Japanese Journal of Medical Technology
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Effects of outbreak of coronavirus disease 2019 (COVID-19) on pulmonary function tests in Hokkaido: Results of a questionnaire survey
Masafumi YAMAMOTOTsugumine ISHIKAWAKumiko OKINODaiki MITSUMORIAyako FUJIBENoboru OHBAYusuke SATOSatoshi KONNO
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2022 Volume 71 Issue 1 Pages 112-119

Details
Abstract

北海道は国内で最も早く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行した自治体である。北海道内の医療機関において,COVID-19が呼吸機能検査に与えた影響を明らかにすることを本研究の目的とした。北海道臨床衛生検査技師会会員の所属する医療機関531施設に対しアンケート調査を行った。呼吸機能検査実施施設であり回答内容に不備のなかった160施設を対象とした。2020年の呼吸機能検査件数が2019年と比較して減少したのは115施設(71.9%)であった。その主要因は術前検査の減少,検診検査の減少であった。また,呼吸機能検査の中止など何らかの検査制限を行ったのは93施設(58.1%)であった。COVID-19に対して行った感染対策は,患者が接触した場所の消毒:126施設(78.8%),病院の入り口での体温測定:120施設(75.0%)であった。防護具の選択は,サージカルマスク:136施設(85.0%),フェイスシールドまたはゴーグル:121施設(75.6%)であった。感染対策により患者1人にかかる業務量が増加していると回答したのは101施設(63.1%)であった。COVID-19による呼吸機能検査への影響は大きく,未だ検査件数の減少,検査中止を余儀なくされている医療機関が多く存在していた。COVID-19に対する感染対策,直面している問題点などが明らかになった。

Translated Abstract

In this study, we examined the impact of the outbreak of coronavirus disease 2019 (COVID-19) on pulmonary function tests (PFTs) in Hokkaido. We conducted a questionnaire survey involving 160 institutions to which members of the Hokkaido Association of Medical Technologists belong. In 122 institutions (73.5%), the number of PFTs conducted decreased in 2020 compared with that in 2019. The decrease was mostly observed for PFTs before operation and for annual check. In 95 (57.2%) institutions, PFTs for nonessential and nonurgent cases were restricted. To prevent the spread of COVID-19 infection, 126 (78.8%) institutions performed sterilization, 120 (75.0%) measured body temperature at the entrance, 136 (85.0%) had their medical staff wear surgical masks, and 121 (75.6%) had their staff wear face shields or/and goggles in addition to masks. The impact of the outbreak of COVID-19 on PFTs was huge, and it became evident that a number of institutions were still obliged to restrict the number of PFTs. A guideline for PFTs with infection control measures is required in times of an outbreak of COVID-19.

I  緒言

2020年1月に国内で初めて新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019; COVID-19)の感染者を認め,北海道においても同月,初の感染者を認めた。COVID-19は急速に全国に拡大し,現在もなお各地域の医療機関や医療従事者は様々な困難や負荷に直面している。本邦で前例のない状況を受けて,臨床検査の現場では,検査と感染拡大防止を両立する形で本病原体に対する対応・対策を行ってきた。呼吸機能検査は,深呼吸や強制呼気などの手技を必要とする。そのため周囲へのエアロゾルの拡散を生じ,感染拡大リスクの高い検査との認識から,不急な場合の呼吸機能検査実施は控えるなどの対応がとられた。呼吸機能検査は生理機能検査の中で最も影響を受けた検査の1つと言っても過言ではないが,その実態は明らかではない。それらを把握するため,北海道臨床衛生検査技師会(以下,北臨技)ではCOVID-19が呼吸機能検査に与えた影響についてアンケート調査を行った。その結果,道内各医療機関における検査の現状(検査数,感染対策,直面している問題点など)が明らかになったので報告する。

II  対象・方法

1. アンケートの作成・配布・回収

北臨技生理機能部門部門員が中心となってアンケートを作成した。質問は全18問用意し,2019年1月1日から2021年1月31日までの各年における呼吸機能検査件数,検査時における感染対策,技師会に対する要望など多岐にわたる内容とした(Table 1)。アンケートはWeb上に用意し配布,回答をオンラインで行った。

