2022 Volume 71 Issue 1 Pages 95-100
イベントレコーダー(ER)は非侵襲的に心電図の長時間記録(1~2週間)が可能であり,12誘導心電図や24時間ホルター心電図に比較し不整脈イベント(AE)の検出率が高い。今回,当院でのERの装着理由,AE検出率とAEに対する治療内容変更の有無について調査した。装着理由は,自覚症状精査が全体の約80%を占めた。AE検出率は,自覚症状のある患者では24.8%であった。特に意識消失患者においては,46%で原因となるAEが検出できた。一方,自覚症状のない患者でも9.7%にAEが検出された。また,ERには不整脈自動検出機能があり,自覚症状の有無に関わらず,臨床的に有意な不整脈が疑われる患者には有用である。ERにて検出できた初回AEの検出率を見ると,24時間ホルター心電図相当分の1日目は37.5%,2~7日目は62.5%であった。特にER装着後3日間のAE検出率は84.4%と高率であった。このことから,装着日数が長い程AE検出率は向上するが,長期に装着できない場合では,最低3日間の装着でも高いAE検出率が期待できると考えられた。AEを認めた患者のうち59.4%で治療内容が変更された。以上より,ERは原因疾患に対応した医療を提供するために有用な検査と言える。
The event recorder (ER) is a non-invasive long-term ECG recording tool that is equipped with an automatic arrhythmia detector and can be used continuously for 1–2 weeks. It has a greater detection rate for arrhythmic events (AEs) than a 12-lead ECG equipment or 24-hour Holter monitor. In this study, we investigated the reasons for the use and the AE detection rate of ER. We also determined whether changes in medical treatment were made after AE detection. Nearly 80% of the respondents gave causal AE detection as the reason for the use of ER for monitoring symptoms. The AE detection rates were 24.8% in symptomatic patients, 46% in patients with syncope, and 9.7% in asymptomatic patients. The ER is useful for detecting clinically relevant arrhythmia(s) for patients with or without symptoms. The detection rate for the initial AE on the first day of using ER, which is equivalent to 24-hour Holter monitoring, was 37.5%, but it increased to 62.5% when extended up to 7 days; 84.4% of the initial AE was detected within the first three days. On the basis of the collected data, the AE detection rate increased with the time of using ER. However, a higher AE detection rate can be expected in a 3-day monitoring, if longer-term ER is not available. Medical treatment was changed in 59.4% of patients with AE detected by ER. From these data, it is concluded that ER is a useful tool for selecting the appropriate medical treatment on the basis of the actual detection of AE.
動悸や息切れ,めまい,胸部の不快感など,原因が心臓由来と推測される症状を特定するには,一般的に12誘導心電図や24時間ホルター心電図を使用する。しかし,時間的制約があり,発作がこの期間に出現しなければ,上記の方法では,しばしば原因となる心臓イベントを検出できないことを経験する。この欠点の解決法として,症状出現時にすぐに記録できる携帯型心電計や,心電図を長時間モニタリングする埋め込み型ループレコーダーがある。しかし,前者は症状を認めた時に患者自身が携帯型心電計の電極を体表に接触させる必要があるため,短いイベントは検出が不十分となり,無症候性イベントは検出することができない。また,後者は手術が必要であり侵襲的である1)。一方,イベントレコーダー(ER)は長時間記録が可能で非侵襲的であるため,12誘導心電図や24時間ホルター心電図,さらに携帯型心電計や埋め込み型ループレコーダーの欠点を補っている。当院では2014年からERを導入している。本法では自覚症状を認めた際に患者自身がイベントボタンを押すことで,イベント発生前後の心電図波形が記録されるため,症状の原因となる不整脈の特定に有用である2)。さらに,ERの不整脈自動検出機能により無症候性のイベントも自動で記録をすることが可能である3)。
今回,当院におけるERの装着理由,イベント検出率とイベントに対する治療内容の変更の有無について調査したので報告する。
2017年12月~2019年9月までに当院でERを装着した連続148名を対象とした。内訳は男性76名,女性72名,平均年齢は64.1歳(21歳~88歳)であった。本検討は当院倫理委員会の承認(承認番号:2020-A004)を得て行った。
2. 方法電子カルテを後ろ向きにレビューして以下の4項目を調査した。① 装着理由,② イベント内容とそれぞれの検出率,③ ER装着後から初回イベントまでの日数,④ イベントに対する治療内容変更の有無。
本研究では治療が必要となる可能性が高い,① 3秒以上の心停止,② 30秒以上持続する発作性心房細動(paroxysmal atrial fibrillation; Paf)または発作性心房頻拍(paroxysmal atrial tachycardia; PAT),③ II度以上の房室ブロック,④ 10連発以上の心室頻拍(ventricular tachycardia; VT)の4項目に絞って検討した。なお,上室期外収縮(supraventricular premature contraction; SVPC)と心室期外収縮(premature ventricular contraction; PVC)は,症状との関連が証明できないこと,1日に記録可能なイベント上限が規定されており正確な出現数が不明であることから除外した。
