2022 Volume 71 Issue 1 Pages 138-142
医療法の一部改正(平成29年法律第57号)に伴い,医療機関における検体検査の精度を確保する体制の整備が必要となった。実施している全ての検体検査で内部精度管理を行うことが求められているが,顕微鏡の操作や形態学的鑑別が必要となる髄液一般検査においてルーチン業務で担当していない技師に対して内部精度管理で精度を評価し必要に応じて教育をしていくことは重要である。今回我々は,時間外検査の担当者を対象に髄液一般検査の内部精度管理の方法を構築し,5年間実施した成績を評価したので報告する。方法は当院で実際に出現した髄液写真を細胞分類させるフォトテストと末梢血から作製した擬似髄液検体を用いて顕微鏡上で細胞分類をさせる細胞分類テストを年1回ずつ実施した。各方法で設定した合格基準に満たさなかった担当者には合格するまで再教育を実施した。結果は,フォトテストでは2016年を除いては100%の合格率であったが,細胞分類テストでは合格率が高い年で76.5%,低い年で27.3%とばらつきが大きく,最近の2年間では57.1%から合格率が改善しなかった。今回の結果から髄液一般検査の内部精度管理は顕微鏡写真のみでは不十分であり,顕微鏡操作を含めたより実践的な方法で内部精度管理を行う必要性が確認できた。また,この結果から教育方法や教育の間隔なども再考する必要があると考えられた。
With the Partial Amendment of Medical Care Act (Act No. 57 of 2017), the preparation of a system securing the accuracy of specimen inspection in medical institutions has become necessary. It is required to perform internal quality control in all specimen inspections performed. For this quality control, it is important to evaluate technologists who are not in charge of routine work of general cerebrospinal fluid examination requiring microscope operation and morphological differentiation on the basis of the accuracy of internal quality control and educate them depending on the necessity. We developed an internal quality control method for general cerebrospinal fluid examination targeting technologists in charge of after-hour inspection and evaluated the outcome of the method performed for 5 years. In this method, a photo test, in which cells in photographs of cerebrospinal fluid taken in our hospital were classified, and a cell classification test, in which microscopy images of cells in pseudo specimens of cerebrospinal fluid prepared from peripheral blood were classified, were performed once a year. Technologists in charge who did not meet the passing criteria set for each test were re-educated until they passed. The percentage of technologists who passed the photo test was 100% excluding the results in 2016. On the other hand, the highest and lowest percentages of technologists who passed the cell classification test were 76.5 and 27.3%, respectively, showing a large variation, and the percentage of technologists who passed did not improve from 57.1% over the last 2 years. It was confirmed that internal quality control in general cerebrospinal fluid examination based on photographs alone was insufficient, and internal quality control using a practical method including microscope operation is necessary. In addition, it may also be necessary to reconsider the method and interval of re-education.
