Japanese Journal of Medical Technology
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A single-institution retrospective study of platelet transfusion refractoriness
Anna KAZUSATeruhito TAKAKUWATomoko FUKUYAMAAkari HISANABEKoji NAKAMURAErina FUKADARyosuke YAMAMURA
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2021 Volume 70 Issue 3 Pages 518-524

Details
Abstract

血小板輸血不応(PTR)のうち,免疫学的機序によるものは20%程度と言われており,そのうちの95%以上が抗HLA抗体によるものと報告されている。血小板輸血有効性の評価には補正血小板増加数の1時間値(CCI-1)が一般的に用いられるが,追加の採血が必要となり,日常診療では必ずしも測定されるわけではない。今回,当院で2005年7月から2018年12月までにPTRと判断され,抗HLA抗体および抗HPA抗体スクリーニングを行った50例を対象に,当院におけるPTRの背景因子を調査することを目的として後方視的検討を行った。50例中96%が血液疾患であり,抗血小板抗体陽性であったのは23例であった。免疫学的機序によるPTRの有意な因子は女性,CRP低値,CCI-1低値であった。女性かつCRP 2.2 mg/L以下であれば感度69.6%,特異度77.8%で免疫学的機序によるPTRを予測することができた。さらに血液悪性疾患に絞ると,感度86.7%,特異度75.0%と,感度が上昇した。CCI-1を用いると特異度90%以上の精度で免疫学的機序によるPTRを予測することが可能であったが,38%の症例では測定されていなかった。血小板輸血の臨床的有効性が乏しい場合は,原因疾患の特定,性別,CRP値などの背景因子とともにCCI-1の測定を主治医へ提案することで抗血小板抗体検査が速やかに実施されるのではないかと考えられる。

Translated Abstract

An estimated 20% of platelet transfusion refractoriness (PTR) is reported to be related to immunological factors, 95% or more of which are anti-human leukocyte antigen (anti-HLA) antibodies. Although the corrected count increment at 1-hour post-transfusion (CCI-1) is commonly used to assess the efficacy of platelet transfusion, CCI-1 is not always routinely measured owing to the need for additional blood collection. To develop a method for the easy prediction of immunological PTR, we retrospectively analyzed the medical records of 50 patients with PTR in our hospital and who were screened for anti-HLA and anti-HPA antibodies from July 2005 to December 2018. Among these patients, 96% (48 patients) had hematological disorders, and antibody-dependent PTR was observed in 23 patients. In this study, significant factors for immunological PTR were sex (female), C reactive protein (CRP) levels of < 2.2 mg/dL, and CCI-1 of < 3,500/μL. Using two factors, female sex and CRP levels of ≤ 2.2 mg/dL, we were able to predict immunological PTR with a sensitivity of 69.6% and a specificity of 77.8%. Furthermore, among patients with a hematological malignancy, the sensitivity and specificity increased to 86.7% and 75.0%, respectively. Although CCI-1 predicted immunological PTR with a specificity of ≥ 90%, it was not measured in 38% of patients. Currently, CCI-1 is the standard method for distinguishing PTR. Therefore, if platelet transfusion is ineffective, a medical technologist should suggest the measurement of CCI-1 to the attending doctor as well as organize the information, such as the disease that causes PTR, sex, and CRP level, so that antiplatelet antibody testing is performed promptly.

I  目的・背景

血小板減少による重篤な出血や出血予防のための血小板輸血後において,患者の血小板数が増加しない状態を血小板輸血不応(platelet transfusion refractoriness; PTR)という。PTRの要因として,抗ヒト白血球抗原(human leukocyte antigen; HLA)抗体や抗ヒト血小板抗原(human platelet antigen; HPA)抗体などの同種抗体による免疫学的機序によるものと,発熱,感染症,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation; DIC)などの非免疫学的機序によるものが知られている。免疫学的機序によるPTRは20%未満と報告されており,そのうちの95%以上が抗HLA抗体によるものと報告されている1)。また,正確な頻度は不明だが,特発性血小板減少性紫斑病などの自己免疫性疾患に起因する免疫学的PTRも知られている2)

血小板輸血の評価は通常,補正血小板増加数(corrected count increment; CCI)[/μL]=(輸血後血小板数[/μL]-輸血前血小板数[/μL])× 体表面積[m2]÷ 輸血血小板数総数[×1011])の値によって評価を行う3)

