2021 Volume 70 Issue 3 Pages 588-594
気流制限を有する慢性閉塞性肺疾患(COPD)にも関わらず,診断されずに見過ごされている多くの患者がいるとされる。本研究は潜在する気流制限を有する患者を見出す手術前呼吸機能検査の有用性を検討した。手術前呼吸機能検査を行った7~94歳の1,496名を対象とし,喫煙歴・既往歴・現病歴のデータを収集した。1秒率70%未満を気流制限ありと判定すると,全体の222名(14.8%),男性138名(18.1%),女性84名(11.4%)に認められた。気流制限と喫煙歴との関係では,男女ともに非喫煙者より喫煙者の方が気流制限の認められる割合が高かった。併存疾患について,全体では心疾患(p = 0.0013)と高血圧(p = 0.0207),男性では高血圧(p = 0.0449),女性では心疾患(p = 0.0019)と骨粗鬆症(p = 0.0040)に,気流制限と関係がみられ,気流制限のみならず,併存疾患との関係性にも注意が必要であった。一方,解析対象者からは除外したが,すでにCOPDと診断・治療が開始されていたのはわずか4名であった。手術前呼吸機能検査は潜在する気流制限を有するCOPD患者の早期発見・早期治療に繋がる可能性が示唆された。
Chronic obstructive pulmonary disease (COPD) is reported to be not detected in many patients with airflow limitation. Here, we examined the usefulness of preoperative spirometry in identifying patients with latent airflow limitation. The data of 1,496 patients aged 7 to 94 years who had undergone preoperative spirometry, including their history of smoking and past and present illnesses, were collected. When airflow limitation was defined as forced expiratory volume in 1 second/forced vital capacity < 70%, airflow limitation was observed in 222 (14.8%) of all the patients [138 (18.1%) men, and 84 (11.4%) women]. Regarding the relationship between airflow limitation and smoking, the number of patients with airflow limitation was larger among smokers than among nonsmokers, both in men and women. Regarding comorbidities, airflow limitation was observed to be related to heart disease (p = 0.0013) and hypertension (p = 0.0207) in all patients, hypertension (p = 0.0449) in men, and heart disease (p = 0.0019) and osteoporosis (p = 0.0040) in women. Therefore, attention should be paid to not only airflow limitation per se, but also its relationship with comorbidities. Among patients with air flow limitation, those who were diagnosed as having COPD and started receiving treatment for it were only four. Preoperative spirometry may lead to early detection and treatment of COPD patients with latent airflow limitation.
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)は「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することなどにより生ずる肺疾患であり,呼吸機能検査では気流閉塞を示す。気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変が様々な割合で複合的に関与し起こる。臨床的には徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性の咳,痰を示すが,これらの症状に乏しいこともある」と定義されている1)。世界保健機関によると,2015年のCOPDの世界死亡順位は第4位であるが,今後は第3位になると予想されている2)。厚生労働省の2015年度の人口動態統計概況によると,COPDは死亡原因の第10位(男性は第8位,女性は20位)になっている1)。2001年に発表された大規模疫学調査研究NICE study(Nippon COPD Epidemiology Study)3)によると,40歳以上の人口の8.6%,約530万人の患者が存在すると推定されている。
そこで本研究では,整形外科もしくは外科で,手術前検査の呼吸機能検査の結果とアンケートから,男女別の気流制限の割合と年齢別の気流制限の割合,気流制限と喫煙歴との割合,気流制限と併存疾患との間に関係があるか,気流制限が認められた対象者でCOPDと診断・治療を受けている割合について検討を行った。
