Japanese Journal of Medical Technology
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Materials
Usefulness of establishing a genome center specialized for lung cancer
Naoki SHIRAISHIRyuichiro KIMURATatsufumi MORITakahiro SAWADAShigeki SHIMIZUKazuko SAKAIKazuto NISHIOAkihiko ITO
Author information
Keywords: lung cancer, EGFR, PD-L1, ALK, genome
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2021 Volume 70 Issue 3 Pages 551-559

Details
Abstract

近年,分子標的薬の開発が急速に進み,特に原発性肺癌においてはコンパニオン診断として保険収載が多くの分子標的薬で行われている。近畿大学では2017年6月に肺癌に特化したコンパニオン検査を行うゲノムセンターを近畿大学医学部内に設置し,PD-L1(22C3),ALK(IHC),ALK(FISH),EGFR検査の受注を開始した。ゲノムセンターは2年の稼働期間に517件の検体を受け付け,検査を行った。充分量の悪性腫瘍が検出され,検査が実施できた割合は365件/517件(70.6%)であった。検査種ごとの検査数はEGFR検査が81件(稼働期間7カ月),PD-L1(22C3)は350件(稼働期間2年),ALK(IHC)は278件,ALK(FISH)は237件であった。病理部にてホルマリン固定検体を受け付けてから,検査結果を臨床に返却した日数の平均は11.8日(土日祝日を含む)であった。EGFR検査に限っては7.73日(土日祝日を含む)であった。外注検査と比較して十分に短いturnaround timeが得られた。今回,病院内で次世代シーケンサーを用いた遺伝子検査を行う新部署を新設したため,ゲノムセンターは2年間の上記検査の受注業務を終了した。自施設での検査を導入する際に起こり得る問題を提示しながら,これらの取り組みによりわかった自施設で検査を行うメリット,デメリットを報告する。

Translated Abstract

The development of molecularly targeted drugs has progressed rapidly in recent years. As for companion diagnostics especially in primary lung cancer, many of these drugs are prescribed. Kindai University has established in the Faculty of Medicine the Center of Genomic Medicine, which performs the companion diagnostics specialized for lung cancer. We have started to receive clinical examinations of markers such as PD-L1 (22C3), ALK (IHC), ALK (fluorescence in situ hybridization (FISH)) and EGFR. The center has received and tested 517 samples in its two years of operation, 365 (70.6%) of which contained a sufficient amount of malignant tumors to perform the examination successfully. The numbers of cases for which examinations were carried out were 81 for EGFR in seven months and 350 for PD-L1 (22C3), 278 for ALK (IHC) and 237 for ALK (FISH) in two years. It took 11.8 days (including Saturdays, Sundays and holidays on average to return the results of genomic examinations after receiving the formalin-fixed samples. However, it took only 7.73 days for EGFR. We obtained a turnaround time that is short enough compared with outsourcing. The Center of Genomic Medicine has stopped receiving new samples because we set up in our hospital a new department that will perform genetic screenings using a next-generation sequencer. We report the advantages and disadvantages of performing clinical examinations in our facilities, which we found through these approaches, by posting the possible problems associated with introducing these examinations in the center.

I  背景

現在,分子標的薬の開発が急速に進み,特に原発性肺癌においてはコンパニオン診断として保険収載が多くの分子標的薬で行われている1)~4)。多くの病院が院内,もしくは外注にてそれらの検査を行っている5)~7)

近畿大学では2017年6月に肺癌に特化したコンパニオン検査を行うゲノムセンターを近畿大学医学部内に設置し,PD-L1(22C3),ALK(免疫組織化学染色(immunohistochemistry; IHC)),ALK(fluorescence in situ Hybridization; FISH),EGFR(リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(polemerase chain reaction; PCR))検査の受注を開始した。

