Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case of effort angina pectoris with coronary spastic angina for which 24 hour holter electrocardiography was useful
Daiki TAGEAmane KOZUKIJunya SHITETakashi NAKAZAWASatomi OSHIMAEitai YASUDAMasayuki YAMASAKIErina FUKADA
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2022 Volume 71 Issue 1 Pages 159-164

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Abstract

24時間ホルター心電図検査にて有症状時にST上昇を記録できたことを契機として,冠攣縮性狭心症(CSA)を合併した労作性狭心症(EAP)の診断および治療に至った一症例を経験した。症例は40歳代女性。既往歴は全身性エリテマトーデス,抗リン脂質抗体症候群,脳梗塞(4年前)である。1ヶ月程前より朝方に頸部への放散を伴う胸部絞扼感が出現したため,ホルター心電図を装着した。朝方の安静時に胸部症状を自覚し,一過性ST上昇をNASA誘導,CM5誘導の双方に認めた。その他にも夕方に軽労作にて,胸部症状を自覚し,形状の異なる一過性ST上昇をNASA誘導で認めた。冠動脈造影検査にて,冠動脈全体の軽度攣縮および左冠動脈前下行枝(#7)の99%狭窄病変を認めた。ホルター心電図の結果と冠動脈造影検査の結果より,CSA合併のEAPと診断し,EAPに対するカテーテル治療およびCSAに対するカルシウム拮抗剤による薬物治療を開始した。狭心症には一般にEAPとCSAがあり,それぞれの特徴,発症様式を理解しておくことで,比較的稀な合併症例においても適切な判読を行うことができると考えられた。

Translated Abstract

We detected ST elevation in Holter electrocardiography results when symptoms occurred. We encountered the case of a patient who was diagnosed as having effort angina pectoris (EAP) with coronary spastic angina (CSA). The patient was female in her 40s. About a month ago, she began to feel chest zonesthesia that radiated to the neck while resting in the morning, and she underwent Holter electrocardiography. Transient ST elevation with chest symptoms was detected on both NASA and CM5 inductions in the morning. On the other hand, transient ST elevation of a different type with chest symptoms was detected on the NASA induction in the evening on effort. In coronary angiography, mild spasm was found in the entire coronary artery. Stenosis of 99% was found in the anterior descending branch of the left coronary artery (segment 7). From the results of Holter electrocardiography and coronary arteriography, we diagnosed the patient as having EAP with CSA. The patient was treated with catheterization for EAP and calcium antagonists for CSA. Angina generally has EAP and CSA. We learned that we can accurately interpret results by understanding each characteristic and onset pattern if we encounter a relatively rare complication.

I  はじめに

冠攣縮性狭心症(CSA)において,発作が夜間から朝方の安静時に多いことから,発作時心電図による確定診断にはホルター心電図が有用であるとされている1)。しかし,胸痛を伴うST変化が確認される頻度は20~30%程度と低く,確定診断に心臓カテーテル検査による冠攣縮薬物誘発試験などを実施することもある2)。一方,労作性狭心症(EAP)においても活動時における有症状時の記録を行えることから,ホルター心電図が非常に有用な検査法であることは広く知られている。今回,我々は比較的稀なCSAを合併したEAPの症例について,ホルター心電図がその診断に有用であった一症例を経験したので報告する。

II  症例報告

症例:40歳代,女性。

主訴:頸部への放散を伴う胸部絞扼感。

既往歴:全身性エリテマトーデス,抗リン脂質抗体症候群,脳梗塞(4年前)。

現病歴:当院の膠原病内科,脳神経外科に通院加療中。1ヶ月程前より朝方に頸部への放散を伴う胸部絞扼感が出現したため,24時間ホルター心電図を装着した。使用機器はフクダ電子社製FM-960を使用。

