Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
Consideration about the usefulness of irregular antibody information acquired from other facilities before transfusion
Ryosei MURAITeruo ENDOHMikako MORIAIYuki KATAYAMAAkemi ENDOHKoichi ASANUMAShingo TANAKASatoshi TAKAHASHI
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2021 Volume 70 Issue 4 Pages 773-777

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Abstract

当院での輸血症例のうち,他施設から不規則抗体情報が得られた症例を抽出し,当院での輸血対応に有用であったかを後方視的に検証した。全7例の情報源は,前医からの診療情報提供書6例,不規則抗体情報カード保有1例であった。他施設から情報を得る利点として,結果報告あるいは対応決定までの時間短縮,市販試薬では同定困難であり,然るべき施設に検査依頼すべきかの判断に結びつくまでの時間短縮,抗体消失に起因する遅発性溶血性輸血反応(delayed hemolytic transfusion reaction; DHTR)の防止が考えられた。一方,情報伝達方法および受領後の活用法が統一されておらず,情報と検査結果が乖離した場合の判断に苦慮する場合などの課題も明らかになった。また今回の検討から,厚生労働省の指針にある「患者が携帯する不規則抗体カード」の普及が進んでいないことが推測された。今後,これらの課題が克服されることで,より安全な輸血医療に結びつくことが望まれる。

Translated Abstract

We reviewed irregular antibody information acquired from other facilities before transfusion and investigated whether the information will be useful for blood supply. Of seven patients, six visited our hospital carrying the antibody information, and the remaining patient presented a card indicating that the patient had an irregular antibody. The advantages of acquiring information from other facilities are as follows: shortening of the time to identify irregular antibodies and to decide the blood type to be selected or to judge whether it can be handled in their own facility, and also the prevention of the delayed hemolytic transfusion reaction caused by the absence of certain antibodies. On the other hand, problems such as the method of communicating information and the method of utilizing the information after receiving it were not defined, so it is difficult to judge the situation when the information acquired from other facilities is not consistent with the result from their own laboratory. Moreover, in this study, we found that there are few patients carrying the card with irregular antibody information, as suggested by the Ministry of Health, Labor and Welfare. In the near future, it is hoped that the use of this card will be more widespread.

I  背景

溶血性輸血反応を防止するためには,輸血開始までにABO・RhD血液型,不規則抗体検査および交差適合試験を行い,輸血を行うことが重要である。しかし,いずれかにおいて予期せぬ反応を認め,その原因が解明できない場合や緊急輸血を必要とするため時間的猶予がない場合に遭遇することも少なくない。このような場合,各施設の状況に応じて施設での対応が困難,輸血開始の遅延あるいは,その後の溶血反応に注意しながら輸血を行う可能性がある。

予期せぬ反応を認めた場合,他施設からの情報がその原因解明に寄与する場合があり,その情報獲得手段のひとつとして不規則抗体カード1)がある。「輸血療法の実施に関する指針」2)では,臨床的に意義のある不規則抗体が検出された場合には,患者にその旨を記載した不規則抗体カードを常時携帯させることが推奨されている。しかし,このような情報の活用法や有用性に関する報告は未だ少なく,詳細な検討が望まれている1),3)~5)。そこで今回,不規則抗体カードを含む他施設からの情報を参考に輸血方針を決定し得た症例を解析し,その有用性を検討した。

II  対象および方法

当院において2000年1月1日から2019年3月31日までにABOおよびRhD血液型検査および不規則抗体検査を行ったなかで,輸血開始までに他施設からの情報を入手できた7例を対象とした。なお,本検討は札幌医科大学附属病院臨床研究審査委員会で承認を受けて実施した(承認番号322-313)。当院での不規則抗体スクリーニングは,赤血球膜固相法あるいは試験管法による間接抗グロブリン試験で行った。不規則抗体同定検査および交差適合試験は試験管法で行い,生理食塩液法とポリエチレングリコール(polyethylene glycol; PEG)を反応増強剤に用いた間接抗グロブリン試験(indirect antiglobulin test; IAT)で行った。また,必要に応じて反応増強剤無添加間接抗グロブリン試験も試験管法で行った。血液センターへの問い合わせや精査の依頼は,担当医を介して患者の承諾を得てから行った。

