Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case in which Sternheimer staining was useful for diagnosis of diarrhea caused by Blastocystis hominis
Yuka MIWARiko TAKEZAWAYayoi FUKUDATomoyuki TSUCHIYAHitomi UBARAYuka ONOKazuho ISHIZAKIMakoto KANEKO
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2022 Volume 71 Issue 1 Pages 148-152

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Abstract

Blastocystis hominisB. hominis)はヒトの大腸に寄生し,下痢や嘔吐を引き起こす原虫として知られているが寄生していても無症状のこともあり,その病原性に関しては未だ不明な部分も多い。今回,B. hominisが原因と考えられる下痢症を経験したので,染色法と併せて報告する。症例は80代,男性。頻回の下痢の精査目的に提出された便のグラム染色で寄生虫が疑われ,その後に提出された便の直接薄層塗抹法で虫体を確認し,B. hominisと報告した。本症例をB. hominisによる下痢症と考えた理由は ①虫体が検出されたこと ②下痢の起因菌の検出がなかったこと ③血中好酸球が増加したこと ④メトロニダゾール処方により症状改善と好酸球数が減少したことの4つが挙げられる。しかし,③と④については因果関係がはっきりしないためB. hominisによる下痢症と断言することはできないが,寄生虫感染による好酸球増多が推測される症例であった。B. hominisを鑑別する際,各染色法の比較を行った。グラム染色,ヨード染色,ギムザ染色に加え,尿沈渣鏡検で使用するSternheimer染色(S染色)を実施した。どれも染色性は良好であったが,S染色は内部構造が明瞭に観察できた。S染色は簡便かつ身近な染色法であるため,B. hominisの検出において有効な染色法であると考えられた。

Translated Abstract

Blastocystis hominis is a protozoan that parasitizes the human large intestine and causes diarrhea and vomiting, but its pathogenicity remains unclear. In this paper, we report a case of diarrhea that was suspected to be due to B. hominis infection and was diagnosed on the basis of the results of staining methods. A man in his 80s had persistent diarrhea that was suspected to be due to a parasitic infection on the basis of Gram staining of his stool. Direct thin-layer smearing of the stool confirmed the parasite to be B. hominis. The reasons for considering this case as diarrhea caused by B. hominis were as follows: (1) trophozoites were detected, (2) no causative agent of diarrhea was identified, (3) the blood eosinophil count was high, and (4) digestive symptoms and eosinophilia were improved by taking metronidazole. However, since the causal relationship between (3) and (4) is not clear, it cannot be said that the diarrhea was caused by B. hominis, but it could be a case in which eosinophilia due to parasites was presumed. We attempted to compare techniques of staining B. hominis. The differential staining methods used were Gram staining, iodine staining, and Giemsa staining. Sternheimer (S) staining used for urine sediments was also performed. The stainability was good for all these methods. Our results suggest that S staining was the best method for observing internal structures. Since this simple and easy S staining can be performed in a relatively large number of facilities, it was considered an effective staining method for detecting B. hominis.

I  序文

Blastocystis hominis(以下B. hominis)は1911年Alexeieff,1912年Brumptにより発見され1),長年に渡り非病原性酵母の1種と考えられていたが,近年では分子分類によって原虫であることが判明し,Stramenopilesに分類された。各種の哺乳類,鳥類,爬虫類,両生類から検出され,古くから世界中に広く分布していることから,糞口感染のリスクが高い衛生状態の悪い地域では,ヒトへの感染率が30~50%というところも少なくない。わが国でも病院患者の0.8%~3.8%に感染が見られたとの報告があり,新興・再興感染症の一つに取り上げられている2)。糞便に検出される形態は,液胞型,顆粒型,アメーバ型の栄養型および嚢子型であり,細胞の中央部が液胞状の大きな中央体で占められ,核や細胞質が周辺に押しやられている液胞型や,顆粒状物質が認められる顆粒型が高頻度に観察される。栄養型の大きさは5~50 μmと同一検体中でも変化に富み,嚢子型は3~5 μmと光学顕微鏡では観察困難である3)。感染経路は完全には解明されていないが,嚢子型の経口摂取によると考えられている2)

今回,高度な下痢の患者から,便グラム染色,直接薄層塗抹法にてB. hominisが検出されたこと,下痢の起因菌は検出されず,明らかな要因もなかったことから,B. hominisが原因と考えられた症例を経験した。また,虫体の検出における染色法の比較を行ったので,症例と併せて報告する。

