Japanese Journal of Medical Technology
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Significance of estimation of the number of hematopoietic progenitor cells using the automatic hematology analyzer XN3000
Eriko ITOKazuyo MURAKAMIMiyoko IKEGUCHIYoko OSAMURATakuya KITAOKAMasaharu GUNJINorihiro YUASA
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2021 Volume 70 Issue 3 Pages 394-402

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Abstract

末梢血幹細胞採取において幹細胞数を知ることは幹細胞の採取時期および採取量を決定するために重要である。一般に幹細胞数はCD34陽性細胞数で評価される。本研究では97例167検体を対象として,自動血球分析装置XN3000で測定される造血前駆細胞(hematopoietic progenitor cell; HPC)数と,フローサイトメーターで測定されるCD34陽性細胞数の関連を検討し,その特徴を明らかにした。HPC数(X)とCD34陽性細胞数(Y)にはy = 0.597x + 5.625,ρ = 0.745,p < 0.001と良好な相関があった。CD34陽性細胞数 ≥ 20/μLを予測するHPC数の最適カットオフ値は23/μLで,感度69%,特異度93%,陽性的中率93%,陰性的中率70%であった。形質細胞性腫瘍(multiple myeloma; MM)患者以外,年齢40歳未満,HPC 50/μL未満の検体の場合,カットオフ値を23/μLとするとCD34陽性細胞数 ≥ 20/μLを良好に予測できた。しかし,MM患者,年齢40歳以上,HPC数50/μL以上の検体はHPC数とCD34陽性細胞数とに乖離を生じることが多く,HPC数によるCD34陽性細胞数の推定にあたって注意が必要である。

Translated Abstract

In peripheral blood stem cell transplantation, enumeration of stem cells is important to determine the optimal time of stem cell collection and the adequate number of stem cells to be collected. In this study, we investigated the correlation between the number of hematopoietic progenitor cells (HPCs) determined using an automated hematology analyzer XN3000 and the number of CD34-positive cells determined using a flow cytometer. In a total of 167 specimens collected from 97 subjects, a significant correlation was observed between the number of HPCs (X) and the number of CD34+ cells (Y): y = 0.597x + 5.625, ρ = 0.745, and p < 0.001. The optimal cut-off number of HPCs to predict CD34+ cells ≥ 20/μL was 23/μL, with a sensitivity of 69%, a specificity of 93%, and positive and negative predictive values of 93% and 70%, respectively. In specimens from patients other than those with plasma cell tumor (i.e., MM), who were < 40 years old, and with an HPC count of < 50 cells/μL, a CD34+ cell count of ≥ 20/μL could be satisfactorily predicted (96% sensitivity, 91% specificity) when the cutoff count was 23/μL. However, a discrepancy was frequently observed between the numbers of HPCs and CD34+ cells in MM patients, subjects ≥ 40 years old, and specimens with an HPC count of ≥ 50/μL.

I  はじめに

末梢血幹細胞移植(peripheral blood stem cell transplantation; PBSCT)において,採取する末梢血幹細胞(peripheral blood stem cell; PBSC)数を知ることは移植の成否に関わるため重要である1),2)。一般に幹細胞数はフローサイトメーターで測定されるCD34陽性細胞数で評価される3),4)。しかし,フローサイトメトリーによるCD34陽性細胞数の測定には専門的技術,時間,コストの点から制限がある。自動血球分析装置による造血前駆細胞(hematopoietic progenitor cell; HPC)数測定は短時間,低コストで行える利点があるため,PBSCを採取する際,HPC数でCD34陽性細胞数が予測できればPBSCを採取する至適時期や採取量の決定に有用である。自動血球分析装置で測定されるHPC数とフローサイトメーターで測定されるCD34陽性細胞数との関連を検討した研究はこれまで多く行われてきたが,測定機種,対象症例,検体数により結果は様々である5)~18)

本研究の目的は自動血球分析装置XN3000(シスメックス社,神戸市)で測定されるHPC数とフローサイトメーターで測定されるCD34陽性細胞数の関連を検討し,その特徴を明らかにすることである。

