Japanese Journal of Medical Technology
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Evaluation of analytical performance of ARCHITECT® CA72-4
Ai OKAMOTOYumi TANIGUCHIAkiko MURAKAMIMari MORIMOTOYuki KAWANOMachiko NISHIMURAHitoshi MIYAMOTOHaruhiko OSAWA
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2022 Volume 71 Issue 2 Pages 270-276

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Abstract

Cancer Antigen 72-4(CA72-4)は,胃癌をはじめとする消化器癌,およびムチン性卵巣癌の患者モニタリングとして使用されてきた腫瘍マーカーである。今回我々はアボットジャパン合同会社より,2021年1月に新規発売されたARCHITECT® CA72-4(販売名:CA72-4・アボット)について基礎性能評価を行った。本試薬の基礎性能は同時再現性,日差再現性ともにCV5%未満と良好であった。希釈直線性については4.3 U/mLから155.0 U/mLまで良好であり,検体の安定性は4℃で28日間安定していることを確認した。同一患者同一測定日における血清および血漿の相関性はn = 102,相関係数r = 0.998,回帰式y = 0.971x + 0.009であり,検体種による差は認められなかった。また,患者血清における対照法(エクルーシス試薬® CA72-4:ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)との相関性はn = 185,相関係数r = 0.989,回帰式y = 0.948x − 0.769であり,先行試薬と差異なく使用可能であったが,いくつかの乖離例も存在するため測定試薬が異なる場合の値の解釈には注意が必要である。

Translated Abstract

Cancer antigen 72-4 (CA72-4) is a tumor marker that has been used for the monitoring of patients with gastrointestinal cancers such as gastric cancer and mucinous ovarian cancer. In this study, we evaluated the analytical performance of ARCHITECT® CA72-4, which was newly released in January 2021 by Abbott Japan LLC. The analytical performance of this reagent was found to be good with less than 5% CV for both within-run and within-laboratory precisions, and the dilution linearity was confirmed to be also good between 4.3 U/mL and 155 U/mL. The sample was confirmed to be stable for 28 days at 4°C. The correlation between matched serum and plasma samples drawn from the same patients at the same time was n = 102, r = 0.998, y = 0.971x + 0.009, and there was no significant difference observed between the specimen types. The correlation with the control method (Elecsys® CA72-4, Roche Diagnostics K.K.) for patient serum samples was n = 185, r = 0.989, y = 0.948x − 0.769, indicating that the method can be used without any significant difference in performance from the precedent reagent. However, it is necessary to be careful when interpreting the results of measurements when the measurement reagents are different because some unexpected factors are present.

I  はじめに

Cancer Antigen 72-4(CA72-4)は,高分子量(220–440 kDa)の母核糖鎖抗原であり,腫瘍関連ムチン型糖タンパク質72(TAG-72)に発現する抗原決定基である1)。Colcherら2)は1981年にマウスに肝転移乳癌細胞の膜成分を免疫することでモノクローナル抗体B72.3を作成し,Johnsonら3)は1986年にこのB72.3にて認識される抗原をTAG-72と命名した。その後,セントコア社によってTAG-72の精製抗原をマウスに免疫して得られた第2世代モノクローナル抗体CC49が作製されたことより,現在CA72-4測定に用いられているCA72-4は,B72.3およびCC49の2種類のモノクローナル抗体により認識されている。CA72-4は臨床的には胃癌をはじめとする消化器癌,およびムチン性卵巣癌の患者モニタリングとして使用されている4)~7)。消化器癌の中でも特に胃癌組織中にTAG-72の発現が認められており,CEAとのコンビネーション測定によって胃癌の診断効率向上が報告されている4)。また,卵巣癌においてはCA125での陽性率が低いとされるムチン性濾胞腺癌で陽性となるため,CA72-4とCA125のコンビネーション測定により診断効率が向上することが報告されている。CA72-4はCA125に比して良性疾患における偽陽性が少ないことが利点であり,消化器系良性疾患では炎症や胸腹水貯留による上昇がなかったことや,良性卵巣腫瘍での陽性率も低かったことが報告されている7)

