2022 Volume 71 Issue 1 Pages 165-170
Mycoplasma hominisは泌尿生殖器の常在菌として知られ,グラム不染性でβラクタム系抗菌薬に耐性を示す。今回,帝王切開術後の患者の血液培養よりM. hominisが検出された症例を2例経験した。症例1は20歳代女性。前医にて分娩進行停止のため緊急帝王切開術施行。術後6日目,腹痛と発熱を認め当院に搬送となった。入院時,膣内には悪露が貯留,腹部CTで子宮周囲に液体貯留を認めた。症例2は30歳代女性。破水後当院入院管理となり,第3病日に炎症反応上昇と羊水混濁を認めたため,緊急帝王切開術を施行。術後8日目,炎症反応高値が続いていたため胸腹部CTが施行され,子宮周囲膿瘍が疑われた。血液培養は,症例1は培養7日目に2セット中嫌気ボトル1本のみが陽性となった。症例2は培養7日間で陰性であったが,サブカルチャーを実施したところ2セット全てのボトルよりコロニーの発育がみられた。両症例ともに,血液培養および子宮由来検体より発育したコロニーはグラム陰性の顆粒構造物を呈し,16S rRNA遺伝子解析にてM. hominisと同定された。患者背景や臨床経過より本菌の関与を疑う場合は,嫌気培養の追加や血液培養の積極的なサブカルチャーを実施し,適切な抗菌薬の情報を迅速に臨床に伝えることが重要である。
Mycoplasma hominis, a commensal inhabitant of the lower urogenital tract, cannot be stained by Gram staining and is resistant to β-lactam antibiotics. We report the cases of two female patients from whom M. hominis was isolated from their blood cultures after cesarean section. Case 1 was in her 20s who underwent emergency cesarean section because of arrested labor. Six days after the operation, she had abdominal pain and fever, and lochia accumulated in the vagina. Computed tomography (CT) showed fluid accumulation around the uterus. Case 2 was in her 30s who underwent emergency cesarean section because of increased levels of inflammatory markers and amniotic fluid turbidity. Eight days after the operation, because the levels of inflammatory markers continued to be high, CT was performed, the results of which showed peri-uterine abscess. In case 1, only one anaerobic bottle in two sets was positive on the 7th day of culture. In case 2, blood culture was negative after 7 days of culture, but M. hominis was observed in both sets when subculture was performed. In both cases, the colonies isolated from blood cultures and uterine-derived specimens showed Gram-negative granule structures and were identified as M. hominis by 16S rRNA genetic analysis. If the involvement of M. hominis is suspected on the basis of the patient’s background characteristics and clinical course, anaerobic culture and subculture should be performed even when the automated blood culture instrument shows negative results. Moreover, it is important to promptly convey information on appropriate antibiotics to the doctor in charge.