III  結果

情報の入手先は,前医からの診療情報提供書6例,患者が持参した不規則抗体カード1例であった。

各症例の背景,他施設から得られた情報,当院で行った検査結果および輸血対応をまとめた(Table 1, 2)。内訳は,緊急手術3例(症例1,2,3),重度貧血で至急輸血を必要とした2例(症例4,5),待機的手術予定2例(症例6,7)で7例中5例が可及的速やかに血液製剤を供給する必要があった。

Table 1  患者背景
症例 状態 必要度 情報獲得方法 得られた情報 当院の結果 適合血の選択
1 緊急手術
(腹部大動脈瘤破裂)
診療情報提供書 抗E,抗c,抗Dia,血液型特異性のない自己抗体 抗E,血液型特異性のない自己抗体 E,cおよびDia抗原陰性血
2 緊急手術
(産後脳出血)
不規則抗体カード 抗Jra 高頻度抗原に対する抗体 Jra抗原陰性血
3 緊急手術
(前置胎盤)
診療情報提供書 抗Lea 低温反応性の抗Lea 選択必要なし
4 貧血
(MDS)
診療情報提供書 抗Fyb 血液型特異性のない自己抗体 Fyb抗原陰性血
5 貧血
(AIHA)
診療情報提供書 血型判定不能 血液型特異性のない自己抗体 ABO,RhD抗原型
一致RBC
6 待機的手術 なし 診療情報提供書
血液センターへの照会
抗Jra 高頻度抗原に対する抗体 Jra抗原陰性血
7 待機的手術 なし 診療情報提供書
血液センターへ精査依頼
陰性 高頻度抗原に対する抗体 Jra抗原陰性血
Table 2  不規則抗体情報による製剤供給への効果
症例 得られた情報 当院の対応 供給時間 効果
1 抗E,抗c,抗Dia,血液型特異性のない自己抗体 同定用パネル赤血球の追加 55分 25分以上短縮
2 抗Jra 血液センターへの照会
Jra抗原陰性RBCの手配
150分 半日程度短縮
3 抗Lea 反応増強剤無添加
間接抗グロブリン試験を追加
70分 25分以上短縮
4 抗Fyb 2次免疫応答回避のため,抗原陰性血を選択 2次免疫応答の回避

1. 緊急手術例

【症例1】70才代,男性。腹部大動脈瘤破裂の診断で他院より当院へ搬送され,緊急手術となった。当院で8か月前に不規則抗体検査歴があり,抗Eと血液型特異性のない自己抗体が検出されていた。搬入時の不規則抗体検査では,以前から検出されている抗Eに加え,さらなる血液型特異性のある抗体保有を疑う結果となった。追加検査を行うのと同時に前医での情報が得られ,抗Eに加えて抗cおよび抗Diaが検出されていることが判明した。当院での結果と矛盾しないため,ただちにE,cそしてDia抗原陰性血を発注した。追加検査より,血液製剤が到着するまでに前述3種の抗体を同定し,抗原陰性血の交差適合試験を行い,適合を確認後に払い出した。

【症例2】20才代,女性。産後脳出血のため他院より搬送された。搬入時に搬送元より発行された抗Jra保有を示す不規則抗体カードを持参していた。当院の検査結果においても,抗Jraの特徴であるすべての検査用赤血球試薬と反応を認め,検査と並行して前医および前医から精査依頼を受けていた血液センターに検査歴を確認した後,Jra抗原陰性血の発注を行い,納品後交差適合試験を行い,適合を確認し供給した。

【症例3】20才代,女性。前置胎盤の妊婦で緊急手術となった。紹介状に抗Lea保有の記載があった。抗Leaは反応態度によって適合製剤選択の必要が異なり,その反応態度は不明であったため,生理食塩液法,PEG添加間接抗グロブリン試験に加え,反応増強剤無添加間接抗グロブリン試験を同時に行った。反応増強剤無添加間接抗グロブリン試験で反応を認めなかったため,抗原陰性血を選択する必要はないと判断し,交差適合試験は,反応増強剤無添加の間接抗グロブリン試験で行い陰性と判定した製剤を払い出した。