しかしながら,日常臨床においては輸血の開始時刻の遅延などの要因によって血小板輸血1時間後のCCI(CCI-1)が必ずしも測定されるわけではない。

そこで,今回,当院においてPTRと判断され抗HLA抗体および抗HPA抗体スクリーニングを行った症例を対象として,PTRの背景因子を調査することを目的として後方視的検討を行ったので報告する。

II  対象・方法

2005年7月から2018年12月までに血小板輸血不応と判断され,当院から日本赤十字社近畿ブロック血液センターへ抗HLA抗体および抗HPA抗体のスクリーニング検査の依頼を行った50症例を対象とした。抗HLA抗体検査は,Luminex®システムを応用した高感度蛍光ビーズ法4)であるLAB Screen Mixed(One Lambda社),WAKFlow® HLA抗体クラスI(MR)(湧永製薬株式会社)にて抗体スクリーニング検査を行った。抗体同定検査は,LABScreen Single Antigen(One Lambda社)を実施した。なお,2009年度(2010年3月末)まではリンパ球細胞障害試験(lymphocyte cytotoxicity test;LCT法)5)および抗ヒトグロブリン(antihuman globulin; AHG)を用いたAHG-LCT法が併用された。本調査は大阪府済生会中津病院の倫理委員会による承認を受けている(承認番号:2020-3)。

2群比較はMann Whitney検定を用い,陽性率の有意差検定はχ2検定を用いた。いずれもp < 0.05を有意水準とした。統計学的検定にはSPSS ver. 21.0およびEZR ver. 1.35を用いた。

III  結果

1. 患者背景

本調査において,対象症例50例のうち,抗血小板抗体陽性が23例,陰性が27例であった。抗血小板抗体の陽性率を性別で比較すると陽性群において男性が17.4%,女性が82.6%であったのに対して陰性群では男性66.7%に対して女性33.3%と統計学的有意差をもって女性の陽性率が高かった(p < 0.001)。同様にC反応性蛋白(C-reactive protein; CRP)低値,CCI-1低値も抗血小板抗体陽性の背景因子として統計学的に有意であった。一方,年齢中央値は両群ともに66歳であり,乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase; LD)の中央値も陽性群で256 U/L,陰性群で278 U/Lといずれも統計学的な有意差はみられなかった。同様に血小板製剤の総投与単位数も両群間で有意な差を認めなかった(Table 1)。女性28例中19例は妊娠歴があることが確認でき,そのうち15例が抗血小板抗体陽性であった。

Table 1  患者背景
抗体(+)
(n = 23)
抗体(−)
(n = 27)
Mann Whitney test
p value
​性別 Male,n(%) 4(17.4) 18(66.7) < 0.001
​   Female,n(%) 19(82.6) 9(33.3)
​年齢,median(range) 66(41–85) 66(24–84) 0.297
​血小板単位数,median(range) 100(20–485) 135(0–630) 0.192
​CRP(mg/dL),median(range) 1.17(0.12–9.64) 4.03(0.04–33.0) 0.037
​LD(U/L),median(range) 256(126–498) 278(31–742) 0.888
​CCI-1,median(range) 0(−3,770–14,300) 10,800(1,500–21,400) < 0.001

抗血小板抗体陽性群,陰性群の患者背景。抗血小板抗体陽性群に有意差がみられるものを赤字で示した。

2. 疾患背景と疾患による抗HLA抗体陽性率の比較

本調査において,50例中肺癌の2例を除いた48例(96%)が血液疾患であった。詳細な内訳は骨髄系悪性疾患が26例(52%),リンパ系悪性疾患が13例(26%),良性疾患が9例(18%)であり,血液悪性疾患が全体の78%を占めた。血液良性疾患の内訳は再生不良性貧血や特発性血小板減少性紫斑病などの免疫学的機序を背景とする疾患が中心であった(Figure 1)。

Figure 1 疾患背景

検討した50症例のうち血液疾患は96%であり,骨髄系の血液悪性疾患が半数以上を占めた。

次に,骨髄系,リンパ系,良性疾患の血液疾患に対して疾患グループによる抗血小板抗体陽性率の比較を行った(Figure 2)。骨髄系とリンパ系,およびリンパ系と良性疾患の間には抗血小板抗体陽性率の有意な差は認められなかったが,骨髄系と良性疾患の比較では骨髄系疾患において,やや抗血小板抗体陽性率が高い傾向がみられた(p = 0.074)。