生活歴:喫煙,飲酒はなし。

冠動脈因子:特になし。

受診時現症:身長160 cm,体重42 kg,血圧148/92 mmHg,脈拍82/分,SpO2 98~100%,心音・清,心雑音聴取せず。

【ホルター心電図解析結果】総記録時間は午前9時54分から翌日午前10時までの24時間6分。総心拍数119,373 beats。平均心拍数84 bpm。最大心拍数111 bpm。最小心拍数66 bpm。

非発作時においては明らかなST変化は認めなかった(Figure 1)。午前5時45分の安静時に胸部症状を自覚し,NASA誘導,CM5誘導の双方に一過性ST上昇を認めた(Figure 2)。

Figure 1 ホルター心電図

NASA誘導,CM5誘導の双方とも明らかなST変化は認められない。

Figure 2 ホルター心電図

NASA誘導,CM5誘導の双方にST上昇を認める。

また,午後6時55分の軽労作時にも胸部症状を自覚し,NASA誘導に形状の異なる一過性ST上昇を認めた(Figure 3)。その他の時間帯においても自覚症状は認めなかったが,一過性ST上昇を複数回認めた(Figure 4)。その他,症状と関係のない期外収縮の単発以外の不整脈は認められなかった。以上より,CSAが疑われ,循環器内科紹介となり,精査目的にて入院となった。

Figure 3 ホルター心電図

NASA誘導にST上昇を認める。

Figure 4 Heart rate,ST trend

ch.1はCM5誘導,ch.2はNASA誘導を示す。NASA誘導では最大0.4 mVを超える一過性のST上昇(赤枠)を記録した。

循環器内科入院時の安静時12誘導心電図はHR 80 bpm,洞調律で前胸部誘導にてホルター心電図施行時には認めなかった陰性T波を認めた(Figure 5)。血液生化学検査では,心筋逸脱酵素の上昇は認めず,BNPの上昇を認めた(Table 1)。冠動脈造影検査が施行され,左前下行枝領域(#7)に99%の高度狭窄病変を認めた(Figure 6)。

Figure 5 安静時12誘導心電図(循環器内科入院時)

HR 80 bpm,洞調律,陰性T波を前胸部誘導の広範囲に認める。

Table 1  入院時採血データ
白血球(WBC) 7,800/μL 総蛋白 6.0 g/dL LDH 247 U/L
赤血球(RBC) 501万/μL アルブミン 3.6 g/dL γ-GTP 12 U/L
ヘモグロビン(Hb) 15.7 g/dL A/G 1.5 ALP 169 U/L
ヘマトクリット(Ht) 47.4% Na 139 mEq/L CK 50 U/L
MCV 94.6 fL Cl 104 mEq/L 総アミラーゼ 64 U/L
MCH 31.3 pg K 3.9 mEq/L 総コレステロール 175 mg/dL
MCHC 33.1% カルシウム 8.8 mEq/L HDL-C 74 mg/dL
血小板(Plt) 13.6万/μL 総ビリルビン 0.4 mEq/L LDL-C 71 mg/dL
血糖 81 mg/dL 尿酸 6.3 mEq/L 中性脂肪(TG) 50 mg/dL
HbA1c(NGSP) 5.2% 尿素窒素 12.2 mEq/L
CRP 0.23 mg/dL クレアチニン 0.59 mEq/L
BNP 218.03 pg/mL AST 25 U/L
D-dimer 1.0 μg/mL以下 ALT 15 U/L
Figure 6 冠動脈造影

A:硝酸剤投与前の左冠動脈(RAO Caudal):冠動脈全体に軽度の攣縮を認める。

B:硝酸剤投与後の左冠動脈(AP Caudal):攣縮の改善を認める。

C:硝酸剤投与後の左冠動脈(RAO Cranial):左前下行枝領域(#7)に99%高度狭窄を認める。

臨床症状およびホルター心電図検査の結果より,CSAも疑われており,冠動脈は攣縮様であったが,硝酸剤冠動脈投与により改善し,その状況においても左冠動脈前下行枝に高度狭窄病変の残存を認めたため(Figure 6),アセチルコリン誘発試験は施行されず,同部位に経皮的冠動脈形成術(PCI)が施行された。光干渉断層映像法にて,狭窄部は脂質性プラークによる内腔の狭窄を認め,動脈硬化による器質的な狭窄であることが確認された(Figure 7)。治療中,胸痛の出現や心電図変化は認めなかった。CSAに対しては,カルシウム拮抗剤(ベニジピン)による薬物療法が開始された。

