Japanese Journal of Medical Technology
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Irregular antibody screening using fully automatic blood transfusion test device Erytra Eflexis
Chiaki KATOUJuri WATANABEHiroki MATSUOKAHiroko ENDOUTomomi WATANABETadashi MATSUSHITA
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2022 Volume 71 Issue 1 Pages 87-94

Details
Abstract

全自動輸血検査装置は,分注ミスの防止,凝集判定の個人差が解消でき検査業務の省力化にも有効である。今回,全自動輸血検査装置Erytra Eflexisを使用したゲルカラム凝集法(Gel-CAT)を用いた不規則抗体スクリーニングの基礎的検討を行った。日常的な遭遇レベルの乳び,溶血,高ビリルビンの影響を受けず,高グロブリンに対しても,間接抗グロブリン試験(LISS-IAT)ではIgG 7,371 mg/dLで,酵素法であるPapainでは連銭形成を生じる検体でのみ影響を受けた。ガラスビーズカラム凝集法(Glass-CAT)を原理とする現行機器との比較では,LISS-IATでKidd,Duffy,Diego抗体がGel-CATに強い反応強度を示し,抗eと抗Diaの各1件はGel-CATでのみ検出した。酵素法ではRh系抗体,Kidd,Lewis抗体でGel-CATが強い反応強度を示し,3件のRh系抗体と2件のKidd抗体は,Gel-CATでのみ検出した。抗体産生早期検体では,抗EでGel-CATのPapainがより早く検出した。抗Jkb,抗Dia,抗Leaでは,PEG-IATと同等時期に検出した。Gel-CATは特にRh系抗体の検出に優れ,抗Dの検出感度はLISS-IATで0.02 IU/mL,Papainでは0.01 IU/mLであった。以上より日常検査に有用であると判断した。

Translated Abstract

A fully automatic blood transfusion test device can prevent dispensing errors, eliminate individual differences in agglutination judgment, and minimize labor saving. We conducted a basic study of irregular antibody screening by the gel column agglutination method (Gel-CAT) using the fully automatic blood transfusion test device Erytra Eflexis®. The device was not affected by abnormal levels of colours routinely encountered in chylothorax, hemolysis, and hyperbilirubinemia. It was only affected by a high immunoglobulin level at IgG 7,371 mg/dL in the low-ionic-strength solution indirect antigulobulin test (LISS-IAT) and in specimens that produced rouleaux formation in the enzymatic method using papain. In the comparison of Gel-CAT with the glass-bead-based column agglutination method (Glass-CAT) using this device, Gel-CAT showed strong reaction intensity with anti-Kidd, anti-Duffy, and anti-Diego antibodies in LISS-IAT, and both anti-e and anti-Dia antibodies were detectable only by Gel-CAT. In the enzymatic method, Gel-CAT showed a strong reaction intensity with anti-Rh, anti-Kidd, and anti-Lewis antibodies, and three anti-Rh antibodies and two anti-Kidd antibodies were detected only by Gel-CAT. In samples with early antibody production, anti-E antibodies were detected earlier by Gel-CAT with the enzymatic method using papain. Gel-CAT detected anti-Jkb, anti-Dia, and anti-Lea antibodies similarly to PEG-IAT. Gel-CAT was particularly effective in detecting anti-Rh antibodies. For anti-D antibodies, the detection sensitivities were 0.02 IU/mL for LISS-IAT and 0.01 IU/mL for the enzymatic method using papain. Therefore, we concluded that Eflexis is useful for routine tests.