Table 1  北海道内における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が呼吸機能検査に与えた影響を調査するためのアンケート
質問内容
1 施設として呼吸機能検査の実施の有無について
2 施設の所在地(市町村名),施設規模(病床数)について
3 施設としてCOVID-19確定患者の受け入れの有無について
4 2020年の呼吸機能件数は2019年の呼吸機能件数と比較しどのように変化したか
5 2020年において最も呼吸機能検査件数が減少したのは何月か(質問4で2020年の検査件数が減少した施設のみ)
6 2020年において最も呼吸機能検査件数が減少した月は2019年の同じ月と比較しどのように変化したか(検査実施率)
7 2020年において呼吸機能検査が減少した要因について(質問4で2020年の検査件数が減少した施設のみ 複数回答可)
8 2020年において最も術前呼吸機能検査件数が減少した月は2019年の同じ月と比較しどのように変化したか(術前検査のみの検査実施率)
9 2020年以降,コロナ渦を理由として呼吸機能検査の制限は行ったか
10 2021年1月の呼吸機能検査件数は2019年の1月と比較しどのように変化したか
11 2021年1月の呼吸機能検査の制限の変化について(質問9で呼吸機能検査の制限を行った施設のみ)
12 COVID-19に対する感染対策について呼吸機能検査室で日常行っていた感染対策に,さらに追加の対策を行ったか
13 COVID-19に対し,どの様な感染対策を実施したか(複数回答可)
14 コロナ渦において,呼吸機能検査実施時の技師が使用している防護具について(複数回答可)
15 呼吸機能検査の患者一人にかかる業務量(COVID-19対応を含む)の変化について
16 業務量が増加した理由について(質問15で業務量が増加していると回答した施設のみ,複数回答可)
17 呼吸機能検査を行っているスタッフが感じるストレスについて(複数回答可)
18 今回のCOVID-19流行と呼吸機能検査について,日本臨床衛生検査技師会(または北海道臨床衛生検査技師会)に要望したい事など(自由記載)

このアンケートは北海道臨床衛生検査技師会が作成。2021年1月25日に配布し,2021年2月1日~2月19日を回答期間として回収した。

検査実施率は 20%以下,21~50%,51~80%,81~100%,(101%以上)の4段階(もしくは5段階)から選択。

COVID-19; coronavirus disease 2019

2. 対象施設

北臨技会員の所属する施設,531施設(呼吸機能検査未実施施設を含む)に対しアンケートを配布した。

166施設(呼吸機能検査実施施設)から回答が得られた。回答内容不備により6施設を除いた160施設を対象とした。

3. 集計方法

①対象160施設の地域,病床数,COVID-19患者受け入れの有無を集計した。

②2020年の呼吸機能検査件数について2019年と比較した。2020年の検査件数が減少した施設において,最も減少した月を調べ,その月の2020年検査実施率(2020年検査件数/2019年検査件数 × 100:%)を評価した。

③2020年の検査件数が減少した施設において,減少した要因を分析した。減少の要因が「術前検査の減少」と回答した施設において,2020年術前検査が最も減少した月の術前検査件数を2019年同月の検査件数と比較し,2020年術前検査実施率(2020年術前検査件数/2019年術前検査件数 × 100:%)を評価した。2020年以降,何らかの検査制限を行った施設を集計した。

④2020年の検査件数が減少した施設において,2021年1月と2019年1月の検査件数を比較し2021年1月検査実施率(2021年1月検査件数/2019年1月検査件数 × 100:%)を評価した。さらに2020年の検査件数が減少した施設において,2020年検査件数が最も減少した月の2020年検査実施率と2021年1月検査実施率で層別化し検査実施率別の施設数の変化を評価した。

⑤COVID-19に対し,日常行っていた感染対策に追加の対策を行った施設を集計した。また実際に行っているCOVID-19に対する感染対策の内容を分析した。さらに呼吸機能検査時に技師が使用している防護具について分析した。

⑥呼吸機能検査の患者一人にかかる業務量について集計した。また業務量が増加した施設を対象に,増加した理由について分析した。さらに呼吸機能検査スタッフが感じるストレスに関する項目について分析した。

⑦日本臨床衛生検査技師会(以下,日臨技)や北臨技への要望を分析した。

III  結果

1. 対象施設(160施設)について

北海道の地域(総合振興局・振興局)別では,石狩:56施設(札幌市:53施設),胆振:17施設,オホーツク:17施設,上川:12施設,空知:13施設,渡島:10施設,釧路:9施設,十勝:9施設,後志:7施設,根室:3施設,宗谷:3施設,日高:3施設,留萌:1施設であった。

病床数は,20床未満:21施設(13.1%),20~99床:40施設(25.0%),100~499床:86施設(53.8%),500床以上:13施設(8.1%)であった。