今回我々はアボットジャパン合同会社より,2021年1月に新規発売されたARCHITECT® CA72-4(販売名:CA72-4・アボット)について基礎性能評価を行う機会を得たので報告する。

II  対象および方法

1. 対象

対象は2017年8月15日から2019年9月31日にCA72-4の測定依頼のあった患者検体(血清185検体およびEDTA血漿102検体)を用いた。

2. 試薬と機器

検討法試薬にはARCHITECT® CA72-4(以下,archi CA72-4)を用いて化学発光免疫測定法(chemiluminescent immunoassay; CLIA)を原理とするARCHITECTアナライザーi2000SR(試薬,機器ともにアボットジャパン合同会社)で測定した。対照法試薬にはエクルーシス試薬® CA72-4(以下,cobas CA72-4)を用いて,電気化学発光免疫測定法(electro chemiluminescent immunoassay; ECLIA)を原理とするcobas e601(試薬,機器ともにロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)で測定した。2法の詳細についてTable 1に示す。なお本検討は愛媛大学医学部附属病院における臨床研究倫理審査委員会にて承認されており(登録番号1809003号),すべての測定は各診断薬メーカーより提供された試薬取扱説明書に従い行った。

Table 1 Comparison of information on each reagent and analyzer
検討方法対照方法
機器ARCHITECT i2000SRcobas e601
試薬ARCHITECT® CA72-4エクルーシス試薬® CA72-4
原理CLIAECLIA
試薬構成〇抗CA72-4マウスモノクローナル抗体固相化磁性粒子
〇アクリジニウム標識抗CA72-4マウスモノクローナル抗体
SA磁性MP
〇ビオチン化抗CA72-4マウスモノクローナル抗体
〇トリス(2,2'-ビピリジル)ルテニウムII標識CA72-4マウスモノクローナル抗体
サンプル量25 μL18 μL
測定範囲0.95~200 U/mL0.2~300 U/mL
基準値11.97 U/mL以下6.9 U/mL以下

各試薬添付文書より

3. 評価方法

①再現性:同時再現性は3濃度のコントロール試料および3濃度の患者プール血清を10回同時に測定し,そのC.V.値にて評価した。日差再現性は同試料を2重測定で1日2回,5日間測定し,そのC.V.値より評価した。

②希釈直線性:2濃度のsingle血清および2濃度のpool血清の計4試料についてアーキテクト共通希釈液を用いて10段階希釈を行い,各試料を二重測定した。

③検体の保存安定性:3濃度(Low: 5.2 U/mL, Mid: 34 U/mL, High: 197 U/mL)のpool血清検体を24℃・4℃・−40℃でそれぞれ保存後,0.5,1,2,3,7,14,28,56日目に2回ずつ測定した。保存前検体の測定値を100%として,各保存日の測定値の変化率を算出した。なお,−40℃保存検体は小分け凍結し,凍結融解は1回とした。

④感度:LoDは1.02 U/mLの検体をアーキテクト共通希釈液で10段階希釈し,±2SD法により求めた。LoQは低値single検体15検体を1日2回5日間測定し,各サンプルの平均値を横軸,C.V.値を縦軸にプロットして作成した近似曲線がC.V. 10%または20%となる点の濃度から算出した。

⑤干渉物質の影響:干渉チェックAプラスおよびRFプラス(いずれもシスメックス株式会社)を3濃度のpool血清に添加し,ビリルビンF,ビリルビンC,溶血ヘモグロビン,乳び,リウマトイド因子が測定値に与える影響について評価した。

⑥相関性:102例の患者より同日に得られた血清およびEDTA血漿を測定し,両検体種間の相関性を確認した。また,185例の患者血清を用いて,cobas CA72-4との相関性を確認した。対象検体はすべて二重測定を行い,平均値にて評価した。対照法との相関性において患者背景に卵巣癌の診断があった73例のみでの評価も行った。評価方法には,Passing-Bablok回帰およびSpearmanの順位相関係数を用い,解析にはAnalyse-it Method Validation Edition version 5.40.2(Analyse-it Software)を使用した。