2017年7月から2020年4月の間に当院の整形外科もしくは外科で,手術前呼吸機能検査を行った7歳から94歳までの連続症例を対象とした。患者本人,未成年者には保護者に本研究の趣旨や倫理的配慮について書面と口頭により説明し,書面にて同意を得られた患者に呼吸機能検査とアンケートを実施した。アンケートは喫煙歴,既往歴ならびに現病歴のデータを収集した。
呼吸機能検査はCHESTAC-8900(チェスト社製,東京)を用い,日本呼吸器学会ガイドライン4)に準じて測定した。被検者にノーズクリップを装着し,安静呼気位から最大吸気位まで吸気させたのち,最大限の力で一気に努力呼気をさせて最大呼気位まで呼出させる操作を複数回施行し,最良値をその患者の結果とした。評価項目は努力肺活量(forced vital capacity; FVC),1秒量(forced expiratory volume in one second; FEV1),1秒率(FEV1/FVC),対予測値FVC(予測FVCに対する実測FVCの比率:%FVC),対予測値FEV1(予測FEV1に対する実測FEV1の比率:%FEV1)とした。FVC(mL)の標準回帰式5)は,石田らの式(12歳以下)5)「男性:34.0 × 身長(cm)- 2,487,女性:34.3 × 身長(cm)- 2,609」,金上らの式(13歳)5)「男性:(1.40 × 年齢 - 1.20)× 身長(cm),女性:(1.70 × 年齢 - 6.70)× 身長(cm)」,金上らの式(14~17歳)5)「男性:(0.48 × 年齢 + 17.18)× 身長(cm),女性:(年齢 + 3.10)× 身長(cm)」,日本呼吸器学会2001年の式(18歳以上)6)「男性:0.042 × 身長(cm)- 0.024 × 年齢 - 1.785,女性:0.031 × 身長(cm)- 0.019 × 年齢 - 1.105」より求めた。FEV1(mL)の標準回帰式は,Berglundらの式(17歳以下)5)「男性:344 × 身長(m)- 0.033 × 年齢 - 1.00,女性:267 × 身長(m)- 0.027 × 年齢 - 0.54」,日本呼吸器学会2001年の式(18歳以上)6)「男性:0.036 × 身長(cm)- 0.028 × 年齢 - 1.178,女性:0.022 × 身長(cm)- 0.022 × 年齢 - 0.005」より求めた。今回の呼吸機能検査は手術前検査のため,気管支拡張薬投与後の値ではないが,気流制限はFEV1/FVCにより判定し,70%未満を気流制限あり3)と判定した。気流制限ありと判定された対象者を,GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)1)の病期分類に基づき判定した。病期分類には%FEV1が用いられており,I期(%FEV1 ≥ 80%),II期(50% ≤ %FEV1 < 80%),III期(30% ≤ %FEV1 < 50%),IV期(%FEV1 < 30%)とした。喫煙に関しては,未成年者喫煙禁止法より10歳未満2名,10~19歳29名の計31名を除外した1,465名を対象とし,現在喫煙をしている者を「Current」,過去の喫煙歴がある者を「Former」,一度も喫煙の経験がない者を「Never」に分類した。
統計学的な有意差検定はStat Mate Ver. IVを使用し,有意水準5%を統計学的に有意とした。本文中の記述統計量は原則として平均値 ± 標準偏差の表記法に従った。群間差の検定にはMann-WhitneyのU検定,気流制限と喫煙歴との関係,気流制限と併存疾患との関係の検定にはカイ二乗検定を用いて比較した。
本研究は藤田医科大学医学研究倫理審査委員会の承認(HM19-422)を得て実施した。
全対象者1,713名(男性862名,女性851名)のうち,すでに気管支喘息の診断・治療歴がある150名と,COPDの診断・治療歴がある4名は対象外とした。残りの1,559名のうち,呼吸機能検査ができなかった23名,アンケートを拒否した40名を除外した1,496名(96.0%)(男性762名,女性734名)を解析対象とした。
患者背景をTable 1に示した。平均年齢は全体で63.9 ± 16.7歳,男性60.8 ± 17.1歳,女性67.0 ± 15.8歳であり,女性の方が男性より有意に高値であった。
Total n = 1,496 |
Men n = 762 |
Women n = 734 |
p-value(Men vs Women) | |
---|---|---|---|---|
Age(years) | 63.9 ± 16.7 | 60.8 ± 17.1 | 67.0 ± 15.8 | < 0.0001 |
Height(cm) | 160.2 ± 9.7 | 167.1 ± 6.8 | 153.1 ± 6.6 | < 0.0001 |
Weight(kg) | 60.1 ± 12.9 | 65.8 ± 12.2 | 54.2 ± 10.8 | < 0.0001 |
BMI(kg/m2) | 23.3 ± 4.0 | 23.5 ± 3.7 | 23.1 ± 4.3 | 0.0085 |
FVC(mL) | 3,090 ± 970 | 3,730 ± 830 | 2,430 ± 600 | < 0.0001 |
%FVC(%) | 101.0 ± 16.2 | 99.1 ± 15.4 | 103.0 ± 16.8 | < 0.0001 |
FEV1(mL) | 2,400 ± 820 | 2,860 ± 780 | 1,910 ± 520 | < 0.0001 |
%FEV1(%) | 96.4 ± 18.0 | 91.3 ± 16.7 | 101.7 ± 17.7 | < 0.0001 |
FEV1/FVC(%) | 77.4 ± 7.9 | 76.6 ± 8.7 | 78.2 ± 7.0 | 0.0006 |
Mean ± SD. BMI; body mass index. FVC; forced vital capacity. FEV1; forced expiratory volume in one second.