髄液一般検査は,緊急性の高い検査であり,24時間検査をできる体制が求められている。また,医療法の一部改正(平成29年法律第57号)に伴い髄液一般検査においても精度を確保する体制の整備が必要となった。しかし,ルーチン業務で髄液一般検査を担当していない技師の計算盤による細胞数算定は,顕微鏡の操作や形態的鑑別が必要なことから精度の確保が難しい現状にある。今回我々は,当院で2016年から時間外検査の担当者を対象に実施している内部精度管理の方法と結果について評価したので報告する。
2016年から2020年の5年間に時間外検査担当者に対して行った髄液一般検査内部精度管理結果を対象とした。
2. 方法 1) 髄液フォトテスト当院で実際に検査した髄液細胞の顕微鏡写真を20題出題し,各細胞の分類を担当者に回答させた(Figure 1)。実施は年1回とし,8割以上の正解率で合格とした。また,不合格者には再教育後,合格まで再テストを実施した。
サムソン染色(×400)
当院で出現した髄液検体写真を出題した。
EDTA2K加採血管で採取した末梢血から作製した擬似髄液検体を用いて,顕微鏡で髄液検査技術教本1)の細胞分類基準に従い細胞分類を行った(Figure 2)。「総細胞数」「単核球数」「多形核球数」の全ての項目で髄液一般検査ルーチン業務担当者の平均値から ±10%以内を合格とした。また,不合格者には再教育後,合格まで再テストを実施した。
サムソン染色(×400)
擬似髄液検体写真。
また,細胞分類テストと同日に髄液検体提出からFuchs-Rosenthal 計算盤に検体を流し込むまでの手技の確認を行った。
3) 擬似髄液検体作製方法EDTA2K加採血管で採取した末梢血を室温で30~60分間放置後,上層の白血球を多く含む血漿を採取し,400 g,15分間遠心したのち,上清を除去し,沈渣に生理食塩水を少量加えて混和する。これを200 g,10分間遠心する。この操作を2~3回繰り返したのち,白血球を回収し,生理食塩水と自己血清を数滴加え白血球濃度を調整し,擬似髄液検体とした。
その後,擬似髄液検体180 μLにサムソン液を10 μL加えて混和したものをFuchs-Rosenthal 計算盤に20 μL流し込み,封入をしたのち,細胞分類テストに用いた。封入後1週間までを使用期限とした。なお,髄液検査技術教本1)では,髄液180 μLにサムソン液を20 μL(9:1)加え混和するが,細胞分類テストにおいては細胞の過染を防ぐ為に加えるサムソン液は10 μLとした。封入後1週間までを使用期限としている為,試験当日に髄液一般検査ルーチン業務担当者が目視確認を行い,保存状況による細胞の偏りや細胞変性により,細胞分類結果に前日までとの乖離がないことを確認してから使用した。
2016年から2020年までの5年間の初回テスト合格割合(合格者数/対象者数)は,86.1%(31/36),100%(36/36),100%(37/37),100%(16/16)であった(Table 1)。
2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
---|---|---|---|---|---|
平均点数 | 89.6点 | 96.0点 | 97.2点 | 97.2点 | 96.7点 |
合格者数/対象者数 | 31/36 | 36/36 | 31/31 | 16/16 | 15/15 |
合格率 | 86.1% | 100% | 100% | 100% | 100% |
2016年から2020年までの5年間の初回テスト合格割合(合格者数/対象者数)は,37.1%(13/35),27.3%(9/33),76.5%(13/17),57.1%(8/14),57.1%(8/14)であった(Table 2)。
2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
---|---|---|---|---|---|
合格者数/対象者数 | 13/35 | 9/33 | 13/17 | 8/14 | 8/14 |
合格率 | 37.1% | 27.3% | 76.5% | 57.1% | 57.1% |
目標値(総細胞数) | 102/μL ± 10% | 86/μL ± 10% | 101/μL ± 10% | 40/μL ± 10% | 67/μL ± 10% |
目標値(単核球数) | 62/μL ± 10% | 35/μL ± 10% | 34/μL ± 10% | 18/μL ± 10% | 18/μL ± 10% |
目標値(多形核球数) | 40/μL ± 10% | 51/μL ± 10% | 67/μL ± 10% | 22/μL ± 10% | 49/μL ± 10% |
