Japanese Journal of Medical Technology
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Operation of physiological function tests with high risk of aerosol transmission during the COVID-19 pandemic: Infection control (two-week rule and PPE) in our hospital
Yuta TORIIGo YAMAMOTONaoko SUGANUMAShoji MIYAGAWAKazushi MINOWASeiko NASUIchiro SASAKIMasaaki ETO
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2021 Volume 70 Issue 3 Pages 535-541

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Abstract

新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)は,世界中で多数の感染者が発生しており,各医療機関において,COVID-19患者の対応に追われ,緊迫した状況が続いている。各学会からの提言では,感染対策の観点からエアロゾル発生リスクが高い生理機能検査は,緊急性が高い場合を除き,検査中止または延期するよう示されており,これを遵守している施設が多いと思われる。当院では,新型コロナウイルス患者を受け入れつつ,感染予防を十分に行い,感染対策を理解した上で検査を実施している。感染対策として,①検査前における感染予防手技の習得,②エアロゾル発生リスクの高い生理機能検査における2週間ルールの導入,③検査前の十分な問診,④検査時および検査後の感染対策(PPE,HEPAフィルターによる換気)について取り組んだ。現時点ではエアロゾル発生リスクが高い生理機能検査に従事している担当者に感染者は発生していない。感染対策が十分に行えている結果と考えるが,未だ不明な点も多い感染症であるため,今後も感染対策に留意して検査を施行しなければならない。各施設において安全に検査が行える対策ができれば,検査者にかかる身体的・精神的ストレスも軽減できるのではないかと思われる。

Translated Abstract

COVID-19 is an emerging infectious disease caused by SARS-Cov-2 and has spread worldwide. We have encountered many problems in the prevention and control of COVID-19 in the hospital, many aspects of which remain unknown. As indicated in the statements from each academic society, many laboratories have suspended or postponed physiological function tests with a high risk of aerosol transmission, except for emergencies, because the risk of infection occurs even before the onset of symptoms of the disease, and there is concern about the possibility of a large number of contacts among hospital staff members at the time of disease onset. Also, the PCR test is not highly sensitive because of the sampling method and other factors, and it is possible that patients who tested negative may still have the virus (i.e., false negative). If a confirmed COVID-19 patient obtains a negative PCR test result after being quarantined for two weeks, COVID-19 can be ruled out to the maximum extent possible at this stage. However, it is still an unsatisfactory infection control. Therefore, it is necessary to take adequate measures to prevent infection. We report on the operation of a physiological function test with a high risk of aerosol transmission during the COVID-19 pandemic in our hospital.

I  背景

2019年12月に中国・武漢で発生した新型コロナウイルスによる感染症はCOVID-19(Coronavirus Disease 2019)とよばれ,瞬く間に中国からアジア,ヨーロッパそして全世界に拡大した1)。本邦も例外ではなく,海外からの感染者流入を防ぐ水際対策から始まり,今はクラスター発生予防や医療崩壊を防ぐため,政府・自治体,保健医療機関が団結して感染対策を行っている。

新型コロナウイルス感染が陽性であった場合,発症する2日前から発症後7~10日間程度が感染可能期間,いわゆる人に伝搬する可能性のある期間とされている2)~4)。アメリカ疫病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention; CDC)からの報告では,新型コロナウイルス潜伏期間中に感染を拡大させた例も報告されている5)。また,無症状感染者からの感染と考えられる事例も散見される6)~9)。本邦においても厚生労働省からの報告(2020年8月5日付)では,感染者29,601例中,3,764例(12.7%)が無症状であったとされており,症状がないから感染していないとは言い切れず,これが感染拡大を来たす一因として挙げられる10)。そのため,エアロゾル発生リスクが高い生理機能検査(以下,ハイリスク生理検査)に従事する場合,検査を受ける患者一人一人が既に罹患していると想定した上で検査を施行することが望ましいと考える。

新型コロナウイルスにおける感染対策の観点から,ハイリスク生理検査においては,検査を一時的に中止もしくは延期している施設が多いと思われる。しかし,実臨床ではそのような状況下でも検査を必要とする場面が多く存在する。そのため,当院では感染対策を十分に行った上で,ハイリスク生理検査について細心の注意を払いながら実施している。新型コロナウイルスの感染対策については未だ明確な基準がなく,各学会からの提言を参考に,各施設において独自に対応している現状と思われる。当院で行っているハイリスク生理検査における感染対策について報告する。

