けられる体制を構築するため,厚生労働省は2018年2月より,がんゲノム医療を牽引する高度な機能を有する医療機関として,「がんゲノム医療中核拠点病院(以下,中核拠点病院)」12施設,中核拠点病院と協力してがんゲノム医療を進める「がんゲノム医療拠点病院(以下,拠点病院)」34施設,中核拠点病院や拠点病院と連携する「がんゲノム医療連携病院(以下,連携病院)」161施設を指定した。これらの施設では,第三者認定を受けた病理検査室を有し,組織検体が適切に処理・保管・管理される体制が整備されていること,遺伝カウンセリング部門が設置されており,診療科と連携可能な体制が整備されていること,患者の臨床情報やゲノム情報をセキュリティの担保された適切な方法でデータ管理する体制が整備されていることなどの指定要件に加え,自施設でのパネル検査の実施(外注も可能)や治療方針決定のための専門家会議(以下,エキスパートパネル)の開催・参加などが義務付けられる1)~3)

兵庫県立がんセンターは,2018年4月に連携病院指定を受け,同年6月よりがんゲノム医療外来(以下,ゲノム外来)を開始し,自費パネル検査,先進医療Bを経験してきた。その間に保険収載後の検査数増加や拠点病院化に備えて,自施設内で,院内職員に対するがんゲノム医療のリテラシー向上,人材の育成,遺伝診療の強化,エキスパートパネル実施など体制整備を進めてきた。また2019年7月には,保険収載パネル検査(FoundationOne® CDx,OncoGuideTM NCC オンコパネルシステム)を開始し,以降2020年3月までに保険と自費の両検査を合わせ137例のパネル検査を実施した(Figure 1)。これらの実績に加え,当センター病理検査室がISO15189の認定を受けているなどの指定要件を満たしていることもあり,2019年9月には拠点病院に指定された。

Figure 1 Status of tumor-profiling multiplex gene panel tests (TMGTs) at the HCC (June 2018–March 2020)

The most-selected TMGT is FoundationOne® CDx, which is covered by insurance and detects numerous gene mutations. The next most-selected TMGT is Guardant360®, which is funded at the patient’s own expense and requires a liquid biopsy at the HCC.

がんゲノム医療コーディネーター(CGMC)とは,パネル検査の概要や二次的所見(生殖細胞系列に病的と確定できる遺伝子変異が見出されること)が発見される可能性について説明し,意思決定の支援を行うこと,また検査後に二次的所見を認めた場合に遺伝部門へ紹介すること,さらには治療標的となる遺伝子バリアントが見つかった場合に治験等の紹介を調整することを業務とする4)。パネル検査は提出検体の品質が検査結果に及ぼす影響が大きいこと,専門用語が多く,患者理解が得られ難いことなどの特徴5),6)から,当センターでは,臨床検査技師がCGMCとしてがんゲノム医療の一翼を担っている。本稿では,臨床検査技師ならではの専門業務に加え,CGMCとしての新たな取組みを紹介するとともに,得られた結果について報告する。

II  臨床検査技師の取組み内容

1. 患者面談

患者ならびに家族が,ゲノム外来の限られた時間内でパネル検査の内容を理解し,意思決定をするのは困難と思われる。「標準治療が終了した」という状況ではなおさらである。そのため当センターでは,ゲノム外来前に,臨床検査技師による患者面談を実施している。主治医がパネル検査の適応と判断した場合に連絡を受け,患者の現状・治療歴からどのパネル検査を主に説明するのかを主治医と相談した上で,患者面談の設定を行う(当日や後日の場合もある)。患者面談では患者の思いを傾聴しつつ,パネル検査の概要,流れ,治療に繋がる可能性について説明し,パネル検査に対する理解向上を図る。また,二次的所見についても十分に説明し,その際に家族歴を聴取して,家系図を作成している。家族歴から遺伝性腫瘍症候群の疑いがある場合や患者の不安が強い場合には,遺伝カウンセリングや遺伝外来に取り次ぐ(Figure 2)。

Figure 2 Flow of cancer genomic medicine at the HCC

When the doctor selects a patient to undergo an adaptation of TMGT, CGMCs perform interviews. Then they schedule an appointment at the cancer genomic medicine outpatient clinic and advise genetic counseling if needed.