2. 貧血改善のための輸血例

【症例4】60才代,男性。MDSの診断で他院治療中であったが当院へ転院となった。持参した紹介状に抗Fyb保有と記載があったが,当院では血液型特異性のない自己抗体のみが検出された。抗Fybの二次免疫応答による遅発性溶血性輸血反応(delayed hemolytic transfusion reaction; DHTR)を回避する目的でFyb抗原陰性血を供給した。

【症例5】40才代,女性。自己免疫性溶血性貧血疑いの症例。他院で血液型を確定できず輸血ができないため,当院へ転院となった。休日体制であったが,担当医より来院する連絡を受けていたので,あらかじめ日本輸血・細胞治療学会認定輸血検査技師を待機させた。その結果,患者の赤血球に対し抗体解離試験を実施することでABOおよびRhD血液型が確定できた。また,抗体解離液の血液型抗原に対する特異性の確認,および直近の赤血球輸血歴がないことから自己赤血球による吸収試験を行うことで,血液型特異性のない自己抗体を保有していることを迅速に判定して血液製剤を供給できた。

3. 待機的手術例

【症例6,症例7】症例6は30才代,女性。妊娠28週。前医紹介状より抗Jra検出歴あり。症例7は20才代,女性。妊娠30週。前医紹介状では不規則抗体陰性であった。

症例6,7いずれも当院の検査ではすべての不規則抗体検査用赤血球試薬と反応し,かつ自己赤血球とは反応しないことから高頻度抗原に対する抗体を示唆する結果であった。しかし,市販の赤血球試薬では同定困難のため,日本赤十字社北海道ブロック血液センターに精査依頼または検査歴の照会を行い,抗Jra保有を確認した。

以上,これら7症例のうち輸血実施患者は,すべて交差適合試験後に血液製剤を払い出すことができ,その後の検査において,LDやASTあるいは間接ビリルビンの上昇またはヘモグロビンやハプトグロビンの低下など,溶血を疑う所見は認めなかった。

IV  考察

解析した7症例のうち,適合血を選択する必要がある不規則抗体6)~8)保有患者は5例であった。残りは適合血を選択する必要のない低温反応性の抗Lea保有例が1例,血液型特異性のない自己抗体保有例が1例であった。また,前医で検出されたが,当院では検出されなかった例が1例あった。結果の乖離については,検査時期の違いによる抗体消失の可能性を考慮し,2次免疫応答によるDHTRのリスクを回避するため,抗原陰性血を供給した(重複症例あり)。本検討で赤血球製剤の準備ができ次第輸血を開始したい症例は5例あったが,すべて交差適合試験後に払い出すことができた。

不規則抗体情報による輸血開始までの時間短縮の効果を検証した(Table 2)。

あらかじめ必要と考えられる抗原発現パターンのパネル赤血球を追加して検査を行う(症例1,4),あるいは適合血選択の必要性を判断するために,並行して反応増強剤無添加間接抗グロブリン試験も実施する(症例3)ことで,少なくとも間接抗グロブリン試験1回分の時間短縮が可能である。なお,過去の報告9)より,用手法での交差適合試験所要時間が平均25分であることから,間接抗グロブリン試験1回あたり25分程度要すると推測される。また,施設の状況によるが,適切な検査者を待機させる(症例5),市販の試薬では同定できない高頻度抗原に対する抗体のため,血液センターへ検査歴の問い合わせや精査を依頼する(症例2)などの対応を行うことで少なくとも30分~半日程度の時間短縮が可能であると推察された。以上より,患者への輸血製剤供給時間短縮の面からも情報を得る有用性が確認できた。

他施設から情報を得られたとしても,輸血開始までの時間が許す限り,自施設で不規則抗体検査や交差適合試験を行い確認する必要がある。今回の経験から必要と考える情報は,患者属性,検査機関属性,検査日,不規則抗体名は勿論だが,その反応態度が血液製剤の選択に重要である抗Leaや抗Mの場合には,反応増強剤無添加間接抗グロブリン試験の反応態度が情報として伝達されると更に時間短縮につながると考える。