II  当院生理機能検査室が取り組む4つの感染対策

1. 検査前における感染予防手技の習得

ハイリスク生理検査に従事する検査者は,まず標準予防手技を十分に施行できることが必要である。当院では標準予防手技が必要な病院スタッフに対して,ICT(Infection Control Team)によるサージカルガウン着脱テストおよびN95マスクのフィッティングテストを行っている(Figure 1)。この2点について確認できていない場合には,ハイリスク生理検査には従事することができないため,検査担当者は全員がこのテストを実施している。N95マスクは数種類のマスクがあり,顔の形状やマスクの締め付け具合など,全員が同じマスクでは対応できない場合もあるため,必ずフィッティングテストを実施して,自分に合ったN95マスクを着用して検査を施行しなければならない。

Figure 1 N95マスク フィッティングテスト

フィッティングテスターを用いて顔面とN95マスクの間からの空気漏れの有無を確認している様子。

また,各検査項目における咳誘発の可能性や接触度などについて検査室内で周知しておくことも重要である。当検査室では,各検査の感染リスクを5段階で評価しており,検査者は十分に理解した上で各検査を実施している(Table 1)。

Table 1  各種生理機能検査における感染リスク度分類
項目 リスク 検査時間 接触度 咳誘発の可能性 検査室の密閉度 患者のマスク 備考
12誘導心電図 E 5分 低い 低い 低い 可能
(外す場合あり)
ホルター心電図 E 5分 低い 低い 低い 可能
トレッドミル負荷心電図 A 30分 高い やや高い 中等度 不可 運動負荷によるエアロゾル発生リスクあり
脈波検査 B 15分 低い 低い 低い 可能
呼吸機能検査 A 10分 高い かなり高い 中等度 不可 VC,FVC
呼吸機能検査
(ポータブル機器)
A 10分 高い かなり高い 中等度 不可 VC,FVC
回路の汚染あり
経食道心エコー A 30分 高い かなり高い 高い 不可 複数人で対応。急変あり
経胸壁心エコー B 30~60分 高い やや高い 高い 可能
(外す場合あり)
トレッドミル負荷心エコー A 30分 高い やや高い 中等度 不可 運動負荷によるエアロゾル発生リスクあり
腹部エコー B 15~60分 高い やや高い 高い 可能
体表エコー B 15~60分 高い やや高い
(部位による)
高い 可能 頸部周囲のエコーは咳を誘発することあり
脳波検査 C 30~60分 低い 低い 高い 可能 過呼吸賦活の場合はエアロゾル発生リスクあり
神経伝導検査 C 30~120分 高い 低い 高い 可能
(外す場合あり)
顔面神経ではマスクを外す
聴力・平衡機能検査 B 15~60分 低い 低い 高い 可能
(外す場合あり)
耳管検査は鼻腔栓による感染リスクあり
味覚検査 A 30分 高い 高い 高い 不可 現時点では中止

この表は当検査室における独自の評価であり感染リスクをA~Eの5段階で分類した。

A:咳の誘発があるなど,エアロゾルの発生リスクがあり常時空気感染対策が必要な検査

B:通常では咳の誘発は無いが,部位の圧迫や体位変換などに伴い咳の発生がある検査

C:通常では咳の誘発は無いが,検査が15分以上であり部位の圧迫や体位変換に伴い咳の発生はない検査

D:通常では咳の誘発は無いが,検査が15分以下であり部位の圧迫や体位変換に伴い咳の発生はない検査

E:短時間で終了し感染のリスクが少ない検査

2. COVID-19感染対策における2週間ルールの導入

当院では,感染対策として来院者全て(患者はもちろんであるが,付き添い,面会,業者などを含めて)において,病院玄関で検温と同時に問診票(COVID-19様症状の有無)の記入を病院スタッフが実施している(Figure 2A, B)。検査前・診察前に,その問診結果を検査・診察担当者が必ず確認してから業務を行っている。先述したとおり,新型コロナウイルスは発症前から感染力があると報告されている。そのため,患者が無症状であっても安心はできず,エアロゾル発生リスクが高い検査は常に感染リスクが生じると考え,検査者は十分な感染対策が必要となる。CDCからの報告では,新型コロナウイルス潜伏期間は最大で14日と考えられているため,当院では2週間の自宅待機(最低限の外出のみ,家族以外の人との接触を禁止)および体温記録を遵守できている場合に限り,ハイリスク生理検査(呼吸機能検査,トレッドミル負荷検査,経食道心エコー図検査,脳波検査における過呼吸賦活などTable 1のリスクAに分類されている検査)を施行している。