Figure 7 光干渉断層映像法

狭窄部は脂質性プラークによる内腔の狭窄を認めた。

退院2ヶ月後,ニトログリセリンにより消失する夜間胸部圧迫感が一度出現したが,それ以降は胸部症状の出現はなかった。12誘導心電図においても,前胸部誘導の陰性T波は消失し,正常化していた。

III  考察

ホルター心電図検査の目的に適した疾患ならびに病態はCSA,冠動脈有意狭窄の判明しているEAPや無症候性心筋虚血例であり,CSAにおいて,発作時心電図の確認による確定診断にホルター心電図が有用であるとされている1)。しかし,胸痛出現を伴うST変化が確認できる頻度は20~30%程度と低い2)

一般に虚血性心疾患の発生頻度は欧米人で高く,日本人を含むアジア人では比較的少ないとされている3)。しかし,虚血性心疾患の中でも冠動脈が攣縮するCSAは欧米人に比べて日本人の発症率が高く4),高齢者に比べて,比較的,若年者に多い2)。CSAの生命予後は一般的に良好とされているが,冠動脈の器質的狭窄の存在に冠攣縮を合併した場合や冠攣縮が不安定化した場合には急性心筋梗塞や突然死を起こすことがある5),6)。冠動脈狭窄と冠攣縮の合併例は冠攣縮のみの例に比べて,5年生存率が低値であることも報告されている7)

一般に冠動脈疾患の危険因子として脂質異常症,喫煙,糖尿病,高血圧などが挙げられ,これらによって動脈の内皮細胞の障害が引き起こされることを機に動脈硬化症は発症する8)。一方で,冠攣縮自体が動脈硬化を引き起こす要因となることも知られている9)

年齢による心疾患の発症率について,日本における疫学研究10),11)では40歳代ないし50歳代までの女性では低いことが報告されている。

本症例は40歳代女性と比較的若く,冠動脈危険因子も持たないことから,冠攣縮が器質的狭窄の一因であった可能性が示唆される。今回,ホルター心電図にて夜間および朝方の安静時胸痛出現時にST上昇が記録されていることから,EAPに対するPCIに留まらず,CSAに対する薬物治療も開始したことにより,早期の症状改善を達成することができたと考えられた。

ホルター心電図検査における誘導法の選択において,当院ではスクリーニング検査としてCM5誘導とNASA誘導の2誘導法で行われている。CM5誘導は体動の影響が少なく,虚血性変化の検出率が優れている12)とされており,NASA誘導は上下方向の誘導(II, III, aVF)であり,P波の検出に有利なことから,不整脈の検出に利用されると広く理解されているが,右冠動脈の攣縮の心電図変化を反映しやすく13),本症例においても適切な誘導であったと考えられた。その他にもV2あるいはV3誘導近似の誘導法との組み合わせが高い診断率を示している1)ことから,3チャンネル記録ができる機器においては,追加誘導として選択するとさらに検出率が上がると考えられる。今回の症例を通して,依頼された検査目的に応じて,検出率を高めていくための適切な誘導を選択することが大切であり,検査室として今後,さらに誘導法について検討していく必要があると考えられた。

IV  結語

ホルター心電図の有症状時の心電図変化を契機にCSAを合併したEAPの診断を行い,適切な治療が行えた症例を経験した。狭心症には一般的にEAPとCSAがあり,それぞれの特徴,発症様式を理解しておくことで,比較的稀な合併症例においても適切な判読を行うことができると考えられた。

この要旨は第69回日本医学検査学会(2020年)にて口頭発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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