Japanese Journal of Medical Technology
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Internalization of microbiological testing in a mid-scale acute care hospital: A single center experience
Akifumi TERAYAMAToshiaki MIIKEMamiko KOGAMieko SAITOToki MITOMASachiko NADAYOSHIMai YAMANAKAKenichiro YAITA
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2021 Volume 70 Issue 3 Pages 542-550

Details
Abstract

中規模病院の微生物検査院内化への取り組みについての報告は少ない。今後の同規模病院での院内化に寄与するため,院内化に至るまでの取り組みと問題点を報告する。2018年4月より病院管理者を中心とした微生物検査室設置プロジェクトを設立し,検査室の設置場所,機器,システム,必要となる工事,行政との情報伝達,他施設見学及び外部研修,外部講師学習会について協議した。その後,感染対策チームを中心とした微生物検査ワーキンググループを設立し,検査内容や業務の流れについて協議し準備を進めた結果,2019年8月より正式に微生物検査室が稼動することとなった。血液培養ボトルは外部委託していた時は採取後検査室で保存していたため,培養開始されるまで時間を要していたが,稼働後は採取後2時間以内に培養を開始することが可能となった。しかし稼働後1か月間は多発するシステムトラブルの対応に追われた。さらに検体数が予想していた処理能力を超えてしまい,併設診療所の血液培養と至急検体以外は外部委託することとなり,救急外来と入院症例の検体のみ院内で処理することになった。また同時に人材育成が急務となった。院内化により血液培養陽性例において報告までの日数は短縮し,検査結果に関する問い合わせは増加した。

Translated Abstract

There have been few reports on the internalization of microbiological testing in mid-sized hospitals. To contribute to better management of the future hospitalization of patients with microbial diseases in a mid-sized hospital, we report on the efforts and problems that have led to the establishment of microbiology laboratories. In April 2018, we conducted a microbiology laboratory establishment project led by hospital administrators in relation to location, equipment, systems, necessary works, communication with the administration, visits to other facilities and external training, and a study session by external instructors among others. After that, we created a microbiology working group led by the Infection Control Team and discussed the contents of the tests and the duties of the microbiology team. As a result, the microbiology laboratory officially started operation in August 2019. Blood culture bottles were stored in the laboratory after collection when it outsourced. After the start of operation, we were able to start cultivation within two hours after collection. During the first month of operation, we frequently encountered system failures. In addition, the number of specimens exceeded the capacity of the laboratory, and all specimens other than outpatient specimens and urgent specimens were outsourced to other laboratories. This meant that only specimens from emergency rooms and hospitalized patients were processed in the hospital. In addition, human resource development is an urgent task. Internalization has shortened the reporting time for blood-culture-positive cases and increased the chances for more inquiries regarding microbiology test results and specimen collection.

I  序文

感染症診療において適切な診断,治療を行うには,微生物検査室から提供される検査結果が必要不可欠である。2010年の診療報酬改定により感染防止対策加算新設,2012年に感染防止対策加算1,感染防止対策加算2,感染防止対策地域連携加算の新設,2018年に抗菌薬適性使用支援加算が新設された。それに伴い病院内における微生物検査の重要性が高まり,従来の感染症の診断・治療支援を行う検査室から院内感染対策,感染管理も担う検査室へと役割が変化してきている。しかしながら中規模以下の施設の多くは経営,予算,検体数の問題,加えて微生物検査は不採算部門というイメージによって外部委託している施設が多い現状にある1)。しかし佐野ら2)によると機器や備品類を安価なリースとするなどの様々な方策により採算部門となり得るとの報告もある。当院は2019年7月まで微生物検査を外部委託していたが,2019年8月より院内化し,様々な経験を得た。中規模病院の微生物検査院内化についての具体的な方法を示した報告は少なく,今後の同規模病院での微生物検査院内化に寄与するため,その取り組みと問題点を報告する。

II  当院の概要(2018年度)

