Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Examination of β-lactamase production by methicillin-sensitive Staphylococcus aureus by penicillin disc zone edge test at our hospital
Chie MORIYAMAMasahiko KANEKOMinako MIURAKomami FUKUMOTOMamoru NAKANISHIShoichi MATSUKAGERina MIYAMOTO
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2022 Volume 71 Issue 1 Pages 61-66

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Abstract

ペニシリン感受性黄色ブドウ球菌(PSSA)に対する最適治療は定まっていないが,近年,ペニシリンG(PCG)の有用性が示唆されている。国内においてはペニシリナーゼ耐性ペニシリンが承認されていないため,ペニシリン感受性黄色ブドウ球菌(PSSA)を含むメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)に対する静注治療薬はセファゾリン(CEZ)が第一選択薬である。しかし,2019年に原薬入荷および製造等の問題により製品の安定供給が困難となった。1年半経過して供給体制が回復したが,今後も同様の事態が起きることは否定できない。そこで,ペニシリンに対して感性と判定されたMSSAに対して,β-ラクタマーゼ産生確認試験を行うことでPSSAと判定し,第一選択薬としてPCGが使用可能になることは臨床的意義が高いと考えられる。今回,当院の過去約4年間の血液培養から分離されたMSSA株のうち,PCGに対する最小発育阻止濃度(MIC)が ≤ 0.12 μg/mLと感性と判定された26株に対して,ペニシリンディスクゾーンエッジテストを行ったところ2株が陽性となった。一方で,喀痰,尿,便,膿,関節液など血液以外の材料から分離され保存できていた70株についてもゾーンエッジテストを行ったところ,全例陰性であった。PCGに対するMIC値が感性であった場合にはPSSAであると報告する前に,ペニシリンディスクゾーンエッジテストによるβ-ラクタマーゼ産生の有無を確認することで,臨床現場に適切な抗菌薬選択の情報を提供すべきと考えられた。

Translated Abstract

The optimal treatment for patients with bacteremia caused by penicillin-susceptible Staphylococcus aureus (PSSA) has not been established; however, recent evidence suggests that penicillin G (PCG) may be useful. Since anti-staphylococcal penicillins are not approved in Japan, cefazolin (CEZ) is the first agent of choice for the treatment of bacteremia caused by methicillin-susceptible S. aureus (MSSA), including PSSA. However, because of problems with the supply of raw materials and a new manufacturing process, it became difficult to maintain a stable supply of CEZ in 2019. The supply system was restored one and a half years later, but the same situation may occur in the future. It is beneficial to use PCG in the β-lactamase production test to confirm PSSA positivity. In this study, we performed penicillin disk zone edge tests on 26 MSSA strains isolated from blood cultures at our hospital over the past 4 years and were determined to be susceptible to PCG with a minimum inhibitory concentration (MIC) of ≤ 0.12 μg/mL. It was found that two strains were detected by the penicillin disc zone edge test. On the other hand, a zone edge test was also performed on 70 strains that had been isolated from materials other than blood, such as sputum, urine, stool, pus, and joint fluid, and could be preserved. None of these strains were detected. β-lactamase production detected by the penicillin disk zone edge test should be confirmed to provide useful information for selecting the appropriate antimicrobial agent before reporting PSSA positivity on the basis of MIC values indicating sensitivity to PCG.

I  はじめに

ペニシリナーゼ耐性の半合成ペニシリンとしてナフシリンやオキサシリンが開発され,現在でもメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)の治療に世界的に広く使用されている。しかし国内では販売されておらず,代替薬としてセファゾリン(CEZ)を選択せざるを得ない状況である。2019年にセファゾリンの安定供給が困難となった際には更なる代替薬の選択に難渋した。一方で,厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)による2019年年報ではMSSAのペニシリン耐性率は52.1%であり,ペニシリンに感受性を示すMSSAの分離率が増加している1)~4)。黄色ブドウ球菌のペニシリン耐性株は,ペニシリン不活化酵素ペニシリナーゼの産生によるものが多い。これらの耐性株はPCGの最小発育阻止濃度(MIC)で多くが判定可能である。しかし,PCGに対してMIC値で感性と判定されてもペニシリナーゼを産生する株が存在するため,β-ラクタマーゼ産生試験が必要となる。2012年のClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)M100の改定からは,黄色ブドウ球菌のPCGに対するMICが ≤ 0.12μg/mLで感性と判定されても,ペニシリンディスクゾーンエッジテスト(以下,ゾーンエッジテスト)による確認試験を施行することが推奨されている5)