患者面談で得られた情報は,主治医,ゲノム外来担当医(当センターでは通常の外来とゲノム外来は分けて実施しているため,主治医と担当医が異なることがある),看護師,場合によっては緩和ケアチームと共有し,懸念事項がある際には小ミーティングを直ちに実施している。

さらに,患者面談後には,ゲノム外来までの期間に病理医に腫瘍含有率の評価を依頼し,パネル検査に提出できる病理組織検体の有無について事前に確認している。

2. 検体評価

パネル検査の解析成功率は,ホルマリン固定パラフィン包埋(Formalin-fixed paraffin-embedded)検体(以下,FFPE検体)より抽出されるDNA量やその断片化度合いにより影響を受ける。パネル検査によって必要な組織量も異なるため(Table 1),検査ごとに必要な薄切枚数を決定し,FFPE検体が適切であるか判断する必要がある。そのため,当センターでは検査提出用の薄切標本を作製する前に,組織の大きさやDNA量を測定している。また,DNAの断片化度合いを客観的に評価する指標であるDIN(DNA Integrity Number)値を算出しており,DNA量が少量である,またはDIN値が低く(当センターでは2.5未満と規定),DNAの断片化が著しい場合には,主治医に連絡し,検体の再選定や再生検の可否について議論し,FFPE検体で提出不能な場合には,リキッドバイオプシーを考慮する。

Table 1  Quantity of FFPE samples necessary for each TMGT
Size Thickness Number of sheets Total volume Minimum required quantity
FoundationOne® CDx 5 mm × 5 mm 4~5 μm 10 1~1.25 mm3 More than 1 mm3
OncoGuideTM NCC Oncopanel system 4 mm × 4 mm 10 μm
5 μm
5
10
0.8 mm3 More than 200 ng DNA
OncoPrime 5~10 μm 5~10 More than 150 ng DNA
Estimated quantity that 200 ng DNA is provided 2 mm × 2 mm 5 μm 10 0.2 mm3

3. 標本作製

FFPE検体の大きさやDNA量から各パネル検査に必要な提出標本枚数を算出し,できる限り過不足のないよう薄切標本を作製している。標本作製時には,核酸除去剤を用いたミクロトームの清掃や替刃交換を検体ごとに行い,ディスポーザブルのピンセットを用いて切片を拾うなどコンタミネーション防止対策を徹底している。

4. アノテーション会議・エキスパートパネルへの参加

検査で明らかとなった遺伝子情報や治療の候補となる薬剤情報・治験の運用状況について公共データベースで確認するとともに,遺伝学的対応などについて話し合うアノテーション会議や今後の治療方針について専門職が集まって議論するエキスパートパネルに参加している。ここでは,検体・検査情報,遺伝子情報さらには患者面談で得られた患者情報などを報告し,議論に参加している。

III  結果

1. 患者面談実施による患者理解向上

患者面談で質問される事項として,パネル検査自体のこと,治療に関すること,遺伝性腫瘍症候群に関することの大きく3つが挙げられた(Table 2)。

Table 2  Questions frequently asked in patient interviews
Questions about panel tests
• Covered by insurance or not?
• Information about stored tissue samples
• Are old tissue samples available for tests?
• What panel tests should I choose?
• How many patients with the same cancer-type as me have received a test?
Questions about treatment
• What is a clinical trial? Is it safe?
• Can I receive a clinical trial at this hospital?
• How successful are my cancer-type clinical trials?
Question about hereditary cancer syndromes
• What is a hereditary cancer syndrome?
• What should I do if I have germline variants?
• Should I tell potential germline variants to my family?

これらの疑問に答えることで患者の理解向上や不安解消に繋がると同時に,患者の意思や保険適用条件への合致性についてゲノム外来受診前に確認できた。2020年3月までに94件の患者面談実施例のうち,25件が患者面談のみで終了した。25件の内訳は「全身状態の悪化」(8例),「組織がない,あるいは不足」(6例)と保険適用条件に合致しないものが14例(56%),次いで「パネル検査を希望しない」であった(9例36%)。このように患者面談を通してパネル検査に適格した患者が絞り込まれた結果,ゲノム外来に移行した69件の同意取得率は94.2%(65/69)と極めて高かった(Figure 3)。

Figure 3 Reasons not for visiting cancer genomic medicine outpatient clinic after patient interviews and high agreement acquisition rate through patient interviews (July 2019–May 2020)

The most reason is that it is not equal to an insurance application condition and the next most reason is that patients do not hope for panel tests in 25 cases finished only in interviews. The agreement acquisition rate at the cancer genomic medicine outpatient clinic was extremely high at 94.2%, indicating that patient interviews have an important role in patients’ decisions.