I  はじめに

全自動輸血検査装置は,試薬・検体の分注,インキュベーション,遠心,判定に至る全過程を自動で行うため,分注ミスの防止,凝集判定の個人差解消が可能で検査業務の省力化にも有効である1),2)。現在販売されている全自動輸血検査装置には,カラム凝集法(column agglutination technology;以下,CAT)やマイクロプレート法があり,広く普及している1),3),4)。CATでは,KiddやDuffyなどの補体結合性抗体の検出感度が試験管法に比較し若干劣るとされるが,酵素法を用いたRh系抗体の検出感度は優れている5),6)

今回,全自動輸血検査装置Erytra Eflexis(以下Eflexis)を使用したゲルカラム凝集法(以下Gel-CAT)を原理とする不規則抗体スクリーニング(以下SCR)で,反応増強剤として低イオン強度溶液を使用する間接抗グロブリン試験(low-ionic-strength solution indirect antiglobulin test;以下,LISS-IAT)とPapain処理された赤血球試薬による酵素法(以下,Papain)の基礎的検討を行ったので報告する。

II  対象および方法

1. 材料

2018年3月~2020年9月に当院輸血部に輸血検査の依頼があったEDTA2Na加血漿の残余検体を使用した。検体の使用にあたっては,名古屋大学医学部倫理委員会の承認を得た(2010-1038)。

2. 測定試薬・装置

測定には下記試薬および装置を使用した。

1) 試薬

DG GelカイノスCoombsカード,DG GelカイノスNeutralカード,DGスクリーンサイト(カラム用),DG Diaサイト(カラム用),DGスクリーンサイト“パパイン処理”(カラム用)(株式会社カイノス)。比較対象としてオーソバイオビュー抗IgGカセット,オーソバイオビューニュートラルカセット,0.8%セルスクリーンJ -Alba-,オーソバイオビュースクリーンJフィシン,サージスクリーン,オーソ抗ヒトIgG血清(ウサギ)(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社),ガンマPEG(株式会社イムコア),クームスコントロール(弱)(株式会社カイノス)。

2) 装置

Erytra Eflexis(株式会社カイノス)。比較装置:ORTHO VISIONTM analyzer(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)(以下VISION)。

3) 追加検討補助装置

DG Therm,DG Spin(株式会社カイノス)。

3. 測定パラメータ

EflexisはGel-CATを原理とし,VISIONはガラスビーズカラム凝集法(glass beads CAT;以下,Glass-CAT)を原理とする。試験管法(tube test; TT)による間接抗グロブリン試験(polyethylene glycol-IAT;以下,PEG-IAT)を含め,それぞれの測定パラメータをTable 1に示した。

Table 1  測定パラメータ
Eflexis Gel-CAT VISION Glass-CAT TT IAT
LISS-IAT Papain LISS-IAT Ficin PEG-IAT
カード種類 Coombsカード Neutralカード 抗IgGカセット ニュートラルカセット
赤血球試薬濃度 0.8% 0.8% 4% 3%
赤血球試薬量 50 μL 50 μL 10 μL 1滴
血漿量 25 μL 40 μL 40 μL 2滴
反応温度・時間 37℃ 15 min 37℃ 15 min 37℃ 10 min 37℃ 15 min
遠心回転数・時間 1,206 rpm 9 min 793 rpm 2 min + 1,509 rpm 3 min 1,000 g 15 sec
判定 画像解析 画像解析 目視判定

III  結果

1. 赤血球試薬の安定性

試料として抗Jkaと抗Diaは患者検体を,抗Dと抗Fyaは精度管理試料を分注後 −30℃で凍結保存し,測定日毎に解凍して連続12日間SCRを実施した。その結果,12日間において,抗Jkaは,Jka陽性赤血球でLISS-IATは(2+)または(3+),Papainは(3+)または(4+)で,両法のJka陰性赤血球ではいずれも(0)であった。抗Fyaは,Fya陽性赤血球ではLISS-IATで(3+)または(4+),PapainとLISS-IATのFya陰性赤血球は全て(0)であった。抗Dは,D陽性赤血球ではLISS-IATは(2+)または(3+),Papainは(3+)または(4+)で,両法のD陰性赤血球では全て(0)であった。抗Diaは,LISS-IATのみ実施し,Dia陽性赤血球では(1+)または(2+)であったが9日目以降は(1+)のみであり,Dia陰性赤血球は全て(0)であった。

