Japanese Journal of Medical Technology
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Materials
Practicing nontechnical skills workshop for medical technologists
Keiko INOMTAYouko FUKUYOSHIHitoshi NISHIMURAShinji TANAKAKaoru TAMURA
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2021 Volume 70 Issue 3 Pages 511-517

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Abstract

第54回日臨技九州支部医学検査学会にて,臨床検査技師を対象に,ノンテクニカルスキルを育成することを目的としたワークショップを行った。ワークショップの参加者は,九州各県から学会に参加した20歳代から50歳代の臨床検査技師95名と,医学検査学を学ぶ大学3,4年生25名の合計120名であった。ワークショップは,ノンテクニカルスキルを学び体験する第1部と,メンバーシップを学び体験する第2部の2部構成で行った。問題を解決する研修ゲームを使用したグループワークでは,リーダーシップの発揮やメンバー間の活発な情報交流により,参加グループの8割が問題解決に成功した。また,一部のグループでは,メンバー間でリーダーとフォロワーの役割交換を柔軟に行いながら,自律的な話し合いにより問題を解決に導いていた。講義とワークを組み合わせたワークショップ形式の講習は,ノンテクニカルスキルの育成手段として有効であり,対象者や目的に応じて設定内容を工夫し継続的に取り組むことにより,ノンテクニカルスキルの涵養が期待できるものと考える。

Translated Abstract

A workshop-style seminar was held during the conference of the 54th Kyushu branch of the Japanese Association of Medical Technologists (JAMT) with the aim of acquiring the nontechnical skills necessary for medical technologists to play an active role in a medical team. Ninety-five clinical laboratory technologists in their 20s to 50s who attended the conference from all over Kyushu and 25 third- and fourth-year college students studying medical laboratory science participated in the workshop. The workshop consisted of two parts: the first part for learning and experiencing “nontechnical skills” and the second part for learning and experiencing “membership”. In the second part of the workshop, a “problem-solving exercise” using a training game was conducted in the group work, and 80% of the groups succeeded in solving problems by demonstrating leadership and actively exchanging information among members. In addition, some groups solved problems through autonomous discussions while flexibly exchanging roles between leaders and followers. Workshops that combine lectures and hands-on experience are expected to be effective in developing the nontechnical skills required of medical technologists.

I  はじめに

今日,医療技術が高度化,複雑化したことに加え,患者の病気に対する意識の高まりにより求められる医療の質が高くなっている。この状況に対応するために,多職種医療スタッフが協働する医療チームでの取り組みが求められている。チーム医療においては,各医療スタッフが,どのようにチームに貢献できるかを主体的かつ積極的に考え,課題を発見して改善する行動が必要である1)。臨床検査技師は,専門知識や技能(テクニカルスキル)を養成課程や職場教育で学び習得するが,チーム医療に参画し活躍するために重要な専門技術以外の能力(ノンテクニカルスキル)については学ぶ機会も少なく,その育成は難しい。

ノンテクニカルスキルは,「テクニカルスキルを補完する認知的,社会的,個人的なリソースのスキルであり,安全で効率的に作業を行うために貢献するもの」と定義されており2),医療の分野ではチーム医療における安全性や質を確保するために,テクニカルスキルと共に必要なスキルであると認知されている3)~5)。また,「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」,いわゆる「社会人基礎力」でもあり6),チーム医療に参画する臨床検査技師においても,ノンテクニカルスキルの育成は重要である。

日本臨床衛生検査技師会(日臨技)では,「検査説明・相談ができる臨床検査技師育成事業(検査説明・相談ができる技師育成)」を企画し,各都道府県臨床検査技師会で講習会を開催してきた7)。我々は,2015年から2019年の5年間,熊本県臨床検査技師会企画の「検査説明・相談ができる技師育成」および「多職種連携のための能力開発」講習会において,患者と患者家族や,他職種医療スタッフとのコミュニケーションに必要なスキル,特に話の聴き方と伝え方についてワークショップ形式のノンテクニカルスキル講習を実施してきた。その経験を踏まえ,2019年に開催された日臨技九州支部医学検査学会(第54回大会;熊本県臨床検査技師会担当)の学会企画において,次世代リーダー候補である若手技師を対象に,他者とのコミュニケーションと,メンバーシップを発揮するために必要なノンテクニカルスキルについて学び,体験するワークショップを企画した。本稿では,ワークショップの実施内容と,参加者アンケート調査の解析結果を報告する。

II  対象と方法

1. 対象

ワークショップの参加者は,九州各県の臨床検査技師(いずれも日臨技会員)95名と,熊本保健科学大学で医学検査学を学ぶ3,4年生25名の合計120名であった。その内訳は,20歳代:37名,30歳代:40名,40歳代:17名,50歳代:1名および,学生:25名であった。