2. 検査解析成功率の向上

当センターにおけるDIN値の測定結果を解析したところ,保管期間が3年以内のFFPE検体では,3年以上のFFPE検体に比べ有意にDIN値が高いというデータが得られた(Figure 4A)。また保管期間が3年未満のFFPE検体では,DIN値2.5未満の割合が3.5%であるのに対し,3年以上のFFPE検体では40%以上であった。一方で,保管期間が3年未満のFFPE検体に対するホルマリン固定時間の影響については,固定が6~48時間未満のFFPE検体と48~72時間未満のFFPE検体では,平均DIN値に有意差は見られず,DIN値2.5未満の検体数にもほとんど差は見られなかった(Figure 4B)。このことからも,ホルマリン固定時間が72時間未満の場合,FFPE検体の保管期間がDNAの断片化に大きな影響を与えることを念頭に置き,解析できる可能性の高い検体を選別する必要がある。

Figure 4 DNA integrity number (DIN) of TMGT samples at the HCC

A: Effect of FFPE storage period (less than 72 h)

When the fixation period of formalin-treated samples was less than 72 h, the DIN of FFPE samples stored within 3 years was significantly higher than that of FFPE samples stored over 3 years.

B: Effect of formalin fixed time (less than 3 y)

When FFPE samples were stored for less than 3 years, the DIN was not significantly different between FFPE samples fixed for 6 to 48 h and for 48 to 72 h.

このように事前に核酸評価を実施し,適切な標本を提出することで,当センターから提出した保険適応検査全79件のうち75件(94.9%)が解析に成功した。4件については解析不可あるいはアラート通知があったため,再生検検体などを実施し,再提出することにより最終的には全例で解析可能であった。

IV  考察

がんゲノム医療は,新たな先端医療として期待されている一方で,現段階で治療に繋がる確率は10%前後と決して高いとは言えない。その理由の一つとして,標的となる遺伝子に対して治療薬が限られていることが挙げられる。また,候補となる標的遺伝子が見つかった場合でも,治験や臨床試験の適格基準に合致しない,実施している病院が海外や国内であっても遠方である,さらには保険適応外の薬剤投与は自己負担が大きいなどの理由により,治療を断念せざるを得ない場合もある7)~9)。そのため,これらのことを事前に患者に説明し,過度な期待を与えることなく,適切に理解してもらう必要がある。また,パネル検査では二次的所見として生殖細胞系列に遺伝性腫瘍症候群の原因遺伝子バリアントが見つかることもあり,正しい情報を伝えることが必要不可欠である。

一方で,主治医による外来では一人当たりの診察にかけられる時間は限られていることに加え,患者自身も有効な標準治療の効果が乏しいことを知らされるという局面であり,パネル検査に対して十分な理解を得ることは難しい。そのような状況でゲノム外来を受診したとしても,理解が乏しいまま意思決定をしなければならなくなる。それを避けるため,当センターではCGMCが患者の思いに傾聴しつつ,パネル検査の概要,流れ,治療に繋がる可能性について説明した上で,ゲノム外来の受診予約を取るようにしている。

今後,現在より遺伝子数の多いパネル検査,全エクソーム解析および全ゲノム解析など様々な検査法が開発され,数年以内に実臨床に導入されることが予想される10)。これにより,検査の選択の幅が広がるとともに,より複雑化するため,目的や患者の状況に応じてどの検査を選択すべきかを主治医と相談し,適切な検査説明や意思決定支援のできることが求められる。がんゲノム医療はパネル検査の結果開示で終了するものではなく,パネル検査後にどのように方針を決めるかも大切である。患者面談で得られた患者自身やその家族の思い,社会的・経済的背景を勘案してはじめて,よりよいがんゲノム医療の提供が可能となる。そのためにも,検査や検体管理に関する知識や技術に加え,治療や遺伝学の知識・カウンセリング技術を習得した臨床検査技師がCGMCとしてがんゲノム医療に参画することが重要である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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