III  結果

①再現性(Table 2):同時再現性はC.V. 0.97~3.79%,日差再現性はC.V. 1.52~3.68%であった。

Table 2  Reproducibility
a) Within-run precision (n = 10)
Control Low Control Middle Control High Pool Low Pool Middle Pool High
Mean (U/mL) 7.29 36.58 150.32 5.19 33.87 199.07
S.D. (U/mL) 0.18 0.55 1.72 0.20 0.43 1.94
C.V. (%) 2.50 1.51 1.14 3.79 1.27 0.97
b) Day-to-day reproducibility (n = 20 duplicate assay × 2 run × 5 days)
Control Low Control Middle Control High Pool Low Pool Middle Pool High
Mean (U/mL) 7.05 35.91 150.22 4.53 31.59 194.90
S.D. (U/mL) 0.16 0.70 2.28 0.17 0.72 5.24
C.V. (%) 2.24 1.94 1.52 3.68 2.27 2.69

②希釈直線性:single血清およびpool血清のいずれの直線性も良好であり,最大155.0 U/mLまで直線性を確認した(Figure 1)。

Figure 1 Dilution Linearity

The dilution linearity was evaluated by testing dilutions of four samples in the ARCHITECT manual diluent.

③検体の保存安定性:保存前検体(0日)の測定値を100%とすると,24℃で最大79%(Low,56日),4℃で最大79%(Low,56日),−40℃で最大90%(Low,56日)までの測定値の低下がみられた。2日でいずれの濃度においても測定値の低下がみられ,3日で再び上昇した。なお,保存安定性の検討は同一試薬を用いて行った(Figure 2)。

Figure 2 Specimen Stability

The pooled serum specimens adjusted at 3 levels across the measurable range were was stored at 24°C, 4°C, and −40°C for 56 days.

④感度: LoDは0.20 U/mL,LoQはC.V. 10%で0.97 U/mL,C.V. 20%で0.39 U/mLであった(Figure 3)。

Figure 3 Sensitivity (LoD and LoQ)

a) LoD diluted a specimen of 1.02 U/mL ten phases with ARCHITECT multi diluent and demanded it by the ±2SD method. LoD was 0.20 U/mL.

b) We measured low level single specimen 15 specimen twice a day for five days. The approximate curve that plotted a cross axle, a C.V. level to a vertical axis, and made the mean of each sample calculated it from the level of point that became C.V. 10% or 20%.

LoQ was 0.97 U/mL in C.V. 10% and was 0.39 U/mL in C.V. 20%.

⑤干渉物質の影響:ビリルビンF 19.0 mg/dL,ビリルビンC 20.8 mg/dL,溶血ヘモグロビン460 mg/dL,乳び2,290 FTU,リウマチ因子500 IU/mLまでいずれも影響は認められなかった(Figure 4)。

Figure 4 Effect of potentially interfering substances

The potentially interfering substances were added to pooled specimens and tested in duplicate.

⑥相関性:血清および血漿の相関性はr = 0.998,y = 0.971x + 0.009であった(Figure 5A)。患者血清におけるcobas CA72-4との相関性はr = 0.989,y = 0.948x − 0.769であった。cobas CA72-4の値が20 U/mL以上でarchi CA72-4が ±20%以上乖離がみられた検体について疾患を調査しFigure 5Bにおいて卵巣癌症例をオレンジ色で,また子宮体癌症例を緑色で,それ以外の疾患症を黒色で示した。cobas CA72-4よりarchi CA72-4高値で大きく乖離していた2例(Figure 5B*)は子宮体癌症例であった。また卵巣癌症例のみを抽出し両方法間の相関性を確認したところr = 0.993,y = 0.930x − 0.742となり全体と同様の結果であった(Figure 5C)。

Figure 5 Correlation of measurement methods and sample types

A: Correlation between plasma and serum of CA72-4 levels.

x: serum y: plasma (serum and plasma matched samples drawn from the same patients at the same time)

B: Correlation between archi CA72-4 and cobas CA72-4.

C: Correlation between archi CA72-4 and cobas CA72-4 (ovarian cancer).