当院は福岡県福岡市に位置し,外来としての役割を果たす併設診療所(千代診療所)を有する29診療科,病床数350床のケアミックス型の病院である。1年間の救急車搬入件数は3,066台,新入院数は5,930人(1日平均16.3人),平均在院日数は12.8日であった。感染防止対策加算1,感染防止対策地域連携加算,抗菌薬適正使用支援加算を取得している。臨床検査技師は29名で,二交代制勤務により24時間体制で検査を行っている(夜勤は1名体制)。微生物検査総検体数は6,985件(血液培養3,466セット含む),併設診療所2,053件(血液培養335セット含む)提出されている。

III  微生物検査院内化までの背景

2010年に感染防止対策加算を取得し,2012年の新病院移転を機に検体検査室の一角に微生物検査室を設立した。微生物検査未経験のスタッフ1名が外部委託先で3か月間研修後,喀痰,尿,穿刺液の塗抹検査のみ院内で行い,培養同定検査,薬剤感受性検査は外部委託することとなった。2013年1月までは,塗抹検査の結果は至急であれば電話で主治医に報告するが,至急でない場合は鏡検後に外部委託先にメールで送り,電子カルテに反映されるのは翌日という運用であった。塗抹結果の報告もコメントを記載することなく染色性,菌の形状,菌量のみの報告のため,塗抹検査の有用性を充分に活かすことができていない状況であった。また微生物検査室からの情報発信もなく,検査に関する臨床医の問い合わせや要望はほとんどなかった。2013年2月より微生物検査経験者(実務経験5年)が採用され,これまでの微生物検査の問題点を洗い出し改善に努めていった。最初の問題は微生物検査に精通した技師がおらず,院内で情報発信が難しいことであった。そこで微生物検査担当技師が,感染対策チーム会議に参加し,院内の分離菌の情報提供や,検体採取のポイントを多職種に講義した。また週1回の医師,看護師,薬剤師による院内ラウンドに参加しディスカッションすることで,微生物検査室の存在を広めていった。問題となっていた塗抹結果の報告に関しては,鏡検後電子カルテに記載することで即日報告し,その際推定菌などのコメントを付加することにした。また,Clostridioides difficileトキシン/抗原検査の院内化,複雑な電子カルテの微生物検査オーダー画面の変更,外部委託先への検査依頼方法を手書き伝票からパソコンによるシステム化など問題を改善していったが,外部委託している以上限界があり,微生物検査の院内化が最善の解決策であることが明確になった。院内化には大幅なコスト,人員確保,人件費,場所の問題など様々な要因が絡むこともあり,院内化は容易くはなかった。それでも微生物検査に関する情報や,感染防止対策加算1地域連携相互ラウンドでの指摘事項の積極的な報告,加算1の他施設と比較した当院の現状や外部委託の問題点を発信し続けていった。2017年4月に2人目の微生物検査経験者(実務経験5年)の採用,更に2018年に感染症科医師の採用が転機となり,微生物検査院内化プロジェクトが始動となった。

IV  方法

2018年4月より微生物検査室設置プロジェクト(以下;PJ)を設立,2019年2月に微生物検査ワーキンググループ(以下;WG)を設立した。PJのメンバーは病院の管理者を中心に構成,WGのメンバーは感染対策チームを中心に構成し,月1回のペースで会議を行った(Table 1)。微生物検査院内化にあたりまず必要なことは「不採算部門」という微生物検査室のイメージを払拭させること,現状の感染症診療の問題点の共有であると考え,PJの初回の会議で,臨床検査技師より院内微生物検査室の収益性と利便性について,感染症科医師より感染症科の診療内容と今後の課題についてプレゼンテーションを行い,院内微生物検査の必要性をメンバーと共有した。その後は院内化までのスケジュール(Figure 1),微生物検査室のスペース,導入機器・検査システムの選定,工事内容の確認と工事日程の調整,行政との情報伝達,技師の外部研修,外部講師学習会について協議した。検査内容や必要物品に関してはPJ開始から稼働開始まで微生物検査技師で準備を進めていった。WGでは,検査技師長より毎月進捗状況をメンバーと確認し,検査の内容,業務の流れ,運用方法,問題点を中心に協議した。