Figure 2 非接触型体温測定機

A:設置タイプの非接触型体温測定機

B:ハンディタイプの非接触型体温測定機

病院玄関で全ての来院者に上記2種類の測定機を用いて,病院スタッフが検温を実施し,発熱者のトリアージを行っている。

この2週間ルールは,ハイリスク生理検査の予約時に主治医から患者に説明および同意をすることになっている。もし,2週間ルールから逸脱した場合には,当日検査は中止し,主治医に承諾を得た上で,必要性に応じて延期もしくは再予約をしている。ただし,この2週間ルールはあくまでも患者の自己申告であるため,感染標準予防対策を十分に行った上で検査を行うことが重要である。

3. 検査前の十分な問診

重複にはなるが,検査前に病院玄関で配布している問診票と同様の内容(発熱の有無,味覚・臭覚障害の有無,咽頭痛・咳や痰・呼吸苦などの呼吸器症状の有無,全身倦怠感など)を患者に再度確認する。これはエアロゾル発生リスクの高低に関係なく,全ての生理機能検査で確認を行っている。確認の際,検査担当者はサージカルマスクとフェイスシールドを必ず着用し,潜伏期間内での曝露があっても感染しないように対策を行っている。ハイリスク生理検査では,2週間ルールに加えて,さらに十分な問診を行っている。問診票は,米国感染症学会の資料をもとに当検査室で作成したものを用いており(Figure 3, 411),問診で中リスク・高リスクの項目に該当する場合は,検査を中止し,2週間以降の後に再検査を予約する運用にしている。実際,これまで来院されてから検査室で検査を中止し,主治医に承諾を得た上で,検査中止あるいは延期に至った実例も多くある。いかに検査前の問診が重要であるか身をもって知らされている現状である。たかが問診と思われるかもしれないが,検査を行ってから帰り際に中・高リスク項目に該当することがわかっては手遅れである。当検査室では,この感染対策の実施後,平均で3分程度の問診時間を設けている。検査後の換気を含め1件あたりの検査時間は延長するため,検査予約枠の調整を余儀なくされているが,これは感染対策上,回避できないと考えている。

Figure 3 呼吸機能検査前の問診票

患者へ問診の必要性を丁寧に説明しながら呼吸機能検査前に行っている。

Figure 4 COVID-19の感染リスク

問診票に加えて,米国感染症学会から推奨されている感染リスク表を用いて該当項目の有無を確認している。

4. 検査時および検査後の感染対策

検査時には,N95マスクの上からサージカルマスクを着用し,さらにフェイスシールド,手袋を着用し,十分な感染対策を行う必要がある(Figure 512),13)。特に,新型コロナウイルスはエアロゾルが原因で感染拡大を起こす可能性が高いこと,かなり広範囲に飛散することが知られているため,広範囲の感染対策が必要である。トレッドミル負荷検査や経食道心エコー検査については,一緒に検査を施行する医師についても,必ず同様の感染対策をしている。N95マスクは事前にフィッティングテストを行い,検査時に毎回シールテストで正しく装着できているか確認をする。N95マスク脱着時は交差感染のリスクが非常に高く,フェイスシールドも装着しているため外し方のトレーニングを十分に行うこととしている。

Figure 5 PPEおよびHEPAフィルター

個人用防護具(PPE)のN95マスク・サージカルマスク・フェイスシールド・手袋・サージカルガウンを着用し,検査時・検査後にはHEPAフィルターで換気を行う。

患者がマスクを外して実施する検査(呼吸機能検査,トレッドミル負荷検査,経食道心エコー図検査)では,エアロゾルは必ず拡散する。エアロゾルの飛散に備えて,頻回に触る機器や機材(カルテ用端末パソコン,キーボード,マウス,操作用パネルなど)にはあらかじめカバーをかけて検査を行うことも重要である(Figure 6A)。検査後に,エアロゾルが付着している可能性がある場合には,消毒用アルコールや次亜塩素酸ナトリウムによる清拭を行ってから次の検査を行う14)。頻回に出し入れする物品はビニールカバーの上に出しておき,検査後に消毒を行うとよい。ポータブル検査については,ビニールカバーを被せて,検査後にカバー外に出た感染リスクのある部分のみを消毒している(Figure 6B)。また,ビニールカバーは床につかないこと,カバーにゆとりを持たせて,操作をしやすくする工夫を行っている。