2. 乳び・溶血の影響

イントラリポス20%(大塚製薬)と自家調製ヒト赤血球溶血液15 g/dLを添加原液としてリン酸緩衝生理食塩液(以下,PBS)で段階希釈し,SCR陰性血漿:添加溶液=9:1となるよう添加してSCRを実施した。調整した試料をFigure 1に示す。その結果,イントラリポスは終濃度1.5%まで陰性の判定が可能であり,1.75%以上では一部のカラムで「赤血球過剰」のエラーで判定不能であった。赤血球溶血液では,終濃度1.2 g/dLまで陰性の判定が可能であった。ただし,0.30 g/dL以上では,自動判定に加え「溶血」または「不適切な容量」のコメントが付いた。また,1.5 g/dLでは「赤血球過剰」で判定不能となった。

Figure 1 イントラリポス・赤血球溶血液添加血漿

3. 高グロブリンおよび高アルブミンの影響

SCR陰性が確認された高グロブリン検体および献血アルブミン25%静注12.5 g/50 mL「ベネシス」(一般社団法人日本血液製剤機構)(以下,献血アルブミン)を検体としてSCRを実施し,高グロブリンおよび高アルブミンの影響を検討した。検体の詳細とその結果をTable 2に示した。LISS-IATではIgG 7,371 mg/dLのモノクローナルな高グロブリン検体と,献血アルブミン15 g/dL以上の濃度で偽陽性を認めた。Papainではポリクローナルな高グロブリン検体2件と献血アルブミン25 g/dLで偽陽性を認めた。

Table 2  高グロブリンおよび高アルブミン検体の測定
No. IgG(mg/dL) IgA(mg/dL) IgM(mg/dL) TP(g/dL) Alb(g/dL) LISS-IAT Papain
1 9,038 9 12 13.6 2.9 0 0
2 7,371 43 18 11.8 3.1 0~+/– 0 Peg-IAT(–)
3 4,284 67 49 9.9 3.9 0 0
4 505 4,274 145 8.6 2.1 0 0
5 448 1,893 7 7.6 4.0 0 0
6 390 1,814 25 6.9 3.4 0 0
7 643 35 4,619 9.7 3.2 0 0
8 539 151 4,592 9.7 2.6 0 0
9 1,167 286 3,129 8.7 3.1 0 0
10 5,430 285 163 11.2 3.1 0 0
11 6,951 776 428 11.9 2.1 0 0~1+ 連銭形成
12 4,643 842 182 10.3 2.6 0 0
13 4,337 302 210 10.1 3.8 0 0
14 4,130 157 503 10.0 2.8 0 3+~4+ 連銭形成
15 3,424 963 162 10.0 3.3 0 0
16 4,370 579 144 9.6 3.5 0 0
17 nt nt nt 25.0 25.0 1+ 1+ Peg-IAT(–)
18 nt nt nt 20.0 20.0 1+ 0
19 nt nt nt 15.0 15.0 0~+/– 0
20 nt nt nt 10.0 10.0 0 0
21 nt nt nt 5.0 5.0 0 0
22 nt nt nt 0 0 0 0

4. 高ビリルビンの影響

SCR陰性が確認された総ビリルビン32.6~50.0(mean = 40.2)mg/dL,直接ビリルビン25.6~39.5(mean = 32.0)mg/dLの5検体を用いてSCRの検査を実施した。その結果,高ビリルビンによる色の影響はなく,いずれの検体においても陰性と自動判定された。