今回,当院にて血液培養から分離されMIC値からPCGに対して感性と判定されたMSSA株に対してゾーンエッジテストによる確認試験を行い,PCGに対して真の感受性があるか検討を行った。さらに血液以外の材料から分離されたMSSA株に対しても同様の検討を行ったので報告する。

II  検査と方法

1. 対象

2017年9月から2021年7月までの期間で,当院の細菌検査室にて分離同定された血液培養由来のMSSA保存株70例のうち,PCG MIC値 ≤ 0.12 μg/mLと判定されたMSSA 26株を対象に(一患者一株として),ゾーンエッジテストを施行した。さらに,血液培養由来を除くその他材料(喀痰,尿,便,膿,関節液など)のMSSA株に関しては,2020年10月~2021年7月の10か月間で91株検出し,PCG MIC値 ≤ 0.12 μg/mLのMSSA 70株を対象にゾーンエッジテストを施行した。菌株は,マイクロバンク(MicrobankTM: Pro-Lab Diagnostics, Ontario, Canada:イワキ株式会社)にてMcFarland 3~4相当で凍結保存していたものを復元した。ビーズを1~2個取り出し,血液寒天平板培地(トリソイ・血液寒天培地:極東製薬)上で転がしたのち,37℃で培養したコロニーを使用した6)。菌液はMcFarland 0.5に調製し,培地はミュラーヒントン寒天培地(ミュラーヒントンS寒天培地‘栄研’:栄研化学)を使用した。

2. 方法

薬剤感受性試験はVITEK2グラム陽性菌感受性カードAST-P596(ビオメリュー・ジャパン)を用いた。またゾーンエッジテストはKBディスク‘栄研’Benzyl Penicillin 10unit(P10)(栄研化学),鑑別ディスク「ニッスイ」SPチェック2unit(P2)(日水製薬)を用いて行った。判定は,阻止円が ≥ 29 mm且つ辺縁がfuzzy(ぼやけた,はっきりしない)なものを陰性(β-ラクタマーゼ非産生)とし,阻止円が ≤ 28 mm且つ辺縁がsharp(境界明瞭)なものを陽性(β-ラクタマーゼ産生)とした7)

III  結果

対象期間中に認めたMSSA菌血症株の内訳としては,PCGに対するMICが ≤ 0.12 μg/mと感性の株が26例(37%),非感性の株が44例(63%)であった。また,血液以外の材料の内訳は,PCG感性株が70例(77%),非感性株が21例(23%)であった。ゾーンエッジテストはニトロセフィン法より感度が高いが,辺縁が判定者間の見た目にも左右されるため判定が困難な場合もあるとされる8)。今回の当院の検証では判定に困難な例はなかった。MSSA菌血症におけるPCG MIC値 ≤ 0.12 μg/mLと判定された株の内訳は,MIC値 ≤ 0.03 μg/mLが5株,0.06 μg/mLが16株,および0.12 μg/mLが5株であった。MIC値0.12 μg/mLの5株のうち2株がゾーンエッジテストで陽性となった(Figure 1)。MIC値0.12 μg/mLの残り3株はゾーンエッジテストの再検を行ったが陰性であった。血液以外の材料の内訳としては,MIC値 ≤ 0.03 μg/mLが32株,0.06 μg/mLが31株,および0.12 μg/mLが7株であり,ゾーンエッジテストは全例陰性であった。MIC値0.06 μg/mLの31株の中には関節液が2例あった。

Figure 1 ゾーンエッジテスト検証結果

A:培地上部:症例12(ゾーンエッジ陽性),培地下部:比較対象(ゾーンエッジ陰性)

B:培地上部:症例14(ゾーンエッジ陽性),培地下部:比較対象(ゾーンエッジ陰性)