気流制限を有する割合は全体では222名(14.8%),男性は138名(18.1%),女性は84名(11.4%)であった(Figure 1)。これらをGOLDの分類に準じて判定すると,I期:117名(52.7%),II期:95名(42.8%),III期:10名(4.5%)でIV期はみられなかった。解析対象者を男性(気流制限あり,気流制限なし),女性(気流制限あり,気流制限なし)で比較すると,男性,女性ともに気流制限ありでは年齢が高く,BMIは有意に低い結果であった(Table 2)。気流制限の割合を年代別で比較すると,全体では30歳代までは0名(0.0%),40歳代は7名(4.7%),50歳代は22名(9.9%),60歳代は50名(15.1%),70歳代は83名(20.1%),80歳以上は60名(24.3%)であり,また,男女ともに年齢が高くなるほど気流制限を有する割合は高くなった(Figure 2)。
全体,男性,女性において,気流制限ありと,気流制限なしの割合を検証した。
Men | Women | |||||
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気流制限あり n = 138 |
気流制限なし n = 624 |
p-value | 気流制限あり n = 84 |
気流制限なし n = 650 |
p-value | |
Age(years) | 71.1 ± 10.1 | 58.5 ± 17.5 | < 0.0001 | 74.2 ± 10.1 | 66.1 ± 16.2 | < 0.0001 |
Height(cm) | 165.5 ± 6.7 | 167.4 ± 6.8 | 0.0005 | 152.8 ± 6.7 | 153.2 ± 6.6 | 0.5528 |
Weight(kg) | 62.0 ± 10.3 | 66.6 ± 12.4 | < 0.0001 | 50.6 ± 9.2 | 54.7 ± 10.9 | 0.0007 |
BMI(kg/m2) | 22.6 ± 3.2 | 23.7 ± 3.8 | 0.0014 | 21.6 ± 3.4 | 23.3 ± 4.4 | 0.0004 |
FVC(mL) | 3,430 ± 800 | 3,790 ± 830 | < 0.0001 | 2,260 ± 600 | 2,460 ± 600 | 0.0123 |
%FVC(%) | 94.2 ± 14.3 | 100.2 ± 15.4 | < 0.0001 | 101.3 ± 19.7 | 103.2 ± 16.4 | 0.6982 |
FEV1(mL) | 2,180 ± 590 | 3,010 ± 730 | < 0.0001 | 1,480 ± 410 | 1,970 ± 510 | < 0.0001 |
%FEV1(%) | 81.7 ± 19.2 | 93.5 ± 15.3 | < 0.0001 | 85.4 ± 17.5 | 103.8 ± 16.6 | < 0.0001 |
FEV1/FVC(%) | 63.1 ± 6.5 | 79.6 ± 5.8 | < 0.0001 | 65.2 ± 4.3 | 79.9 ± 5.3 | < 0.0001 |
Mean ± SD. BMI; body mass index. FVC; forced vital capacity. FEV1; forced expiratory volume in one second.