5. 他法との抗体検出の比較

Gel-CATを原理とするEflexisと,Glass-CATを原理とするVISIONとの抗体検出の比較を検討した。検体は各種抗体陽性を含む101検体(抗C 2件,抗C + 抗e 3件,抗C + 抗e + 抗Jka 1件,抗C + 抗Lea 1件,抗E 7件,抗E + 抗Dia 1件,抗Fya 1件,抗Fyb 4件,抗Jka 3件,抗Jkb 1件,抗Dia 5件,抗M 9件,抗S 2件,抗Lea 2件,抗Lea + 抗Leb 1件,抗Jra 3件,型特異性のない自己抗体2件,寒冷凝集4件,陰性49件)を使用した。評価は,複数抗体については抗体ごとに最も反応強度の強いカラムで比較し,RCD非特異と酵素非特異を示すものは解析から除外した。RCDはオーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社のLISS試薬で,BSA30%-Protease Freeが含まれ,LISS-IATでは発生しない非特異反応が稀に見られる。Gel-CATの酵素法はDia抗原陽性の赤血球試薬を含まないため酵素法について抗Diaは除外した。抗eとの複数抗体となる抗CはSCRでは単独での評価ができないため,抗C + 抗eとして評価した。最終的に,LISS-IATではn = 108,酵素法ではn = 95で比較し,その結果をTable 3およびTable 4に示した。

Table 3  LISS-IATの比較
LISS-IAT
n = 108
Gel-CAT(Eflexis)
0 +/– 1+ 2+ 3+ 4+
Glass-CAT
(VISION)
0 60 抗e 抗Dia
w+ 抗Lea,抗M,寒冷凝集(3) 抗Jka(3),抗S,自己抗体 抗C + 抗e,
抗Fyb(2)
1+ 抗M 抗e,抗Fyb,抗Jka,抗Dia(3)
2+ 抗E,抗M(2) 抗E(2),抗Fya,抗Jkb,抗M,抗Jra(3) 抗Dia(2)
3+ 抗M 抗C + 抗e,抗e,
自己抗体
抗e,抗Fyb
抗M,抗S
抗E,抗M(2)
4+ 抗C + 抗e,抗E
Table 4  酵素法の比較
酵素法
n = 95
Gel-CAT(Eflexis)
0 +/– 1+ 2+ 3+ 4+
Glass-CAT
(VISION)
0 61 抗C,抗E,抗Jka 抗Jkb 抗e
w+ 抗Lea(2),寒冷凝集(2) 抗E,抗Leb,抗Jra 抗C(2)
1+ 寒冷凝集 抗Lea,抗Jra(2) 抗E 抗C + 抗e,自己抗体
2+ 抗Lea
3+ 抗C + 抗e(2),抗E(4),抗e(2),抗Jka,自己抗体
4+ 抗C + 抗e,抗e

LISS-IATではいずれかの測定において陽性であった検体は48件であり,Kidd,Duffy,Diegoの抗体でGel-CATが強い反応強度を示した。抗eと抗Diaの各1件については,Gel-CATでのみ検出可能であった。逆に,抗Mの1件についてはGlass-CATで検出したがGel-CATでは検出できなかった。Gel-CATが強い反応強度を示したものは19%(21/108)で,Glass-CATが強いものは11%(12/108)であった。

酵素法ではPapainとFicinのいずれかにおいて陽性であった検体は34件であり,Rh系抗体,Kidd,Lewis抗体でGel-CATが強い反応強度を示した。抗C,抗E,抗e,抗Jka,抗Jkbの各1件については,Gel-CATでのみ検出可能であった。全体ではGel-CATが強い反応強度を示したものは33%(31/95)で,Glass-CATが強いものは1%(1/95)であった。

6. Eflexisと用手法を用いたGel-CATの比較

5.他法との抗体検出の比較で使用した検体を用いて,インキュベーターにDG Therm,カード専用遠心機にDG Spinを使用した用手法と比較した。抗Dia 1件が用手法でのみ(+/−)で陽性となったが,100件で陽性・陰性は一致した。しかし,Eflexisで用手法より反応強度が強かったカラムがLISS-IAT,Papainともに4%あった。逆に用手法の反応強度が強かったのはLISS-IATで0.2%,Papainで1%と,Eflexisを用いた方がより強い反応強度が得られた。

7. 抗Dの検出感度

抗Dの検出感度を求めるため,Essential II Control QCS1(株式会社カイノス,抗D 0.05 IU/mL)をSCR陰性血漿で希釈してSCRを実施し,その結果をTable 5に示した。検出感度を(1+)以上の最小力価とした場合,LISS-IATでは0.02 IU/mL,Papainは0.01 IU/mLであった。