今回,病院内で次世代シーケンサーを用いた遺伝子検査を行う新部署を新設したため,ゲノムセンターは2年間の上記検査の受注業務を終了した。自施設での検査を導入する際に起こり得る問題を提示しながら,これらの取り組みによりわかった自施設で検査を行うメリット,デメリットを報告する。

II  方法

コンパニオン診断に用いる検体はプレアナリシス段階で適切な処理がなされる必要がある。切除検体に対する組織の取り扱い,固定方法については「肺癌取扱い規約第8版」「ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程」に準じて10%中性緩衝ホルマリンを用いて,6~48時間の固定時間で行った。

また本病院の中央臨床検査部と病院病理部はISO15189を2016年12月に取得しており,ISO15189に基づいた検体管理が行われている。

組織診断を行うにはプレパラートとしてヘマトキシリン・エオシン染色(Hematoxilin-Eosin; HE)(3 μm厚),組織亜型を鑑別するための免疫染色(3 μm厚 × 数枚)の他に,検査会社に外部依頼する場合,非小細胞肺癌であればEGFR(10 μm厚 × 5~10枚),ALK(IHC:4 μm厚 × 4枚,FISH:4 μm厚 × 3~4枚),PD-L1(22C3)(4 μm厚 × 4枚),で概ね170 μm以上の厚さの検体の大きさが必要である。検査方法によるがEGFRでは腫瘍細胞割合として10%以上,PD-L1(22C3)であれば腫瘍細胞100個以上,ALK(FISH)であれば腫瘍細胞数最低50個以上が必要であり,それ以下の場合は判定不能とした1)~4)

今回,ゲノムセンターへのオーダーは検査の迅速性と再薄切時の面合わせによる検体のロスを減らすために,生検検体ではホルマリン固定検体を病院病理部に提出する段階で各種検査をオーダーできるようにした(Figure 1)。

Figure 1 Order form of clinical testing

It is a copy-type slip. They consist of three request sheets and an accounting sheet. As for these request sheets, they have been kept by the clinical department, pathology laboratory and genome center independently.

検査種は選択式とし,ホルマリン固定検体以外にも近畿大学で既にFFPEとなっているもの,院外のプレパラート,院外のFFPEでも検査可能とした。

次世代シーケンサーや他の遺伝子検査での追加オーダーが発生した際に追加の薄切が可能なように,できるだけ臨床に複数瓶に分けて提出してもらい,病理部では複数個のブロックを作製した。そのうちの1ブロックのみで検査を行うようにした。リンパ節穿刺など腫瘍細胞が含まれているか不明な場合で,かつ複数箇所穿刺している場合は迅速性を優先し,複数検体で検査オーダーできるようにした。腫瘍が含まれていなかった場合,もしくは極少量で検査に不適であると病理医が判断したものについては,各種検査は行わず,会計も発生しないようにしている。

検体提出時に専用依頼書と病理検査依頼書を同時に提出し,受付者と提出者がそれぞれサインするようにした。病理番号を記入した専用依頼書の控えを臨床に返却し,臨床は主治医以外でもオーダーしたことがわかるように依頼情報を電子カルテ内で共有した。

検体取り違え防止対策として,切り出し時に検査オーダーに応じて部門システムにて特殊染色オーダーとして入力した。薄切時にカセットに印字されたバーコードをバーコードリーダーで読み込むことで,病理番号,患者ID,μm数が印字されたプレパラートが必要枚数,自動で印字されるようにした。薄切は診断用HE染色,エラスチカ・ワンギーソン(Elastica van Gieson; EVG)染色,免疫染色用未染を3 μmで合わせて約12切片,続いてEGFR,PD-L1(22C3),ALK(IHC)用に4 μmで11切片,最後にALK(FISH)用に5 μmで4切片を連続切片にて一度に作製した(Figure 2)。

Figure 2 The rule of preparing FFPE sections for each examinations

It enables us to operate faster TAT and more efficient tissue consumption by slicing at the same time for both diagnostic and genetic testing.

