2021 Volume 70 Issue 3 Pages 443-447
我々は,酵素免疫測定法を基本原理とした「Entamoeba histolytica IgG-ELISA」(以下,本試薬)を用いて,血清中赤痢アメーバ抗体価の精度,検出限界,希釈直線性,基準値の検証と対照試薬(蛍光色素標識抗体を用いた抗体測定法)との相関性試験を実施した。同時再現性は3.5%以内,日差再現性は7.5%以内と良好であった。抗体価10 GWUまではほぼ直線性を示したが,10 GWU以上では曲線となったものの28 GWU前後まで抗体過剰による抗体価の低下は認められなかった。本試薬は,対照試薬に対して陽性一致率は42.9%,陰性一致率は100.0%,判定一致率は69.2%であった。本試薬が陰性で対象試薬が陽性の14検体は,すべて対象試薬で陽性と判定される最小希釈倍数100倍であった。本試薬は,対照試薬に対して良好な相関性が認められた。
We performed a basic study of serum Entamoeba histolytica Immunoglobulin Enzyme-linked immuno-sorbent assay (hereinafter referred to as this reagent) based on the enzyme-linked immunosorbent assay method to verify the accuracy, detection limit, dilution linearity, reference value of serum E. histolytica antibody titer, and the correlation with the control reagent (antibody measurement method using a fluorescent dye-labeled antibody). As a result, CVs of within-run precision were less than 3.5% and CVs of between-day precision were less than 7.5%. The antibody titer increased almost linearly up to 10 GWU and then plateaued above 10 GWU, but no decrease in antibody titer due to excess antibody was observed up to around 28 GWU. This reagent had a positive concordance rate of 42.9%, a negative concordance rate of 100.0%, and a judgment concordance rate of 69.2% with respect to the control reagent. The 14 negative samples for this reagent all showed 100 times the minimum dilution factor that was judged to be positive for the control reagent. This reagent showed a good correlation with the control reagent.
アメーバ赤痢は,寄生虫の原生動物である赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)の経口感染によって大腸に潰瘍を主体とする病変を形成し,その後肝臓を始めとする諸臓器に膿瘍を形成する疾患である。わが国では生活環境の向上と共に赤痢アメーバ症の発生数は激減していたが,海外での感染や男性同性愛者間からの発生が主になっている1)。
本邦におけるアメーバ赤痢の診断基準としては,検体中の赤痢アメーバの確認(直接鏡検法),赤痢アメーバ由来のDNAの証明(核酸検査法),赤痢アメーバ抗原の検出(抗原検査法),血中の抗赤痢アメーバ抗体の検出(抗体検出法)が挙げられるが2),直接鏡検法と抗体検出法のみ保険収載されている。
しかし,抗体検出法(アメーバスポットIF)が販売中止したため 直接鏡検法しか保険収載された方法はないのが現状であり,アメーバ赤痢患者が見逃されて適切な治療機会を得ていないと思われる。
そこで,研究用の赤痢アメーバ抗体検出用Entamoeba histolytica IgG-ELISA(GenWay Biotech)の基礎的検討を実施したので報告する。
なお,本検討はビー・エム・エル倫理委員会に準拠した稟議承認(6451646)を得ており,匿名化または連結不可でプール化した検体を使用した。
1)Entamoeba histolytica IgG-ELISA
(GenWay Biotech)(以下,本試薬)
2)アメーバスポットIF(シスメックス・ビオメリュー)
(以下,対照試薬)但し,現在販売中止
2. 測定原理 1) 本試薬本試薬はELISA(enzyme-linked immunosorbent assay,酵素免疫測定)法により検体(血清または血漿)中の赤痢アメーバ抗体を検出する。抗原プレートに検体を添加することで,検体中の赤痢アメーバ抗体と抗原プレートに固相化された固相抗原(赤痢アメーバ抗原)が抗原抗体反応により固相抗原-赤痢アメーバ抗体の複合体を形成する(一次反応)。洗浄後,標識蛋白(ペルオキシダーゼ標識プロテインA)を添加することで固相抗原-赤痢アメーバ抗体-標識蛋白の複合体が形成される(二次反応)。再度洗浄後,TMB基質液を加えて発色させる。停止液にて反応停止後,この発色の吸光度を測定することにより,赤痢アメーバ抗体を検出する。
2) 対照試薬赤痢アメーバ固定スライドガラスの各サークルに血清検体を添加後,検体中の抗体とスライド上の抗原が結合し,さらに蛍光色素標識抗ヒトイムノグロブリンを結合させる。蛍光顕微鏡で特異蛍光が観察された場合陽性と判定した。
当社で受託した検体のうち匿名化された血清をプール化して作製した3レベルの管理検体(低濃度L,中濃度M,高濃度H)をそれぞれ8回測定し,変動係数(CV%)を算出した。また,本試薬のGWU単位は次のように算定している。