病院としてCOVID-19確定患者を受け入れている施設は65施設(39.2%)であった。

2. 2020年における呼吸機能検査件数の変化と検査制限について

2019年と比較し2020年の呼吸機能検査件数は,減少:115施設(71.9%),変化なし:28施設(17.5%),増加:17施設(10.6%)であった(Figure 1)。

Figure 1 2020年における呼吸機能検査数の変化(2019年との比較)

2019年と比較し2020年の呼吸機能検査の検査件数は,減少:115施設(71.9%),変化なし:28施設(17.5%),増加:17施設(10.6%)であった。

減少した115施設において,最も減少した月(施設により回答した月が異なる)の2020年検査実施率は20%以下:49施設(42.6%),21~50%:34施設(29.6%),51~80%:30施設(26.1%),81~100%:2施設(1.7%)であった。最も減少した月のうち「5月」と回答した施設が最も多く115施設中50施設(42.7%)であった。5月のみの2020年検査実施率は20%以下:16施設(32.0%),21~50%:19施設(38.0%),51~80%:14施設(28.0%),81~100%:1施設(2.0%)であった。

呼吸機能検査を制限した施設は,93施設(58.1%),制限をしなかった施設は67施設(41.9%)であった。しかし,制限をしなかった67施設のうち29施設(43.3%)でも検査件数は減少し,制限の有無に関わらず検査件数は減少した。

3. 呼吸機能検査件数が減少した要因

検査件数が減少した要因は,術前検査が減少:62施設(38.8%),検診の検査件数が減少:56施設(35.0%),スクリーニング検査などが減少:54施設(33.8%),精密検査(肺拡散能力など)が減少:16施設(10.0%),その他:30施設(18.8%)であった。その他の回答には,「外来診療を完全に閉鎖した」,「呼吸機能検査を完全に中止した」などが挙げられた。

術前検査が減少した62施設について,最も術前検査が減少した月の2020年術前検査実施率は2019年の同じ月(施設により回答した月が異なる)と比較して20%以下:25施設(40.3%),21~50%:21施設(33.9%),51~80%:15施設(24.2%),81~100%:1施設(1.6%)であった。

4. 2021年1月における呼吸機能検査件数と検査制限の変化について

2020年検査件数が減少した115施設の2021年1月検査実施率は20%以下:40施設(34.8%),21~50%:22施設(19.1%),51~80%:29施設(25.2%),81~100%:23施設(20.0%),101%以上:1施設(0.9%)であった(Figure 2)。さらにこの115施設において,2020年と2021年の検査実施率別における施設数の変化を評価すると,検査実施率20%以下は49から40施設,21~50%は34から22施設,81~100%は2から23施設に変化した(Figure 3)。

Figure 2 2021年1月における呼吸機能検査実施率別の施設数(2019年1月との比較)

各施設における2021年1月の検査実施率(2019年1月との比較)は,20%以下:40施設(34.8%),21~50%:22施設(19.1%),51~80%:29施設(25.2%),81~100%:23施設(20.0%),101%以上:1施設(0.9%)であった。

Figure 3 2020年・2021年における検査実施率別施設数の変化(2019年との比較)

2020年の呼吸機能検査の検査件数が「減少」と回答した115施設について,2020年で検査数が最も減少した月の検査実施率(2019年同月との比較)と 2021年1月の検査実施率(2019年1月との比較)で層別化し,施設数の変化を評価した。

20%以下の実施率と回答した施設が49から40施設へ減少し,21~50%と回答した施設が34から22施設と減少。81~100%と回答した施設が2から23施設へ増加した。

2020年に呼吸機能検査の制限を行った93施設について,2021年1月時点で,変わらず制限を行っている:66施設(71.0%),一部制限を解除:19施設(20.4%),完全に制限を解除:7施設(7.5%),その他:1施設(1.1%)であった。

5. COVID-19に対する感染対策

COVID-19に対し,呼吸機能検査室で日常行っていた感染対策に追加の対策を行った施設は146施設(91.3%)であった。

COVID-19に対する感染対策について最も多かった回答は,蛇管など患者が接触した場所の消毒:126施設(78.8%)であった(Table 2)。

Table 2  COVID-19に対する感染対策(複数回答可)
回答 施設数 割合(%)
蛇管など患者が接触した場所の消毒 126 78.8
病院入り口にて体温測定 120 75.0
待合室の椅子やドアノブなどの環境消毒 113 70.6
検査室の定期的な換気 99 61.9
症状などについての問診票の利用 64 40.0
検査前に検温の実施 37 23.1
新たにディスポ製品(マウスピース・フィルターなど)の導入 30 18.8
検査前にPCR検査での陰性確認 15 9.4
検査者と患者との間にパーテーション設置 15 9.4
その他 19 11.9

