Japanese Journal of Medical Technology
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Evaluation and efficacy of ascitic fluid and blood culture tests in spontaneous bacterial peritonitis
Yuji TESHIMATakashi MATONOTadashi URAZONOYoshimi FURUNONaoya KANATANIRie AKINAGAYoshibumi AKATSUYoshihito OTSUKA
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2022 Volume 71 Issue 1 Pages 106-111

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Abstract

特発性細菌性腹膜炎(spontaneous bacterial peritonitis;以下,SBP)の診断における腹水培養検査の陽性率が低いことが問題視されている。今までSBPにおける血液培養検査の有用性を検討した報告は少なく,適切な診断的検査法を評価する目的で後方視的研究を行った。2012年7月から2019年12月までにSBPの診断となった59件(腹水培養陽性群22件,腹水培養陰性群37件)を対象とした。腹水培養陰性群は腹水培養陰性かつ腹水中好中球数250/μL以上と定義した。血液培養検査は72.9%(43/59例)で提出され,2セット採取率は100.0%であった。血液培養陽性率は全体で48.8%(21/43例),うち腹水培養陽性群では70.0%(14/20例),腹水培養陰性群では30.4%(7/23例)であった(p < 0.05)。腹水培養陰性かつ血液培養陽性となった7例中4例は腹水培養検体採取前に抗菌薬投与歴があった。SBPにおける血液培養陽性率は比較的高く,腹水培養陰性群でも原因菌を検出できる可能性もあるため,抗菌薬投与前に血液培養検査を実施する重要性が示唆された。原因菌の同定率を上げるために,検査室から医師に対して適正な検体採取方法の呼びかけや情報発信が必要であると考えられる。

Translated Abstract

When diagnosing spontaneous bacterial peritonitis (SBP), the low positivity rate of the ascitic fluid culture test is an issue. Studies on the usefulness of the blood culture test in SBP diagnosis have been relatively limited to date. Thus, we conducted a retrospective study to evaluate an appropriate diagnostic method for SBP. We analyzed 59 cases of SBP [22 cases in the group found positive for the causative bacteria by the ascitic fluid culture test (hereafter the ascitic-culture-positive group) and 37 cases in the group found negative for the causative bacteria (hereafter the ascitic-culture-negative group)] treated at our hospital from July 2012 to December 2019. The ascitic-culture-negative group was defined as having an ascitic fluid neutrophil count of 250/μL or more. Blood samples for culture were collected in 72.9% of cases (43/59 cases), all of which were a two-set collection. Among the 43 cases with blood samples collected, 48.8% (21/43 cases) were positive for the causative bacteria in their blood cultures: 70.0% of cases in the ascitic-culture-positive group and 30.4% of cases in the ascitic-culture-negative group were found positive for the causative bacteria by the blood culture test (p < 0.05). Four of the seven cases who were found negative by the ascitic fluid culture test but positive by the blood culture test had been treated with antibiotics before the collection of ascitic fluid for culture. The findings showed that the positivity rate of the blood culture test in SBP was relatively high, even in the ascitic-culture-negative group, suggesting the importance of performing blood culture tests before the administration of antibiotics. In the detection of causative bacteria, this study addresses the role of laboratory technicians in diagnostic stewardship, that is, to inform medical doctors on the appropriate method for taking samples.

I  はじめに

特発性細菌性腹膜炎(spontaneous bacterial peritonitis;以下,SBP)は,主に非代償性肝硬変患者に合併する感染症であり,診断には腹水中の好中球数検査および腹水培養検査が用いられる。腹水中好中球数が250/μL以上かつ自他覚症状を伴う,もしくは500/μL以上である場合は,腹水培養検査が陰性でも,SBPと臨床診断することができる1)。よって,腹水中好中球数が250/μL以上であり,消化管穿孔など外科的処置を有する腹腔内感染が無い場合はSBPとして,直ちに抗菌薬治療を開始することも多い。

しかし近年,特に院内発症例において薬剤耐性菌によるSBP症例が増加しており2),原因菌を特定して適切な抗菌薬治療を行う重要性が高まっている。ところが,SBPにおける腹水培養検査の陽性率は,従来の寒天培地と液体培地を併用した方法では42~65%と低い3)。そのため,菌の検出率を上げるために血液培養ボトルに腹水を分注して培養する方法の有用性が報告されている3),4)。さらに,腹水培養検査陰性のSBPでも,血液培養検査から原因菌が検出できるとの報告もあり5),腹水培養検査に加えて血液培養検査を提出することが望ましいとされている。一方で,SBP症例における血液培養検査の有用性を検討した報告は少なく,その詳細は不明である。そこで今回,我々は当院におけるSBPの検査実施状況を評価し,血液培養検査の有用性について検討を行ったので報告する。