Table 1  Microbiology Laboratory Installation Project and Microbiology Testing Working Group overview
プロジェクト 目的 開始時期 会議頻度 メンバー
微生物検査室設置プロジェクト 微生物検査室設置場所,導入機器とシステム選定,工事内容,行政との情報伝達,外部研修,外部講師学習会について協議・決定 2018年
4月
月1回 病院長,看護総師長,事務長,副事務長,施設課長,経理部長,電算室室長,感染症科医師,感染管理認定看護師,検査技師長,微生物検査技師
微生物検査ワーキンググループ 微生物検査室で行う検査内容,業務の流れ,運用方法について協議・決定 2019年
2月
月1回 副事務長,施設課長,電算室室長,感染症科医師,感染管理認定看護師,検査技師長,微生物検査技師

微生物検査室設置プロジェクトと微生物検査ワーキンググループの概要。

Figure 1 Schedule for internalization of microbiological laboratory

微生物検査室設置プロジェクト設立から院内化までのスケジュールを示す。

1. 微生物検査室設置プロジェクトの協議内容

1) 場所の選定

微生物検査室院内化にあたり,準備できる部屋の大きさが決まらなければ機器や検査内容を決めることができないため,初めに微生物検査室の場所を協議した。機器,冷蔵庫,オートクレーブ,安全キャビネットクラスII以上3),作業台といった場所を取るものを設置することを想定し,最低限必要な広さを40平米と決め,3つの案を臨床検査技師から提示した(Table 2)。様々な部署が関わる可能性が高いため,最終的な決定は病院長を含めた管理者での協議とした。

Table 2  Proposed location for microbiological laboratory
利点 欠点
検体検査室内に設置 ・検査室スタッフとの情報交換が容易
・時間外の血液培養陽性処理が容易
・検体搬送に関する他部署への案内が不要
・機器を設置するためのスペース確保が困難
検査室全体を別の場所に移動 ・現状の検査室の問題点の解消が可能 ・現状以上のスペースが必要のため移動先の選定が困難
・大規模な工事が必要となるため莫大な費用がかかる
完全に独立した場所に設置 ・場所の選定が容易 ・時間外の血液培養ボトルの装填と血液培養陽性処理の対応
・検体搬送先が複数の場所になるため他部署への案内が必要
・検査室スタッフ間の業務把握が困難

微生物検査室の設置場所に関する案を示す。

2) 機器・システムの選定

同定感受性分析装置選定の条件として,検査精度が高く,迅速報告が可能なものを条件に4社を比較検討した。特に薬剤感受性検査でvery major errorが起こりにくく,耐性菌の迅速報告が可能であるもの,薬剤感受性検査の対応菌種が多いものを選定した。同定検査に関しては,分析装置の補助のため,簡易同定キットや確認用の試験管培地を常備することにした。質量分析装置の導入も考えたが機器の価格が高額であるため,PJでは紹介程度に止め今後の検討事項とすることを伝えた。院内検査で同定困難な菌種が検出されたときのために,外部委託先に質量分析装置による同定検査の契約をすることにした。他に操作性,ランニングコスト,廃棄物の量,機器のサイズも考慮した。

血液培養装置に関しては,偽陽性が少ないこと,検出率が高いことを条件に3社を検討した。

微生物検査システムに関しては,コスト面,多様な帳票の印刷,当院の電子カルテのメーカーとの接続実績の有無,サポート体制,導入価格を重視して選定した。各社によるプレゼンテーションの他,検討している機器やシステムの実績のある施設に見学にいき,操作性,利点,欠点,運用方法を聴取し,また日本臨床検査自動化学会で,最新の機器・システム情報を取得して比較検討した。

3) 工事内容の確認と工事日程の調整

微生物検査室設置に必要な工事の内容としては,電源(非常電源)工事,LAN工事,水道工事である。これらは微生物検査室の場所,設置する機器,システム,部屋のレイアウト決定後でないと行うことができない。卸の医療機器担当者より,必要な電源の数については施設課へ,必要なLANの数については電算室へ伝えてもらい,工事日程を調整した。染色を行うシンクや手洗い場の水道工事に関しては,臨床検査技師と施設課で協議し,工事日程を調整した。