Figure 2 疾患による抗血小板抗体陽性率の比較

骨髄系,リンパ系,良性疾患での抗血小板抗体陽性率の比較を示す。

3. CCI-1値による血小板輸血有効性の評価

本調査において,抗血小板抗体陽性者23名中13名,抗血小板抗体陰性者27名中18名がCCI-1の測定を行っていた。CCI-1値7,500/μL未満をカットオフとして抗血小板抗体の陽性率を予測したと仮定すると感度63.2%,特異度91.7%であった。

ROC曲線でCCI-1のカットオフ値を算出すると(Figure 3),3,240/μLが最適値であったため,CCI-1値3,500/μL未満をカットオフとして抗血小板抗体の陽性率を検証すると感度92.3%,特異度94.4%と感度が上昇した(Figure 4)。

Figure 3 CCI-1の抗血小板抗体に対するROC曲線

ROC曲線によりCCI-1値でのカットオフ値を算出した。

Figure 4 CCI-1による血小板輸血不応の鑑別

CCI-1値が3,500/μL未満の症例では抗血小板抗体陽性率の感度92.3%,特異度94.4%であった。

4. CRP値での予測の検討

本調査において,CRPについて抗血小板抗体陽性の感度・特異度をROC曲線で検討したところ,最適値は2.2 mg/Lであった。CRPが2.2 mg/L以下,かつ女性で抗血小板抗体を予測すると,感度69.6%,特異度77.8%であった。CRP低値でも抗血小板抗体陰性の患者は,血液良性疾患が多かったため,疾患を血液悪性疾患に絞ると,感度86.7%,特異度75.0%と,感度が上昇した(Figure 5)。

Figure 5 CRPおよび性別による血小板輸血不応の鑑別

CRP値が2.2 mg/L以下かつ,血液悪性疾患の症例での抗血小板抗体陽性率の感度86.7%,特異度75.0%であった。

IV  考察

血小板輸血の効果判定は輸血後1時間または24時間の後のCCIによって行うが,CCI-1が7,500/μL以上であれば有効とされる6)。非免疫学的要因によるPTRでは,血小板輸血直後は血小板数が増加するが,時間の経過と共に血小板数は低下し,24時間後での増加は認められないことが多い。一方で,免疫学的要因によるPTRでは血小板輸血直後も血小板数は増加しないことが多い7),8)。これは同種免疫反応によって急激に血小板破壊がもたらされることが原因だとされている9)。このことから一般的にCCI-1が7,500/μL未満であれば免疫性血小板輸血不応が疑われる7),10)。ただし,CCIが低値の血小板輸血不応患者102例中8%しか抗HLA抗体が検出されなかったという報告もあり11),PTRの原因を特定する上でCCIの特異度については議論の余地がある。本調査では,CCI-1が3,500/μL未満の症例13例中12例(92.3%)が抗血小板抗体陽性であり,感度・特異度ともにCCI-1はPTRの原因を特定する上で非常に有効なツールであった。一方で50例中19例(38%)はCCI-1が測定されておらず,多忙な臨床業務の中で医師が必ずしもCCI-1を測定できる環境にあるわけではないのではないかと思われた。

本調査では男性と比べて女性が有意に抗血小板抗体陽性となるPTRが多かった。井上ら12)は埼玉県内の医療機関における312例のPTR患者を後方視的に検討した結果,抗血小板抗体陽性率は男性が41.5%であったのに対して女性が68.4%と有意に高かったことを報告している。森田ら13)は,経産婦献血者8万人について,抗血小板抗体のスクリーニングを検査した結果,960人(1.2%)が陽性であったと報告をしている。大戸ら14)は,24,630名の妊婦を対象に抗血小板抗体の有無を研究し,妊婦の約1%が抗血小板抗体を産生していることを報告している。また,この報告では複数回妊娠を経験している方が初回の妊娠に比べ,抗血小板抗体陽性率が高いことも報告している。榎本ら15)は,輸血歴のない妊婦4,069例の抗血小板抗体スクリーニングを行い,初回妊娠での抗HLA抗体陽性率は3.5%であったが,妊娠回数が増すごとに約5%程度上昇し,全体では9.4%であったと報告している。以上のことから女性が妊娠によって抗原刺激を受け,血小板に対する抗体を獲得する可能性が示唆される。本調査では診療録から全例で妊娠の有無を確認することはできなかったが,少なくとも19例は妊娠歴があり,その内,15例が抗血小板抗体陽性となった。本調査の結果は男性に比べて女性,特に妊娠歴のある女性に抗血小板抗体保有の割合が高いという過去の報告と矛盾しない結果であった。