全体,男性,女性において,気流制限ありと,気流制限なしの割合を各年代別で検証した。
気流制限と喫煙歴との間で比較をすると,全体ではNever 650名中64名(9.8%),Former 499名中88名(17.6%),Current 316名中70名(22.2%)に気流制限が認められた。男性では,NeverよりCurrent,Formerともに,女性では,NeverよりCurrentに気流制限の認められる割合が2倍以上高かった(Table 3)。さらに,男性,女性ともに気流制限と喫煙歴との関係に,有意な関係がみられた。
Total | Men | Women | ||||||||
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気流制限ありn = 222 | 気流制限なしn = 1,243 | p-value | 気流制限ありn = 138 | 気流制限なしn = 605 | p-value | 気流制限ありn = 84 | 気流制限なしn = 638 | p-value | ||
Smoking status | Current | 70(22.2%) | 246(77.8%) | < 0.0001 | 52(22.3%) | 181(77.7%) | 0.0048 | 18(21.7%) | 65(78.3%) | 0.0089 |
Former | 88(17.6%) | 411(82.4%) | 73(19.8%) | 296(80.2%) | 15(11.5%) | 115(88.5%) | ||||
Never | 64(9.8%) | 586(90.2%) | 13(9.2%) | 128(90.8%) | 51(10.0%) | 458(90.0%) |
気流制限と併存疾患との間に関係があるかどうか検討した。全体では心疾患(p = 0.0013)と高血圧(p = 0.0207),男性では高血圧(p = 0.0449),女性では心疾患(p = 0.0019)と骨粗鬆症(p = 0.0040)が気流制限と関係がみられた(Table 4)。
Total | Men | Women | ||||||||
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気流制限ありn = 222 | 気流制限なしn = 1,274 | p-value | 気流制限ありn = 138 | 気流制限なしn = 624 | p-value | 気流制限ありn = 84 | 気流制限なしn = 650 | p-value | ||
Heart disease | あり | 40(23.0%) | 134(77.0%) | 0.0013 | 23(23.7%) | 74(76.3%) | 0.1252 | 17(22.1%) | 60(77.9%) | 0.0019 |
なし | 182(13.8%) | 1,140(86.2%) | 115(17.3%) | 550(82.7%) | 67(10.2%) | 590(89.8%) | ||||
Hypertension | あり | 106(17.4%) | 503(82.6%) | 0.0207 | 64(21.9%) | 232(78.1%) | 0.0449 | 42(13.4%) | 271(86.6%) | 0.1474 |
なし | 116(13.1%) | 771(86.9%) | 74(15.9%) | 392(84.1%) | 42(10.0%) | 379(90.0%) | ||||
Diabetes | あり | 38(16.4%) | 194(83.6%) | 0.4729 | 28(21.9%) | 100(78.1%) | 0.2253 | 10(9.6%) | 94(90.4%) | 0.5272 |
なし | 184(14.6%) | 1,080(85.4%) | 110(17.4%) | 524(82.6%) | 74(11.7%) | 556(88.3%) | ||||
Hyperlipemia | あり | 52(14.6%) | 303(85.4%) | 0.9074 | 23(15.9%) | 122(84.1%) | 0.4347 | 29(13.8%) | 181(86.2%) | 0.2025 |
なし | 170(14.9%) | 971(85.1%) | 115(18.6%) | 502(81.4%) | 55(10.5%) | 469(89.5%) | ||||
Osteoporosis | あり | 36(18.2%) | 162(81.8%) | 0.1555 | 5(25.0%) | 15(75.0%) | 0.4175 | 31(17.4%) | 147(82.6%) | 0.0040 |
なし | 186(14.3%) | 1,112(85.7%) | 133(17.9%) | 609(82.1%) | 53(9.5%) | 503(90.5%) | ||||
Depression | あり | 9(13.4%) | 58(86.6%) | 0.7403 | 3(13.6%) | 19(86.4%) | 0.5803 | 6(13.3%) | 39(86.7%) | 0.6812 |
なし | 213(14.9%) | 1,216(85.1%) | 135(18.2%) | 605(81.8%) | 78(11.3%) | 611(88.7%) |
COPDとすでに診断・治療が開始されていた4名は解析対象者からは除外したが,その4名は気流制限が認められ,喫煙歴もあった。