(N = 160)

呼吸機能検査実施時に技師が使用している防護具について最も多かった回答は,サージカルマスク:136施設(85.0%)であった(Table 3)。

Table 3  呼吸機能検査実施時に技師が使用している防護具(複数回答可)
回答 施設数 割合(%)
サージカルマスク 136 85.0
フェイスシールドまたはゴーグル 121 75.6
手袋 84 52.5
N95マスク 28 17.5
長袖ガウン 20 12.5
帽子 9 5.6
特に指定はしていない 1 0.6
その他 4 2.5

(N = 160)

6. 業務量の増加と業務上の問題点

呼吸機能検査の患者一人にかかる業務量(COVID-19対応を含む)は,増加:101施設(63.1%),同程度:51施設(31.9%),減少:8施設(5.0%)であった。業務量増加の最も多かった回答は,清拭する箇所の増加;98施設(97.0%)であった。その他として,検査室の換気の実施などが挙げられた(Table 4)。

Table 4  呼吸機能検査の患者一人にかかる業務量(COVID-19対応を含む)が増加した理由
回答 施設数 割合(%)
清拭をする箇所の増加 98 97.0
防護具着用により検査がしにくい 46 45.5
防護具の着脱に時間がとられる 37 36.6
問診表の確認など手間がかかる 10 9.9
検温などに手間がかかる 7 6.9
問診表不備などで,臨床への問い合わせに時間がとられる 6 5.9
その他 10 9.9

(N = 101:質問9で「業務量が増加」と回答した施設)

呼吸機能検査スタッフが感じるストレスに関する項目については,検査を行う事で自分が感染しないか心配:146施設(91.3%),業務量増加による疲労:52施設(32.5%),施設の経営の悪化による給与の減少:6施設(3.8%),検査を担当していることによって受けたハラスメント(差別):1施設(0.6%),その他:11施設(6.9%)であった。

7. 日臨技や北臨技に要望したい事(自由記載)

対象160施設中26施設から要望があった。その中で「具体的な内容を含んだ呼吸機能検査における感染対策のガイドライン作成および提示」が15施設と最も多かった(Table 5)。

Table 5  日本臨床衛生検査技師会(または北海道臨床衛生検査技師会)に要望したい事(自由記載)
回答 施設数
具体的な内容を含んだ呼吸機能検査の感染対策のガイドライン作成および提示 15
他施設における感染対策の状況調査および提示 2
検査により感染したなどの事例共有 2
不要不急の検査を控えてもらうよう,関連学会や医師会などへの働きかけの実施 2
呼吸機能検査の再開時期の目安の提示 2
COVID-19の臨床検査に関わる情報を早期発信 1
呼吸機能検査実施における感染の危険性を周知 1
マスク,グローブなどの物資の支給 1

COVID-19; coronavirus disease 2019

IV  考察

今回のアンケート調査は,道内におけるCOVID-19流行が呼吸機能検査実施に与えた影響を把握するための,我が国初の重要な調査となった。COVID-19流行後に様々なアンケート調査は行われているが2)~6),医師主導の調査が多く,検査現場の声を直接反映した調査や呼吸機能検査に特化した詳細な調査は無かった。

対象の160施設は,札幌を中心とした北海道全域を網羅しており,二次医療圏に置き換えても同様であった。また,小規模施設も含め呼吸機能検査を実施している施設の多くを反映していると考えられた。

2020年3月に日本呼吸器学会及び日本人間ドック学会は,不急の呼吸機能検査の中止・延期を含めた提言を発表した7),8)。115施設(71.9%)と多くの施設で2020年の検査件数が減少したが,その要因として,これらの提言(不急の呼吸機能検査の中止・延期),患者自身の行動変容による受診控え,緊急事態宣言や,まん延防止等重点措置の発出による外出自粛などが,複合的に影響した結果と考えられた。

検査件数が最も減少した2020年5月は北海道における第二波の時期および,国の緊急事態宣言(2020年4月16日~2020年5月25日)に一致した。この時期は全国的に外出が自粛され,また厚生労働省は“電話などによるオンライン診察”について事務連絡を発表9)しており,この取り組みによる病院受診患者数の減少が,検査件数の減少となった理由であると考えられた。検査件数が「増加した」と回答した17施設の一部は,もともとの検査件数も少ない施設であった。