本調査でCRPが2.2 mg/L以下であることが免疫学的機序によるPTRを予測できる可能性があると考えられたことは興味深い。CRPは炎症マーカーの一つであり,汎用される赤沈と比較しては鋭敏で変動もその時々の状態を比較的によく反応し,敗血症や肺炎などの感染症発症時には著しく上昇する16),17)。CRPが2.0 g/dLをカットオフ値として用いることで重症の細菌感染症の発見に有用であるとする報告があり18),CRPが著しく上昇しているPTR患者は非免疫学的機序に起因する可能性がある。一方で,CRPの上昇がごく軽度の場合には膠原病などの慢性炎症である可能性が考えられる。また,抗血小板抗体に起因するPTRの場合も一般的にはCRPは上昇しないものと考えられる。本調査の対象症例の大半である血液疾患患者では原疾患や化学療法などにより免疫力が低下しており,感染症の併発による非免疫学的PTRを生じやすかった可能性がある。これらのことより,CRPが間接的にPTRを予測する1つのツールとして有用となる場合もあるのではないかと考える。

本調査では統計学的な有意差はなかったものの骨髄系疾患と比べ,リンパ系疾患の患者の抗血小板抗体陽性率は低く,血液良性疾患患者では抗血小板抗体陽性率が最も低かった。福森ら19)の研究では,2008年から2011年度までの4年間で抗HLA抗体検査を行った結果,疾患別では約80%が血液疾患であり,血液悪性腫瘍の中では骨髄系(AML:47%, MDS:52%)がリンパ系(ALL:28%,悪性リンパ腫:11%)と比べ,抗HLA抗体陽性率が高い傾向がみられたと報告している。また,井上ら12)の報告ではAML 94例中58例が抗血小板抗体陽性となったのに対して,悪性リンパ腫は20例中2例のみが抗血小板抗体陽性であった。骨髄系疾患がリンパ系疾患や良性疾患より抗血小板抗体陽性率が高い理由は不明であり,明確な理由を示している報告も我々が検索する限りではみられなかった。リンパ系の血液悪性疾患や血液良性疾患では治療としてステロイド剤やその他の免疫抑制剤が使用されることが多い。実際に今回の調査では,9症例の良性疾患のうち治療の詳細情報を得ることができた7例中5例がステロイド治療を受けており,2例は免疫抑制剤が投与されていた。このことより,ステロイドを含む免疫抑制療法がリンパ球の抗体産生能を低下させ,抗血小板抗体によるPTRが起こりにくくなっている可能性があるのではないかと考えられた。

V  結語

今回,PTRと診断され抗血小板抗体のスクリーニングを行った50症例を対象に,当院におけるPTRの背景因子を調査することを目的として後方視的検討を行った。年齢,血小板輸血総量,LDは抗血小板抗体陽性群,陰性群で有意な差はみられず,疾患別にみると良性疾患が最も抗血小板抗体陽性率が低かったが統計学的な有意差はみられなかった。一方,女性,CRP低値,CCI-1低値の3項目は抗血小板抗体陽性の有意な背景因子であった。しかし,CCI-1は血小板輸血1時間後に再度採血を行わなければならず,なかなか全症例では測定されていなかった。そこで,簡便に予測するツールとして,今回の調査で得られた性別,CRPの2つのデータに着目して検討を行った。女性かつCRPが2.2 mg/L以下の症例は抗血小板抗体が陽性となる可能性が高かったために,このような症例ではCCI-1の測定を積極的に行うよう検査技師から担当医師に依頼することを検討しても良いのではないかと考えられた。PTRの患者にはCCI-24で血小板輸血の臨床的有効性を評価し,感染症,DIC,活動性出血などの原因精査を進めるとともに,可能であればCCI-1を測定し,免疫学的PTRが疑われた症例に対しては速やかに抗血小板抗体検査を実施することが重要だと考える。今回は50症例を対象としたが,さらに症例数を増やしての検討が望まれる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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