Table 5  抗Dの検出感度
Essntial II
Control QCS1
LISS-IAT Papain
I II III Dia I II III
0.05 IU/mL 1+ 3+ 0 0 3+ 3+ 0
0.04 IU/mL 1+ 2+ 0 0 3+ 3+ 0
0.03 IU/mL 1+ 2+ 0 0 3+ 3+ 0
0.02 IU/mL +/– 1+ 0 0 3+ 3+ 0
0.01 IU/mL 0 +/– 0 0 2+ 1+ 0
0.005 IU/mL 0 0 0 0 +/– +/– 0
0.0025 IU/mL 0 0 0 0 0 0 0

8. 抗体産生初期の抗体検出

抗E,抗Jkb,抗Dia,抗Leaの抗体産生初期の検出時期を確認するため,抗体検出前後の同一患者における時系列のSCRを,Gel-CAT,Glass-CAT,PEG-IATで実施した。抗Leaのみ,反応増強剤無添加IATを行った。その結果をTable 6に示した。

Table 6  抗体産生初期の経時変化
抗E 抗Dia
輸血後経過日数(日) Gel-CAT Glass-CAT TT Peg-IAT 輸血後経過日数(日) Gel-CAT LISS-IAT Glass-CAT TT Peg-IAT
LISS-IAT Papain LISS-IAT Ficin LISS-IAT Ficin
13 0 0 0 0 0 2 0 0 0 0
14 0 1+ 0 0 0 8 2+ 2+ 2+ 2+
15 0 2+ 0 0 0 17 3+ 3+ 4+ 3+
17 0 3+ 0 w+ 0 41 2+ 3+ 3+ 3+
18 0 4+ 0 2+ 0 67 2+ 2+ w+ 3+
44 0 3+ 0 2+ 0 110 1+ 1+ w+ 1+
47 0 3+ w+ 2+ w+ 157 1+ w+ 0 1+
63 0 3+ w+ 2+ w+ 207 +/– w+ 0 w+
77 0 3+ 0 2+ 0
抗Jkb 抗Lea
輸血後経過日数(日) Gel-CAT Glass-CAT TT Peg-IAT 輸血後経過日数(日) Gel-CAT Glass-CAT TT無添加IAT
LISS-IAT Papain LISS-IAT Ficin LISS-IAT Papain LISS-IAT Ficin
5 0 0 0 0 0 38 0 0 0 0 0
7 2+ 3+ 2+ 2+ 2+ 40 1+ 3+ w+ w+ 0
12 3+ 4+ 3+ 3+ 3+ 43 2+ 4+ 3+ 3+ 1+
41 3+ 3+ 3+ 3+ 2+ 47 2+ 4+ 3+ 3+ 2+

抗Eでは,輸血後14日でGel-CATのPapainで最も早く検出され,その3日後にGlass-CATのFicinで検出した。輸血後47日にはPEG-IATとGlass-CATのLISS-IATでも抗体が検出されたが,Gel-CATのLISS-IATでは検出できなかった。抗Jkbと抗DiaはGel-CAT,Glass-CAT,PEG-IATのいずれも同等の検出が可能であった。抗Leaでは反応増強剤無添加IATで検出される3日前にGel-CATとGlass-CATで検出しており,反応強度はGel-CATのPapainが強かった。

IV  考察

今回,我々は全自動輸血検査装置Erytra EflexisのSCRの検討を行った。

赤血球試薬は12日間安定であることが確認できた。抗Diaの検出は開封時には(2+)の反応強度を示していたが,9日目以降では(1+)の反応強度となり,新しい赤血球試薬で同一検体を用いて再検したところ(2+)の反応強度が得られ,赤血球試薬の抗原性低下が疑われた。

検体中に共存する物質の影響については,乳びとしてイントラリポス終濃度1.5%まで,赤血球溶血液では終濃度1.2 g/dLまで影響がなかった。赤血球溶血検体では通常,光学的画像解析が困難で目視判定が必要とされる場合があるが7),今回測定不能であった濃度は,日常ではほぼ遭遇しない。色調に対する影響に強い理由として,検体が赤血球試薬により3倍に希釈されることにより色調の影響が少なくなることが要因と考えた。