II  対象と方法

1. 研究デザインと設定

SBP症例における腹水培養検査結果の特性ならびに血液培養検査の有効性を評価すべく,単施設の後方視的観察研究を行った。本研究は福岡県飯塚市の飯塚病院(病床数:1,048床,血液培養検査件数:9,392~17,444/年)で実施した。研究データは細菌検査システムならびに診療録から抽出した。なお,本研究は飯塚病院倫理委員会の承認を得ている(承認番号:19176)。

2. 対象

2012年7月から2019年12月までに飯塚病院にて腹水培養検査および腹水中の好中球数検査を同時に実施した873件のうち,1)腹水培養陽性,または2)腹水培養陰性かつ腹水中好中球数250/μL以上に該当する検体を対象とし,非肝硬変患者,消化管穿孔,外科的処置後,結核性,透析,腫瘍関連の検体,ならびに重複患者は除外した。最終的に59例(腹水培養陽性群22例,陰性群37例)が対象となった(Figure 1)。

Figure 1 Flow diagram of selection criteria for ascites culture-positive and ascites culture-negative groups

3. 血液培養検査方法

血液培養検査は,腹水培養検体提出の前日から翌日中に提出された検体を対象とした。測定には,23F好気用レズンボトルおよび21F溶血タイプ嫌気用ボトル(いずれも日本ベクトン・ディッキンソン株式会社;日本BD)を使用し,BACTEC FX(日本BD)で7日間培養した。採取血液量はボトルあたり8~10 mLを推奨しているが,実際の血液量の測定は行っていなかった。陽転した検体は,ヒツジ血液寒天培地(日本BD)およびグラム染色結果に応じて,チョコレートII寒天培地(日本BD),BTB乳糖加寒天培地(日本BD),ブルセラHK寒天培地(RS)(極東製薬工業株式会社)等にサブカルチャーした。菌種同定は2012年7月から2016年2月までVITEK GPカードおよびVITEK GNカード(いずれもビオメリュー・ジャパン株式会社;ビオメリュー)を使用してVITEK II(ビオメリュー)で測定した。2016年3月から2018年8月までMicroscan PosComboおよびNegCombo(いずれもベックマン・コールター株式会社;ベックマン)を使用して,WalkAway96Plus(ベックマン)で測定した。2018年9月から2019年12月まではMALDI Biotyper(ブルカーダルトニクス)を使用した(ソフトウェアversion MBT Compass 4.1,ライブラリーver. 4.1.80)。

4. 腹水培養検査方法

血液培養ボトル以外の採取容器(滅菌試験管や滅菌シリンジ)で提出された腹水培養検体は,15 mL容量のスピッツを使用して2,000 Gで10分間遠心後その沈渣を用いてグラム染色を実施し,ヒツジ血液寒天培地(日本BD)およびグラム染色結果に応じて,チョコレートII寒天培地(日本BD),BTB乳糖加寒天培地(日本BD),ブルセラHK寒天培地(RS)(極東製薬株式会社)等に培養,さらに増菌用としてHK半流動培地(極東製薬株式会社)に接種して最長7日間培養した。

血液培養ボトルを使用した腹水培養検体は,23F好気用レズンボトルおよび21F溶血タイプ嫌気用ボトル(いずれも日本BD)にベッドサイドで分注して提出されBACTEC FX(日本BD)を使用して最長7日間培養した。なお,検体接種量は8~10 mLを推奨していたが,実際に測定は行っていなかった。陽転した検体のサブカルチャーおよび菌種同定は血液培養検査と同様に行った。

5. 腹水中好中球数算定方法

腹水検体を撹拌後,全自動尿中有形成分分析装置であるUF-1000i(Sysmex)で白血球数を測定した。その後,1,500 Gで5分間遠心した沈渣標本でメイ・グリュンワルド・ギムザ染色を実施し,白血球分類後,好中球の割合より好中球数を算出した。なお,本方法は計算板を使用した測定方法と結果の乖離がないことを事前に確認を行っている。

6. 検討方法

対象を腹水培養陽性群と腹水培養陰性群(腹水培養陰性かつ腹水中好中球数250/μL以上)の2群間に分け,対象患者の血液培養検査の実施率ならびに陽性率を算出した。また,培養検査が陰性となる要因となり得る検体採取前の抗菌薬投与の有無も調査した。2群間で年齢,性別,肝硬変の重症度,培養検体採取前の抗菌薬使用率,血液培養検査の実施数ならびに血液培養検査の陽性数(率)の差を名義変数はカイ二乗検定もしくはFisherの正確確率検定を用いて,連続変数はMann-Whitney U検定を用いて比較した。さらに,腹水培養検査における血液培養ボトル使用群と未使用群での培養陽性数(率)に関してカイ二乗検定を用いて比較した。なお,肝硬変の重症度にはChild-Pugh分類1)を使用した。解析はEasy-Rを使用し,両側p値0.05未満を統計学的有意差ありと判定した。

