Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case in which the anti-c antibody produced by frequent platelet transfusion affected the ABO blood group test results
Shusaku SUZUKIShota SHIMURAYumiko YANAGIYuichi YAHAGIHitomi SAKATA
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2022 Volume 71 Issue 1 Pages 171-175

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Abstract

血小板製剤中の赤血球は微量であるため,血小板製剤の輸血(以下,血小板輸血)による不規則抗体産生の可能性は低いと考えられている。我々は,頻回な血小板輸血後に不規則抗体を産生した症例を経験した。症例は骨髄異形成症候群の女性。赤血球製剤の輸血歴はなく,不規則抗体スクリーニングは陰性であった。血小板成分の補充を目的として頻回な血小板輸血が実施され,約半年後にIgM型及びIgG型の抗E,抗cの産生を確認した。血小板製剤中の微量な赤血球であっても,免疫応答を引き起こす可能性を確認した。また,IgM型の抗cは,ABO血液型ウラ検査判定時に影響を与えた。血小板輸血後にIgM型を含む不規則抗体産生誘発の可能性があることを考慮し,精査を進めることが重要である。

Translated Abstract

The risk of irregular antibody production after platelet transfusion seems to be low, since the number of red blood cells contained in platelet products is very small. However, we encountered the case of a patient with antibody production probably caused by platelet transfusion. The patient was a woman who presented with myelodysplastic syndromes (MDS). She had no history of red blood cell transfusion and her screening test for irregular antibodies showed negative results. The production of anti-E and anti-c antibodies after frequent platelet transfusions was considered. We reconfirmed that red blood cells in platelet preparations triggered an immune response. The IgM-type anti-c antibody affected the ABO blood group test results. These findings suggest that the test should be carried out considering the possibility of irregular antibody production, including those of the IgM type, after platelet transfusion.

I  はじめに

日本赤十字血液センターより納品される血小板製剤中には赤血球が含まれている。しかし,1バッグあたり20,000個/μL以下と非常に微量であるため1),血小板製剤の輸血(以下,血小板輸血)による不規則抗体産生の可能性は低いと考えられている2)。輸血療法の実施に関する指針によると,赤血球をほとんど含まない血小板輸血実施時には交差適合試験の省略が可能であり,将来妊娠の可能性があるRhD陰性の女性を除き不規則抗体産生に関連する記載は特にない3)

今回我々は,頻回な血小板輸血により産生されたと考えられる抗E及び抗cを確認し,抗cがABO血液型ウラ検査判定時に影響を与えた症例を経験したため,ここに報告する。

II  症例

性別:女性。

血液型:A亜型RhD陽性。

現病歴:骨髄異形成症候群。

妊娠/出産歴:有り。

経過:2020年1月に,発熱,嘔気を主訴とし近医を受診。血小板減少を指摘され,血小板輸血が計20単位施行された。翌月,血小板減少の精査を目的とし,当センターを紹介された。初回血小板輸血時の血液検査は,白血球数は7,100/μL,ヘモグロビン値9.3 g/dL,血小板数1.1万/μLであった。3月より血小板成分補充のため血小板輸血が施行された。

III  検査方法

技術教本に準拠し実施した4)

1. ABO・RhD血液型

試験管法にて実施した。ABO血液型ウラ検査には,血液型判定用赤血球アファーマジェン(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社),追加検査用の赤血球として,E抗原及びc抗原陰性の赤血球製剤セグメントより自家調整した3%赤血球浮遊液を用いた。亜型検査法として,レクチンとの反応性,糖転移酵素活性,被凝集価の測定を行った。

2. 不規則抗体スクリーニング

カラム凝集法を原理とした全自動輸血検査装置AutoVue Innova(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)を用いた。

3. 不規則抗体同定

試験管法にて実施した。パネル赤血球リゾルブパネルB及びパネルC(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)を用いて,生理食塩液法(Sal法),反応増強剤ポリエチレングリコールを使用した間接抗グロブリン試験(PEG-IAT),反応増強剤無添加間接抗グロブリン試験(Sal-IAT:37℃ 60分加温)を行った。

4. IgM型抗体の不活化処理

患者血漿1容に対し,0.01 Mジチオスレイトール(DTT)1容(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)を加え,DTT処理用検体を作成した。DTT未処理検体では,DTTの代わりに0.01 mol/L PBS(pH 7.4)を使用した。DTT処理の陽性対照として,抗E血清バイオクローン抗E(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)を用いた。それぞれの検体は37℃で30分インキュベートした。処理が行われた各血漿は,2倍希釈された血漿としてSal法及びSal-IATに用いた。

5. 不規則抗体の抗体価

試験管法にて実施した。パネル赤血球リゾルブパネルB(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)を用い,Sal法及びSal-IATを実施した。