II  症例

患者:80代,男性。

主訴:浮腫,腹部膨満感,食欲不振。

既往歴:高血圧。

現病歴:当院への入院の約2ヶ月前,転倒による右大腿骨骨折を契機に腸管ガス像が顕著であることを指摘され,S状結腸軸捻転と診断,腸管減圧を目的に近医に入院した。その時は肛門からの排ガスによる減圧にて一時的に改善したことから翌日に自主退院した。しかしその後,しばしば腹部膨満感により食事摂取が困難となり,両下腿浮腫を発症したため当院を受診した。同日,S状結腸イレウスと診断され加療目的に入院となった。入院時には明らかな嘔気,嘔吐,下痢,腹痛はなかった。入院時の血液検査所見をTable 1に示す。

Table 1  入院時血液検査所見
生化学 血液
TP 6.1 g/dL WBC 4.6 × 10³/μL
ALB 3.6 g/dL RBC 396 × 104/μL
BUN 13 mg/dL HGB 12.9 g/dL
CREAT 0.77 mg/dL HCT 37.6%
Na 141 mmol/L PLT 18.3 × 104/μL
K 2.5 mmol/L SEG 54.1%
CL 97 mmol/L LYMP 28.4%
Ca 8.9 mg/dL MONO 7.4%
AST 19 U/L EOSI 9.0%
ALT 9 U/L BASO 1.1%
ALP 164 U/L
LD 239 U/L
CRP 0.1 mg/dL

臨床経過:入院の第1病日目,イレウスに対して内視鏡的減圧術を施行し,イレウス管が挿入された。しかし,イレウス管からの排液は少なく,肛門から直接多量に排便されるようになったため,第3病日目には抜去された。排便回数も第4病日目から増え始めて下痢症状を訴えるようになり,ピーク時には20回/日を超えていた(Figure 1)。入院時の白血球数4,600/μL,好酸球比率は9%であったが,第8病日目には白血球数5,100/μL,好酸球比率22.5%まで上昇した(Figure 2)。下痢の原因検索のため,第10病日目に便培養および集卵法の依頼があり実施した。集卵法は陰性であったが,グラム染色にて寄生虫が疑われた。この時,直接薄層塗抹法も実施しグラム染色と同様のものを探したが,寄生虫と判断するに至らなかった。便培養の結果は,腸管内正常細菌叢の検出のみで下痢の起因菌は検出されなかった。第14病日目の内視鏡後に提出された便の直接薄層塗抹法にて2分裂している虫体を確認し,B. hominisと報告した。第15病日目にメトロニダゾール(MNZ)2,000 mg/day × 5日間の加療が開始となり,第17病日目に退院した。退院後の外来では,第27病日目に白血球数6,000/μL,好酸球比率7.6%,第55病日目に白血球数5,000/μL,好酸球比率2%まで改善した。なお,入院前から退院時までの期間に抗菌薬の処方は無かった。

Figure 1 排便回数

便性状は,泥状,水様,粘液便であり,特に夜間の排便が多かった。

Figure 2 白血球数と好酸球比率

MNZ:metronidazole 250 mg 8T(2,000 mg)×5日間

III  原虫検査

1. グラム染色

第10病日目に提出された泥状便のグラム染色をバーミー法(富士フイルム和光純薬株式会社)で行った(Figure 3)。球形で,中央に大きな空胞を持つ指輪状の虫体4)が観察され,B. hominisを疑った。

Figure 3 グラム染色(×1,000)

第10病日目に提出された便培養のグラム染色

2. 集卵法

第10病日目に提出された泥状便の集卵法をホルマリン・エーテル法(MGL法)で行った。結果は陰性であった。

3. 便直接薄層塗抹法(無染色)

第14病日目,内視鏡後に提出された水様便で,中央部が液胞状の大きな中央体で占められ,核や細胞質が周辺に圧排された液胞型の特徴ある虫体が観察できた。また,ピーナッツ様に2分裂している虫体が多数確認できたため,B. hominisと判定した(Figure 4)。

Figure 4 直接薄層塗抹法(無染色)

第14病日目に提出の糞便に見られた液胞型と2分裂した栄養型

4. 各染色法の比較

グラム染色(A),ヨード染色(B),ギムザ染色(C),Sternheimer染色(S染色)(D)を実施した。各染色法の染色性は良好で特徴的な2分裂体の判別は可能であったが,グラム染色,ヨード染色,ギムザ染色において,内部構造は不明瞭であった。一方S染色では,核は青色に,細胞質は淡いピンク色に染まり内部構造が明瞭に観察できた(Figure 5)。

