Japanese Journal of Medical Technology
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Materials
An attempt to standardize hematoxylin–eosin staining: Color of hematoxylin-eosin staining most favored among pathological technologists and pathologists in the Chubu district based on the summary list of the questionnaire survey
Hiroyoshi YUGITomohiro FUJITAKinji SAKOAtsushi ASANORyosuke KIKUCHIGen OKADAIkuya NAKANE
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2022 Volume 71 Issue 1 Pages 120-129

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Abstract

病理診断は治療方針の決定と直結しているため,標本の作製には高精度な技術が求められる。病理診断の根幹であるヘマトキシリン・エオジン染色(以下HE染色)は最も重要な技術の一つであるが,染色工程は各施設多種多様であること,色調の客観的評価が難しいこと,基準となる指標がないことなどから,安定した結果を得ることが困難とされている。また,施設間で染色性が相違し,各施設で異なる染色標本を使用していることも事実である。より正確な診断のためには安定した染色結果を得ること,施設間の相違を解消して,どの施設においても同水準の検鏡ができるよう色調の標準化が不可欠と考える。そのための第一歩として,中部圏内の各施設に標本画像(平成28年度,平成29年度に愛知県臨床検査技師会精度管理調査で用いた標本の画像)を添付ファイルにて送付し,病理技師,病理医の評価を求めた。具体的には,染色の色調が異なる標本画像の中から最も好みとする標本を選択し,その結果をメールにて返信してもらった。各施設のデータを集計した結果,一番多く選ばれた標本の色調や,同一施設内の技師間でも個人差が確認された。さらに,病理医の方が病理技師よりもエオジンの濃い色調を好む傾向があった。今回の調査から好まれるHE染色の色調の範囲が概ね把握できた。本調査結果がHE染色の標準化推進に向けての一助になればと考える。

Translated Abstract

Since a pathological diagnosis is directly linked to the treatment of patients, pathological technologists should prepare high-quality specimens for precise diagnosis. Hematoxylin–eosin (HE) staining is one of the most important tools for the pathological diagnosis. However, it is difficult to obtain consistent results because of differences in the staining procedure carried out among laboratories. For accurate pathological diagnosis, HE-stained specimens of the highest quality should be prepared. Therefore, the standardization of the HE staining color that is consistent among all laboratories is indispensable for preparing high-quality specimens. As the first step for standardization, we asked pathological technologists and pathologists working at pathological divisions of hospitals in the Chubu district, Japan, to evaluate the color of the prepared specimens sent by e-mail as images in attached files, which were also used in the control survey carried out in 2017–2018 by the Aichi Association of Medical Technologists. We requested them to select the specimen they most favored among the HE-stained specimens with a wide spectrum of colors. In conclusion, the response summary showed that the pathologists generally favored a deeper eosinophilic tint than the pathological technologists and that there was diversity in preferences among the pathological technologists even in the same laboratory. A range of preferences among medical professionals was also revealed. This questionnaire survey could be helpful to standardize the HE staining procedure.

I  はじめに

HE染色は病理診断において最も一般的で,最も重要な染色であるにも関わらず,標準的な色調も定められておらず,施設により染色性にかなりのばらつきがあるのが事実である1)。染色性の標準化は,施設間における同水準のHE染色標本の作製を可能とし,安定した検鏡と診断に繋がる。慢性的な病理医不足が切実な現在,一人の病理医が他施設の標本を診る機会も多い。また,セカンドオピニオンで他院標本を診断する機会も増えてきている。安定した組織診断を得るために,施設間による染色性のばらつき解消と,再現性がある同質の標本作製を確実にして,提供することが必須である。そのためには病理医の協力を仰ぎつつ,技師側から標準となる染色の色調を提案することも,染色性の標準化に向けた効果的な方法であると考える。幸い,最近の機器(分光測色計)の使用により,標準化に必要な客観的数値で染色性を表すことができるようになったことは標準化実現のための大きな契機となり,標準化への好機であると思われる2),3)

II  目的

現状では各施設により,HE染色における2色のバランスとグラデーションがまちまちであり,いわば施設における一種の伝統となっている。したがってその施設で教育された病理医はその施設の色調を基準に診断している。つまり,「標本の好み」が施設ごと,病理医ごとに異なる。ある病理医が他施設の標本を診る場合,あるいは他施設にコンサルトする場合,嗜好の差異は標本の見やすさに多大な影響を与え,結果的に診断の精度に深く関与する可能性が高い。標準化により,当初は混乱があるかもしれないが,将来的にはどの施設でも,どの病理医でも同じ色調の標本で診断できるようになり,診断精度向上に対する寄与は計り知れないと考える。そのためには病理医と病理技師の両者のHE染色の染色性に対する認識を統一することを目的としたい。

