Japanese Journal of Medical Technology
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Evaluation of correlation of blood sample volume with positivity rates for aerobic and anaerobic culture vials in a “BD Bactec FX” automated blood culture system
Kanako EMORIMasaru OGAWAHirohisa YAZAKITsuyoshi ISHIDA
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2021 Volume 70 Issue 4 Pages 754-759

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Abstract

血液培養の陽性率は採血量の影響を受けることが知られており,American Society for Microbiologyのガイドライン(CUMITECH)では一回の採血量20~30 mLを推奨している。BDバクテックTM FXシステムで使用する好気用レズンボトルおよび嫌気用レズンボトルの最適な採血量は8~10 mL(測定可能な採血量は3~10 mL)であり,1セットを好気用レズンボトルおよび嫌気用レズンボトルそれぞれ1本ずつとした場合,1セットのみの採取や測定可能な採血量の採取ではCUMITECHの推奨量に達しない場合がある。我々は2014年7月~2016年6月の2年間に提出された血液培養ボトル3,841セットを対象に,当院での血液培養の採血量と検査結果から採血量による陽性率の変動について分析した。その結果,嫌気用レズンボトルでは4.0 mL以下の血液量で検出率に有意な低下を認めたことから,測定可能な採血量でも血液量の不足により偽陰性が起こることが示唆された。

Translated Abstract

The blood culture positivity rate is affected by blood sample volume, and the American Society for Microbiology guidelines (CUMITECH) recommends 20–30 mL of blood for a single sample. The optimal blood sample volume for aerobic and anaerobic culture vials used with the BD BactecTM FX system is 8–10 mL (the measurable blood sampling volume ranges from 3 to 10 mL). If one set comprises one aerobic culture vial and one anaerobic culture vial, the CUMITECH recommendation may not be met when using only one set of vials or a single blood sample volume in the measurable range. We analyzed 3,841 sets of blood culture vials submitted during a 2-year period between July 2014 and June 2016 for variations in the positivity rate with changes in blood culture and blood drawn volumes using laboratory results from our hospital. We observed a significant decrease in the positivity rate with blood volumes of 4.0 mL or less in anaerobic culture vials, suggesting that false negatives may occur with insufficient blood volumes in the measurable range.

I  序文

敗血症は,感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態と定義されている1)。適切な治療を行う上で,起因菌の同定が重要であり,敗血症の検査として血液培養検査が必要である。そのため,血液培養は重要な検査であると同時に適切に行われなければならない。血液培養の陽性率(陽性率)は血液採取のタイミング,採血量など様々な要因により影響を受け,特に採血量は陽性率と相関すると言われている2)

American Society for Microbiology(ASM)のガイドライン(Cumitech 1C:Blood Cultures IV 2005;以下CUMITECH)3)では一回の採血量20~30 mLを推奨している。BDバクテックTM FXシステム(バクテック)で使用するBDバクテックTM 92F好気用レズンボトル(好気ボトル)およびBDバクテックTM 93F嫌気用レズンボトル(嫌気ボトル)の最適な採血量は,8~10 mLであるが,実際に測定可能な採血量は3~10 mLである。当院では1セットを好気ボトルおよび嫌気ボトルそれぞれ1本ずつとしているため,一回の採血量は最適な採血量の場合16~20 mL(測定可能な採血量の場合は6~20 mL)で,これを2セット採取した場合,32~40 mL(12~40 mL)となる。しかしながら1セットのみの採取の場合や,測定可能な採血量での採血ではCUMITECHの推奨量に達しない場合がある。我々は当院での血液培養検査の実態を把握し,血液培養検査をより有用なものとするため,採血量と検査結果から陽性率の変動について分析したので報告する。

II  方法

1. 対象

2014年7月~2016年6月の2年間に提出された血液培養ボトル3,841セット(7,682本)を対象とした。

2. 血液培養検査方法

測定機器はBDバクテックTM FXシステム(日本べクトン・ディッキンソン(BD)),培養ボトルはBDバクテックTM 92F好気用レズンボトル(以下,好気ボトル)およびBDバクテックTM 93F嫌気用レズンボトル(以下,嫌気ボトル)を使用し,血液培養を35.0℃,5日間行った。

陽性になったボトルはグラム染色および培養を行った。サブカルチャー使用培地は好気ボトルで陽性になった場合,ヒツジ血液寒天培地(BD),チョコレートII寒天培地(BD),変法ドリガルスキー培地(BTB寒天培地)(和光純薬工業株式会社)を使用し,5%炭酸ガス環境下で発育するまで培養した。嫌気ボトルで陽性になった場合,ブルセラHK(極東製薬)を使用し,嫌気環境下で発育するまで培養した。