2. ワークショップの実施方法

ワークショップは2部構成とし,第1部では「医療技術者に必要なノンテクニカルスキル」の講義の後,2人1組の対人ワークを2回実施した。第1部の主要な目的は,ノンテクニカルスキルを理解し,伝達の工夫について学び体験することである。ノンテクニカルスキルトレーニング①で,参加者は情報を伝える「発信者」と,情報を聴いて解答する「受信者」となり,「発信者」は設定されたルールの範疇(会話禁止・NGワードの使用禁止)で情報を伝達する一方向のコミュニケーションを体験した。情報伝達の工夫についての講義後に,ノンテクニカルスキルトレーニング②を実施し,言葉や表現の工夫に加えて,双方向コミュニケーションによる情報伝達の有効性と,曖昧な表現を具体的な表現に変換することの重要性を体験した(Table 1, L-①~L-③)。第1部の実施時間は1時間20分であった。

Table 1  Contents and aims of the workshop
第1部;ノンテクニカルスキルを学び体験する
種別 実施内容 企画のねらい(参加者に期待する事項)
L-① A.[講義]ノンテクニカルスキル
医療技術者に必要なノンテクニカルスキルを学ぶ
・医療技術者に必要なスキルを理解する。
・職場内の立場によるスキルバランスの違いを理解する。
・ノンテクニカルスキルを学ぶ。
PW-① B.ノンテクニカルスキルトレーニング①
言語のみを使った一方向の伝達ワークを体験する
・[発信者]相手にわかりやすい言葉や表現を考え言語のみで伝える。
・[受信者]伝えられた言葉から,迅速に多様な連想をする。
・[両者]言葉の解釈の違いを実感する。
L-② C.[講義]伝え方の工夫①
伝え方の工夫とスキルを学ぶ
・情報伝達の質が向上するスキルを理解する。
PW-② B.ノンテクニカルスキルトレーニング②
伝達スキルを伝った双方向の伝達ワークを体験する
・[発信者]相手にわかりやすい言葉や表現を考え,伝える。
・[受信者]情報解釈のすれ違いを防ぐ「伝達ループ」を活用する。
L-③ C.[講義]伝え方の工夫②
言語以外のコミュニケーションスキルの重要性を学ぶ
・非言語的コミュニケーションを学ぶ。
・日常のコミュニケーションにおける曖昧な表現や思い込みによる解釈のずれに気づき,修正するスキルを学ぶ。
第2部;メンバーシップを学び体験する
種別 実施内容 企画のねらい(参加者に期待する事項)
GW-① アイスブレーク
チームメンバーに自己紹介をする
・印象に残るエピソードを加えて,有効な自己呈示をする。
L-④ D.[講義]リーダーシップとフォロワーシップ
リーダーシップとフォロワーシップを学ぶ
・リーダーシップとフォロワーシップを理解する。
・リーダーを支えるフォロワーの重要性を理解する。
・メンバーシップについて考える。
GW-② E.問題解決ワーク
メンバーシップを意識して問題解決に取り組む
・リーダーシップ,フォロワーシップを体験する。
・チームに貢献するために必要な態度・行動を考える。
・問題解決のために有用な情報を選択し,伝える。
・メンバーシップを考えて行動する。
GW-③ F.振り返り
各グループで問題解決ワークの振り返りを行い全体で共有する
・問題解決に導けた要因を振り返る。
・討論で上手くいかなかった点を挙げ,その要因を振り返る。
・グループワーク体験で日常業務に活かせることを考え,他者と共有する。
総括 ワークショップのまとめ ・ワークショップで学んだ内容を振り返る。
・ワークショップ体験の活用を考える。

L:講義,PW:対人ワーク(pair work),GW:グループワーク(group work)

第2部では参加者を6人1グループ(全20グループ)に編成し,「問題解決ワーク」を実施した。第2部の主要な目的は,メンバーシップを理解し,メンバーシップの発揮と意思決定を体験することである。「問題解決ワーク」では,各自に配付されたメモに記載している情報をクループの他のメンバーと交流させ,全員で協力しながら問題の解答を導き出していく。各自の持つ情報はそれぞれ異なるため,他のメンバーから提供された情報を吟味しながら,自分の持っている情報の中から有効な情報のみを選択して発信する必要がある。また,リーダー役のメンバーは,各メンバーから提供される情報を整理しながら,グループの話し合いを調整する役割を果たすことが求められる。実施後には,グループ毎に情報交流の振り返りを行い,その後,代表グループが振り返りの内容について発表を行った。振り返りでは,職場で活かせると考えた事柄についても発言し,参加者全員で共有した(Table 1, L-④~GW-③)。第2部の実施時間は1時間10分であった。

