2022 Volume 71 Issue 1 Pages 67-72
凝固第VIII因子活性測定には主に凝固一段法が用いられてきたが,APTT試薬の種類が測定値に影響を及ぼすことが問題として挙げられてきた。そこで凝固第VIII因子活性を合成基質法で測定する凝固第VIII因子定量試薬「レボヘムFVIII合成基質」の基礎的検討を行い,さらに血友病A患者およびループスアンチコアグラント(LA)陽性患者の残余検体を使用して凝固一段法との比較検討を行った。その結果,同時再現性CV 0.95~1.14%,日差再現性CV 2.15~4.13%であった。合成基質法と凝固一段法5倍希釈法,20倍希釈法それぞれの相関性はr = 0.99,y = 1.04x − 1.24,r = 0.99,y = 0.99x + 4.46と良好であった。干渉物質の影響は認められなかった。また,合成基質法と凝固一段法との比較検討では,エミシズマブ投与患者検体及びLA陽性患者検体において,二法での測定値に乖離を認めた。以上の結果より,凝固第VIII因子定量試薬「レボヘムFVIII合成基質」は日常検査に十分対応可能であると言える。また,合成基質法は凝固一段法と比較してLAやエミシズマブによる影響を受けにくいことが示された。
The one-stage assay (OSA) for factor VIII activity (FVIII:C) measurement has been widely used, but its accuracy depends on the composition of APTT reagents. Therefore, we conducted a basic study of the coagulation FVIII:C quantification reagent “Revohem FVIII synthetic substrate” used in chromogenic assay, and compared this chromogenic assay with OSA using archived plasma samples. As a result, the simultaneous reproducibility CV was from 0.95 to 1.14% and the daily reproducibility CV was 2.15 to 4.13%. The correlations of CSA with the fivefold dilution of OSA and the 20-fold dilution of OSA were good (r = 0.99, y = 1.04x − 1.24; r = 0.99, y = 0.99x + 4.46, respectively). No interfering substances were observed. In a comparative study between CSA and OSA, there were discrepancies in the number of patients with LA positivity and those with hemophilia A under emicizumab therapy. From the above results, it can be said that the coagulation factor VIII quantification reagent “Revohem FVIII synthetic substrate” used in chromogenic assay is sufficiently compatible with tests routinely performed. CSA is less susceptible to LA and emicizumab than OSA.
凝固第VIII因子活性(FVIII:C)測定の意義は第VIII因子の欠如または低下が見られる血友病Aの診断補助や第VIII因子製剤投与におけるモニタリングがある。FVIII:Cの測定方法にはAPTTの測定原理を利用し,凝固反応の初速度を評価する凝固一段法(one-stage assay; OSA)と活性型第X因子の活性を直接反映する合成基質法(chromogenic assay; CSA)があり,日本ではOSAが広く用いられている。しかし,OSAはAPTT試薬に含まれるリン脂質や活性化剤の違いによって測定値が異なることが知られている1),2)。特に軽症血友病AでAPTT試薬によるFVIII:Cに対する感受性に多様性が認められ3),出血症状とOSAで得られた活性値との間に乖離がみられることがある4),5)。また,ループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant; LA)や抗凝固薬等の存在下では,見かけ上の低値を示すため,結果の誤解釈に繋がる可能性がある6)。そこで今回我々は凝固第VIII因子定量試薬「レボヘムFVIII合成基質」の基礎的検討を行い,さらにOSAとの比較検討を行ったので報告する。