2020年で検査件数が最も減少した月の実施率は,2019年の同じ月に比べ20%以下ともなる施設が49施設(42.6%)であり,減少の程度が深刻であることが分かった。

検査件数が減少した理由として「術前検査の減少」が最も多かった。各学会の提言7),8),10),11)もあり,各施設の判断で外科手術前検査を含む不要不急の呼吸機能検査は行われなくなったと推察された。「術前検査の減少」と回答した62施設のうち,術前呼吸機能検査の実施率が50%以下(2019年と比較)となった施設は74.2%ともなり,多くの施設で術前検査としての呼吸機能検査を停止もしくは縮小していることが分かった。しかし術前呼吸機能検査は,患者自身が気付いていない呼吸器疾患を発見することが可能である。Fukuchiら12)の報告によると,本邦において未診断の慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)の患者はかなり多いとされている。これらの患者を適切に診断するためにも,検査が可能な環境になった場合,出来る限り早期に再開することが望ましいと考える。

2021年1月時点では,ほとんどの施設で呼吸機能検査の制限を解除できない状況であった。

COVID-19感染拡大を経験した2020年であったが,その後の2021年1月の実施率について評価した。2019年の検査件数に比較して50%以下の実施率と回答した施設数は減少し,81~100%と回答した施設数は増加していた。実施率は,やや改善しているものの,まだまだ全体的には減少している施設が多くみられた。

環境消毒を含む感染対策について,病院入り口にて体温測定,症状などについての問診票の利用などによる「感染患者のふるい分け」と,蛇管など患者が接触した場所の消毒や,待合室の椅子やドアノブなどの環境消毒などによる,「検査室での感染拡大の阻止」が中心に考えられていた。

呼吸機能検査実施時の防護具で,最も多かったのはサージカルマスクであり136施設(85.0%)で使用されていた。N95マスクを使用していると回答した28施設の内訳は,サージカルマスクの代わりに使用している21施設と,サージカルマスクとN95マスクの両方を使用している7施設であった。すなわちマスクを使用している157施設(98.1%)において,マスクは感染予防の必須の防護具であるとの認識が高かった。フェイスシールドまたはゴーグルが2番目に多く75.6%の施設で使用されていた。手袋は52.5%であった。よって呼吸機能検査室での感染対策は,マスクによるエアロゾル曝露対策と飛沫感染対策のフェイスシールドまたはゴーグル,接触感染対策としての手袋を中心に考えられていた。

呼吸機能検査の患者一人にかかる業務量(COVID-19対応を含む)は101施設(63.1%)の施設で増加しており,環境消毒の励行によるもの,検査前の検温・問診票対応などに労力が割かれた結果と考えられた。

146施設(91.3%)が,検査を行うことで自分が感染しないか心配と回答した。治療に必要な検査であるが,検査者自身のエアロゾル曝露は避けることが出来ないため,検査へ従事することの不安がはっきりと出た結果である。

日臨技や北臨技への要望については,呼吸機能検査における感染対策の指針の提示を望む声が多かった。本邦で北海道が最も早く感染拡大したため,参考になる情報が無い中,手探りで様々な決断を行い苦労した経験があり,日々アップデートを繰り返しているためであると考えられた。日臨技では関係学会などが公表している情報をホームページで公開している13)。他の生理機能検査に関するガイドラインも参照し,現場で考え,それを遂行することが自分の身ならず,同僚または患者,医療を守ることに繋がるのではないかと考える。

V  結論

本研究により,北海道内の医療機関におけるCOVID-19による呼吸機能検査への影響は著しく大きいことが明らかになった。その影響は,検査件数の減少,追加の感染対策の実施,業務量の増加や検査者自身の感染曝露の恐怖など,多岐にわたっていた。さらに,検査の停止や検査件数の減少が2021年1月でも継続している施設が多いことが分かった。検査可能な環境が整った場合に,出来る限り早期に呼吸機能検査を再開することが望ましいと考える。また,COVID-19流行下における,安全な呼吸機能検査実施に関する指針が求められる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本アンケート調査にご協力いただいた北海道臨床衛生検査技師会所属のご施設の皆様,本調査の企画にご尽力いただいた北海道臨床衛生検査技師会の役員の皆様,検査研究部門・生理機能部門の皆様に心より感謝致します。

文献
 
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