GWU単位:検体の吸光度値 × 10/Cut off(0.43)
2. 日差再現性同時再現性で用いた3レベルの管理検体を,連続5日間それぞれ1回測定し,CV%を算出した。
3. 検出限界GWU濃度13.1,28.4 U/mLの匿名化された血清検体を生理食塩水にて希釈し,試料を調製した。調製した試料を各5回測定し,測定値の平均値と標準偏差(SD)を算出した。専用希釈液の測定値の平均値 + 2.6SDより試料の測定値の平均値 − 2.6SDが大きくなる最小濃度を検出限界とした3)。
4. 希釈直線対象として当社で依頼された測定済み検体で匿名化された2検体を生理食塩水で2n倍希釈して希釈直線性を確認した。
5. 基準値の検証社内の健康診断で同意書が得られた社員30名(男:15名;女:15名)の血清検体を用いて基準範囲を確認した。
6. 相関性試験当社へ依頼された測定済み検体で匿名化された血清検体65例に関して,本試薬と対照試薬との相関性を検討した。また,65検体は対照試薬で測定後 −30℃に保存後,本試薬で評価した。本試薬は11 GWU超える場合は陽性で,9–11 GWUの場合は判定保留領域で9 GWU未満の場合は陰性とした。対照試薬は血清抗体価100以上の場合で陽性で,50倍以下は陰性とした。
3レベルの管理検体はCV 3.1~4.8%と良好な結果が得られた(Table 1)。
No. | L (GWU) | M (GWU) | H (GWU) |
---|---|---|---|
1 | 4.8 | 11.3 | 21.7 |
2 | 4.8 | 11.4 | 21.4 |
3 | 5.0 | 11.3 | 20.9 |
4 | 4.9 | 11.8 | 21.1 |
5 | 5.1 | 12.1 | 20.9 |
6 | 4.7 | 11.4 | 20.7 |
7 | 4.6 | 11.4 | 20.5 |
8 | 5.0 | 11.9 | 21.3 |
AVE (U/mL) | 4.9 | 11.6 | 21.1 |
SD | 0.2 | 0.3 | 0.4 |
CV (%) | 3.5 | 2.7 | 1.9 |
3レベルの管理検体はCV 4.1~5.7%と良好な結果が得られた(Table 2)。
No. | L (GWU) | M (GWU) | H (GWU) |
---|---|---|---|
1 | 5.7 | 13.1 | 24.0 |
2 | 5.4 | 12.1 | 24.8 |
3 | 5.6 | 11.6 | 21.3 |
4 | 4.9 | 12.3 | 21.8 |
5 | 5.6 | 11.6 | 21.1 |
AVE (U/mL) | 5.4 | 12.1 | 22.6 |
SD | 0.3 | 0.6 | 1.7 |
CV (%) | 5.9 | 5.1 | 7.5 |
ブランクの平均値 + 2.6SDが0.5 GWUに対して,1/8の希釈値の平均値 − 2.6SDが1.01 GWUであったことより,検出限界は試料濃度1.4 GWUであった(Figure 1)。
Average concentration ±2.6SD.
28 GWUと13.1 GWUの2検体に関して,抗体価10 GWUまではほぼ直線性を示したが,10 GWU以上では曲線となったものの28 GWU前後まで抗体過剰による抗体価の低下は認められなかった(Figure 2)。
Two levels of serum were diluted with saline buffer to prepare samples.
30名の健常者の測定値はメーカー設定の基準値9.0 GWU以下であった(Figure 3)。
The standard range was confirmed using the sera of 30 healthy persons.
本試薬は,対照試薬に対して陽性一致率は42.9%(15/35),陰性一致率は100.0%(30/30),判定一致率は69.2%(45/65)であった(Table 3)。
Diagnostic criterion | FA | Total | ||
---|---|---|---|---|
+ | − | |||
EIA | + | 15 | 0 | 15 |
± | 6 | 0 | 6 | |
− | 14 | 30 | 44 | |
Total | 35 | 30 | 65 |
本試薬の基礎的検討を行ったところ,同時再現性は3.5%以内,日差再現性は7.5%以内と良好で,検出限界は1.4 GWUであった。また,抗体価10 GWUまではほぼ直線性を示したが,10 GWU以上では曲線となったものの28 GWU前後まで抗体過剰による抗体価の低下は認められなかった。陽性一致率は42.9%,陰性一致率は100.0%,判定一致率は69.2%(45/65)であった。本試薬が陰性で対照試薬が陽性の14検体に関して,対照試薬の血清抗体価はすべて100倍であった。また,本試薬が疑陽性で対照試薬陽性の6検体も100倍であった。対照試薬は目視判定であり,血清抗体価100倍の検体は他法による確認が必要であると思われた。
一方で,本試薬はヒトイムノグロブリンに対してペルオキシダーゼ標識プロテインAを用いているが,対照試薬は蛍光色素標識抗ヒトイムノグロブリンを結合している。従って,検体中のヒトイムノグロビンに対する反応性の違いが,相関性の乖離が生じた要因とも思われた。しかし,乖離した結果も含め,相関性は良好と判断した。
一方で,海外の先進国では,直接鏡検法は推奨されておらず,糞便中の赤痢アメーバを抗原として検出する抗原検査と血清を用いた抗体検査を組み合わせて診断している4)。また,Verkerkeら5)は直接鏡検法による赤痢アメーバの検出感度が低いと報告している。
対照試薬が販売中止後,平成30年でアメーバ赤痢の報告数は減少しているが,積極的な感染対策が実施された事実は検証できない。報告数減少に関しては,対照試薬の販売中止が1つの原因と思われた6)。
本試薬による赤痢アメーバ抗体測定試薬は早期治療方針決定と感染拡大の防止に重要な意義を持つものと思われる。
本試薬に関して血清中赤痢アメーバ抗体価の精度,検出限界,希釈直線性,基準値の検証と対照試薬との相関性試験を実施したが,特に性能上の問題は認められなかった。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。