Mycoplasma hominisはMycoplasma属の一種で,泌尿生殖器の常在菌として知られている。産婦人科領域の術後感染症での報告が多いが,関節炎,髄膜炎,心内膜炎,脳膿瘍,新生児での敗血症や髄膜炎も報告されている1),2)。
Mycoplasma属は細胞壁を持たないためグラム染色では染色されず,またβラクタム系抗菌薬も無効であり,診断や治療に難渋する場合がある。発育にも時間がかかり,本菌を疑って検査を進めないと検出できない可能性がある。今回,帝王切開術後の患者の血液培養よりM. hominisを検出した症例を2例経験したので報告する。
患者:20歳代,女性。
妊娠分娩歴:1妊1産。
既往歴:無毛症。
現病歴:妊娠40週3日,前医にて分娩進行停止のため緊急帝王切開術施行も児娩出困難にて子宮創部拡大,出血2,400 mLにてRBC 4単位施行。術後38℃の発熱があり,術後3日目までAmpicillin(ABPC)4 g/dayが投与され解熱した。術後6日目,右下腹部痛が出現し,39℃の発熱がありCeftriaxone(CTRX)2 g/dayの投与が開始されたが,腹痛の増悪を認め歩行困難となったため,術後7日目に当院に搬送となった。
入院時検査所見:体温37.7℃,血圧114/66 mmHg,血液検査結果をTable 1に示す。若干の貧血を認め,WBC,CRPの上昇がみられた。また膣内には淡血粘ちょう性の悪露が貯留,経腟超音波検査で創部下に液体貯留がみられた。経腹超音波検査では子宮創部両端に血腫様の塊がみられ,腹部CTで子宮周囲に液体貯留を認めたため,縫合不全による膿瘍形成が疑われた。
CBC | Serum Chemistry | Coagulation | |||
WBC | 12.6 × 103/μL | TP | 5.8 g/dL | APTT | 37.7 sec |
Neutro | 81% | Alb | 2.6 g/dL | PT-INR | 0.98 |
Eosino | 1% | AST | 14 IU/L | D-dimer | 5.7 μg/mL |
Baso | 0% | ALT | 11 IU/L | ||
Mono | 8% | γGTP | 9 IU/L | ||
Lymph | 10% | LD | 174 IU/L | ||
ALP | 250 IU/L | Urinalysis | |||
RBC | 3.10 × 106/μL | CK | 24 IU/L | Blood | (−) |
Hb | 9.0 g/dL | T-BiI | 0.3 mg/dL | Protein | (−) |
Hct | 28.3% | UN | 8.3 mg/dL | Nitrite | (−) |
Plt | 420 × 103/μL | Cr | 0.47 mg/dL | Leukocyte | (−) |
Ca | 8.2 mg/dL | ||||
GLU | 98 mg/dL | ||||
Na | 141 mmol/L | ||||
K | 3.4 mmol/L | ||||
Cl | 106 mmol/L | ||||
CRP | 8.7 mg/dL | ||||
PCT | 0.24 ng/dL |
入院後の経過:各種培養検体(膣分泌物,尿,血液)が提出され,CTRX 2 g/dayの投与が開始された。第2病日,39℃の発熱,WBC,CRPの上昇を認めたため,抗菌薬がTazobactam/Piperacillin(TAZ/PIPC)13.5 g/dayに変更された。第7病日に血液培養が陽性となり,第9病日にコロニーよりM. hominisを疑い主治医に報告した。その間徐々に解熱,炎症反応も改善傾向を示し,第12病日にはWBC 5,700/μL,CRP 0.3 mg/dLとなり,同日退院となった。
患者:30歳代,女性。
妊娠分娩歴:1妊0産。
既往歴:虫垂炎,子宮内感染症。
現病歴:提供精子による凍結融解胚移植での妊娠の患者。妊娠40週0日,破水後当院入院管理となる。第3病日,38.5℃の発熱,WBC 22,000/μL,CRP 6.6 mg/dLと炎症反応が高値を示し,羊水混濁を認めたため,緊急帝王切開術が施行された。
術後の経過(Figure 1):第11病日,高熱や腹痛はみられなかったが,WBC,CRP高値が続いていたため胸腹部CTが施行された。CTでは子宮筋層内や子宮周囲に低吸収域,被膜様構造が認められ,膿瘍形成が疑われた。同日,子宮内容物と血液培養が提出され,TAZ/PIPC 13.5 g/dayが開始された。子宮内容物の培養にてM. hominisを疑うコロニーが発育したため,第18病日よりTAZ/PIPCに加えMinocycline(MINO)200 mg/dayが追加投与された。第21病日,血液培養は7日間で陰性であったが,サブカルチャーを実施したところM. hominisを疑うコロニーの発育がみられた。その後徐々に炎症反応が低下し,CTでも膿瘍の縮小が認められ,第32病日に退院となった。
TAZ/PIPC was administered from the 11th day and MINO from the 18th day, resulting in a diminished inflammatory response.
BT: Body temperature, FMOX: Flomoxef, TAZ/PIPC: Tazobactam/Piperacillin, MINO: Minocycline.