II  対象と方法

2013年9月~2019年8月までに,当院でPBSCTのためPBSC採取を目的にHPC数測定とCD34陽性細胞数測定を同時に行った97例を対象とした。1症例から異なる時期に検体を得たこともあったため,1症例あたり平均2検体(範囲:1~7検体,四分位範囲:1~2検体),全体で167検体を対象とした。男性84例,女性83例,年齢の中央値は47歳(範囲:2~70歳,四分位範囲:30~59歳)であった。対象疾患の内訳は,自家移植:悪性リンパ腫(malignant lymphoma; ML)20例43検体,形質細胞性腫瘍(multiple myeloma; MM)17例29検体,その他の疾患10例33検体,同種移植:健常ドナー50例,62検体であった(Table 1)。対象の検体はGranulocyte Colony Stimulating Factor(G-CSF)製剤を投与してから中央値5日(範囲:3~23日目,四分位範囲:4~7日)後に得た。PBSCTが行われたのは167検体の測定を行ったうち125回であった。

Table 1  患者背景
症例数 検体数 年齢 中央値(四分位範囲) 男:女
自家移植患者 47 105 56(42–63) 26:21
 悪性リンパ腫 20 43 58(48–65) 11:9
 形質細胞性腫瘍 17 29 62(56–65) 11:6
 その他の疾患 10 33 7(5–57) 3:7
  神経芽腫 3 18 5(5–7) 1:2
  髄芽腫 1 1 7 0:1
  非定型奇形腫瘍ラブドイド腫瘍 1 2 2 1:0
  Ph陽性リンパ性白血病 3 10 59(59–62) 1:2
  急性前骨髄性白血病 2 2 51(49–55) 1:1
同種移植ドナー 50 62 36(28–46) 31:19
全症例 97 167 47(30–59) 84:83

HPC数を多項目自動血球分析装置XN3000で測定し,CD34陽性細胞数をフローサイトメーター(BD FACS Canto II:日本ベクトン・ディッキンソン社,東京),BDTM Stem Cell Enumeration Kitを用いて測定した。当院では自家末梢血幹細胞採取のガイドラインを参考に,CD34陽性細胞数20/μLをPBSC採取の指標としている2)。したがって,本研究ではCD34陽性細胞数 ≥ 20/< 20/μLを判別するHPC数のROC(receiver operating characteristic)曲線を描き,曲線下面積(area under the curve; AUC)を計算して,感度と特異度の和が最も大きくなる値をHPC数の最適カットオフ値とした。

連続変数は中央値(四分位範囲:interquartile range; IQR)で記述した。連続変数の中央値の比較にはWilcoxon符合付順位検定を用い,相関の検定にはSpearmanの順位相関係数を用いた。p < 0.01を統計学的に有意とし,統計学的解析はJMP(version 11.0 for window, SAS Institute Inc, CA, USA)とEZR(The R Foundation for Statistical Computing, Perugia, Italy)を用いた。

本研究は当院の臨床研究審査委員会の承認を受けている(2019-095)。

III  結果

1. HPC数とCD34陽性細胞数

同種移植/自家移植,対象疾患別のHPC数とCD34陽性細胞数をTable 2に示す。全体でHPC数はCD34陽性細胞数よりも有意に多く(25.0/μL vs. 14.2/μL, p < 0.001),その傾向はMM,ML患者で顕著であった。全検体ではHPC数(x)とCD34陽性細胞数(y)にはy = 0.597x + 5.625,ρ = 0.745,p < 0.001と中等度の有意な相関を認めた(Figure 1)。疾患別に検討すると,ML患者からの検体では強い有意な相関を認め(ρ = 0.828, p < 0.001, Figure 2a),その他の疾患の患者からの検体(ρ = 0.757, p < 0.001, Figure 2c),同種移植ドナーからの検体(ρ = 0.600, p < 0.001, Figure 2d)では中等度の有意な相関を認めた。一方,MM患者からの検体ではHPC数と比較してCD34陽性細胞数が低い症例が多く,両者に有意な相関を認めなかった(ρ = 0.362, p = 0.054, Figure 2b)。

Table 2  HPC数とCD34陽性細胞数の比較
HPC(/μL) CD34(/μL) p
自家移植患者(n = 105) 6.9(2.2–15.7) 13.0(6.0–37.5) < 0.001
 悪性リンパ腫(n = 43) 10(5.0–35.0) 5.8(1.5–24.8) 0.050
 形質細胞性腫瘍(n = 29) 36(22.0–79.0) 13.2(6.4–15.5) < 0.001
 その他(n = 33) 7(4.5–13.5) 5.8(1.8–12.9) 0.326
同種移植ドナー(n = 62) 36(28.0–48.8) 32.4(22.9–49.0) 0.199
全検体(n = 167) 25(10.0–42.3) 14.2(5.0–34.8) < 0.001

中央値(四分位範囲)