III  ワークショップ参加者アンケートの解析

1. 参加者アンケートの回収率

ワークショップ参加者120名にアンケート調査を依頼し,69名から回答を得た(回収率:57.5%)。回答者の内訳は,20歳代:45.9%(17/37),30歳代:47.5%(19/40),40・50歳代:66.7%(12/18)および,学生:84%(21/25)であった。また,20グループのリーダー全員からは,問題解決ワークの成否と,振り返りでグループメンバーが発言した問題解決の成否要因の回答を得た。

2. ワークショップの内容と日常業務に役立つノンテクニカルスキル

ワークショップ実施内容の6項目(Table 1, A~F)について,参加者が日常の業務に役立つと思った割合を年代別に示した(Figure 1)。アンケート調査の結果,20歳代から50歳代の7割以上(70.6~91.7%)が,C.[講義]伝え方の工夫と,D.[講義]メンバーシップの内容が業務に役立つと回答しており,特に40・50歳代でその有用性が高く評価された(91.7%)。また,学生を含む各年代の6割以上(64.7~83.3%)が,E.問題解決ワークでの体験が業務に役立つ内容であったと回答し,30歳代から50歳代の参加者は,ワーク後のF.振り返りの有用性を評価した(63.2~83.3%)。

Figure 1 Useful contents of the workshop for daily work [percentage of each age group]

Percentage of the training contents conducted at the workshop that participants found useful in their daily work.

一方,20歳代の参加者の64.7%がE.問題解決ワークの体験が業務の役に立つと回答したが,ワーク後のF.振り返りを有用と評価する割合は低かった(35.3%)。

3. 問題解決ワークの成否と振り返り

問題解決ワークでは,20グループのうち7グループ(35%)が問題解決に成功(正解)し,9グループ(45%)がほぼ正解に近い解答を得た(ほぼ正解)と回答した(Figure 2)。グループワーク後の振り返りでは,正解あるいはほぼ正解した16グループが,問題解決の成功要因と自グループの討論で評価できる点として,「活発な情報交換ができた,積極的に参加した」(9/16, 56.2%),「情報の伝え方を工夫した」(7/16, 43.8%),「リーダーシップが発揮できた」(6/16, 37.5%)ことを挙げた(各グループより複数回答あり,Figure 3A)。

Figure 2 Percentage of groups in which the problem-solving work succeeded or failed

The degree and the percentage of success or failure of the problem-solving work answered by the leader of each group are shown.

Figure 3 Causes of success or failure of the problem-solving work selected by participants

A: Causes of success of the problem-solving work and evaluation of the discussion in each group. B: Causes of failure of the problem-solving work and reflections of the discussion in each group.

一方,問題解決に失敗,あるいは一部失敗した(不正解,ほぼ不正解,ほぼ正解)グループでは,問題未解決の要因と討論の反省点として,6グループが「情報の選別(有効か無効かの判別)がうまくできなかった」と回答した(各グループより複数回答あり,Figure 3B)。

IV  考察

医療技術者に必要なテクニカルキルとノンテクニカルスキルは,それぞれが相補的に機能することにより,場面に適したスキルを選択して発揮することができる。Flinら2)により提唱されたノンテクニカルスキルのカテゴリーを,日常業務で活用しているスキルに置き換えると,状況認識などの「考える力」,コミュニケーション力などの「伝える力」,意思決定する「決める力」,チームワークやリーダーシップなどの「動かす力」で表現でき,仕事の効率化,組織や仕組みの変革,さらに医療安全に活用できる。職場においては,それぞれの立場によって必要とされるスキルバランスは異なり,リーダーや管理職者では「決める力」や「動かす力」の必要性が高まる8),9)。一方,「考える力」や「伝える力」は経験年数や立場に関係なく必要となる。

今回のワークショップでは,第2部のグループワークで行う討論の準備として,第1部で伝え方の工夫を実感するノンテクニカルスキルトレーニングに取り組んだ。参加者アンケートでは,各年代の7割以上が,伝え方の工夫に関する講義が日常業務に役立つ内容だったと回答していた。その理由として,日常業務や職場において他職種スタッフと関わる際に使えるスキルであることや,他者と誤解なくやり取りするために役立つスキルだと思ったことなどを挙げており,職場における他者とのコミュニケーションにおいて,日頃から情報伝達の問題を認識していることが覗えた。また,参加者はワークショップ形式の講習について,学んだことをすぐに実践することでスキルが理解しやすいと感じ,体験によってスキルの有効性を実感していた。グループワークで問題解決に成功した複数のグループが,情報の伝え方を工夫したことが問題解決の成功要因であると回答したことからも,学びと体験を組み合わせたことで,新しいスキルを意識しながらワークに取り組めたものと考える。