検討には,鳥取大学医学部附属病院検査部に凝固検査目的で提出された検体の残余検体74例(血友病A患者54例,うちエミシズマブ投与患者検体15例,LA陽性患者検体20例)を用いた。検体は3.2%クエン酸ナトリウム溶液が含有された凝固検査用採血管に採取し,18~25℃,1,500 × g,15分間の条件下で遠心操作を行った。遠心分離後の血清は採血後4時間以内に分離し,−80℃で凍結保存した。使用時には37℃で速やかに解凍し測定に用いた。本検討は鳥取大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した(19A056)。
2. 方法 1) 測定機器及び試薬測定試薬は,CSAを原理とする凝固第VIII因子定量試薬レボヘムFVIII合成基質,OSAを原理とするトロンボチェックAPTT-SLA,VIII因子欠乏血漿(以上,シスメックス社)を使用し,全自動血液凝固測定装置CS-2100i(シスメックス社)を用いて測定した。
2) 測定原理OSAはAPTTの測定原理を利用し,凝固反応の初速度を評価している。血漿10 μLにTC緩衝液40 μL,因子欠乏血漿50 μLを添加し1分間インキュベーションする。次にAPTT試薬を50 μL加え,さらに2分間インキュベーションすると活性化剤であるエラグ酸により内因系凝固因子のうち,接触因子系の活性化が起こる。そこに塩化カルシウム溶液50 μLを加えると接触因子系,カルシウム及びリン脂質の活性化作用により第IX因子が活性化されることで,次々と凝固反応が展開される血液凝固因子カスケード反応が進み,最終的にフィブリンが析出する。これを透過光の変化を捉える光学的方法を用いて検出している7)。
一方,CSAは活性型第X因子の活性を直接反映している。血漿にヒトトロンビンを添加すると第VIII因子が活性化第VIII因子となり,ヒト活性化第IX因子と共にヒト第X因子を活性化第X因子へと変換する。次に活性化第X因子特異的な基質である活性化第X因子基質(SXa)を混合すると,残存活性化第X因子の酵素作用により基質が切断されてパラニトロアニリンが産生される。この際の溶液の吸光度変化量を測定することでFVIII:Cを測定している8)。
3) 同時再現性管理試料2濃度を同一ロット試薬にてそれぞれ連続5回測定し,変動係数(CV)を算出した。
4) 日差再現性管理試料2濃度を同一ロット試薬にて5日間測定し,CVを算出した。
5) 干渉物質の影響プール血漿に干渉チェック・Aプラス(シスメックス社)の試験項目であるビリルビンC,ビリルビンF,ヘモグロビン,乳糜の4項目の各干渉物質を添加後,5~6段階に希釈したものを試料とし,測定した。
6) 相関性血友病A患者検体を用いてOSAとCSAを比較し,相関係数(r)及び回帰式を算出した。被験血漿の希釈倍数はOSAが5倍希釈,CSAは20倍希釈と異なっていたため,OSAは被験血漿を5倍希釈と20倍希釈した2パターンとCSAを比較した。
7) OSAとの比較検討残余検体74例(血友病A患者54例,うちエミシズマブ投与患者検体15例,LA陽性患者検体20例)を用いたCSAとOSAとの比較検討も行った。
管理試料2濃度(血液凝固試験用コントロールP:CPP,血液凝固試験用コントロールN:CPN)を用いて5回連続測定した結果,CV 0.95~1.14%であった(Table 1)。
CPP | CPN | |
---|---|---|
Mean | 24.8 | 90.8 |
SD | 0.24 | 1.03 |
CV (%) | 0.95 | 1.14 |
管理試料2濃度(CPP,CPN)を用いて5日間測定した結果,CV 2.15~4.13%であった(Table 2)。
CPP | CPN | |
---|---|---|
Mean | 26.64 | 92.14 |
SD | 1.10 | 1.98 |
CV (%) | 4.13 | 2.15 |
各干渉物質において全てのポイントで測定値が未添加試料の測定値に対して±10%以内の変動であった(Figure 1)。
Pooled plasma samples were used to confirm the effects of conjugated bilirubin, free bilirubin, hemoglobin, chyle. As a result, no effect of all interfering substanses were detected.
5倍希釈OSAとCSAのFVIII:Cを比較した結果,相関係数r = 0.99,回帰式y = 1.04x − 1.24であった(n = 13)。また,20倍希釈OSAとCSAのFVIII:Cを比較した結果は,相関係数r = 0.99,回帰式y = 0.99x + 4.46であった(n = 14)(Figure 2)。
A: Correlation of measured values between CSA and the 5-fold dilution OSA.