4) 行政との情報伝達

施設課,副事務長より保健所に微生物検査室設置に必要な要件と手続きについて確認してもらった(Table 3)。

Table 3  Requirements for setting up a microbiological laboratory
施設要件 必要な手続き
臨床検査施設 通常行われる臨床検査のできるもの 病院開設許可事項の変更許可申請
構造設備 外気開放(換気扇),天井2.1 m以上 工事施工,病院使用許可申請
動線 微生物検査室の図面で確認 許可証発行

行政に確認した微生物検査室を設置するための要件。

5) 他施設見学と外部研修

他施設見学は同規模病院へ,感染症科医師,感染管理認定看護師,検査技師長,微生物検査技師で4か所行くことにした。外部研修は同規模病院であることかつ導入する機器が同じ施設あることを条件に,稼働開始の3か月前に微生物検査技師2名が各1週間の研修を受けた。

6) 外部講師学習会

医療法で規定されている年2回の職員研修を利用して,微生物検査院内化の利点を職員へ説明した。講師は他施設の微生物認定検査技師に依頼した。

2. 微生物検査ワーキンググループの協議内容

1) 業務内容(Table 4
Table 4  Contents of clinical examination
項目 内容
塗抹検査 グラム染色,墨汁染色,Ziehl-Neelsen法(至急オーダー),ラクトフェノールコットンブルー染色
培養検査 好気培養(35℃,25℃,42℃),炭酸ガス培養,微好気培養,嫌気培養
同定検査 自動機器・同定キット・試験管培地による同定,スライドカルチャー(真菌)
薬剤感受性検査 微量液体希釈法,ディスク拡散法
薬剤耐性菌検査 ESBL・AmpC・カルバペネマーゼ産生確認試験,D-Zone test
迅速抗原検査 Clostridioides difficile毒素/抗原検査
その他 菌株保存,環境検査,統計資料作成(日報,週報,月報),感染対策チーム活動,抗菌薬適正使用支援チーム活動,JANISサーベイランスデータ送付,J-SIPHEデータ送付,内部精度管理,外部精度管理
外注検査 便培養,生殖器分泌物培養,抗酸菌検査(塗抹検査,培養検査,同定検査,結核菌群抗原検査,薬剤感受性検査,核酸増幅検査),質量分析法を用いた同定検査

当院の微生物検査の内容。

ランニングコストや配置人数を加味して便培養,婦人科検体,抗酸菌検査(塗抹至急以外),遺伝子検査は外部委託することにした。

2) 業務の流れ

微生物検査室に配属される人数は2名のため,業務A(検体受付,塗抹検査,培養検査),業務B(同定検査,感受性検査)に分けることにした。

3) 薬剤感受性プレートの選定

薬剤感受性プレートは,搭載薬剤が決まっている標準プレートと,メーカーによっては搭載薬剤をカスタマイズできるカスタムプレートがある。使用プレートについては臨床検査技師と感染症科医師で協議した。

4) 精度管理

医療法に規定されている基準に従い,標準作業書,測定作業日誌,試薬管理台帳,検査機器保守管理台帳を作成した。内部精度管理の項目と測定頻度は,グラム染色,カタラーゼテスト,オキシダーゼテストは標準菌株を用いて毎日実施,抗酸菌染色は抗酸菌染色コントロール・スライド(株式会社スギヤマゲン)を用いて月1回もしくは染色液のロット変更時に実施,同定感受性プレートは標準菌株を用いてロット変更時に実施することから始めた。外部精度管理については,日本臨床衛生検査技師会臨床検査精度管理調査,九州臨床検査精度管理調査に参加することにした。

V  結果

2019年8月より2名体制で正式に稼働した。Figure 2に稼働後の出来事を示す。稼働後に電子カルテと微生物検査システムの通信エラー,機器とシステムの通信エラー,外注結果取り込みエラーが多発した。稼働前にテストオーダーで一部は確認していたが全項目はできていなかったため,稼働開始から1か月間はシステム業者との情報伝達やマスタ変更に追われる日々が続いた。