厚生労働省の「輸血療法の実施に関する指針」2)や日本輸血・細胞治療学会の「赤血球型検査ガイドライン」6)には「臨床的意義のある不規則抗体保有患者にはその旨を記載したカードを保有させることが望ましい」と記されている。今回,不規則抗体カードを所持していたのは1例と,広く普及しているとは言い難い。原因として,カードの書式および形態,患者への説明方法,受け取った施設の対応法などが整備されていないことが推測される。近年まで,埼玉県合同輸血療法委員会が作成した赤血球不規則抗体保有カード10)や東京都赤十字血液センターが発行する輸血手帳11)など形式が様々であるため統一化が検討されていたが,2017年9月に日本輸血・細胞治療学会より不規則抗体のみならず,輸血検査結果に影響を与える薬剤の情報などの情報共有を目的とした「輸血情報関連カード」作成アプリケーションが公開された12)。今後,この「輸血情報関連カード」発行が輸血システムに標準搭載となり,診療報酬の算定対象となることが普及につながると考える。「患者(受血者)の検査については,不適合輸血を防ぐため,輸血を実施する医療機関で責任を持って血液型検査や不規則抗体スクリーニングを行う。また,交差適合試験は患者の属する医療機関内で行う。」2)とあり,当院においても,不規則抗体カードを携帯する目的は,検査時間の短縮に加え,「抗体消失時のDHTRの防止である」3)ことを念頭におき,情報を取得できた全例において可能な限り自施設で確認検査を実施し,得た情報との整合性を確認している。他施設と結果が乖離した場合の対応も含め,さらなる検討を進める必要があると考える。今後,個人情報の取り扱いも考慮した上で,情報提供側および受け取った側の対応手順などの整備が進むことが期待される。また,これらの実践においては患者自身への説明も非常に重要となり,医師のタスク・シフティングが推奨される現状において,臨床検査技師が果たす役割も少なくないと考える。これらの問題の克服が「輸血情報関連カード」を含めた情報共有の普及につながり,より安全な輸血療法へと結びつくと考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)   北澤  淳一,他:「携帯「不規則抗体カード」が輸血副作用防止に有効であった1例」,日本輸血細胞治療学会雑誌,2008; 54: 503–506.
  • 2)  厚生労働省医薬・生活衛生局血液対策課:輸血療法の実施に関する指針.http://yuketsu.jstmct.or.jp/wp-content/uploads/2020/04/5813aa9589c046c83d4034bd68087e43.pdf(2020年12月4日アクセス)
  • 3)   石井  規子,他:「不規則抗体カード作成に関する現状と方向性,平成21年度全国大学病院輸血部会議技師研究会における調査と討論より」,日本輸血細胞治療学会雑誌,2015; 58: 710–715.
  • 4)   東谷  孝徳,他:「久留米大学病院における不適合輸血の実態とその対策」,日本輸血細胞治療学会雑誌,2000; 46: 443–448.
  • 5)   道野  淳子,他:「不規則抗体や稀な血液型の保有者への「血液型カード」発行と検体の有効利用について」,日本輸血細胞治療学会雑誌,2005; 51: 50.
  • 6)   奥田  誠,他:「赤血球型検査(赤血球系検査)ガイドライン(改訂2版)」,日本輸血細胞治療学会雑誌,2016; 62: 651–663.
  • 7)   国分寺  晃:「輸血検査と精度管理」,スタンダード輸血検査テキスト第3版,88,認定輸血検査技師制度協議会カリキュラム委員会,医歯薬出版,東京,2017.
  • 8)   小林  信昌:「適合血の選択と供給」,輸血・移植検査技術教本,5,日本臨床衛生検査技師会「輸血・移植検査技術教本」編集部会,丸善出版,東京,2016.
  • 9)   紀野  修一,他:「輸血部門における危機的出血への対応に関するアンケート調査結果」,日本輸血細胞治療学会雑誌,2009; 55: 624–632.
  • 10)  埼玉県合同輸血療法委員会:赤血球不規則抗体保有カード.https://www.saitama.bc.jrc.or.jp/godo/letter/2015-1019-1016-15.html(2020年10月15日アクセス)
  • 11)  日本赤十字社東京都赤十字血液センター:輸血手帳.https://www.bs.jrc.or.jp/ktks/tokyo/process/files/4_yuketsu_tetyo.pdf(2020年10月15日アクセス)
  • 12)  日本輸血・細胞治療学会:輸血関連情報カード.http://yuketsu.jstmct.or.jp/medical/medicine_and_medical_information/reference/(2020年10月15日アクセス)
 
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