Figure 6 ビニールシートで感染対策を行った検査機器

A:肺機能検査機器

B:ポータブル脳波計

感染対策のため,機器や機材にカバーをかけて検査を行う。

検査後には,可動式HEPAフィルターで換気を行っている(Figure 5)。HEPAフィルターは新型コロナウイルスに対する有効性が示されており15),感染対策において非常に重要である。当院の呼吸機能検査室では,HEPAフィルターが非稼働時には1回の検査ごとに検査後138分の換気時間を要していたが,HEPAフィルター導入後は検査後15分と大幅な時間短縮で,検査効率が格段に向上した。注意すべき点として,検査室の広さに応じて換気時間が異なるため,各検査室の換気時間を算出しておく必要がある。エアロゾル管理で最も大切なのは換気条件の確認である。生理機能検査をオープンフロアで行っている場合は防ぎようがないが,個室で行っている場合は排気が独立空調なのか,他室と共有しているのかを確認しておく。共有している場合は,他室への影響を考慮した換気と,検査時間の調整が必要になる。当検査室は全て独立空調であり,周囲へのウイルス拡散がない構造である。独立空調の場合は換気回数と検査室の大きさで換気時間が決まる。HEPAフィルターを設置している場合は換気回数が多いので短時間で換気ができるが,ない場合は換気時間がかなり長くなるので,次に検査をしても安全な時間をあらかじめ算出しておく必要がある。また,換気中に扉の開閉をしないように,“〇時〇分まで入室禁止”など扉に注意喚起をする工夫をしている。

III  考察

われわれは,COVID-19流行期における感染対策として,①検査前における感染予防手技の習得,②エアロゾル発生リスクの高い生理機能検査における2週間ルールの導入,③検査前の十分な問診,④検査時および検査後の感染対策(PPE,HEPAフィルターによる換気)について取り組んだ。現時点ではエアロゾル発生リスクが高い検査に従事している担当者を含め,生理機能検査の担当者に感染者は発生していない。感染対策が十分に行えている結果と考えるが,未だ不明な点も多い感染症であるため,今後も感染対策に留意して検査を施行しなければならない。

感染対策を実施する上で非常に重要な点として,生理機能検査担当者のみで感染対策プロトコールを決定するのではなく,ICTや微生物検査担当者など感染対策を十分に理解したスタッフと一緒に決定することが挙げられる。生理機能検査の担当者のみでは感染対策が不十分となる可能性があり,検査施行によって感染拡大に繋がる危険性が高い。

また,最新の情報収集も怠ってはならない。経食道心エコー図検査,呼吸機能検査など検査の実施方法については各関連学会(日本環境感染学会,日本心エコー図学会,日本呼吸器学会,日本臨床神経生理学会など)から提言されているため,参照されたい。未だ新型コロナウイルスは不明な点も多い感染症であり,どのような状況下で感染を来たすか明確ではない。そのため最新の情報によって得られた知見から,柔軟にプロトコールを変更していくことが望ましいと考えるが,最新情報が正しい情報であるかを必ず吟味してから変更するべきである。当検査室でも新型コロナウイルス感染対応当初から随時プロトコールを改変して現状に至っている。各施設において安全に検査が行える対策ができれば,検査者にかかる身体的・精神的ストレスも軽減できるのではないかと思われる。

IV  結語

当院におけるエアロゾル発生リスクのある生理機能検査の運用について,2週間ルールの導入などをふまえて報告した。当院の感染対策が新型コロナウイルスにおいて十分とは言えないかもしれないが,各施設における感染対策の一助になれば幸甚である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本稿に関して,日常臨床の多大な身体的・精神的ストレスの中,エアロゾル発生リスクの高い生理機能検査を施行しているスタッフ一同に深謝申し上げます。

文献
 
© 2021 Japanese Association of Medical Technologists
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