本研究は潜在する気流制限を有する患者を見出す手術前呼吸機能検査の有用性を検討する目的で行った。その結果,気流制限は解析対象者1,496名中222名(14.8%),男性762名中138名(18.1%),女性734名中84名(11.4%)に認められた。われわれと同様の検討を行った研究で,全対象者に藤本ら7)は13.5%,吉井ら8)は16.7%に気流制限が認められたと報告しており,われわれとほぼ同程度の結果であった。GOLDによるCOPDの病期分類では,I期117名(52.7%),II期95名(42.8%),III期10名(4.5%),IV期は認められなかった。田中ら9)はGOLDによるCOPDの病気分類で,I期41.5%,II期47.7%,III期8.2%,IV期2.6%,笹岡10)はI期41.9%,II期46.7%,III期以上11.4%と報告しており,半数以上がI期とII期が大多数を占め,われわれとほぼ同程度の結果であった。男性と女性を区別して実施された大規模疫学調査であるNICE study3)によると,気流制限は全体で10.9%,男性は16.4%,女性は5.0%であった。男性の気流制限はわれわれと同程度であったが,女性と全体はわれわれの方が高かった。この報告は40歳以上を調査対象としているため,われわれの調査対象者を40歳以上として再検討した。気流制限は調査対象者1,360名中222名(16.3%),男性672名中138名(20.5%),女性688名中84名(12.2%)と,割合に変化はみられなかった。NICE study3)はわれわれと男女比は変わらなく,Currentの割合が多く,70歳以上の割合が少なかった。都留ら11)は気流制限が,全体で22.7%,男性が27.7%,女性が19.1%と報告されており,こちらも40歳以上の一般市民を対象とした調査であるが,われわれより女性の割合が多く,Currentと70歳以上の割合が少なかった。Kamimuraら12)は気流制限が全体で25.5%,男性で30.5%,女性で16.6%と報告しており,われわれの結果よりも高い結果であったが,男性とCurrentの割合が多く,70歳代の割合は少なかった。このように,性別,年齢,喫煙歴に違いがみられたことから,報告された結果に差が生じていると思われた。男性の気流制限について他の調査報告に類似した報告がみられたが,女性に関しては差がみられた。その原因として,家庭内における環境タバコ煙(environmental tabacco smoke; ETS)がCOPD発症リスクと関連しているとの報告13)や,女性のNeverのETS曝露がCOPDの特異的な危険因子であり14),夫からのETS曝露は妻への気流制限に与える独立因子であるとの報告15)がある。男性の喫煙歴に比べて女性の喫煙歴は低かったが,ETS曝露という夫からのタバコの影響について今回調査項目になく,この夫からのETS曝露が女性の気流制限を高くした原因のひとつではないかと考えられた。また,気流制限を伴う疾患にはCOPDだけではなく,喘息もある。すでに喘息と診断された対象者は今回の解析対象者から除外をしているが,男女問わず,未診断・無治療の喘息患者がいる可能性も否定できない。
COPDは気道,肺胞,肺血管を含めた全身性の炎症性疾患であり,様々な異常が組み合わさって,全体として機能異常を呈している16)。気流制限が併存疾患との間に関係がみられるかについて検討した結果,全体では心疾患,高血圧,男性については高血圧,女性は心疾患,骨粗鬆症でみられた。Almagroら17)では,COPDの併存疾患として全体では心疾患(27.0%),高血圧(55.0%)が,男性では高血圧(53.0%),女性では心疾患(40.0%),骨粗鬆症(22.0%)が高かったと報告されている。われわれの結果はAlmagroら17)の報告を支持する結果となった。Shibataら18)からは気流制限を有することで心血管病による死の相対リスクは3.10倍に増加し,特に心筋梗塞による死の相対リスクは6.70倍になるとの報告がある。気流制限が心疾患に影響を与える疾患となっていることから,循環器系の疾患を合併している患者には注意をする必要がある。加藤19)からはCOPDと慢性心不全を合併した患者に長時間作用型抗コリン性気管支拡張薬チオトロピウムにより治療することで,COPDの病態を改善するのみならず,いくつかの慢性心不全の指標を改善したとの報告がある。治療によりCOPDのみでなく合併症の改善もみられたことから,COPDを早期に発見することが大切となってくる。
気流制限が認められた患者のうちで,4名(1.8%)がCOPDと診断され治療を受けていたに過ぎなかった。NICE study3)の報告では実際にCOPDの診断を受けているのは9.4%,Kamimuraら12)の報告では5%であった。これらの報告から,未診断・未治療のCOPD患者が多いことが示唆された。2014年に実施されたGOLD日本委員会によるCOPD認知率の調査20)によると,認知率は30.1%に過ぎず,COPD認知度が低いことも原因ではないかと考えられた。
外科系の手術前呼吸機能検査を実施した患者の14.8%に気流制限が認められ,男女ともに年齢が高くなるほど気流制限が認められた。またNeverよりFormer,Currentの方が気流制限の認められる割合は高かった。しかし,気流制限が認められた患者のうち,すでにCOPDと診断・治療されていたのは4名に過ぎなかった。手術前呼吸機能検査は潜在した気流制限を有するCOPD患者の早期発見・早期治療に繋がる可能性が示唆された。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。