好気ボトルと嫌気ボトルの2本を1セットとし,2セット提出された。好気ボトルとしてBACT/ALERT FA PLUS,嫌気ボトルとしてBACT/ALERT FN PLUSをそれぞれ使用し,全自動血液培養装置BACT/ALERT 3D120(ビオメリュー)で培養した。グラム染色にはneo-B&Mワコー(富士フイルムワコー)を,サブカルチャーにはニッスイ分画プレート 羊血液寒天/DHL(日水製薬),チョコレートHP寒天培地(極東製薬),ブルセラHK寒天培地(極東製薬)を用い,ブルセラHK寒天培地は嫌気条件下,その他は5% CO2条件下,35℃で培養を行った。症例1では培養開始6日目に嫌気ボトル1本のみが陽性となり,培養液のグラム染色とサブカルチャーを実施した。グラム染色では菌体を認めなかったため偽陽性を疑ったが,サブカルチャー後48時間でブルセラHK寒天培地に透明感のある極微小コロニーの発育を認めた。72時間後には0.5 mm程度のコロニーとなり(Figure 2),血液寒天培地,チョコレート寒天培地でも発育がみられた。コロニーのグラム染色でも菌体を認めず,グラム陰性に染まった顆粒状の構造物(Figure 3)がみられたためM. hominisを疑い主治医に報告した。継代したコロニーの捺印標本を作製しグラム染色を実施したところ,中心部が濃染した目玉焼き状のコロニーの染色像がみられた(Figure 4)。症例2の血液培養は7日間で陰性であったが,患者背景と臨床経過よりM. hominisの関与を考慮し,全てのボトルのサブカルチャーを実施した。サブカルチャー3日後にブルセラHK寒天培地で微小コロニーの発育を認め,コロニーのグラム染色で菌体が確認されなかったためM. hominisによる菌血症が疑われた。
The media was anaerobic cultured for 72 hours at 35°C.
Gram negative granular structures were observed (×1,000).
Colonies with a deep staining in the center were observed (×1,000).
症例1の膣分泌物からはM. hominis 3+,Escherichia coli 1+,Coagulase negative staphylococci 1+,Gram positive rods 2+が分離され,症例2の子宮内容物からはM. hominis 1+,Pseudomonas aeruginosa 1+,Enterococcus faecalis 1+が分離された。膣分泌物については嫌気培養をルーチンでは実施していないが,血液培養の結果よりM. hominisの関与が疑われたため追加実施した。また培養期間も2日間から1週間に延長した。
3. 同定最終的な同定検査は,後日外部委託業者による16S rRNA遺伝子解析にて実施し,症例1の血液培養と膣分泌物,症例2の血液培養と子宮内容物それぞれの菌株でM. hominisと同定された。
M. hominisはMycoplasma属の一種として知られているが,2018年に分類が改訂され,現在の名称はMetamycoplasma hominisとなっている。性的経験のある女性および男性の泌尿生殖器に常在しており,成人女性の50%が保菌しているとも言われている3)。その詳細な病原性に関しては不明な点が多いが,尿道炎や子宮頸管炎,産褥熱,骨盤内炎症性疾患,術後感染症をはじめ,外傷後の脳膿瘍,関節炎,新生児の髄膜炎など様々な感染症への関与が報告されている1),2)。今回の2症例においては,子宮由来検体よりM. hominisが検出されていることから,生殖器に常在していた本菌が創部より感染したものと考えられる.