ゲノムセンター提出用プレパラートは70℃の孵卵器にて30分の乾燥を行った後,ゲノムセンター検査者に提出した。

ゲノムセンターへの受け渡し時にも病理部の提出者とゲノムセンターの受付者が相互にサインし,控えを1枚病理部控えとした。これにより,臨床からの受付,切り出し,包埋,薄切,ゲノムセンターへの提出まで誰がいつ行ったのかがトレースすることができるようにした。

診断用HE染色は検体提出の翌々日の午前中に病理医に提出され,同日中に腫瘍細胞の有無の暫定報告を行い,必要であれば免疫染色のオーダーを行った。

腫瘍の有無が確認された検体においては,ゲノムセンターに提出された4 μm切片の5枚目にてHE染色を行い,病理医が標本上にマーキングするとともに腫瘍量(総腫瘍細胞数)や腫瘍割合(標本中の全細胞に占める腫瘍細胞の%)を判定した。このとき出血や壊死,炎症細胞などの非腫瘍細胞が多い部位の使用は可能なかぎり避けた。マーキングを確認後,PD-L1(22C3),ALK(IHC),ALK(FISH),EGFR検査を行った。

火曜日に気管支鏡検査を行い病理部に検体提出を行った場合,木曜日にHE染色による診断報告,金曜,土曜に免疫染色による最終病理診断報告,最短で翌月曜,遅くとも水曜日にはPD-L1(22C3),ALK(IHC),ALK(FISH),EGFR検査の結果が報告された(Figure 3)。

Figure 3 Workflow and turnaround time of clinical examinations

EGFR, ALK (IHC), and PD-L1 (22C3) could be returned from the bronchoscopy within 8 days though only one run was performed per week. It turned out that the results could be returned significantly faster than to test in an outsourced facility.

病理部から提出時にマクロダイセクションは行わず,ゲノムセンターにて染色したHE染色標本をマーキングしたのちにゲノムセンターにてマクロダイセクションを行うことで,実際の検査面と近い面で精確にマクロダイセクションが可能になった。

PD-L1(22C3)では自動前処理システム ダコPT Link 200と自動染色装置 ダコAutostainer Link 48を使用して染色を行った。抗体はPD-L1 IHC 22C3 pharmDx「ダコ」を用いた。陽性・陰性コントロールとしてダコのコントロールスライドを使用した。(NCI-H226, MCF-7)ALK(IHC)はヒストファインALK iAEP®キットを用いて用手法で行った。陽性コントロールとしてNCI-H2228(human lung adenocarcinoma cell line),陰性コントロールとしてA549(human lung adenocarcinoma cell line)を一定期間培養後,セルブロック法を用いてFFPEとし,コントロール切片として用いた。ALK(FISH)は全自動染色システム ベンタナ ベンチマーク ULTRAを使用し,Vysis®ALK Break Apart FISH プローブキットを用いて染色を行った。EGFRはコバスZ480を使用し,コバスEGFR変異検出キットv2.0を用いて検出を行った。陽性コントロール,陰性コントロールともにキットに付属のものを使用した。判定は2人の病理専門医により全検体をダブルチェック体制で行った。

報告時は報告書を作成した者が別日に再度,依頼書,検査台帳,組織診診断,判定結果下書きと照らし合わし,全ての記載内容が同一であることを確認した。その後,同じ作業を別の要員にも行ってもらいダブルチェックとした。検査台紙を印刷し,検査台紙内容と報告書内容が同一であることを確認の上,電子カルテに報告を行った。