細胞分類テストが不合格になった結果を分析すると,単核球を多く数える技師が最も多く52%(32件),総細胞数が少ない技師と多形核球を多く数える技師がともに24%(15件)であった(Figure 3)。
医療法等の一部を改正に伴い2018年の12月より各医療機関において内部精度管理の実施が努力義務となり,院内で実施している検査については内部精度管理を全ての項目で実施し記録を台帳として保管することが求められるようになった。
当院においては,医療法の一部改正前の2013年,ISO15189を取得するにあたり,院内検査の内部精度管理について見直しを行った。その際,髄液の細胞数および細胞分類については内部精度管理を実施していなかったため,新たに内部精度管理の方法から構築する必要があった。髄液検査は迅速な治療が必要となる細菌性髄膜炎の診断に不可欠な検査であり,業務時間外を含む24時間体制が要求される。従って,内部精度管理は業務時間外のみ髄液検査を担当する技師も対象となることから,検査の力量を的確に評価でき,かつ,ある程度短い間隔で定期的に行う必要があると考えられた。当初,顕微鏡写真による髄液フォトテストのみで実施を計画したが,検査に慣れていない技師にとっては顕微鏡を操作して計算盤上の細胞のピントを合わせる作業が難しく精度に大きく関係していることが懸念された。そこで,髄液細胞分類の全ての工程を含む内部精度管理が必要であると考え,髄液の外観チェックや染色工程の手技のチェックを含めた細胞分類テストも加えて年に1回実施することにした。
髄液フォトテストでは,内部精度管理を開始した初回のテストで不合格がやや多く見られたが,その後は良好な結果であった。細胞形態についての教育の成果が確認できた。一方で,細胞分類テストの結果は年によりばらつきが大きく,2つの内部精度管理方法の結果には明確な差が生じた(Figure 4)。
髄液フォトテストでは細胞の特徴が出るようにピントが調節された状態で写真撮影されているため,細胞の形態的特徴を習得できていれば正解できたが,細胞分類テストでは細胞が鑑別できるピントに自ら顕微鏡を操作して合わせる必要があり正解率が向上しない原因と考えられた。また,細胞分類テストはサムソン液で染色された擬似検体であるため,サムソン液に含まれるフクシンにより核が膿染される。実際の髄液検体では,リンパ球に比べて好中球の核の染色性はやや淡く染色されるが,今回の擬似検体ではリンパ球と好中球ともに時間が経過すると同様の濃さで染色されていた。細胞質も同様であり,時間経過すると本来は染色されないとされている好中球の細胞質も淡くフクシンで染色され,単球と細胞質の染色性の違いで鑑別することが困難となった。更に,好中球は細胞質が偽足をもったような不整形を示すものが多い1)とされているが,擬似検体ではリンパ球と同様に好中球の細胞質も全て類円形となったことが単核球と多形核球の比率が乖離した原因の1つと考えられた。総細胞数が乖離した原因としては,計算盤の目盛の線上にある細胞のカウントが曖昧であったり,カウントしていない細胞があったり,同じ細胞を複数カウントしたりなど計算盤による検査の不慣れが原因として考えられる。いずれにしても習熟度が上がれば改善されることが見込まれることから,擬似検体の作製方法も改良しながら今後も細胞分類テストは続けていく方針である。また,今回の結果から顕微鏡や計算盤の操作に不安があると判断した担当者には実技の指導をさらに試みる必要性も感じられた。
例年の細胞分類テストの結果を踏まえて,時間外検査においては末梢血の血球数算定に使用している多項目自動血球分析装置 XN-3000のBFモードでも検体を測定して目視でカウントした結果と比較して乖離が無いことを確認することで時間外検査での精度を担保している。今後は多項目自動血球分析装置の結果を報告することも精度管理上の解決策となりえるが,これまでの検討結果で細胞数が少ない検体での目視カウントとの乖離が問題となり採用に至っていない。今後,目視の再現性や臨床的に許容できる誤差であるかの確認などを経て採用することも検討したい。
昨今,時間外検査においても時間内検査で報告しているのと同様の精度が求められるようになり,当院では時間外検査でも時間内検査と同じ機器を基本的に用いて測定している。また,メーカーが毎日実施することを推奨している保守を休日も実施し,内部精度管理は業務時間内で使用している管理試料を測定し,同じ許容誤差範囲で管理している。これらの作業は通常業務で検体検査を担当していない技師にとっては難しいことも多く,教育する側の負担も大きかった。2017年度までは輸血検査と検体検査を当番制で全員が交互に担当していたが,2018年度から時間外業務の担当を輸血検査と検体検査の2つに分けて担当する業務範囲を狭くしたうえ,同じ検査の業務に就く回数を増やす様に変更した。これにより細胞分類テストも2018年度からわずかに合格率が向上したがまだ満足できる状況ではない。教育方法を改善し更に合格率を向上させたいと考えている。
今回我々は,当院で実施している髄液一般検査の全工程を対象とした内部精度管理方法について報告した。今回の結果から顕微鏡写真のみの内部精度管理では不十分であり,顕微鏡操作を含めた内部精度管理が必要であることが確認できた。
本論文の要旨は,第70回日本医学検査学会(2021年5月)で報告した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。