III  結果

1. 腹水培養陽性群と陰性群の比較

腹水培養陽性群と陰性群の2群間における患者の年齢,性別,肝硬変の重症度,培養検体採取前の抗菌薬使用率については統計学的な有意差は認めなかった(Table 1)。血液培養検査は全体の72.9%(43/59例),各群において,腹水培養陽性群の90.9%(20/22例),腹水培養陰性群の62.2%(23/37例)で提出されていた。提出された43例の血液培養2セット採取率は100.0%であった。血液培養陽性率は,全体で48.8%(21/43例)であり,うち腹水培養陽性群で70.0%(14/20例),腹水培養陰性群で30.4%(7/23例)であった(p < 0.05)。

Table 1  Comparison of clinical and microbiological characteristics between ascitic fluid culture positive group and negative group (n = 59)
Variables Ascites culture-positive group (n = 22) Ascites culture-negative group (n = 37) p-value
Age, median (IQR) 72 (62–80) 62 (58–72) 0.11
Male, n (%) 17 (77.3) 23 (62.2) 0.26
Child-Pugh score
 Class B, n (%) 8 (36.4) 15 (40.5) 0.97
 Class C, n (%) 14 (63.6) 22 (59.5) 0.97
Antimicrobial use within the last 24 hours, n (%) 2 (9.1) 8 (21.6) 0.29
Blood culture performed, n (%) 20 (90.9) 23 (62.2) < 0.05
Blood culture positive, n (%), n = 43 14/20 (70.0) 7/23 (30.4) < 0.05

2. 腹水と血液からの検出菌の一致状況

腹水の検出菌は,腸内細菌目細菌が59.1%(13/22例)と最も多く,Escherichia coli(27.3%),Klebsiella pneumoniae(18.2%)の順であった(Table 2)。腹水培養検査と血液培養検査の結果が解離した13例のうち,腹水培養陰性群で血液培養検査が陽性となった7例は,全例で腹腔内以外の感染巣すなわち,播種性病変はなかった。その菌種は,E. coli(n = 2),Citrobacter braakii(n = 1),Streptococcus agalactiae(n = 1)Streptococcus pneumoniae(n = 2),S. mitis/oralis(n = 1)であり,7例中4例で腹水培養検体採取前24時間以内に抗菌薬が投与されていた。また,腹水培養陽性群で血液培養検査が陰性となった6例の菌種は,E. coli(n = 1),K. pneumoniae(n = 1),Enterobacter cloacae(n = 1),Pseudomonas aeruginosa(n = 1),Methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)(n = 1),Anaerobic gram positive rod(n = 1)であった。腹水培養検査と血液培養検査から共に菌が検出された症例は14例であり,培養検体採取前に抗菌薬が使用された症例はなかった。なお,今回検出された腸内細菌目細菌のなかで第3世代セファロスポリン耐性株は無かった。

Table 2  Bacteria isolated from ascitic fluid culture and blood culture
Classification Species Isolated from
Ascitic fluid Blood Both1
Enterbacterales Escherichia coli 6 6 4
Klebsiella pneumoniae 4 3 3
Klebsiella oxytoca 1
Raoultella planticola 1 1 1
Enterobacter cloacae 1
Citrobacter braakii 1
Other Gram-negative rods Aeromonas sp. 1 1 1
Pseudomonas aeruginosa 1
Streptococcus spp. Streptococcus agalactiae 1 2 1
Streptococcus pneumoniae 2
Streptococcus salivarius 1 1 1
Streptococcus bovis group 1 1 1
Streptococcus mitis/oralis 1
Other Gram-positive organisms MRSA2 2 1 1
Enterococcus faecium 1 1 1
Anaerobic Gram-positive rods 1
Total 22 21 14

1) Detected in both ascitic fluid and blood, 2) Methicillin-resistant Staphylococcus aureus.