高グロブリンおよび高アルブミンの影響では,モノクローナルなグロブリンに関しては,IgG 7,371 mg/dLでLISS-IATのみ一部のカラムで(+/−)となったが,9,038 mg/dLの検体では影響がなかったため,グロブリン濃度以外の要因も影響していると考えた。また,IgAとIgMではそれぞれ4,274 mg/dL,4,619 mg/dLまでは影響がなかった。ポリクローナルな高グロブリン検体ではLISS-IATは全て陰性であり,TP 11.9 g/dL,A/G = 0.21とTP 10.0 g/dL,A/G = 0.39の検体で,Papainでのみ陽性となり,いずれも連銭形成が原因であった。連銭形成はABO式ウラ検査で時に問題となり,生理食塩液置換が有効であり8),PEG-IATの場合,十分な洗浄を行えば検体の性状による影響を回避できるが9),洗浄操作を必要としないカラム法では影響がある10)。モノクローナルな高グロブリンはLISS-IATで,ポリクローナルな高グロブリンはPapainで影響を受けやすいと考えた。高蛋白の性状の違いによる傾向を確認するため,グロブリンを含まないアルブミンの高蛋白検体での測定を試みたところ,さらに高濃度のTP 15.0 g/dLでLISS-IATが,Papainは25.0 g/dLで影響があった。アルブミンはアミノ酸の双極性によってゼータ電位を下げ,赤血球間の距離を狭めることによりIATの反応増強剤に用いられていたものであり11),12),LISS-IATでは過剰に添加されたことでイオン強度が最適条件からずれたために影響を受けたと考えた。Papainではポリクローナルな高蛋白より高濃度でも測定が可能であり,アルブミンにおいては粘度が影響したと考えた。

SCRでの抗体検出では,全般的にGel-CATを原理とするEflexisが優れていた。特に,LISS-IATではKidd,Duffy,Diegoの抗体でより強い反応強度を示した。抗Mの1件についてはGel-CATでは検出できなかったが,反応増強剤無添加IATを行ったところ陰性であり,検出は不要なものであった。酵素法では赤血球処理にPapainとFicinの異なる酵素を用いている。Gel-CATでは特にRh系抗体の検出が良く,Kidd,Lewisの抗体でも強い反応強度を示した。LISS-IATと酵素法を合わせて評価した場合,Gel-CATのみで陽性となったのは,抗C,抗E,抗e,抗Diaの4検体であり,Glass-CATのみで陽性となったのは抗Mが2検体と寒冷凝集2検体であり,Gel-CATでのみ抗Diaが検出できたことは有用と考えた。

用手法を用いたGel-CATは,検体量が少ないためにEflexisでの検査が出来ない場合に有用である。そこで,DG ThermとDG Spinを用いて,Eflexisと比較した。その結果,用手法はEflexisを用いた場合より反応強度が若干弱い傾向にあった。試薬量,検体量,インキュベーション温度・時間,遠心力・時間は全て同一であるため,原因としては赤血球試薬と検体の攪拌が不十分であったことが考えられた。Eflexisを使用する際は,フィルムの開封は行わず,分注用のプローブでピアッシングしてカラム内に赤血球試薬や検体を分注し,その勢いで十分に攪拌される。しかし,用手法での手による攪拌は,フィルムを剝がしているため,液はねが起きやすく十分でなかったと考えた。現在は,十分な攪拌を行うために,検体または試薬を分注の都度,ピペットによる攪拌を行うようにしている。

抗Dの検出感度を求めるため,抗D 0.05 IU/mLの力価が示されているEssential II Control QCS1をSCR陰性血漿で希釈しSCRを実施したところ,LISS-IATでは0.02 IU/mLまで,Papainは0.01 IU/mLまで検出可能であった。英国のガイドラインではSCRにおいて0.1 IU/mL未満の抗Dを検出できることが求められ13),この基準を十分に満たしている。Glass-CATとの比較においてRh系抗体の検出が優れていたことと矛盾しない。