Figure 1 HPC数とCD34陽性細胞数の関連:全検体(n = 167)
Figure 2 HPC数とCD34陽性細胞数の関連:疾患別

(a)悪性リンパ腫患者検体(n = 42),(b)形質細胞性腫瘍患者検体(n = 29),(c)その他の疾患の患者検体(n = 33),(d)同種移植ドナー検体(n = 62)

対象者の年齢(< 40歳/≥ 40歳)で検討すると,40歳未満の検体(n = 60)では両者に強い有意な相関を認めたが(ρ = 0.883, p < 0.001, Figure 3a),40歳以上の検体(n = 107)では相関は中等度であった(ρ = 0.653, p < 0.0001,Figure 3b)。同様の検討を同種移植ドナー検体(n = 62)で行ったところ,40歳未満では両者に中等度の有意な相関を認めたが(ρ = 0.751, p < 0.001, Figure 3c),40歳以上(n = 25)では両者に有意な相関を認めなかった(ρ = 0.278, p = 0.178, Figure 3d)。HPC数 ≥ 50 μLの検体ではHPC数とCD34陽性細胞数が乖離する検体が多かったため,HPC数 < 50 μL,≥ 50/μLの2群でHPC数とCD34陽性細胞数との関連を検討した。HPC数 < 50 μLの検体(n = 137)では両者に中等度の有意な相関(ρ = 0.787, p < 0.001, Figure 4a)を認めたが,≥ 50/μLの検体(n = 30)では両者の相関は弱かった(ρ = 0.381, p = 0.0417, Figure 4b)。

Figure 3 HPC数とCD34陽性細胞数の関連:年齢

(a)全症例:年齢 < 40(n = 60),(b)全症例:年齢 ≥ 40(n = 107),(c)同種移植ドナー:年齢 < 40(n = 37),(d)同種移植ドナー:年齢 ≥ 40(n = 25)

Figure 4 HPC数とCD34陽性細胞数の関連:HPC数

(a)HPC数 < 50(μL)(n = 137),(b)HPC数 ≥ 50(μL)(n = 30)

2. CD34陽性細胞数 ≥ 20/μLを判別するHPC数の最適カットオフ値とその判別能

全検体においてCD34陽性細胞数 ≥ 20/μLを判別するHPC数のROC曲線をFigure 5に示す。CD34陽性細胞数20/μLを判別するHPC数の最適カットオフ値は23/μLで,AUCは0.826であった。HPC数 ≥ 23/μLを規準とすると,感度69%,特異度93%,陽性的中率93%,陰性的中率70%であった。各検体群におけるHPC数の最適カットオフ値,感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率をTable 3に示す。ML患者の検体ではHPC数の最適カットオフ値は15/μLで,感度69%,特異度100%であった。一方,MM患者の検体ではHPC数の最適カットオフ値は181/μLと高く,感度67%,特異度96%であった。同種移植ドナーの検体のHPC数の最適カットオフ値は25/μLで,感度88%,特異度64%であった。また,年齢40歳以上の検体の最適カットオフ値は23/μLと全検体の最適カットオフ値と同じであったが,感度49%,特異度94%と感度が低かった。一方,HPC数 ≥ 50 μLの検体の最適カットオフ値は66/μLで,感度68%,特異度50%と判別能は低かった。MM患者以外,年齢40歳未満,HPC 50/μL未満の3条件を満たす検体では最適カットオフ値は23/μLで,感度96%,特異度91%と判別能は極めて良好であった。

Figure 5 CD34 ≥ 20/μLを判別するHPC数のROC曲線:全検体(n = 167)
Table 3  CD34陽性細胞数 ≥ 20/μLを予測するHPC数の最適カットオフ値とその判別能
疾患 検体数 AUC 最適カットオフ値
(/μL)
感度
(%)
特異度
(%)
陽性的中率
(%)
陰性的中率
(%)
自家移植患者
 悪性リンパ腫患者 43 0.956 15 69 100 100 84
 形質細胞性腫瘍患者 29 0.763 181 67 96 67 96
 その他 33 0.988 14 75 100 100 93
同種移植ドナー 62 0.721 25 88 64 92 54
 ドナー < 40歳 37 0.883 23 97 75 97 75
 ドナー ≥ 40歳 25 0.608 25 74 67 88 44
 ドナー男性 37 0.713 23 88 80 97 50
 ドナー女性 25 0.745 25 91 75 95 60
HPC数 < 50 μL 137 0.866 23 83 93 91 86
    ≥ 50 μL 30 0.502 66 68 50 61 58
年齢 < 40歳 60 0.977 23 97 91 95 96
   ≥ 40歳 107 0.775 23 49 94 90 62
性別 男 84 0.759 28 76 80 84 70
   女 83 0.879 24 65 98 96 78
形質細胞性腫瘍患者以外
年齢 < 40歳
HPC数 < 50 μL
49 0.968 23 96 91 93 96
全検体 167 0.826 23 69 93 93 70