IV  考察

今回我々は,新規試薬である ARCHITECT® CA72-4の試薬性能を評価した。本試薬の基礎性能は同時再現性,日差再現性ともにC.V. 5%未満(最大3.79%)と良好であった。本検討期間中に提出された検体では155.0 U/mLが最大濃度であったが,pool血清,single血清ともに各濃度における直線性は良好であった。検体の保存安定性について試薬添付文書には15~30℃で24時間,2~8℃で7日間とされているが,今回の検討では24℃で3日,4℃で2日,−40℃で56日までの変動が10%未満であり安定していた。4℃保存では,MidおよびHighはそれぞれ28日および56日まで保存安定性が確認されたが,Lowは2日目に88.9%まで低下しており測定値が低い検体については注意が必要である。今回の保存安定性ではいずれの試料でもすべての保存温度で,2日目まで値の低下がみられており,pool検体作成時の影響について確認するため,single検体3検体(保存前濃度3.63 U/mL,12.52 U/mL,37.99 U/mL)を用いて同様の条件で保存3日目まで再評価を行ったところ,最大97.3%の低下しか認めず,pool血清で検討した安定性の結果とは異なり良好な安定性を認めた。また,保存安定性測定期間(保存前から56日目まで)の精度管理データはC.V. 7%未満と良好であったことから測定試薬の精度不良などは考えにくく,検討用に作成したpool血清中に不安定な動態を示す検体が含まれている可能性を考えた。ただし,日差再現性においてもpool検体を使用していたが,5日間の測定はC.V. 3.6%と安定していたことから,測定環境において他の要因が影響した可能性もある。感度の検証では,LoDは0.20 U/mLとなり,添付文書記載値0.18 U/mLとほぼ同等であった。LoQはC.V. 10%で0.97 U/mL,C.V. 20%で0.39 U/mLであり,添付文書記載値C.V. 20%で0.95 U/mLに比べて低い値であった。添付文書記載値はCLSI EP17-42に基づいた方法で求められており,今回我々が使用した方法とは異なることが,結果の差異をもたらした可能性があるが,いずれにおいても基準値(添付文書記載値:11.97 U/mL,文献記載値:11.61 U/mL8))からみると十分な感度であると考えた。干渉チェックを用いた各共存物質の影響はなく,検体測定において検体性状に関わらず安定して測定可能であった。血清と血漿の相関性は相関係数良好であり追加検査依頼などにも柔軟に対応できると考えた。対照法(cobas CA72-4)との相関は良好であったが,両方法間において測定値の乖離を認めた検体が数検体存在した。cobas CA72-4には試薬組成としてビオチンが含まれており,血清中のビオチンの影響を受けて偽低値になることが知られているが,今回検討対照であるarchi CA72-4は試薬中にビオチンを含んでいないため,ビオチンの影響を受けない9)。今回の乖離検体の患者情報からはビオチン投与歴は認められなかったが,サプリメントや当院以外での処方薬については確認できておらず,血液中に含まれるビオチンの濃度測定は行っていない。また,方法間乖離の一因としてcobas CA72-4では200 U/mL以上の検体において直線性が得られない検体が存在することが報告されているが9),今回の検討における測定値は100 U/mL未満であった。そこで,両方法間で乖離を認めた症例について患者背景を調べたところ,archi CA72-4が高値で大きく乖離した2例は子宮体癌症例であった。cobas CA72-4が高値であった中にも子宮体癌患者の検体は存在するため一概に乖離要因とはならないが,卵巣癌以外の疾患において乖離する傾向があると考えられた。卵巣癌患者検体のみでの相関性は全体と相違なかったがCA72-4 30 U/mL以上の濃度域においてはバラツキがみられた。以上のことから,測定値が乖離する検体が存在するため,測定試薬が異なる場合のCA72-4測定値の解釈には注意が必要である。

V  結語

ARCHITECT® CA72-4は再現性,希釈直線性,感度等における基礎性能に優れており,検体種(血清,血漿)別の相関性や対照法との相関性も良好であった。日常測定において先行試薬との差異なく使用可能であるが,乖離例も存在するため測定試薬が異なる場合の測定値の解釈には注意が必要である。今後は,先行試薬との乖離例の更なる解析や卵巣癌以外の癌種別における相関性など更なる検討が望まれる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本検討を実施するにあたり,共同研究契約に基づき試薬および消耗品を提供いただきました,アボットジャパン合同会社に深謝いたします。

文献
 
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