Figure 2 Progress after internalization of microbiological laboratory

微生物検査室稼働後の出来事を示す。

微生物検査室の場所は東館1階となり,検体検査室のある西館1階と離れることとなったため,時間外の血液培養ボトル装填と血液培養陽性検体の対応について考えた。血液培養ボトル装填に関しては,検体検査室にも小型の血液培養装置を設置し,東館の微生物検査室に設置している中継端末と有線で接続することで,機器間のボトルの移動を可能にした(Figure 3)。時間外に検体検査室の血液培養装置に装填された血液培養ボトルは,翌朝出勤した微生物検査技師によって微生物検査室の血液培養装置に移動することにした。その結果,推奨されている採取後2時間以内4)に培養を開始することができた。時間外の血液培養陽性検体の対応に関しては,時間外勤務者が平日は0時に,休日は0時と12時に微生物検査室に確認に行き,塗抹標本作成,グラム染色,染色結果報告,培養までを行う運用を考えたが,日常業務,トラブルの対応,検査内容や物品の見直しに追われ,実際に時間外勤務者に研修を開始したのは稼働から7か月後となった。研修対象者が20名近くいたため,研修計画を組むことが困難であった。そのため運用を見直すこととなり,日祝日の夜勤者と日勤者の時間が重なる8時30分から9時の間に確認し,塗抹標本作成と培養のみ行うこととなった。

Figure 3 The system of blood culture operation

中継端末(EpiCenter)と各血液培養装置を有線で接続することで機器間のボトルの移動が可能となる。

同定感受性機器はライサスS4(日水製薬株式会社),血液培養装置はBACTEC FX(日本ベクトン・ディッキンソン)を微生物検査室に設置,BACTEC FX40(日本ベクトン・ディッキンソン)を検体検査室に設置,微生物検査システムはニクスビオ(日水製薬株式会社)各1台を導入し,微生物検査室の中央作業台を取り囲むように機器を配置した(Figure 4)。

Figure 4 The drawing of microbiological laboratory

微生物検査室図面。検体処理担当と同定感受性検査担当が交差しないよう中央作業台を取り囲むように機器を配置。

薬剤感受性プレートは感染症科医師との協議の結果,標準プレート運用することにした。

検査の対象は当院の検体だけでなく,併設診療所の検体と同法人の療養型病院の検体を合わせ,月800件近く検体を処理することとなった。残業時間が大幅に増加し,2名体制で行うには処理能力を超えてしまったため,稼働開始の2週間後には職責者と微生物検査技師で緊急ミーティングを行うこととなった。微生物検査に従事する人員育成が急務となり検体検査従事のスタッフ2名の研修を始め,合計4名体制に整えていくことにした。併設診療所の検体に関しては,血液培養以外の検体は外注にすることにし,救急外来と入院検体のみ院内で処理することとなった。技師の研修が終了後,併設診療所の検体を段階的に院内で検査することにした。4名体制になり技師間差が生じることが懸念されたため,月1回担当者がグラム染色標本を準備し全スタッフに対し出題し評価することを始めた。結果は記録に残し技師間差が認められた場合,是正することにした。

検査結果を迅速に報告するために培養コロニーから推定菌報告,全検体にMRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus)選択培地を使用することにした。院内化後1年間における血液培養陽転化までの時間は最短で培養開始後5時間3分,66%が24時間以内であった。その結果外部委託時と比べ報告までの日数を1~3日短縮することができ,適切な抗菌薬の迅速な使用に繋がった。院内化によって医師からの微生物検査の結果に関する問い合わせや質問,検体採取に関する相談も増加した。

VI  考察

稼働後に多くのシステムトラブルが生じた。その原因としては,予算が通り病院管理会承認までは順調に進んでいたが,システム業者との打ち合わせが稼働開始の3か月前から始めることとなってしまい明らかに準備期間が不足していた。システムに関しては遅くとも稼働開始の半年以上前から準備ができるよう各部門間とメーカーとの情報共有は密に行い,計画的に進めていく必要があった。