3. HPC測定のスキャッタグラム解析

XN3000によるHPC測定は半導体レーザーフローサイトメトリーを用いている。試薬反応後フローサイトメトリー法により,細胞の大きさ情報の前方散乱光(forward scatter; FSC),細胞の内部情報の側方散乱光(side scatter; SSC),蛍光色素の核酸染色から得られる核酸量の情報の側方蛍光(side fluorescence; SFL)を用いて,FSC + SSC + SFLの3次元でHPC領域をゲートしHPC数を測定している(プログラムの詳細は明らかにされていない)。ゲートは(1)CD34陽性細胞が出現する位置:FSC高値(幼若細胞の細胞膜への作用が弱く,形態を留めている),(2)SSC低値(細胞内構造が単純),(3)SFL低値(細胞膜へのダメージが少なく,色素透過性が悪く染色性が低い)の3つを参考に決定されている19)Figure 6にHPC測定の際に得られる2次元スキャッタグラムの代表的な2例を示す。Figure 6aは42歳,女性,悪性リンパ腫の症例で,HPC数42/μLでCD34陽性細胞数37/μLと,両者は近似していた。このスキャッタグラムではHPCを示すマゼンダカラーの集団が明瞭である。

Figure 6 XN3000の2次元スキャッタグラム(X軸:SSC,Y軸:FSC)

(a)42歳,女性,悪性リンパ腫,HPC数42/μL,CD34陽性細胞数37/μL(b)66歳,男性,形質細胞性腫瘍,HPC数162/μL,CD34陽性細胞数15/μL

HPC数が50/μL以上の検体30例のうち12例(40%)はCD34陽性細胞数が20/μL以下で,HPC数とCD34陽性細胞数が大きく乖離していた。この12検体のうち4例で二次元スキャッタグラムの記録が残っていたため,本研究において検討できた。その4例を解析したところ,4例全例でHPCエリア内にHPCのマゼンタカラーのプロットと重なる,ブルーで表示される細胞集団があった。Figure 6bにそのうちの1例を示す。66歳,男性,形質細胞性腫瘍の症例で,HPC数162/μL,CD34陽性細胞数15/μLと両者は大きく乖離していた。

IV  考察

本研究ではHPC数とCD34陽性細胞数との間に中等度の有意な相関を認めた。しかし,MM患者,年齢40歳以上,HPC数50/μL以上の検体では両者はしばしば乖離していた。またHPC測定の2次元スキャッタグラムの検討により,HPC数とCD34陽性細胞数との乖離を説明できる可能性が示唆された。

フローサイトメトリーによるCD34陽性細胞数の測定は専門的技術,時間を要し,コストも高い。したがって,フローサイトメーターを所有する施設は本邦では限られており,CD34陽性細胞数を外部の検査室に委託している施設も多い。PBSC採取を至適時期に1回で行うための指標として自動血球分析装置によるHPC数は注目されてきた3)~18)。患者の精神的・肉体的負担の軽減,機器の管理を行う医療スタッフの業務の負担,PBSCTに伴うコストを軽減する可能性があるからである。

一般にPBSCTにおいてはG-CSFが投与されるが,G-CSFが投与されても末梢血中へPBSCが充分動員されないことがある2)。G-CSF投与後の末梢血中PBSC数は患者あるいは同種移植ドナーの年齢,性別,疾患,化学療法などの影響を受ける20)。また,高齢,糖尿病,感染症,鉄過剰症などの併存症はPBSC低値との関連が指摘されている21)。当院におけるPBSCTではG-CSF投与後4~7日目にPBSCが採取されることが多かった。MLや白血病患者では化学療法が施行されていることが多く,骨髄抑制のためにG-CSF投与後,PBSCの採取までにしばしば日数を要した。本研究においてMM患者の検体ではHPC数とCD34陽性細胞数の相関が不良であった。MM患者は骨病変に加えて,化学療法のためにG-CSFに対するPBSC増加が不良であった可能性がある。また,40歳以上ではHPC数によるCD34陽性細胞数の判別能が低かった。以上に記述したようにHPC数によってPBSC数を推定する場合,PBSCが採取される人の疾患,年齢,併存症,治療歴などを考慮する必要がある。