III  結果

ゲノムセンターは2年の稼働期間に517件の検体を受け付け,検査を行った(Table 1)。内製化期間と外注期間における検査提出患者の年齢,性別,組織型,検体種に大きな差異はみられなかった。平均して月に20件の検査量であった。充分量の悪性腫瘍が検出され,検査が実施できた割合は365件/517件(70.6%)であった。検査が実施できなかった理由として非腫瘍が125件,Small cell carcinomaが27件であった。検査種ごとの検査数はEGFRが81件(稼働期間7カ月),PD-L1(22C3)は350件(稼働期間2年),ALK(IHC)は278件,ALK(FISH)は237件であった。気管支鏡検査施行から,全検査結果を臨床に返却した日数の平均は11.8日(土日祝日を含む),EGFRに限っては7.73日(土日祝日を含む)であった。

Table 1  Comparison of clinical characteristics and results between in-house and outsourcing
in-house
(2017.6.13–2019.6.24)
*EGFR: 2017.6.13–2018.2.15
outsourcing
(2019.6.25–2020.5.31)
Age 71 (35–92) 72 (44–90)
Sex Male 346 156
Female 171 93
Histology Total 517 249
Adenocarcinoma 263 188
Squamous cell carcinoma 91 55
Adenosquamous cell carcinoma 1 2
Large cell carcinoma 1 1
NOS 9 3
Small cell carcinoma 27
No malignancy 125
Sample Total 365 249
TBB 183 124
TBNA 41 31
CTGNB 24 13
pleura biopsy 3 2
cell block 6 4
sargical resection 108 75
EGFR total 81 177
negative 63 (77.8%) 101 (57.1%)
positive 18 (22.2%) 76 (42.9%)
TAT 4.73 6.31
ALK-IHC total 278 147
negative 262 (94.2%) 144 (98.0%)
1+ 5 (1.80%) 0
2+ 6 (2.16%) 0
3+ 5 (1.80%) 3 (2.0%)
TAT 7.46 8.65
ALK-FISH total 237 8
negative 184 (77.6%) 8 (100%)
positive 9 (3.80%) 0
invalid 44 (18.6%) 0
TAT 8.82 14.9
PD-L1 (22C3) total 350 161
TPS = 0% 160 (45.7%) 52 (32.3%)
1% ≤ TPS < 49% 88 (25.1%) 38 (23.6%)
50% ≤ TPS 97 (27.7%) 71 (44.1%)
invalid 5 (1.42%) 0
TAT 7.50 8.66

PD-L1(22C3)検査の陽性率(tumor proportion score; TPS)が0%だったのは160例(45.7%),低発現(1% ≤ TPS < 49%)は,88例(25.1%),高発現(TPS ≥ 50%)は97例(27.7%),判定不能が5例であった。判定不能となった理由としては5例とも判定対象細胞数の過少(70個,50個,72個,64個,47個)であり,参考値での結果返却となった。

ALK(IHC)検査の陽性率は16/278 = 5.8%であった。ニチレイ ヒストファインALK iAEPキットにおけるALK融合タンパクのスコアリングおよび判定方法に基づいたスコア3は5例でみられ,それらはALK(FISH)でも陽性が確認された(一致率100%)。境界域であるスコア1とスコア2は11例あり,2例のみがALK(FISH)でも陽性が確認された。2例が判定不能,7例は陰性であった。

ALK(FISH)検査の陽性率は9/237 = 3.8%であった。判定不能と診断された検体が44例(18.6%)であった。判定不能となった理由は腫瘍細胞数過少や検体不良であった。

EGFR検査で何らかの変異が検出された割合は18例(22.0%)であった。多く検出された変異はL858R(9例),次いでExon19Deletion(8例),T790M(2例),L861Q(1例)であった。内訳はAdenocarcinomaが14例,Squamous cell carcinomaが2例,NOSが2例であった。T790M変異が検出された2例はExon19Deletion変異も同時に検出された。

血漿を用いたEGFR検査は1件のみ行われたが,変異は検出されなかった。しかし後日,同患者において FFPEを用いて検査を行ったところ,L858R変異が検出された。