B: Correlation of measured values between CSA and the 20-fold dilution OSA.
CSAとOSAのFVIII:Cの比較検討では,エミシズマブ投与患者検体(n = 15)で相関係数r = 0.38,回帰式y = −0.20x + 57.27,LA陽性患者検体(n = 20)では相関係数r = 0.67,回帰式y = 3.52x + 60.90であった。エミシズマブ投与患者検体及びLA陽性患者検体において,二法での測定値の乖離を認めた(Figure 3)。
40歳代男性。エミシヅマブ投与中,前立腺生検目的のためアドベイトを術前に追加投与した。アドベイト投与前と投与直後,投与後1時間,3時間,6時間,24時間後に採血した。患者血漿と抗エミシズマブイディオタイプ抗体を20:1の比率で混和後,FVIII:Cを測定した。中和前の検体を用いてOSAとCSA,中和後の検体でOSAを測定した。中和前のOSA測定値はすべて測定上限を超えたが,中和前のCSA測定値は,中和後のOSA測定値とパラレルな変動を認めた(Figure 4)。
Case: prostatectomy, the 40s male of dosing emicizumab
今回我々は凝固第VIII因子定量試薬「レボヘムFVIII合成基質」の基礎的検討及びOSAとの比較検討を行った。同時再現性,日差再現性及び相関性で良好な結果を示した。また,干渉物質の影響は認められなかった。しばしば黄疸や乳糜の影響を受けるとの報告があるOSAに比べ,よりCSAは検体の性状による影響を受けにくいことが明らかとなった。よって,凝固第VIII因子定量試薬「レボヘムFVIII合成基質」は日常検査に十分対応可能であるといえる。
また,血友病A患者検体を対象としたOSAとの比較検討でも良好な結果を示した。一方,LA陽性患者検体,エミシズマブ投与患者検体では二法の測定値に乖離を認めた。LAはリン脂質を阻害してAPTTを延長させるため,OSAでFVIII:Cが偽低値を示すことが知られており6),APTTへの干渉を受けないCSAを用いたFVIII:Cの測定は有用と思われる。また,エミシズマブは実際の凝固能よりもAPTTの過剰短縮を認めることが知られており9),APTT試薬を用いるOSAにおいてFVIII:Cに影響を認めた。CSA試薬に含まれるヒトFIXa/FXも血中エミシズマブの濃度依存的に干渉を受けるため,ベセスダ法を用いたインヒビターの検査には利用できないと思われる10),11)。インヒビターの測定には,エミシズマブの影響を受けないウシFIXa/FXを使用したCSA試薬が有用とされているが10),11),国内では流通しておらず,利用できる施設は限定的である。しかしながら,我々の症例検討で示されたとおり,エミシズマブ中和後のFVIII:CはCSAによる測定値とパラレルに変動し,OSAと比較して第VIII因子の推定に有用であると考えられた。CSA測定値は中和後のFVIII:Cよりおよそ10%高い傾向を認めたが,エミシズマブがCSA試薬中のヒト活性化第IX因子と第X因子との反応を示しており,これはエミシズマブ投与中の凝固機能が第VIII因子等価活性15%と推定されていることと概ね一致している12)。すなわち,血中エミシズマブ濃度がコントロールできていれば,第VIII因子製剤投与後の活性値も評価が可能であると思われる。また,今日血友病の治療として第VIII因子に分子修飾が施された半減期延長型凝固因子製剤の使用が普及しているが,この製剤の投与モニタリングには分子構造の変化に影響を受けないCSAでのFVIII:C測定が望ましいとされている13)。よって,CSAによるFVIII:C測定は,APTTに影響を及ぼす要因がある症例において,より正確な測定が可能になると考える。
凝固第VIII因子定量試薬「レボヘムFVIII合成基質」の測定精度及び血友病A患者検体を対象とした凝固一段法との比較検討は良好な結果を示し,今回の検討でLAやエミシズマブ投与患者などCSAでの測定が有用となる症例があることが明らかとなった。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。