III  対象・方法

今回のアンケート調査に際し賛同を得た中部圏(石川,富山,岐阜,三重,愛知,静岡)の病理医(常勤・非常勤・後期研修医)並びに病理技師を対象とした。平成28年度,平成29年度に精度管理調査(公益社団法人愛知県臨床検査技師会)で用いた標本画像を分光測色計(コニカミノルタ:CM-5)で数値化し,そこから色調の異なるそれぞれ8個を選別し,ルーペ像・弱拡大・強拡大の標本写真を撮り,8枚の写真を平成28年度,29年度ごとに1枚のスライド画像にまとめ,中部圏内の各施設にメールで添付し,評価を依頼した。すなわち淡から濃へと段階的に色調の違う標本画像(平成28年度:Figure 1,平成29年度:Figure 2)を見て,各施設の病理医や病理技師に最も好みの標本を選択してもらい,メールでの回答を依頼した。

Figure 1 各施設へ提示した8標本分の肝組織HE染色スライド(ルーペ像,弱拡大,強拡大)

エオジンに対し,淡染色標本から濃染色標本まで選別された像に,それぞれ1~8まで付番して提示した。

Figure 2 各施設へ提示した8標本分の扁桃組織HE染色スライド(ルーペ像,弱拡大,強拡大)

ヘマトキシリンに対し,淡染色標本から濃染色標本まで選別された像に,それぞれ1~8まで付番して提示した。

平成28年度の標本は肝組織で,平成29年度の標本は,扁桃組織を使用した。前者はエオジン染色が,後者はヘマトキシリン染色が基調となるため選ばれた。平成28年度,平成29年度ともに,定型の固定,包埋処理後,全自動連続薄切装置(サクラファインテックジャパン:スマートセクション)で,3 μmの厚さで薄切した。未染色標本は愛知県内55施設に配布され,各施設で染色されたのち,回収された4)~6)。染色標本の染色性は分光測色計で数値化され,その数値を基盤とし,さらに愛知県病理細胞研究班班員の評価を加味したうえで濃淡異なる代表的色調の8個を選別した(平成28年度 肝組織:Figure 3,平成29年度 扁桃組織:Figure 4)。

Figure 3 H28年度精度管理調査で用いたHE標本(肝組織)

分光測色計で数値を出し,エオジンに対し淡染色標本から濃染色標本に並べた。そこに班員の評価を加味したうえで段階の違う8標本を選別した(赤丸枠)。

Figure 4 H29年度精度管理調査で用いたHE標本(扁桃組織)

分光測色計で数値を出し,ヘマトキシリンに対し淡染色標本から濃染色標本に並べた。そこに班員の評価を加味したうえで段階の違う8標本を選別した(赤丸枠)。

IV  結果

参加施設は6県,90施設であった。そのうち技師及び医師双方の回答が得られた施設は70施設であった。総数では技師は399人,医師は156人,合計555人の回答が集計できた(Table 1)。

Table 1  参加施設数・参加人数
施設 技師・医師両方
回答施設
技師 医師
愛知県 45 38 214 90
静岡県 14 11 70 25
三重県 13 10 40 16
岐阜県 8 4 32 5
石川県 6 4 25 9
富山県 4 3 18 11
合計 90(施設) 70(施設) 399(人) 156(人)

今回のアンケートで,肝組織,扁桃組織のルーペ像,弱拡大,強拡大の好まれる色調(①~⑧)を調査し,県ごとの人数を集計した(Table 2, 3)。

Table 2 肝組織(ルーペ像,弱拡大,強拡大)における病理技師と病理医の集計結果(各県の人数)
Table 3 扁桃組織(ルーペ像,弱拡大,強拡大)における病理技師と病理医の集計結果(各県の人数)

それぞれに対して最も好ましいと選んだ標本の付番が判明した。肝組織ルーペ像では,選別された8標本の付番の中で病理技師は⑦,病理医は⑧であった。肝組織弱拡大では,病理技師は⑤,病理医は⑧であった。肝組織強拡大では,病理技師は⑥,病理医は⑧であった。扁桃組織ルーペ像では,病理技師,病理医ともに⑥であった。扁桃組織弱拡大では,病理技師,病理医ともに⑤,扁桃組織強拡大では,病理技師,病理医ともに⑥であった。

また,選別された8標本の弱拡大写真から,付番した番号の差が2段階異なる場合(ex.⑤と⑦:Figure 5),3段階異なる場合の施設数を抽出し,県ごとに集計した。さらに,自施設内での技師間,病理医間で好みの差があった施設数と割合を示す(Figure 6)。

Figure 5 選別された8標本の弱拡大写真から,付番した番号の差が2段階異なる場合(肝組織,扁桃組織)の比較例(⑤と⑦)