ERは,ソーリン社製のSPIDERFLASH-t Afibを使用し,誘導はCM5誘導とNASA誘導を用いた。Table 1に示す不整脈自動検出設定を採用した。
Event | Threshold | Shortest duration (sec) |
Pre-event recording time (sec) |
Post-event recording time (sec) |
---|---|---|---|---|
SVT | 150 | 15 | 180 | 180 |
%SV | 75 | |||
VT | 120 | 15 | 180 | 180 |
%V | 80 | |||
Irregular RR | 30 | 120 | 120 | |
Bradycardia | 40 | 30 | 120 | 120 |
Pause | 3,000 | 60 | 60 | |
Missed beat | 1,000 | 120 | 120 |
%SV: Ratio of supraventricular extra systole RR interval and preceding RR interval
%V: Ratio of ventricular extra systole RR interval to preceding RR interval
RR: RR interval
上室性不整脈と心室性不整脈の判別はQRS幅100 ms未満を上室性不整脈,100 ms以上を心室性不整脈とした。頻拍は,上室性頻拍(supraventricular tachycardia; SVT)は150 bpm以上,VTは120 bpm以上として,15秒以上持続した場合に前後180秒(計360秒間)を記録するように設定した。SVPCは先行するRR間隔の75%以上,PVCは80%以上の早期性がある場合と設定した。Irregular RRはQRSのRR間隔が不整で30秒以上持続した場合に前後120秒(計240秒間)を記録するように設定した。Bradycardiaは40 bpm以下で30秒以上持続した場合に前後120秒(計240秒間)を記録するように設定した。PauseはRR間隔が3,000 msec以上と設定し,前後60秒(計120秒間)の記録とした。QRSの脱落は先行するRR間隔より1,000 msec以上のRR間隔延長と設定し,前後120秒(計240秒間)の記録とした。心電図波形は装着開始から24時間までは全波形を記録し(24時間ホルター心電図に相当),24時間以降は患者がイベントボタンを押した時と,不整脈自動検出機能によりイベントを記録した。
統計は,自覚症状のある症例のイベント検出率と自覚症状のない症例のイベント検出率の統計的有意差の検定にExcelを用い,unpaired student t検定で比較した。
ERの装着期間は平均7日(2日~15日)であった。
1. 装着理由(Figure 1)A 79% of patients had any symptoms such as palpitation (56%), loss of consciousness (9%), dizziness (8%) or chest symptoms (7%).
装着理由の内訳は,動悸症状83例(56%),意識消失13例(9%),めまい11例(8%),胸痛や不快感など胸部症状10例(7%)とER装着前に自覚症状を有する症例が117例(79%)であった。一方,心エコーで原因不明の左房拡大・左房機能低下を認め,Pafの存在が疑われた症例17例(11%),不整脈の定期フォロー8例(5%),カテーテルアブレーション(ABL)後4例(3%),ペースメーカのチェック2例(1%)の計31例(21%)が事前の自覚症状がない症例であった。
2. イベント内容イベントは,32例(21.6%)で検出された。イベント内容を自覚症状の有無に分けてTable 2に示す。
Patients with subjective symptoms 117 cases |
Patients without subjective symptoms 31 cases |
Total 148 cases |
|||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Palpitations 83 cases | Loss of consciousness 13 cases | Dizzy 11 cases | Chest symptoms 10 cases | Suspected paf by echocardio graphy 17 cases |
Follow of arrhythmia 8 cases |
Follow after ABL 4 cases |
Patients with pacemaker implants 2 cases |
||
Cardiac arrest for 3 seconds or more | 0 | 4 (31%) | 0 | 1 (10%) | 0 | 0 | 0 | 0 | 5 (3%) |
Paf/PAT lasting 30 seconds or more | 16 (19%) | 1 (8%) | 1 (9%) | 1 (10%) | 0 | 1 (13%) | 0 | 0 | 20 (14%) |
Atrioventricular block above second-degree | 2 (2%) | 1 (8%) | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 (2%) |
VT lasting more than 10 consecutive episodes | 1 (1%) | 0 | 1 (9%) | 0 | 2 (12%) | 0 | 0 | 0 | 4 (3%) |
Sub total | 19 (23%) | 6 (46%) | 2 (18%) | 2 (20%) | 2 (12%) | 1 (13%) | 0 | 0 | 32 (21.6%) |
Total | 29 (24.8%) | 3 (9.7%) |
自覚症状のある症例のイベント検出率と自覚症状のない症例のイベント検出率に有意差はなかった(p = 0.069)。しかし,ER装着前に意識消失があった症例では46%で原因が特定でき,イベント検出率は他の装着理由と比べて有意に高かった(p < 0.05)。一方,ER装着前に自覚症状がなかった症例でも9.7%にイベントが検出された。
さらに,ER装着前に自覚症状を有する患者のみを対象としてイベントの正診率を検討した(Table 3)。
Symptoms (+) | Symptoms (−) | Total | |
---|---|---|---|
Event (+) | 9 | 14 | 23 |
Event (−) | 52 | 35 | 87 |
Total | 61 | 49 | 110 |
ER装着前と同じ症状が出現し,症状を説明しうるイベントは9例で検出された。また,ER装着中無症状でも14例でイベントが検出されていた。症状に対するイベントの陽性率は39.1%,陰性率は40.2%,正診率は40.0%であった。
3. ER装着後から初回イベント検出までの日数(Figure 2)Arrhythmic events were detected in 12 patients 1 day after installation of ER, while an 88.4% of events were detected within 3 days after installation of ER.