IV  考察

1. TAT(turnaround time)

PD-L1(22C3)は病理診断から7.50日(土日祝を含む),ALK(IHC)は7.46日(土日祝を含む),EGFR検査は4.73日(土日祝を含む)で返却できた。これは外注検査のPD-L1(22C3)8.66日(土日祝を含む),ALK(IHC)8.65日(土日祝を含む),EGFR検査は6.31日(土日祝を含む)と比較し,優位に早いものであった(Table 1)。気管支鏡検査のタイミング上,どうしても土日を挟むフローとなった(Figure 3)。フローを見直すことで更なるTATの短縮が見込まれる。ALK(FISH)の結果返却が遅れる傾向にあったため(TAT:8.82日),PD-L1(22C3),ALK(IHC),EGFRのみを先に結果返却するように運用変更をしており,患者への影響は少なかったと考えられる。外注検査でのALK(FISH)は,提出件数が少なく比較が難しいが,検査日数14.9日とゲノムセンターでの検査は優位にTATが短いものであった。ゲノムセンターキックオフ時の臨床との話し合いの際,検査効率の面から1週間に1サイクルのみ,検査を行うことに決定したが,それでも外注検査に提出するのに比較すると,十分に早いTATが得られた。これは臨床が病理診断結果を確認してから,遺伝子検査をオーダーする外注の流れとは異なり,診断結果報告から臨床医が診断を確認するまで(診断報告ラグ),オーダーされてから再薄切,外注提出(検査開始ラグ),外注検査の移送(外注検査ラグ)をなくしたことが要因と考えられる。TATの改善は,内製化による最大のメリットと考える。

2. 陽性率

ALK融合遺伝子は肺原発の腺癌に約3~5%に認められる3)と報告されており,今回のALK(IHC),ALK(FISH)の結果は大きく乖離していないと考えられる。外注検査期間と比較すると,ALK(IHC)の陽性率に大きな差異は認められなかった。ALK(FISH)において判定不能が44例(18.6%)発生したが,理由として最も多かったのは,観察腫瘍細胞数が規定の個数に満たないことであった。材料は生検検体が中心であり,臨床との取り決めにより,薄切の順番もALK(FISH)用スライドは,最後に行っていたことが原因として考えられる。ALK(FISH)検査では最低でも50個の腫瘍細胞が必要である4)。外注検査期間ではALK(FISH)の提出数が少なく,詳細な陽性率の比較は困難であった。

PD-L1(22C3)はKEYNOTE-010試験において,TPS ≥ 50%を示したのは,633/2,222人(28%)であり,今回のゲノムセンターでの結果は,概ね一致していた8)。外注検査期間と比較すると,低発現(1% ≤ TPS < 49%)の陽性率に大きな差はみられなかったが,非発現(TPS = 0%)と高発現(TPS ≥ 50%)の割合に差異がみられた。高発現(TPS ≥ 50%)が44.1%というのは,過去実施されたKEYNOTE試験のいずれよりも高い結果であった8)~10)

EGFR変異は2007年に東洋人,女性,非喫煙者,腺癌に多くみられることが報告されている11)。2015年には大規模調査(muMAP II: a grobal EGFR mtMAP)の結果,日本人の腺癌におけるEGFR変異頻度は45%(21–68%)と報告されている12)。今回,ゲノムセンターでは腺癌での陽性率は24.6%(14/57)であった。外注検査では42.9%と,陽性率に大きな差異がみられた。提出した検体の性差,組織型には大きな差異がみられず,原因は不明である。

血漿を用いたEGFR検査では検出されなかったL858R変異がFFPE検体から検出されたことに関して,血漿中のcell free DNAには半減期が存在すること13),血漿の分取方法によって偽陰性が起こり得ること,血漿におけるEGFR検査は腫瘍細胞に変異が存在していてもcell free DNAが検出感度未満であれば偽陰性になること,L856R変異において血漿検体とFFPE検体を用いたリアルタイムPCR法では陽性一致率が高くないことが原因として考えられる14)