自動血球分析装置におけるHPC測定の原理を理解して,HPC数とCD34陽性細胞数が乖離する症例の予測を行うことも重要である16)。本研究においてHPC数が50/μL以上でCD34陽性細胞数20/μL以下と大きく乖離していた4検体の2次元スキャッタグラムを解析したところ,HPCエリア内にHPCのマゼンタカラーのプロットと重なる,ブルーで表示される細胞集団があった(Figure 6b)。これがHPC数高値をもたらしている可能性があり,Peerschekeら8)も同様の現象について報告している。2次元スキャッタグラムにおいてHPCエリア内でHPCのマゼンダカラーと重なるブルーで表示される細胞集団が何を示すかは不明であるが,この領域は幼弱顆粒球の可能性がある。一方,湯上ら16)はXN-3000の2次元スキャッタグラムにおける単球領域とHPC領域との重なりが,HPC高値の原因と推定している。

本研究ではMM患者以外,年齢40歳未満,HPC数50/μL未満の3条件を満たす場合,HPC数23/μLをカットオフ値とするとCD34陽性細胞数 > 20/μL以上を判定する感度,特異度はそれぞれ96%,91%で,HPC数はCD34陽性細胞数の優れた指標となる可能性が示唆された。我々が検索しえた限りでは,XNシリーズで測定したHPC数とCD34陽性細胞数の相関を検討した和文・英文論文は8編であった(Table 4)。症例数・検体数は様々だが,HPC数とCD34陽性細胞数に中等度以上の有意な相関を指摘する報告が多い。HPC数の最適カットオフ値は10–38/μLで,感度は40–79.5%,特異度は85.7–90.5%と報告されている。本研究の結果はこれらの結果と比較して良好であった。本研究は同様の研究の中では最多の検体数を対象としており,また,HPC数とCD34陽性細胞数の関連においてMM患者の検体,年齢,HPC数について言及したのは本研究が初めてである。

Table 4  HPC数とCD34陽性細胞数の相関を報告した和文・英文文献
著者 機種 症例
検体
対象疾患別の検体数 HPC数とCD34
陽性細胞数の相関
判別能
悪性
リンパ腫
形質細胞性腫瘍 白血病 その他 同種移植
ドナー
相関係数 p 最適カットオフ値
(/μL)
感度(%) 特異度(%)
2014 Tanosaki R10) SE/XE- XN- 24 76 6 0 0 0 18 0.979 < 0.001 nd
2015 Peerschke EI11) XN-1000 107 107 45 46 0 8 8 0.88 nd 38 陽性的中率71.4% 陰性的中率97.7%
2016 藍野なつき12) XN-3000 22 52 8(内訳不明) 14 0.973 nd nd
2018 水村真也14) XN-9000 38 38 13 6 3 1 15 0768/0.848 nd ドナー37,
自家23
nd
2018 舛田博貴15) XN-9000 29 34 19 15 0 0 0 0.672 < 0.001 nd
2018 湯上小百合16) XN-3000 16 16 8 8 0 0 0 0.816 < 0.01 nd
2018 Yoshikawa N17) XE-5000 33 51 21 12 0 0 0 0.861 < 0.001 10 40.0 90.5
XN-2000 0.953 < 0.001 19 79.5 85.7
2019 斎藤泰智18) XE-2100 43 43 40(内訳不明) 3 0.51~0.71 < 0.001 nd
XN-9000 86 86 57(内訳不明) 29 0.73~0.97 < 0.001
本研究 伊藤衣里子 XN-3000 97 167 20 17 5 5 50 0.730 < 0.001 23 69 93

nd:記載なし

本研究には考慮すべきいくつかの制限がある。第1に,同一症例から複数回検体を採取していることがあり,これが結果に影響を与えている可能性がある。第2に,対象症例の治療歴,治療薬,併存症を調査していない。第3に,XN3000の2次元スキャッタグラムを全例で解析できていない。第4に,2次元スキャッタグラムにおいてHPCを示すマゼンダカラーの集団と重なるブルーで表示される細胞集団が何か明らかにできていない。今後,これらの背景因子,2次元スキャッタグラムの解析を詳細に行うことにより,HPC数によるCD34陽性細胞数の推定がさらに良好となる可能性がある。これらの制限はあるが,本研究はHPC数によるCD34陽性細胞数の推定について多数例で検討し,その長所と限界を明らかにしている。

V  結語

XN3000で測定されるHPC数はCD34陽性細胞数の指標になり得る。しかし,MM患者からの検体,年齢40歳以上,HPC数50/μL以上の検体では両者に乖離が生じる場合が多く,注意が必要である。

 

本研究の発表に対し,名古屋第一赤十字病院教育研究助成(NFRCH 20-0025)を受けた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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