3. 腹水培養検査における血液培養ボトル使用の評価

腹水培養検査における血液培養ボトルの使用率は全体で32.2%(19/59例)であった。腹水培養検査に関して,血液培養ボトル使用群(n = 19)と未使用群(n = 40)間で比較すると,培養陽性率は血液培養ボトル使用群の方が有意に高かった(63.2% [12/19] vs. 25% [10/40], p < 0.05)(Table 3)。

Table 3  Ascites culture results in terms of blood culture bottle usage
Blood culture bottle Total
Used Unused
Ascites culture Positive 12 10 22
Negative 7 30 37
Total 19 40 59

IV  考察

今回,SBPにおける検査実施状況を調査し,原因菌の検出率を向上させるために血液培養検査を行う有効性が示唆された。また,血液培養ボトルを用いた腹水培養検査の実施に関して検討する必要性も示された。

まず,SBPにおける血液培養検査の有用性を評価した報告は少なく,本研究には意義がある。SBPには腹水培養陰性かつ腹水好中球数が250/μL以上であるCNNA(culture negative neutrocytic ascites)と呼ばれる亜型が存在する。このCNNAを除外したKimらの研究6)では,SBPの76.6%で血液培養検査が陽性であったと報告されており,高率に血液培養検査から原因微生物が検出できることが分かる。実際に我々の研究における腹水培養陽性群の血液培養陽性率は70.0%であり,先行研究結果と合致する。さらに,腹水培養陰性群の30.4%で血液培養検査が陽性になった我々の研究結果と同様に,CNNAでも33~57%で血液培養検査が陽性であったという報告もある4),7)。このように,腹水培養陰性例でも,血液培養検査で原因菌を検出することができるという点は特に注目に値する。第3世代セファロスポリン耐性腸内細菌目細菌によるSBPは予後不良であるというデータもあるため6),血液培養検体を採取し,原因微生物を同定した上で適切な抗菌薬治療を行うという戦略は患者アウトカムの向上に寄与すると考える。さらに,特にショックを伴うような重症SBPでは早期抗菌薬投与開始が好ましいと考えられているため8),腹水穿刺に先行して抗菌薬治療が開始される場合もある。実際に,今回の検討では腹水培養陰性にもかかわらず血液培養検査が陽性となった中で,腹水培養検体採取前24時間以内に抗菌薬が投与されていた症例が散見された。このように,抗菌薬使用前に血液培養検体を採取しておくことで,例え遅れて実施された腹水培養検査が陰性であっても,血液培養検査でSBPの原因菌を検出することができるという結果も臨床上,意義があると考える。また,血液培養検査のみ陽性となった7例のうち,S. pneumoniaeが2例検出されていた。S. pneumoniaeはSBPの原因菌の3%を占めると言われており9),特に本菌のように死滅しやすい菌種については,より血液培養検査を実施する有用性が高いと考えられる。

次に,腹水培養検査の陽性率は血液培養ボトル未使用群と比較し使用群で有意に高かった。本研究は,同一検体を用いて血液培養ボトルと寒天培地や液体培地を使用した培養検査を比較し,検出率の差異の検証を行った研究ではないため,血液培養ボトルを用いた腹水培養検査の有効性を直接的には示せてはいない。ところが,血液培養ボトルを使用することで腹水培養陽性率が向上することは過去にも報告されており3),4),血液培養ボトルを用いた腹水培養検査は原因菌の検出に有効であると考えられている9),10)。SBPでは,腹水中の菌量が少ないことに加え3),食細胞による貪食作用などの影響で菌体が死滅しやすい環境である。しかし,今回我々の使用した嫌気性血液培養ボトルのように,ボトル中にサポニン等の溶血剤が添加されている試薬を使用することで,白血球などの細胞は破壊され,この影響を回避することが期待できる。また,SBPの原因菌は通常単一であり,この点も血液培養ボトル使用に適していると考えられる。一方で,血液培養ボトルの使用には,保険診療上,血液以外の材料で使用できない点や,SPSやサポニン等の抗菌作用による偽陰性の可能性がある点11),さらには迅速に塗抹検査を実施できない等の問題点も多く存在するため,これらの課題をふまえて今後の検討が必要であると考える。

最後に,今回の我々の報告は単施設で実施した後ろ向きコホート研究であり,対象症例数も少なかった。しかし,本研究では血液培養採取の必要性を示唆する結果が得られており,実臨床での原因菌検出率の向上に貢献できる知見であると確信している。

V  結語

今回の検討により,SBPの原因菌を検出するために血液培養検査を実施する一定の有効性が示された。原因菌を同定することで,適切な抗菌薬治療が行われ,患者の予後改善および抗菌薬の適正使用に寄与すると期待される。さらに,検査室から医師に対して血液培養検査の重要性や適正な検体採取方法の呼びかけを行っていく必要があると考えられる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

飯塚病院にて高水準な医療を提供頂いている肝臓内科,総合診療科を始めとする医師,看護師ならびに全ての医療従事者に心より感謝申し上げます。

文献
 
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