C:対象 ゾーンエッジ陰性

MSSA菌血症の対象株の患者背景をTable 1に示す。26例の患者の内訳として,年齢は0~90歳で平均68.5歳と高齢者に偏っており,男性16例,女性10例であった。基礎疾患として維持透析を有している患者が最も多く,合併症としてはカテーテル血流感染(CRBSI)や膿瘍形成等の重症例が多かった。初期治療として使用された抗菌薬は広域抗菌薬が大半を占めていた。死亡例は6例あり,死亡例1例と生存例1例の2例で抗菌薬が使用されていなかった。24例で使用された抗菌薬は様々であり,セファゾリン(CEZ)が8例と最も多かった。治療経過中にPCGもしくはアンピシリン(ABPC)で治療されたのは2例であった。ABPC使用例は,血液培養結果を待たずに経験的に先行投与されたものであり,その後高次医療機関へと転院となった症例であった。この症例の菌株のPCG MIC値は0.06 μg/mLでありゾーンエッジテストは陰性であった。ゾーンエッジテストが陽性となった2例はともにPCG MIC値が0.12 μg/mLであった。このうちの1例でPCGが投与されていた。この症例は,初期治療としてセフトリアキソン(CTRX)が使用されていたが,PCG MIC値0.12 μg/mLで感性の結果からPCGへとDe-escalationされた症例であった。しかし炎症反応が遷延することから,最終的にはCEZへと変更されて軽快退院している。もう1例では治療初期からCEZが使用され治療完遂し軽快退院した。

Table 1  PCG MIC ≤ 0.12のMSSA菌血症株の患者背景
症例 年齢 MIC ゾーンエッジテスト 基礎疾患 初期治療 合併症 転帰
1 1 0.06 術後合併症 ABPC 創部感染 生存
2 40 0.06 子宮頸がん 尿路感染 生存
3 86 0.06 維持透析 CTM CRBSI 生存
4 67 ≤ 0.03 糖尿病 ABPC/SBT 死亡
5 81 ≤ 0.03 パーキンソン病 CTRX 創部感染 死亡
6 74 0.06 腎移植後 MEPM CRBSI 生存
7 88 0.06 外傷後 ABPC/SBT 生存
8 66 0.06 維持透析 TAZ/PIPC CRBSI 生存
9 90 0.06 心不全 MEPM 肺炎・CRBSI 生存
10 82 0.06 悪性リンパ腫 MEPM CRBSI 死亡
11 90 0.12 胃・結腸がん MEPM 化膿性脊椎炎 生存
12 71 0.12 + 脳梗塞 CTRX 生存
13 75 0.06 維持透析 MEPM,DAP 胸鎖関節膿瘍 死亡
14 62 0.12 + 維持透析 CEZ 創部感染 生存
15 86 0.06 結腸がん CEZ 生存
16 77 ≤ 0.03 腸腰筋膿瘍 死亡
17 0 0.06 生存
18 66 ≤ 0.03 維持透析 CCL CRBSI 生存
19 67 0.06 維持透析 MEPM 腸腰筋膿瘍 生存
20 52 0.06 関節リウマチ TAZ/PIPC 内腹斜筋炎 生存
21 75 ≤ 0.03 膠原病 CEZ 食道静脈瘤 生存
22 87 0.06 外傷後 MEPM 食道破裂 生存
23 90 0.12 糖尿病 CTRX 医原性尿道下裂 生存
24 77 0.12 化膿性関節炎 CEZ 生存
25 88 0.06 C型肝硬変 VCM 細菌性腹膜炎 死亡
26 44 0.06 乳癌 TAZ/PIPC 肺炎・敗血症 生存

CRBSI:カテーテル由来血流感染

ABPC(アンピシリン),CTM(セフォチアム),ABPC/SBT(アンピシリン・スルバクタム),TAZ/PIPC(タゾバクタム・ピペラシリン),MEPM(メロペネム),CTRX(セフトリアキソン),DAP(ダプトマイシン),CEZ(セファゾリン),CCL(セファクロル),VCM(バンコマイシン)

IV  考察

近年,MSSAに占めるペニシリン感受性黄色ブドウ球菌(PSSA)の割合が23.9%~43.1%と上昇していることが報告されており1)~3),国内においても同様の傾向が窺える4)。当院の過去約4年間のMSSA菌血症株においても,MIC値からPCGに感性と判定された株は37%であることが今回の検討で判明した。ゾーンエッジテストを施行した結果,2株がβ-ラクタマーゼを産生していることが判明した。感受性試験でPCGが感性と判定されても,β-ラクタマーゼ産生の有無を確認する試験が必要であることが今回の検証から確認された。特にMSSA菌血症は臨床的に重要な病態であり,より正確な結果報告が求められる。血液以外の材料に関しては,MSSAに占めるPSSAの割合は91株中70株(77%)と高かったものの,ゾーンエッジテストは全て陰性であり,β-ラクタマーゼ産生は確認できなかった。70株の中に無菌検体である関節液から分離された2株が含まれていたが,ゾーンエッジテストの結果は陰性であった。関節液からのMSSAの検出も臨床的に重要な意味を持つが,今回の当院の抽出期間は短く検体数も2株と少なかったため,今後の課題としたい。