同定に使用した検査装置はマイクロスキャンWalk Away 40 Plus,同定パネルはマイクロスキャンNeg EN Combo 1J,マイクロスキャンNeg NF Combo 1J,マイクロスキャンPos Combo 3.2J(ベックマン・コールター株式会社)を使用した。上記パネルにて同定困難な場合には,クリスタル同定キットBD BBLクリスタルE/NF,BD BBLクリスタルGP,BD BBLクリスタルNH,およびBD BBLクリスタルANR(BD)を使用した。

3. 血液培養に供試した血液量の測定

血液量はCUMITECHの記載をもとに1 mLの血液の重さを1 gとして計算した。採血前に血液培養ボトルの重量(g)を測りボトルに記載し,採血後重量(g)との差を血液量(mL)とした。

同時に提出された好気ボトルと嫌気ボトルを1セットとし,その検体量の和を1セットの採血量とした。

4. 調査項目

検体数,複数セット採取率,1セットの採血量,ボトル1本あたりの血液量,陽性率,菌種別の検出数,汚染率,分離菌株数について検討した。

血液培養の複数セット採取率と陽性率は以下のように算出した。

複数セット採取率=(総採取セット数-1セット提出数)/総採取セット数

陽性率=陽性セット数/総セット数

汚染率については森井らの報告4)をもとに算出した。

汚染率=(同日に複数セットの血液培養が提出された症例において,特定の菌種や菌属*が1セットのみ陽性となった件数)/(同日に複数セットの血液培養が提出されたのべ症例数)

*特定の菌種ならびに菌属はCoagulase-negative staphylococci(CNS),Propionibacterium acnes(最新学名はCutibacterium acnes),Micrococcus属,緑色連鎖球菌(Viridans-group streptococci),Corynebacterium属,Bacillus属(B. anthracisを除く)である。

分離菌株数はボトルごとに分離された菌を1株とした。同一セット内で複数分離された場合はそれぞれを1株とした。

なお,本研究は国立国際医療研究センター倫理委員会の承認(承認番号:NCGM-G-004215-00)を得て実施した。

III  結果

1. 血液培養検査状況

提出された3,841セット(7,682本)のうち,採血量を測定できたのは3,788セット(7,576本,好気ボトル3,788本,嫌気ボトル3,788本)であった。複数セットで提出されたものは3,627セットで,複数セット採取率は95.7%であった。

2. 1セットの採血量と陽性率

Figure 1に1セットの採血量と陽性率を示した。1セットの採血量の平均は18.0 mLであり,血液培養陽性率は12.2%であった。1セットの最適な採血量(16.1~20.0 mL)の陽性率は12.4%,測定可能な採血量(6.1~16.0 mL)の陽性率は11.5%で,陽性率に有意差を認めなかった。最適な採血量は,一回採血量で陽性率が高かった20.1–26.0 mL(陽性率14.4%)との比較で有意差を認めず,26.1 mL以上(陽性率7.4%)との比較では有意差を認めた(χ二乗検定p < 0.05)。

Figure 1 1セットの採血量と血液培養の陽性率

16.1–20.0 mLと比較して,26.1 mL以上の採血量では陽性率が有意に低下した。

3. ボトル1本あたりの血液量と陽性率

Figure 2に好気ボトルの血液量別ボトル数と陽性率を示した。平均血液量は9.3 mLであった。陽性率は10.7%で,1.2–18.2 mLの範囲で菌が検出されていた。最適な採血量(8.1–10.0 mL)の陽性率は10.5%,測定可能な採血量(3.1–8.0 mL)の陽性率は10.9%で,陽性率に有意差を認めなかった。最適な採血量とそれ以外の採血量の比較においても有意差を認めなかった。

Figure 2 好気ボトルの検体量別ボトル数と血液培養の陽性率および汚染率

8.1–10.0 mLと比較してそれ以外の採血量で陽性率に有意差は認めなかった。

検討した3,788本の好気ボトルのうち,血液量が最適な採血量(8.1–10.0 mL)であったのは,925本(24%)だった。

また,陽性になったボトルのうち,起因菌(汚染菌以外の検出菌)が検出されたボトルの平均検体量が9.4 mLであったのに対し,汚染菌が検出されたボトルの平均検体量は8.5 mLであり,起因菌が検出されたボトルの採血量が有意に多い傾向を示した(t検定p < 0.01)。