イベントが検出された32例でER装着後から初回イベント検出までの日数を検討した。24時間ホルター心電図に相当するER装着後1日以内にイベントを検出できた症例は12例(37.5%)にすぎなかった。ER装着後2日以内はさらに10例(31.3%),3日以内はさらに5例(15.6%)でイベントが検出され,イベントの大半(84.4%)がER装着3日以内に出現していた。その後イベントの検出は少なくなり,8日目以降に初回イベントが検出された症例は認めなかった。
4. イベントに対する治療内容の変更イベントを検出できた患者のうち19例(59.4%)で治療内容が変更されていた。その内訳は,3秒以上の心停止を認めた5例中4例にペースメーカが植込まれ,30秒以上のPafやPATを認めた20例中8例にABLが施行され,2例で新規薬剤の開始または投与薬剤が変更されていた。さらに,II度以上の房室ブロックを認めた3例中,1名で投与薬剤の変更,10連発以上のVTを認めた4例全員で新規薬剤の開始または変更があった。
ERは自覚症状を認める患者に対して装着することが多く,本研究でも79%が自覚症状を有する患者であった。川崎ら4)は,動悸症状のある患者に約1週間ERを装着した結果,30%の患者でPaf/PATが検出されたと報告している。本研究では,自覚症状のある患者のイベント検出率は24.8%であり,同様の結果と考える。さらに,意識消失を認めた患者ではイベント検出率が46%と約半数で原因を特定することが可能であった。Linzerら5)は,24時間ホルター心電図による失神原因の診断率は10%程度と低く,ERではその診断率が25%に向上したと報告している。このように自覚症状のある患者に対するERは有用な検査である。一方,自覚症状のない患者でもイベント検出率は低いものの,9.7%にイベントが検出され潜在性不整脈を有する症例が少なくないことが分かった。
ERは不整脈の出現頻度を定量化することはできない。特にPVCやPAC等,出現頻度が高くノイズ混入が多い不整脈の出現傾向をモニタリングするには,むしろ24時間ホルター心電図がERより勝っている。一方,今回検討した3秒以上の心停止やPaf,房室ブロック,VT等の出現頻度が少ない不整脈では,ERによる長時間記録が検出率で24時間ホルター心電図に勝る。加えてERは自覚症状のない不整脈検出でも有用性が高い。これらのイベントが疑われるケースでは,診断やその後の治療に結び付きやすい点も含め,ERはより有用な検査であり,目的とする不整脈によってmodalityを選択することが必要と考えられる。
鈴木ら2)は,自覚症状のある患者に対してERまたは24時間ホルター心電図で不整脈が検出された61例のうち34例(55.7%)はERでしか不整脈を検出できなかったと報告している。本研究でも24時間ホルター心電図相当の1日以内の初回イベントの検出は12例(37.5%)と低値に留まり,それ以後の7日以内のイベントは20例(62.5%)で検出され,鈴木ら2)の結果と同様と考えられた。このようにER装着日数が長い程イベント検出率は向上するものの,患者の負担や機器の台数,貸出日数などの制限から長期装着が難しい場合をしばしば経験する。さらに高齢者では,自身での機器の取り外しや長期間機械をつけること自体に不安や負担を感じる場合が少なくない。本研究では,初回イベントがER装着から3日以内に27例(84.4%)で検出できていたことから,ERを最低3日間装着することで,効率的にイベントを検出できる可能性が示唆された。イベントを認めた患者のうち治療内容の変更が19例(59.4%)と半数以上で必要であったことからも,ERは,不整脈を正確に診断して,より良い医療を提供するために有用な検査と考えられた。
ERはイベント検出率や不整脈診断率,治療への寄与率が高く,特に自覚症状のある患者では有用な検査である。長期間記録が難しい場合,最低3日間のER装着が推奨される。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。