IV  結果

1. 初回血液型及び不規則抗体スクリーニング検査結果

ABO血液型オモテ検査における抗A試薬との反応で部分凝集を認めたため,ABO血液型亜型検査を行った(Table 1)。赤血球上のA抗原を確認するために,抗A被凝集価を測定したところ,128倍(対照A1赤血球:512倍以上)と低値であった。抗A1レクチンは陰性,抗Hレクチンは陽性を示した。また血漿中のA糖転移酵素活性は証明された。抗A1レクチンが陰性を示したことから骨髄異形成症候群による抗原減弱の可能性は低いと考え,血液型はA亜型であると判断した。37℃反応性不規則抗体の抗A1を保有していないため,血液製剤はA型を選択とした。また,この時点で実施した不規則抗体スクリーニングは陰性であった。

Table 1  Serological result of ABO blood type and irregular antibody screening before platelet transfusion
Conditions Anti-A Anti-B Anti-D RhD-control Anti-A1 Anti-H Anti-A, B A1 cell B cell
25°C mf 0 4+ 0 0 3+ mf 0 4+
37°C 60 min NT NT NT NT NT NT NT 0 3+
Method Anti-A
agglutination titer
A-Glycosyltransferase
activity
Irregular antibody
screening
Result 128 1:128 Negative

NT: not tested

2. 頻回な血小板輸血

当センター紹介時より血小板の低値が指摘されており,血小板成分の補充を目的とした血小板輸血が週に20単位程度実施された(初回の血小板輸血より約半年で計530単位)。

3. ABO血液型検査オモテ・ウラ不一致と抗E及び抗cの産生

頻回な血小板輸血が約半年継続された後に初回の赤血球製剤の輸血(以下,赤血球輸血)依頼があり,再度血液型検査及び不規則抗体スクリーニングを実施した(Table 2)。ABO血液型検査はオモテ・ウラ不一致を示した。反応条件を変更し,37℃で10分インキュベートした後のウラ検査結果では,A1赤血球との反応が増強された。

Table 2  Serological result of ABO blood type after platelet transfusion
Conditions Anti-A Anti-B Anti-D RhD-control E antigen (−), c antigen (+) E antigen (−), c antigen (−)
A1 cell B cell A cell B cell
25°C mf 0 4+ 0 w+ 4+ 0 4+
37°C 10min NT NT NT NT 3+ 4+ NT NT

NT: not tested

不規則抗体スクリーニングは,赤血球輸血歴がないにも関わらず陽性を示した。不規則抗体の同定試験を実施したところ,Sal法及びPEG-IATにて抗E及び抗cの保有を確認した(Table 3)。IgM型抗体の活性を失活可能なDTT処理を行い,Sal法及びSal-IATを実施したところ,Sal法が陰性化した(Table 4)。ゆえに,IgM型及びIgG型抗体の混在が考えられた。

Table 3  Irregular antibody identification
2020/10
Rh-hr C E c e Sal PEG-IAT
R1wR1 + 0 0 + 0 0
R1R1 + 0 0 + 0 0
R2R2 0 + + 0 4+ 3+
R0r 0 0 + + w+ 2+
r'r + 0 + + 0 2+
r''r 0 + + + 3+ 3+
rr 0 0 + + w+ 3+
rr 0 0 + + w+ 3+
rr 0 0 + + w+ 3+
rr 0 0 + + 1+ 3+
R1R1 + 0 0 + 0 0
Patinet Cells 3+ 0 0 4+ 0 0
2021/3
Rh-hr C E c e Sal PEG-IAT Sal-IAT
R1wR1 + 0 0 + 0 0 0
R1R1 + 0 0 + 0 0 0
R2R2 0 + + 0 2+ 3+ 1+
R0r 0 0 + + 0 2+ 0
r'r + 0 + + 0 0 0
r''r 0 + + + w+ 3+ w+
rr 0 0 + + 0 2+ 0
rr 0 0 + + 0 2+ 0
rr 0 0 + + 0 2+ 0
rr + 0 + + 0 2+ 0
R1R1 0 0 0 + 0 0 0
Table 4  DTT treatment results of the antibody
DTT 2020/10 2021/3
Sal Sal-IAT Sal Sal-IAT
Anti-E not treatment 1+ 3+ 0 3+
treatment 0 2+ 0 1+
Anti-c not treatment w+ 3+ 0 1+
treatment 0 2+ 0 w+
control not treatment 4+ 4+ 4+ 4+
treatment 0 0 0 0

IgM型の抗Eまたは抗cがABO血液型検査オモテ・ウラ不一致の要因である可能性を考え,E抗原及びc抗原陰性の赤血球を用いてABO血液型ウラ検査を再度実施したところ,A型赤血球との反応は陰性であった(Table 2)。また,血液型検査用の赤血球にc抗原が存在することを確認した。

以上の精査内容からABO血液型検査のオモテ・ウラ不一致の原因はIgM型の抗cであると判断し,赤血球輸血はA型のE抗原及びc抗原陰性血を選択することとした。交差適合試験にて適合を確認後,赤血球輸血が行われた。その後半年間継続して頻回輸血が行われたが(血小板輸血:950単位,赤血球輸血:10単位/年),副反応の報告や新たな不規則抗体産生等不具合事象を確認していない。