Figure 3に嫌気ボトルの検体量別ボトル数と陽性率を示した。嫌気ボトルでの平均検体量は8.7 mL,陽性率は8.9%で,0.4–16.5 mLの範囲で菌が検出されていた。最適な採血量(8.1–10.0 mL)の陽性率は9.6%,測定可能な採血量(3.1–8.0 mL)の陽性率は9.2%で,陽性率に有意差を認めなかった。最適な採血量と10.1 mL以上(陽性率8.7%)との比較では有意差を認めず,4.0 mL以下(陽性率4.0%)の比較では有意差を認めた(χ二乗検定p < 0.01)。

Figure 3 嫌気ボトルの検体量別ボトル数と血液培養の陽性率および汚染率

8.1–10.0 mLと比較して4.0 mL以下の採血量で陽性率が有意に低下した。

検討した3,788本の嫌気ボトルのうち,血液量が最適な採血量(8.1–10.0 mL)であったのは1,022本(26%)であり,4.0 mL以下は248本(7%)だった。

陽性ボトルのうち起因菌と思われる菌が検出されたボトルの平均検体量は9.0 mL,汚染菌が検出されたボトルの平均検体量は8.9 mLであり,有意差は認められなかった。

偏性嫌気性菌は検体量1.0–13.7 mLで検出されており,平均検体量は7.7 mLであった。

4. 分離菌株数

最も多く検出されたのはEscherichia coliE. coli)で好気ボトルと嫌気ボトルを合わせて219株検出された。次いでE. coliを除く腸内細菌科細菌138株,CNS 123株,Staphylococcus aureus 99株,緑色連鎖球菌29株,ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌27株,Streptococcus pneumoniae 25株,Bacillus属24株,腸球菌24株,嫌気性菌15株,酵母用真菌10株,Corynebacterium属8株,その他44株が検出された。汚染菌として検出されたのはCNS 68株,Cutibacterium acnes 2株,Micrococcus属0株,Viridans-group streptococci 3株,Corynebacterium属8株,Bacillus属(B. anthracisを除く)13株であり,汚染率は4.2%であった。

IV  考察

本検討の調査期間2年間,3,788セットの血液培養を解析した結果から,好気ボトルでは,最適な採血量とそれ以外の範囲の採血量で陽性率に有意差は認められなかった。

嫌気ボトルにおいては9.1–10.0 mLの検出率をピークとし,その前後で大きな変動があったが,検査の性質として検体量1 mLの変化で検出率に有意なW字型の変動があるとは考えにくく,4.1 mL以上では検出率に有意差は認められないと考えた。4.0 mL以下では検出率が有意に低下しており,偽陰性が起こる可能性が示唆された。

検出菌については,大曲ら5)が行った全国規模の実態調査ではCNSの分離率が高い傾向があった。鎌倉ら6)の報告でもCNSの分離率が高い傾向があり,病床数や地域の差が検出菌種に直接影響を与える可能性は否定的としているものの,重症例のみ血液培養採取が行われた場合に,腸内細菌の分離率が汚染率を超える可能性を指摘している。当院ではE. coliの分離率が最も高かった。採血量を増やすとE. coliの分離率が上昇するという報告もあるが7),本研究では患者背景の調査を行っておらず,起因菌の検出頻度が採血量による影響があるかは今後の課題としたい。

また好気ボトルでは,起因菌が検出されたボトルは,汚染菌が検出されたボトルと比べて平均検体量が有意に多かった。Cockerillら2)は採血量10–40 mLの陽性率を比較し,採血量が増加すると陽性率も上昇すると報告している。汚染菌は採血時に混入するため,採血量の影響は受けないのに対し,敗血症などの起因菌は検体量が増加することで検体中の菌量が増加し,検出率が上昇すると考えられた。

適切な検体量は,ボトルに含まれる培地と血液の割合や抗菌薬の活性を抑えるレズンの量により設定されており,検体量が多すぎても少なすぎても偽陰性が起こると言われている8)。ある閾値(本研究では1セットで26.1 mL)を超えた場合に菌の発育条件が悪くなり検出率が有意に低下したと考えられる。このことより,起因菌の検出率を上昇させるためには,過剰な検体の接種は避け,推奨採血量を目標に2セット採取が適切と考えられる。

当院では複数セット採取率が95.7%であり,複数セット採取が定着している。一方,本研究において血液培養の採血量は好気ボトル24%,嫌気ボトル26%が最適な量で実施されていたが,嫌気ボトルの7%は陽性率が有意に低下した採血量で実施されており,血液培養実施における採血量についても啓蒙する必要があると考える。

血液培養検査をより有用なものとするために,施設で採用している血液培養ボトルの特性や適切な採血量を理解し検査を行う必要がある。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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