3. 検体ロス

ゲノムセンターにて検査を行った検体については,免疫染色や外注検査のために都度,面合わせから薄切する必要がないため,検体のロスが格段に少なかった。これは治験や将来の遺伝子プロファイリング検査のために非常に大きなメリットであると考える。しかしながら,病理診断前に薄切を行うため,非腫瘍などの理由で検査を行わないことが152件/517件(29.4%)発生した。リンパ節など複数検体でオーダーしたものでも,病理医が適していると判断した1検体のみで検査を行ったため,検査を行わない薄切済み標本が発生した。このロスは病理診断後に薄切する外注検査では発生せず,迅速性を追求したことによるデメリットであると考える。改善方法としては,気管支鏡検査時にROSE(rapid on-site cytologic evaluation)を導入することで,検体内の腫瘍陽性率を高めることや,悪性中皮腫など多数の免疫染色が必要となる際に,検査に使用しなかったスライドを病理部に返却することなどが考えられた。

4. 収支

ゲノムセンターでは2017年8月1日から2018年4月30日までの集計の結果,約550万の利益をあげていた(Table 2)。詳細は契約上,提示しないが外注検査と比較しても優位に利益を得ることができていた。ゲノムセンター内は2人の検査要員のみで行った。専属ではなかったため別業務で忙しく,病理部や臨床からの連絡を取りづらい点もあった。ダブルチェック,検査管理の面からも2人という検査要員は最小単位であり,人件費の面からも高効率な業務であったが,休暇や業務管理の点から最低,もう1人はいた方がいいと考えられた。電子カルテのオーダリングシステムを導入することはゲノムセンターが病院内の施設ではなかったため,導入コストの面で叶わなかった。複写式の専用依頼書は導入コストが安く,本事例のように運用次第で充分対応可能と感じた。収支の面では内製化にはメリットがあると考えられる。

Table 2  Result of income and expenditure of each test
4検査の収支比較 EGFR PD-L1(22C3) ALK-IHC ALK-FISH 合計
2,500点 2,700点 2,700点 6,520点
収益(件数 ×(点数 × 10円)) ¥1,925,000 ¥3,591,000 ¥2,754,000 ¥6,650,400 ¥14,920,400
経費(人件費を除く) ¥2,411,142 ¥4,135,838 ¥2,872,400 ¥9,419,380
差額(収益-経費) −¥486,142 ¥2,209,162 ¥3,778,000 ¥5,501,020

注1:2017年8月1日から2018年4月30日までの合算

注2:月別件数は報告書提出日を基準に合算。

5. 精度管理

内部精度管理としてEGFRではアッセイごとに,PD-L1,ALK-IHC,ALK-FISHでは検体ごとに上述の陽性コントロールと陰性コントロールを使用し,精度管理を行った。外部精度管理として日本病理精度保証機構が主催した外部精度評価サーベイに参加した。外注と異なり自施設で検査を行う際は内部精度管理として陽性,陰性コントロールの確保,外部精度管理への定期的な参加を行う努力義務がある15)。標準作業書,作業日誌,各種台帳の作成やこれらの精度管理の維持・管理は業務負担となり,自施設で検査を行うデメリットであると考えられる。

2019年5月に近畿大学病院組織内にゲノム医療センターが新設された。院内での保険診療におけるゲノム検査を集約し,次世代シーケンサーを用いた自施設でのOncomine DX Target Testの測定を2020年6月より行っている。またがんゲノム医療拠点病院の事務局としての役割,保険収載されたNCCオンコパネルとファンデーションワン検査の検査提出管理,C-CATへの情報入力管理も行っている。病院組織内に作られたことで,ゲノムセンターではできなかったいくつかのことが可能になり,病院業務としてスムーズに遂行できると考えられる。ゲノム医療センターの取り組みも後日また報告する。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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