第2部の集団で体験する問題解決ワークでは,あえて日常業務と無関係のゲーム形式のワーク(研修ゲーム)を使用し,年齢や職業経験の差が影響しないようにした。研修ゲームは,日常業務の延長での話し合いだけでは得られない,深い気づきや学びを得ることを目的として活用される10)。参加者が能動的,主体的に学べる今回のようなワークショップでは,参加者同士の情報交流行動により,ノンテクニカルスキルを実感することが期待できる。問題解決ワークの振り返りで,正解,あるいはほぼ正解したグループのうち約6割のグループが,討論中に各メンバーが積極的に意見を出したことを問題解決できた要因として挙げており,リーダーシップが発揮されたことや,メンバー同士が発言しやすい雰囲気作りを意識したことによって,活発な情報交流ができたと回答していた。それに対して問題解決を失敗したグループでは,不正解の原因として問題解決に有効な情報と無効な情報の選別がうまくできなかったことを挙げており,メンバー間の意思確認や,曖昧な情報を問う行動が十分に行われなかったと回答していた。問題解決に至らなかったグループでは,各自の持つ情報を伝え合うことに集中したために,自グループの討論の進行状況にまで意識を向ける余裕がなかったものと推察する。

グループワークでは,各グループに進行役としてリーダーを配置したことで,多くのグループではリーダーとフォロワーの役割を意識して討論したと考える。今回の討論は,リーダーという進行役の支援を受けて行う支援型対話スタイルであった。支援型対話では,話し合いを円滑に進めるリーダーのような存在が,討論の進行状況を把握しながら結論にたどり着くための進行役を担う。円滑に話し合いを進めるためには対話をコントロールする進行役の存在が重要だが,その一方で,リーダー以外のメンバーが対話の進捗をリーダーに委ねて依存することで,当事者としての意識が薄れる不利益も指摘されている11)

支援型対話に対して,進行役に依存することなく参加者が主体的に話し合い,問題を解決する話し合いを自律型対話と呼ぶ。自律型対話による討論では,参加者が協働して問題解決に向けて行動するとともに,各メンバーが,自分たちの討論がうまく進行しているかを俯瞰的な視点で確認しながら話し合いを進めていくことが求められる。自律型対話ができる能力の育成は,現在,工業系大学などで進められており,第三者の支援なしに直接的コミュニケーションを行うことで,信頼関係を築きながら主体的に問題を解決していくプロセスを体験し,自律型対話能力の習得を目指している12),13)。今回のグループワークでは,多くのグループが,リーダーシップとフォロワーシップを意識してワークに取り組むことで問題解決を目指す中,少数ではあったが,一部のグループ(全20グループ中4グループ)でフォロワーがリーダーをサポートし,リーダーとフォロワーの役割を柔軟に交換しながら問題解決をしていた。このことは,リーダー役のメンバーだけでなく,各グループメンバーが,自らの情報を提供しながら討論の進行にも意識を向けた行動をしていたものと推測され,メンバーシップ(メンバー同士の役割)を柔軟に捉えることで,自律的な話し合いによる問題解決ができたと考える。

医師や看護師,理学療法士では,専門領域別のノンテクニカルスキルを育成するためのトレーニングプログラムの開発が積極的に行われている4),14)~16)。これまで臨床検査技師対象のものはなかったが,最近,杉浦ら17)により,臨床検査技師のためのノンテクニカルスキルを設定して継続的な取り組みを行ったことにより,検査室の医療安全の向上が確認されたとの報告があった。研修対象の年齢構成や業務背景を考慮し,目的とするスキルを見据えた内容設定を行った研修や,職場内での取り組みによってノンテクニカルスキルを育成することも,臨床検査技師が医療チームの一員として専門性を発揮するための手がかりになると考える。

V  結語

臨床検査技師が専門スキルを発揮する支えとなるノンテクニカルスキルを育成するために,講義とワークを組み合わせたワークショップ形式の講習は有効であり,ノンテクニカルスキルを習得し,適切な場面で発揮できるようになるためには,継続的な研修が必要であると考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本ワークショップを企画・開催いただいた第54回九州医学検査学会実行委員各位,アンケート調査にご協力いただいたワークショップ参加者のみなさま,ならびに九州各県臨床検査技師会役員各位に深謝いたします。

文献
 
© 2021 Japanese Association of Medical Technologists
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