当院はこれまでMIC値からPCGに感性と判定されたMSSA株に対して,日常検査としてβ-ラクタマーゼ産生試験を行っていなかった。β-ラクタマーゼ産生確認試験にはゾーンエッジテスト,ニトロセフィン法,そしてβ-ラクタマーゼの遺伝子(blaZ遺伝子)を検出する方法がある。ゴールドスタンダードはblaZ遺伝子を検出する方法であるが,特異プライマーを用いたPCR法であり時間的,コスト的にも日常業務としては現実的ではない9),10)。ゾーンエッジテストとニトロセフィン法は,両方法ともに特異度は99%以上と高いが,感度はニトロセフィン法(セフィナーゼディスク)では77%と低く,ゾーンエッジテストでは96%と感度の高い方法として知られている7)。一般病院ではこれら2つの方法であれば施行可能であるが,それでも手間もかかり迅速性に欠けるため,当院だけでなく他施設でも日常的に取り入れている施設は少ないと思われる。しかしながら,PCGに対して感性と判定された全てのMSSA株に対してゾーンエッジテストを施行することは現実的ではない。

当院の26株の検討で5株はPCG MIC値 ≤ 0.03 μg/mLであった。それらの株ではゾーンエッジテストの結果はすべて陰性であった。MIC値 ≤ 0.03 μg/mLのMSSAではβ-ラクタマーゼはほぼ産生しておらず,β-ラクタマーゼスクリーニングは不要であるとの報告もある8),11)。MIC値 ≤ 0.03 μg/mLであればβ-ラクタマーゼ産生試験による確認を行わずにPSSAと報告して良いのかもしれない。また,MIC値 ≤ 0.06 μg/mLの16株でもゾーンエッジテストの結果は全て陰性であった。しかしながら,MIC値 ≤ 0.06 μg/mLの感受性の報告に関してはblaZ遺伝子が陽性であった株が存在したとの報告もある12),13)。MIC値0.12 μg/mLの5株は,内2株でゾーンエッジテストが陽性であり,ペニシリナーゼを産生していることが判明した。残りのゾーンエッジテストが陰性であった3株では偽陰性の可能性があり,MIC値 ≤ 0.06 μg/mLの株を含めてPCR法によるblaZ遺伝子の証明が有用と考えられた。各施設に見合った検査方法を導入し,それぞれの検査法の特性を理解して,結果を報告することが重要であると考えらえた。

ゾーンエッジテスト陽性例のうち1例でPCGが投与されていたが,臨床的に効果不十分と判断され最終的にCEZへ変更されていた。幸い,患者は回復したが,ゾーンエッジテストを行いβ-ラクタマーゼ産生株であることが判明していれば,最初からCEZを選択できていたと考えられる。ただしCEZは中枢神経へ移行しないという臨床上の問題点がある。そのため,MSSAが原因の髄膜炎や脳膿瘍,あるいはMSSAによる感染性心内膜炎で転移性中枢神経病変を合併した症例ではCEZを使用することはできない。一方でPCGは中枢神経への移行が良好であるため,β-ラクタマーゼ産生試験を行うことでPCGが使用できることがわかれば治療戦略として非常に有益である。このように,抗菌薬選択が直接予後に影響を及ぼす感染臓器におけるMSSA感染症の際には,MICによる感受性結果を報告するだけではなく,少なくとも施設に見合った方法でβ-ラクタマーゼ産生試験は実施するべきである。

V  結語

MSSAのPCGに対する感受性の報告はMIC値のみでは不十分である。特に,血液検体を代表とする無菌検体由来の株に関してはβ-ラクタマーゼ産生試験を行うことの重要性が再認識された。検査室は,臨床に対する結果報告に必要な確認試験の重要性を理解し,自施設に見合う方法を日々検討していく必要がある。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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