Figure 5 各染色法の比較(第14病日目)

A:グラム染色 B:ヨード染色

C:ギムザ染色 D:Sternheimer染色

なお,Figure 45は×400で撮影したものを拡大した画像である。実際の大きさは10~15 μmで,尿沈渣の白血球大であった。

IV  考察

B. hominisはヒトの大腸に大量に寄生し,特に盲腸内で増殖すること,症状としては下痢,腹痛,嘔吐などを引き起こすことが知られているが3),寄生していても無症状のこともあり,その病原性に関しては未だ不明な部分も多い。このため,下痢の原因検索によって便からB. hominisが多数検出されることに加えて,この虫体以外の他の病原体や原因が見当たらない場合にはB. hominis感染による下痢症と除外的な診断がなされる2)。堀木ら5)は,下腹部痛を主訴とした1症例においてMNZを投与した結果,症状が改善し,虫体が消失したことからB. hominis感染症として報告している。

本症例は,①糞便中に虫体が多数検出されたこと ②ウイルス検査は実施していないためウイルス性の下痢の可能性は完全には否定できないが,下痢の起因菌の検出や原因となるエピソードがなかったこと ③好酸球が増多したこと ④MNZ処方により,下痢,好酸球数ともに改善したこと。以上の4点により,B. hominisによる下痢症が最も疑われた。しかし,③,④については疑問が残る。③の好酸球増多について,堀木ら5)は全経過中で血中好酸球の増加はなかったと報告しているが,Vannattaら6)によると,B. hominisによる下痢を繰り返す患者が好酸球増多を示したとの報告もある。④のMNZに関してはそれ自体の抗炎症作用により好酸球増多が改善する可能性があるため,MNZの投与がB. hominis感染による下痢の症状改善に有効であったのか明らかではない。また,B. hominisの治療において,MNZの処方により一過性に数が減少するが,完治するのは難しいとの報告がある3),7)。今回,退院後の外来受診時には糞便検査を実施しなかったので,B. hominisの消失時期の確認はできなかった。以上のことから,本症例ではB. hominisの感染によって好酸球増多が起こり,MNZの投与によりその値が低下した点については明言できない。しかし,腸軸捻転やイレウスによる長期間の腸管閉塞により,腸管内に潜んでいたB. hominisが増殖したことで好酸球増多が起こり,MNZの投与によって下痢症状の改善と共に好酸球数が低下した可能性も考えられる。

糞便中に見られるB. hominisの典型的な形態は,中央体をもつ球形の液胞型と記載がある3)。しかし,第10病日目のグラム染色でB. hominisを疑った際,当院では経験がなく確信が持てなかったため日本寄生虫学会にコンサルテーションを依頼したところ「B. hominisであると思うが典型的な2分裂像が確認できれば間違いない」と助言を得た。その後,直接薄層塗抹法にて2分裂像を確認し判定することができたが,自施設で判断できない場合は躊躇することなくエキスパートオピニオンを求めるべきある。寄生虫は種によって治療薬が異なることからも,正確な診断は必須である。

B. hominisを検出する方法として,MGL法は虫体がエーテル層とホルマリン層の間にある中間糞便層に取り込まれてしまうため検出が難しいとされている8)。本症例でも集卵法では検出できず直接薄層塗抹法で検出できたため,B. hominisの検出には直接薄層塗抹法が適していると考えられた。また,通常B. hominisの糞便検査ではヨード染色,ギムザ染色やコーン染色が実施されるが,今回,尿沈渣で使用するS染色において,核と細胞質の染め分けが明瞭であるなど良好な染色態度が確認できた。また,S染色は操作が簡単であり,比較的多くの施設で実施できる染色法であることからB. homonisに対してS染色が有用であると考えられた。しかし,一般的に寄生虫に用いられる染色法は原虫を殺滅しつつ染色するのに対し,S染色は感染に対する安全性が担保された染色法ではないため,感染に注意して実施する必要がある。

V  結語

本症例はグラム染色の結果からB. hominisを疑うことができた。寄生虫の検出は診断・治療に結び付くものであり,患者情報の取得,材料の状態による検査法の選択,他の検査室との連携により,病原体の存在を見逃さないことが重要である。私たち検査担当者は日頃から寄生虫感染症に興味をもち,診断に有用な検査結果を報告していきたい。

本論文は三井記念病院倫理委員会の承認を得た(承認番号:MEC2020 No. 50)。

本文の要旨は,第67回日本医学検査学会で発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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