付番した番号で差が2段階違うだけで色合いが違って見える。

Figure 6 自施設内での病理技師間,病理医間で好みの差があった施設数と割合

病理技師全体では,施設内での色調の好みの違いが4割弱認められた。

V  考察

今回のアンケート調査により,HE染色の色調に対する好みにつき以下の点を考察した。

1. HE染色の色調の好みに関する各県の特異性について

各県の結果を集計したが目立った偏りはなく,県による差異はほとんど認められなかった。

2. 最も好まれたHE染色の色調について

病理技師,病理医ともに,バラツキはあるものの,好みとする染色の色調範囲は,概ね定まっていた。

3. 自施設での病理技師間および病理医間における好みの相違について

肝組織,扁桃組織について選別された8標本の付番した番号の差が2段階と3段階以上を合わせた割合をみると病理技師では,好みが分かれる施設が4割弱あり,同一施設内の技師間でも必ずしも好みの色調が統一されていないようである。

同一施設内の病理医間の差については,一人病理医の施設が多いため有益な知見は得られなかった。

4. 病理技師と病理医の間に色調の好みの違いについて

エオジン染色を基調とする肝組織8標本中で,病理技師と病理医がそれぞれ最も好ましいと選んだ標本の写真を比較する(Figure 7)と,病理医の選んだ色調はエオジンが濃い傾向を示した。つまり,病理技師が思っている色合いより病理医はエオジンの濃い標本を好むことになる。同様にヘマトキシリン染色を基調とする扁桃組織を比較する(Figure 8)と,病理技師も病理医も同一の標本を最も好ましいと選択する傾向があった。

Figure 7 肝組織で選別された8標本中,最も選ばれた標本番号のルーペ像・弱拡大・強拡大写真と選ばれた内訳(病理技師と病理医の比較)

最も多く選ばれた標本で,病理技師と病理医の選んだ写真を比較すると,病理技師が思っていた色より,病理医の選んだ色の方がエオジンは濃い。

Figure 8 扁桃組織で選別された8標本中,最も選ばれた標本番号のルーペ像・弱拡大・強拡大写真と選ばれた内訳(病理技師と病理医の比較)

最も多く選ばれた標本は,病理技師も病理医も同一であった。

多くの施設とかなり異なる色調を好む施設が存在することも判明し,色調の好みの相違に関する現状が把握された(Figure 9, 10)。肝組織,扁桃組織ともに,どの倍率でも20人以上が,8標本中の付番した番号⑤~⑧の範囲で選んでいる。一方,20人も満たない番号を選んだのは,すべてにおいて①~④の範囲であった。これは,まれな色調と推測される。

Figure 9 選別された8標本(肝組織ルーペ像,弱拡大,強拡大スライド)で好まれた色調の範囲

病理技師,病理医それぞれに最も選ばれた標本が赤枠で,病理技師,病理医合わせて20人以上選ばれた標本を青枠で囲む。⑤~⑧の範囲で選ばれている。20人も満たない標本①~④は,まれな色調と推測される。

Figure 10 選別された8標本(扁桃組織ルーペ像,弱拡大,強拡大スライド)で好まれた色調の範囲

病理技師,病理医それぞれに最も選ばれた標本が赤枠で,病理技師,病理医合わせて20人以上選ばれた標本を青枠で囲む。⑤~⑧の範囲で選ばれている。20人も満たない標本①~④は,まれな色調と推測される。

VI  結語

今回の我々の試みでは中部6県という広い範囲の,しかも多くの病理技師,及び病理医に協力をいただくことができたことは幸いであった。さらには,染色諸工程の相違は度外視し,すでに色の客観的数値化された染色標本のみで評価していただいた。

技師自身が現状でどのレベルの染色をしているか,他施設の染色と比較してどのような差異があるかを知ることはよりよい染色標本を作製するうえで重要である。病理技師,病理医がそれぞれ染色の偏った好みを放置していては診断精度の安定化,厳正化は困難なままである。病理診断の根幹であるHE標本の標準化が必要とされる所以である。また,遠くない将来,AI診断が実現化すればHE染色の標準化は不可欠となってくるであろう。今回の試みは自他の現状をまず知ることであり,標準化を進めるうえでの最初の段階で,不可欠なステップと考える。今後は,①病理医との緊密な協調の下,今回同様のデータを広く集積し,②色調の範囲(許容範囲)を定め,③その範囲の色調を客観化するため分光測色計などにより精密な数値に換算し,④この範囲をHE染色の基準とし,⑤HE染色における標準的な色調を作出できるよう,段階的に研究を前進させたい。

本論文の要旨は,第58回中部圏支部医学検査学会で発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本論文を執筆するにあたり,ご指導,ご助言いただきました小野謙三先生(旭ろうさい病院病理診断科)並びに協力して頂いたサクラファインテックジャパン,コニカミノルタ,愛知県病理検査研究班班員の方々,及びご意見をいただいた中部6県の病理技師・病理医の先生方に深謝申し上げます。

文献
 
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