4. 不規則抗体の抗体価

初回不規則抗体確認時における抗E及び抗cの抗体価は,抗EではSal法,Sal-IAT法ともに8倍であり,抗cはSal法で1倍,Sal-IATで8倍であった(Table 5)。同様に,不規則抗体を確認した時点より約3か月及び半年が経過したタイミングで再度検査を実施したところ,抗EのSal法で1倍となったが,抗EのSal-IAT及び抗cの抗体価は陰性化した(Table 5)。また不規則抗体検出より約半年後の同定試験では,PEG-IATにて抗E及び抗cが検出され,Sal法では抗Eのみが確認された(Table 3)。

Table 5  Result of antibody titer
Method 2020/10 2021/1 2021/3
Anti-E Sal 8 1 1
Sal-IAT 8 0 0
Anti-c Sal 1 0 0
Sal-IAT 8 0 0

V  考察

我々は今回,赤血球輸血歴がなく,頻回な血小板輸血が起因と考えられる不規則抗体産生症例を経験した。その不規則抗体はIgM型IgG型複合の抗E及び抗cであり,IgM型抗体がABO血液型検査オモテ・ウラ不一致の要因であったと考えられる。

ABO血液型ウラ検査に影響を与える要因の一つとして,患者血漿中の低温反応性抗体の存在がある。その多くは抗Mや抗P1等であり,これらの抗体は輸血歴がない人の血漿中にも自然抗体であるIgM型として産生されると広く知られている4)。しかし,IgM型の抗Eや抗cが血液型判定に影響した例は自然抗体を含め多くなく,血小板輸血により誘発された抗体が干渉した報告例は我々の知る限りない。高力価のIgG型抗体がSal法判定に影響を与える例があるため5),DTT処理実施後Sal法による検査を行ったところ,陰性化を確認した(Table 4)。IgM型の抗E及び抗cの証明後,E抗原及びc抗原陰性の赤血球を用いた追加検査により,ABO血液型を確定した(Table 2)。本症例は不規則抗体の初回検出時まで赤血球輸血歴が無く,頻回な血小板輸血のみであった。血小板製剤中にも赤血球は含まれるが非常に微量であり,血小板輸血による不規則抗体産生リスクは低いとされている2)。また同様の理由から,交差適合試験の省略が可能である3)。RhD陽性の供血者由来血小板製剤が投与されたRhD陰性の受血者67名について調査した報告では,血小板輸血後に抗Dの産生は確認されなかった6)。一方で,血小板輸血により抗体産生が誘発された報告例が少なからず存在する7),8)。ゆえに血小板輸血のみであっても,免疫応答によりIgM型を含む不規則抗体産生の可能性があることを念頭に検査を進めるべきである。

低温反応性抗体による影響を疑い実施したABO血液型ウラ検査加温後判定にて,A1赤血球との反応が増強された(Table 2)。Sal-IATにて抗E及び抗cが検出されたことから(Table 4),IgG型の抗cが加温後の反応強度増強に関与した可能性が示唆された。

血小板輸血により検出される不規則抗体は,一次免疫応答および二次免疫応答のいずれによっても引き起こされると報告されている7),8)。本症例では,週に20単位程度の血小板輸血が約半年間継続された。供血者の多くを占める日本人の約半数がE抗原及びc抗原を保持することから9),どの血小板製剤が不規則抗体産生の要因となったのか,また免疫応答の詳細について判断することは困難であった。しかし初診時の不規則抗体スクーニングが陰性であったにも関わらず,抗E及び抗cの産生が確認されたことから推察すると,既知の報告7),8)と同様に,血小板製剤中の微量な赤血球が抗体産生を誘発する十分な免疫原性を持つことは明らかである。また大量輸血や頻回な輸血は抗体産生を促しやすい10)。頻回な血小板輸血による免疫の機会の多さが,抗体産生の重要な要因であった可能性が示唆された。

血小板製剤中の混入赤血球が起因となる不規則抗体産生例はRh血液型に対する抗体が多く7),8),本症例にて検出された抗体も抗Eおよび抗cである。Rh血液型抗原のD抗原は特に免疫原性が強いことで知られており,次いでE抗原,c抗原の順に強い9),10)。微量な赤血球であっても免疫刺激を起こす要因として,免疫原性の強さが関与しているかもしれない。

初回の不規則抗体検出時より計5回の赤血球輸血依頼があり,その度に血液型検査を実施していたが,不規則抗体が干渉したのはTable 2で示した一度のみであった。不規則抗体確認時より約半年後に実施した不規則抗体検査では,Sal法にて抗cは検出されず,抗体価は減弱または陰性化していた(Table 3, 5)。干渉が確認されなかった要因として,①血液型検査用赤血球のE抗原陰性,②Sal法での抗c陰性化により,A1赤血球のc抗原が陽性であっても赤血球凝集反応が起こらなかったためと考えられる。

VI  結語

今回の症例は,頻回な血小板輸血が起因となり不規則抗体が産生されたと考えられる。

ABO血液型ウラ検査判定に影響を与える可能性として,一般的な低温反応性抗体以外の要因も考慮すべきこと,またその抗体の産生要因として血小板輸血が考えられることを今回の報告を通して周知できればと考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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