赤血球輸血を継続して受ける患者にとって,新たに産生された不規則抗体をより早く検出し,対応抗原陰性の赤血球を選択することは,溶血性輸血反応を防ぐために重要なことである。しかし,抗体産生初期はIgM型からIgG型へと変化していく段階にあり,既存の抗体とは反応性にも若干の違いがあると考えた。「赤血球型検査(赤血球系検査)ガイドライン(改訂3版)」には検査に使用する検体について,連日の輸血患者では,少なくとも3日ごとに検査用検体を採血するよう示され,方法についてもIATは臨床的意義ある抗体を検出する上で最も信頼でき,SCRには必須である14)とあるように,検査法の選択も重要である。また,日本における遅発性溶血性輸血反応はKidd,Rh系抗体が原因となることが多いと言われている15)。以上から,Kidd,Rh系の不規則抗体に対し,抗体産生初期の不規則抗体の検出感度に優れた測定法が求められる。そこで,輸血による抗E,抗Jkb,抗Dia,抗Leaの抗体産生を経時的に追うことが可能であった検体を用いて,Gel-CAT,Glass-CATおよびPEG-IATまたは反応増強剤無添加IATで抗体検出時期を比較した。その結果,抗Eについては,Gel-CATのPapainで輸血14日目に最も早く検出し,その3日後にGlass-CATのFicinで検出している。この段階では酵素法のみの検出であり,対応抗原陰性血を選択する対象とならないが,輸血47日後にはIATでの陽性が確認され,臨床的意義ある抗体とされた。臨床的意義ある抗体に対しては対応抗原陰性赤血球の輸血が望ましく14),16),理論的には対応抗原陽性赤血球の輸血量が多いほど溶血性輸血反応は強くなることが想定される17)。当院では,多くの場合日本赤十字血液センターから対応抗原陰性血を取り寄せることなく,通常の院内在庫から対応抗原陰性血の確保が可能であるため,酵素法のみの検出であっても対応抗原陰性血を選択している。この症例では,Glass-CATで抗Eを検出した輸血後17日目から46日目までに行った16単位の赤血球輸血に対してE抗原陰性赤血球を輸血していたため,PEG-IATで陽性となった時点での遅発性溶血性輸血反応の発現を回避できたと考えた。Gel-CATのLISS-IATでは抗体検出に至らなかったが,当院では酵素法も実施し,酵素法のみの検出であっても可能な場合は対応抗原陰性血を選択するようにしているため,日常検査としてはLISS-IATまたはPapainのいずれかで検出できれば不規則抗体に対する注意を払うことが可能である。

抗Jkbと抗DiaはGel-CAT,Glass-CAT,PEG-IATのいずれも同等の検出が可能であり,従来Kidd抗体はカラム凝集法での検出が良くないとされていたが5),6),今回の検討において問題はなかった。ただし,連日の測定ではなく,数日毎での測定であったため,未測定の期間内で各方法間に違いがあった可能性は否定できない。抗LeaではGel-CATで検出した3日後に反応増強剤無添加IATでも検出され,臨床的意義ある抗体を早期に検出できたと考えた。

V  結語

今回,全自動輸血検査装置Erytra Eflexisを用いてSCRにおけるLISS-IATとPapainの基礎的検討を行った。その結果,日常的に遭遇するレベルでの乳び,溶血,高ビリルビンの影響を受けなかった。高グロブリンの影響も,LISS-IATではIgG 7,371 mg/dLの検体で一部のカラムが(+/−)の判定となったのみで,Papainについては連銭形成を生じる検体で影響を受けたのみであった。現行機器との比較においては不規則抗体の良好または同等な検出が可能であり,抗体産生早期の検出においても良好な結果が得られた。抗体検出について特にRh系抗体の検出力は優れており,抗DについてはLISS-IATで0.02 IU/mL,Papainでは0.01 IU/mLの検出が可能であり,日常検査に有用であると判断した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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