Mycoplasma属はゲノムサイズがもっとも小さい原核生物として知られ,細胞壁を持たず,細胞は脂質二重層膜とリポ蛋白からなる細胞膜で覆われている。よってグラム染色性を示さず,βラクタム系抗菌薬が無効であるため,診断や治療が遅れ重篤な経過をたどる場合がある。またM. hominisは,通常Mycoplasma属に有効なErythromycinやClarithromycinなど,14・15員環マクロライド系抗菌薬にも耐性であると言われている1)。Clindamycinやテトラサイクリン系,フルオロキノロン系抗菌薬が有効とされるが,Yangら4)の近年の報告ではClindamycinやフルオロキノロン系抗菌薬に耐性を示す株の存在も指摘されており,注意が必要である。症例1ではTAZ/PIPCのみで軽快し早期に退院となった。本来無効であるβラクタム系抗菌薬で緩解した症例は過去の報告でも複数あり5),本症例は複数菌による子宮内感染が主で周囲に膿瘍形成はなかったかもしくは軽度であったため,TAZ/PIPCで軽快したものと推察される。症例2ではM. hominisの報告後直ちにMINOが追加され,その後徐々に炎症反応の改善,膿瘍の縮小がみられたことからMINOが奏功したものと考えられる。M. hominisの感受性検査についてはClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)M43-Aに記載があるが,特殊な培地を必要とするためルーチンで実施することは困難である。他の方法として,嫌気性菌用パネル(栄研ドライプレート)やEtest(ビオメリュー)を用いて実施したという報告があり6)~8),感受性検査の実施が今後の検討課題である。
症例2では,BACT/ALERT 3D120にて7日間培養後陰性と判定された血液培養ボトルのサブカルチャーを実施し,4本のボトルよりM. hominisの発育を認めた。本症例のように,血液培養装置でM. hominisを検出できなかったという報告は多数あり7),9),10),Waitesら9)は,血液培養ボトルに含まれる抗凝固剤であるSodium Polyanetholsulfonate(SPS)がM. hominisの発育を抑制していると報告している。今回使用したBACT/ALERT FA PLUS・FN PLUSにもSPSが0.083%含まれており,偽陰性の原因になっている可能性がある。泌尿生殖器の術後感染やβラクタム系抗菌薬に反応しないなど,M. hominisの関与を考慮すべき症例では,血液培養装置の判定に関わらず積極的にサブカルチャーを実施することが肝要である。
Mycoplasma属の培養には通常PPLO培地等のコレステロールを含有した培地が必要であるが,M. hominisに関しては血液寒天培地に発育が可能であるため,特殊な培地を持っていない施設でも検出は可能である。しかし発育が遅いためコロニーが確認できるまで3日以上要したという報告が多く11),2日で培地の観察を終了した場合は検出できない可能性がある。症例1では,サブカルチャー後2日で極微小コロニーが確認されたが,はっきりコロニーと認識できたのは3日目以降であった。本菌は炭酸ガス培養でも発育するが,初代培養は嫌気条件下の方が発育しやすいとされている2)。泌尿生殖器由来の検体においては多くの施設で培養期間は2日間程度であり,また検体種によっては嫌気培養を実施していない場合もあると思われる。患者背景や臨床経過よりM. hominisの関与を疑い,培養期間の延長,また嫌気培養を追加しなければ分離することは困難である。
継代培養3日目のコロニーにて捺印標本を作製しグラム染色を実施したところ,目玉焼き状の染色像がみられた。これはPPLO培地上での特徴と一致し,菌種の推定には有用であると思われる。正確な同定には遺伝子解析が有用であるが,VITEC MS(ビオメリュー)による質量分析での同定が可能であったという報告がある12)。またMALDI Biotyper(ブルカー)の最新のライブラリーにはMetamycoplasma hominisとして収載されている。しかしどの施設でも質量分析や遺伝子解析ができるわけではないため,コロニーとグラム染色像より本菌を疑い迅速に臨床に報告することが重要である。
今回我々は帝王切開術後にM. hominisによる菌血症を発症した2症例を経験した。本菌の検出には培養期間の延長や嫌気培養の追加,血液培養の積極的なサブカルチャーが必要となる場合があり,そのためには患者背景や臨床経過の情報収集が必須である。臨床とのコミュニケーションを密にし,本菌の関与の可能性や適切な抗菌薬の情報を臨床に迅速に伝えることが患者予後の改善につながると考える。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。