微生物検査室を設置するにあたり,数ある機器や物品から導入するものを選定し,院内でどこまでの検査を行うかはPJ開始当初から常に考えておかなければならなかった。十分な人手,予算,広い部屋を確保できることは理想的であるが,当院の場合,配属される人数は2名体制で予算も限られており,準備できた部屋も38.9平米とPJで提案した広さには届かなかった。PJが進行していくにつれて予定通り進むことよりも問題点や疑問点が生じることの方が圧倒的に多く,他施設見学後は迅速に対応することができた。各施設限られた状況下で工夫して運用されていたため参考になる部分が非常に多く,新たに微生物検査を設置する場合に他施設見学は有益であった。内部精度管理に関しては各施設で方法が様々であったため,今後の大規模サーベイランスの結果を参考にしながら運用を見直していく必要がある。

時間外勤務者の血液培養陽性検体の対応に関しては,塗抹標本作成と培養までとなったが,福岡県福岡地区のサーベイランス5)によると,グラム染色まで行っている施設は18施設中11施設と報告されている。微生物検査の標準化の観点からも行う必要があるが,当院の時間外勤務者は1名体制かつ微生物検査室が別棟にあるため,血液培養陽性検体の処理をする間は他の緊急検査の結果が大幅に遅れることが懸念される。グラム染色結果の報告を実施するには,時間外の血液培養陽性検体処理に要する時間,処理中の緊急検査結果が遅延する可能性があることについて臨床への理解を求めていく必要があると考えられた。

今回院内化に取り組んだことで,一番の大きな問題と考えられたのは微生物検査に配属する人員の確保であった。当院の場合,微生物検査経験者が2名いたため検査に関する疑問や,運用に関してはお互い相談しながら進めることができたが,多くの施設では微生物検査未経験の技師で行うか,もしくは新たに微生物検査経験者の増員で対応していくと思われる。技師の外部研修の期間については,当院は微生物検査経験者であったため1週間に設定したが,微生物検査未経験の技師が配属される場合,長期間の研修が必須である。当院の微生物検査未経験者の研修計画としては,3か月で検体受付,染色塗抹標本作成,培養検査,9か月で同定検査,感受性検査,3年以内に二級検査士(微生物学)取得,5年以内に感染対策チーム活動,抗菌薬適正使用支援チーム活動,学会発表と論文投稿,10年以内に認定微生物検査技師取得を目標としている。1人前の微生物検査技師になるには最低5年,通常10年は必要1)との報告もある。院内化に至った背景にも記したが,微生物検査未経験の技師が3か月研修を受けただけでは院内化に対応することは難しい。微生物検査院内化の際の他施設での研修期間をどのくらいに設定するかは各施設や受け入れ先の状況次第と思われるが,可能な限り長期間行うことが望まれる。研修期間が充分にとれない場合は,他施設の技師に相談できるよう関係性を築いておく必要があり,近隣の施設は院内化を行う施設に対して協力していくことで微生物検査の標準化にも繋がっていくと考えられる。

VII  結語

今回微生物検査外部委託から院内実施の取り組みを報告した。適切な感染症診療,薬剤耐性菌対策のための抗菌薬適正使用支援(antimicrobial stewardship; AS)を実践していくため,臨床検査室は可能な限り微生物検査を院内実施していくことが望まれる。今後は院内実施前後の依頼検体数,年次検査コスト,検出菌,血液培養陽性率,抗菌薬使用量,de-escalationまでの日数等の臨床的項目を比較していく必要がある。

 

本論文の骨子は,第31回日本臨床微生物学会総会・学術集会(2020年)で発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本論文の作成にあたり,ご指導ご助言をいただきました久留米大学医学部附属臨床検査専門学校の棚町千代子先生,研修を受け入れてくださいました地方独立行政法人福岡市立病院機構福岡市民病院検査部の堀内寿志先生,施設見学や貴重な助言をしてくださった福岡地区の微生物検査技師の方々に深謝申し上げます。

文献
 
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